2014年 03月 08日
ウクライナ危機なのにロシア専門家が減っているアメリカ |
今日の横浜北部は朝から快晴です。相変わらず気温は低くて寒さがこたえますが・・・
さて、相変わらずウクライナ情勢についての報道が続いておりますが、そのウクライナ情勢を研究する人材についての興味深い記事がありましたので、いつものように要約を。
===
アメリカの対外政策におけるロシア専門家の凋落
By ジェイソン・ホロウィッツ
●ジョージタウン大学のロシア学部長であるアンジェラ・ステント女史は、最近電話の応対に忙しい。
●ステント女史をはじめとするロシア専門家たちの電話は、ウクライナ危機の勃発から鳴りっぱなしだ。「なんか同窓会みたいですよ。みんな復活してきたわけですから」
●アメリカのロシア専門家たちは、プーチン大統領がクリミアの支配を進めるにつれて再びメディアの脚光を浴び始めている。ところが同時に、これはアメリカの学者や実務家たちのロシアについての捉え方、そしてその捉え方を考える彼らの、質と量の変化を明らかにすることにもになった。
●これらの専門家の中では信じられていることが一つある。それは、この分野の優秀な人材の不足と、ホワイトハウスからの非効率なマネージメントのおかげで、歴史の表舞台から去ることを拒否する元超大国で潜在的な脅威でもあるロシアについて、お粗末かつマンガ的な見方を作り上げることにつながったということだ。
●アメリカの駐露大使を務めているマイケル・マクファウル氏は、危機が深刻化しはじめた2月26日に帰国しているが、「席が少なくなっているんです」と答えている。
●彼によれば、現在、もしくは将来の政府の優秀なスタッフにはロシア研究を行ってきた人間がおらず、はるか以前にそれは中東やアジアの専門家たちによって取って代わられたという。
●マクファウル氏は「政府の中のロシア専門家の数は、20〜30年前と比べてはるかに少ないですね。これは学者の世界にも同じことが言えます」と述べている。
●ロシア専門家の減少は広く知られているところだ。エリティン元大統領の経済アドバイザーをつとめた経験を持るピーターソン国際経済研究所の上級研究者であるアンダース・アスランド氏は「ロシア専門家ですか?年配と若いのは大量にいます」と述べている。
●アスランド氏は、今週すでにウクライナの状況について1日に10数本のインタビューを受けているが、彼によれば、現在キャリアのピークを迎える人たちのほとんどは、90年代にロシア研究をあきらめたという。
●ブルッキングス研究所の所長でクリントン政権時代のロシア専門家であったストローブ・タルボット氏は「ホワイトハウスや国務省、それにインテリジェンス機関では、ロシアの最新情報に本当に詳しい専門家を探すのが難しくなってきています。これは人材市場の問題です」と答えていた。
●ホワイトハウス側もロシアに対する考え方をあらためて、外交面でも官僚的な面でもロシアを「その他の国々の一つ」とみなすようになったのだ。
●クリントン大統領がタルボット氏を採用して以降のアメリカ政府では、本当にロシアに詳しい専門家のスタッフの数が減ったという。
●ロシア専門家たちが口を揃えて言うのは、結果として、ゼロサムの世界観を持った元KGBの大統領に率いられている1億4千万人の大規模で複雑な国について、自分の意見を大統領に進言しようとする人間が少なくなったという。
●ブッシュ大統領はプーチン氏の目から魂を見ている間に、国務省長官のコンドリーザ・ライスはロシア語をしゃべり、オバマ大統領は米ロ関係の「リセット」を求めたが、彼らの全員が期待通りに動いてくれないプーチン氏に裏切られることになったのだ。
●何人かの専門家は、オバマ大統領がプーチンを世界経済やエネルギー市場に関する分野でロシアを「パートナー」と位置づけたのが間違いであると嘆いている。
●プーチン氏が大統領に復帰した時に、彼はアメリカの軍備管理のアイディアを拒否しており、エドワード・スノーデン氏に亡命保護を与えているが、ここでようやく関係を「停止」したというのだ。
