戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


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今日の横浜北部は朝から微妙に曇っておりまして、気温も低めでした。

さて、トランプ政権の国家安全保障アドバイザーに新しく就任したマクマスター中将の過去の寄稿論文がNYタイムズ紙にありましたので、その記事の要約を。

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「簡単な戦争」というラリった幻想(The Pipe Dream)

By H. R. マクマスター
JULY 20, 2013

小説家のソール・ベローは、「幻想への欲求が深い場合、素晴らしい知性が無知のためにつぎ込まれることもある」と記したことがある。

われわれはイラクとアフガニスタンの戦争から得た教訓を考える際に、このベローの言葉を肝に銘じておくべきであろう。なぜならこの教訓は、将来の軍事計画の際に極めて重要となってくるからだ。

われわれの持つ、過去の経験からの学びの成績は、惨憺たるものだ。この理由の一つは、われわれが歴史からの学びを、将来の戦争を簡単なものとして考えたり、過去のものとは根本的に違うものだという希望的観測の思考の結果として、単純に応用したり、それらを全部無視したりするからだ。

われわれは2001年9月11日のテロ攻撃以前にそのような考えにふけっており、多くの人々は「離れて安全な距離から敵のターゲットに対して精密攻撃を行える能力を持ったテクノロジー面で優位にある小規模の米軍の部隊は、短期的に勝利を得ることができる」という単なる思いつきを受け入れていたのだ。

新しいテクノロジーが戦争の新時代の幕開けとなったという信念に基づいたこのような国防理論は、その後にアフガニスタンとイラクでの戦争に応用された。そしてこのような考えは、その両戦争についての理解を曇らせることになり、本当に効果的な戦略の形成を遅らせることになってしまったのだ。

今日では予算の制約や、新たな紛争を回避したいという欲によって、「台頭するテクノロジー(もしくは地政学的シフト)が戦いの新たな時代を導き出した」という議論が復活している。そのような理論家の中には、われわれがアフガニスタンやイラクで直面している困難というのはかなりの例外であると論じる人もいるほどだ。

ところがこれらは例外ではない。新たな希望的観測に対する最高の予防策は、戦争についての古くから認められる三つの真実や、アフガニスタンやイラクでのわれわれの経験がその重要性をいかにそれを立証したのかを理解することにある。

第一の真実は「戦争は政治的である」というものだ。19世紀のプロイセンの戦争哲学者であるカール・フォン・クラウゼヴィッツは「戦争を何か自律したようなものとしてとらえてはならないのであり、それは常に政策のツールなのだ」と述べている。

アフガニスタンやイラクに至るまでの期間にアメリカでの国防についての考えは、その他のパワーを連携させて政治的な目標を達成・維持するための権力のツールの中の一つでしかないにもかかわらず、軍事作戦の成功そのものを目的としてとらえるようなアイディアによって突き動かされてきたのだ。

「軍事における革命」(RMA)として知られる理論の信奉者たちは、1991年の湾岸戦争におけるアメリカ主導の多国籍軍による一方的な勝利をあやまって解釈し、「軍事技術のさらなる進歩はいかなる敵に対しても圧倒的な状態を維持できるだろう」と予測したのだ。

彼らによれば、これによって潜在的な敵もアメリカの権益に挑戦してこようとは思わなくなるはずであった。

この理論は傲慢であった。ところがそれは容認された考えとなり、未熟な戦争計画が予期しない政治問題に直面したアフガニスタンやイラクの紛争において、われわれを苦しめることになったのだ。

アフガニスタンでは代理的な戦力がタリバン政府の打倒を助けてくれたが、そのような民兵やリーダーたちの多くは個人的な権益や政治課題を追求したおかげで「アフガニスタン」という国家の再建の努力を台無しにしてしまった。

2003年から2007年までのイラクにおける同盟国の戦略では、スンニ派のアラブ系やトルクメンをはじめとする少数派の民族の抱える政治面での不満に応えられなかった。この両戦争では、暴徒やテロ集団がこのような不満につけ込んで、新たな参加者を募ったり、住民の一部から支持を獲得している。

時間の経過とともに民族・部族・宗派ごとの分裂が強まることによって新たな暴力がはじまり、イラクとアフガニスタンの国家がそれぞれ弱まり、反乱側を強化し、住民の苦悩は激増している。

ここでの教訓は、戦争をその政治的な性質から分離するような概念、とりわけテクノロジーを通じて迅速かつ安価な勝利を約束するような概念については疑ってかかれ、というものだ。

第二の真実は、「戦争が人間的なものである」ということだ。人間はギリシャの歴史家ツキュディデスがおよそ2,500年前に指摘した根本的な動機に突き動かされて戦っているのであり、これは今日でも変わらない。

その動機とは、恐怖、名誉、利益である。

ところがその二つの戦争に至るまでの期間に、われわれの国防について考えでは戦争における人間的な面や政治的な面を軽視してきたのだ。

たしかにタリバンやサダム・フセインの体制は戦闘作戦によって崩壊さることができたが、アフガニスタンやイラクの近代史についての知識の欠如のおかげで、アメリカは初期に獲得した戦場での優位を継続的な安全につなげることができなかった。

時間の経過とともに米軍は、アフガニスタンやイラクの市民の間にある恐怖や利益、そして名誉についての感覚を理解することが、暴力のサイクルを断ち切り、過激主義者を孤立化させるためにコミュニティーを政治的に協調するよう促すことにつながると学んだのである。

市民の安全の確保に向けた努力のおかげで、2007年以降のイラクや、2010年以降のアフガニスタンでは、少数派民族の恐怖を和らげ、各集団の名誉を尊重し、彼らに「暴力ではなく政治を通じてそれぞれの権益を守ったり強化したりすることができる」と確信させたのである。

ここで得た苦い教訓は、防衛概念には戦争の人間的な面を構成する、社会、経済、そして歴史的な要因を考慮に入れなければならない、ということだ。

第三の真実は「戦争は不確実なものであり、その理由はまさにそれが政治的で人間的なものである」ということだ。

RMAの理論における支配的な前提とは、「情報が勝利の最大のカギを握る」というところにある。また、「ネットワーク中心の戦い」(NCW)や「迅速で決定的な作戦」(RDO)、「衝撃と畏怖」、そして「フルスペクトラム・ドミナンス」などが暗示しているのは、ほぼ完璧なインテリジェンスによって精密軍事作戦が可能となり、それが成功への近道である、ということだ。

ところがアフガニスタンやイラクでは、敵の順応やイニシアチブには対応できなかった。作戦開始当初は紛争によって順応してきた敵と対処するだけの数をもたなかった米軍は、安全を維持するのにも苦労していた。

ここでの教訓は、イラクとアフガニスタンの戦争は他の戦争と同じように「意志のぶつかり合い」であり、このダイナミックな動きによって将来の出来事の予測が不可能となった、ということだ。

幸運なことに、米軍はアフガニスタンとイラクで順応することができた。たとえば2005年のニネヴェ州では敵側が現地の宗派同士を争わせて内戦状態にしていた。

タル・アファルという町では、米軍の機甲連隊が最初に複雑な環境を理解しようとしており、同時に地元のイラクの治安部隊や包囲された住民たちと信頼構築に向けての働きかけを行った。特殊部隊とイラク兵とともに、わが軍の部隊は、敵と戦うだけでなく、住民の安全な環境の構築や、集団間の紛争解決を推進していた。

タル・アファルの市長であるナジム・アジド・アルジボウリが後に述べたように、「われわれの町はアブ・ムサブ・ザルカウィ掃討のための基地となっていたのであり、住民は恐怖から自宅に引きこもり、町中ではいつ殺されてもおかしくなかった」のである。

ところが米軍が来てからというもの、「テロリストという町に潜むがん細胞に対して正確な外科手術を行ったおかげで、町には不必要な被害は生じなかった」というのだ。

ここでわれわれが学んだのは、米軍は複雑で不確実な環境の中で、戦争の政治・人間的な面に対処しなければならない、ということだ。アフガニスタンやイラクのような戦争は、遠隔操作で戦えるようなものではないのだ。

予算面での制約やテクノロジーへの相変わらずの幻想によって、何人かの人間は「これまでのような戦争が終わりを告げた」と宣言している。

もちろん新たなテクノロジーというのは、軍事的な効果という面では極めて重要であるが、そのようなテクノロジーだけに頼ろうとする概念(精密攻撃や急襲やその他の敵のターゲティングへの手段)は、「軍事活動」と「戦時に目指している目標への進展」を混同させてしまうのだ。

われわれは、戦略と軍事能力を同等視してはならないのである。

戦争においてわれわれが目指すべき狙いの達成のためには、軍には味方になってくれる人々を安心させ、住民を守り、見つけにくい敵を見つけて倒すことまでが要求される。

将来の戦争では、当然ながら、現在のものとは異なる問題を浮き上がらせるだろうし、異なる条件を課してくるだろう。ところが戦争そのものは、古代から変わらない重要な真実を示し続けるはずだ。

国防費は削減の圧力下にあるが、明快な思考にカネはかからない。将来の戦争の問題を自分たちの望むような形で定義したり、それによって自分たちの抱いた幻想を元にした国防面の脆弱性をさらしてしまうようなことは、われわれがもっともやってはいけないことである。

===

戦争の現実は変わらないからそれを直視せよ、新しいテクノロジーの登場に騙されるな、ということですね。

何度もいいますが、これは戦略論の「保守派」の議論としては極めてスタンダードな意見です。

もちろんこの議論のベースにあるのは、「テクノロジーの進歩はすごいが、それでも戦争の本質(the nature of war)は変わらない。なぜなら人間の本性(the human nature)は変わらない」という認識です。

これを論証するのにあたって、このような「保守派」たちはクラウゼヴィッツやツキュディデスの議論を使うわけですが、それによって戦争の「易不易」の、いわば「不易」の部分を強調するわけです。

このマクマスターやマティスのような人々の考えの究極のものが、おそらく拙訳の『現代の戦略』におけるコリン・グレイのものでしょう。

グレイの場合は戦争や戦略の「易不易」の部分を説明するのに、クラウゼヴィッツの『戦争論』の中から「文法」(易)と「論理」(不易)という概念を引っ張ってくるわけですが、このような概念の使い方は、残念ながら日本の戦略に関する議論ではまったく取り上げられておりません。

