オーストラリアは「自制」せよ |
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2021年 11月 22日
今日の和光市駅前は曇っておりまして、すでに雨が降っていたような形跡もあります。
さて、引き続き試訳を掲載します。意見記事を書いたのはオーストラリアの元外相で「北京ボブ」との別名を持つボブ・カーです。オーストラリアが中国に無用に対立することを諌める内容になっておりますが、北京寄りの視点からの意見であるという前提で読むと色々と見えてきて興味深いものです。 === 21-11/17 SMH by ボブ・カー 自制(Restraint): この言葉こそが台湾に関してオーストラリア外交が唱えるべき「マントラ」だ。 この言葉は、オーストラリアの首相が発するすべての声明の最初と最後に使われるべきものだ。なぜなら70年間外交が抑制してきた神経質な問題をめぐって世界の超大国同士が戦争に突入することは、打ちひしがれ傷ついた地球にとっても最悪のことだからだ。 そしてこれは、オーストラリアが最も議論を避けるべきことでもある。このような衝突で核戦争が行われる可能性は不気味なほど高い。アメリカの施設を豪大陸に設置することで、われわれはオーストラリアを標的にしてしまったのだ。この理由だけでも、オーストラリアは平和の陣営に移るべきであろう。 もう1つの理由は、アメリカはこと中国に関しては常に我々を置き去りにすることができるからだ。たとえばホワイトハウスは習近平との間に交渉に基づく新しい関係を築くと突然言い出している。だからこそ、2つの大国の間での外交に力を入れるべきなのだ。 というのも、アメリカの同盟国の中で唯一オーストラリアだけが「いざ対決となれば(おそらく最初の1週間以内に)加勢する」と言っており、これは危険な状態にさらされることになる。 まるでオーストラリア戦略政策研究所や国防省の廊下で、タカ派の人々が第一次世界大戦の兵隊募集曲である「オーストラリアは共に戦う」( Australia Will Be There)を口ずさんでいるかのようだ。 豪外務貿易省は、オーストラリアがどのように戦争回避に貢献するかについて、厳密な分析を行っているのだろうか?あるいは、オーストラリアの外交官は完全に傍観者となったり左遷されたりしているのではないだろうか?という疑問が湧いてくる。スコット・モリソン首相とピーター・ダットン国防相が賛同できるような、別の外交シナリオを作成することはそれほど困難なことではない。 すべての人に自制を求めることから始めるべきだ。とりわけ非難すべきは、紛争解決のための武力の行使だ。平和と安全を維持するため、国連安全保障理事会に役目を果たすように促すのだ。そして1954年から55年、1958年、1995年から96年の危機において、台湾をめぐる戦争を回避するために外交的な言葉を用いてきた双方の歴史的な「自制」を称賛するのだ。 その上で、中国と米国に、大惨事への偶発的なスライドを回避するために双方が使用すべき「ガードレール」(防護柵)と「オフランプ」(高速道路の出口)を思い出させるための、精力的な水面下の外交を展開すべきだ。 キャンベラは、内閣の国家安全保障委員会に文書を提出して、わが国の指導者たちに「ガードレール」と「オフランプ」を提唱するよう要請する必要がある。つまり、戦争への転落を避けるための現実的な対策を、ワシントンと北京に迫るのだ。 オーストラリア国立大学のブレンダン・テイラー教授は、著書『危険な10年』の中で、「両岸の現状維持(cross-strait status quo)と呼ばれる驚くほど単純な取り決めによって平和が保たれてきた」と書いている。テイラーによれば、この言葉こそが北京、台北、ワシントンが海峡の安定を維持するために交わした一連の暗黙の約束を包括したものだという。 たとえば、台湾は正式な独立宣言をさせない。そして北京は台湾を「省」と呼ぶことができる限りこの地方のルールの現実に耐えられる。米国は、台湾が独立宣言をしないように説得し、いかなる侵略に対する反応についても「戦略的曖昧さ」を保つのである。 この現状は意図的に曖昧にされている。そしてこれには、すべての側の行動の「レッドライン」を認めることが含まれる。 わがオーストラリアの国防大臣は、まるでわが国の関与が確実であるかのように語っているが、フリゲート艦と数機の哨戒機を派遣したところでいかなる結果にも微塵も影響を与えないという現実は、ポール・キーティングの言葉を借りれば「山に爪楊枝を投げつける」ようなものであることを忘れている。 しかし、コメンテーターのアラン・デュポンによれば、それがたとえ小規模なものであっても、オーストラリアが軍を派遣すれば、中国はダーウィン港、ティンダル空軍基地、アリス・スプリングス近くのパインギャップにある共同防衛施設など、北部の防衛インフラをミサイルで狙うことになるという。 デュポンは最近ASPIで発表した論文の中で、「北京がオーストラリアを核兵器で脅すことも考えられる。その目的は、台湾側に介入しようとするアメリカとオーストラリアの努力を阻止、あるいは混乱させることであろう」と書いている。 これまで、わが国の外交政策の中心は、わが国の繁栄と安全に対する脅威のためにこのような紛争を防ぐことにあった。しかし今、国防大臣は「オーストラリアの自動的参戦」という新しいドクトリンを暗示しているように見える。 2016年に発表されたランド研究所の研究では、「深刻な」レベルの米中衝突だと、最大で1年続くとシミュレーションされている。