プーチンの狙いはウクライナへの軍事侵攻? |
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2022年 02月 08日
今日の恵比寿駅の上空は曇っていましたが昼過ぎに晴れてきました。それにしても相変わらず寒いですね。 さて、欧州政治の専門家で「アフターヨーロッパ」でも有名なブルガリア出身のクラステフが今回のウクライナ案件について興味深い視点を提供しておりましたのでその試訳を。 === By イワン・クラステフ 22-2/3 NYタイムズ もちろんこの話はジョークだ。だがこれは、ウクライナ情勢をめぐる米欧間の認識の不一致を端的にとらえている。米国と、先週の水曜日に東欧への米軍配備を正式に承認したバイデン大統領にとって、プーチン大統領率いるロシアの侵攻は「明確な可能性」である。 ところが欧州にとってはそこまでではない。ドイツのある上級外交官は、この見解の違いを、以下のように要約している。「米国はプーチンが本格的な戦争を仕掛けてくると考えているが、欧州はプーチンがハッタリをしかけているだけだと見ている」。 この見解の違いは、当然といえば当然かもしれない。結局のところ、西ヨーロッパの一般市民にとって「本格的な戦争」とは、エイリアンが侵攻してくるような事態と同じくらい想定外のものだからだ。西ヨーロッパでは何十年にもわたり平和が続いており、ロシアの石油とガスに深く依存していることもあって、当局者たちは「ロシアの攻撃的な動きは策略に違いない」と考えているのだ。 しかし、このようなロシアに融和的な欧州の傾向は、当初警戒していたウクライナ当局者が今では欧州と同じ見解を持つようになったことを説明できない。先週のことだが、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦争の脅威を軽視し、状況は「危険だが、あいまいだ」と示唆している。自国の国境のすぐ向こう側で13万のロシア軍に脅かされている国としては実に驚くべき評価なのだ。その背景には何があるのだろうか? その答えは驚くべきものであり、逆説的ですらある。ヨーロッパ人とウクライナ人たちがロシアのウクライナへの大規模な侵攻に懐疑的なのは、彼らがプーチン氏に対してアメリカ人よりも温和な見方をしているからではない。実態はその逆であり、彼らはプーチンをより悪意のある存在として見ているからである。「クレムリンは戦争をやろうとしているわけではない」というのがその理由だ。 つまり彼らは今回の軍備増強は「西側諸国を不安定にするために考案された広範な戦術だ」と考えているのだ。ヨーロッパにとって「戦争の脅威」は「戦争そのもの」よりも破壊的になる可能性があるからだ。 米国と欧州諸国は、プーチン氏が望んでいることについては意見が一致している。クレムリンは冷戦後の秩序を破壊し、1990年代からの象徴的な脱却を望んでいるのである。 もしそれが実現すれば、ポストソビエト空間におけるロシアの勢力圏を認め、西欧の価値の普遍性を否定する、新たな欧州安全保障のアーキテクチャーが誕生することになる。つまりプーチン氏のゴールは「ソ連邦の復活」ではなく、自分のイメージする「歴史的なロシアの回復」である。 ワシントンやブリュッセルには、このメッセージは伝わっている。大西洋の両岸の一般的な合意は「クレムリンが次に何をするかはわからないが、じっとしていられない」というものだ。ロシアが単純に引き下がることはないだろう。 しかし、アメリカ人は「プーチンがその壮大な野望を実現するためにウクライナでの熱い戦争を必要としている」と考える傾向がある一方で、ヨーロッパ人やウクライナ人たちは「プーチンにとって役に立つのは、国境での部隊のプレゼンス、エネルギーの流れの武器化、そしてサイバー攻撃のようなハイブリッド戦略だ」と考えているようなのだ。 これには根拠がまったくないわけではない。ロシアがウクライナに侵攻すれば、逆説的ではあるが、現在のヨーロッパの秩序が保たれる可能性があるからだ。NATOは積極的に対応し、厳しい制裁を加え、断固として結束して行動せざるをえなくなってしまうからだ。プーチンは対立を激化させることで、敵対者たちをまとめてしまうのである。 ところが手出しをしなければ、それとは逆の効果を生み出すことになる。なぜなら侵攻を伴わない最大限の圧力は、NATOを分裂させて麻痺させることになるかもしれないからだ。 そのわかりやすい例がドイツだ。今回の危機が起こる前のドイツは、ヨーロッパにおけるアメリカの最も近い同盟国であり、モスクワとの特別な関係を誇り、東・中欧にとって最も重要なパートナーであった。しかし現在のワシントンでは、ドイツがロシアに本気で立ち向かおうとしているのかを疑問視する声が上がっており、ベルリンとモスクワの関係は急速に悪化し、東欧の多くの人々はドイツが自分たちの支援に消極的であることに苛立ちを覚えている。 プーチンが実際に侵攻するかどうかを明らかにすることなくこのまま瀬戸際外交を続けるとすれば、ドイツが陥る苦境は今後の状況を占う上で一つのヒントになる。 それでもドイツを取り巻く世界は変化している(ウォールストリートジャーナル紙のドイツ特派員、ボジャン・パンスフスキーは「ドイツは、駅が火事になっても停車し続けている列車のようだ」と私に語ってくれた)。 今日、地政学的な面での強みは「どれだけの経済力を行使できるか」ではなく「どれだけの痛みに耐えられるか」によって決定される。なぜなら冷戦時代とは異なり、敵は鉄のカーテンの向こう側にいる存在ではなく、貿易の相手国であり、ガスを買っている国であり、ハイテク製品を輸出している相手国なのだ。