こういう議論をみると、あらためてクラウゼヴィッツの考えというのは日本では「過去のもの」であったとしても、現実に戦争を行っている国々にとっては「活きた学問」として活用されていることがよくわかります。



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# by masa_the_man | 2017-02-24 14:25 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部は朝から小雨で風が強く吹き付けております。

さて、トランプ政権に対して民主党系の大御所であるブレジンスキーが、NYタイムズ紙に「ドクトリンを出せ」という内容の論評を共同で出しましたのでその要約を。

===

なぜ世界はトランプ・ドクトリンが必要なのか
By ズビニエフ・ブレジンスキー&ポール・ワッサーマン

世界の秩序は混乱状態にある。世界はこのような同時に頻発する可能性の高い問題に対処できる国際秩序をもたないままに、その混乱に突入しつつあるのだ。

この問題をさらに複雑にしているのは、主要国のカオスが、さらに破滅的な結果につながる可能性があるという点だ。

これまでトランプ大統領はこのような世界情勢に対して、アメリカがいかに対処していくのかについて重要な発言を何も計画していない。その代わりに、彼の政権からは無責任かつ調整されないまま無知な声明が発表され、世界はそれを解釈するだけのような状態になっている

重要な位置を得ようとする人間であれば誰でも、自分がたまに発する単純かつ極端な言葉づかいを「国家政策にしようとしている」と思われるような事態はさけなければならないものだ。

ところが最近起こったアメリカの対モスクワ政策における失策は、政権発足からたった24日目のマイケル・フリン国家安全保障アドバイザーの辞職につながっていることからも明らかだ。

われわれは大統領選でトランプ氏を支持しなかったが、それでも彼はアメリカの大統領である。彼はわれわれの大統領なのであり、われわれは彼に成功してもらいたいのだ。

ところが現在の彼は世界にとって、そしてわれわれにとっても「成功してもらいたい人物」のようには見えない。脆弱な世界には、楽観主義や進歩を反映した明晰な考えやリーダーシップによって性格づけられた、「アメリカ」が必要なのだ

「アメリカを再び偉大に」や「アメリカ第一」というのは、車のバンパーに貼るステッカーの文言としては素晴らしいものだが、アメリカの対外政策はそのような選挙戦用のスローガンよりもはるかに重要なものであるべきだ。

したがって、われわれはトランプ大統領に対して、世界をより安定したものにする上でアメリカがリーダーシップをとるという決意を含む、自らのビジョンを、大胆に説明する声明を発表するようにアドバイスしたい

この声明は必ずしもアメリカの対外政策を詳細につめた青写真のようなものである必要はないのだが、それでも自分がアメリカが事態を注意深く見守っており、それに積極的に関与していると同時に歴史全体の流れを自覚していることを思い起こさせるようなものであることが求められる。

われわれが大統領から聞きたいのは、なぜアメリカが世界にとって重要であり、なぜ世界はアメリカを必要としているのか、ということだ。同時に大統領はこの機会に便乗して、アメリカ自身が世界からどのような貢献をしてもらいたいのかを表明することもできる。

われわれは大統領が毎日行っている細かい決定には賛成できなくとも、理想的な長期解決法としては、世界の三大軍事大国(米・中・露)が世界情勢の安定を保つために協力しあえるようなものしかないことを認めることが求められている

この問題の多くは、アメリカと中国がどこまで対話を成功させることができるかにかかっている。そうなると、米中間におけるより深刻な戦略面での理解への道が広がってくるのであり、これが実質的に三大軍事大国の間でのより長期的な相互理解につながる。

なぜならロシアは、自分たちが米中間の調整に入れてもらえなければ、自らの国益にとってリスクになることを気づくはずだからだ。

また、アメリカはロシアと中国が戦略的な同盟を結ぶ危険を常に自覚しておくべきだ。このような理由から、アメリカは中国を下位の立場にある者として扱って行動してはならない。中国とロシアを近づけてしまうだけだからだ。

より直近の懸念としては、北朝鮮が及ぼす問題があるのだが、これは北朝鮮の強力な隣国である中国や日本(そして潜在的にはロシア)との緊密な連携がさらに必要になるはずだ。よって、アメリカの単独の動きは、北朝鮮をポジティブな方向に動かす可能性が低いのである。

もしアメリカがロシアとの関係を改善するのであれば、互いに「法に規定されたコミットメント」が国際的な秩序にとって重要であることを再認識する必要がある。表面的に関係改善は、近隣の弱小国にたいする騙しや策略、もしくは暴力などを覆い隠すようなものであってはならないのだ。

ロシアとの関係改善を求めるトランプ大統領の方針は賢明であると言えるが、許容できる行動範囲を規定した枠組みが必要であり、残念ながら現時点でこのようなものは存在しない

ロシアは、ウクライナやウズベキスタンのような非ロシアの元ソ連邦諸国がその独立状態を確立しつつある状態に直面しており、同時に中国が経済的に中央アジアに浸透しつつあるために、その地域への影響力を落としている。

よって、この三大軍事大国にとっての利害関係というものは大きいのだが、同時にそこから受けられる潜在的な利益は大きく、この事実をこの三国は十分わかっている。

短期的にみれば、アメリカは日本や英国のような友好国たちと地域的な合意の形成を目指すべきであろう。このような国々との関係は、地域情勢を管理する点において必須のものだからだ。

ここから考えれば、トランプ政権が日本と韓国に対するアメリカの支持を再確認するような動きをしたことは期待のもてるものだ。ところがNATOの中心的存在であるアメリカは、西欧と中欧を守る備えもおこたってはいけない。

トランプ大統領は自らの経験を通して、ビジネスの力を知っている。アメリカはロシアに対して、紛争当初にウクライナ東部で見られたような「小規模な緑の制服の人々」を使った戦術を含む、欧州に対するいかなる軍事的急襲も、ロシアの西側に対する海洋のアクセス(ロシアの海上貿易の75%)への処罰的封鎖につながることを明確に伝えるべきだ。

戦略的な意思決定のためのリーダーシップの任命におけるトランプ政権のこれまでのハチャメチャな仕事ぶりを踏まえて考えると、大統領がリーダーシップのビジョンとコミットメントを表明することは、アメリカだけでなく世界にとっても決定的に重要となる。

つまり「トランプ・ドクトリン」とでも呼べるようなドクトリンが本当に必要なのだ。

===

これは共著なので、おそらく文そのものを書いたのはワッサーマンの方でしょう

それでもロシアに対する警戒感と、中国に対する融和的な態度、大国の戦略家にありがちな「上から目線」、そして大国による世界バランスの安定(この場合は米中露)を提唱しているところなどは、明らかにブレジンスキーの意見ですね。

たしかにドクトリンを表明することは重要でしょうが、報道で漏れてくるところを見ると、トランプ側としての正直な気持ちとしては「したくてもできない」ということでしょう。

これまでの前例を考えると、トランプ政権の混乱は少なくともあと一年以上は続くわけですから、このような提案もそれまでは虚しく響くだけ、ということになりそうです。


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(火口)


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# by masa_the_man | 2017-02-23 11:33 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は昨日に比べて随分と気温が下がりました。晴れておりましたが全体的にもやがかかっているような感じでした。

さて、連日お伝えしているバノンと拙訳「フォース・ターニング」についての話ですが、トランプ政権誕生の直後にバノンの映画の出演者であるカイザー教授による意見記事がタイム誌に掲載されておりましたので、あらためてその要約を。

===

トランプ、バノン、そして米国における危機の到来
by デイヴィッド・カイザー

1990年代にニール・ハウと故ウィリアム・ストラウスという2人の在野の歴史家が、米国史についての新しい理論を2冊の本の中で提唱した。

最初が1991年に出た『世代:米国の未来の歴史』(Generations: the History of America’s Future)であり、次が97年の『フォース・ターニング:米国の預言』(The Fourth Turning: An American Prophecy)である。

そして2人は米国史における80年のサイクルを指摘し、それが古い秩序を破壊して新しい秩序をつくる、大きな危機によって区切られていると主張したのだ。

彼らの理論は大学で広く教えられているわけではないし、メディアでも議論されているようなものではないのだが、それでもトランプ政権では大きな役割を果たす可能性が大きい

なぜならブレイトバートニュースというサイトの元代表でトランプ政権の首席戦略家に任命されたスティーブン・バノンは、ストラウスとハウの危機の理論について詳しく、しかもそれを使って特定の目標をどうやって達成しようかを長年に渡って考え続けてきた人物だからだ。

私がなぜこのようなことを知っているのかというと、バノンはドキュメンタリー映画を制作する際にニール・ハウとこの私に、当時進行していた金融危機に関して2009年にインタビューを行ったからだ。

この映画は「ジェネレーション・ゼロ」というタイトルで、その中でその「危機の理論」がかなり詳しく議論されている。

バノンはこの理論の最大のカギとなる、米国史は80年毎に「危機」、もしくは「第四の節目」(フォース・ターニング)を迎えており、これによって古い秩序が破壊されて新しい秩序が確立される、という考えに焦点を当てている。

ストラウスとハウによって指摘された大きな「危機」には、アメリカの独立戦争から憲法制定までの時代(1774-1794)、南北戦争とその後までの時代(1860-68)、そして世界恐慌から第二次世界大戦までの時代(1929-45)が含まれている。

このような経緯を踏まえて、彼らは21世紀の最初の15年に同じような大きな危機がくると予測している。

ストラウスとハウの主な予測はあきらかに実現している。たとえばアメリカが政治的な危機の状態を迎えてかなりの時が経過したことを否定する人はいないだろう。これは党派による分断状態や、深刻な不景気、海外での戦争、そしてとりわけ政治エスタブリッシュメントと国家との結びつきが崩壊していることなどだ。

私はプロの歴史家の中でも、ストラウスとハウの研究に興味を示した数少ない人間の一人であった。そして彼らの知見を、自分が書いたベトナム戦争の原因についての著作や、第2次世界大戦への参戦におけるフランクリン・ルーズベルトの役割についての本に応用している。

また、私は彼らの理論を自身のヨーロッパの歴史や現状についての分析にも応用している。

正直に言わなければならないが、私は市民連合という保守派団体のために働いていたバノンが私にインタビューを申し込んできた時に、それが何を意味しているのかはよくわからなかった。

