ミアシャイマーの「台湾さようなら」論文:その6 |
今夜は夜9時から生放送です。面白いネタを揃えておりますので、お暇な方はぜひ。
さて、ミアシャイマーの台湾論文の第6弾です。
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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー
これまでの台湾の将来に関する議論は、そのほとんどが「アメリカは台湾に対してどのような行動するのか」というテーマを中心としたものであった。
ところが当然のように、中国の台頭に直面した台湾に何が起こるのかは「台湾のリーダーたちや国民が、時間の経過と共にどのような政策を選択するのか」という点にも大きく左右されることになる。
台湾の今後の最も重要な目標が「中国からの独立状態を維持すること」であることは明らかであり、これは次の十年間はそれほど難しいものではないだろう。そしてその主な理由は、台湾がほぼ確実にアメリカと密接な関係を維持するからであり、アメリカも台湾を守ろうとする意志と能力を持ち続けるからだ。
ところがある時点に至ると、台湾の戦略状況が大きく悪化することになる。その主な理由は、米軍がその守りを支えようとしても、中国が台湾を侵攻できるような状況の実現が急速に近づくことになる公算が高いからだ。
そしてすでに述べたように、長期的にはアメリカが台湾のために居続けてくれるかどうかは明らかではないのだ。
このような不快な未来像に直面した台湾に残されている選択肢は3つだ。1つは独自の核抑止の構築である。核兵器は究極の抑止力であり、台湾の核兵力が中国の台湾攻撃の可能性を大きく下げることになるのは明らかだ。
台湾は1970年代にこの選択肢を追及しており、そのきっかけはベトナム戦争後のアメリカの撤退であった。ところがアメリカは台湾の核開発計画を阻止している、
その後、台湾は1980年代に秘密裏に核開発を行っているが、再びアメリカに発見されてその計画を強制的に諦めさせられている。台湾が核開発に失敗したのは、「核武装を実現できていれば独立維持の望みがかなり改善されたはずだ」という意味では不幸なことであった。
もちろんアジアにおけるバランス・オブ・パワーが決定的に不利な方向へシフトする前に、台湾が核抑止を達成するだけの時間は残されている。ところがここでの問題は、北京とワシントンの両政府が台湾の核武装に確実に反対する、ということだ。
アメリカが台湾の核武装に反対する理由は、日本や韓国にその気にさせてしまうというだけでなく、アメリカの政策家たちが「同盟国が(最終的にはアメリカを巻き込む可能性もある)核戦争を始めるポジションにある」という考えを嫌っている点にある。
大胆に言えば、台湾のおかげでアメリカへの大規模な核攻撃につながる紛争に巻き込まれるような状況に直面したいアメリカ人はいない、ということだ。
もちろん中国は台湾が核抑止の能力の獲得については断固として反対するはずだ。そしてその理由の大部分は、こうなると北京政府が台湾侵攻を困難――もしくは不可能――にするものだ、と明確に理解していることにある。
さらにいえば、中国は台湾の核武装が東アジアにおける核拡散につながると認識するはずであり、これによってこの地域における中国の影響力が低下するだけなく、核戦争につながるような通常兵器による戦争の勃発の可能性を上げると見なすはずだ。
このような理由から、中国はもし台湾が核武装しようと決断すればその施設を攻撃するだろうし、台湾侵攻を実行する可能性もある。端的にいえば、台湾が核の選択を追及するのはもう手遅れであるように見えるのだ。
台湾の2つ目の選択肢は、通常兵器による抑止である。米台両軍と比較して中国が明確な軍事的優位を保っている世界で、台湾は核兵器なしにどのように抑止の効果を発揮させればいいのだろうか?
ここでの成功のカギは、中国軍を打ち負かすことを可能にすることではない。実際それは不可能だからだ。それよりも重要なのは、中国に勝利の獲得の際に大きな代償を支払わせるようにすることにある。
いいかえれば、ここでの狙いは、中国が台湾を侵攻する際に、いかに長期の激しい闘いに巻き込むのかという点だ。もちろん北京政府は最終的には勝利するかもしれないが、それを「ピュロスの勝利」にさせるということだ。
この戦略は、もし台湾が中国に対して、戦場での勝利の後に抵抗運動を続けることを約束できれば、さらに効果的なものになる。「台湾が新疆自治区やチベットのようになる」という脅しは、抑止を確実に支えることになる。
この選択肢は、アルフレート・フォン・ティルピッツ提督が提唱し、第一次世界大戦の十年前にドイツが採用した、有名な「リスク戦略」に近いものだ。この当時のティルピッツ提督は、英海軍を海戦で打倒できるだけの強力なドイツ海軍を作ることはできないことを認めていた。
ところが彼は、ベルリン政府が英海軍にそれなりのダメージを与えられるだけの力を持ったドイツ海軍を作れば、ロンドン政府はドイツとの戦いを控えることになり、これによって抑止することは可能だと考えた。
さらにいえば、ティルピッツ提督はこの「リスク艦隊」が、対英外交においてドイツに一定の力を与えてくれるものだと考えたのだ。
このような形の「通常兵器による抑止」には無数の問題があり、これが長期的に台湾に当てはまるものかどうかは極めて疑わしい。たとえばこの戦略には「アメリカが台湾と共に闘う」という前提が必要だ。
ところがアメリカの政策家たちが、わざわざアメリカの負けそうな戦いを選び、しかもその過程で莫大な犠牲を払うことになるような戦争を意識的に選ぶとは考えにくい。
しかも台湾は、最終的には負けることになりそうなのだ。
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残りはあと一本です。続きはまたのちほど。

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