ソフトパワーはレジリエンスに取って代わられたのだ。 これはヨーロッパにとって問題だ。もしプーチンの戦略の成否が「欧米社会がエネルギー価格の高騰や情報操作、政情不安といった圧力に長期にわたって耐えられるかどうか」で決まるとすれば、彼は有利な立場にあるといえる。 現状では、このような問題に対処するヨーロッパの備えは著しく不足している。欧州全体の焦点とすべきなのは、このような状況を、軍事力への投資、エネルギーの多様化、社会的結束の強化を通じて改善することだ。 欧州の人々が「ロシアのウクライナ侵攻は不可避というわけではない」と考えるのには一理あるし、それが最も可能性の高いシナリオではないと考えるのも決して間違ってはいないのかもしれない。だが、レジリエンス(回復力)への備えを無視できると考えてはいけない。 ロシアのことわざに、以下のようなものがある。「クマをダンスに誘ったら、その終わりを決めるのはあなたではない。決めるのはクマだ」 ==== アメリカと欧州(そしてウクライナ)の間の見識の違いについてうまい説明ができている意見記事です。 ただしここでの問題は、もしこのような分析が正しかったとしても、政策担当者はロシアが軍事侵攻をしてくる可能性を否定せず、その脅威を額面通りに受け取って備えなければならない、という点ですね。 それにして最後のことわざは「クマ(ロシア)が決定権をもっている」ということでしょうか。21世紀型の政治になれきっていると、19世紀型の世界観を持っているロシアにいいようにやられてしまう、という警告とも言えますが。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-08 14:03
| 戦略学の論文
2022年 02月 04日
今日の横浜駅は雲が多いですがなんとか晴れております。 さて、久しぶりにテクノロジーに関する記事の試訳です。だいぶ古い記事ではありますが、その内容は古くなっておらず、講義などでも使っている考えさせてくれるものです。 ==== By トリスタン・ハリス 19-12/5 NYタイムズ 10年前、ハーバード大学の教授で社会生物学の父として知られるエドワード・O・ウィルソンは「今後100年間に人類が直面する危機を解決することができるか」と問われて、「もしわれわれが正直で賢いのなら可能だ・・・だが人類にとって最大の問題は、旧石器時代の感情、中世の制度、神のような技術を持っている点にある」と答えている。 このウィルソン氏の観察以降もテクノロジーの神通力は劇的に増大し、一方で私たちの脳の古代の旧石器時代の衝動は変わっていない。 ところが今日のテクノロジー企業、つまりFacebookやGoogleのようなデジタル・インフラ企業が、私たちの脳のキャパシティーを圧倒してしまったという不満が投げかけられることは少ない。むしろ聞かれるのは、テクノロジー企業が私たちの個人データを収集し、追跡しているという懸念や、そのような企業がただ単に巨大になりすぎているという懸念の方だ。 たとえば私たちがプライバシーの問題を解決できたと仮定してみよう。この新しいユートピアでは、私たちは自分のデータをすべて所有することになり、テクノロジー系の巨大企業たちはネット情報から私たちの居場所を追跡するのを禁じられ、私たちが共有に同意したデータにのみアクセスできるのだ。 気味の悪い広告を目にすることは減り、監視されているという心配は減るかもしれないが、オンラインの世界に関連した厄介なトレンドは対処されずに残るだろう。 社会承認や「いいね!」ボタンへの中毒は、私たちの注意力を破壊し続けるだろう。私たちの脳は相変わらず侮辱的な怒りのツイートへと引き込まれ、民主的な議論は子供のような「言った言わない」という水掛け論に取って代わられるだろう。ティーンエイジャーたちは、ネット上の社会的圧力やネットいじめにさらされ、精神的な健康を害されたままとなるだろう。 アルゴリズムによって過激主義や陰謀論に向かう「ウサギの穴」が作られ続けるだろう。なぜなら、人間の編集者に時間を割いて何が価値あるものかを判断してもらうよりも、自動化したほうが安上がりだからだ。そして孤立したオンライン・コミュニティで育まれた過激なコンテンツは、銃乱射事件を引き起こし続けるだろう。 このように20億人の頭脳に影響を与えることで、今日のソーシャルメディアは世界の歴史を動かすものとなる。ソーシャルメディアが解き放った力は、将来の選挙や、事実とフィクションを見分ける能力にまで影響を与え、社会の分裂を増大させるだろう。 ネット上のプライバシーは、取り組むべき問題であることは間違いない。だがどんなに優れたプライバシー保護法も、旧石器時代の感情がテクノロジーの誘惑に抵抗できる程度にしか効果がないのだ。 FaceAppというアプリは、最近、1億5000万人の虚栄心に訴えかけ、本人たちの名前と一緒に顔の画像を提供するように仕向けた。これがなぜ可能であったのかといえば、このアプリは何年も先の未来に登場するような、超高精度の肖像画を作成する機能を提供したからだ。ではこのアプリ(と1億5000万人の名前と顔)を提供しているの誰なのかといえば、サンクトペテルブルクにあるロシアの企業なのだ。 人々の虚栄心を刺激することができれば、人々は自分の顔をスキャンした情報を喜んで提供してくれるのだ。わざわざ選挙をハッキングしたり、有権者の情報を盗んだりする必要などなくなってしまう。 旧石器時代の衝動を持っている私たちは、テクノロジーの恩恵に抗うことができないのである。しかしこれは、単に私たちのプライバシーを損なうだけではない。集団的に行動を起こす能力も損なわれているのだ。 