それでもストラウスとハウのアイディアや、迫りつつあった「危機」について議論するチャンスはめったにないので、私はこのインタビューを歓迎したことを覚えている。

バノンは知的でカリスマ的な人物であり、私自身と同様に彼も明らかに私へのインタビューを楽しんでいたようだ。完成した映画を見たが、彼は私のインタビューを、自身の極右的な立場に有利になるようなバイアスがかった形ではなく、完全に公平な形で使ってくれた

ストラウスとハウの「危機の理論」の強みは、それが特定のイデオロギーに染まっていないという点にある。私の解釈によれば、それまでの政治・経済・社会の秩序の崩壊は、新たなビジョンを定着させるために、決定的なムーヴメントやリーダーを生み出すチャンスを創出する、ということになる。

最もわかりやすい極端な例を使えば、1933年当時のアメリカとドイツは、両国とも恐るべき経済・政治面での危機に直面していたが、アメリカはフランクリン・ルーズベルトとニューディール政策、ドイツはアドルフ・ヒトラーとナチスにそれぞれ活路を見出したということだ。

バノンと私が会った2009年の頃、私はオバマ大統領と民主党が多数派の連邦議会がリーマンショックによる経済危機を契機としてニューディール政策の価値を復活させるのではないかと期待していた。もちろんバノンは危機がどうなるのかについては私とは別の考え方をもっていたことは明らかだ。

結果的に、オバマ大統領は「新たなニューディール政策」を打ち出すことはできなかった。彼はわれわれのシステムが根本的に間違っているわけではなく、微調整によって修復できるものと考えていたようなのだ。

政権末期になってオバマ大統領はニューヨーカー誌のデイヴィッド・レムニックへのインタビューにおいて、大統領というものは米国社会を造る変えるようなことはできないし、わざわざ造り替える必要もなかったと述べている。

ここに、リンカーンやフランクリン・ルーズベルト、そして今日の共和党との決定的な違いがある。共和党は、私の意見では早ければ2000年の頃から、現在の危機において主導する立場を得て、それ維持している。その理由はまさに共和党こそが革命的な変化を起こすことを目指す党であり、民主党は実質的に「現状維持を目指す党」になっているからだ。

もちろん現在の共和党のスタンスというのは、ニュート・ギングリッジが政治活動を始めた1980年代に遡る(ちなみにギングリッジはジェネレーション・ゼロの中で長いインタビューを使われており、トランプ政権でも高い地位につくと見られている。国務省長官の候補者であったジョン・ボルトンも映画でインタビューされている)。

現在の下院議長であるポール・ライアンは、メディケアと米国年金制度を破棄しようと長年考えていた人物であり、それを実行するチャンスはいまや到来したと言える。

選挙戦を戦ったトランプやバノンたちは、すでに古い政治秩序を破壊することに成功している。

トランプはすでに伝統的な共和党候補者層を一掃し、得票数では負けたにもかかわらず大統領になっている。同時にあらゆる政治階層に対する共和党側からの絶え間ない政治攻勢は、トランプに共和党多数派の下院やわずかなリードにおける上院での多数派を与えている。

そして最高裁判事は、すぐに保守系によって多数派を占められるようになるはずだ。

彼らは何をしてくるのだろうか?彼らのレトリックや人格は、ストラウスとハウの危機の理論から見れば、共和党はそれまでの慣習というものにとらわれずに、現在の時代環境における彼らなりの英雄と悪者という見方を使って活動することが見込まれる。

ドキュメンタリー映画「ジェネレーション・ゼロ」は、リーマンショックによって起こった経済危機の話を巧妙に歪めて描いている。

たとえば映画の中でインタビューされた多くの識者が経済危機をもたらした原因として、人間の深い欲望や、あやしい金融取引などを挙げているが、最終的な非難の矛先はリベラル派や官僚、それにエスタブリッシュメントの政治家たちに向けられている

そして共和党の政治家やコメンテーターたちがまさに過去7年間にわたって行ってきたように、映画でインタビューされている識者たちの多くが(オバマ政権の初期に)オバマ大統領の暗い先行きを描き、経済破綻や社会主義の押し付けなどが起こるとしているのだ。

ところがこれは危機の時期に起こる恐ろしいことの一つにしかすぎないのであり、多くの人が実に様々なことを考えるものだ。

アメリカは8年前と比べて経済的にははるかに改善し、大規模な戦争にも巻き込まれていないにもかかわらず、現在でも恐ろしい危機に直面している。そして共和党とトランプ新大統領は、それらを自らの有利なものとして活用せんとするばかりの勢いだ。

私の個人的な意見では、トランプ、バノン、ギングリッジ、ライアンなどの人物は、これから2年ほどの間にこれまで民主党がつくりあげてきた遺産をすべて否定しようと動き出すだろう。しかもこの遺産には、オバマ政権のものだけでなく、フランクリン・ルーズベルトやリンドン・ジョンソンのものまでも含まれるのだ。

この映画の中には二つの危険な部分がある。第一は、私自身がバノンと最初に出会った時に鮮明になったものだ。

ストラウスとハウの著作をはじめて知った時、私は彼らの理論がアメリカ以外の国でも応用できるか考えはじめたのだが、映画のインタビューの時、私は1790年代のフランスや1917年以降のロシアが恐怖政治につながったことに触れ、バノンはこれを映画の中で採用している。

第二に、その理論は国際的な影響があるという点であり、これはかなり不吉な部分だ。ところが映画ではその部分がカットされていた。

バノンはストラウスとハウの理論が、国内の危機だけでなく国際的な危機の可能性を指摘していることについても長年考えてきたはずであり、これはむしろ明らかだ。当時のインタビューで、彼は以前の三回の危機において大規模な戦争が起こっており、しかもその規模が回を追うごとに規模を拡大させていることについて何度も指摘している。

彼は現在の「危機」において、新たな、しかもさらに大規模な戦争を予期しており、しかもそのような展望に怯えている様子はまったく見せていなかった

私はその点に関して彼と意見が違い、そのことを彼にも明言した。ところが国際紛争の歴史は私の専門であることを知っていたバノンは、何度も私に「短期から中期的には、少なくとも第二次世界大戦規模の紛争が起こると予見できる」と言わせようとしているが、私はそれを拒否した

終末的なレトリックや考えは危機の時期に拡大するものだが、トランプ政権における最大の危険はむしろここにあるのかもしれない。そして意識ある国民は、この部分を今後長い期間にわたって注視していく必要があるだろう。

===

ストラウスとハウの意見には同意するところが多いが、それよりもかなりダークなバノンの解釈には同意しない、ということですね。

私はこれに関してすでに日本の二つのメディアでインタビューを受けておりますが、たしかにバノンの独自解釈というのは後ろ暗い何かを感じますね。トランプ政権で力を持っているだけに不気味です。

余談なのですが、私はこのカイザー教授の書いた論文を翻訳して学会の専門誌に投稿したことがあります。視点がユニークで面白かった気が。



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奥山真司のアメリカ通信LIVE


奥山真司のアメリカ通信LIVE
# by masa_the_man | 2017-02-18 23:28 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部はまた快晴の真冬の寒さです。

さて、昨晩の放送でもとりあげた、トランプ政権の重鎮となりつつあるバノン氏が7年前につくったドキュメンタリー映画をとりあえずここでご紹介しておきます。

気になるその内容なのですが、すでに述べた通り、彼の世界観がいかんなく発揮されておりまして、その構成が拙訳の『4th ターニング』の概念に沿ったものです。

実際は映像と共和党系の識者たちのインタビューで構成された1時間半の映画なのですが、主に戦後のアメリカ史を振り返る内容でして、春である「覚醒」から夏である「高揚」を経て、秋である「分解」、そして2008年の金融危機から始まる冬の「危機」という流れを説明したものです。

本の内容と微妙に違うのは、バノン自身の「ウォール街敵視」の姿勢です。とりわけ中盤から後半にかけて、ウォール街が社会主義を採用しつつも、それ以外のアメリカ人を資本主義で切り捨ててきた、というメッセージが強烈に発せられております。

最後の締めはニュート・ギングリッジ元下院議長なのですが、彼も『4th ターニング』からそっくりそのまま出てきた「歴史は繰り返す」という印象的な言葉で終えております。

字幕はありませんが、英語がわかる方はぜひ。バノン自身の世界観を知る上で大変勉強になります。


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奥山真司のアメリカ通信LIVE


奥山真司のアメリカ通信LIVE
# by masa_the_man | 2017-02-15 09:36 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部はあいかわらず寒くてよく晴れております。

さて、以前ご紹介していただいた最近のドゥーギンの中国についての英文のコメントを要約しました。トランプ政権を受けての分析ですが、この独特の世界観が面白いですね

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ドゥーギンの中国論
by アレクサンドル・ドゥーギン

トランプは「ランドパワーとシーパワーの対立」という古典地政学の基本から離れつつある

この基本は、19世紀に英露間で行われた「グレート・ゲーム」や、20世紀のほぼすべての地政学−−マッキンダーから冷戦、そして純粋た大西洋主義、そして最近までアメリカの政権が追究してきた一極によるグローバル化までの枠組みそのものであった。

これはつまり、中国が地政学的な現状を変えつつある、ということである。1980年代に始まった中国の「ペレストロイカ」は、ブレジンスキーやキッシンジャーを含む三極委員会の北京訪問がきっかけとなった。

彼らの狙いは中国をソ連から永遠に引き離し、グローバルな資本主義体制に引き込み、ユーラシアを包囲し、その沿岸部(リムランド)を閉じ込めてしまうことにあった。

外交評議会や世界政府のプロトタイプとなる三極委員会を形成したブレジンスキーやキッシンジャーのようなグローバリストたちの計画によれば、ソ連の崩壊は間もなく起こるはずであった。

実際のところ、三極委員会のロシア支部となるグビシアーニ教授の主導した「応用システム分析研究所」の狙いはソ連を内側から分裂させることであり、これは三極委員会の中国問題についての文書の中で指摘されている。

チュバイス、ガイダル、ベレゾフスキーなどはすべてこの研究所の出身であり、彼らはその目的の達成に貢献しているのだが、すべては中国から始まっているのだ。

なぜだろうか?その理由は、中国が世界政府の指導下にあるからだ。

天安門でデモ隊に発砲してからのアメリカの反応は厳しいものであったが、その後は何も実行されなかった。中国はグローバル化のシステムに組み込まれる予定だったのであり、これこそが最大の目標だったからだ。