●国家安全保障局でロシアの専門家であったカーネギー国際平和研究財団のアンドリュー・ワイス氏は「ロシア側は、オバマ政権と会話をする時には大統領に個人的に話をつけられる人物を交渉相手に欲しいと考えるものです。ところがマクファウル氏が去ったいま、ロシア側は困っているわけですよ」と言っている。
●このような不足は、歴史の偶然ではない。冷戦中には大学の一つの学部でソ連研究が行われていたくらいであり、最も優秀な人間がロシア研究にたずさわっていた。彼らの多くはロシア語や文化を理解でき、政府や諜報機関で働いた。
●ところがソ連崩壊によってこれらの学部も解体され、関係の改善とともに安全保障を研究する人間たちも雲散霧消してしまった。それを教えていた教授たちの研究資金は枯渇し、職まで失うことになったのだ。
●昨年、国務省はマクファウル氏が若かりし頃に利用した、ロシア・ユーラシア研究のための財政支援制度をカットしている。マクファウル氏は「現在の状況を考えてみれば、あれは視野の狭い決断でしたね」と言っている。
●ニューヨーク大学のロシア研究部の名誉教授であるスティーブン・コーエン氏は、その研究プログラムを救える唯一の人物はマクファウル氏だったと述べている。
●コーエン氏は妻が編集長をしているネーション誌に「ロシアの実像の歪曲」(Distorting Russia)という記事を書いており、ここで現在のロシアについての議論でプーチン氏の見解に近い「悪役」的な立場をとっていると表明している。
●「テレビ側の人にはこう言ってます。私は自分と100%見解の違う人とも議論しますよ、でも相手が私のことを"プーチンの弁明者だ”と呼んだ瞬間に、放映中であろうがF〇〇〇と言ってやりますよ、とね」
●ただし彼は他の専門家たちと同じく、アメリカでのロシア研究をめぐる環境がだいぶ変化してきていることを認めている。そしてこれを、ロシア側も気づいているという。
●マクファウル氏が任期中に時に感じたのが、アメリカ側の関心度の低下がロシア側をいらだたせていたという点であった。彼は「ロシアにとってアメリカの存在は大きいわけですが、われわれはもうロシアについてそう感じてないわけですからね」と答えている。
●ロシア専門家たちは、今回のこの危機はアメリカ側のロシアについてのナイーブさと無知から生まれたものであるという認識が高まり、新しい世代のロシア専門家が育つきっかけになれば、と考えているという。
●CSISのロシア・ユーラシア研究部の代表であるアンドリュー・クチンズは、当時13歳だった1972年に、ニクソン大統領がソ連を訪問したのをテレビで見ていてソ連研究に目覚めたと述懐している。
●彼は、今回のウクライナでの危機が若い人々のきっかけになるはずだと見ている。もしそうならなければ、アメリカはますますスキを突かれることになる。
●ステント女史は「われわれがあと10年か20年でリタイアする頃には、この分野の専門家が何人残っているか自信がありません。ロシアとの関係がまた注目されることが絶対にないとは言い切れません。だって実際にこうなることをわれわれは知っていたわけですから」と言っている。
●ちなみに彼女は最近、米ロ関係について悲観的な分析をした本を出版したばかりだ。
●今のところ、彼女や仕事仲間たちは電話の応対で忙しい。コーエン氏は自宅の電話で1日30本のインタビューに答えているという。
●そのうちの一つはCNNのアンダーソン・クーパーのディレクターからのものであり、彼はいつテレビ局から迎えの車がくるのかを確認していた。
===
安全保障や戦略研究というのは、往々にしてその時代の大きく左右されるものですから・・・この著者の指摘はたしかにその通りなのかと。
そういやアメリカの場合はあまりにも「反共」であったために、国内の東南アジア地域の研究者の大量排斥につながり、これがベトナム戦争につながった、なんてことがありましたっけ。
非常に簡単ではありますが、以下でウクライナ情勢について、私も地政学的なポイントから分析しております。
メルマガ:「アメリカ通信」
▼ 2014年3月3日 ウクライナ問題を「地政学」的に考えてみた
http://archive.mag2.com/0000110606/20140303190412000.html