この理由は、旧石器時代の脳が世界の苦しみを全知全能で把握するようにはできていない、という点にある。私たちのオンライン・ニュース・フィードは、世界のあらゆる痛みと残酷さを集約し、私たちの脳を一種の学習性の無力感へと引きずり込んでいる。それに見合うだけの媒介を持たずにほぼ完全な知識を提供するテクノロジーは、そもそも人間的ではないのである。 旧石器時代の私たちの脳は、真実を追求するようにはできていない。自分の信念を確認するような情報は私たちを気持ちよくさせるものであり、自分の信念に挑戦するような情報は不快なのだ。 私たちがクリックするものをより多く与えてくれる巨大テクノロジー企業は、本質的にわれわれを分断するものだ。そのような企業が誕生してから数十年がたち、テクノロジーは社会をそれぞれ異なるイデオロギー世界に分裂させたのだ。 簡単に言えば、テクノロジーは私たちの頭脳を凌駕し、世界で最も差し迫った課題に対処する能力を低下させたのだ。このミスマッチを利用した広告ビジネスモデルが(人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つとする)「アテンション・エコノミー」を生み出した。その見返りとして、私たちは人間性を「無料」まで格下げしたのだ。 このような状態は、われわれを深刻なほど不安定な状態に追いやることになる。20億の人間がこのような環境に閉じ込められ、「アテンション・エコノミー」が私たちを自らの生存に不適応な文明へと変えてしまったからだ。 だが良いニュースもある。われわれは自分たちの脳と自分たちが使うテクノロジーとの間にあるこのミスマッチを認識できる、唯一の自己認識できる生き物だということだ。つまり、私たちはこうした流れを逆転させる力を持っている存在なのだ。 ここでの最大の問題は、われわれがこの挑戦に立ち向かえるかどうかであり、自分自身の内面を深く見つめ、その知恵を使って根本的により人間的な新しいテクノロジーを生み出せるかどうかということだ。過去の賢人たちは「汝自身を知れ」と言った。われわれは自分たちの限界を正直に理解することでは、神のようなテクノロジーを再び調和させなければならないのだ 以下は抽象的な話に聞こえるかもしれないが、具体的にわれわれが取り組むことができるものだ。 第一に、政策立案者はハイテク企業に対して特別な税、すなわち「格下げ税」を創設するのだ。この税は、われわれの注意力を引き出し、消耗させることに基づく彼らのビジネスモデルを法外に高価なものにする一方で、ジャーナリズム、公教育、人間の価値や社会への貢献を優遇する新しいプラットフォームの創造に富を再分配させるものだ。 第二に、われわれを依存症でナルシストな過激派に変えることで利益を得る無料のソーシャルメディア・プラットフォームに参加する代わりに、画面の外で我々の生活に力を与える機能のために「いいね!」を避けるサービスに購読料を支払うことに同意し、これらのサービスを本質的に人類の最善の利益のために働くような受託者にさせるのだ。 第三に、デジタル・プラットフォームには、悪意のあるバイラル・コンテンツや「ディープフェイク」(人工知能によって本物に見えるように加工された動画)などのテクノロジーの歪曲による偽情報を広める代わりに、私たちを守るメディアインフラを抜本的に強化させるのだ。 2020年の米国大統領選挙の候補者たちは、テクノロジーが我々の頭脳を凌駕しようとする競争がもたらす脅威について自らを教育すべきであり、ニュースメディアは彼らの責任を追及しなければならない。どの大統領も「アテンション・エコノミー」の問題に取り組むことなしに、選挙公約を効果的に実現することはできない。 人間的な技術を作るためには、人間の本質を深く考える必要があり、それは単にプライバシーについて話すこと以上のことを意味する。つまり精神面で大きな改革を迫られる時がきたのだ。私たちは、自己認識や批判的思考、理性的な議論や考察といった人間の持つ長所と、弱点や脆弱性、そして自分自身でコントロールできなくなった部分を理解する必要があるのだ。 テクノロジーと和解する唯一の方法は、自分たち自身と和解することなのだ。 ==== テクノロジーの進化と人間のミスマッチを説いた、実に興味深い論考です。テクノロジーは単なるツールだという意見もありますが、社会を大きく変えるだけでなく、人間の本質そのものを暴き出しているという点は考えさせられます。 さらにもう一歩踏み込んで考えると、やはり人間はテクノロジーによって変えられているとも言えます。 新しいテクノロジーの登場と、それによって変化する将来戦を考える際には、ここで触れられた論点は実にさまざまなヒントを与えております。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 (フィリピンを望む) ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-02-04 12:43
| カルテク
2022年 01月 31日