これがキッシンジャーであれば、「個人的な話ではない、これは外交なのだ」と言うところであろう。このようなダブルスタンダードは長年続いており、むしろそれが強制的に従うべき規範になったとも言える。

したがって、中国の「奇跡」は二つのタイプの全体主義の組み合わせだ。政治におけるマルクス主義と、経済における自由主義である。民主化はゼロだが、資本主義は大歓迎ということだ。

中国はこのような有利な立場を活用して大発展した。ところがグローバリストたちは地政学の古典的な教科書に従って厳格に行動しているため、中国はいまだに沿岸部を占めている勢力にしかすぎない

彼らにとっての最大の敵、脅威、そして危険はロシアという「ユーラシアのハートランド」のままなのだ。このような流れがトランプ政権の誕生まで続いてきたのだ。

ところが選挙戦においてトランプは、地政学を実質的に放棄した。もしかすると彼はそもそも地政学を知らないのかもしれないし、知っていたとしてもそれを信じていないのかもしれない。ところが本当に重要なのは、彼がそれを拒否したという点だ。それに尽きる。率直にいえば、これが現在の状況なのだ。

グローバリストの世界政府によって人工的に支えられている中国を解体させるということは、トランプの反グローバリズムから見れば論理的な動きだ。

トランプは物事をシンプルに見ている。莫大な人口を抱える全体主義式の共産主義国が台湾の併合をちらつかせつつ太平洋において挑戦しつつあり、アメリカを安いガラクタにあふれさせ、目につけた高い技術はすぐに盗むのである。しかも彼らは、これを非常にうまく行っているのだ。

中国の挑戦というのは、アメリカにとっては莫大で圧倒的なものであり、その経済成長率はアメリカにつきつけられた大きな課題でもある。このような背景の中で、経済の弱いロシアはアメリカにとって二次的な問題に成り下がっている

もちろんこれは単純な「親ロシア政策」がトランプ政権に採用されるという意味ではない。トランプは愛国者でありリアリストであるため、ことは簡単に行かない。

それでもこれはトランプが中国に対してかなり真剣に対抗していくということを意味する。彼が大統領にある間は、中国問題だけで忙殺されることになるだろう。

われわれは明らかにこのような状況を有利に活用しなければならない。もちろんこれは中国との友好関係をあきらめるべきだということではないし、トランプに擦り寄るべきだという意味でもない。そもそもこのようなことは大国にふさわしい態度ではないからだ。

ところが米中間の紛争というのは、われわれの関するところではないのであり、もしワシントン政府が極東に集中するのであれば、われわれは中東において、そしてさらに重要なことに、ユーラシアの空間で、迅速に任務を終えるチャンスを得ることになるのだ。

もしトランプが地政学を無視するのであれば、このようなメカニズムにそれほど注意を払わないことになる。少なくとも私はこうなればいいと考えている。

何はともあれ、問題は中国だ。私は中国がイデオロギー面で万全だとは思えず、毛沢東がかなり昔に得た「天命」はあきらかに危機に直面していると考えている。見た目の「成功」の影で、中国社会は危機に向かっている

ただしこれも中国自身の問題であり、われわれの関知するところではないのだ。

===

三極委員会をはじめとする世界政府が中国を指揮・指導しているという考え方は、日本でも陰謀論界隈ではかなり一般的な見方ですが、ドゥーギンがあらためてこういう風に見ていることを確認すると感慨深いものがあります。

トランプは反グローバリストなので中国を追い詰める、というのはかなり単純な分析ではありますが、それ以上にここでフォーカスされているのはロシア自身が感じている「恐怖」ですね。

「大国であるから・・・」と述べている箇所がありますが、大国であるがゆえに感じている恐怖というのは世界一位の広さの国土をもつロシアならでは悩みでしょう。
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(フォースターニングの最終稿)

▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略〜
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奥山真司のアメリカ通信LIVE


奥山真司のアメリカ通信LIVE
# by masa_the_man | 2017-02-12 12:20 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は相変わらず朝から快晴です。気温も低めで、とくに風が強いですね。

さて、久々にブログ更新です。ツィッターでも触れましたが、バノンの愛読書がなんと私が次に出す予定の本だとのこと。驚きです。

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スティーヴ・バノンの暗い歴史の理論書への傾倒は懸念すべき事態だ
by リネッテ・ロペス

トランプ大統領のアドバイザーであるスティーヴ・バノンは、今週のタイム誌の表紙を飾っており、その記事の中では『4thターニング』と呼ばれるアメリカの未来を予測した本の中で展開されている理論を深く信じていることが明らかにされている。

この事実は、すべてのアメリカ国民にとって懸念すべきことだ。

なぜならこの本の著者であるウィリアム・ストラウスとニール・ハウは、人間の世代は80年から100年の周期で「サエクラム」と呼ばれる一つのサイクルを構成しているというのだ。

このような考え方が古代ギリシャ時代までさかのぼることができるとしており、ギリシャ人たちは「サエクラム」の終わりが「エクピロシス」という破滅的な出来事によってそれまでの秩序が破壊され、劇的な形で新しい秩序がもたらされると考えていたという。

この激変時代は「第四の節目」(4thターニング)として知られており、バノンはこの二人の著者のようにこの時代に突入していると考えているのだ。

(3月に邦訳が発売される)この本によれば、アメリカが過去2回経験した「4th ターニング」は、南北戦争とその再興、そして世界恐慌から第二次世界大戦までの期間だという。そしてその前は、米国の独立戦争の時代となる。

いずれの「4th ターニング」においてもアメリカ人は新たな未来のために団結して再興することを余儀なくされたのだが、それらはすべて大規模な紛争によって多くの人命が失われた後なのだ。

この「節目」は例外なく「破壊的な出来事」の発生から始まり、その後に退廃の期間が続いてから古い秩序をめぐる決定的なクライマックスが戦争とともに訪れ、最終的に新たな世界秩序によって解決して安定化するというのだ。

そしてバノンが傾倒しているこの部分にこそ、大きな懸念がある。

バノンは新たな秩序の到来のためには「激変」が必要であると考えている。それによってわれわれは紛争のクライマックスを迎えるというのだ。彼はホワイトハウスにおいて、自分が「必然的」であると考える秩序をもたらすために現在の秩序を崩すような政策をトランプにアドバイスしようとしていることを示してきたのである。

彼はカオスを発生させるために、政治・経済面での連携を分断し、伝統的なアメリカの原則から背を向けようとしている。こうすることによって、バノンは「4th ターニング」を招き入れようとしているのだ。

▼バノンにとっての「聖書」

バノン自身はトランプを使って自分自身のアメリカについてのビジョンを実現するという欲望について、あけっぴろげに語っている。

たとえば去年の夏のヴァニティー・フェアー誌のインタビューで、トランプについて「われわれにとってのガサツなツールだが・・・彼がそれを理解しているかどうかはわからない」と語っている。

おそらくトランプは理解していないのだろうが、『4thターニング』という本の視点からトランプの政策を見れば、ことの重大さがわかる

バノンは「4thターニング」を発生させる「きっかけ」はすでに起こっていると考えている。それは2008年の金融危機(リーマン・ショック)である

よって、われわれは退廃期に入っており、ハウとストラウスはこの期間のことを、孤立主義、インフラ建設、連邦政府への権力の集中とその権限の強化、そして経済の再構築の想像が考えられる期間だと考えているのだ。

もちろんこれらがその目的そのものになっているわけではない。バノンは独裁的な政治の開始が東西間での大規模な紛争に備えたものになると考えている。もちろんそこでの「東」は、中東と中国のどちらかを意味することになる。

長年にわたってバノンは、現在マサチューセッツ工科大学(MIT)の歴史学者であるデイヴィッド・カイザーにも同様のことを言わせようとして圧力をかけてきたが、失敗している。

タイム誌によれば、「バノン氏は私に向かって、独立戦争の次はさらに大きな革命となる南北戦争、そしてさらに大きな第二次世界大戦という革命をアメリカは経験しましたよね、と言ってきたわけですが、これと同じことをカメラに向かって言うように促したのです。もちろん私はそう言いませんでしたが」とカイザー教授は証言している。

さらに「ハウ自身も、バノンの過激な未来予測については衝撃を受けておりました」とカイザー教授。

バノンは自身のラジオ番組で、アメリカが世界中でイスラム過激派と「戦争中」であることを繰り返し述べており、「グローバルな生死をかけた戦争」であり、「再び中東での大規模な軍事闘争」に発展する可能性が高いとしている

また、中国との戦争も迫りつつあると言っている。これは彼が主宰していたニュースサイト「ブレイトバート」における中心的なテーマであり、2015年11月には「われわれの運営しているサイトの主なメッセージの一つは、われわれが戦争中であるということだ」と述べている。

▼繰り返される現実

究極的にいえば、過去と未来を同時に書くことの危険性は、著者がその二つをわけたものとして考えられなくなる点にある。過去の歩みやその踏み間違いというのは、容易に繰り返されるように感じるものであり、未来も決まっていると考えがちだ。

ところが実際の歴史はこのようなことを示しているわけではない。すべての時代の大災害は、常に独特な形で発生しているからだ。ストラウスとハウがその著書の中で失敗し、バノンがはまってしまったのは、まさにこの点であった。

ハウとストラウスは「危機」をもたらす出来事が「金融危機の不吉な予兆か、もしくは国政選挙のような通常の形でもたらされる」とも書いている。

これはたしかに合理的だ。南北戦争と再興までの「4thターニング」は、それ以降の世界恐慌から第二次世界大戦までの「4thターニング」とは違う形で発生したからだ。

ところがストラウスとハウは、このような違いというものを次の「4thターニング」の到来において指摘するのを忘れている。彼らは同じ「節目」が存在しないことを指摘できていないのである。

その代わりに彼らは前回の「危機」の予兆となる出来事である世界恐慌という金融危機が今回も起こるはずであり、バノンもこれを信じているのだ。彼が2008年のリーマン・ショックを「危機」の始まりであると信じているのは、まさにこの点にある。

ところがこの二つは比較できるようなものではない。米国内の失業率は前回の危機のような20%のレベルまで上がらず、最悪であった2009年10月でも10%であった。2008年の政府はフーバー大統領が2年間何もせずに状況を悪化させたのとは違い、世界的な金融崩壊を阻止するために素早く動いて対処したのである。