そして双方ともに「非常に大きな」軍事的損失を被ることになり、どちらも決定的な軍事的優位性を確立することはできないというのだ。中国の貿易をすべて遮断すれば、世界は不況に陥る。ランド研究所によると、中国がアメリカに報復的なサイバー攻撃を行った場合、アメリカは最大で9,000億ドルの損害を被る可能性があるという。 タカ派の人たちは、中国に対する勝利がどのようなものになると想像しているのだろうか?1900年のように同盟国が北京に進軍し、冬の宮殿を略奪するのか?2003年のバグダッドのように、毛沢東の銅像を打ち倒すのだろうか?アメリカの占領軍は路上爆弾を避けつつ、山東省とその1億人の人口を占領するのだろうか? イラクとアフガンの勝利を計画していたペンタゴンには、そのようなアイディアは存在しない。ASPI をはじめとするオーストラリアのタカ派の人々にも考えはない。なのに「オーストラリアは共に戦う」というのだ。 私たちが必要としているのは、自分たちのリーダーたちに、北京とワシントン(と東京)との間で、口うるさい外交を展開する機会を与えることだ。なぜならオーストラリアは「不可避の紛争」を予言する受動的な予言者ではなく、それを避けるために不可欠となる中堅国だからだ。 それともわれわれは夢遊病者のように戦争への道を歩んでいるだろうか?オーストラリアは共に戦わなければならないし、戦うことになるだろう。なぜなら創造的な中堅国として平和を築く外交官になることはあまりにも難しく、それとは逆に「錆びついた全天候型の同盟国」であることはあまりにも簡単だからだ。 ==== 色々と詩的な表現を使っておりますが、基本的にすべての勢力に「自制」をうながして、少なくともオーストラリアは台湾有事に(無意味だから)介入するなということですね。 残念なのが、このような議論をしても著者本人には立場的にもう信頼性がないという点ですが。 (ロケ地) ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-11-22 14:27
| 戦略学の論文
2021年 11月 16日
今日の横浜北部は午後から快晴になりました。 さて、毎日続けていきましょう。今日はナショナル・インタレスト誌に掲載された、トランプ政権の元閣僚による意見記事です。 ===== 21-11/11 National Interest by ロバート・ウィルキー 欧米の思想の一部には、台頭する中国が地球上で最も支配的な国になることを運命づけられており、アメリカはそれを阻止することはできず、せめてわれわれが期待できるのは、劣等生として「衰退を管理することだけだ」という、ある種の悲観論が広まっている。 中国の習近平国家主席は、このような考え方を喜んで称賛するだろう。習近平は今年初め、中国共産党創立100周年を祝う演説の中で、共産党が「中華人民と国家の未来を変えた」と自慢しており、いまや「中国の国家的な再興は歴史的な必然となった」と述べている。 しかし、習近平がいくら胸を張っても中国は無敵ではないし、覇権を握ることが決まっているわけでもない。それどころか、中国は経済的にも人口的にも衰退の時代を迎えようとしており、習近平政権はその管理方法を知らないと言っても過言ではないだろう。 アメリカは脅威を明確に認識し、同盟国やパートナーと協調して対応することで、ソ連のように中国の崩壊を形作ることができるのである。 習近平は、自らを毛沢東や鄧小平と並ぶ革命的指導者だと考えている。そのためには、米国を世界最強の国の座から引きずり降ろさなければならないと考えているのだ。そしてそれを、昔ながらの方法で実現しようとしている。 習近平の外交政策は、古来からのやり方で太平洋の隣国から貢ぎ物を取ろうとしている。毛沢東がそうであったように、習近平もますます過激になることによって地政学的なチャンスを得ようとしている。 文化大革命では、毛沢東はインドに喧嘩を売り、ソ連に国境侵犯を仕掛け、北ベトナムに軍事的供給口を開いた。習近平は、インドに対して軍事行動を開始し、台湾、ベトナム、フィリピンを威嚇しようとし、日本を核で滅ぼすと脅し、西ヨーロッパとオーストラリアに対して、言葉と経済的な脅しをかけている。 アメリカは過去にもこのような状況に陥ったことがある。1946年2月22日、当時ソ連に駐在していた若きアメリカ人外交官ジョージ・ケナンは、国務省に秘密の電報を打った。ケナンは「モスクワは破壊、贈収賄、脅迫によって同盟国を弱体化させ、それから軍事的に完全に優位に立つことによって、アメリカを破壊しようとしている」と警告した。歴史上「長文電報」として知られるこの明晰な分析は、45年間にわたるモスクワの「封じ込め」と、最終的なアメリカの理想的な勝利の基礎となった。 今は1946年ではなく2021年だが、モスクワを北京に置き換えれば、「長文電報」は再び真実味を帯びてくる。ケナンの言葉を借りれば、中国は「わが国の外交がこれまで直面した最大の課題であることは間違いなく、おそらく今後も直面しなければならない最大の課題である」ということになる。 今日、習近平は、国内の大きな問題から目をそらすために、対外的な冒険主義と、軍事面での近代化を利用している。人口は急速に高齢化している。共産党は、中国本土の広大な地域を環境破壊している。中国はエネルギーを輸入しなければならない。また、香港の民主化運動が潰されたことに見られるように、中国の人々は国家の抑圧が強まる中で不安を募らせている。 元国防長官のロバート・ゲイツ氏は、中国の指導者たちが「自国民を死ぬほど恐れている」と指摘する。 