2022年の振り返り |
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2022年 12月 31日
今日の横浜北部は関東の年末年始らしくよく晴れております。 本年は色々と忙しくてブログのほうが完全におろそかになってしまったのですが、年末にあたって今年の様々な状況から感じたことをいくつか簡単に記しておきたいと思います。 とにかく2022年は2月24日から始まったウクライナ戦争が大きかったですね。これによって個人的には対テロ戦争の開始から感じていた国際政治の戦略面における「これじゃない感」が一気に払拭され、いよいよ本格的な大国間紛争時代への突入が開始されたという点で、実に感慨深いものがありました。 そのほかにも7月の安倍元首相の暗殺など、実にショッキングが事件もたくさん起こってしまったわけですが、以下で三点だけ私が感じている、国際政治の戦略的な面における3つ課題というかトレンドのようなものを示しておきたいと思います。 第一に、世界の主要国はますます「戦時国家体制」に向かいつつあるという傾向です。 これは2020年に始まった新型コロナの世界的な大流行のときからすでに強まっていたということなのですが、減税や規制緩和を進めていたはずの共和党のトランプ政権時に実行されたワクチンの緊急開発を担った「ワープスピード作戦」によって、アメリカ政府も(911のときのように)やる気を出せば「国家総動員体制」をつくることができることを示したという意味で印象的でした。 そしてそのあとを継いだ民主党のバイデン政権も、ウクライナへの支援を強力に打ち出しているだけでなく、中国に対して矢継ぎ早に先端技術関連の輸出規制を行う法案を次々と通過させるなど、国家の役割を全面的に打ち出す、まるで統制経済のような国家運営を標榜しております。 日本でも「経済安保」という概念がここ二年ほどでだいぶ浸透してきましたが、これらも程度の差はあれ、安保環境が厳しくなった国際環境に対する戦時国家体制の強まりを国際的にもますます進めてしまうと見ております。 端的にいえば「小さな政府」の時代は終わって「大きな政府」の時代が再来したということです。ハンチントン的にいえば、「ローポリティクス」ではなく「ハイポリティクス」の時代ということでしょうか。 第二に、中国の動向です。 これは当然ながら、ブランズらの『デンジャー・ゾーン』を翻訳していた人間としてはどうしても気にせざるをえないテーマです。 台湾有事の可能性については個人的には少ないとは見ているのですが、問題は尖閣や南シナ海周辺、とりわけフィリピンような場所で、中国が引き続きいわゆる「プロービング」のような小規模な既成事実化を行っていることが紛争に結びつくのという点が最も気になります。 また、予想以上の中国経済の落ち込みによって日本だけではなく世界経済が落ち込み、われわれの生活の質に直結してくる事態については、引き続き警戒と準備が必要であるとあらためて感じます。 第三に、「戦う人間の価値観」とでもいうべきものが、社会的に大きく問われてくるという点でしょうか。 この年末に岸田政権が「戦略三文書」を改定したことは世界的にも大きく注目されまして、その中身については専門家筋では評価する声が多かったように思えるのですが、個人的には一番気になったのは国防を担う人材の「人的基盤の強化」という点の中でも、とりわけ国のために戦うという意志を持った人間をどう育てるのかという、なかなか正面切って論じにくい課題に対する向き合い方です。 これは戦略研究の世界では「戦士」(warrior)に関するテーマとして定期的に論じられている問題なのですが、日本では先の大戦から「戦う(戦った)人間も被害者・犠牲者である」という視点が強く、「戦うことの尊厳」や「兵士の勇敢さ」を論じることが(漫画やフィクションなどをのぞけば)社会的にタブーになっているようなところがあります。 ところが東アジアの厳しい安全保障関係を考えると、この問題については目をそむけずにはいられなくなるのではないかと危惧しております。 