戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の横浜北部も相変わらずの夏日でした。唯一の救いは午後少し曇ったことでしょうか。

さて、昨夜の番組でも少し触れた、米海軍大学の教授による新たな中国のシーパワー分析の記事の要約です。

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中国のシーパワーの可視化

By ジェームズ・ホームズ


海軍力を増強させるあたって、中国は様々なアイディアを使っており、それは時代の新旧だけでなく、洋の東西をも問わないものだ。


そして中国の海軍面での野望を理解しようとしている米軍のリーダーたちは、たとえば現代の車にもれなく備わっている「クランプル・ゾーン」(crumple zones:クラッシャブルゾーン) という防御システムを思いうかべることによって、この戦略をイメージできるかもしれない。


また、中国がシーパワーを蓄える際に研究している思想の中身や、人民解放軍海軍やその他の兵力が作戦・戦略面での目標を達成するために準備している実際の兵力や方法論を見ることによって、米軍のリーダーたちはその海洋戦略を理解できるはずだ。


過去の偉大な思想家たちの考えは、中国の戦略、作戦、そして戦術面の異なる面を浮き彫りすることによって、この理解の助けとなるだろう。


▼中国のシーパワー:人民解放軍海軍以上のもの


シーパワーはその国のもっている艦隊だけで考えるべきものではない。それは海軍だけの領域の話ではなくなっているからだ。空軍、陸軍、そして戦略ロケット軍などは、次第に外洋へとリーチを伸ばしており、シーパワーの陸上手段のような役割を果たしつつある。


「海軍」(Naval)とは「海洋」(maritime)の一部を構成したものであり、端的にいえば、「海洋」面での力を構成するツールの数は多いのだ。それらはすべて中国のさらに大きな「軍事戦略」の下位に属するものであり、さらには中国軍が仕えている「政治目的」に従ったものだ。


ところが常にこれがそのような状況であったわけではない。過去においては、遠い海を進んでいた艦隊同士が、制海権と、それがもたらす果実をかけて争っていた。艦隊同士は沿岸砲(射程は数マイルだった)が届かない数マイル沖で衝突しており、その指揮官たちは沿岸から離れて外洋での活動に集中していた


たとえばホレイショ・ネルソン卿のトラファルガー海戦における勝利(1805年)は、陸地から離れた水域で起こったものだ。それは純粋な「海戦」だったのだ。ところが帆船時代においても海軍の指揮官たちは沿岸砲の潜在性について少しは考えていた。英国の海戦の「神」であるネルソンでさえ、船は陸上の砦を倒すには向かないとアドバイスしている。


沿岸の砦を回避するのは、蒸気船の時代に入っても懸命な手段であることに変わりない。ユトランド沖海戦(1916年)ももう一つの艦隊同士に限定された戦いであり、イギリスの「大艦隊」はすべての船を北海に持ち寄り、ドイツの「大洋艦隊」もすべてのアセットをつぎ込み、砲撃戦を行っている。


ところが将来トラファルガーやユトランドのような戦いが起こるかというと、かなり疑わしい。長射程の精密誘導火力の出現によって、むしろ将来の戦いは、七五年前のソロモン諸島の戦いに似たものとなるだろう。この戦いでは、日米両国が半年にわたってガダルカナル島のヘンダーソン飛行場を巡って、陸海空すべての軍事力をつぎ込んで争っている。


この飛行場のコントロールをできた側は、南太平洋全域にわたる敵の海上輸送と島の基地を攻撃するための最初のポイントを獲得できるようになるのだ。陸上ベースのシーパワーは、ソロモン諸島の戦いの最大の目的であると同時に、それを戦うための最大の手段の一つでもあったのだ。


誘導ミサイル時代の到来は、陸上ベースのシーパワーの時代の到来や、そのリーチの拡大、精密誘導性、そしてその破壊力を早めただけだ。中国の戦略では、この火力革命を自らの優位としつつある。人民解放軍は、海洋面での使用可能なすべての力を中国の前進的な沿岸防衛に注ぐことになるだろう。


中国の海軍力には、空母や誘導ミサイル駆逐艦のような、戦闘艦隊を構成する目立った艦船が組み込まれている。その他にも、短距離用だが高速の警備船や、対艦巡航ミサイルを搭載したディーゼル電池式の潜水艦などがある。陸にある飛行場から飛び立つ、ミサイルを運搬する航空機も一定の役割を担うことができるし、トラックから発射する対艦ミサイルも、それと同様に「シーパワー」のツールの一つとして数えることができる。


人民解放軍は毛沢東式の「積極防衛」戦略を編み出しており、それを近年に「沖合水域防衛」と名前を換えているが、これらの海と陸をベースとしたシーパワーのツールを、「砦としての中国」やその沖合を、アメリカとその同盟国たちから守るための、一つの鋭い兵器として融合させている。


では彼らはこのような兵器をどのように準備するのだろうか?中国共産党の指導層がまず最初に考えるのが、東アジアと太平洋西部である


戦略とは、そもそも優先順位を設定すると同時に、それらを勇気を持って実行するためのアートである。そこから考えると、主要戦域――この場合は国土と接続水域のことだが――を、はるか遠い海での副次的な取り組みのために犠牲にするという考えは、合理的とはいえない。つまり、中国にとっての「アクセス」とは、本土から始まるのだ。


ところがもし人民解放軍の指揮官たちが本土を守ることができて、しかも中国が太平洋において陸上配備型の兵器やディーゼル潜水艦、そして高速攻撃船に興味を持っているとすれば、人民解放軍のリーダーたちは、海軍の水上艦隊のかなりの部分を犠牲にして、中国の地理的近郊の外へと繰り出すこともできるのだ。


時の経過とともに、これは遠洋において北京の対外政策の実現に貢献する、「遠征艦隊」へと発展する可能性もある。政治のリーダーたちが沖合の海での防衛に自信を深めつつある今、彼らは遠征的な目的に注目し、そこにエネルギーを注ぎ込みつつある彼らは海軍力を分割して「外洋防護」に回すこともできるし、本土で不要なリスクを背負わずに同様の任務を行うことができるのだ。


そして実際のところ、中国のリーダーたちは、域外への展開のために知的な面と物理的な面の両方において準備を進めている。これは注目に値する。なぜなら、外洋防護やその他の遠征的な展開というのは、戦略家や政治指導層が最も懸念する海域を支配下においてから、ようやく海軍がとりかかる任務だからだ。


北京は、インド洋をはじめとする海路への取り組みを気楽な気持ちで開始できたのであり、これは本土近くの海域における積極防衛を実行する上での海、空、そしてミサイル部隊を統合した能力について、指導層が自信を持ったことを示している。


これらはアメリカの国防計画担当者や、その地域にある同盟国・友好国たちにとってどのような意味を持つのだろうか?


これは、中国が地域の水域や空域における支配について段々と自信を深めているということだ。さらにこれは、アメリカと東アジアにおける同盟国・友好国が、中国の沖合の水域における防衛戦略に対抗するために不可欠なハードウェアを土台とした戦略を作成しなければならないことも示している。


もしこれができれば、アメリカは同盟国へのアクセスを確保して、アジアにこれらの国々を「戦略的ポジションを持たない状態」から救い出すことができる。太平洋西部でうまく競合できれば、人民解放軍海軍に対して中国本土だけを守るようシグナルを出すことができるのであり、間接的にはインド洋やその他の係争海域における中国からの圧力を緩和できる。


同盟関係を強化し、中国の拡大主義的な地域外における海軍のプレゼンスを抑制するためには、アメリカは戦略的な焦点を東アジアに移さなければならないのであり、海洋面でのエネルギーとリソースをこの地域に注がなければならないのだ。


▼目標:沖合の「クランプル・ゾーン」


中国には「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略があることはよく言われていることだが、これをわかりやすくいえば、海と陸をベースにした兵器を使うことによって沖合に「クランプル・ゾーン」をつくろうとする試み、ということになる。