中国は、中国から侵略された帝国主義の千年間にわたる記憶を持つ国々に囲まれている。アメリカが日本、ベトナム、インド、韓国、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランド、マレーシア、フィリピンなどの国々を強化することは、北京を弱体化させることにつながる。 太平洋地域では、アメリカがパートナー国の主権を強化することに重点を置かなければならない。アメリカは、空域と海上での活動を強化し、中国に自国の領海についてまず考えさせる必要がある。アメリカ海軍は依然として質的優位性を持っているが、中国は今や世界トップの造船国だ。アメリカの造船所は10カ所にも満たない。このままでは、その量の多さが海洋バランスを崩し始めるだろう。空軍や宇宙軍も同様だ。 また、パートナーが必要とする軍事力を共有したり、入手したりすることを容易にしなければならない。今日、冷戦時代の古い「ガードレール」のために、日本やオーストラリアなどの同盟国たちは、アメリカのパワーや技術を活用することが難しくなっている。 アメリカは、アジア全域でミサイル防衛と民間防衛を強化することができる。ボリス・ジョンソンの「D-10」方式を拡大して、アジアの大国たちをG7に加え、かつて西欧をインド太平洋に固定することもできる。中国を封じ込めることは、世界的な課題なのだ。 欧米の世論は北京に反発しており、新型コロナウイルスの災害はその流れを加速させた。アメリカやヨーロッパの企業は、中共との取引を少しずつ考え始めている。NATOの議題にも中国の問題が加わるようになった。 アメリカは世界の基軸通貨をコントロールしているが、バイデン政権はそれを理解していない。国際法や商法に違反している中国企業に対する一次制裁や二次制裁(イランや北朝鮮のような悪者への支援を含む)は、北京の暗黒経済に壊滅的な打撃を与えることができる。 私たちには長期戦を勝ち抜くための手段があるが、そのためには忍耐が必要であり、明日の見出しになりそうなことだけを見ているアメリカ人の嫌悪感を克服する必要がある。 また「中国は競争相手ではなく敵である」という真実をアメリカ国民に伝えることも必要だ。 ソ連を抑制した「封じ込め」戦略は、ハリー・トルーマンからジョージ・H・W・ブッシュまで続いた。中国の封じ込めにどれだけの時間がかかるかはわからないが、習近平の傲慢さと金融面での狂気は、西側が突撃して中国共産党がソ連のように忘却の道を歩むのを助ける、戦略的な隙をもたらす可能性がある。 ==== 率直に言うと「だいぶ雑な議論をしているなぁ」という印象です。 総論としては同意な部分はあるのですが、それでも「中国の指導者が自国民を死ぬほど恐れている」や「中国の人々は国家の抑圧が強まる中で不安を募らせている」と言い切ってしまうのはやや思い込みが激しいかと。 ただしこのような議論を行わないと本腰入れて対中政策を決定しないくらいアメリカの国内政治が分裂している、という見方もできますね。 次のケナンは一体誰になるのか・・・まだ明確な答えは出ていません。 ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-11-16 23:23
| 戦略学の論文
2021年 11月 15日
今日の横浜北部は快晴です。
さて、復活第二弾の試訳です。英エコノミスト誌の興味深いコラムから。 === 21-11/6 The Economist オフィスは人々を結びつける場所のはずだ。ところがこれがいまや人々に分裂をもたらす原因となっている。パンデミック後の職場復帰を「家庭と仕事の境界を再構築し、同僚と顔をあわせるチャンスになる」ととらえる人もいれば、逆に「無意味な移動と健康リスクの増大につながる」と見る人もいます。各人の考え方を決める要素はたくさんあるが、その中でも突出しているのが「年功序列」だ。 メッセージングサービスを提供するSlack社は、世界の知識労働者(ナレッジワーカー)たちを対象に、仕事の未来についての調査を定期的に行っている。10月に発表されたその最新の調査では、会社の上司たちは他の従業員に比べてオフィスに戻ることを強く望んでいることが判明した。リモートワークをしている上司たちのうち、75%が週に3日以上オフィスに行きたいと考えているのに対し、従業員たちの場合は34%にとどまっているという。 この意識の差は、いくつかの企業ですでに明白になっている。今年の初め、アップル社の従業員は、同社の最高経営責任者であるティム・クックに公開書簡を送り「社員は職場の机に戻りたがっている」という想定に異議を唱えた。その書簡には「経営陣がリモートワークやロケーション・フレキシビリティ・ワークについての考え方とアップル社の多くの従業員の生の経験との間には断絶があるように感じられる」と書かれている。なぜ重役たちはこれほどまでにオフィスにこだわるのだろうか? ここで思いつくのは「冷笑的」「親切」「潜在意識」というの3つの説明だ。 第一の「冷笑的な説明」では、上司たちはオフィスが与えてくれるステータスを好むというものだ。彼らは従業員たちよりも高層階の良い部屋にいて、良いカーペットを敷いた部屋に鎮座できる。彼らの部屋への出入りは厳密に管理されている。彼らがフロアを歩き回ると社内では一大イベントとなる。ミーティングルームでは最高の椅子が用意される。 ところがZoom会議になると、彼らが発するステータスのシグナルは弱くなる。映る画面のウィンドウの大きさはみんな同じになってしまう。