最悪なのは、このようなことを論じないまま紛争が起こってしまって右往左往する、ということなのでしょうが「日本が侵略されたら戦わない」という答えが7割を越えることを考えると、この問題に関しては決して楽観視できないと感じます。 ※※※ ということで、2022年も大変お世話になりました。 来る2023年も新年早々から発売される訳本である『デンジャー・ゾーン』をはじめ、数冊の訳書や、久しぶりの書き下ろしの本、そして各種論文の執筆などでがんばるつもりです。引き続きよろしくお願いします。 (船越) ▼あらゆる戦略の二つのアプローチのエッセンスがここに! 「累積・順次戦略:戦争と人生:2つの必勝アプローチ」音声講座 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-12-31 12:25
| 日記
2022年 02月 27日
今日の横浜駅付近はよく晴れて気温は低めでしたが、風が強めなのが気になりました。 さて、ウクライナ危機がいよいよロシアによる全面侵攻となりましたが、私が翻訳した『戦争の未来』の著者で、イギリスの戦争学の権威であるフリードマン教授が、今回の侵攻がはじまって翌日に以下のブログの記事を書いておりました。実に参考になりますので試訳を。 ==== by ローレンス・フリードマン ウクライナのニュースを見ていると、何が起きているのか、どこに向かっているのか、よくわからない。情報には事欠かないが、その多くはソーシャルメディアのアカウントからで、そのすべてが信用できるわけではないし、またその性質から全体像を把握することはできない。デジタル時代といえども「戦争の霧」が晴れることはない。 しかし、いくつかの予備的な結論を出すには十分な情報がある。 ロシア軍は優勢であったにもかかわらず、戦術的な奇襲と圧倒的な数の可能性という利点があった開戦初日には、予想されたほどの進展はなかった。最初の攻撃は広く期待されていたようなエネルギーと推進力には欠けていた。ウクライナ人は気迫に満ちた抵抗を見せ、侵略者に犠牲を強いた。しかし今日の情勢はさらに暗くなる可能性があり、将来はもっと厳しく辛い日々になるだろう。しかし「プーチンは勝ち目のない戦争を始めたのだろうか」と問うのはもっともなことである。ロシア軍は最終的に勝利するかもしれないが、戦争の初日は、常にありそうなこと、つまり今後どのような軍事的勝利を収めようとも、プーチンにとって政治的に勝つことが並々ならぬ困難な戦争になることを確認させたのだ。 自信満々で始めた戦争が悪い方向に向かう主な理由の一つは、敵の過小評価である。早期勝利の予測につながる楽観的なバイアスのようなものは、危険なにおいがしたらすぐに降伏するような、退廃的で知恵のない相手という想定に依存しているのである。月曜日のプーチンの狂気に満ちた演説とその後の発言、そして彼の臣下たちの発言は、彼が好む戦争の根拠だけでなく、彼がなぜ勝てると考えているのかを理解するのに役立っている。プーチンが一貫して主張してきたように、ウクライナは非国家であり、人為的に作られたもので、政府は非合法でナチスに支配されているとすれば、普通のウクライナ人がそのような国のために一生懸命戦うことはない、と彼が考えていたとしてもおかしくはないだろう。国連担当のロシア大使が示唆したように、彼らはロシア軍を解放者として迎えるかもしれないのだ。 敵の戦力を過小評価すると、自国の戦力を過大評価することになりかねない。プーチンはたしかに戦争で大きな成果を上げている。2000年、第二次チェチェン紛争を利用して大統領に就任し、指導者としての資質を証明した。2008年にはグルジアを血祭りに上げ、NATOへの加盟を思いとどまらせ、ロシアがすでに設立していた分離主義者の飛び地を消滅させた。2014年にはウクライナからクリミアを奪取し、最近ではシリア内戦でアサドを支援することに成功した。 しかし、彼の最近の軍事行動は本格的に地上軍を展開するものではなかった。ウクライナでは、クリミア併合を含む作戦はドンバス地方の分離主義者が集めた民兵と一緒に、主に特殊部隊によって実行された。