車の先端のエンジンがある区画や、後ろのトランクの部分というのは、いわゆる「クランプル・ゾーン」を構成している。これらは「堅い盾」としてつくられたわけではなく、衝撃があるとうまく壊れるように設計された、犠牲的な構成部品なのだ。車の設計の最大の狙いは、車会社が最も価値をおいているものを守ること、つまり車内にいる「乗客の身の安全」である。


もし「クランプル・ゾーン」が完全に堅いものであれば、衝突した時の力は車内、そしてその中にいる人間に直接伝わることになり、彼らを死に至らしめる可能性が出てくる。「クランプル・ゾーン」はそのかわりに、衝突のエネルギーを吸収してやわらげる働きをするのだ。


近接阻止のメカニズムもこれと似ている。本土とその近海の安全は、北京が最も懸念するものである。ところが人民解放軍の指揮官たちは、自分たちが太平洋西部を「進入禁止地帯」にできるとはもちろん考えていない。彼らはアメリカの太平洋艦隊を域内の水域から完全に排除するための防衛線を設けることは無理であると知っているのだ。


軍事史では、長距離に広がった前線を守ることは極めて難しいことが示されている。「万里の長城」でさえ難攻不落の構造物ではなかったし、そもそもそれを建設した人々もそういうつもりで作ったわけではない。


どの軍隊も、このような防衛線のすべての線上において潜在的な敵に対して強い状態をつくることはできない。防御側は配備を分散させ、各個の戦闘力を薄くしなければならないのであり、この分散状態は、表面上は弱い敵部隊の集団でも、その線の一部では優位な状態になり、そこからの通過を許してしまうことになる。


▼海に向かうクラウゼヴィッツ


守る側にある人民解放軍がやろうとしているのは、日本やその他の同盟国や、すでにこの地域に前進配備している米軍への救援のために西進している米太平洋艦隊の増援に対して、なるべく高い(といっても完全にムリなものではないだろうが)コストを与えることだ。


そういう意味で、中国の沖合の水域の防衛について参考となる最初の思想家は、戦略思想の賢人の一人であるクラウゼヴィッツのものとなる。


クラウゼヴィッツは戦時に勝利する方法として三つ挙げている。これを簡潔にいえば、相手を粉砕すること、威圧すること、もしくは破産させることである。クラウゼヴィッツによれば、戦争においては「非常に勢力に開きのある国家間」に戦争があるのは一般的であり、力の弱かった方が勝者になることも往々にしてあることだ。


彼はつづけて「現実の戦争に講和の動機をもたらすものが二つある。第一は、以後の勝算が全然立たない場合、第二は、戦勝を得るための犠牲があまりにも大きい場合である」と述べている。


いいかえれば、もし中国が敵に自信をなくさせることができたり、もしくはワシントンが太平洋西部に侵入する「価格」を支払えないほど引き上げてしまえば、中国は大規模な艦隊同士の戦いで相手を倒すことなく勝利することができることになる。


このような海戦は、そもそも遠く離れた外洋での保護任務を必要とし、ここ二十年間で北京が大胆に投資してきた人民解放軍海軍の水上艦隊を、わざわざリスクにさらすことになる。


よって、人民解放軍の上層部は、アメリカの政治リーダーたちに対して、「活動中の太平洋艦隊を危険にさらし、アジアだけでなくユーラシア大陸周辺におけるアメリカの国益を守る米海軍の能力を危機にさらすような大きな損害を被るリスクを本気で背負えるのか?」と宣告できるようになる。


これに対してホワイトハウスは、高い代償の支払いや、海での敗北のリスクにうろたえるかもしれない。もしうろたえることになれば、北京は危機の際にきわめて貴重となる「時間」をかせぐことができるだろう。


クラウゼヴィッツは、心理学的な効果のために軍のハードウェアを展開するこの中国のやり方に、賛意を表明するはずだ。


▼毛沢東の積極防衛


強靭な能力があれば、中国は抑止や強要ができるようになる。中国のシーパワーの次の顔は、毛沢東の睨んだ表情として言い表すことができる。


2015年に発表した最初の公式な軍事戦略として、中国の指導者層がわれわれに教えたのは、毛沢東式の「積極防衛」が、いまでも中国の戦略の作成に重要であるばかりでなく、「積極防衛という戦略概念こそが(中国共産党の)最大のエッセンスである」ということだ。


これが意味するのは、人民解放軍は固定化された防衛線を守ろうとしていないし、太平洋の外洋で決戦をしようとしているわけでもない、ということだ。


彼らは撤退戦をやろうとしているのであり、これはつまり、海域を譲りつつ、その合間に「クランプル・ゾーン」の内部のどこかで海軍による作戦行動を準備するために、米艦隊に断続的な攻撃を加えて分断化しようというのだ。


この「曲がるが折れない」というアプローチは、陸戦にルーツを持つ中国共産党の伝統に則したものだ


毛沢東は自身の考えを説明する際に比喩表現を喜んで使っており、たとえば中国の内戦時には紅軍の指揮官たちに対して「(強い敵軍を)深みに誘い込み」、敵の戦力を少しずつ削り取って分離し、小さくなった部隊からつぶすべきだと進言している。


「十本の指を傷つけるよりは一本の指を切り落とした方がよく、敵に対しても、一〇個師団を撃破するよりはその一個師団を殲滅した方がよい」と言っている。つまり指は一本ずつ切り落とせということだ。


毛沢東によれば、紅軍は手慣れたボクサーのように振る舞うべきだという。これについては1974年の「キンシャサの奇跡」においてモハメド・アリが対戦相手で筋骨隆々のジョージ・フォアマンに初期のラウンドで打たせて疲れさせ、最後のラウンドで自分はカウンターパンチをしかけて倒した例を考えてみればよい。


一時的な戦略的後退は、モハメド・アリや毛沢東の紅軍に役立ったのだ。今日の人民解放軍にも使えないわけがない。


実践的な面からいえば、人民解放軍は米海軍を数百マイル沖合で攻撃できるような兵器を集めており、太平洋におけるトラファルガーに先駆けて疲弊させておこうというのだ。これができれば、弱者である中国は、アメリカと対等に立てることになる。


人民解放軍が持つ実に多くの対艦ミサイルは、潜水艦や警備艇、そして「クランプル・ゾーン」を動き回る戦術航空機と相まって、そこに大胆に攻撃をしかけようとしてくる米軍に対して処罰を与えようとするものだ。


もし中国の「接近阻止」防御が強力になり、米太平洋艦隊に対して許容できないコストを与えることができるようになれば、北京は海軍戦闘部隊を温存できるようになるかもしれない。港を出ずに目的を達成できるのであれば、わざわざ大事な艦隊を近海に展開させてリスクにさらす必要もなくなるのだ。


クラウゼヴィッツや毛沢東は、このような戦略に賛同するはずだ。


▼マハンと砦


中国のシーパワーの次の二つの顔は、アルフレッド・セイヤー・マハンとテオフィル・オーブである。この二人の海軍士官は、自分たちがそれぞれ生きていた時代に長射程の精密度が上がっていた時に海洋における戦術を見通していた。


マハンは日露戦争時に、ロシアの司令官たちが太平洋艦隊を旅順港の沿岸砲の射程内で守ろうとしていたことを非難している。「要塞艦隊」は、海戦においては「急激に時代遅れ」になっており、この考え方のおかげで戦艦の作戦行動範囲が限定されつつ、指揮官たちに小心さを生じさせているというのだ。


しかし、旅順港の沿岸砲の射程が伸ばされて、黄海や日本海決戦が行われた対馬海峡まで攻撃できるようになっていたとすればどうだっただろうか?おそらく東郷平八郎の連合艦隊は、ロシアの大砲のおかげで自由な行動ができなかっただろうし、そうなれば結果はわからなかったはずだ。


もし沖合へ数百マイル射程が伸びていれば、おそらく戦争の結果は違っていただろうし、「要塞艦隊」の戦略は誤りでもなかったはずだ。そしてこれは中国にとっても、明らかに取るべき選択肢となる。


▼オーブ提督と「青年学派」


オーブ提督はマハンとは正反対の人物であった。彼は大英帝国の王立海軍のような、外洋型の覇権者に対抗しようという、19世紀の海軍戦略の派閥である「青年学派」の生みの親だ。


