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2021年 12月 27日
今日の横浜駅はまさに「底冷え」という状態でした。天気が良いことがだけが唯一の救いですが。 さて、珍しく日本経済に関する記事の試訳です。ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局の書いた記事ですが、話を聞きにいく学者が以前と比べてかなりまともな人選になったという印象があります。 === 40%の減税でも日本の雇用主が賃上げに踏み切れない理由 首相は、長く低迷している賃金を引き上げれば、低迷している経済を活性化させることができると言っている。しかし、企業側はこの計画を非現実的だと言っている 21-12/23 NY Times 吉村正孝はこの2年間、一家が100年以上前に創業したオーダースーツの会社に資金を注ぎ込んできた。工場を整備し、自動在庫管理システムを導入し、ソフトウェアやロボットに取って代わられた従業員を再教育してきた。 しかし日本の首相は、さらに社員に大幅な昇給をさせることを望んでいる。 理由は簡単だ。日本では何十年間も賃金が伸びず、貧富の差が拡大しているからだ。最も手っ取り早い解決策は、吉村氏のような経営者たちに従業員たちに対してもっと給料を払うように促すことである。賃金が上がれば、個人消費が活性化し、低迷している日本経済が上向くと考えられるからだ。 しかし、吉村氏にとっては昇給は非現実的なことだ。賃上げをすることは「本当に致命的」だと、先週、東京の吉村産業の事務所で彼は語った。そして、その考えは彼一人だけのものではない。企業団体や労働組合のリーダーなどは、岸田文雄首相が賃上げをした企業に多額の税額控除を提供するという計画の実現可能性を疑問視している。 本来なら賃金を上げるべきなのに、企業が賃上げに抵抗するのは、この問題がいかに難解であるかを示している。長年にわたる低成長とインフレ率の低迷により、企業には値上げの余地がほとんどない。経済学者によれば、安定した適度なインフレがなければ、企業の利益も労働者の賃金も伸び悩むという。 政府は長い間、景気を刺激して物価を押し上げるために、あらゆる解決策を見つけようとしてきた。金融市場に資金を投入し、借入をほぼ無料にした。しかし、物価が下がるという予想が浸透し、高齢化によって需要が弱まり、グローバル化によって物価が下がっているため、ほとんど効果が出ていない。 新型コロナウイルスは、日本が抱える課題をさらに深刻にした。過去2年間、他の主要国が急速に回復しているにもかかわらず、日本は縮小と拡大の間を行ったり来たりしている。 パンデミックが長引く中、日本政府は消費者に現金を配り、企業にゼロ金利融資を行うなど、さらに大規模な景気刺激策に舵を切った。だがインフレ率はパンデミックによる供給不足とサプライチェーンの混乱によって、他の場所では急上昇しているにもかかわらず、日本ではほとんど動いていない。 賃金案に対する反応は、2ヶ月前に就任した岸田氏にとって不吉な兆候である。岸田氏は、過去2年間の経済的ダメージを回復し、「新しい資本主義」を通じて日本経済を軌道に乗せることを公約していたからだ。 岸田氏の計画は、まだ漠然とした概念である「持続可能な成長を実現し、経済格差を是正するための枠組み」を定義するための第一歩となるものである。 手始めに、首相は雇用主に対して、2022年に4%もの賃上げを行うよう求めている。これに従った企業は、法人税全体の控除額を最大40%増やすことができる。政府は、看護師や子どもや高齢者の世話をする労働者の賃金を来年に3%引き上げると発表している。 岸田氏は21日の記者会見で、「企業が賃金を上げてもいいと思えるような雰囲気を作るために、あらゆる手段を講じることが国にとって不可欠だ」と述べた。賃上げは「コストではない、将来への投資だ」とも述べている。 多くの企業は、賃上げの必要性を認識している一方で、発表されたこの措置が日本の通常の賃金決定プロセスに何らかの影響を与えるかどうかについては疑問視している。 大手企業と労働組合は毎年春に「春闘」と呼ばれる儀式で昇給交渉を行っている。岸田氏の提言に近い結果が出たのははるか以前の1997年であり、この時に労働者は2.9%の昇給を勝ち取っている。 2013年、安倍晋三首相は同様の計画を導入したが、ほとんど成功しなかった。現在、平均賃金は月2,800ドル前後と、20年前とほぼ同じ水準に留まっている。 この現象は日本だけのものではない。ほとんどの先進国で、かつては経済成長と賃金の上昇の間には密接な相関関係があったが、現在は崩れている。米国やEUでは、実質賃金の中央値(実際の購買力)は、パンデミックまでの10年間、経済全体の拡大をはるかに下回るものであった。 この現象の原因については、コンセンサスが得られていない。しかし、多くの経済学者は、グローバル化と技術の進歩により、企業がより少ない労働者でより多くの利益を上げることができるようになった国々において「勝者が最も多くを得る」というダイナミズムが原因だと考えている。 経済学者たちはほぼ逆の問題点を指摘している。それは、日本の生産性の低さは、解雇がほとんど不可能な労働者を大量に抱える企業によって生み出されたものであるという点だ。 このことは、恵みであると同時に呪いでもある。パンデミックの間、日本はアメリカなどの国で見られるような失業率の高騰を避けることができた。だがこれは、終身雇用制の下では、多くの企業が雇用と解雇の柔軟性を制限され、経済状況の変化への対応力を低下させる可能性があることも意味している。 賃金上昇率の低さは、事実上、労働者と資本の間で交わされた妥協の産物である。ゴールドマン・サックスの馬場直彦チーフエコノミストは、「1990年代以降、日本の労働者は賃金の上昇よりも雇用の安定を優先してきた」と指摘する。ただ、企業は労働者に年2回のボーナスを支払っており、その額は企業収益によって大きく変動する可能性がある。 