今日の横浜駅は快晴です。それにしても寒いですね。 さて、ウクライナ案件で東アジアのわれわれにとっても気になるのは、それが中国の問題、とりわけ台湾有事のシナリオとリンクしているのかという話ですが、アメリカの若い研究者がそのテーマに正面から切り込んだ意見記事を書いておりましたので、試訳でご紹介します。 === 22-1/27 WOTR byカーリス・テンプルマン ロシアのウクライナ周辺への軍備増強は、冷戦終結後のロシアと西側諸国との関係において最も深刻な危機を引き起こした。ウクライナとの国境付近には10万人以上のロシア軍が配備され、いつでも大規模な軍事攻撃を行える態勢が整っている。 こうした動きは欧州の安全保障だけに影響するもののように見えるが、アメリカの論者たちからは早くも台湾との類似性が指摘されている。たしかに台湾はウクライナと似ている。なぜなら両方ともユーラシア大陸の独裁大国からの存亡の危機に直面しており、強制力を行使されない状態をアメリカが維持しようとしている、欧米志向の民主国家であるからだ。 ウクライナも台湾も、アメリカが領土奪取のために軍事力を行使することを禁じる国際規範をどこまで守るつもりがあるのかを試す重要なケースとして位置づけられている。論者の中には「ウクライナへの軍事行動に対応できなければ、米国の信頼性が低下し、中華人民共和国による台湾への攻撃を招く」として両者の運命が連動しているという見方をする人もいる。 だが端的に言って、これはかなり雑な分析である。現在の地政学的状況では、ウクライナと台湾との違いは、その類似性よりもはるかに重要であり、両国が直面する安全保障上の脅威を結びつけることは、むしろ双方の状況を悪化させることにもなりかねない。 アメリカは、今後10年間で軍事バランスが中国に有利にシフトしつつある「インド太平洋地域」から、自分たちの国益にとって重要度が低く、パワーバランスがアメリカ側に有利な地域に、限られた資源を流用し続けるべきではない。台湾の安全保障にとって本当に重要なのは、アメリカの「評判」ではなく「優先順位」の方なのだ。 ▼台湾は特別なパートナー この比較は、なぜものごとを明確化するよりも不明瞭化するのだろうか?そのためには、まずアメリカの他国への関与の歴史を考えてみよう。ウクライナに対するアメリカの安全保障支援は最近になってからはじまったものであり、限定的であり「冷戦後のヨーロッパの安全保障秩序に対するロシアの挑戦」という広範な懸念に包含されるものである。 しかし、台湾に対するアメリカの権益は深い。台湾が事実上の独立国家として今日存在できているのは、1950年6月にトルーマン政権が台湾海峡を越えた中国の侵攻を防ぐために介入したからだ。それ以来、アメリカは台湾の安全保障上の主要なパートナーであり、軍事援助、訓練、武器売却の供給源となっている。 またアメリカは、台湾が「貧しい軍事独裁政権」から「豊かな自由民主国家」になるのを支援してきた。1950年代初頭の援助は、台湾の国民総生産の10%を占め、アメリカの顧問は土地改革と経済の安定化を推進する上で重要な役割を果たした。その後、アメリカは台湾の輸出企業にアメリカ市場への優先的なアクセスを認め、台湾の経済は急速に拡大し、現在では購買力調整後の一人当たりの国内総生産はドイツと同レベルに達している。 このような長期にわたる関与の歴史は、中国が台湾を攻撃した場合のアメリカの世界的な評判と影響力への影響が、ロシアのウクライナに対する攻撃の場合よりもはるかに大きなものとなることを意味する。 ▼ 中国はロシアではない 次に、敵対者としての違いを考えてみよう。ロシアは、利害関係も戦略も戦術も、中国とは根本的に異なる。2000年以降、一人の強者が支配する衰退した国であるプーチン政権下のロシアは、どうしても手持ちのカードが弱い。 プーチンの積極的な対外行動は、ロシアの安全保障を強化するためではなく、主に国内の地位を向上させる必要性に駆られてきたものだ。プーチンは、EUやNATOの既存の制度を弱体化させ、分裂を促す一方で、東欧の大部分がロシアから西側へ方向転換することをほとんど阻止することができなかった。われわれがロシアについて、ワルシャワやプラハ、ブダペストなどに対する脅威ではなく、キエフに対する脅威について語っていることがその何よりの証拠である。 それとは対照的に、中国は台頭しつつある大国であり、その指導者たちは時間が自分たちの味方であると信じるだけの理由がある。中国経済はすでにインド太平洋地域で最大であり、世界でも第2位であり、この30年間、既存の世界経済と安全保障の仕組みから多大な恩恵を受けてきた。ロシアの行動とは対照的に、国際秩序を修正しようとする中国の動きは、既存のグローバルな制度を利用し、自らがコントロールできる補完的な制度を構築すること、つまり「取り壊す」のではなく「建設するもの」がほとんどである。 このような2つの異なる軌道をたどってみると、アメリカがそれぞれで国益を増進するための戦略も根本的に異なってくることがわかる。 ロシアはすでに国際法や規範に反してウクライナ領土を占領・併合し、ウクライナ東部の紛争で戦う代理勢力を支援しており、1万4000人以上の命を奪い、その国際的評価と国益に多大な損害を与えている。 中国は台湾に対してそのようなことはしておらず、その脅威は軍事的なものと同じくらい経済的、外交的なものである。例えば、人民解放軍がこの地域を不安定にし、台湾やアメリカに譲歩させようと思えば、金門と馬祖の脆弱な沖合諸島(前者は厦門市街からわずか30キロ)をすぐに奪取できるが、これらの地域は依然として台湾の管轄下にある。 同様に、中国軍が台湾の領空付近で定期的に行っている目立った演習は、主に台湾とアメリカの指導者にシグナルを送ることを目的としており、領土の奪取や維持、侵略の予兆を示すものではなかった。また、これまでのところそれらが人命の損失や直接的な紛争に発展したことはない。 むしろ中国の戦略の最も特徴的な点は、両岸の現状を徐々に変化させるために、非軍事的な手段に頼っていることだ。北京の台湾政策は、好まないタイプの、あるいは信頼できないタイプの台湾の指導者に直面した場合でも、「ハード」な外交・軍事圧力と同様に「ソフト」な経済的誘導を重視し、台湾への影響力を高めてきた。 