さて、相変わらずウクライナ情勢についての報道が続いておりますが、そのウクライナ情勢を研究する人材についての興味深い記事がありましたので、いつものように要約を。
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アメリカの対外政策におけるロシア専門家の凋落
By ジェイソン・ホロウィッツ
●ジョージタウン大学のロシア学部長であるアンジェラ・ステント女史は、最近電話の応対に忙しい。
●ステント女史をはじめとするロシア専門家たちの電話は、ウクライナ危機の勃発から鳴りっぱなしだ。「なんか同窓会みたいですよ。みんな復活してきたわけですから」
●アメリカのロシア専門家たちは、プーチン大統領がクリミアの支配を進めるにつれて再びメディアの脚光を浴び始めている。ところが同時に、これはアメリカの学者や実務家たちのロシアについての捉え方、そしてその捉え方を考える彼らの、質と量の変化を明らかにすることにもになった。
●これらの専門家の中では信じられていることが一つある。それは、この分野の優秀な人材の不足と、ホワイトハウスからの非効率なマネージメントのおかげで、歴史の表舞台から去ることを拒否する元超大国で潜在的な脅威でもあるロシアについて、お粗末かつマンガ的な見方を作り上げることにつながったということだ。
●アメリカの駐露大使を務めているマイケル・マクファウル氏は、危機が深刻化しはじめた2月26日に帰国しているが、「席が少なくなっているんです」と答えている。
●彼によれば、現在、もしくは将来の政府の優秀なスタッフにはロシア研究を行ってきた人間がおらず、はるか以前にそれは中東やアジアの専門家たちによって取って代わられたという。
●マクファウル氏は「政府の中のロシア専門家の数は、20〜30年前と比べてはるかに少ないですね。これは学者の世界にも同じことが言えます」と述べている。
●ロシア専門家の減少は広く知られているところだ。エリティン元大統領の経済アドバイザーをつとめた経験を持るピーターソン国際経済研究所の上級研究者であるアンダース・アスランド氏は「ロシア専門家ですか?年配と若いのは大量にいます」と述べている。
●アスランド氏は、今週すでにウクライナの状況について1日に10数本のインタビューを受けているが、彼によれば、現在キャリアのピークを迎える人たちのほとんどは、90年代にロシア研究をあきらめたという。
●ブルッキングス研究所の所長でクリントン政権時代のロシア専門家であったストローブ・タルボット氏は「ホワイトハウスや国務省、それにインテリジェンス機関では、ロシアの最新情報に本当に詳しい専門家を探すのが難しくなってきています。これは人材市場の問題です」と答えていた。
●ホワイトハウス側もロシアに対する考え方をあらためて、外交面でも官僚的な面でもロシアを「その他の国々の一つ」とみなすようになったのだ。
●クリントン大統領がタルボット氏を採用して以降のアメリカ政府では、本当にロシアに詳しい専門家のスタッフの数が減ったという。
●ロシア専門家たちが口を揃えて言うのは、結果として、ゼロサムの世界観を持った元KGBの大統領に率いられている1億4千万人の大規模で複雑な国について、自分の意見を大統領に進言しようとする人間が少なくなったという。
●ブッシュ大統領はプーチン氏の目から魂を見ている間に、国務省長官のコンドリーザ・ライスはロシア語をしゃべり、オバマ大統領は米ロ関係の「リセット」を求めたが、彼らの全員が期待通りに動いてくれないプーチン氏に裏切られることになったのだ。
●何人かの専門家は、オバマ大統領がプーチンを世界経済やエネルギー市場に関する分野でロシアを「パートナー」と位置づけたのが間違いであると嘆いている。
●プーチン氏が大統領に復帰した時に、彼はアメリカの軍備管理のアイディアを拒否しており、エドワード・スノーデン氏に亡命保護を与えているが、ここでようやく関係を「停止」したというのだ。
●国家安全保障局でロシアの専門家であったカーネギー国際平和研究財団のアンドリュー・ワイス氏は「ロシア側は、オバマ政権と会話をする時には大統領に個人的に話をつけられる人物を交渉相手に欲しいと考えるものです。ところがマクファウル氏が去ったいま、ロシア側は困っているわけですよ」と言っている。