日本企業は利益を守るため、バブル崩壊後の1990年代前半まで日本で一般的だった終身雇用契約を避け、派遣社員やパートタイマーの活用によって正社員を限定する傾向がある。 現在、日本では非正規雇用者が労働力の37%を占め、低賃金で使い捨てにされる労働者が恒常的に存在し、その70%近くが女性である。 非正規雇用者の賃金は低く、その増加は日本の労働組織を弱体化させ、賃金を低下させた。1950年代には、日本の労働者の半数以上が組合に加入していた。1950年代には日本の労働者の半数以上が組合に加入していたが、現在では約17%にとどまっている。特に高齢化社会がもたらす長年の労働力不足が、給与の上昇を妨げている。 岸田氏の計画は、それを発表したタイミングにも問題がある。パンデミックの影響で多くの企業がすでに苦境に立たされており、現在の従業員を雇用し続けるために多額の政府補助金に頼らざるを得ない企業も出てきている。 そして、不採算の問題もある。この10年近く、日本企業の大半は不採算に陥っており、2019年には約65%と2010年以降で最も低い数字となった。これらの企業は、日銀が引き受けた安い資金によって存続してきたが、利益がなければ法人税もかからないため、岸田氏の奨励策の対象にはならない。 東京大学の川口大司教授(経済学)によると、岸田氏の案は実際に最も成功している企業に富を集中させる一方で、中小企業や経営難の企業の従業員にはほとんど支援を提供せず「本当に逆進的な制度になる可能性がある」と指摘する。 首相が企業に賃上げを説得できたとしても、その資金が使われる保証はない。昨年、政府が国民全員に現金を支給した後、消費者は不確実な将来に対するヘッジとして銀行にお金を貯め、日本の家計貯蓄率は過去20年間で最高水準になった。 多くの労働者にとって、賃金を上げるという政治の焦点は見当違いであり、他の職場の問題の方がより緊急性が高い。北海道大学経済学部教授の阿部由紀子氏は「労働市場に存在する最大の問題は、雇用保護や育児、仕事と家庭を両立させるために必要な福利厚生などである可能性が高い」と言う。 紳士服会社の代表である吉村氏は、政府が間違った問題を解決しようとしていることに同意している。たしかに賃金は重要だと考えているが、それにはまず政府が企業を支援する必要があると主張するのだ。「もう少し収入を上げられるような環境を作らないと景気は良くならないですよ」と彼は述べた。 ==== 経済は私の専門ではないのであえて深堀りはしませんが、日本がバブル期から経済政策を間違ってきたことはすでに海外の経済学の教科書にも載っているという話をよく聞きます。 来年こそは景気の良い年にしたいものです。 (空港) ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-12-27 23:33
| カルテク
2021年 12月 25日
今日の横浜駅も晴れておりますが、実に冷えきっております。 さて、今年もクリスマス&年末の季節がやってきましたが、いつもと違って「資産防衛」に関する記事を一つ。 === 高級時計は、常に供給よりも購入希望者の方が多い。しかし近年その関心は爆発的に高まっている。 by アンドレア・フェルステッド 21-12/3 Bloomberg 今年のクリスマスに不足するのは、おもちゃ、ハイテク、七面鳥だけではない。ロレックスの時計も手に入りにくくなっている。だが幸運なことに、高級時計ブームに乗る方法は他にもある。 ロックダウン時の貯蓄、(少なくとも最近までの)市場の高騰、リベンジ支出、代替資産への幅広い関心などが相まって、最もホットな時計への需要は供給をはるかに上回っている。待ちリストは長くなり、中古市場での価格は高騰している。 ロレックスのデイトナ、パテック・フィリップのノーチラス、オーデマ・ピゲのロイヤルオークなど、アイコニックなモデルへの関心は長く続いている。また、リシャール・ミルが製造するスケルトンウォッチ、ロレックスのサブマリーナーやGMTマスターIIなどにも人気が集中している。中でも最近最も騒がれているのが、一部で「ウィード」と呼ばれる緑のパームモチーフのデイトジャスト 36である。 もちろん、いつの時代も購入可能な時計よりも購入者の数は多かった。ロレックスの年間生産数は約110万個、パテックフィリップは約6万5千個、そしてオーデマピゲは約4万5千個である。これは高級品を買おうとする人々を満足させるには到底及ばない量である。 しかし、この2年ほどで時計への関心は爆発的に高まった。ロックダウンの影響で、人々は旅行や高級レストランに使うはずだったお金を、代わりに高級品に振り向けたからだ。とくに男性にとって最初の選択肢は高級腕時計であり、多くの購買者たちは自分のよく知るブランドに手を伸ばした。記録的な株式市場の上昇や暗号通貨の高騰は、富をもたらしただけでなく、非代替性トークン(NFT)や時計など、代替資産などへの投資への関心を広めるきっかけにもなった。 だが、あまりの需給のミスマッチのおかげで、9月にはロレックス社が「戦略的に供給を絞っているわけではない」という異例の声明を発表した。品質を落とさずに需要を満たすことができないというのだ。同社はこれ以上のコメントを避けている。 英国や米国のブティックで常にロレックスを確保していた小売業のWatches of Switzerland Group社でさえ、次第に高まる需要によって7月頃には在庫がなくなってしまったという。そこで同社はロレックス社と共同で、展示用の時計を揃えるという新しいコンセプトを打ち出している。サブマリーナやデイトナなど、店頭にほとんど並ばなくなってしまったモデルを、まず来店して試着してもらってから予約してもらうというものだ。これは車のショールームのようなやり方だ。 ウォッチズ・オブ・スイス(Watches of Switzerland)社では、2年以上のウエイティング・リストは作らない。それでも人気の高いモデルは2年以上も待たされることになる。たとえばデイトナは10年待ちになっているという報告もある。 