この戦略には、台湾の人々と同様に、アメリカ国民を対象とした執拗で多角的な「プロパガンダ・キャンペーン」も含まれている。このキャンペーンは、中国共産党が好むシナリオを強調しようとするものである。すなわち「台湾は中国の神聖な領土であり、中国は両岸の統一のためならどんな犠牲も払う」というものだ。そして「衰退する米国は、台湾の公約から手を引くべきである。なぜなら、台湾は常にアメリカ人よりも中国人にとって重要なものだからだ」というものである。 これはロシアのものとは全く異なるメッセージを発している。中国のそれは、より忍耐強く、より洗練されたものであり、対抗するのが難しい。アメリカの政策立案者は、世界の他のホットスポットでアメリカのコミットメントを過剰に拡大することによって、それにまんまと乗ってしまう危険性がある。 ▼アメリカは台湾にさまざまな権益を持っている 台湾におけるアメリカの権益の範囲と深さは、ウクライナのそれを凌駕している。台湾は世界の商業界で圧倒的な強さを誇る経済大国であり、その経済は他の東アジアや北米と密接に絡み合っている。2020年の台湾は、アメリカにとって第9位の貿易相手国であり、物品とサービスの双方向貿易で1,060億ドル(約11兆円)であった(ウクライナは67位で、39億ドル)。 また、台湾は世界で最も戦略的に重要な企業であるTSMC社の本拠地でもあり、半導体技術で圧倒的なリードを築き、同社は今や世界のファウンドリーの収益の半分以上を占めるまでになった。 さらに、台湾は「第一列島線」の交通量の多い海路に面しており、北(日本)と南(フィリピン)にアメリカの条約上の同盟国があるという戦略的に重要な場所に位置している。もし人民解放軍が台湾を占領することができれば、アメリカの防衛能力は低下し、中国のハードパワーが増大する中で、他の同盟国やパートナーとの約束の信頼性も失われることになる。 台湾が豊かな自由民主主義国家として存在し続けることは、独裁的な中国に対する説得力のある代替案を提供することにもなる。それは、中国語圏の社会には、民主主義と自由市場資本主義が適しているということを証明するからだ。台湾の人々は、中国共産党ではなく、西洋と規範や価値観を共有しており、世界の繁栄と自由を促進するアメリカの努力の輝かしい成功例となっている。 もちろんウクライナもいつかはそうなれる可能性はあるが、もし成功したら、それはアメリカとの弱い関係ではなく、むしろ欧州連合との緊密な経済統合を通じたものだろう。 これらの理由から、もし台湾が北京の支配下に置かれた場合、アメリカの権益はロシアによるウクライナへの攻撃よりもはるかに深刻な影響を受けることになる。 ▼アメリカはウクライナでロシアと戦わなくても台湾を中国から救うことが可能 ウクライナと台湾の比較から生まれた最も疑わしい主張は、アメリカの「信頼性」を維持する必要性についての議論である。「バイデン大統領のアフガニスタン撤退が中国の冒険主義を助長する」と主張した評論家の多くが、それと全く同じ理由を使って、ウクライナへの介入を主張しているのである。 しかし、この議論は誤った前提に立っている。台湾海峡におけるアメリカのコミットメントの信頼性は、地球の裏側で異なる敵、異なる種類の脅威、異なるアメリカのパートナーや同盟国の連合に対して行うことに依存するからだ。 現実的には、台湾の安全保障にとって最も重要なのは「アメリカの評判」よりも「優先順位」である。より小さな脅威に対応するためにインド太平洋地域から資源と注意をそらすことは、アメリカが今後10年間に安全保障上の最大の課題に直面する地域の同盟国やパートナーを安心させることにはつながらない。 したがって、バイデン政権の高官がこの違いを認識しているように見えるのは心強いことである。国家安全保障顧問のジェイク・サリバンが最近のインタビューで指摘したように、アメリカの台湾に対するコミットメントは、 「一つの中国」政策、台湾関係法、3つのコミュニケに根ざしたものです。台湾関係法は他国にはなく、ウクライナにもないユニークなもので、さまざまな方法で台湾を支援するというアメリカのコミットメントを物語っております」 バイデン政権が最近行った中国の圧力に対する措置は、武器売却から二国間貿易協議、バイデンの就任式への台湾代表の招待に至るまで、結局のところ、現在のウクライナの危機へのワシントンの対応と比べても北京と台北の双方ではるかに大きな関心を集めている。 アメリカの外交評論家もこの違いに気づき、両者の運命をつなげることをやめてくれれば、台湾とウクライナの双方にとってプラスとなるだろう。 ==== タイトル通りの「ウクライナと台湾はアメリカの国益にとって優先順位が違う」ということですが、これは「ウクライナを見捨てよ」という過大解釈をされがちな意見ですね。 問題は、だからと言って「日本は関係ない」と言えず、政府としてはロシアに対しては制裁などで厳しく当たる必要があるということです。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! 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by masa_the_man
| 2022-01-31 10:18
| 戦略学の論文
2022年 01月 28日