彼らによれば、フランスのように海洋面では後塵を拝する勢力は、魚雷、機雷、潜水艦、そして水上警備艇という形の「非対称的なテクノロジー」を使うことによって、沖合の海域から王立海軍を追い払うことができるというのだ。このような艦船や兵器は、軽量で安価なのだが、沿岸近くの戦艦や巡洋艦を相殺することはできた。フランスのような大陸国家にとっては、このような兵力でも十分であった。


オーブの生きていた時代のこのアイディアは、現在の状況にはさらによく当てはまる。テクノロジーは潜水艦や水上艇をかなり強力にしたのであり、これは「青年学派」の戦略に新たな息吹を吹き込んだと言える。


この「青年学派」と「要塞艦隊」のコンセプトを合致させれば、沿岸に火砲をおいて、これに小規模かつ安価でミサイルや魚雷で武装した水上艇などと組み合わせれば、海洋面での覇権者、つまり米海軍に対して対抗できるのだ。かくして、中国は沖合の水域における防御を遂行できるようになる。


▼ルーズベルトと「身軽な」艦隊


そして中国のシーパワーの最後の「顔」は、セオドア・ルーズベルトである。海軍大学が1908年に開催した「戦艦カンファレンス」の前に、ルーズヴェルト大統領はランドパワーとシーパワーの共生について長々と演説している。


彼にとって、この二つは軍事力を互いに補いながら強化してくれる存在であった。沿岸砲の砲手と小艦艇の乗組員たちは、海からの襲撃から港を守る任務を協力して担わなければならないのであり、これを行うことを通じて戦闘艦隊を外洋での敵艦隊との戦闘に集中させることができるのだ。


つまりこのような統合的な任務の分担によって艦隊を「身軽」にすることができるのであり、「敵艦隊の捜索と破壊」に集中してもらおうというのだ。ルーズベルト大統領によれば、この敵艦隊の破壊こそが「艦隊の存在を正当化できる唯一の機能」である。


このような洞察は、それから百年後の毛沢東主義者たちを喜ばせている。セオドア・ルーズベルトと毛沢東というのは、戦略においては実に奇妙な共通項をもっているのだ。ルーズヴェルトの沿岸砲と軽量の戦艦のように、人民解放軍が太平洋西部における沖合の防御で十分に密集的な群れをつくることができれば、人民解放軍海軍の水上艦船は「身軽」になるだろう。


これこそが沖合の水域での防御における最大の目標となる。人民解放軍は主に「要塞艦隊」と「青年学派」的なプラットフォームを使って本土を守るだろうし、これによって外の水域で水上艦隊のほとんどを(常設的ではなくても)定期的なプレゼンスに回すことができるはずだ。


したがって外洋での保護は、太平洋西部での積極防衛がうまくいくかどうかに左右されることになる。もし北京が「クランプル・ゾーン」を手渡しても負けることはないと考えるようになれば、中国の海洋周辺部の外での任務のために大規模なタスクフォースを自由に派遣できる、と感じるようになるはずだ。


▼まとめ:中国の戦略に関するアイディア


一つの戦略を構成するこれらの概念について、アメリカやその同盟国、そして友好国たちは、深刻に受け取るべきだ。中国のシーパワー――これは単なる現在の人民解放軍海軍の存在だけの話ではない――は今後も存在するものだからだ。


では米海軍の指導者たちはどうすべきなのだろうか?


第一に、ここで明確にされた中国の海洋戦略を突き動かすアイディアについて、真剣に考え抜くことだ。過去の良いアイディアは、精密誘導兵器やセンサー技術の進化のおかげで、その有用性が認められつつある。


クラウゼヴィッツ、マハン、オーブ、そしてルーズヴェルトという中国のシーパワーをあらわす五人の顔は、人民解放軍の指揮官たちの戦略的企図を瞬間的に理解させてくれるものだ。


第二に、米軍は中国の「クランプル・ゾーン」を突破するための編成と対抗策を考え抜かなければならない。もちろんこういうのは単純であるが、やはりクラウゼヴィッツが指摘したしたように、人間の意志の争いにおいては単純なものこそ難しいのだ。


第三に、中国の作戦行動のパターンを研究すべきだ。もし人民解放軍海軍が地域外に一定数の水上艦隊を長期にわたって展開するようになれば、これは中国が積極防衛に自信をつけてきたことを示すことになる。


インド洋に永続的に船団を展開できるようになれば、北京が沖合の水域での防衛を十分なものだと感じている証拠となる。そしてこれは、アメリカやその同盟国、そして友好国たちにとって、克服し難い圧倒的な障害物となるだろう。


北京が南アジアの港湾へのアクセスをどれほど求めているか、その態度だけでもその兆候はつかめるはずだ。船というのは兵站面での支えがなければ本土から遠い場所で長期にわたって活動できないものだからだ。北京が基地の権利に関する交渉を増やせば増やすほど、人民解放軍海軍の海外における行動の自由は増えていくからだ。


端的にいえば、中国の船乗りと飛行機乗りたちの広い世界における行動の仕方が、共産党のリーダーたちの「クランプル・ゾーン」における信頼度の高さを物語るのだ。そしてこれによって、このゾーンの突破のための方法論や、そのために必要となるハードウェアなどが示される可能性もある。


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いかがでしょうか。

アメリカの典型的な中国脅威論を前提とした「中国のシーパワー分析」の論文でしたが、ここでの特徴は、中国の戦略をあらわすためにここ十年ほどでよく使われている「A2AD」という概念をわかりやすくするために「クランプル・ゾーン」と言い換えたことと、五人の戦略思想家のアイディアを使って、そのシーパワー論の全体像を説明したという点です。

アメリカでこのように中国の脅威を喧伝してくれるのは、日本の立場からするとやはりありがたいと思うわけですが、私がここで少し気になるのは、このホームズの分析がやはり「アメリカ人向け」のものであるという点です。

中国の歴史や文化にそれほど関心のないアメリカ人にとっては仕方のない部分はあるのですが、拙訳『真説孫子』でも指摘されたように、やはりもう少し中国の戦略思想のバックグラウンドの部分はおさえておいて欲しかった、というのが正直なところです。毛沢東だけではなんとも物足りないわけです。

ただし、五人の戦略思想家を使った分析などは意外に斬新であり、個人的に気になったのは、クラウゼヴィッツ系の人はあまり引用しない、『戦争論』の第一編第二章のいわゆる「コストインポージング」的な言葉をあえて引用してきている部分と、オーブの「青年学派」という「弱者がいかに強者に対抗するか」という基本的な戦略的アイディアを持ってきている部分でした。このようなアイディア勝負の論文は、やはりアメリカ人ならではのものかと。

これを訳したあとの私の率直な感想としては、中国はさておき、日本も中国に対しては「弱者」の側に立って「青年学派」的な装備や戦略を追求することを真剣に考える時期に来ているのではないか、というものです。

もちろんアメリカという強力な「矛」があるために、日本は「盾」だけを考えていればよかったのでしょうが、どうもその「盾」も、著者のホームズが指摘するように、近年のテクノロジーの進化(とりわけ長射程化と小型・安価・軽量化)によって、大きく状況が変わってきております。

しかしこれは自戒も込めて言うのですが、もしかしたらこのような「現実はすでに大きく変わっている」ということに気づいて、それに対処するための行動を実際にとることのほうが、国防においては最も重要だといえます。よって、この論文のような新しいアイディアについて、われわれはもっと敏感であるべきなのかもしれません。



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(ダーウィン港入り口)

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# by masa_the_man | 2018-07-12 01:19 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部は朝から小雨が降ったりやんだりで、昨日に引き続いて南風が強いです。

さて、今週の番組でも触れた話題ですが、アメリカで自殺率が上昇している点に関して、実に興味深い心理学的な見地からの意見記事がありましたので紹介します。


===

自殺の増加は「存在にかかわる危機」?

