ミアシャイマーの「台湾さようなら」論文:その5 |
昨日のラジオ番組出演から、様々な反響をいただいております。驚いたのは昔の知り合いから「聞いてたよ」とメールで連絡もらったことでしょうか。
さて、ミアシャイマーの台湾論文の続きです。今回で第5弾です。
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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー
第2に、アメリカの台湾へのコミットメントは、この地域におけるアメリカの信頼性そのものと切っても切り離せない関係にあり、これはワシントンの政治家たちにとっても重大な意味を持っている。
アメリカは東アジアからおよそ9700キロ離れていても、アジアの同盟国たち――とくに日本と韓国――に対して、中国や北朝鮮から脅された場合でも「必ず守る」と必死に納得させなければならないし、さらに重要なのは、彼らに「アメリカの核の傘に頼ることができる」と確信してもらわなければならないのだ。
そしてこれこそが、アメリカとその同盟国たちが冷戦中に悩み続けた「拡大抑止」の難問なのだ。
もしアメリカが台湾との軍事的なつながりを断絶したり、中国との危機の際に守れなかった場合には、この地域にある他のアメリカの同盟国たちに強力なシグナルを送ってしまうことになる。つまり、「アメリカにはもう頼れない」ということだ。
ワシントンの政策家たちはこのような結末を迎えないように必死の努力をするだろうし、「信頼できるパートナー」というアメリカの評判を維持しようとするはずだ。つまりこれは、彼らにとって「何があろうとも台湾を守る」ということになる。
アメリカには、台湾を中国に対抗するための「バランシング同盟」の一部にしたいと思うだけの十分な理由があるのだが、それと同時に「この関係は長期的には適切なものとはならない」と考えるだけの理由も存在する。
そもそも次の十年間か、その先のどこかの時点で、アメリカには中国の攻撃から台湾を守ることは不可能になるはずだ。ここで覚えておかなければならないのは、われわれが想定しているのは、今日の中国よりも、はるかに軍事力を高めた中国である、ということだ。
さらに加えて、地理は中国にとってはかなり有利に働くのだが、これは単純に台湾が中国本土から近くて、アメリカからははるかに遠いという理由による。米中間で台湾への戦力投射が競争になれば、中国の楽勝は目に見えている。
さらに、台湾をめぐる闘いでは、アメリカの政策家たちが中国本土の部隊に対して大規模な攻撃をしかけることをためらうはずだ。なぜなら彼らは、それが核ミサイルの撃ち合いにエスカレートしていくことを恐れるからだ。そしてこのような沈黙は、中国にとってさらに有利に働くはずだ。
他にも、「台湾は近い将来において、中国に対して通常兵器による抑止を効果的に働かせることができなくなる」という議論も考えられる。するとアメリカの「核の傘」を台湾にかけるということになる。
ところがこのアプローチでは問題を解決することはできない。なぜなら、台湾が中国に侵攻されてしまえば、アメリカが核戦争のレベルまで紛争をエスカレートさせることはないからだ。
中国の台湾侵攻は、アメリカにとっては「水爆戦争を引き起こす」という高いリスクを冒すまでのものではない。台湾は、日本や韓国とは立場が違うのだ。したがって、アメリカにとって賢明な戦略とは「台湾まで核抑止を拡大しようとしない」というものになる。
アメリカが最終的に台湾を見捨てるかもしれない2つ目の理由は、それがアメリカの意図しない米中戦争の勃発に容易につながる可能性のある、危険な「フラッシュ・ポイント」になるからだ。
アメリカの政策家たちは、台湾の運命はあらゆる中国人にとって大きな懸念であり、もしアメリカが統一を阻止したかのように見えると、彼らが激怒する公算は大きい。
ところがもし台湾と親密な軍事同盟を形成することになると、実際にアメリカは「中国人を激怒させる」ことになってしまうのだ。
このような点から、強力な力を持った中国のナショナリズムでは、「アメリカのような大国が、過去に力の弱かった中国にどのような屈辱を与え、香港や台湾のような領土をかすめ取ったのか」ということが強調されることになる。
したがって、台湾をめぐっての危機の勃発や、危機が戦争に発展するようなシナリオを想像するのはそれほど難しいことではない。結局のところ、中国のナショナリズムは、このような危機ではトラブルの源泉となるのであり、中国はどこかの時点で台湾を軍事的に併合する手段を持ち、それが戦争の可能性をさらに高めることになるのだ。
冷戦期でも、現在の米中の安全保障をめぐる台湾の存在ほど、米ソ超大国の間において危険な場所は存在しなかった。
台湾を冷戦期のベルリンに例える論者もいるが、ソ連にとってベルリンは「聖なる土地」というわけではなかったし、両陣営にとってもそれほどの戦略的重要性はなかった。
ところが台湾は違う。戦争の発生しやすさや、「アメリカはいずれ台湾を守れなくなる」という事実を考えると、アメリカの政策家たちが最終的に「台湾を放棄して中国の強制的な統一を受け入れるほうが戦略的に合理的である」と結論づけるだけのチャンスが存在することになる。
これらから言えることは、「アメリカは今後数十年間にわたって、台湾について一貫性のない考えを持つことになりそうだ」ということだ。
まず一方で、アメリカは台湾を、中国封じ込めのための「バランシング同盟」の一部にしたいという強力なインセンティブを持っている。
ところがもう一方で、台湾と密接な軍事同盟を維持することの利益は、時間を経るにしたがってその潜在的なコストよりも下がってしまう可能性があり、しかもその下がり方は大幅なものになりそうなのだ。
もちろん直近ではアメリカは台湾を守るだろうし、戦略資産として扱うはずである。ところがこの関係をいつまで続けられるかについては、誰も答えることができないのだ。
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つづきはまた明日。

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