今日の恵比寿は雲が多めですがなんとか晴れそうです。 さて、ウクライナ情勢が危険な状況になりつつありますが「それでもロシアはウクライナに侵攻しないという」というこの期に及んでは「意外」とも言えような意見を主張しているベテランのロシア経済の専門家の意見がありましたので、その試訳を。 === Q:ロシアとウクライナの戦争は間近に迫っているのか? A:何らかの誤算があれば、戦争になる可能性はある。すべてはロシアのプーチン大統領が何を考えているかにかかっているようだ。私は、ロシアの潜在的な動きについて「費用対効果の分析」という観点から考えてきた。プーチンの過去の戦争に関する意思決定のパターンを見てみると、彼はロシアの犠牲者がほとんど出ないような小規模で低コストの戦争を好んでいることがわかる。2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア併合、2015年からのシリアのアサド政権への支援介入は、すべてこのモデルに合致している。 これらの紛争で犠牲になったロシアの人命はごくわずかであり、そのほとんどは金で雇われた傭兵であった。ロシア人が犠牲になったとしても、それはクレムリンによって秘密にされていた。ロシアで最大の国家機密のひとつは、プーチン政権の下で何人の若者が殺されたかということだ。プーチンはこの数字に細心の注意を払い、それが彼の重要な政治的弱点の一つとなっているからだ。 また、こうした小規模な紛争の背景には、プーチンの側近たちが資金を調達していることもある。その費用は、そもそも国家予算から直接出ているわけではない。クレムリンの内部で何が起こっているのか、私たちは正確に知りえない。しかし、ロシア政治のトップたちが、組織的な犯罪ファミリーのように振る舞っていることは確かだ。プーチンはオリガルヒたちに向かって、「さあ、この軍事作戦の費用を払ってもらうぞ」と言う可能性が非常に高い。オリガルヒは母なるロシアに忠誠を誓って財源を使うのではなく、クレムリンから受けた恩を返すために窮地に立たされているからだ。 例えば、クリミア併合に資金を提供したオリガルヒは、ケルチ海峡を越えて半島をロシアにつなぐ橋を建設する数十億ドルの契約を受け取った。その橋の建設費が20億ドルで、オリガルヒは国から50億ドルの支払いを受けるとしよう。そしてそのオリガルヒは、クレムリンの政策課題を支援するために、30億ドルの利益の一部を国に再投資し、自分の地位を維持できるようにするのだ。 プーチン政権下の武力紛争のもう一つの特徴は、軍備を増強し、紛争に備えながら、民衆の支持を得るために国家主義的なアピールをすることである。例えば、クレムリンの支援を受けた報道機関は、2014年に「ウクライナ人がキエフから同国東部にやってきて、ロシア語を話す人々を殺すなどの残虐行為をしている」と虚偽の主張をした。 結局のところ、プーチンがウクライナと戦争を始めるとは思えないのは、現在の現実が、今並べたモデルに合致していないからだ。プーチンは大量の死傷者を秘密にしておくことはできないし、戦争に負けることは自分の仕事や首を失う良い方法であることを、歴史から理解している。ロシアは、1979年に始まったアフガニスタン侵攻の失敗をよく覚えている。この軍事的冒険がもたらした経済的、政治的ダメージは、その10年後のソビエト連邦崩壊の条件の一つとなったのだ。 その一方で、私が心配しているのは、現在のロシア軍のウクライナ国境への駐留が、偶発的な武力衝突を引き起こす可能性があるということだ。その結果として大規模な紛争に発展する可能性は、たしかに存在する。 Q:ウクライナ国境で見せた大規模な軍事力展開の背後にあるクレムリンの動機は何か? A:プーチンは「東欧におけるNATOのプレゼンスを縮小し、ウクライナをロシアの影響下に戻す」という長期的な目標をすべて公にしており、その目標に向かってひたすら邁進している状態にある。ロシアによる軍隊の増強は、ウクライナの主権に対する脅威を示しているため、西側諸国は差し迫った戦争を懸念している。そのため、米国と欧州の同盟国は「戦争を防ぐために何ができるか」を自問自答せざるを得なくなった。 バイデン大統領とプーチンとの会談はこれまでのところ失敗に終わっているが、バイデン政権側の主な関心は、クレムリンの外交政策の目標を満足させることにあった。もしウクライナ周辺にロシア軍を増強していなければ、プーチンは西側諸国からここまで注目を浴びることはなかったはずだ。 気になるところだが、プーチンは頭が良いので、相手の弱点を察知していると思われる。そして弱さを感じると、どこにでもつけ込んでくる。たとえば米軍がアフガニスタンから撤退し、同国がタリバンに蹂躙されるのを許したことに弱さを感じたのだ。 また、ヨーロッパがロシアにどう対抗するかという点で意見が一致できていない点も見ている。ドイツの新指導部はクレムリンに対して軟弱な態度をとっているが、その理由の一つは、ドイツの国民が安価なロシアの石油とガスにますます依存しているからだ。ロシアの北方鉱区からバルト海を経由してドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム2」は2021年9月に完成しており、ロシア国営エネルギー大手ガスプロムは、このパイプラインの出口であるドイツから、欧州全域のエネルギー市場でのシェアを拡大する方針である。 ウクライナでの軍備増強は、ロシアを世界の大国と位置づけたいプーチンの思惑もあるのだろう。もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう。現在クリミアにはウクライナ領以外、陸路で入ることができない。このようなロシアの侵攻は、ウクライナにとって最も戦略的な港を失う可能性が高いため、地政学的な災難となるだろう。 Q:ロシアはエネルギー資源の豊富なカザフスタンにも介入している。プーチンがカザフスタンとウクライナの両方への影響力を強めれば、世界のエネルギー市場におけるロシアのシェア拡大につながるのでしょうか。 