今回の金融危機は、アメリカ全体を苦しめる代わりに、それ以前の40年間に拡大していた経済格差を悪化させた。よって、フランクリン・ルーズベルト大統領が1933年の就任演説で描いた「世界恐慌で失われたアメリカ」という姿は、すべてのアメリカ国民に共感できるものであった。

ところがトランプ大統領が就任演説で描いた「大虐殺されるアメリカ」という暗い世界観は、多くの人々には共有されていなかった

そしてこの認識の隔たりが、まさにアメリカという国の深い分裂状態をあらわしているのだ。

▼調整

よって、「4thターニング」は来るかもしれないが、バノンがその設計図を描いているわけではない。ハウとストラウスによれば、退廃期の最大の特徴は「結束」だからだ。

この結束のおかげで、リーダーたちは危機において「独裁的で厳しく断固とした態度」をとることができるようになるというのだ。ルーズベルトはまさにこのような立場をとることになり、国民を働かせるために政府の全権を握ったのである。

ところがこのような結束は、アメリカでは長年見られていない現象だ。むしろその反対に、現在の米国社会の分裂は今までに見たことのないほどの状態なのだ。

「4thターニング」で活躍するのはベビーブーマーとミレニアル世代たち
である。ブーマーたちは暴挙によってわれわれを紛争に導くイデオローグであり、ミレニアル世代は若き「英雄」という役割を担ってその困難を戦うのである。

危機の「きっかけ」的な出来事が発生すれば、アメリカはストラウスとハウのいうブーマー世代の「老年の守護者」のリーダーの元に団結するという。そしてこのリーダーは、「いかに経済が崩壊しようとも、アメリカン・ドリームが二世代続けて拒否されるような考えに対して激しく抵抗する」ような人物だというのだ。

もしバノンがこの「老年の守護者」のために働いていると考えるのであれば、彼は一つ重要な点を勘違いしている。それはミレニアル世代こそがこの危機からの脱出を主導するという点だ。ところがトランプの考えの中には、若者の必要性は考慮されていない

トランプのメッセージは喪失感のある古い世代に人気があり、そもそもアメリカン・ドリームを追究するチャンスさえ与えられてこなかったと感じている若い世代には響いていない

2016年の大統領選挙において、選挙に行った若者のほとんどはトランプ大統領に投票しておらず、それ以上の数のミレニアル世代は投票さえしていない。この理由の一つは、トランプが若者に対してほとんど何も公約を提供していないからだ。

その証拠に、七月の共和党大会では青年部代表のアレクサンドラ・スミスが、自分の党に対してこのような状態を警告しており、「共和党は長年にわたってミレニアル世代に対して何もアピールしていいません。わが党はあまりにも老人向けであり、自分たちの価値観を次の世代にアピールするための努力が足りないのです」と説いている。

ハウとストラウスによって示された「4th ターニング」には、アメリカ国民がすべからく合意できるような価値観への回帰が必要となるのだが、ミレニアル世代と共和党(というかバノン)との間の距離はあまりにも大きい。

その理由として、ミレニアル世代というのは米国の歴史の中でも最も多様な集団(43%が非白人)であり、そのほとんどがバノンの「人種紛争」というビジョンを共有していないからだ。

「4thターニング」には、米国が国内の分裂と外からの脅威に対して結束するというストーリーが描かれている。著者たちはこれが歴史の自然な流れであり、その発生は不可避であると説明している。

ところがメキシコやカナダに対する脅しや、渡航禁止措置などによってわれわれが目撃しているのは、敵の創出であり、しかもこの敵というのは多くのアメリカ人がそもそも欲していないような存在なのだ。

バノンの「4thターニング」に対する信仰は、われわれを結束させるものではなく、分裂させるものだ。これは危険であり、まだ誰も見たことのない現象となっている。

そして当然だが、次に何がやってくるのかは、まだ誰にもわからないのだ。

===

この記事を書くために記者の方は本を読み込んだらしいですが、やや勘違いしているところがいくつかあります。たとえば原著で「老年の守護者」(Gray Gaurdian)となっているところを、記事では「老年の戦士」(Gray Warrior)と誤って表記していることなどでしょうか。

「バノンが心酔しているって本当なの?」という人は、この動画も参考になります。

バノンはこの中でも4thターニングについて触れており、「アメリカは現在4thターニングを迎えている、われわれブーマたちはミレニアル世代に富という遺産を残せてやれなかった」などと、完全にこの本から影響を受けた発言をしております。

実際にトランプ政権では今一番影響力が大きいという報道が出てきているわけですから、かなり気になりますね。

ちなみに私が監修した訳本の発売は来月になりそうですが、すでにその内容についてはCDの方で徹底的に解説しておりますので、詳しくはそちらを参考にしていただければ幸いです。

■未来予測と戦略CD
~『The 4th Turning(危機の時代)』と『戦略の階層』~
http://www.realist.jp/the4thturning.html


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(車内からの富士山の眺め)

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奥山真司のアメリカ通信LIVE


奥山真司のアメリカ通信LIVE
# by masa_the_man | 2017-02-07 18:08 | Comments(0)
今日の甲州は朝から快晴です。さすがに朝晩の冷え込みは厳しいです。

さて、先週とりあげて好評だった、NYタイムズ紙に掲載された意見記事の要約です。

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デモの規模は本当に重要なのか?
by ジーナップ・トゥフェックチー

全米各地(と世界各国)で先月行われた「女性の権利デモ」(the Women’s March)は、おそらくアメリカ史上最大規模のデモとなったはずだ。350万人が参加したという推測もある。

ということは、もちろん何かしらの意義があったはずであろう。

ところが過去20年間に行われてきたデモ行進を調査した人間として、私はここでみなさんに悪い知らせをお伝えしなければならない。

それは、デジタル時代のデモの規模は、そのムーブメントの強さを測ることができるだけの信頼に足る指標ではなくなっている、ということだ。過去に行われたデモ行進の参加者数との比較は、とりわけ誤解を生みやすい。

いまや「多くの人がひとつの場所に集まった」というだけでは、そのデモの力を示すことにはならない。むしろデモというのは、そのムーブメントの潜在力を象徴しているだけなのだ。

自然界とのたとえから考えてみよう。トムソン・ガゼルは草を食べている時に、目的もなく突然高く飛び跳ねることがあるが、これは捕食者に対して「これだけ高く飛べるのだから速く走れます、だから追いかけても無駄ですよ」と伝えている。

これと同じように、デモの参加者も「われわれはこれだけ集まれるのだから、本気だしたらどうなるかわかってますよね」と発信していることになる。

ところが大規模なデモを開催するのは以前よりもはるかに容易になってきている。たとえば過去には大規模なデモのためには少なくとも数ヶ月の準備期間が必要であった。たとえば1963年の「ワシントン大行進」は、その準備が9ヶ月前となる1962年12月から始めらている。

結果として25万人が集まったが、それ自体は今日の同規模のデモよりもはるかに多くの努力やコミットメント、そして準備を象徴したものであった。

フェイスブックやツィッター、Eメール、携帯電話、そしてクラウドファンディング無しでそのようなデモを組織するということは、まさに公民権運動のようなムーブメントの強さと精緻さを必要としたのである。

最近の大規模なデモが、政策面での実質的な結果につながらず、期待はずれに終わっている理由はまさにここにある。

私は2003年2月に開催された反戦デモにも参加したことがある。このデモは当時において世界中で行われた史上最大規模のデモであるとされ、世界の600以上の都市で行われた。

私は「さすがにアメリカとその同盟国たちは、これほどの規模のデモを無視するわけにはいかないのでは?」と思ったが、ジョージ・W・ブッシュ大統領はデモを「単なるフォーカス・グループによって行われたものでしかない」として退け、実際にわれわれを無視して、そのすぐ後にイラク戦争が始められたのだ。

ブッシュ大統領は、実際は1つの面で正しかったといえる。デモの参加者たちは、ブッシュ大統領を2004年の選挙で敗北させるまでの政治的に力には変えられなかったからだ。

私は2011年の「世界占拠」デモにも参加した。これは80カ国以上の1000都市以上で開催され、これも当時の時点で再び史上最大規模となり、テクノロジーの発展のおかげでもあって、たった数週間で組織されたものだ。

ここでも私は、経済格差に対するこれほどの大規模な抵抗運動のおかげですぐに政治・経済面で変化が起こると楽観視していたのだが、やはり間違っていた。前回と同様に、残念な結果にしかつながらなかったのである。

その後、世界中で似たようなデモが開催されているが、いずれも実質的な成果にはつながっていない

もちろんこれは、デモの重要性が失くなったということを意味するわけではない。デモはいまだに重要だ。

だがわれわれは、その捉え方を変えるできであろう。近年のデモは、組織的な努力の成果として見るのではなく、むしろその運動の、最初の潜在的な第一歩として捉えるべきなのだ。

今日の大規模なデモというのは、1963年の「ワシントン大行進」ではなく、どちらかといえばローザ・パークスがバスで白人に席をゆずるのを拒否したという行動に近い。

つまり以前は「最終地点」だったものが、現在は「最初の火花」になっている、ということだ。

デモの重要性というのは、以前にもまして「その後に起こること」に左右されるようになったのである。

2009年のティーパーティー(茶会党)運動を思い出してほしい。この時も全米の多くの都市に何十万人もの人々が集まり、デジタルコミュニケーションの助けを借りて動員されている。

そして他のデモ(先月の「女性の権利デモ」も含む)と同じように、これらはムーブメントへの支持を象徴的な形で表明したものであり、自分と同じような考えを持つ仲間と知り合うことのできる「イベント」としての機能を持っていたのだ。

ところがティーパーティーのデモ参加者たちは、自分たちの目指す政策を実現させるために猛烈な働きかけをした。それは、自分たちの支持する候補者を見つけて予備選挙に出し、それに抵抗した共和党員に挑戦し、政策のプロセスを見守り、ティーパーティーの方針からはずれる政治家に圧力をかけることなどだ。

先週ノースカロライナ州で開催された「女性の権利デモ」に私自身も参加したが、その参加者の数の多さと行進する人々の情熱の熱さに驚かされた。

ただし、これらのデモの参加者たちが互いの連絡先を交換せず、地元での戦略会合も開かなかったら、その数の多さもティーパーティーの支持者たちが2009年のデモの後に獲得したような影響力を持つことはできないだろう。