また、品不足のため、ドイツのChrono24社やWatchfinder(リシュモン傘下)社、 ロンドンのA Collected Manなどが運営する流通市場でも価格が高騰している。ロレックスのデイトナ、APのロイヤルオーク、パテックのノーチラスは、元の小売価格の3倍から4倍で取引されることがある。他にもロレックスの人気モデルは、少なくとも2倍の値段で取引されることもある。 これらのモデルを手に入れることができないこと以上に悔しいのは、3つのメーカーが非上場であるため、株式投資家がこのブームに参加する方法が少ないことだ。ただし参加する方法の一つは、ロレックス、AP、パテックで売上の50~60%を占めているWatches of Switzerland社の株式である。この会社の株価は過去1年間で約3倍になっている。 一方、時計への関心は、最も供給が逼迫しているブランドから、上場企業が所有するブランドへと広がっている。スウォッチ・グループとリシュモン・グループだ。 スウォッチ傘下のオメガには強い支持があり、特にアジアではスピードマスターの人気が高く、最新の映画に合わせて製作された最新のジェームズ・ボンドのシーマスターも人気がある。 リシュモン傘下のカルティエは、過去5年間にいくつかのクラシックモデルのリニューアルやアップグレードを行ってきた。カルティエは需要に少し遅れて供給を続けるという戦略をとっているが、これは5年ほど前に中国の反腐敗運動のおかげで時計が品薄になったことを受けて過剰な在庫を買い戻してから採用したものだ。また、スイスの独立系ブランドに特化したオンライン時計販売サイト「A Collected Man」では、他の2つのリシュモンのブランドへの関心が高まっているという。それはランゲ&ゾーネとヴァシュロン・コンスタンタンだ。 最大の問題は、現在のこの高級腕時計への熱狂と価値の上昇が今後も継続するかどうかだ。最近の市場の混乱や、多くの必需品の価格上昇は、このような高騰が終わりつつあることを意味しているのかもしれない。また、暗号通貨への圧力も課題となる。その合間に、中国では目立った消費を抑制する取り組みが行われており、これは東アジアにおける最高級レベルの腕時計の需要が減少することになるかもしれない。 しかし現在の主な問題は供給の制約であり、中国経済が減速すれば、米国など他の好況な高級品市場でより多くの製品が流通する可能性がある。 今年のクリスマスにロレックスを手に入れることができれば、それは自慢できるものとなるだけでなく、 庶民的な繁栄に対するヘッジにもなる。 === 新型コロナに対する政府による経済救済措置のおかげで世界中で「カネ余り」の現象がみられおりますので、高級腕時計を購入しておくのも資産防衛の一つの手段になるかもしれない、ということですね。 実際のところ、私が知っているだけでも上記のデイトナなどは数年前は正規の値段の30%増しくらいで売ってましたが、最近はその4倍近く上がるという異常な高騰ぶりを見せており、本当に欲しい人が買えないという現象も出ていて困ったものです。 (空港) ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-12-25 00:00
| カルテク
2021年 12月 24日
今日の中目黒は快晴で本当に寒いです。 さて、一部の界隈で話題だったジョンズ・ホプキンス大学SAISのハル・ブランズによる中国との「次の戦争」を予見するような意見記事の試訳です。 === byハル・ブランズ 21-12/15 アメリカは「向こう側」で戦うことに慣れてしまっている。だが次の敵は紛争を「こちら側」に持ち込んでくる可能性がある。 アメリカ人にとって、戦争とは通常「あちら側」で起こるもの、つまり自分たちの海岸から遠く離れた外国で起こるものである。しかし戦争が「向こう」で起こっても「こっち」で経験することになる、と考える時期に来ているのかもしれない。今後の紛争では、アメリカの領土は聖域ではなくなる。アメリカは技術進歩のおかげで、テロ集団だけでなく、地政学的敵対者がアメリカに直接戦争を持ち込むことを可能にする、国土の脆弱性の時代に突入しているのである。 もちろんアメリカは、過去にも直接攻撃されたことがある。1812年の戦争ではイギリスがワシントンを焼き払った。日本軍は1941年に当時米国領であったハワイを攻撃した。9月11日の同時多発テロは、ニューヨーク、ワシントン、ペンシルベニアに大惨事をもたらした。 しかし、これらのエピソードが記憶に残るのは、それが例外的な事例だからだ。アメリカは国力と地理的条件により、他のどの主要国よりも安全保障に優れた国である。アメリカは冷戦時代からテロと戦ってきたが、テロ攻撃を受けた国、特にイラクとセルビアは、それに対応する能力を欠いていた。 現在はそれがいくつかの点で変わりつつある。 一つは、紛争時に核兵器で米国を脅すことができるライバルが増えつつあることだ。中国は、従来は小規模で脆弱な核兵器を保有していたが、急速に拡大している。北京は、台湾やその他のホットスポットをめぐる紛争で米国を攻撃できるようにしたいのである。北朝鮮は、米国の標的を攻撃できる核弾頭ミサイルを持つ寸前か、すでに持っている可能性がある。 アメリカのライバルは、このような核攻撃を行わない強い動機を持っている。なぜならアメリカからの壊滅的な核報復の脅威があるからだ。 しかし、冷戦時代とは異なり、今日ではあまり終末的でない方法でアメリカ本土を攻撃することも可能であるために、逆にそれが実現する可能性は高い。 ロシアも中国も、長距離ミサイル(巡航ミサイル、極超音速滑空機、大陸間弾道ミサイルなど)に通常弾頭を搭載してアメリカの目標を攻撃する能力を持っているか、それを現在開発中である。中国がコンテナ船から発射した小型無人機の群れを使って、アメリカ西海岸やハワイのターゲットを攻撃する可能性があるとの懸念も高まっている。 こうした攻撃は、おそらく壊滅的な破壊を引き起こすことはないだろう。しかし紛争時にはアメリカの兵站、通信、動員を混乱させる可能性がある。