彼らの最大の特権といえば、自分自身の音声をミュートしないことくらいであり、それは会社の幹部のダイニングルームを利用するのと同じ権力はないのだ。 第二の「親切な説明」は、経営者たちは直接従業員と会って話をする方が自分たちが率いる組織にとって良いはずだと考えている、というものだ。 たとえばJPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモンは、今年の初めに「自宅で仕事をすることは、仕事に打ち込みたい人にとっても、文化的にも、アイデアを生み出すのにも効果的ではない」と述べている。ヘッジファンド、シタデルの社長であるケン・グリフィンは、若者に自宅で仕事をしないように警告しており、「リモートワークの環境では、自分のキャリアを前進させるために必要な管理職としての経験や対人関係の経験を積むことは非常に困難です」と述べている。 このような懸念には理解できる部分もある。リモートワークは「タコ壺」にはまり込んでしまうリスクがあるからだ。つまり従業員はすでに知っている同僚だけとしかつきあわなくなる。企業文化は対面で集まる方が従業員たちに吸収されやすい。 また、ネットの接続速度が遅いと深い人間関係を築くことが難しくなる。たとえば2010年に行われたある研究では、共著者間の物理的な距離が科学論文の影響力を予測するのに適していることがわかったという。つまり共著者間の距離が大きいほど、その共著論文が引用される可能性が低くなるというのだ。 リモートワークの伝道師たちでさえ、物理的な集まりの時間を設けている。Slackで未来の仕事に関する研究を行っているブライアン・エリオット氏も「デジタルファーストは直接会わないという意味ではありません」と言っている。 だが、オフィスの利点が誇張されることもある。1970年代に提唱された「アレンカーブ」とは、コミュニケーションの頻度は同僚の席が離れれば離れるほど下がるという概念だが、今でもその傾向は変わらない。どんな職場にも人が立ち寄ることのない場所があり、別の階で働いている状況ほど大きな溝はないのだ。 また、リモートワークのデメリットは、ちょっとした工夫で克服することができる。たとえばハーバード・ビジネス・スクールの3人の教授の研究によると、ロックダウン時代のインターンが「バーチャル井戸端会議」で上級管理職と一緒に過ごす機会を得た場合、そうでない人に比べてフルタイムの仕事のオファーを受ける確率がはるかに高かったという。 物理的なワークスペースには欠点があり、リモートワークには改善の余地があるにもかかわらず、なぜ会社の上司たちは従業員たちを職場に集めようとしているのだろうか? 第三の「潜在意識による説明」はこうだ。フランスのビジネススクール「インシアード」のジャンピエロ・ペトリグリエリ氏は「若い人にオフィスに行くように勧める人というのは、その環境で自分の道を切り開いた人たちのことだ」と述べる。オフィスで働くことで成功を収めてきた上司たちは、そもそもオフィスの有効性に疑問を抱くことはない、ということだ。 これはやはり問題であろう。というのも、過半数の経営者たちは従業員の意見をほとんど聞かずに職場復帰の方針を決定したと答えているからだ。従業員が家とオフィスを行き来するハイブリッドな未来が到来が待ったなしとなった今、会社の上司たちは、どちらかの環境が明らかに優れていると考えるのではなく、両方の環境を改善する必要がある。 ==== 実に示唆に富むコラムですが、個人的にはやはり「権力」という要因を考慮しないといけないと感じます。 これはまさに「男はなぜセクハラをしてしまうのか」というエントリーでもあったものと同じであり、雇用関係に権力の非対称性が続く限りはなかなか解消されないものではないでしょうか。 ただし同時に問題なのは、やはり世代の意識の違いかと。「職場で集まって成功する」という成功体験というのは、現在管理している上の世代では染み付いているものであり、企業の文化は(西洋の先端企業でも)なかなか変えられないということかも。 (与那国から南方の海上を望む) ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-11-15 14:23
| カルテク
2021年 11月 14日
今日の横浜北部は雲は多めですが晴れております。
実に一年ぶりとなりますが、ブログを再開します。 きっかけは先日に与那国で会った北海道出身のYMさんという謎の男性に、「奥山さん、そろそろブログ再開してくださいよ」と詰め寄られたからです。 たしかに最近は動画やTwitterでの情報発信を中心にしていたので「これはまずい」と思い、文字情報中心のブログのほうも再開しなければと実感した次第です。 ということで再開第一弾は、すでみ本ブログをお読みのみなさまにはすでにおなじみに若手研究者であるハル・ブランズによる、最新の米中関係についての論考の試訳です。 当然ですが、以下のものは本気で訳したものではなく、あくまでも私の個人的なメモ代わりなので、もし引用されたりする方はリンクに貼った原文のほうを参照していただければと思います。 === by ハル・ブランズ 10/27 Bloomberg アメリカの中国政策において、歴史的なアナロジーがブームになっている。 たとえば北京が最近行ったとされる軌道周回兵器の実験は、マーク・ミリー統合参謀本部議長などによって「スプートニクの瞬間」に例えられている。 私を含めたアナリストたちは、米中が「新冷戦」に突入しているのではないか、アメリカは旧冷戦からどのような教訓を得られるのか、などのテーマについて議論してきた。 