当然ながら、ムーブメントを進める上で参考すべきはティーパーティーだけではない。ところが街をデモ行進するだけでは何の結果も生み出すことはできないのである。

私が参加したノースカロライナ州のデモは、「さあ仕事を始めよう」(Let’s Get to Work)という歌をみんなで歌ってお開きとなった。そして今日のデモにとって、この歌の題名ほどよく当てはまるメッセージはないのである。

====

これもテクノロジーの進化のパラドックスですね。

抗議デモのような形のイベントはSNSの発展によって以前よりも簡単に組織できるようになったにもかかわらず、それが実際の政治ムーブメントにつながるかどうかは別問題、ということ。

ワイリーのいうように「ランドパワーが決定権を持つ」というわけではないのでしょうが、やはり最後は地道な政治努力と政策実現のための組織運営というところに行き着くわけです。

さらに言えば、あらゆる政治組織の運営には、やはり「利権」のような構造が必要になってくる、とも言えます。



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(朝の新宿)


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# by masa_the_man | 2017-02-04 18:19 | 日記 | Comments(0)
お知らせです。新刊が発売されます。

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すでに何度もここでお知らせしているのでご存知かもしれませんが、その内容は、クラウゼヴィッツの戦争論がどのように読まれてきたのか、そしてどのように読むべきなのかについて、さまざまな文献を比較検討しながら研究したものです。

もちろん体裁は「入門書」なのですが、どちらかといえば「総論」に近いかもしれません。

「日本語版へのまえがき」として原著者から日本の読者向けに一文いただいているので、今回の発売記念としてここで特別に公開しておきます。

〜〜〜

本書は、クラウゼヴィッツが生きている間に自ら経験した戦争(フランス革命戦争とナポレオン戦争)から得た教訓についての研究書であるが、ここで明らかになったのは、彼の考えが二つの段階を経ているということだ。

一つ目は、これらの戦争が戦いの形を永久に変えてしまい、将来のすべての戦争はこのパターンを追従することになる、と考えたということだ。

ところが後に、彼はこの間違いに気づき、非常に限定的なものから全面戦争、つまり非常に抑制的なものから無制限な暴力、あるいは小さな狙いから無制限な狙いまで、戦いの種類には移り変わるスケールの上のもののように、実にさまざまなタイプのものがあると考えるようになった

彼の考えをまとめたものが『戦争論』だが、この著作は彼が死んだ時にはまだ修正中であり、結果としてこの本は矛盾だらけの内容となってしまったのである。

ところがこのような欠点に気づかず、クラウゼヴィッツのいくつかの偉大なひらめきに圧倒された多くの読者たちは、『戦争論』に書かれている内容を無批判に受け取ってしまった。彼らはまだ議論しつくされていない文章を部分的に取り出したことに気づかずに、自分たちに都合の良い教訓を引き出したのだ。

端的にいえば、彼らが得た教訓は間違っていたのであり、その間違いが致命的であったともいえる。そしてこのような間違いは、互いに利益となる「安定的な講和の追究」というクラウゼヴィッツ自身も見逃していた考えを、「すべての戦争は軍事的勝利の追究、つまり我が意志を敵に屈服せしめるもの」という考えへと変化させてしまった。

したがって、クラウゼヴィッツを読んだ多くの人々に見られる第一の特徴は、彼の本に示された教訓を無視したということではなく、むしろ誤った教訓を得たということになる。

第二の特徴は、彼らの全員(われわれも含めて)がその本(というよりもすべての本)を、自分たちの文化のレンズを通して読んだということだ。

彼らは『戦争論』の中に自分たちの好みのフレーズやアイディアを見つけたのだが、これは彼らが生きていた時代やその雰囲気、それにその当時に置かれていた環境によって影響を受けていたということだ。

彼らは、クラウゼヴィッツがそれを書いていた時代の言葉の意味ではなく、その後に含まれるようになった意味を受け取るようになり、本来の微妙な表現や、その矛盾や限定的な議論を無視したのである。

したがって、クラウゼヴィッツの解釈の歴史は、政治思想や政治文化の発展の歴史が凝縮されたものであり、そのテーマが戦争に関わるものであった。

 結果として、本書はクラウゼヴィッツの著作が、人々が自らの価値観や政治・イデオロギー的な見解から論じたい議論を擁護するために、異なるイデオロギーを通じて、いかに多様かつ選択的な読まれ方をされてきたのかを論証したものだ。

〜〜〜

クラウゼヴィッツも人の子です。彼はたしかに偉大な「戦争の哲学書」を書いたわけですが、だからといってそこに書いてあるものが完全に正しいわけではないのですが、未完の本であったために誤解され、誤用され、利用されてきたことはもっと認識されてもいいですよね。

ところが一番の問題なのは、それがどれほど未完であったかという認識のないままに、いまでもそれを「まったく問題ないもの」としてシレっと引用しているというその態度なのかと思います。

この本には、このような問いに対する答えがいくつか書いてあります。ぜひご参考にしてみてください。



もちろん、CDでもこの本からの知見が十分に盛り込んであり、きっちり解説していますので、ぜひご参照のほどをよろしくお願いします。

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(横須賀中央)


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# by masa_the_man | 2017-02-01 00:00 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はまたしてもよく晴れましたが、風が出て昨日に比べてかなり冷えました。

さて、お約束していたロシアの地政学についての興味深い論文の要約です。

記事そのものは去年の夏のフォーリン・ポリシー誌に掲載されたものですが、それ自体も一冊の本の中のハイライトみたいですね。

===

ロシアの「明白な天命」の意外な起源
BY チャールズ・クローバー

メガネをかけてやや冷淡に見えるエドワード朝時代の学者ハルフォード・マッキンダー卿が、自らの研究が冷戦後のロシアで使われていることを知ったら極めて不快であろう。

マッキンダーは1904年に王立地理協会で発表した「歴史の地理的回転軸」というタイトルの講義を行ったことで最も知られている人物であるが、ここで彼は、ドイツではなくロシアが英国にとっての最大の敵であると論じたのだ。

これによって彼は「地政学」として知られるようになった華やかな理論を提唱したのであるが、そこで予測されたのは、それがドイツと二度の世界大戦を戦う前に発表されたという事情のおかげで、彼自身の理論にとってかなり不利に働いたと言える。

ところが冷戦が始まった自身の晩年になると、それまで説いていたことが現実化したために名誉を回復することになった。世界が1904年の講義の中で見通した通りの構図になってきたからである。

その構図とは、海軍で世界の海を支配していた「イギリスとアメリカ」が、広大な草原と厳しい冬のおかげでナポレオンとヒトラーを敗北に追い込んだ難攻不落で陸の要塞であるユーラシアの「ハートランド」を含んだ、世界の最も支配的なランドパワー国家である「ソ連」に対抗する、というものだ。

テクノロジーの進化と人類の啓蒙が数世紀にわたって進んでいるにもかかわらず、マッキンダーは「地理は世界秩序における根本的な構成要素のままだ」と考えており、これはシーパワーであるアテナイと、ギリシャ最大の陸軍を誇っていたスパルタが、ペロポネソス戦争において対立していた状況から変わっていないというのだ。

これ以降、地政学の研究者たちはほとんどの軍事紛争では、常に強力な海軍と強力な陸軍を含むものであったとしている。いいかえれば、シーパワーとランドパワーは衝突する運命にある、ということだ。ユーラシア大陸内部のロシア帝国の領土にある世界最大のランドパワー国家は、世界最大のシーパワー国家――この責務はその後すぐにイギリスからアメリカに引き渡された――と永遠に争い続けるというのだ。

1919年になってもマッキンダーは「ロシアが英国の最大の敵である」という考えにこだわっていた。彼は「ロシアとドイツの間に完全な領土的緩衝地帯」をつくることを提唱し、この考えを彼の最も有名な言葉である「東欧を支配するものはハートランドを制し、ハートランドを支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制する」として正当化したのである。

この言葉がハートランドの内部で注目されるまでには50年かかったが、いざ注目され始めると、マッキンダーは「無名の人」から突然「預言者」としての称号を(誤った理由から)得るまでになった。

ロシアが征服・支配する潜在的な可能性についてのマッキンダーの警告は、戦間期の欧州のエリートたちにそのような事態に陥ることを阻止するために発せられたものであった。つまりそれは、ロシア版の新たな「明白な天命」を示す「稲光」となったのだ。

2008年のグルジアへの侵攻、2014年のウクライナへの侵攻、そして最近のシリアでの作戦、さらにはユーラシアのハートランドにある「ユーラシア連合」と呼ばれる元ソ連邦の地域を影響圏に組み込もうとする動きなどは、地政学理論の中で奇妙なほど予言されていた。

マッキンダーは、経済ではなく地理のほうが世界権力の根本的な決定要因であり、ロシアは単純にその物理的な位置関係によるおかげで、グローバルな役割を担う国家の1つとなっていると考えていた。

そしてプーチン大統領の下で、一風変わったマッキンダーの理論がロシアのエスタブリッシュメントに浸透してきたのだが、これは主にアレクサンドル・ドゥーギン(Alexander Dugin)という1980年代のペレストロイカ時代にロシアの主要なナショナリストの一人として台頭してきた人物の功績である。

ドゥーギン氏のロシアのエリートたちとの奇妙なコネクションのおかげで、地政学は現在ロシアで「主流派」的な考えになっている

マッキンダーの主張は、「西洋諸国との紛争はロシアにとっての永続的なものだ」と主張するドゥーギンをはじめとするタカ派たちにとって、有益なものであった。ただし彼らは、それがなぜ永続的なものなのかについてうまく説明できていない

冷戦の最大の原因は、普遍的な寛容、民主制度、そして「歴史の終わり」という新たな時代に入り、イデオロギー面での戦いであり、これが終了したことによって冷戦が消滅したように思える。

マッキンダーの「預言者」という立場への変化はドゥーギンが1997年に発表した『地政学の基礎』(The Foundations of Geopolitics)という本によるところが大きい。この本は、ソ連後の時代にロシアで書かれた本の中で最も奇妙かつ印象的で恐ろしい本であり、ロシアのタカ派の人々に広く参照された本となったのである。

