ミアシャイマーの「台湾さようなら」論文:その7 |
さて、ミアシャイマーの台湾論文の最後です。台湾の「3つの選択肢」をまとめております。
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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー
さらにいえば、この選択肢を追及することは「台湾が中国と常に軍拡競争を行う」という意味になり、両国を激しく危険な安全保障競争へと掻き立てることになる。
いいかえれば、「ダモクレスの剣」は常に台湾の上に吊り下がっている、ということだ。
また、中国が遠い将来においてどれほど支配的になるかを予測するのは難しいが、最終的に台湾が中国の猛攻撃に抵抗できないほど強力になることは、十分ありえる話だ。もし中国が超大国になってアメリカの台湾防衛のコミットメントが弱まったら、このような事態は確実に起こりうるだろう。
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台湾の3つ目の選択肢は、私が「香港戦略」(Hong Kong strategy)と呼ぶものを追及することだ。この場合、台湾は独立を諦めて中国の一部になるという事実を受け入れなければならない。そしてその主権の明け渡しのプロセスが、なるべく平和的なものとなるように努力し、北京からの自治権をなるべく多く残さなければならない。
この選択肢は、今日の観点から見れば到底受け入れられるようなものではないし、この状態は少なくとも次の十年間は変わらないだろう。ところがそれより先の、中国が台湾を比較的容易に侵攻できるほど強力になった時点では、この選択肢が魅力的なものとなる可能性が高い。
これらを考慮した上で、台湾は一体どうすればいいのだろうか?
まず「核武装」だが、これはアメリカも中国も認めないために、不可能である。
次に「リスク戦略」の形をとる「通常兵器による抑止」は、理想的な状態からはかけ離れたものだが、それでも台湾が困難なく従属できるほど中国が支配的ではなければ、合理的だといえる。もちろんこの戦略が効果を発揮するためには、アメリカが台湾防衛にコミット(もしろんこれは長期的に保証されているわけではないが)しなければならないのだ。
中国が超大国になってしまえば、おそらく台湾にとって「事実上の独立を維持する」という希望は諦めなければならないだろうし、その代わりに「香港戦略」を目指すのは最も合理的だといえるのかもしれない。
もちろんこの選択肢は魅力的なものではないのだが、ツキュディデスがはるか昔に主張したように、国際政治では「強きがいかに大をなし得て、弱きがいかに小なる譲歩を持って脱しうるか」が重要なのだ。
ここまででお分かりのように、台湾がその独立を諦めなければならないかどうかというのは、主に「中国の軍事力が今後の十数年でどこまで圧倒的になるか」という点に左右されることになるのは明らかだ。台湾は時間を稼ぎ、政治的な現状維持を保つためなら何でもやるはずだ。
ところが、もし中国が今後もその目覚ましい台頭を続けるのであれば、台湾が中国の一部に取り込まれるのは時間の問題だ。
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台湾がこのシナリオを回避できる唯一の状況がある。それは「今後の中国の経済成長の劇的な縮小」であり、北京政府が深刻な政治問題を抱えて、国内に目を集中しなければならなくなる状況の出現だ。
もしこのような状況になれば、中国は地域覇権を追及するどころではなくなり、アメリカは現在のような状態のまま、中国から台湾を守り続けることができる。
実質的に、台湾が「事実上の独立状態」を維持するために最適なのは、中国が経済的・軍事的に弱体化する、というものだ。ところが台湾にとって不都合なのは、台湾には自ら働きかけてこのような状況を作り出すだけの影響力がないことだ。
中国が1980年代に劇的な経済成長を始めた時、ほとんどのアメリカ人やアジアの人々は、これから始まる貿易やその他の経済面での交流によってすべての人々がリッチで幸福になれると思い、このニュースを大歓迎した。
現在優勢な考え方によれば、中国は国際社会の中で「責任ある利害関係者」になる可能性があり、周辺国は何も恐れる必要がないことになる。台湾人の多くは、過去にこのような楽観的な視点を持っていたし、いまだに持っている人もいる。
しかし彼らは間違っている。中国との取引を行って経済大国にする助けをすることにより、台湾は 修正主義的な視点を持った、急成長する怪物ゴリアテを生み出す手伝いをしてしまっているのであり、このおかげで自らの独立を終わらせ、中国の一部になるかもしれないのだ。
まとめて言えば、強力になった中国は、台湾にとって単なる「問題」ではなく、「悪夢」そのものなのだ。
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いかがだったでしょうか。
ミアシャイマーによる台湾の3つの選択肢とは、
①核武装による抑止(nuclear deterrence)
②通常兵器による抑止(conventional deterrence)
③香港戦略(Hong Kong strategy)
ということになります。
この論文ですが、訳してみてわかったのは一般的に言われている「台湾放棄論」というよりは、むしろ「台湾悲観論」という方が実際の感覚に近いですね。
ここで一貫しているのは、彼独自の「大国は拡大する」というオフェンシヴ・リアリズムをベースにした分析であり、そのメッセージは「小国は(核武装以外には)大国のパワーの拡大の前になすすべがない」というもの。
このような議論は、台湾だけではなく、韓国や日本にもある程度は当てはまるかと。
また、米中の戦力投射(パワープロジェクション)の問題に関して、沖縄の駐留米軍の存在はどうなんだ、というツッコミもできそうですが、原著者はあくまでも10年後から先の状況における話だと想定しているので、現在の兵站の能力を基準として比較するのは意味が無い、ということになりますね。
基本的な議論(というかシナリオ)の想定は『大国政治の悲劇』(初版)の第十章から変わっておらず、台湾(というか周辺国)の唯一の「希望」を、中国経済の弱体化や国内の混乱というところに置いているところがミソでしょうか。
いずれにせよ、ミアシャイマーの議論は思考実験としてもとりあえず参考になるものです。

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