●このような不足は、歴史の偶然ではない。冷戦中には大学の一つの学部でソ連研究が行われていたくらいであり、最も優秀な人間がロシア研究にたずさわっていた。彼らの多くはロシア語や文化を理解でき、政府や諜報機関で働いた。
●ところがソ連崩壊によってこれらの学部も解体され、関係の改善とともに安全保障を研究する人間たちも雲散霧消してしまった。それを教えていた教授たちの研究資金は枯渇し、職まで失うことになったのだ。
●昨年、国務省はマクファウル氏が若かりし頃に利用した、ロシア・ユーラシア研究のための財政支援制度をカットしている。マクファウル氏は「現在の状況を考えてみれば、あれは視野の狭い決断でしたね」と言っている。
●ニューヨーク大学のロシア研究部の名誉教授であるスティーブン・コーエン氏は、その研究プログラムを救える唯一の人物はマクファウル氏だったと述べている。
●コーエン氏は妻が編集長をしているネーション誌に「ロシアの実像の歪曲」(Distorting Russia)という記事を書いており、ここで現在のロシアについての議論でプーチン氏の見解に近い「悪役」的な立場をとっていると表明している。
●「テレビ側の人にはこう言ってます。私は自分と100%見解の違う人とも議論しますよ、でも相手が私のことを"プーチンの弁明者だ”と呼んだ瞬間に、放映中であろうがF〇〇〇と言ってやりますよ、とね」
●ただし彼は他の専門家たちと同じく、アメリカでのロシア研究をめぐる環境がだいぶ変化してきていることを認めている。そしてこれを、ロシア側も気づいているという。
●マクファウル氏が任期中に時に感じたのが、アメリカ側の関心度の低下がロシア側をいらだたせていたという点であった。彼は「ロシアにとってアメリカの存在は大きいわけですが、われわれはもうロシアについてそう感じてないわけですからね」と答えている。
●ロシア専門家たちは、今回のこの危機はアメリカ側のロシアについてのナイーブさと無知から生まれたものであるという認識が高まり、新しい世代のロシア専門家が育つきっかけになれば、と考えているという。
●CSISのロシア・ユーラシア研究部の代表であるアンドリュー・クチンズは、当時13歳だった1972年に、ニクソン大統領がソ連を訪問したのをテレビで見ていてソ連研究に目覚めたと述懐している。
●彼は、今回のウクライナでの危機が若い人々のきっかけになるはずだと見ている。もしそうならなければ、アメリカはますますスキを突かれることになる。
●ステント女史は「われわれがあと10年か20年でリタイアする頃には、この分野の専門家が何人残っているか自信がありません。ロシアとの関係がまた注目されることが絶対にないとは言い切れません。だって実際にこうなることをわれわれは知っていたわけですから」と言っている。
●ちなみに彼女は最近、米ロ関係について悲観的な分析をした本を出版したばかりだ。
●今のところ、彼女や仕事仲間たちは電話の応対で忙しい。コーエン氏は自宅の電話で1日30本のインタビューに答えているという。
●そのうちの一つはCNNのアンダーソン・クーパーのディレクターからのものであり、彼はいつテレビ局から迎えの車がくるのかを確認していた。
===
安全保障や戦略研究というのは、往々にしてその時代の大きく左右されるものですから・・・この著者の指摘はたしかにその通りなのかと。
そういやアメリカの場合はあまりにも「反共」であったために、国内の東南アジア地域の研究者の大量排斥につながり、これがベトナム戦争につながった、なんてことがありましたっけ。
非常に簡単ではありますが、以下でウクライナ情勢について、私も地政学的なポイントから分析しております。
メルマガ:「アメリカ通信」
▼ 2014年3月3日 ウクライナ問題を「地政学」的に考えてみた
http://archive.mag2.com/0000110606/20140303190412000.html

by masa_the_man
| 2014-03-08 12:19
| 日記