A:ウクライナは主要なエネルギー生産国ではないが、ロシアの天然ガス輸出の半分をヨーロッパに運ぶ中心的な中継地であったため、戦略的に重要である。このような事情もあるため、クレムリンにとってウクライナに侵攻することは、少なくともノルドストリーム2が稼働するまでは得策とは思えない。もし戦争が起こり、ノルドストリーム2が稼働しないままウクライナのパイプラインが停止すれば、ロシアは高いエネルギー輸出を維持できなくなり、多額の国家収入を失うことになるからだ。 それに比べ、カザフスタンは化石燃料の一大生産国であり、多国籍企業によるエネルギー部門の運営を認めている。もし、クレムリンが国有化政策によってカザフスタンの資源を支配することができれば、ロシアは世界のエネルギー市場におけるシェアを3分の1まで高めることができる。 今のところ、ロシアがどう動くかはわからない。ロシアのいわゆる「平和維持軍」は、燃料価格の大幅な値上げをめぐるカザフスタン政府への抗議行動を鎮圧するために派遣されていたが、これをカザフスタンから撤退させることで合意したとの報道もある。 Q:ロシアは、一部の政治家や外交評論家から「ペーパータイガー」(張子の虎)と呼ばれている。私たちは、グローバルな舞台でのロシアの強さを過小評価しがちでは? これは非常に恐ろしいことだ。私は「ロシアは軍事的な意味で張子の虎である」とする議論には納得できない。彼らはいつでも我々を全滅させることができるからだ。もちろん「ロシアは経済状態が悪いので、国家の軍事力を長期的に維持することはできないだろう」という議論はできるかもしれない。しかし、かつて経済学者のジョン・メイナード・ケインズが言ったように「長い目で見れば、我々は皆死んでいる」のだ。 Q:ロシアは具体的にどのような譲歩を米国や欧州に望むのか。 A:ロシアは、NATOがウクライナやグルジアなど、ロシア領に隣接する国を加盟させないという確約を望んでいる。つまり、1948年にフィンランドがソ連と平和条約を結んだときのように、ロシアとNATOに対して「中立」を宣言することを望んでいるのだ。 私はもしこれらの国々の「フィンランド化」が実現すれば、深刻な事態になると予想している。プーチンはこれらの中立国にハイブリッド戦争を仕掛けて、急速にロシアの衛星にすることだろう。中立を宣言されれば、西側の保護と自衛のための武器獲得能力を失うことになる。 Q:このような状況下で、米国とその同盟国は、どのようにロシアに対抗すればよいのか? A:今のところは「ロシアに対して交渉によって有利な政策的結果を得ることはできない」と認識することが健全だと思う。プーチンの注意を引くことができる武器はただ一つ、プーチンがヨーロッパを支配するエネルギーの鍵となるパイプライン「ノルドストリーム2」を停止させることを目的とした非常に厳しい制裁措置だけだ。 問題は、バイデンが2021年7月にドイツのアンゲラ・メルケル首相との交渉で、ノルドストリーム2の運営会社に対する制裁を免除したことだ。同様に、先週、米上院はテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)が提出した、このパイプラインに関連する企業を制裁する法案を否決している。 ノルドストリーム2は完成しているものの、ドイツの規制当局による認定はまだ受けていない。この事実は、少なくとも事態を収拾するための希望となる。 ==== 主に経済的な面から見た、実に興味深い解説です。 地政学に関連するところでいえば「もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう」という部分が個人的には注目だと考えております。西側のロシアと地理的に争われている最前線は閉鎖海である黒海(のアゾフ海)であるためです。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 (日本の城) ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-01-28 08:38
| 戦略学の論文
2022年 01月 27日
今日の品川駅周辺はやはり寒かったのですが、午後になってから晴れてよかったです。久しぶりに対談インタビューを行ってまいりまして、大変勉強になりました。 さて、昨日のエントリーの連続ものとなりますが、フランス国防省の中国の影響工作に関するレポートの本文の中から、日本に関係する興味深い部分を試訳してみました。該当するのは401頁付近です。ぜひお読みください。 === X. その他のレバー 中国の影響力行使に用いられるその他の手段を網羅的でない形で列挙すると、市民運動、中国人観光客、インフルエンサー、人質なども加える必要があるだろう。 A. 市民運動 1. 独立推進運動:ニューカレドニアと沖縄 独立運動を奨励することは、市場シェアを回復し、潜在的な敵対国をより脆弱にしようとする北京のアジェンダに合致している。最初の例はニューカレドニアだ。2018年のニューカレドニア独立を問う住民投票では、中国の干渉が疑われた。北京は独立派の動向を注視していることが知られており、2020年の住民投票でもそれが確認された。ニューカレドニアが独立すれば、事実上中国の影響下に置かれることになるからだ。このことは、中国という一党独裁国家にとって2つの重要な利益をもたらす。 第一に、中国はニューカレドニアを「中国の反包囲戦略の要」とすることができ、同時にオーストラリアを「ヌメアだけでなく、ポートモレスビー、ホニアラ、ポートビラ、スバにも頼ることができるため」孤立させることができる。 