By クレイ・ラウトリッジ


最近のことだが。政府機関である「アメリカ疾病管理予防センター」が、米国内の自殺数が台頭していることを示す、実にショッキングな統計結果を発表した。これによると、ほとんどの人種や年齢層で、1999年から現在まで自殺率が25%も上昇しているということだ。


この数字は、明らかに一つの「危機」であることを示しているのだが、では果たしてその「危機」の性質とはどのようなものなのだろうか?


多くの識者たちはこれが「メンタルヘルスケアの危機」であり、国民は必要なサービスを受けることができていないと論じている。よって彼らが提案する解決法は、より良いセラピーや、さらに効果的な抗うつ剤、そして治療へのアクセスの拡大となる。


もちろんこの分析は正しいのかもしれない。しかし自殺率は、鬱や不安感を解消するための治療を求める人が増え、しかもこれらの症状に対する治療法が増えているにもかかわらず上昇しているのだ。さらなる説明が必要であろう。


「意義の必要性」を含む、人間の基本的な心理学的欲求を研究している行動主義派の学者として、私はアメリカの自殺危機の原因の一つとして「意義喪失の危機」が挙げられると確信している


まずこれを論じるにあたって、近年のアメリカ社会の変化――無関心への方向性と集団への従属感覚の低下――が「実在的な絶望のリスク」を増加させているのかを理解していただく必要があるだろう。


その他の生き物と同じように、人間は「生き残り」と「繁殖」というゲームの中にいる。われわれは生きることに対して強い欲望――つまり死を逃れようとする傾向――を持っている。


ところがこの「生き残り」を助けてくれる神経系統は、われわれを極めて黙想的な状態にもする。われわれが自らの可能性を考えたり、過去や未来について考えたり、抽象的な考えに取り組むための能力というのは、同時にある種の「不快な真実」へとわれわれを導くものだ。それはつまり、


われわれは自分たち、そして大切に思っている人々がすべて年を重ね、衰えて、最後は死ぬことを知っている


ということだ。われわれは人生が不確実なものであり、痛みや悲しみがわれわれの人生の一部であることを理解している。よって人生にそもそも意味はあるのか、ということだ。


このような実在的な不安感を払拭するために、われわれは「自分たちの人生には意味がある」という感覚を見つけて維持しなければならない。人類というのは、単に「生き残る」だけでなく「意義」を懸命に目指す種なのだ。


われわれは人生を意義あるものにしようと考えるのであり、人間は人生の意味を維持できないと感じた時に、心理的に最も追い込まれるのである。


これは実証的にも妥当であるとされている。「人生に意味を感じられない」という感覚は、アルコールや麻薬の中毒、鬱、不安感、そして自殺に関係しているとされている。そして喪失感やストレス、もしくはトラウマを感じたとき、この苦境に最もよく対処できて乗り越えられるのは「自分の人生には目的がある」と感じる人々なのだ。


〜〜〜


ではわれわれの人生の意味と目的を発見するにはどうすればいいのだろうか?多くのやり方があるが、心理学関連の文献が示唆しているのは「他の人々との親密な関係」がわれわれが持つ最大のリソースであるということだ。


社会階層、年齢、性別、宗教、国籍に関係なく、人々が「人生の経験の中で個人的に最も意味を持つもの」と実感する経験には、その典型として、愛する人間が関わってくるという。


さらに重要なのは、これらの研究から、人間は単に「他人と一緒にいること」や「他人に好かれること」だけでは十分ではない、ということが示唆されているという点だ。


われわれは「他人から存在価値を認められている」と感じる必要があり、「自分は世界に重要な貢献をしている」と感じる必要があるのだ。


ここからわかるのは、なぜ人々が常に良い扱いをしてくれる他人に囲まれているにもかかわらず、孤独や無益さを感じることがあるのか、という点だ。単に快適で楽しいだけの社会的な交わりでは、失望感の解消には不十分なのである。


〜〜〜


ここで問題となるのが、アメリカで変化しつつある国内社会の構造だ。


ご近所同士の付き合いの低下や、家族の縮小、そして宗教の役割の低下について嘆くのは、まるで気難しい老人の不満のように聞こえるかもしれない。ところが心理学の研究の観点から見ると、これらの変化は、それをあなたがどう捉えるかはさておき、人生の意味にとって深刻な脅威を及ぼしている


過去の世代と比べるとわかるのが、現在のアメリカ人は、近所の人々との付き合いが少なく、他人は全般的に信頼できるものという考えが薄れ、個人レベルでも信頼していると感じる人が少なくなってきているという点だ。


このような傾向は、実在論的な観点からは懸念すべきものだ。研究で示されているのは、どこかの集団への帰属感覚が強ければ強いほど、人間は人生を意味あるものであると認識するということだ。別の研究でも、孤独を感じている人々は強い関係性を持っている人々よりも人生を意味ないものとして見ていることが示されている。


家族の規模が減少している点にも、これと似たような懸念がある。今日のアメリカ人は結婚して子供を持つまでにいままで以上に時間をかけており、子供の数も少ない。多くの人々にとって、このような状態は望ましいものかもしれない(といってもアメリカ人女性は出産数が自ら望んでいる数よりも少ないらしいが)。


それでも研究者たちがつきとめたのは、子供を持った大人のほうが、子供を持たない大人よりも人生の意味について関心が高く、子供を育てるような活動に従事している親は、人生の意味の充実感が高いという点だ。


また、長年にわたって制度的・社会的に人生の意味の土台となってきた宗教も、劇的にその影響力を落としてきている。今日のアメリカ人、とりわけ若い世代は、自分たちの宗教的な帰属を失いつつあり、教会に行く回数は減り、その他の宗教活動への関わりも薄れてきている


ところが私の研究でもわかるように、これまで宗教が提供してきた人生の意味についての感覚は、非宗教的な環境では簡単に代替できないものだ。


アメリカ人はたしかに伝統的な信仰の場所を去ったのだが、逆に彼らはその代わりとなる「宗教的」とも呼べる体験(おばけや宇宙人のようなアイディアを含む)を探すようになっている。そしてこれによって、自分たちは「より大きな何か」の一部であり、短い人生よりも意味を持った存在であるかのように感じたいのだ。


アメリカの存在論的な危機が、われわれの政治面での分断状態に貢献している可能性もある。研究でわかっているのは、実在的に脅威を及ぼしてくるアイディア(たとえば命に限りがあることを思い起こさせることなど)にさらされた時、人間は自らの持つ世界観に対してより偏見を持つようになるということであり、これはとりわけその他の情報源を通じて自分たちの人生の中に何らかの意義を見つけられなかった場合には強まるという。


このために、われわれの怒りこもった政治文化というのは、単なるイデオロギー面での意見の不一致だけではなく、すべての迷える魂に対して何かしらの意味をもたらすものを発見するための、必死な探求によっても突き動かされていると言えよう。


===


アメリカの保守派はこのような「危機」について、保守的な立場から以前から積極的に論じておりましたが、私はこれが戦略で重要な「世界観」におけるフィクションの重要性と近い、と解釈しました。


個人だけでなく、人間は集団としてどちらかの方向に何かを成し遂げようとする際に、重要になってくるのが(細かく検証すればかなり怪しい)フィクションの存在であり、社会学系ではこれを「ナラティブ」(物語)という言葉で表現したりしております。


ところがこのようなナラティブというものは、80年代から言説解析のような形で実証的な解明が進み、学問の世界ではその虚構性、つまりフィクション的な部分がクローズアップされ、いわば幻滅(disenchantment)させられた部分が出てきております。


私も最初の本で批判地政学を紹介する際に、このような言説の解説部分にかなり感銘を受けていたところがあったわけですが、書いていて気になったのが、その分析している彼ら自身が、古典地政学にありがちな「ナラティブ」や「虚構性」を暴きつつも、自分たちも分析するという「使命感」(これまた虚構性の一種)に突き動かされているという点でした。


このような点を踏まえて私が至った結論は、人間には、個人レベルでも集団レベルでも、その良し悪しは別として、人間が何か動きを起こすためには一定の「フィクション」が必要であるという点です。


上の記事では「人生の意味」という言葉で言い換えられていますが、その実態は「フィクション」とも言えます。これについては私もCDなどで解説しておりますので、よろしければぜひ。