しかし、中国はそれとは逆の方向に進んでいる。中国は米ソの対立から得た、最も重要ないくつかの教訓から逸脱しつつあるからだ。中国は、米ソ対立から得た最も重要な教訓を捨てても戦略的に繁栄できるかどうかを試しているのだ。 中国共産党は歴史を重視している。彼らは国策として、大国の興亡やソ連崩壊の原因などを研究してきた。中国共産党は1989年の天安門事件からも学んだように、党内の分裂を許さず、イデオロギーへの忠誠を徹底させ、反対意見が暴走しないように監視することを学んだのだ。 2013年、習近平国家主席は、ソ連が崩壊した理由は、致命的な民主化の流れに「立ち上がって抵抗する覚悟を持った人物がいなかった」からだと述べた。習近平は今でもこの教訓を重く受け止めている。 しかし、彼が忘れようとしている「冷戦の教訓」は他にもある。 1つ目は、単純に「ワシントンの標的になるな」ということである。中国研究者のラッシュ・ドシは、共産党がすでに1989年の時点から、軍事的に優位にあってイデオロギー的に優勢なアメリカを「最大のライバル」と認識していたことを記録している。しかし、アメリカの力があまりにも圧倒的であったために、ソ連の野望を打ち砕いたアメリカの集中的な敵意を、北京は避けるようにしたのだ。 40年前に鄧小平が打ち出した「韜光養晦」(とうかいようこう)という戦略は、米国をはじめとする主要国との良好な関係を構築することで時間を稼ぎ、世界の貿易や先端技術を手に入れて、世界情勢の中で北京が思い通りに動くための力を蓄えることを目的としたものだった。鄧小平は中国が「先進国のレベル」に達すれば「その強さと世界での役割は全く異なるものになるだろう」と述べている。 2つ目の教訓は、冷戦時代のような軍拡競争を避けることだった。冷戦時代の戦略兵器の軍拡競争は、結果的にソ連を疲弊させ、アメリカの経済的な力のおかげで優位に働いた。 そのため、北京は長年にわたって比較的最小限の核抑止力を維持し、周辺部の海域で中国が優位に立てるように設計された通常兵器のような、比較優位の分野に支出を集中させてきた。 ところがいまやこの2つの教訓は放棄された。中国のレトリックと政策には、冷戦時代の雰囲気が漂ってきたのだ。習近平は「東洋が台頭し、西洋は衰退している」と主張し、敵対するアメリカに対抗するために、1930年代の共産党の生存競争を彷彿とさせる「新たな長征」を呼びかけている。 党の幹部はアメリカとその同盟国に対して軍事的な脅威を与えており、戦狼外交を実行する外交官たちは冷戦時代のレトリックの衝突を彷彿とさせるような口調でアメリカの幹部を公然と非難している。 中国は、世界が再び分断されることを想定しつつ、技術的な自給自足を目指して急いでおり、第二次世界大戦以来の驚異的なペースで艦船を建造している。どのように呼んでもかまわないが、実態として中国はもはや米国の敵意から逃れようとはしていないのだ。 軍拡競争も始まっている。核ミサイルの分野で中国は次々と新たなプロジェクトを誕生させており、極超音速兵器の開発も進められている。2030年代半ばには、中国は核の分野でアメリカに比肩しうる存在になる道を歩んでいるかもしれない。少なくとも、中国が控えめな抑止力に甘んじるという考えはもはや信用できなくなっている。 なぜ中国は、これまで危険とされてきたことをわざわざ実行しはじめているのだろうか?それにはミクロとマクロな理由がそれぞれある。 中国の核開発は、米国が北京に対して戦略的優位に立つことによって相互の脆弱性から逃れることができないようにするためだ。これにより、米国には台湾をめぐる戦争で核兵器を使用するという選択肢(常に可能性は低いが)はなくなり、次第に北京に有利になる通常戦力のバランスでの優位が決定的になる。戦狼主義は、国内の聴衆や、とりわけ習近平に対するアピールであると思われる。 より大きな動機として存在するのは、楽観主義と悲観主義の不安定な組み合わせであるように見える。 習近平は「中国はもはや米国に従う必要がないところまで成長した」と主張している。中国は、経済的にも軍事的にも発展した能力を利用して、他国に自国の権益を尊重させることができるというのだ。 同時に、中国の指導者たちは、アメリカの中国への敵意はすでに2つの政権に渡って続いており、実質的に確定してしまったと考えているため、すでに挑発行為を弱める意味はないと考えているように見える。 これは失敗となる可能性がある。習近平の自給自足のレトリックは、最先端の半導体などの技術における中国の巨大な依存関係を覆い隠している。北京は、モスクワを破滅させたような戦略的包囲網(strategic encirclement)に対して脆弱なままである。中国の行動は、日本、オーストラリア、インド、英国などの国々や、北京の経済面での影響力を抑えたいと考えているアジアやその他の地域の小国たちの反発を招いている。 また、中国の動きは米国の政策をさらに硬化させる可能性もある。北京の極超音速兵器の実験と戦略増強は、核兵器への依存度を下げるというジョー・バイデン大統領の公約の実現を困難にするからだ。 もしかすると、中国が「歴史の教訓」を放棄するのはそもそも不可避であったのかもしれない。弱い国を導く教訓は、強い国にとっては耐え難いものに感じられることが多いからだ。だが中国はかつての冷戦の教訓を忘れてしまったことを、あとで後悔することになるかもしれない。 === 中国は深刻な失敗をしているということですが、このような議論の前提にあるのは「アメリカは中国に負けるわけがない」「中国はすでにピークを迎えた」というものですね。 やや楽観的な議論と言えなくもないですが、ブランズはこのような議論を本にまとめているという噂を聞きました。このような議論はじっくりと読んでみたいですね。 ==== ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜
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by masa_the_man
| 2021-11-14 15:43
| 戦略学の論文
2020年 11月 03日
今日の横浜北部は曇りがちの一日でした。だいぶ日が短くなってきていると実感します。 さて、先週の番組でも少し触れた、トランプを支えるマッチョ文化についてのNYタイムズ紙の面白いルポ記事を。 日本では朝日の金成さんによるラストベルトの白人労働者階級を丹念に追った調査記事を本にしたものがありますが、こちらは日本ではあまり注目されることのない、ラテン系の男性たちが熱烈なトランプ支持者になっている様子を分析していて、実に興味深いものです。 ==== by ジェニファー・メディナ 20-10/14 彼らは自分たちのヒーローを応援するために、その部屋に詰めかけていた。 この部屋に集まっていた100人以上の群衆は、地元の英雄で、オリンピックの金メダリストでもあるヘンリー・セフード氏に対して熱狂的な声援を送っていた。彼はメキシコからの不法移民の息子であり、総合格闘技のスーパースターになった人物だ。 ところが彼らがそこに集まっていた本当の理由は、トランプ大統領を祝福するためだった。 赤いMAGA(Make America Great Again)の帽子をかぶった数人の男性たちは、巨大なアメリカ国旗を持ち、いくつかの選挙キャンペーンのプラカードの前に立っていた。プラカードには「トランプ支持派のラティーノ」「トランプ支持派の警官たち」、そして「WOKE」というショートメールを送って選挙キャンペーンの最新情報を入手するように促すものなどがあった。 大統領の息子であり、このイベントの主役でもあるエリック・トランプ氏の言葉を借りれば、この戦いの構図はシンプルだ。彼が「それは正しい方と間違った方だ」だと言うと、大歓声に包まれた。 「彼らは私たちの声をキャンセルしようとしているんですよ、みなさん!」 男性は、トランプ大統領の支持基盤の中心的な存在だ。世論調査での男女の差は、ほぼすべての集団の中に存在している。つまりトランプ再選を支持する男性の確率は、白人有権者、高齢者、そして大学の学位を持たない有権者の間で、女性のそれよりもはるかに高いのだ。 そして、トランプ氏がコロナウイルスの陽性反応が出たと発表してから数日たったあとでも、その支持率はほとんど変化していない。 世論調査によると、今回の大統領選挙では100年前の修正第19条が加わって以来の、男女の支持についての最大の差が生じる可能性があるという。 ここでトランプに関して常につきまとっている疑問がある。それは、 「移民排斥のレトリックや政策にもかかわらず。30%近くにのぼるヒスパニック系の有権者はトランプを支持している。彼らは一体どのような人々なのだろうか?」 というものだ。 これについて単純な答えは一つもない。トランプは南フロリダのキューバ人やベネズエラ人の亡命者たちから強い支持を得ており、彼らはトランプの反共産主義にのスタンスを好んでいる。そしてトランプ氏の選挙キャンペーンは、全国の福音派ラテン系の人々に強く支持を求めている。 ただし、民主党を最も悩ませているのは、アメリカ生まれのヒスパニック系男性であり、特に45歳以下の男性のグループだ。意識調査では、彼らはジョー・バイデン候補に対して常に懐疑的であるからだ。 しかしトランプ支持の数十人のメキシコ系アメリカ人男性へのインタビューで明らかになったのが、高齢者や女性、郊外の有権者たちの多くから嫌われているという事実そのものがトランプの魅力の重要な部分である、ということだ。 彼らにとって、トランプのマッチョな魅力は、疑う余地のないものだ。なぜならトランプは力強く、裕福で、そして何よりも重要なのは、絶対に非を認めないからだ。 間違ったことを言って攻撃されるかもしれない現代の世界で、トランプはいつも間違ったことを言いつつも、自責の念に駆られることは決してない。 大統領は月曜日にフロリダ州で行われた集会で、大統領専用機の前に立って「力がみなぎってます」宣言している。 そしてこのメッセージがしっかりと伝わるようにヴィレッジ・ピープルの「マッチョ・マン がスピーカーから流れて、集会は幕を閉じた。 41歳の海兵隊の退役軍人であるポール・オラーサバ・ジュニア氏は、2016年に初めて共和党に投票した。トランプ氏は軍をしっかりと応援してくれていると感じたからだ。 「私はメキシコ系です」とオラサバ氏は言い、何年もの間、彼はそれが彼が民主党に投票しなければならないことを意味すると考えていた、と付け加えた。 彼が2016年にトランプ氏を支持し始めたとき、家族は彼をのけ者にした。 「両親は私に、なんで人種差別主義者を支持するんだい?あなたはメキシコ系なんだから、民主党に投票しなさいよ、と言うわけです」 「しかし私はアメリカこそが自分の国だと言いました。恐怖なんですよ、人々は大統領を支持していると言うことを恐れているんです」 セフード氏には、そのような恐れは明らかになかった。先月、トランプ大統領がネバダ州で大規模な集会を主催した時、セフード氏はトランプ氏の選挙運動を支持する他の総合格闘技の選手たちと一緒に参加している。 