2014年夏、分離主義者が敗北しそうになったとき、プーチンは正規軍を送り込み、準備不足でまだ素人同然だったウクライナの部隊を撃退したのである。シリアでは、ロシアは航空戦力を提供したが、歩兵は提供しなかった。 そのため、大規模な地上作戦の経験は限られている。このことが、潜在的な敵の限界に対する傲慢さと結びついたとき、今回の作戦のスタートが確実なものでなかった一因となった可能性がある。その最たる例が、キエフ近郊の空港「ホストメル」で、ロシア軍がヘリ部隊で奪取しようとした戦いである。この空港を素早く占領していれば、ロシア軍は飛行機で部隊を送り込み、キエフに素早く移動することができた。しかし援護がなければ無防備な状態であり、これはまさにギャンブルであった。ウクライナ軍はヘリコプターを数機撃墜し、激しい戦闘の末にロシア軍を圧倒した。この作戦のために何カ月も計画を練り、すべての段階を綿密に計画した後で、計画者たちが初日にこれほどリスクの高いことをしようと決めたことは、示唆に富んでいる。 これはキエフにとって一時的な休息に過ぎないかもしれない。今朝の報道では、キエフ市内でのミサイル攻撃や小競り合いもあり、キエフがロシアの最重要目標であることが強調されている。したがって、これまでの戦闘からロシア軍が今後苦戦すると結論づけるのも賢明ではないだろう。ロシア軍は相手に対してもっと敬意を払い、もっと理路整然とした行動をとることを学ぶことになるかもしれないからだ。 とはいえ、第一印象は大切だ。自国を守る者の士気と決意は、侵略を企てる者の士気と決意より高くなる傾向があり、特に企てる側がなぜそのようなことをするのか分からない場合はこの傾向が強まることを我々は再認識させられた。ウクライナ人が本気で国を守ろうとしていること、そして忍耐力もあることが分かった。彼らは蹂躙されてはいないのだ。手っ取り早く既成事実を作っておけば、プーチンは大いに助かったはずだ。例えば、欧米の制裁の設計と実施は、ロシアがウクライナを蹂躙しているよう見えた状況では、まったく違った印象を与えただろう。つまり「ウクライナに起きたことは悲劇だが、ほとんど何もできない状況であり、高価なジェスチャーも無意味である」という主張を、懲罰的なものに反対する人たちに提供できたのかもしれない。 だがウクライナの抵抗が明らかになり、双方に戦費がかかるようになったことで、国内のプーチンの立場にも問題が出てきている。多くのアナリストたちが指摘しているように、ロシアが精密誘導ミサイルの在庫を失い、市街戦に引き込まれれば、戦闘は残忍になる可能性がある。 チェチェンの首都グロズヌイやシリアの都市アレッポは、ロシアが主導した作戦によって市民を直接標的にした爆撃を受けている。それにしてもロシア国内の反発の声の大きさ(熱狂的な支持のなさ)は目を見張るものがある。プーチンが「ウクライナは本当にロシアの一部であるべきだ」と主張し、その後に「スラブ民族の仲間(彼らの親戚であることも多い)が爆撃されるのを国民が容認する」と期待していたのは実に奇妙なことであった。プーチンは、多くの独裁者と同様に自国民に対して恐怖心を感じており、自国民の犠牲がさらに増え、ウクライナでの蛮行、国際的非難に対して彼らがどう反応するかを心配し始めた可能性がある。 プーチンがなぜ攻撃的な戦争に乗り出すのか、長年不思議に思ってきた人々にとっての最大の問題は「彼が政治的に何を達成したいのか」であった。たとえばウクライナ東部での限定的な作戦は「時間をかけて維持して守ることのできる地域を切り取る」という意味では、ある程度理にかなっていた。だが現在の作戦の規模の大きさは、実質的にキエフでの政権交代を求めるものとなるため、まるで意味をなさないものだ。米国と英国は、イラクとアフガニスタンで、これがいかに難しいかを苦い経験で学んだ。簡単に言えば、外国が就任させた、地元に根ざした比較的信頼できる指導者(ロシアにそのような人物がいることは明らかではない)であっても、その正統性には限界があり、すぐに占領軍に権力の維持を頼ることになるのである。 