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(ウィーンの某カフェ)


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# by masa_the_man | 2018-07-05 10:57 | 日記 | Comments(5)

核開発を続ける北朝鮮

今日の横浜北部は朝から真夏日でして、蒸し暑さと快晴の空が印象的でした。

さて、今朝話題になっていた、NBCニュースの記事の要約です。

===

北朝鮮は非公開施設で核兵器用の燃料の生産を継続(米政府関係者)

18-6/30


アメリカの諜報機関は、北朝鮮がここ数ヶ月でいくつもの施設において核兵器用の燃料の生産を増加させていて、しかも「金正恩はトランプ政権との非核化交渉においてより多くの譲歩を得えようとしているにもかかわらず、これらの施設を隠そうとしているのではないか」と考えているという。


これは米政府関係者がNBCニュースに語った情報によるものだ。


これまで報告されることのなかったこの情報分析の報告書は、トランプ大統領が示している意見に反するもののように見える。


トランプ大統領自身は6月12日の金正恩との歴史的な米朝首脳会談のあとに「北朝鮮からの核の脅威は消滅した」とツィートとしているが、この報告の分析をよく知る十数名以上の匿名の米政府関係者たちによれば、CIAをはじめとする諜報機関による分析官たちはそのように見ていないという。


彼らは北朝鮮が、トランプ政権からあらゆる譲歩を勝ち取りつつ自分たちの生き残りにとって不可欠であると考える核兵器に固執している、と見ている。


この記事に関して、ホワイトハウスからのコメントはすぐには得られなかった。


5人の米政府関係者は最新の情報分析の報告書の中身を引用しつつ、「米朝はここ数ヶ月間において外交交渉を行っていたわけだが、その合間にも北朝鮮は濃縮ウランの生産を加速させていた」と述べている。


米朝は会談の席で非核化に「向かって取り組む」ことに合意したが、それ以上の細かい合意は明記されていない。トランプ大統領の指示により、米軍は朝鮮半島における軍事演習を中止したのだが、これは金正恩に対する大規模な譲歩であった。


北朝鮮もミサイルの発射実験と核実験を止めているが、その最新の分析の報告書の内容をブリーフされた米政府関係者によれば「彼らが核関連物資を減らしたり生産を止めたという証拠はなにもない・・・逆に彼らがアメリカを騙そうとしている完全に明白な証拠は存在する」という。


その情報分析の報告書に詳しい他の4人の政府高官たちも「北朝鮮はアメリカを騙そうとしていた」と述べている。彼らによれば、アメリカの諜報機関は近年において北朝鮮の情報収集を強化しており、このおかげで長年にわたって世界で最も諜報的に難しいとされていた北朝鮮の内情について、かなりのことがわかってきているという。


ただしNBCニュースは、米政府関係者によれば情報源をリスクにさらす可能性のある、報告書の中身の詳細のいくつかの部分については報告を差し控えることに合意した。


米政府関係者の一人は、「北朝鮮が長年隠そうとしていて、しかもわれわれが知っていることは実に多くある」と述べている。


たとえば北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)という核施設以外に、少なくとももう一つの核濃縮施設を持っていることは長年知られている


ミドルベリー国際大学院モントレー校東アジア核不拡散プログラム部長、ジェフリー・ルイスによれば、北朝鮮が2009年に寧辺の核濃縮施設を建設したあとも、そのペースの速さから判明したのは、このような施設をつくるのが彼らにとってまったく最初というわけではなかったということだ。


1994年の北朝鮮との核合意を交渉したジョエル・ウィットも、アメリカ政府関係者たちは常に寧辺以外にもう一つの隠れた核濃縮施設があると考えていたという。彼によれば「もっとほかにもある可能性について信じていましたね」とのことだ。


政府関係者によれば、その情報分析の報告書の結論は、秘密の施設は複数あるということだ。そして最大の問題は、金正恩がその存在を認めようとするかという点だ。


クリントン政権で働き、スチムソンセンターの上級研究員で、38ノースというサイトを創設したウィット氏によれば「人々が、北朝鮮にすべての施設を明らかにしてもらいたい、と思う理由はまさにここにあるのです」という。


この情報分析の報告書は、38ノースの「北朝鮮は公表している核施設である寧辺で、いまだに施設の改修をつづけている」とする記事の直後に報告されたものである。


CIAの元分析官で、現在はヘリテージ財団の北朝鮮専門家であるブルース・クリングナーは「寧辺で見られる活動は、すべての核兵器計画を破棄するとした北朝鮮の意図とは矛盾してます・・・もし平壌が非核化合意の要件の一つである核施設の破棄に本気であれば、拡張計画を続ける理由はほとんどないはずなのですが」と述べている。


ただしアメリカの諜報機関で働く別の職員は別の見方をしており、核兵器とミサイルの実験をやめるという金正恩の決定が予期しないものであったことや、実際に米朝間で交渉ができているという事実はポジティブな一歩であることを指摘している。


ただしこの職員も、同時に諜報関係者たちが「金正恩の政権はアメリカを騙そうとしている」と想定していることを認めている。


施設の数、兵器の数、そしてミサイルの数でも、われわれを欺くための工作は続いています・・・われわれも注視しておりますよ」と彼は述べた。


====


記事の中身は、アメリカの諜報機関の最新の報告書の内容を知る人物の意見と、北の専門家たちの見解をまとめた上で、「やっぱり北朝鮮は核開発をやめていない」と結論づけたものです。


われわれの側からみれば、「金正恩は騙してけしからん!」ということも言えそうですし、実際にその通りにけしからんわけですが、そのような倫理・道徳的な判断はさておき、


もし自分が金正恩、もしくは北朝鮮の軍のトップの立場だったら?


と考えると、上記のように「核開発施設を寧辺以外に複数隠してもっておく」「核兵器の開発を秘密裏に継続する」というのは極めて合理的な選択肢となります。


なんと言っても、核兵器は北朝鮮のような貧乏な小国にとっては、アメリカをはじめとする大国に潰されないための、体制保証の最大のカードになるわけですから。


「選択肢はなるべく残しておく」


というのは戦略論の鉄則の一つですが、北朝鮮の場合は、この別の選択肢とは「寧辺以外の秘密の核施設」になるわけです。


これで事実上、アメリカやその同盟国である日本や韓国は、「核保有国としての北朝鮮」という存在に直面するわけですが、これからさらに北朝鮮の核の脅しによって振り回されることになりそうで、かなり気が重いです。


それにしてもトランプ政権の迷走ぶりにはあきれるばかりです。


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(ボンダイ・ビーチ)




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# by masa_the_man | 2018-06-30 21:35 | 日記 | Comments(0)
お知らせです。

だいぶ出遅れましたが、グレイの新刊が出ておりましたのでご報告させていただきます。
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コリン・グレイ著『戦略の未来』(勁草書房)

私のほうからロクな告知をしなかったのですが(反省)、おかげさまで売れ続けているようで何よりです。その内容は、グレイがクラウゼヴィッツなどを援用して『現代の戦略』で展開した「戦略一般理論」的な考察を、さらにリファインして短くまとめたものです。

読みどころとしては、第3章で「23の格言」という形で示される「戦略の一般理論」と、第5章で展開される久々の(古典)地政学の話であると個人的には感じました。

また、西洋の戦略理論の基礎構造である「目的」「方法」「手段」の三位一体に、新たに「前提」という視点を入れているのは注目でしょうか。

以下は目次の詳細です。

===

●日本の読者のためのまえがき
●まえがき

▼イントロダクション
 一般理論
 政  治
 慎重さ
 正統性と正義
 歴史的な文脈
 動  機

▼第1章 政治というマスター
 最大の議論――永続的な物語としての「戦略の基本」
 戦略の源泉――人間の本性と政治
 政策と戦略における「政治」の意味
 戦略――最も偉大な「実現手段」

▼第2章 戦略――それは何であり、なぜ重要なのか
 一つの「橋」
 戦略はいかに効果を発揮するのか――そのミステリーの解明
 戦略が不在、もしくは混乱している場合
 戦略――その限界や代理品は?