また、中国への原材料(ニッケル)の供給も確保できることになる。つまり、北京が現地の政治・経済エリートとの関係を維持しながら、彼らの独立運動を支援する理由はいくつかあるのだ。「中国は内部から経済をコントロールし、政治家や部族指導者に近づくことで前進している。中国の戦略は完璧に整備されているからだ。このような中国の戦略は、アジア太平洋地域の他の場所でもうまくいっている」。 「中国・カレドニア友好協会」はそのような役割を果たしており、現地で統一戦線活動を展開している。 同協会の前会長であるカリーヌ・シャン・セイ・ファンは、独立主導派のリーダーであり、「その前の二人のリーダーも同協会の重要なメンバー」であることに注目すべきであろう。一般的に、中国の「ディアスポラとその代表的な組織、少なくともその一部は、一部の独立派関係者と極めて親しい」。カリーヌ・シャン・セイ・ファンは、住民投票の1年前の2017年10月に、在仏中国大使を同島に招聘している。大使は家族や何人かの顧問と一緒に同国で一週間を過ごした。「彼らは皆に会い、我々が何を必要としているかを尋ねた:観光や養殖など、関心を持てるものなら何でも提供すると言っていた」と国会議員のフィリップ・ゴメスは回想している。 もう一つの例が沖縄だ。日本には強い国民アイデンティティがあり、島国根性さえある。しかし沖縄は、第二次世界大戦中に日本軍によって琉球列島全体と同様に住民が虐待されたため、例外的な場所となっている。国民は「日本」というテーマで分裂している。親中感情は、中国との貿易で利益を得ている住民の存在によって蔓延して維持されている。北京にとって、これは付け入ることのできる「弱点」であると同時に「戦略的なチャンス」でもある。この島々のロケーションは、太平洋諸島の第ニ列島線へのアクセスを確保するのに好都合なのだ。この島々にいる日本人とアメリカ人の両方を邪魔することができれば、まさに「一石二鳥」となる。 沖縄は、米軍基地の存在を敵視する土着の独立派運動もすでに存在するため、こうした工作には好都合な場所となっている。2018年10月の知事選で玉城デニー氏(長年アメリカのプレゼンスに反対してきた)が当選したことからもわかるように、島の大多数は反東京、反中央政府である。それゆえ、沖縄県は一部部隊(海軍、空軍)の退去を主張している。将来、沖縄が一方的に独立を宣言するリスクを日本政府は重く受け止めている。 それと同時に「中国は外交、偽情報、米軍基地近くの島北部への投資を通じてこの目的を奨励している」。2013年、環球時報は日米同盟から自国を守ろうとする北京が、沖縄の琉球列島の独立回復を求める勢力を潜在的に育成し、そうすることによって日本の一体性を脅かすことになるとすでに警告を発していた。 2016年12月、日本の公安調査庁は、中国の大学やシンクタンクが沖縄の独立派活動家とつながりを育もうとしていることを明らかにした。一方、中国の報道機関は、沖縄における日本の主権を疑問視する記事を定期的に掲載している。細谷雄一教授によれば、北京は「沖縄の独立と米軍撤去を推進するために沖縄の世論に影響を与えている」という。 また、中国と沖縄の経済的な結びつきも強まっている。天然資源が豊富で、米軍施設もある沖縄の北部地域には、中国の投資家が投資している。また、近年、沖縄への中国人観光客は大幅に増加しており、中国の都市と沖縄の間に姉妹都市関係が結ばれる例も増えている。 中国政府は、旧琉球王室のメンバーにも積極的に働きかけをおこなっている。たとえば2018年には、最後の琉球王の曾孫である尚衞(しょう まもる)が中国を訪問した。 同年3月、尚衞は22人の代表団を率いて福建省を訪れ、4日間の「ルーツ探し」ツアーを行った(同時に、沖縄と中国の歴史的なつながりを探る会議も開催された)。 北京は、中国の研究者やシンクタンク(社会科学院)と、沖縄の独立派の活動家たちとの関係も進展させている。彼らを中国に招待してイメージアップし、彼らに発言の場を与えているのだ。 また、独立派や在沖米軍基地反対派は、憲法9条改正(戦争放棄)や自衛力強化に反対する左翼・平和主義活動家と合流している。したがって北京はこれらの運動も支援しており、日本の軍事的発展を阻害・抑制することで中国の思惑にうまく合致させている。とりわけ日中和解を目指す仏教団体である「創価学会」と、その政党である「公明党」がそれに当てはまる。 結果として、例えば日本の左翼活動家や平和主義者が、沖縄の米軍基地に反対する中国語の記事を共有することは日常茶飯事になっている。 ==== スペルの間違いなどはありましたが、よく調べて書かれているという印象です。 日本ではこの手のレポートは公的機関からは出てきそうもないですね。 ということで、繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらの方もぜひ。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ![]() ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ![]() ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」 ![]() ▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜 #
by masa_the_man
| 2022-01-27 00:07
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