たとえウクライナ政府が首都を失い、脱出を余儀なくされ、ウクライナ軍の指揮系統が崩壊し始めたとしても、それは自動的に「ロシアの勝利」とはならない。「占領軍の後ろ盾なしに従順な人物をウクライナ大統領に据えて長続きさせられる」と考えるのは、ウクライナの国民性の根源を理解できていない人たちだけであろう。ロシアには、そのような軍隊をいつまでも維持する人数も能力もないのである。2004-5年の「オレンジ革命」と2013-14年の「ユーロマイダン」の記憶があるプーチンは、この国で「人民の力」が果たす役割をある程度理解しているだろうと思ったが、これらの運動はアメリカやその同盟国によって操作されていたという自らのプロパガンダを信じ切ったままでいるのであれば理解できていない。 ウクライナはNATOと陸上で国境を接しており、ウクライナ正規軍が戦っている限り、装備は通過することができる。この紛争がそのような段階に移行した場合、反ロシア勢力も通過することができるようになる。このため重要になってくるのが、ロシアが軍事的目標を達成したかどうかだけに注目しないことだ。むしろ注目すべきは、市民の抵抗や反乱に対してロシア軍が占領した地域をどこまで維持できるかという点だ。 戦争(私は多くの例を研究してきたが)について重要なのは、戦争が計画通りに進むことはほとんどないということだ。偶然の出来事や作戦の不手際で、突然戦略の転換を迫られることもある。意図しない結果が、意図したものと同じくらい重要な意味を持つこともあるのだ。すべての戦争にはこのような落とし穴があり、だからこそ戦争は正当な理由(中でも最も説得力があるのは自衛権の発動だ)があって初めて着手されるべきものなのだ。 この戦争に乗り出すという決断は、一人の男の肩にかかるものだ。今週初めに見たように、プーチン氏はウクライナに執着しており、戦争の口実のように見えるが実際は彼の考えを反映しているかもしれない、トンデモ説を唱えがちだ。新型コロナウイルスを恐れ、想像上のウクライナを恐れるこの孤独な人物の特殊な事情と性格のために、すでに多くの命が失われているのだ。民主国家では、長期的な視野に立ち、懐疑的な国民を納得させたり、批判に耳を傾けたり、法の支配のような厄介な制約に縛られたりすることなく大胆な手段を取ることによって我々を出し抜くことができる独裁者と比較して、我々の意思決定の曖昧さ、一貫性のなさ、近視眼性、そして惰性などを嘆くことになることが多い。だがプーチンは、独裁政治が大きな過ちを招く可能性があることを思い起こさせてくれる。もちろん民主制度は、我々自身が過ちを犯すことを決して排除するものではないが、少なくとも、過ちを犯したときに新しい指導者や新しい政策に速やかに移行する機会を与えてくれるものである。それが今、ロシアで起こってくれれば良いと思うが。 === 実に読み応えがありますね。 クラウゼヴィッツを引用するまでもなく、戦争というのは不確実でギャンブルな性格が強いものですが、著者のフリードマンはそれをあらためて思い起こさせてくれます。 それにしてもプーチン大統領、まるで以前の慎重な態度から打って変わっての今回の行動、大局的にみればだいぶ計算間違いをしたように思えます。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-27 01:57
| 戦略学の論文
2022年 02月 24日
欧米当局は「ナワルヌイ氏はロシア政府によって毒をもられた」と発表したが、対外情報部長のナリシキン氏は、その事件はプーチン氏を倒すための「生贄」を求める欧米のエージェントによって仕組まれたものだと述べている。 ソ連秘密警察の犯罪を暴き、ロシアの安全保障体制を長く怒らせたモスクワの人権団体「メモリアル・インターナショナル」を先月解散に追い込んだことは、プーチン氏がシロビキたちの意見にさらに傾いたことを表している。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-24 20:59