▼第3章 理論と実践
 一般理論
 理論と実践
 国民的(そして文化的)文脈
 戦略理論の最大の価値

▼第4章 戦略史で変化するもの、しないもの
 一つの重要な概念として
 変化したものと変化しなかったもの
 二百年にわたる戦略史
 戦略史には「始まり」や「終わり」はあるのか?

▼第5章 戦略、諸戦略、そして地理
 一般と特定
 地理、歴史、政治
 大戦略と地政戦略
 マッキンダーとスパイクマン――極大戦略における冒険的事業
 戦略は統合的なもの

▼第6章 戦略と未来:
 核という例外?

▼まとめ 自信をもって「知っている」と答えられることは?
 戦略と「時の偉大な流れ」

●訳者による参考文献の紹介
●訳者あとがき

===

すでにお読みになった方がいらしゃればお気づきでしょうが、三年ほど前に出たグレイの『現代の戦略』と比べると、個別の軍事力の話というよりも、その理論構造そのものに特化した話を展開している部分が大きくなってます。

詳しい解説については「訳者あとがき」に書いたのでそちらを参照していただきたいのですが、いずれもすべての時代を超える「戦略の一般理論」を提案したいというグレイの意欲が伝わってきます。

ルトワックもグレイもそうですが、それにしてもこの世代の活躍している戦略家というのは基本的に多作家ですね。

ということで、ぜひよろしくお願いします。


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# by masa_the_man | 2018-06-30 11:02 | おススメの本 | Comments(0)

今日の横浜北部は朝こそ梅雨空でしたが、午後から気持ち良く晴れました。


さて、前々回の番組の時にも触れた、スティーブン・ウォルトがフォーリン・ポリシー誌に掲載した優れた記事の要約です。


結論からいえば「リアリズムの視点を忘れるな」ということですが、たしかにウォルトをはじめとするリアリスト系の学者たちは、全員ではないにせよ、本文の後半に書かれていること(中国の台頭、NATO東方拡大の間違いなど)に関して、90年代の後半から一貫して否定的でしたね。


その証拠は本ブログでも試訳として公開したこのエントリーにありますので、ご参照ください。


以下の意見記事も、ちょっと長いですが勉強になりますのでぜひお読みください。


===


世界はあなたに「リアリスト」のように考えることを求めている

by スティーブン・ウォルト 18-5/30


現在のアメリカにおける対外政策の考えにおいて皮肉なものの一つは、リアリズムが奇妙な立場にあることだ。


まず一方で、リアリズムは大学における国際関係論の教育において(その他の多くのアプローチと共に)主要テーマの一つでありつづけており、政府関係者の中には、自分たちの行動が一種の「リアリスト」的なアプローチを土台にしている、と主張する人が多いことだ。


ところがアメリカの首都ワシントンDCのほとんどの場所にはリアリズムが存在せず、権力に影響を与える立場にある本物のリアリストは非常に少ない


さらにいえば、アメリカのトップにいる知識人たちの中で、リアリスト的な見方というのはほぼ欠如していると言える。


本コラムや、常に示唆に富むポール・ピラーやジェイコブ・ヘイルブルンたちの記事も、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、もしくはウォールストリート・ジャーナル紙のような新聞のコラムにおけるリアリズムの欠如を補えているわけではない。共和党・民主党の両党も、対外政策をリアリズムではなく、リベラルな観念主義のレンズを通して対外政策を見ているのだ。


アメリカの対外政策の事情通たちは、世界政治を「安全が不足していて、主要国たちは望む望まないにかかわらず互いに争うことを強要される舞台」として見るのではなく、世界をすぐさま「善い同盟国たち」(たいていは民主制国家)と「悪い敵」(そのほとんどが一種の独裁制)に区別し、状況が悪くなると、その原因を外国の悪いリーダーたち(サダム・フセイン、アリ・ハメネイ、ウラジーミル・プーチン、ムアンマル・アル・カダフィなど)の欲深さや侵略性、もしくは理性のなさに求めるのだ。


そして友好的な国家が(善なる)アメリカの行動に文句をつけてくると、アメリカのリーダーたちはこの批判者たちのことを「ただ単にアメリカの崇高な目的を理解できないだけだ」とか「アメリカの成功を妬んでいる」と想定しがちである。


▼トランプの存在とリアリズム


私もトランプ政権の存在は、リアリストの理論にとって、かなり厳しい挑戦になることは認める。たしかにドナルド・トランプのつじつまの合わないしくじりがちな対外政策のアプローチは、「国家はほぼ合理的、もしくは戦略的な形で国益を追求する」というリアリズムのアイディアとは噛み合わない。トランプ氏はこれまで実に多くの面――強情、自信過剰、不正直、衝動的、ナルシシズム、無知――を見せてきたのだが、彼の対外政策においては「合理的」「戦略的」という言葉は最も思い浮かびにくいものなのだ。


また、リアリズムは「バランス・オブ・パワー」(勢力均衡)や「地理」のような外的な要素を強調するものであり、リーダー個人が果たす役割というものを過小評価する


ところがトランプ政権という存在は、「本当に重要なのは自分だけだ」と信じ込んでしまったリーダー個人が与えるダメージというものを雄弁かつ深刻に思い起こさせてくれるものだ。


それでも、トランプの並外れた無力さは、リアリズムを完全に破棄するに足る十分な理由とはならない。まず一つの理由として、リアリズムはいまだにトランプがトンチンカンなことをしても無事でいられる理由を理解する助けとなっている。アメリカはいまだに強力で安全であり、多くの愚かな失敗をしても、比較的軽度の損害で免れることができるのだ。


さらに重要なのは、リアリズムは近年や現時点に起こった実に多くのことについて、極めて有益な指針を与えてくれる理論として残っている。そしてトランプが毎週提供してくれている例からもわかるように、これらの指針を無視するリーダーたちは、必然的に愚かな過ちを犯してしまうのだ。


端的にいえば、リアリストの考え方はまだかなり使えるものだ。その理由を以下で説明させていただきたい。


▼リアリズムの基本


リアリズムは、長い歴史と多くの派閥を持っている。ただしその土台は、わかりやすいアイディアのまとまりを中心としたものだ。その名前からもわかるように、リアリズムというのは世界政治をありのまま説明しようとするものであり、「あるべき姿」を説明するものではない


リアリストにとって、あらゆる政治活動の中心にあるのは「パワー」(権力)である。もちろんパワー以外の要素が役割を果たすことはあるが、政治を理解する上での最大のカギは、誰がパワーを持っていて、その人々がそのパワーをどう扱っているかに焦点を当てることにあるのだ。


古代ギリシャのアテナイの人々がメロス島の住民に対して放った警告、つまり「強者と弱者の間では、強気がいかに大をなし得て、弱気がいかに小なる譲歩をもって脱しうるか、その可能性しか問題となりえないのだ」という言葉は、この点を完璧に表現できている。映画監督のクエンティン・タランティーノも、これ以上のセリフを書くことはできないだろう。


リアリストにとって、国際システムの中では「国家」(states)が唯一のアクター(行為主体)である。国際システムの中には国家同士の争いから国家を守れるような中央的な権威は存在せず、各国家は生き残りにおいて、自らのリソースや戦略に頼るしかない。


安全保障(security)は、彼らにとって永遠に続く懸念事項であり、これは強力な国家にとっても事情は変わらない。そして国家というのは、誰が弱者・強者であり、パワーの勢いがどちらの方向に流れているのか、そのトレンドについて敏感なのだ。


このような世界でも、国家間の協力関係はもちろん可能であり、時として協力というのは、国家の生き残り(サヴァイバル)にとって不可欠なものとなる。ただしそれが常に壊れやすいものであることは変わらない。


リアリストたちは、国家が脅威に直面した時、まず最初に行うのが「バック・パッシング」(自分以外にその台頭する危険に対処させる)であり、もしそれに失敗すれば、その脅威に対抗するために、同盟関係に助けを求めるか、自らの能力を高めるはずだ、と主張している。