あるいは、モスクワや北京が、中国やロシアの領土に対するアメリカの攻撃を抑止したり、それに対する報復を行ったりするための手段を提供することになる。 最も可能性の高いアメリカへの攻撃は、表立った暴力を全く伴わないものであろう。重要なインフラや金融システムに対するサイバー攻撃は、日常生活を麻痺させ、地球の裏側からの攻撃への対応を阻害する可能性がある。昨年春、東海岸でガス不足を引き起こした「コロニアル・パイプライン」のランサムウェアによる攻撃は、それを予感させるものであった。台湾、ウクライナ、バルト三国をめぐる重大な国際危機のさなかに、はるかに大規模な攻撃が繰り返されることも想像できる。 このような攻撃は、ロシアや中国の計画者にとっては魅力的なものだろう。なぜなら直接の軍事攻撃では不可能な「曖昧さ」を装うことができるからだ。直接的に大量の民間人の死者を出すことなく、国内を混乱させることができるからだ。また、北京やモスクワが東欧や西太平洋で軍事的目標を達成しようと躍起になっているときに、紛争の初期段階でアメリカの動きを鈍らせることもできる。これはアメリカの政策立案者に、厳しい問いを投げかけることになる。 もしこれが実行されて自国の痛ましい弱点が露呈する可能性があるとすれば、アメリカは本気で遠く離れた場所での侵略を食い止めるために武力を行使するのを厭わないだろうか? このジレンマには、完璧な解決策はない。例えば、ミサイル防衛は重要な標的を守るのに役立つが、包括的な保護を提供するには費用がかかりすぎるし、信頼性にも欠ける。アメリカができる最善のことは、防衛、攻撃、回復力を組み合わせることによって、自国の安全保障の弱点を緩和することである。 そのためには、かつて「民間防衛」と呼ばれたもの、すなわち重要なインフラ、物流施設、通信ネットワークなどをデジタルな混乱から守るための、より大規模で体系的な投資が必要となる。ワシントンは、平時において、国家が支援するサイバー攻撃に対して報復する能力と意思を大々的に宣伝する必要がある。そうすれば敵対勢力は、アメリカが戦時中に物理的であれデジタルであれ、より大規模な攻撃にどのように対応してくるのかを真剣に考えるようになるからだ。 しかし、絶対的な保護が幻想であることは避けられない。自国への攻撃の可能性が高まることを受け入れ、それを吸収するために必要な経済的、社会的な回復力を身につけることは、地理的な条件によって免責されない世界において、世界的な影響力を得るための代償となる可能性がある。 このようなメッセージは現在のアメリカ人にとっては耳の痛いものであり、その代償について鋭い議論を引き起こすかもしれない。 ==== このところかなり頻繁に発言しているブランズですが、対中国におけるジョージ・ケナン的な立場を狙っているのでしょうか。 地理の壁がサイバーのような新しいテクノロジーによって克服されたという意見は、今後の実態もからめて注目すべき論点です。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-12-24 10:34
| 戦略学の論文
2021年 12月 23日
今日の渋谷は快晴で実に寒くなっております。 さて、ニューヨーク・タイムズ紙は日本のネットでは「米国の左翼の牙城」といったステレオタイプで解説されることが多いですが、コラムニストの中にはバランスをとるために保守派がおりまして、そのうちの一人のブレット・スティーブンスです。 彼は「保守派」と言ってもどちらかといえば「ネオコン」(neoconservative)なのですが、真珠湾攻撃から80周年と現在の国際政治の緊張状態をつなげるようなコラムを書いており、アメリカの一つの世界観のようなものがよく表現されておりましたので今回はその試訳を。 ==== By ブレット・スティーブンス 21-12/7 80年という節目の年に、真珠湾攻撃への世間の関心が薄いのは実に残念なことだ。私たちは、日本から攻撃される前の時代と不気味なほど似たような時代を生きている。さらに、将来同じような大惨事を予期したり回避したりするのに役立つ、奇襲への対処能力を失いつつあるのだ。 1つ目の類似点は、米国が3つの領域で攻撃的な領土計画を持つ手ごわい敵に直面しているということだ。前回は ヨーロッパではドイツ、アジアでは日本、そして地中海とアフリカではイタリアという敵だった。今回は バイデン政権に反抗してウクライナに侵攻する可能性のあるロシア、台湾を占領したり必要とあらば戦争で米国を倒すための軍備を着々と備えつつある中国、そしてレバノン、シリア、イラクの一部、ガザ、イエメンを顧客国や冊封国に変え、核保有国に近づいているイランという存在だ。 2つ目の類似点は、いずれの場合も、争いの中心には単なる領土問題ではなく、イデオロギー闘争があるということだ。ロシア、中国、イランは「リベラルな国際秩序」という概念を根本的に否定している。彼らは政治的な理想としての民主主義や人権を否定している。彼らは西洋社会において、個人の自由が道徳的退廃と集団的犠牲の能力の低下につながっているとみなしている。彼らは非自由主義的権威主義(ウィンストン・チャーチルの言葉を借りれば「倒錯した科学の光によって、より邪悪になり、おそらくより長引く」もの)が、過去の遺物ではなく未来の姿であると考えているのである。 3つ目の類似点は、彼らが直接攻撃しようとしている対象の力が比較的弱いということだ。たとえば台湾は軍事予算の増額を計画しているが、現在の国防費は国内総生産のわずか2%である。ウクライナは、独立以来30年にわたる腐敗と無能は言うに及ばず、ロシアの支援を受けた分離主義者との長年にわたる低強度の紛争によって疲弊している。イランは「アラブの春」後の混乱とアメリカの中東からの撤退に乗じて、ハマス、ヒズボラ、フーシ派といった代理勢力を武装化・強化した。 4つ目の類似点は、1930年代のイギリス、フランス、アメリカと同じように、現在のアメリカが優柔不断で傷ついた内向的な大国であり、脅威を受けている国々の安全を保証する存在であり続けたいかどうかの確信を持てていないという点だ。