| 戦略学の論文
2022年 02月 08日
今日の恵比寿駅の上空は曇っていましたが昼過ぎに晴れてきました。それにしても相変わらず寒いですね。 さて、欧州政治の専門家で「アフターヨーロッパ」でも有名なブルガリア出身のクラステフが今回のウクライナ案件について興味深い視点を提供しておりましたのでその試訳を。 === By イワン・クラステフ 22-2/3 NYタイムズ もちろんこの話はジョークだ。だがこれは、ウクライナ情勢をめぐる米欧間の認識の不一致を端的にとらえている。米国と、先週の水曜日に東欧への米軍配備を正式に承認したバイデン大統領にとって、プーチン大統領率いるロシアの侵攻は「明確な可能性」である。 ところが欧州にとってはそこまでではない。ドイツのある上級外交官は、この見解の違いを、以下のように要約している。「米国はプーチンが本格的な戦争を仕掛けてくると考えているが、欧州はプーチンがハッタリをしかけているだけだと見ている」。 この見解の違いは、当然といえば当然かもしれない。結局のところ、西ヨーロッパの一般市民にとって「本格的な戦争」とは、エイリアンが侵攻してくるような事態と同じくらい想定外のものだからだ。西ヨーロッパでは何十年にもわたり平和が続いており、ロシアの石油とガスに深く依存していることもあって、当局者たちは「ロシアの攻撃的な動きは策略に違いない」と考えているのだ。 しかし、このようなロシアに融和的な欧州の傾向は、当初警戒していたウクライナ当局者が今では欧州と同じ見解を持つようになったことを説明できない。先週のことだが、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦争の脅威を軽視し、状況は「危険だが、あいまいだ」と示唆している。自国の国境のすぐ向こう側で13万のロシア軍に脅かされている国としては実に驚くべき評価なのだ。その背景には何があるのだろうか? その答えは驚くべきものであり、逆説的ですらある。ヨーロッパ人とウクライナ人たちがロシアのウクライナへの大規模な侵攻に懐疑的なのは、彼らがプーチン氏に対してアメリカ人よりも温和な見方をしているからではない。実態はその逆であり、彼らはプーチンをより悪意のある存在として見ているからである。「クレムリンは戦争をやろうとしているわけではない」というのがその理由だ。 つまり彼らは今回の軍備増強は「西側諸国を不安定にするために考案された広範な戦術だ」と考えているのだ。ヨーロッパにとって「戦争の脅威」は「戦争そのもの」よりも破壊的になる可能性があるからだ。 米国と欧州諸国は、プーチン氏が望んでいることについては意見が一致している。クレムリンは冷戦後の秩序を破壊し、1990年代からの象徴的な脱却を望んでいるのである。 もしそれが実現すれば、ポストソビエト空間におけるロシアの勢力圏を認め、西欧の価値の普遍性を否定する、新たな欧州安全保障のアーキテクチャーが誕生することになる。つまりプーチン氏のゴールは「ソ連邦の復活」ではなく、自分のイメージする「歴史的なロシアの回復」である。 ワシントンやブリュッセルには、このメッセージは伝わっている。大西洋の両岸の一般的な合意は「クレムリンが次に何をするかはわからないが、じっとしていられない」というものだ。ロシアが単純に引き下がることはないだろう。 しかし、アメリカ人は「プーチンがその壮大な野望を実現するためにウクライナでの熱い戦争を必要としている」と考える傾向がある一方で、ヨーロッパ人やウクライナ人たちは「プーチンにとって役に立つのは、国境での部隊のプレゼンス、エネルギーの流れの武器化、そしてサイバー攻撃のようなハイブリッド戦略だ」と考えているようなのだ。 これには根拠がまったくないわけではない。ロシアがウクライナに侵攻すれば、逆説的ではあるが、現在のヨーロッパの秩序が保たれる可能性があるからだ。NATOは積極的に対応し、厳しい制裁を加え、断固として結束して行動せざるをえなくなってしまうからだ。プーチンは対立を激化させることで、敵対者たちをまとめてしまうのである。 