この本はドゥーギンが「新右派」の識者たちとの交流や、ロシア軍参謀本部軍事アカデミーにおける隔週ごとの講義、そしてその後にロシア国防大臣を1996年から97年まで務めたイゴール・ロジノフ(Igor Rodionov)将軍という、まさに「タカ派中のタカ派」の人物の援助の下で生まれたものだ。

ドゥーギン自身によれば、彼が士官学校の新入生が必ず受ける入門コースの講義で使った資料は、将軍たちの新たな指摘による修正や、パリやミラノからやってきた右派系のゲストスピーカーたちによる講義での知見も加えて、1993年までにはまとまってきたものだ。

したがってドゥーギンは、ニッコロ・マキャベリのような形で、征服と政治支配のためのハウツー本を意識的に書いたのだ。『君主論』(これはマキャベリ自身が権力を失って十年間職にありつけなかった後の、実質的にフローレンスの当主であったメディチ公に向けた就職申込書として書かれた)と同じように、ドゥーギンは1993年以降に無職なってからロシアの国家安全保障エリートたちを称える本として書いたのである。

1991年までにドゥーギンはソ連のタカ派の最大の宣伝者となっており、ソ連軍の資金援助を受けた新聞のために、陰謀論とナショナリスト的な扇動を混ぜ合わせた意見を書いていた。ところがKGBと同年8月のソ連赤軍によるクーデターの失敗によって、ドゥーギンは国内で無職のまま過ごすことになった。

ロシア内でも有名な知識人エドゥワルド・リモノフ(Eduard Limonov)と共に彼は「国家ボリシェヴィキ党」(NBP)というケンカ腰の党を創設して政治活動(自分では政治芸術プロジェクトと呼んでいた)を始め、タカ派との関係やロジノフのような人々との人脈のおかげで、ドゥーギンは奇妙なことにロシア連邦軍参謀本部軍事アカデミーでの非常勤講師としての職を得た。

軍事アカデミーとの関係を使いながら、ドゥーギンはモスクワのフルンゼンスカヤ通りの薄汚れた地下室にあるNBPの党本部の事務所で、ロシアのタカ派に大きな影響を与える本を仕上げた。

ドゥーギンのおかげで、マッキンダーは「オックスフォード大学で終身在職権を得ることもできなかったエドワード朝の珍奇な人物」から、国のトップに英国式の戦略的方向性についてのアドバイスを与えた人物となり、しかも次世代の官僚たちにもそのアイディアが戦略的要件を与え続けている、まるでリシュリュー枢機卿の英国版のような存在になった。

ドゥーギンによれば、マッキンダーと正反対の立場をとる他の地政学者が存在したという。それらのほとんどはドイツ人であり、彼らはマッキンダーとまったく同じロジックを使いながら、グローバルなシーパワーではなく大陸のランドパワーの防衛のために論じていた

19世紀後半のドイツの地理学者であるフリードリヒ・ラッツェル(Friedrich Ratzel)は、レーベンスラウム、つまり「生存圏」という言葉を概念として提唱したわけだが、これは後にドイツ第三帝国に国家的責務として目指すべきものとされたのである。

この次の世代の地政学的著作の数々が、その後に地政学をナチスと関連づけて考える風潮を作り上げたと言える。その代表がマッキンダーと同世代となるカール・ハウスホーファー(Karl Haushofer)であり、ドイツ陸軍の将軍から戦略理論家となった人物だ。彼は独ソ日による三国同盟を強く提唱した人物であった。

主流派の政治学者たちは、地政学の分野に関してやや疑念を持った目で見ていた。彼らの地政学専門家に対する目は、経済学の主流派の学者たちが、いずれは経済システムが古い貨幣で永続的な価値を持つ金に戻るのは避けられないと信じる「金本位制支持者」(gold bugs)を見るような目とほとんど同じであった。

同様に、地政学者というのはその専門家集団の中でも奇妙な下位集団とみなされながらも、国際政治における手段、つまり領土をめぐる戦略的紛争というのは、いかに高尚な原則や進歩があろうとも常に使われることになると考えていた。そして彼らの考えは時として、その正しさを証明してきたのだ。

ドゥーギンの『地政学の基礎』は第四版まで売り切っており、軍事アカデミーやその他のロシア内の軍事大学において教科書として採用され続けている。フーバー研究所のロシア右派の専門家である歴史家のジョン・ダンロップ(John Dunlop)は「冷戦後のロシアに出版された書物の中で、軍、警察、そして国家主義的対外政策のエリートたち間でこれほど影響力を持ったものはおそらくないだろう」と述べている。

1996年にはエリティンの政策における西欧化のシンボルとされていたアンドレイ・コジレフ(Andrey Kozyrev)が失脚し、同年に軍事アカデミーでドゥーギンの後援者であったロジオノフ将軍は、91年8月のクーデター失敗の時にエリティン側についた空軍トップのパヴェル・グラチェフの代わりに国防大臣に任命された。

さらにロシア議会はソ連邦の解体を公式に認めた91年「ベロヴェーシ合意」を無効宣言し、同時に91年に行われた国民投票によって70%のロシアの有権者が支持したソ連邦の維持を法的に拘束性のあるものとして認めたのである。

もちろんこれらは単なる見せかけだけのパフォーマンスだったわけだが、それでもソ連邦崩壊のたった5年後にロシアのエリートの大多数が帝国の復活を支持したのは、もしその議会の圧倒的な票数が指標になるとすれば、きわめて象徴的な出来事であった。

ドゥーギンの本は、ロシアのエリートたちが大変化を経験している真っ最中に出版されたわけだが、それでも1998年8月にルーブルが崩壊した時まで、ロシアのリベラリズムはなんとか持ちこたえていた。後にドゥーギンの本はモスクワの主要書店のレジの横に並べられるなど、きわめて特殊な扱いを受けている。

ドゥーギンの主な議論はハウスホーファーの本の中に直接見ることができる。それはアメリカとNATOによって主導され、新たに独立した国家群の地理的な「輪」によってロシア封じ込めを狙う「大西洋主義」(Atlanticism)の陰謀を阻止する、というのだ。

ドゥーギンの狙いはシンプルであり、まずソ連を復活させて、それから巧妙な同盟外交を使って日本、イラン、そしてドイツとのパートナーシップの構築に集中し、アメリカと「大西洋主義」の手先たちが行おうとしているロシア封じ込めを排除するというのだ。

その「ユーラシア」を構築するために重要になってくるのが、狭いナショナリズム的な政策の追究をやめることにあるという。なぜならそれは潜在的に同盟を組む相手を排除してしまうことにもなりかねないからだ。

それを論証するために、ドゥーギンは新右派の理論家であるジャン=フランソワ・シリア(Jean-François Thiriart)が述べた「ヒトラーの最大の間違いはヨーロッパをドイツにしようとした点にある。その代わりにヨーロッパのものにすべきであったのだ」という言葉を引用している。

そのため、ロシアは「ロシア帝国」ではなく、「ユーラシア帝国」をつくるべきだということになる。ドゥーギンは「ユーラシア帝国は共通の敵の存在を土台として構築されるだろう。それは大西洋主義の拒否であり、アメリカの戦略的コントロール、そしてリベラルな価値観がわれわれを支配するのを拒否する、というものだ」と書いている。

忘れられているが、本が出版された1997年の時点ではこのようなアイディアは完全に狂っていると思われていた。当時のロシアのGDPはオランダよりも低く、過去には圧倒的だった赤軍も寄せ集めにすぎないチェチェンの反乱軍に戦場で勝てずに屈辱的な講和を結ばざるを得なかったほどだ。

この当時は、ロシアをドイツのワイマール時代になぞらえるような分析が多くあり、ドゥーギンの本は、まさに戦間期のドイツを崩壊させて過激化へと駆り立てたのと同じ暗いエネルギーがロシアにも存在して台頭していたという証拠になっていた。

この本で論じられていたのは、ロシアが受けている屈辱は外国からの陰謀の成果だ、というものであった。本の表紙には、オカルト好きの人々の間では「カオスの星」として知られるスワスチカに似たシンボル(矢印が八方向に放射している)が燃えている様子が描かれており、本の中でも何人かのナチスや極右の人間が好意的に取り上げられている。

ドイツ第三帝国との共通項はすでに多く見られるが、極めつけは地政学的「枢軸国」の構築を主張している点であり、これにはドイツと日本も含まれているのだ。

ドゥーギンの本には「特権の壁で守られてきたエリートや世界の政権の中で、公にすることを嫌いながら何世紀にも渡って実践されてきた、陰謀的なルールである権力政治が影で実践されている」という前提があった。

このアイディアは、陰謀論好きな大衆に大受けする「秘密の知恵の奥義」が散りばめられており、ルーン文字の刻印や、あらゆる形の矢印が刻まれた謎めいた地図、そして世界外交におけるいままで聞いたことのない奇妙で微妙な鉄則などにあふれていた。

ところがその本には、読者の誰もがすぐに興味を持つような素晴らしい結論の論拠となる事実が記載されていたのであり、これはまるで「コックリさん」で遊んでいる人全員が、すでに知っていたことをあらためて占い板の上で示された時に驚いてしまうようなものだ。

地政学がそこまでわかりにくい最大の理由は、それを実践する人々が狂っていて、極めて難解であり、しかもニュルンベルク裁判で処罰されたからではない。むしろそれが権力そのものを、うまく隠すものであったからだ。

もしくはドゥーギンが言うように、「地政学は国際政治の根本的なメカニズムを見せつけてしまったからだ。このようなことは、世界のあらゆる国々のトップが曖昧な言葉や抽象的なイデオロギー的スキームで隠しておきたいと思うもの」なのだ。

『地政学の基礎』はそれ以前のドゥーギンの著書と比べるとはるかに落ち着いた内容であり、その議論の展開もうまく、オカルト、数占い、伝統主義、そしてそのほかの奇妙な形而上学への言及も少なかった。実際のところ、まだ彼が教えている軍事アカデミーの高官たちから、その本を書く上で多大なる支援を受けたことも考えられる。

ドゥーギン自身は自分のロシア軍とのコネを隠そうとはしていない。冒頭のページから軍事アカデミーで協力しているニコライ・クロトコフ将軍のことを共同執筆者(本人は否定しているが)であり、最も影響を与えた人物であると述べている。