1935年、イタリアがアビシニア(その後のエチオピア)に侵攻する直前、イギリスの週刊誌『パンチ』は、独裁者の侵略に直面した西洋の弱い対応を風刺詩で嘲笑した。 私たちはあなた方に戦ってほしいとは思っていない しかし、もし本気なのであれば、 我々はおそらく共同覚書を発表して、 あなた方への軽い不支持を示唆する これを、現在採用されている、あるいは検討されている、敵国を罰するためのいくつかのアイデアと比較してみてほしい。中国に対しては、アメリカは北京で開催される冬季オリンピックに選手を派遣するが、外交官は派遣しない予定だ。ロシアに対しては、バイデン政権は「ロシアのオリガルヒがVISAやMastercardのクレジットカードを使えないようにする」ことを検討している、とNYタイムズ紙は報じている。イランに対しては、イランの核開発プログラムに関する外交が失敗した場合に「他の手段」を使う用意があると警告している。もしこの警告ががアメリカが20年近く使ってきた外交慣用句でなかったとすれば、実に不吉な響きを持つものだ。 5つ目の類似点は、軍事バランスがますます欧米に不利な状態にシフトしていることである。米国は、第二次世界大戦前に英国が最大の海軍を、フランスが巨大な陸軍を持っていたように、今でも世界で最も強力かつ技術的に洗練された軍隊を持っているかもしれない。しかし、台湾をめぐる戦争でアメリカが中国に対して決定的な力を発揮することは難しいだろう。中国は、核兵器の増強によって米国本土を危険にさらしながら、台湾を素早く獲得しようとするだろう。米国防総省はまた、膨大な数の「そこそこ」なプラットフォームに戦力を分散させるのではなく、空母のような高価で脆弱な少数のプラットフォームに火力を集中させるという過ちを犯している。 言い換えれば、米軍はある意味で「巨大な真珠湾」と化しているのだ。つまり、堂々たる大きさだが実用性に乏しい戦艦の列が、安全だと思われていた港に自己満足的に停泊しているという状態だ。 このような歴史的なアナロジー(類推)は穴だらけだと突っ込みたい読者はたくさんいるだろう。たしかにプーチンは革命的な独裁者かもしれないが、ヒトラーではない。中国は70年以上にわたって台湾との統一を模索してきたが、それでも「大東亜共栄圏」を求めるとは限らない。また、イランの政権は悪意を持っているにせよ、せいぜい「二流」の大国でしかない。 それでもこのような「似ていない点」が私たちに有利に働くわけではない。フランクリン・ルーズベルトやウィンストン・チャーチルは、党派を超えて国民の信頼を得ることができる偉大なリーダーであった。だがジョー・バイデンやボリス・ジョンソンはそうではない。真珠湾攻撃の後、アメリカ人はルーズベルトの言葉を借りれば、「絶対的な勝利のために勝ち抜く」ことを決意している。 では現在のわれわれはそのような状態にあるだろうか?西側諸国は、ひどい不測の事態に奇跡的に対応できることを証明し、「西側諸国は軟弱である」と不用意に想像していた敵に対して壊滅的な代償を課した。だが今の私たちは、そのような存在であり続けているだろうか?それとも真珠湾攻撃のように、私たちはそのような過去をすっかり忘れてしまったのだろうか? ==== 歴史のアナロジーを使って「現在は真珠湾攻撃前夜だ、準備せよ」という煽りにも近い意見ですが、保守派のグローバリストの感情的な部分を真珠湾攻撃にからめてうまく表現した簡潔で優れたコラムだと思います。 ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-12-23 12:20
| 戦略学の論文
2021年 12月 18日
今日の恵比寿は朝は大雨でしたが午後から晴れたり曇ったりしました。 さて、前回のエントリーと同じくグレイの追悼集から気になった部分を試訳します。今回は私と同じく博論をお世話になったカイラスによる特殊部隊に関する理論へのグレイの貢献についてです。 ==== ジェームズ・D・カイラス 米国アラバマ州モンゴメリー、マックスウェル空軍基地、高度航空宇宙研究学校 ▼はじめに コリン・グレイは、戦略、地政学、抑止力、ミサイル防衛、戦略的文化など、本号で取り上げるより重要なテーマに学業面で貢献し、成果を上げていたにもかかわらず、本号に特殊作戦に関する記事を2本掲載するのは奇妙に思えるかもしれない。グレイの記憶に残るのは、これらのテーマへの貢献と、戦略研究という学問分野への貢献であろうが、グレイはその素晴らしいキャリアの中で、このテーマに非常に関心を持ち、いくつかの著作を残している。 本稿では、特殊作戦という「分野」への貢献ほど、知的にも個人的にもグレイの人となりをよく表しているテーマはないと主張する。特殊作戦が研究の一分野であることを読者が受け入れるかどうかはここでは重要ではない。グレイがこの分野に非常に興味を持ち、彼の並外れたキャリアの中で様々な時期にこの分野について書いていたことは事実である。この短い回顧録を構成するために、この記事では、彼の特殊作戦研究への貢献を「開拓者」として「巡礼者」として、そして最終的には「プラグマティスト」という3つの観点から焦点を当てている。 ▼パイオニア グレイは特殊作戦研究の先駆者として、特殊作戦に関する委託研究を指揮し、3つの章、1つの論文、1つのモノグラフを執筆した。ここ数年、彼は本を書こうと思っていたが、一度も書かなかった。彼の最後の著作である『戦略の理論』(Theory of Strategy)の中で特殊作戦論を発表しているくらいだ。特殊作戦そのものがそうであるように、行動や出力だけではその効果は判断できない。彼が特殊作戦というテーマに与えた影響は、いくつかの理由から依然として大きい。 その理由は次のようにまとめられる。まず、作品を発表するタイミングが絶妙であったこと。このタイミングは、国家安全保障や政策の分野で、特殊作戦をどのように適用するのがベストかという大きな「流れ」と一致していた。第二に、最も重要なことだが、この分野の著者の中で、作戦担当者とその行動、すなわち「任務、人員、そして自分」に焦点を当てて、これほど論理的かつ効果的に推論し、またこれほどうまくまとめ上げている人はほとんどいないという点だ。 