セフード氏(33歳)は「私はトランプ氏の大のファンなんです」と語った。彼は高校の授業で「アプレンティス」を見たと言う。 「我々にはビジネスマンが必要です。国を運営する上ではこのような人が必要なんです」 エリック・トランプのイベントにセフード氏と一緒に参加した人々も、「アプレンティス」でトランプ氏を見ていたと語っており、彼の押し出しの強い姿勢や、自分の意見に自信を持っている様子が好きだったと語っている。 彼らに対するインタビューで判明したのは、彼らはトランプ氏の大統領としての行動も同じように見ているということだ。もちろん彼らもトランプ大統領の行動の全てに同意しているわけではないが、それでもその行動はトランプ氏の強さを示す、さらなる証拠だと思っているという。 彼らによれば、トランプ氏はコロナに感染してからも広く受け入れられている医学的な指針に反抗したが、これは彼のリーダーシップの欠如を示すものではなく、自分で調べて自分で結論を出す人の行動として映るという。 彼らによれば、トランプ氏がマスクを嫌うのは彼の強さの現れであり、バイデン氏との討論会の最中に何度も口を挟んだのは、トランプ氏が権力を効果的に使った例であるというのだ。 トランプの選対本部の外で大きなアメリカ国旗を掲げていたエドウィン・ゴンザレス氏(31歳)も、「彼は自分がボスであることを証明しましたよね。彼が出馬した時にタワーの黄金のエスカレーターを降りてきたのと基本的に同じことです。まさにエキサイティングなんですよ」 ゴンザレス氏は、彼や他の多くのトランプ支持者にとって大統領は資本主義の最高の実例であり、「彼はボスであり、みんな彼のようになりたがっており、彼を偶像化しています」と付け加えた。 このイベントに参加した有権者たちは、トランプ大統領を賞賛すると同時に、バイデン氏は弱者であると指摘しつつ、トランプ陣営が造った「地下室のバイデン」(Basement Biden)という軽蔑的なレッテルに値すると批判している。 実際のところ、参加者の男性の多くはマスクの必要性を否定している。 エリック・トランプ氏とセフード氏が参加したイベントでは、入り口では体温チェックがあったが、マスクを着用していた聴衆はほとんどおらず、登壇者の中にもマスクを着用していた人はいなかった。 バイデン氏は、マスクをめぐるトランプ大統領の消極的な態度をあざ笑っている。彼は10月のあるタウンホールのイベントで「マスクはつけないよ、という彼のこのマッチョな態度は一体どういうことなんだ?」と発言している。この発言に対して、フォックスのあるコメンテーターは「バイデン氏はマスクをかわいいポーチに入れて持ち歩いているんじゃないか?」と反論している。 「この国は、恐れるか前に進むかの転換点にあります。民主党はここ数ヶ月で自分たちの党にかなりダメージを与えたと思います。私たちを怖がらせようとしているからです」とリコ・ロッシ氏(40歳)は言う。 ヒスパニック系の女性は圧倒的にバイデン氏を支持しているが、ヒスパニック系の男性はバイデン氏に根強い不快感を持っているようで、世論調査ではバイデン氏が白人以外の有権者の平均をはるかに下回る60%以上の支持を維持するのに苦労していることが示されている。 ちなみに世論調査では、トランプ氏がヒスパニック系の有権者から約30%の支持しか得ていないのに対して、まだバイデン氏はまだかなりリードしている。 共和党と民主党の両方の戦略家たちは、バイデン氏はこれらの若いラテン系の男性たちに直接手を差し伸べてはいないと言う。 「米国生まれの40歳以下のヒスパニック系の男性はトランプ支持のようですが、問題はなぜなのかということです」と語るのは、トランプ氏をホワイトハウスから追い出すために活動している「リンカーン・プロジェクト」に関わる共和党のコンサルタント、マイク・マドリッド氏だ。 両党とも白人の労働者階級の有権者をターゲットにしているが、実はヒスパニック系の男性の多くも、この白人労働者たちと同じような政策を好んでいる。 「彼らは主に英語をしゃべるし、経済状況も非常に似ており、同じメディアから情報をとっているんです」とマドリッド氏は語る。 ラテン系の有権者に対して十分に手を差し伸べていないという根強い批判に何ヶ月も直面してから、バイデンの選対本部はようやくここ数週間でいくつかのスペイン語の広告を発表しており、これにはプエルトリコ出身のバッド・バニーという中性的なポップスターを採用したものも含まれる。 他の広告では、トランプ政権がラテン系住民をターゲットにしたやり方を強調したものがあるが、これは自分たちが同情されるのを見たくない男性の間ではまったく共感されないメッセージとなっている。 民主党員の中には、トランプ氏への支持は、伝統的なジェンダーの役割を崇拝し、一種の「過剰な男性らしさ」を強調する「マッチョ文化」の一例であると主張する者もいる。 ところがこの熱意は、米国生まれのラテン系アメリカ人の間で流行している、いくつかの根本的なトレンドを示している。 ヒスパニック系の間では、女性の方が男性よりも多く大学に通って卒業している一方で、ヒスパニック系の男性は、軍、国境警備隊、移民税関捜査局などの法執行機関に偏って働いている傾向がある。 しかし、トランプ氏への称賛には、さらに根深いものがあることを暴いている。 ヒスパニック系の男性を綿密に追跡してきた民主党の世論調査員によると、彼らは仕事や経済を優先する傾向が強く、移民や人種差別の問題を気にすることは少ないという。 ヒスパニック系の男性の多くは、生計を立てて経済的な優位性を得て、それを子供たちに引き継いでいくことだけを考えているという。 