もちろんリアリズムも、国際政治を見る上での唯一の考え方というわけではない。現代の世界について異なる面を教えてくれるものとしては、他にも実に多くの見方や理論が存在している。ところがもしあなたが(少なくとも部分的に)リアリストのように考えることができれば、国際政治における多くの混乱した状況を簡単に理解できるようになるだろう。


▼中国台頭の理由


たとえばもしあなたがリアリストのように考えることができれば、中国の台頭が国際政治においてなぜ決定的な出来事であり、アメリカ(やその他の国々)との紛争の原因となる可能性が高いのかが理解できるはずだ。国家が自らの手で自らを守らなければならない世界では、最も強力な二つの国家は互いを用心深く見るようになるものであり、相手に遅れをとらないように、もしくは危険なほど脆弱性をさらしてしまわないように、互いに競い合うものなのだ。そしてもし戦争が防げたとしても、結果として強烈な安全保障競争が行われる可能性は高いのだ。


さらに、リアリストのように考えることができれば、なぜ中国が鄧小平の「平和的台頭」の政策を二度ととることがないのかが理解できるはずだ。このアプローチは中国の国力が弱かった時にはたしかに合理的であったし、多くの西洋人たちはこのおかげで、中国が弱かった時代に他者によって作られた制度や枠組みなどで中国を「責任ある利害共有者」にして手懐けることができる勘違いしてしまったのだ。


ところがリアリストたちは、いずれ強力になった中国は自分たちの国益にそぐわないあらゆる制度などを修正したいと思うようになるはずだと理解していたし、北京は実際にそのようなことを最近になってはじめている。


結論として言えるのは、米中関係を理解したいのであればリアリストのように考えるのが不可欠である、ということだ。


アメリカはなぜ介入するのか


もしリアリストのように考えることができれば、アメリカが過去25年間、とりわけ911事件後において、遠い土地で軍事力を繰り返し使い続けている事実について驚かないはずだ。なぜか?その理由はきわめて単純だ。だれもそれを防ぐことができなかったからだ


また、アメリカ人たちは自分たちのグローバルな役割がかけがえのないものであり、世界中で武力介入を行うだけの権利と責任、そしてそのための知恵を持っていたと信じ込んでいる。ところがアメリカの支配的な立場というのは、この自惚れた野望を実現可能なものとした、少なくとも一時的にせよ、恵まれた状況のおかげであったのだ。


はるか昔の1993年に、ケネス・ウォルツは警告として、「アメリカが国内問題に集中してくれれば、もう不可能となった孤立主義ではなく、他国に対して自分たちで問題を対処し、しかも自ら間違いを起こすことができるようなチャンスを生み出す寛容性をアメリカにもたらすことになるのではないかと考える人も出てくるだろう。ただし私はそうは思わない」と述べている。


良いリアリストの典型として、ウォルツは「大国が悪癖として多極世界において簡単に誘惑されるのは不注意であり、二極世界では過剰反応、そして一極世界では過剰拡大である」と理解していたのだ。


そして実際のところ、まさにこのようなことが起こっている。


▼ウクライナ危機の原因


もしリアリストのように考えることができれば、ウクライナでの危機は、西側での典型的な解釈とは異なって見える。西側の説明では、そのトラブルのほとんどの原因をプーチンのせいにするが、リアリストたちは大国というものが常に自国の国境付近を気にするものであり、もし他の大国がこの領域に侵入してきたら受動的に反応する可能性が高いことを理解している。その典型がモンロードクトリンであることを忘れてはならない。


ウクライナのケースでは、アメリカとその欧州の同盟国たちがNATOをじわじわと東側に拡大(これはドイツ統一の際にソ連のリーダーたちと交わした約束に反している)しており、モスクワからの度重なる警告を無視している。2013年になるとアメリカと欧州は共同でウクライナを西側にさらに近づけはじめており、国内政治にあからさまに介入しはじめている。


ところがオバマ政権はリアリストのように考えることができなかったため、プーチンがクリミアを占拠し、EUとアメリカの動きが頓挫させられることなって驚くことになる


もちろんプーチンのやり方は合法的でも、正統的なものでもなく、尊敬されるべきものでもないが、驚かされるものでもなかった。そらにこれらの一連の流れが欧州を驚かせ、NATOによる東欧の防衛強化につながったのも、まさにリアリストの予期していたものであり、やはり驚くものではなかった。


▼EUの失敗


リアリストのように考えることができれば、なぜEUがトラブルに陥っているのかもわかる。EUというこの壮大な構想は、超国家的な大きな制度の中で、ナショナリズムを超越し、国益を従属させることを意図したものであった。その構想を計画した人々は、欧州を何度も引き裂いた個別の国家のアイデンティティと国益が、時間の経過とともに消滅し、より広い「ヨーロッパ人」というアイデンティティがそれを補ってくれるはずだと考えていたのだ。


ヨーロッパのまとまりは冷戦によって促進されたのだが、これはソ連の脅威が西欧に互いに協力するのに十分なインセンティブを与えたからであり、それが逆に、ソ連の東欧の衛星国たちに目指すべき理想を与え、欧州大陸に「調停者としてのアメリカ」をとどまらせることになったのだ。


ところが冷戦が終わると、ナショナリズムはとりわけユーロ危機の発生後に、さらに強力になって復活した。すると突然、欧州の国民たちは政治家に対して、ヨーロッパを救うためではなく、自分たちのことを救ってくれるような政治家たちを求め始めたのだ。


無数の欧州各国のリーダーやEUの職員たちによる超人的な努力にもかかわらず、このような中心から離れていく傾向というのは、ブレグジットやイタリアの最近の選挙、そしてポーランドやハンガリーにおけるナショナリズムの復活に見られるように、現在も悪化するばかりである。


ヨーロッパの統合化は後戻りするわけがないと考えていた人々は、自分たちが進めていた高貴な実験がなぜ予定通りに行かないのか理解に苦しんでいるが、リアリストたちにとっては自明のことだ。


▼反米勢力の戦略


リアリストのように考えることができれば、2003年以降にイランとシリアがイラクにおける反アメリカ勢力側の支援を行っていることについてそこまで怒りを感じることはないだろう。もちろんあなたはこれを好ましいものとは思わないが、それでも彼らの行為に驚かされることはないはずだ。彼らの行動は、典型的なバランス・オブ・パワーのメカニズムによるものである。なぜならアメリカはサダム・フセインを転覆させ、ブッシュ政権はシリアとイランを次のターゲットだと明確にしていたからだ。


シリアとイランの両政府にとって、あらゆる手段を使ってイラクの泥沼にはまらせ、アメリカがショットガンの弾を込め直して自分たちを追い回すことをできなくしておくことは、彼らにとって戦略的には好ましいことになる。


アメリカ人はこれらの国々が行った行為に対して憤りを感じるはずだが、アメリカの政府関係者がもっとリアリストのように考えることができれば、彼らは最初からこれらのことを予期できたはずなのだ。


▼核武装のロジック


そしてあなたがリアリストのように考えることができれば、なぜ北朝鮮が核武装による抑止を手に入れるために多大な努力をしたのか、そしてイランのような国がはっきりと核武装国家になりたがっているのかが明確にわかるはずだ。


これらの国々は、世界で最も強力なアメリカと意見が全く合わない存在であり、アメリカの政府高官の中にはこの問題の唯一の解決法はこれらの政権の転覆であり、自分たちと考えの近いリーダーたちに首をすげ替えることだと言い続けている。


ここで問題なのは、このような政権転覆は、当初の狙い通りには行かないことがほとんどであり、さらに重要なのは、このような脅威に直面した政府というものは守りを固めようとする、ということだ。


核兵器は、ブラックメール(恐喝)や征服には向いていないが、自分たちよりも強力な国が軍事力を使って転覆しようとしてくるのを抑止する点では非常に効果的だ。そしてこれを何よりもよくわかっているのはアメリカ政府であろう。なぜなら彼らは優位な地理的位置にあり、圧倒的な通常兵器面での優位を持っているにもかかわらず、数千発の核兵器が必要だと考えているようだからだ。


もしアメリカの指導者層がこのように考えているのであれば、それより弱く脆弱な国家が、核兵器を数発持つことによって安全を確保できると考えないほうがおかしいのではないだろうか?そして、彼らが簡単に覆したり破棄できるような「体制保護の約束」と引き換えに核兵器を諦めるわけがないのは当然ではないだろうか?このロジックをジョン・ボルトンに説明する人物はいないのだろうか?