彼の作品の多くがそうであるように、特殊作戦の分野への進出は、契約した研究から始まった。グレイが米国公共政策研究所で率いた研究活動は、1991年に国防副次官から委託されたものだった。その最終成果は「特殊作戦、何が成功し、なぜ成功したのか?」(Special Operations, What Succeeds and Why? The Lessons of Experience, Phase I)である。スティーブ・ランバキスはグレイと緊密に協力してこの研究に取り組み、その内容と結果を本号の別冊記事に見事にまとめている。この記事の目的は、冷戦終結後、国防総省が概念的に迷走していた時期にこの研究が行われたことであり、特にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が「新世界秩序」と呼んだものの中で特殊作戦が果たすべき役割についての研究であった。 この研究は残念ながらまだ未発表であるが、いくつかの理由で先駆的なものだった。このような研究は史上初というわけではなかったがーーより具体的な研究は1980年代初頭の米国特殊作戦司令部の創設に先立って行われていたーーその分析の明確さ、歴史的なケーススタディの範囲と幅広さ、そして参照している膨大な文献の点で、その重要性は高かった。このテーマを研究したグレイの他の大学院生や博士号課程の人々と同様に、このNIPPの研究は、その鋭い分析と簡潔さ、そして最近の研究とは異なる「読みやすさ」という点で、私の研究者生活の出発点となった。 グレイの特殊作戦に関する先駆的な研究は、1996年に出版された『戦略の探求』(Explorations in Strategy)の中の3つの短い章にあり、このテーマに関する彼の最も優れた作品と言っても過言ではない。この本の中の2つの章は、特殊作戦の性質と戦略的有用性について書かれており、実に長い影を落としている。グレイはわずか16ページの中で、一見自明のことのようだが、ほとんど検討されていない4つの「任務のカテゴリー」を特定し、その本質を見抜いている。 ・特殊作戦部隊にしかできない任務 ・特殊部隊が得意とする任務 ・特殊作戦部隊が苦手とする任務 ・特殊作戦部隊がまったくできない任務 これらの課題は、質問形式で提起されると、特殊作戦についての理解の核心に迫るものだ。とりわけオペレーター個人や、特殊作戦コミュニティ全体が繰り返し悩まされる「特殊作戦の特別な点やユニークな点は何か?」という問いかけだ。特殊作戦の相対化された性質や、通常部隊の活動と比較したときの特殊性を考えると、これらのカテゴリーやそこから生じる疑問は、能力のランドスケープ、つまりクラウゼヴィッツの言葉を借りれば「戦争の文法」が進化して変化し続ける中で、ヒューリスティック(経験則的)な価値を持ち続けるのである。 グレイは、『戦略の探求』のこの2つの章でさらに哲学的な探求を終え、次の章では彼の研究のもう一つの特徴である歴史的な探求を行っている。そのシンポジウムで多くの人が証言したように、彼は歴史を経験的、実用的に捉え、深く分析すべき過去の経験の源としていた。グレイがこのような実証的な証拠を用いたことは、特殊作戦コミュニティの現代的な、作戦を中心とした任務を重視する一方で、多くのアメリカ人が文化的に歴史に無関心であったり、無知であったりすることを考えると重要であった。そして実際に、NIPPの調査では歴史を見事に統合・凝縮し、それ元に「一般的なポイント」の土台としている。その結果、特殊作戦の戦略的有用性について、2つのマスターと7つの主張(力の経済性、選択肢の拡大、革新、士気、能力の紹介、安心感、敵の屈辱、エスカレーションの制御、未来の形成)が生まれた。彼のこの分析の力は、どれだけ頻繁に引用されているか、また、いまだに否定されたり置き換えられたりしていない、という事実からもうかがえる。 『戦略の探求』の各章に続いて、グレイは1999年に「パラメーターズ』(Parameters)誌に「絶望的な冒険をする一握りの英雄たち」というさらにこの分野に資するような記事を書いている。グレイはこの問いかけに的確な分析と文章で答え、特殊作戦に関する著作にありがちな、ミッションや人格に焦点を当てた回りくどい議論を切り抜け、問題の分析上の核心を明らかにした。彼は戦略的効果を生み出すために特殊作戦を成功させるための11の相互依存的な条件として、政策要求、政治、実現可能な目標、戦略、心の柔軟性、代替案の不在、敵の脆弱性、技術的支援、戦術的能力、評判、歴史、という要素を挙げて分析を行った。 これらのグレイの研究は、理論的にも戦略的にも、特殊作戦というテーマについての学説の標準的な「入口」となっている。私自身を含め、このテーマに関する本格的な学術論文は、すべてグレイの先駆的な著作を参考にしているが、それに取って代わるものではない。 ▼巡礼 グレイの特殊作戦との接触を「巡礼」の一形態として分類することは、個人的にも、スタイル的にも、知的にも、さまざまなレベルで有効だといえる。個人的なレベルでの「巡礼」とは、彼自身が個人的に大きな親近感を抱いていたアメリカに最初に定住したヨーロッパ人のことを意味している。彼はアメリカが歴史的記憶喪失などの欠点を抱えていることは認識していたが、それでもアメリカを尊敬し愛していたのだ。次の「巡礼」は、文体的にはアリタレーション(子音の繰り返し)として機能している。しかし最も重要なことは「巡礼」が研究対象としての特殊作戦における重要な側面を捉えていることである。 グレイは特定の場所、つまり「戦略」という目的に向かう知的旅行者という意味での「巡礼者」であった。彼にとってこの道は決して一本道ではなく、彼の興味は多岐にわたるため、特殊作戦を含むいくつかの脇道に寄り道していた。彼の最も立派な資質の一つは、その時々の知的テーマに対するエネルギーと熱意であり、特に博士課程の学生たちの研究テーマに触発されたり、それと一致した場合には、かつてのテーマを再訪することもあった。 