つまりそこには「自分たちの力で頑張ろう」というメンタリティへの深い信念があるのだが、トランプ氏がそのようなことをしてこなかったことは、全くの論点から外れているように思われる。 35歳のレジ係のジョシュア・タピアは、パンデミックが流行する前は、株式市場に投資を始めたので、自分は経済的にはるかに恵まれていると信じていたと語った。では今はどうなのだろうか? 「多くの仕事が失われようとしてますが、私はトランプ氏を非難しているのではなく、ただ状況を非難しているだけです。残念ですが、まあ誰もこのような状況になるとは予測できなかったですしね」とタピア氏は述べている。 熱心に活動してきた民主党員でさえも、バイデン氏が新型コロナの流行でラテン系の失業者が10%以上となり、それ以上の人々が賃金の減少に直面している中で、あいまいな経済政策のメッセージしか打ち出せていないことを批判している。 トマス・ロブレス・ジュニアは、バイデン候補やアリゾナ州の他の民主党員のためにキャンペーンを展開している「ルチャ」(Lucha)という進歩的なグループのエグゼクティブ・ディレクターだ。彼によれば、「ラテン系のコミュニティでは、稼げるかどうかで人の評価が決まる」という。 「経済的に不安定な状態が常態化している中で生活している人々は、周りを見て、少なくともこの経済状況の中でもなんとかやっていけると信じたいと思っています。バイデンン候補は、この人々に自分たちの重要性を認識させ、彼らがなんとかやっていけるだけの経済状況をつくりあげるというメッセージを伝える必要があるのです」 昨年、フロリダ、ニューメキシコ、ネバダ、そしてアリゾナなどで行われたイベントでのヒスパニック系のトランプ支持者たちとのインタビューでは、ほぼ全員が、自分たちの政治姿勢が一部の友人や家族を怒らせたと述べており、自分たちの考えは反移民的な考えに基づいたものだという指摘を拒否している。 そしてこれはアメリカ社会への完全な「同化」を示しているわけでもない。この男性たちは、ラテン系、とりわけメキシコ移民の子孫であることを誇りに思っており、その多くがスペイン語を話し続けようと努力している。 その多くは、政治的に特殊な立場をとることや、大多数のラテン系とは異なる投票をすることに魅力を感じていると言っている。 総合格闘技のスターであるセフード氏でさえ、サウスフェニックスの熱狂的な群衆に向かって、自分の政治見解が周囲に敬遠されてきたために、かえって率直な意見を表明しようという気になったと語っている。 「ラテン系の人間として反発を受けることがどういうことか、みなさんもご存知でしょう。アメリカの政治には実に多くの無知が溢れているのです」と彼は言った。 彼は、最初の選挙では不法移民に反対することで主に支持を集めた大統領を支持するこのグループに対して、自分の母親がメキシコから「政治的に不正な方法」でアメリカにやってきたと語り、父親も後に強制送還されたが、その合間に母親が自分のオリンピック選手になるという夢を実現するのを助けてくれたと述べた。 そして最後に、彼は派手な上腕二頭筋を見せて、写真のためにポーズをとった。 ==== いかがでしょうか。 単なる天の邪鬼的な感覚からトランプ支持、という部分もあるのかもしれませんが、ここで極めて重要なのが、トランプ自身がアメリカに住む男性たちの「マッチョ文化」の担い手になっているという指摘です。 そうなると、彼がいくらリベラルメディアからファクトチェックをされようとも、彼のコアな支持者たちの間では、 「間違ったことを言っても絶対に謝らないトランプは強い!」 ということになり、かえって男を上げるという構図になるわけですね。 そうなると、ここで問題なのは、日本のメディアや識者たちが「トランプ現象」についての分析としてよく提示する 「トランプ大統領の政治はハチャメチャだが、これは彼自身の問題ではなく、むしろその背景にある分断された米国社会に原因がある」 というもの。つまりトランプはハチャメチャな政治の「原因」ではなく、米国社会のひずみの「症状」でしかないという分析です。 もちろん私はこの意見にはある程度賛同するわけですが、このような記事を読むと、逆に 「トランプ個人のハチャメチャぶりも相当大きな影響を及ぼしているのではないか?」 と考えざるを得ません。 国際政治の理論に詳しい方々には耳タコでしょうが、トランプ政治がアメリカでこれだけ吹き荒れているのは、ケネス・ウォルツの考え方を使わせてもらえば、 「トランプ政治の原因は、分断した米国社会のせい」=セカンド・イメージ(国家、党、グループ) という考えよりも、やはり 「トランプ政治の原因は、トランプ個人の性格のせい」=ファースト・イメージ(個人、ヒューマン・ネイチャー) という方が納得いくように思えるわけです。 いよいよアメリカの大統領選挙の投票が始まるわけですが、結果がどのようになるにせよ、トランプがアメリカのラテン系男子にある「マッチョ文化」に強烈にアピールしていることに思いを馳せながら、私は選挙結果を気長に待ちたいと思います。 ==== ▼!最新作!〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜
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by masa_the_man
| 2020-11-03 16:35
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