ところが軍との関係はドゥーギンの著作に一定の権威や、表向きかもしれないが公的な権限のような感覚を醸し出しており、さらには彼自身が本の中で述べているようなロシア右派の陰謀の影にいるとされる本当の人物であるかのような印象を与えているのだ。そしてこれが完全に誤りであるとは、否定できないのである。

ドゥーギンは明らかに権力を欲しているようであり、その座にいる人間に対して最大限のアピールをしている。彼によれば、地理と権力の要件を理解できる人間にのみ国家の舵取りができるという。

さらにドゥーギンは「人間が地理に依存している事実は、権力の頂点に近づくにつれて明らかになるばかりだ。地政学とは権力を求めるための、権力の世界観であり科学なのだ」と記している。

もちろんドゥーギンの中ではソ連を再興しなければならなかったし、ジョージア(グルジア)は分割し、ウクライナは併合されるべきであったことは言うまでもない。その証拠に「独立国としてのウクライナは一定の領土的野心を持っているため、ユーラシア全体にとって大きな脅威となっている」というのだ。

ところがアゼルバイジャンは、「モスクワ・テヘラン枢軸」のためにイランに受け渡してもよいとしている。フィンランドはロシアのムルマンスク省に加えてもいいし、セルビア、ルーマニア、ブルガリア、そしてギリシャは聖教の「第三のローマ」や「南ロシア」として加えてもいいという。

ドゥーギンの文章は、学識を感じさせる徹底的なものなのだが、この本の中でやや変わった議論として展開されているのは、ロシアがなぜ帝国を必要としているのかの理由を説明した箇所だ。

アレクサンドル・ヘルゼン(Alexander Herzen)からアンドレイ・サホロフ(Andrey Sakharov)に至るまで、ロシアの識者たちは帝国がロシアの永続的な後退性の主な原因であると主張してきた。現在のロシアの機能不全や、そのグローバルなステージでの野望と釣り合わないステータスと影響力の欠如は、その国土の広さに原因にあると述べる人もわずかにはいる。結局のところ、ソ連時代の14の領域を失った後でもロシアはまだ地理的に世界最大の領土を抱えているのだ。

さらに、ロシアの陸上文明は、単にシーパワー国に対する戦略的な敵であっただけでなく、文化的にも文明的にも特殊なものであり、重商主義的・民主的な大西洋世界とは違ってそもそも階層的で独裁的なものだった。ドゥーギンは帝国こそが、ロシアの価値体系とは正反対のリベラリズムの侵攻を止める唯一の手段であると説いたのである。

『地政学の基礎』の影響は、その売上数からみれば驚くべきものであった。ところがさらに驚くべきなのは、それが作家の本当の指標となる、剽窃された数の多さであった。

ドゥーギン自身も自分のアイディアが「ウィルス」のように広がっていることを知っていた。この本は同じようなマニュアルや教科書に再録されており、それらのほとんどはマッキンダーやハウスホーファーをはじめとする理論に触れていた。

ロシアの書店には「地政学」のコーナーがつくられはじめ、ロシア連邦議会は「地政学委員会」をつくり、そこに極右のウラジーミル・ジリノフスキー(Vladimir Zhirinovsky)率いる「自由民主党」の代議士たちがあふれることになった。

影響力の大きなオリガルヒで、影のキングメーカーと言われたボリス・ベレゾフスキー(Boris Berezovsky)は、1998年にテレビの「今日の英雄」という番組に出演した時に、最後に「一言だけ言わせて欲しい。それはロシアの運命は地政学にあるということだ」と述べている。

ドゥーギンは地政学を「オープンソースのPCのソフトウェア」のようなものだと指摘している。彼がプログラムを書いて、それをみんながコピーしたからだ。

===

ドゥーギンについては『胎動する地政学』の最後の論文であるジョン・エリクソンのもので知っていた部分はあるわけですが、まさかロシア内でここまでベストセラーになって浸透しているとは思いませんでした。

ここで注意しなければならないのは、純粋なロシア人のナショナリズムと、ドゥーギンの標榜する「ユーラシア主義」というものを区別して考える必要があるということでしょうか。

そういう観点から、たしかにドゥーギンはロシアの右派という位置づけになるのかもしれませんが、権力に近い、いわゆる「官製ナショナリスト」であるとあるロシア専門家がおっしゃっておりました。

この論文ではそこまで明確に区別されているわけではないですが、これは非常に重要な点かと。つまりドゥーギンはナショナリストではなく、むしろ「帝国主義者」ということになるわけですね。

それにしても「ユーラシア主義」の究極の目標として、ドイツと日本との同盟が考えられているとは・・・。中国に対する言及がないのも気がかりです。


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奥山真司のアメリカ通信LIVE

奥山真司のアメリカ通信LIVE
# by masa_the_man | 2017-01-31 20:38 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はまたしても朝から快晴です。寒さもだいぶピークになってきました。

さて、ロバート・カプランがまた地政学系の新刊を出版したようですが、それに関連したような記事を連発しております。

ドラマの番宣のためにバラエティーに出まくっている主演俳優みたいな位置づけでしょうか?いや違うか。

===

アメリカは海洋国家だ
By ロバート・カプラン

アメリカは2つの海洋に挟まれた海洋国家である。海軍が世界最大であるだけでなく、その沿岸警備隊も世界で12番目の規模を誇る海軍であると言える。

米海軍はアメリカの第一級の戦略ツールであり、おそらく使われることのない核兵力よりも、ツールとしての有用性ははるかに高い

米海軍は平時・戦時にかかわらず世界の公海におり、海上交通路や主な海洋のチョークポイントを守っている。これによって実質的に世界の自由貿易体制を守っており、アメリカの同盟国たちに原油などのアクセスを保証している

さらに米海軍は、内陸部への攻撃能力も担保している。すなわち、イラク、アフガニスタン、そしてコソボなどへの爆撃は、インド洋やアドリア海における艦船からも行われたということだ。

歴史的にみれば、アメリカのこのような立場は特殊なものだったわけでなく、アテナイ、ヴェニス、そして大英帝国などはすべて偉大な世界的海洋国家であった。これにオランダやポルトガルを加えてもいい。

海洋国家というのは、もちろん例外はあるが、一般的にドイツやロシアのようなランドパワー国家と比べて穏健的であったということは言える。地上部隊は侵攻のために使われるものだが、艦船は親善寄港したり貿易を促進したりするものだからだ。

また海軍は、陸軍のように外国の領土を占領しない。陸軍は予測不能の事態に備えることが求められるが、海軍(と空軍)は日毎に戦力投射を行っているのだ。

アメリカはベトナムやイラクで不必要な戦争を行ってしまったのかもしれないが、アメリカのパワーそのものは減少しておらず、この主な理由は海軍と空軍の規模の大きさのおかげである。他にも、米海軍はアメリカに、地域の紛争に関与させつつもトラブルの外に置くことができているのだ。

もしアメリカが海洋国家であることを認めることができれば、われわれは対外政策においても失策を少なくできるだろう。なぜなら海軍力は商業や自由貿易秩序の保護に主眼を置いたものであり、帝国主義的な獲得や国益を目指すものではないからだ。

だからこそ海軍というのは、あらゆる時にどこへでも展開できるのであり、それに対して海外に大規模な陸上部隊を展開するということは連邦議会での議論が必要となってくることが多い

米海軍はおよそ300隻の艦船を持っているが、この事実は重い。なぜならもしその数が200であったら世界はかなり異なる状態にあるはずだからだ。現状よりも暴力はもっと発生していて、無政府状態的なものであるはずだからだ。

東アジアの平和は、実質的にアメリカの第7艦隊が守っており、第5艦隊は、イランと湾岸諸国(サウジアラビアを含む)との戦争を防ぐ役割を果たしている

この300隻体制の米海軍は、その他の軍種と合わさることによって世界のどの国よりも強いパワーをアメリカに与えているのである。

ところがここで覚えておいておかなければならないのは、この「強力なパワー」も「圧倒的なパワー」というわけではないということだ。世界のほとんどの紛争や政情不安のほとんどは、この二つの概念の間で起こっているからだ。

たとえ600隻の海軍、さらには現有のものよりも遥かに大きい規模の海軍を持っていたとしても、中東にある国家の崩壊を防ぐことはできないかもしれないからだ。

言い換えれば、アメリカは自国の国益を守りつつ、自分ではコントロールできない世界をやり過ごすために備えなければならないのである。

これについてもう少し詳しく説明してみよう。

アメリカの世界への影響力は徐々に下がっていくだろうが、他の大国が同じようにする能力も時の経過とともに下がっていくはずだ。なぜなら中国、ロシア、そしてヨーロッパ内の経済状況は、アメリカそのものの経済問題よりも深刻だからである。したがって、われわれのパワーは世界で絶対的な量としては下がるのだが、相対的に他の主要国や同盟よりも高まるはずなのだ。

これらを踏まえて考えると、米海軍はアメリカの国家の「体力」を図るバロメーターとなる。艦船のような「海洋プラットフォーム」というのは恐ろしく高価なものであり、米海軍の規模の艦隊を維持する能力は、税金という形での国民からの支援や、GDPにおける健全な増加が必要になるからだ。

大規模な海軍は、その国がどのような国かを写す鏡である。中国、ロシア、そしてヨーロッパの経済面での構造的弱さを考慮に入れてみれば、彼らが長期的にも米海軍に追従できるかどうかは疑問なのだ。

最大の疑問は、短期的な脅威となっているロシアではなく、長期的な脅威である中国のほうだ。彼らは本当に経済改革を行うことができるだろうか?これについて私も答えようがない。

よって、米海軍の規模に注目しよう。それがアメリカの地政学的パワーの1つの指標であるのは確実だからだ。

===

あらためて「現代はまだシーパワーの時代の時代であり、それを主導するのはアメリカだ」という地政学的な主張ですね。

カプランは私が翻訳した『インド洋圏』から地政学の理論書を相当読み込み始めたようで、それまでの現地からのリポート記事を少なくする代わりに、それまでの体験を理論的にまとめて述べていたのが地政学関連の書籍だったことに気づき、そこから地政学にはまったそうです。

今回の新刊はどちらかといえば以前所属していたストラトフォーの人々、とりわけゼイハンをはじめとする人々の議論を援用したように見受けられますが、あらためてアメリカはシーパワーであることを確認しているという点では貴重です。


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(南の島)

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# by masa_the_man | 2017-01-26 17:24 | 日記 | Comments(2)