グレイが特殊作戦に関する論文を発表しなくなってから16年が経過したが、その間も彼は特殊作戦に関する講義や議論は続けていた。彼の巡礼は続き、特殊作戦に関する彼の進化した考えや観察を一冊のモノグラフにまとめた。彼は自分の持続的な関心について次のように述べている。「何年も前に筆者は、特殊作戦の理論になるかもしれないものに取り組み始めたが、当時(1990年代初頭)は公式な関心がなく、個人的な優先事項が重なったため、筆者はこの課題をそれ以上追求することはなかった」 このモノグラフは、2015年に米国特殊作戦司令部(USSOCOM)の教育部門である「統合特殊作戦大学」(JSOU)の要請を受けて出版された。「戦略効果のための戦術的な作戦:通貨換算の課題」( Tactical Operations for Strategic Effect: The Challenge of Currency Conversion)と題されたこの作品は、クラウゼヴィッツの「現金」と「商業」の比喩のひとつに由来する、グレイの他の多くの作品に見られる共通の一般的な理論的テーマを使って論じられている。 このモノグラフは、グレイが考えていた大きな獲物に近づくための「隠れ馬」であった。それは特殊作戦に関するより実質的な理論書であり、「そうでなければおそらく気づかれない可能性について理解の扉を開くためのもの」であった。彼の議論の特徴は、特殊作戦に関するたった50ページの論文の中で、一部の学者が400ページ近くかけて語るよりも、より辛辣かつ意味深いことを語っていることだ。そのためのキーワードは、何よりもまず、「概念の明確さ」にあった。 このような明確さの必要性は切迫していた。グレイの警告は9.11事件以降の10年間において時宜を得たものとなったのだが、その理由はいくつかある。世間では、映画、テレビ番組、ビデオゲーム、書籍などの形で、特殊作戦への憧れが熱を帯びていた。さらに、政治指導者たちは、確実な危機対応の手段として、また国家安全保障上のリスクを管理する方法として、ますます特殊作戦部隊に依存するようになった。多くの国民、そして多くの政治指導者たちは、特殊作戦の神秘性に惹かれ、特殊作戦で達成できることやそれを実施する人々を神話化した。 だがグレイは、以下の2つの恒常的な問題に悩まされていた。1つ目は、戦術と戦略の関係を区別することだった。特殊工作員を含め、最善の計画と実行による戦術的行動が戦略的な成果を保証するものではないことは、アフガニスタンとイラクでの数十年にわたる活動を経た欧米の経験から痛いほど明らかだ。特殊作戦を実行する者は、この戦略の中核となる真実を認識し、思い起こす必要があった。 2つ目は、1つ目と密接に関連しているが、特殊作戦の概念的な理解や、そこから派生したアイデアの応用が乏しく、ほとんど進んでいないことである。このモノグラフの中の最も強力な提言として、彼は以下のように述べている。 (USSOCOM)は、現在、無秩序に支配されている混乱の多くを取り除くために、数が明らかに少ない一流の戦略理論家たちの支援を求めている。SOFのプランナーとオペレーターは、自分たちが何をしているのか、そしてさらに緊急に、なぜそれをしているのかについての理解を深める必要がある。問題を過小評価する恐れがあるため、筆者は、USSOCOMの制度的要求のうち最も緊急性の高いものは、残念ながらその組織の力では満たすことができないと主張せざるを得ない。具体的には(米国特殊作戦部隊は)米軍の発展に必要な効果を達成するための戦略的センスを持った、おそらく数人しかいない人々による指示とリーダーシップを持続的に必要としている。 彼の提案はいささか耳を貸さなかったか、もっと寛大に言えば、進行中の作戦に明け暮れる組織内の人々に見過ごされていたことを、彼は特殊作戦に関する最後の出版物の中で指摘している。この著作は、2016年8月にタンパの統合特殊作戦大学で開催された、特殊作戦理論に関する会議をもとにした論文集の序文である。グレイは特殊作戦に関する「戦略的センス」の欠如が続いていること、特に行動と政治的効果を結びつける理論のミッシングリンクを指摘している。 戦術的な卓越性が戦略的に不十分であるという彼の指摘は、USSOCOMが議会に義務付けられた「文化と倫理の包括的レビュー」への報告書の中で痛感されていたものであり、政治的な方面からの特殊作戦への強い要求と、任務の重視と「行動への偏り」が、作戦要員たちの数々の不安な事件や行動の要因であると指摘されている。 グレイの巡礼には、タンパで開催されたJSOUの理論会議に出席して発表することは含まれていなかった。あいにく健康上の理由からそのようなことはかなわなかったのだ。運が良ければ、特殊作戦に関する新たな知見や、現在の用語でいうところの「データ」を得ることができたはずだ。だが彼は、巡礼の目的地である「特殊作戦の一つの、もしくは決定的な”理論”を生み出す」ところまでは到達できなかった。 ▼プラグマティスト グレイの作品が特殊作戦の分野で影響力を持ち続けているのは、その先駆性や探究心だけでなく、実に多くの理由がある。それは、哲学的で時代を超越した探究心を持ち、世間の注目と知的流行という2つの力に対抗していること、アイデアと幅広い歴史的経験を巧みに合成して、特殊作戦の有用性と有効性の概念的本質を戦略的に抽出していること、そして読者である特殊作戦のコミュニティを常に念頭に置き、アイデアを明確かつ簡潔に提示し、わかりやすく整理していることである。 グレイの分析的な傾向を反映して、これらの資質は「プラグマティズム」(実用主義)と要約できるだろう。このプラグマティズムは、理論や戦略に対する彼の考え方を反映したものである。言い換えれば、特殊作戦に関する文章は、戦略に関するものと同様に、そのテーマの功利主義的な性質を反映したものでなければならないということである。 このプラグマティズムは、彼の特殊作戦に関する著作に十二分に表れている。その一方で、グレイは敬愛していたカール・フォン・クラウゼヴィッツのアプローチを反映した、より記述的で哲学的な探究に知的好奇心を惹かれるようになっていた。