ところが手出しをしなければ、それとは逆の効果を生み出すことになる。なぜなら侵攻を伴わない最大限の圧力は、NATOを分裂させて麻痺させることになるかもしれないからだ。 そのわかりやすい例がドイツだ。今回の危機が起こる前のドイツは、ヨーロッパにおけるアメリカの最も近い同盟国であり、モスクワとの特別な関係を誇り、東・中欧にとって最も重要なパートナーであった。しかし現在のワシントンでは、ドイツがロシアに本気で立ち向かおうとしているのかを疑問視する声が上がっており、ベルリンとモスクワの関係は急速に悪化し、東欧の多くの人々はドイツが自分たちの支援に消極的であることに苛立ちを覚えている。 プーチンが実際に侵攻するかどうかを明らかにすることなくこのまま瀬戸際外交を続けるとすれば、ドイツが陥る苦境は今後の状況を占う上で一つのヒントになる。 それでもドイツを取り巻く世界は変化している(ウォールストリートジャーナル紙のドイツ特派員、ボジャン・パンスフスキーは「ドイツは、駅が火事になっても停車し続けている列車のようだ」と私に語ってくれた)。 今日、地政学的な面での強みは「どれだけの経済力を行使できるか」ではなく「どれだけの痛みに耐えられるか」によって決定される。なぜなら冷戦時代とは異なり、敵は鉄のカーテンの向こう側にいる存在ではなく、貿易の相手国であり、ガスを買っている国であり、ハイテク製品を輸出している相手国なのだ。ソフトパワーはレジリエンスに取って代わられたのだ。 これはヨーロッパにとって問題だ。もしプーチンの戦略の成否が「欧米社会がエネルギー価格の高騰や情報操作、政情不安といった圧力に長期にわたって耐えられるかどうか」で決まるとすれば、彼は有利な立場にあるといえる。 現状では、このような問題に対処するヨーロッパの備えは著しく不足している。欧州全体の焦点とすべきなのは、このような状況を、軍事力への投資、エネルギーの多様化、社会的結束の強化を通じて改善することだ。 欧州の人々が「ロシアのウクライナ侵攻は不可避というわけではない」と考えるのには一理あるし、それが最も可能性の高いシナリオではないと考えるのも決して間違ってはいないのかもしれない。だが、レジリエンス(回復力)への備えを無視できると考えてはいけない。 ロシアのことわざに、以下のようなものがある。「クマをダンスに誘ったら、その終わりを決めるのはあなたではない。決めるのはクマだ」 ==== アメリカと欧州(そしてウクライナ)の間の見識の違いについてうまい説明ができている意見記事です。 ただしここでの問題は、もしこのような分析が正しかったとしても、政策担当者はロシアが軍事侵攻をしてくる可能性を否定せず、その脅威を額面通りに受け取って備えなければならない、という点ですね。 それにして最後のことわざは「クマ(ロシア)が決定権をもっている」ということでしょうか。21世紀型の政治になれきっていると、19世紀型の世界観を持っているロシアにいいようにやられてしまう、という警告とも言えますが。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-08 14:03
| 戦略学の論文
2022年 02月 04日
今日の横浜駅は雲が多いですがなんとか晴れております。 さて、久しぶりにテクノロジーに関する記事の試訳です。だいぶ古い記事ではありますが、その内容は古くなっておらず、講義などでも使っている考えさせてくれるものです。 ==== By トリスタン・ハリス 19-12/5 NYタイムズ 10年前、ハーバード大学の教授で社会生物学の父として知られるエドワード・O・ウィルソンは「今後100年間に人類が直面する危機を解決することができるか」と問われて、「もしわれわれが正直で賢いのなら可能だ・・・だが人類にとって最大の問題は、旧石器時代の感情、中世の制度、神のような技術を持っている点にある」と答えている。 このウィルソン氏の観察以降もテクノロジーの神通力は劇的に増大し、一方で私たちの脳の古代の旧石器時代の衝動は変わっていない。 