だがグレイはより処方箋的で職業的な表現の価値も理解していた。自分の考えを実践する人には、要約や教訓、そしてもっと広く言えば、複雑なテーマに対する実証主義的なアプローチが最適であることを彼は示した。グレイの考えでは、特殊作戦の通貨を戦略的効果に変換することを含め、戦略に関するあらゆる問題は、数多くの障害に直面する信じられないほど困難なものであるが、理論と歴史的知識に精通し、自らの経験に基づけば、最終的には克服できるものである。 彼の著作は、彼の表現力もさることながら、特殊作戦コミュニティの人材の性質を反映して、今後も魅力的なものになるだろう。特殊作戦員は極めて実用的であり、「混沌の達人」であることに加えて、戦術的、作戦的に問題を解決することに長けている。特に、国防総省とUSSOCOMがいまだに理解しようとしている現在と将来の大国間競争における特殊作戦員の価値、有用性、そしておそらく最も重要なことは、その限界と役割について対話が行われる場合には、である。言い換えれば、グレイの著作は、概念的、戦略的、政治的に困難な領域で特殊作戦部隊の隊員たちを照らし、教育し続けるだろう。とりわけ概念的にも戦略的にも不確実な状況に置かれている特殊作戦・政策コミュニティにとっては、具体的な価値を持つことになる。 ▼結論 博士課程の学生(私もその一人だった)たちの間で、グレイはいくつかの非公式なニックネームを持っていました。"the Master "とか "the Great Man "なとである。特殊作戦研究へのグレイの貢献についての短い議論を終えるにあたって、逸話によって彼を追悼したり、学者として、教育者として、戦略家としての私の成長と進化に彼が与えた貢献に敬意を表したりしたくなる。しかしこのような逸話や賛辞は彼にはふさわしくない。むしろグレイは、戦略家や批判的思考者の重要な質問である「なぜ」という質問への答えを期待していただけでなく、それを要求していたのである。ではグレイはなぜ特殊作戦の研究に力を注いだのだろうか。皮肉屋なら「金になるから」と結論づけるかもしれないが、それではグレイが特殊作戦について繰り返し書いてきたことや、持続的な関心を持っていることの説明にはならない。この記事では、2つの可能性のある、そしておそらく彼自身も認めるであろう、相互に関連した理由を考えてみたいと思う。 グレイの著作全体を見渡してみると、特殊作戦は彼の「戦略と人間の関係」に関する考えの核心に訴えるものであったことがわかる。さらに具体的に言えば、戦略が困難で複雑で摩擦に満ちているのは、まさにそれが人間の行う行為であり、危険やそれに対する個人や集団の反応、その他の環境要因に満ちているからである。特殊作戦はオペレーター中心のものであり、リスクと摩擦を軽減し、異例の解決策を考案し、その過程で不可能と思われることを達成するために「人間」という存在に重きを置いている。特殊作戦とその極めて人間的な存在による働きは、グレイが生きている間に見られた戦争の性格の変化、すなわち技術的な複雑さ、破壊性、戦争の影響範囲の増大、冷徹な分析と機械論的な戦争観へと急速に陥る可能性のある評価の変化を考えると、一層魅力的なものであった。つまり特殊作戦ほど、この事実を表現し続けているものはない。 戦略や戦争という広い現象の中での手法としての知的な魅力に加えて、グレイは感情的なレベルでも、特殊作戦に魅力を感じていた。個人的には、特殊作戦はロマンチックな部分に魅力を感じていた。彼はある種の目的を崇高で正しいものと考えていたが、歴史小説、特にリチャード・シャープという人物を描いたバーナード・コーンウェルのシリーズを、小説と映画の両方で貪欲に消費していた。 また、本だけでなく「歴史的なミニチュア」を集め、友人にプレゼントすることにも情熱を傾けていた。グレイと同じように、多くの人が特殊作戦に魅了され、その英雄的な資質に惹かれている。驚異的なヒロイズムと勇気の代名詞である "Boy's Own "の側面は、グレイの心の一部を刺激したに違いない。幸いなことにグレイはこの感情的な側面を、優れた歴史的・理論的知識と鋭い分析力で和らげ、まだほとんど存在しない分野に客観的な洞察を与えてくれたのである。 グレイの期待に応えるために十分な注意を払った上で、冒頭の私自身の誓いと文体や慣習を破って、異例のことだが、一人称で簡単な賛辞を述べさせていただく。先生には多くのことでお世話になった。その中には、理論と特殊作戦を結びつけた最初の本を生み出すことになった博士課程の研究に導いてくれたことも含まれる。本誌のこの特集に登場する人たちを含め、多くの人が、彼の知性の強さに惹かれた。それは、アドバイス、機会、時間などに対する驚くべき寛大さ、驚くべきウィットと知識の深さ、「インピッシュ」という言葉では半分しか伝えられない遊び心のあるユーモア、そして戦略のビジネスや学術的なテーマを真剣に受け止めながらも自分のことは考えないという能力だ。あなたと一緒に学んだ "私たち少数の勇者 "が、あなたが私たちに与えてくれた大きな信頼と信用に報い続けることを願うばかりだ。 === グレイはたしかにこの分野ではパイオニアでしたが、サイバーや宇宙と同じように、そもそも特殊作戦部隊には秘密なことが多いので資料を元に学術研究ができないという点が理論の構築を難しくしているという意味であまり理論を発展させられなかった、ということなのかもしれませんね。 何にせよ、この分野の理論はその珍しさもあって実に興味深いものです。 (崖の上の野良馬) ==== ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜最新作! 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜 ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2021-12-18 01:29
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