ところが今日のテクノロジー企業、つまりFacebookやGoogleのようなデジタル・インフラ企業が、私たちの脳のキャパシティーを圧倒してしまったという不満が投げかけられることは少ない。むしろ聞かれるのは、テクノロジー企業が私たちの個人データを収集し、追跡しているという懸念や、そのような企業がただ単に巨大になりすぎているという懸念の方だ。 たとえば私たちがプライバシーの問題を解決できたと仮定してみよう。この新しいユートピアでは、私たちは自分のデータをすべて所有することになり、テクノロジー系の巨大企業たちはネット情報から私たちの居場所を追跡するのを禁じられ、私たちが共有に同意したデータにのみアクセスできるのだ。 気味の悪い広告を目にすることは減り、監視されているという心配は減るかもしれないが、オンラインの世界に関連した厄介なトレンドは対処されずに残るだろう。 社会承認や「いいね!」ボタンへの中毒は、私たちの注意力を破壊し続けるだろう。私たちの脳は相変わらず侮辱的な怒りのツイートへと引き込まれ、民主的な議論は子供のような「言った言わない」という水掛け論に取って代わられるだろう。ティーンエイジャーたちは、ネット上の社会的圧力やネットいじめにさらされ、精神的な健康を害されたままとなるだろう。 アルゴリズムによって過激主義や陰謀論に向かう「ウサギの穴」が作られ続けるだろう。なぜなら、人間の編集者に時間を割いて何が価値あるものかを判断してもらうよりも、自動化したほうが安上がりだからだ。そして孤立したオンライン・コミュニティで育まれた過激なコンテンツは、銃乱射事件を引き起こし続けるだろう。 このように20億人の頭脳に影響を与えることで、今日のソーシャルメディアは世界の歴史を動かすものとなる。ソーシャルメディアが解き放った力は、将来の選挙や、事実とフィクションを見分ける能力にまで影響を与え、社会の分裂を増大させるだろう。 ネット上のプライバシーは、取り組むべき問題であることは間違いない。だがどんなに優れたプライバシー保護法も、旧石器時代の感情がテクノロジーの誘惑に抵抗できる程度にしか効果がないのだ。 FaceAppというアプリは、最近、1億5000万人の虚栄心に訴えかけ、本人たちの名前と一緒に顔の画像を提供するように仕向けた。これがなぜ可能であったのかといえば、このアプリは何年も先の未来に登場するような、超高精度の肖像画を作成する機能を提供したからだ。ではこのアプリ(と1億5000万人の名前と顔)を提供しているの誰なのかといえば、サンクトペテルブルクにあるロシアの企業なのだ。 人々の虚栄心を刺激することができれば、人々は自分の顔をスキャンした情報を喜んで提供してくれるのだ。わざわざ選挙をハッキングしたり、有権者の情報を盗んだりする必要などなくなってしまう。 旧石器時代の衝動を持っている私たちは、テクノロジーの恩恵に抗うことができないのである。しかしこれは、単に私たちのプライバシーを損なうだけではない。集団的に行動を起こす能力も損なわれているのだ。 この理由は、旧石器時代の脳が世界の苦しみを全知全能で把握するようにはできていない、という点にある。私たちのオンライン・ニュース・フィードは、世界のあらゆる痛みと残酷さを集約し、私たちの脳を一種の学習性の無力感へと引きずり込んでいる。それに見合うだけの媒介を持たずにほぼ完全な知識を提供するテクノロジーは、そもそも人間的ではないのである。 旧石器時代の私たちの脳は、真実を追求するようにはできていない。自分の信念を確認するような情報は私たちを気持ちよくさせるものであり、自分の信念に挑戦するような情報は不快なのだ。 私たちがクリックするものをより多く与えてくれる巨大テクノロジー企業は、本質的にわれわれを分断するものだ。そのような企業が誕生してから数十年がたち、テクノロジーは社会をそれぞれ異なるイデオロギー世界に分裂させたのだ。 簡単に言えば、テクノロジーは私たちの頭脳を凌駕し、世界で最も差し迫った課題に対処する能力を低下させたのだ。このミスマッチを利用した広告ビジネスモデルが(人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つとする)「アテンション・エコノミー」を生み出した。その見返りとして、私たちは人間性を「無料」まで格下げしたのだ。 このような状態は、われわれを深刻なほど不安定な状態に追いやることになる。20億の人間がこのような環境に閉じ込められ、「アテンション・エコノミー」が私たちを自らの生存に不適応な文明へと変えてしまったからだ。 だが良いニュースもある。われわれは自分たちの脳と自分たちが使うテクノロジーとの間にあるこのミスマッチを認識できる、唯一の自己認識できる生き物だということだ。つまり、私たちはこうした流れを逆転させる力を持っている存在なのだ。 ここでの最大の問題は、われわれがこの挑戦に立ち向かえるかどうかであり、自分自身の内面を深く見つめ、その知恵を使って根本的により人間的な新しいテクノロジーを生み出せるかどうかということだ。過去の賢人たちは「汝自身を知れ」と言った。われわれは自分たちの限界を正直に理解することでは、神のようなテクノロジーを再び調和させなければならないのだ 以下は抽象的な話に聞こえるかもしれないが、具体的にわれわれが取り組むことができるものだ。 第一に、政策立案者はハイテク企業に対して特別な税、すなわち「格下げ税」を創設するのだ。この税は、われわれの注意力を引き出し、消耗させることに基づく彼らのビジネスモデルを法外に高価なものにする一方で、ジャーナリズム、公教育、人間の価値や社会への貢献を優遇する新しいプラットフォームの創造に富を再分配させるものだ。 第二に、われわれを依存症でナルシストな過激派に変えることで利益を得る無料のソーシャルメディア・プラットフォームに参加する代わりに、画面の外で我々の生活に力を与える機能のために「いいね!」を避けるサービスに購読料を支払うことに同意し、これらのサービスを本質的に人類の最善の利益のために働くような受託者にさせるのだ。 第三に、デジタル・プラットフォームには、悪意のあるバイラル・コンテンツや「ディープフェイク」(人工知能によって本物に見えるように加工された動画)などのテクノロジーの歪曲による偽情報を広める代わりに、私たちを守るメディアインフラを抜本的に強化させるのだ。 2020年の米国大統領選挙の候補者たちは、テクノロジーが我々の頭脳を凌駕しようとする競争がもたらす脅威について自らを教育すべきであり、ニュースメディアは彼らの責任を追及しなければならない。どの大統領も「アテンション・エコノミー」の問題に取り組むことなしに、選挙公約を効果的に実現することはできない。 人間的な技術を作るためには、人間の本質を深く考える必要があり、それは単にプライバシーについて話すこと以上のことを意味する。つまり精神面で大きな改革を迫られる時がきたのだ。私たちは、自己認識や批判的思考、理性的な議論や考察といった人間の持つ長所と、弱点や脆弱性、そして自分自身でコントロールできなくなった部分を理解する必要があるのだ。 テクノロジーと和解する唯一の方法は、自分たち自身と和解することなのだ。 ==== テクノロジーの進化と人間のミスマッチを説いた、実に興味深い論考です。テクノロジーは単なるツールだという意見もありますが、社会を大きく変えるだけでなく、人間の本質そのものを暴き出しているという点は考えさせられます。 さらにもう一歩踏み込んで考えると、やはり人間はテクノロジーによって変えられているとも言えます。 新しいテクノロジーの登場と、それによって変化する将来戦を考える際には、ここで触れられた論点は実にさまざまなヒントを与えております。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 (フィリピンを望む) ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-04 12:43
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