▼すべての国は同じ?


リアリストのように考えることができれば、劇的に異なる政治体制を持つ国同士が驚くほど同じような行動をすることが多い、ということを理解できる。


このわかりやすい例が、冷戦期のアメリカとソ連である。この二国の国内の政治体制はこれ以上異なるということはないほどであったが、対外的な行動はほぼ同じであった。両国とも莫大な同盟国のネットワークを率いて、好ましからざる国の政府を転覆させ、無数の国家のリーダーたちを暗殺している。


そして数万発におよぶ核弾頭(ミサイル、爆撃機、潜水艦などに配備)を保持し、自国から遠い土地に武力介入し、他国を自分たちの好むイデオロギーに染めようとしており、世界を破壊することなく相手方の勢力を倒すためにあらゆることをやったのだ。


なぜこの両国はまるで同じような行動をとったのだろうか?それはアナーキーの世界では、両国とも競争する以外の方法はありえず、さもなければ相手に負けてしまい、相手の略奪行為に対して脆弱性をさらしてしまうことになるからだ。


まとめ


最後だが重要なのは、もしあなたがリアリストのように考えることができれば、理想主義者たちが紛争、不正義、不平等、そしてその他の悪いことなどに終止符を打つことを狙って考えた野心的な計画にたいして、おそらく懐疑的になるはずだ。


もちろんより安全で平和な世界を築こうとすること自体は称賛すべきことだが、リアリズムがわれわれに言い聞かせているのは、世界政治を作り変えようとする野心的な試みというものは常に意図しない帰結を生み出すものであり、その約束された結果を実現することはきわめて稀であるということだ。


また、リアリズムが教えているのは、縛られない権力というものは同盟国でさえ心配するものであり、彼らはアメリカが世界を指導していこうとするときにはいつでも不安を感じる、ということだ。


まとめていえば、もしあなたがリアリストのように考えることができれば、あなたはより慎重に行動する可能性が高まるのであり、相手を「純粋な悪」として見る(もしくは自分たちを完全なる善として見る)可能性は減り、際限のない勧善懲罰な行動に出る可能性は少なくなるはずだ。


皮肉だが、もしより多くの人間たちがリアリストのように考えることができれば、平和の可能性は高まることになりそうだ。


===


ウォルトがフォーリン・ポリシー誌上で定期的に書いている、「リアリズムを忘れるな」的な記事です。


もちろん上記でも言われているように、リアリズムだけが国際政治を読み解くためのカギではなく、ほかにも実に様々な理論があることは事実です。ただしリアリズムは(あまり善悪を言わないので、一般的には)嫌われながらも、欧米ではいまだに大きな説得力を持った理論として君臨していることは否定できません。


このリアリズムについては私もCDで詳しく解説しているので、興味のある方は参考にしていただきたいのですが、このようなパワーを中心に国際政治を見る態度というのは、国家のリーダーたちには基礎知識として忘れてほしくないと思います。



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(ターナーの絵)



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# by masa_the_man | 2018-06-24 23:31 | 日記 | Comments(1)

今日の横浜北部は朝から雨の、実に梅雨らしい一日であります。


さて、昨日の放送でも触れたハル・ブランズの長文記事の要約です。


アメリカ側の対中戦略観としては、これは一つの有力な見方の一つといっても良いでしょう。


===


中国のマスタープラン:世界の軍事的脅威

BY ハル・ブランズ 18-6/12


最近発表したコラムの中で、私は長年アメリカの対中政策を支えてきた土台となる「前提」――つまり二国間の経済的な統合は純粋に良いものだ、という考え――が、ここ最近の出来事によっていかに役立たないものになってきているのかについて書いた。


ところが、中国の台頭が古い考えに再考を迫っているのは、この分野だけではない。私は米中関係とアメリカの国益について巨大な示唆を持つ、もう一つ別の分野の問題について掘り下げてみたい。それは、さらにグローバル志向をもった、中国の軍事面での台頭だ。


長年にわたり、ほとんどの専門家たちは、アメリカに対する中国の軍事面での挑戦は本質的に地域的なものであり、それは西太平洋海域に限られると考えていた


ところが数十年間にわたって暗黙のうちにアメリカのグローバルな戦力投射能力の「フリーライダー」(タダ乗り)となっていた後に、北京政府は自らの戦力を域外に投射することができるような能力の獲得に動いている


もちろん中国が軍事力を増強しているという事実は目新しいニュースではない。たとえば1995年から96年にかけて起こった台湾危機では、アメリカが二つの空母打撃群を台湾海域に送り込んだわけだが、これによって中国の指導層は「アメリカはその軍事的優位のおかげで、たとえ中国の裏庭であっても自由に介入できる能力を持っている」ということを実感することになったのだ。


それ以降、北京は最新の戦闘機や対艦弾道ミサイル、そしてステルス的なディーゼル電気型の攻撃潜水艦のように、東アジアや東南アジアの近隣諸国に対して優位になるだけでなく、アメリカが彼らを守るために介入してくるのを防ぐための能力を開発しつづけている。


いわゆる「A2AD」として知られているこれらの能力を開発しようとする彼らの努力は実を結び、アメリカはいざ中国と紛争が勃発した際に、台湾やそれ以外のパートナーや同盟国たちを守ることが難しくなりつつある。


ところが北京は、アメリカの西太平洋の支配状態に挑戦しても、同時にアメリカのグローバルな軍事的優位の最大の受益者の一人であることは変わりない


アメリカの戦力投射能力は「グローバル公共財」の安定性と自由を支えてきたのであり、エネルギーの供給やそれ以外の主要コモディティーの自由な取引を保証してきたのだ。


つまりアメリカの軍事力は、中国がリッチで強力になることができた比較的平穏な世界情勢を促進してきたのである。


これは米中関係に存在する多くのパラドックスの一つの例である。ワシントンは長期的に最大の戦略的ライバルの経済面での台頭を、そのライバルを富ませたグローバルな交易の流れを守ることによって保証してきたのである。


その一方で、中国はアジア太平洋地域においてアメリカに対する挑戦を厳しくしている合間にも、アメリカのグローバルな安定に「タダ乗り」してきたのだ。


この状況は永遠に続くことはない。なぜなら台頭する中国がこのような状態にいつまでも我慢できるはずがないからだ。結局のところ、もしアメリカが「グローバル公共財」を安全に保つことができれば、自らの意志でそれらを支配し、決心さえすればそれらへのアクセスを制限することだってできるのだ。


よって、米中関係がギスギスしてくるにしたがって、中国は経済成長のためには米海軍の寛容さを必要とするような状況を許しがたいものと考えるようになってきた。中国の戦略家たちは「マラッカ・ジレンマ」、つまり「アメリカは商船をいくつかの海洋チョークポイントにおいて遮断することによって中国の原油やその他のコモディティーを制約できるようになる」という可能性について、切実に気付かされることになったのだ。


アメリカの戦略家たちも当然ながらこの可能性をよくわかっており、いざ戦争となった時の中国の倒し方についての議論の中で、遠洋での海上封鎖の提案は北京の重要な天然資源の兵糧攻めを意味することが明確に論じられている。


どの大国も、ライバルである大国が自国の経済の生殺与奪権を持っているような状況についてはイラつくものであり、中国もこの例外ではない。


それと同時に、中国の軍事力の増大は、北京に対してこの脆弱性を是正し始めるための、さらなる能力を与えつつある。


1990年代半ばの人民解放軍は、中国の国境外に戦力投射を行うにはまだ無理のある、時代遅れの戦力しか持っていなかった。世界の国防費の総額でも、中国のそれはたった2%ほどであった。


ところが現在では、これまでの十数年間の急速な経済成長と安定した国防費の増大により、中国は世界第二位の国防費を持つようになり、人民解放軍はより野望的な任務を可能とする、先進化した近代兵力を持つようになったのだ。


結果として、中国の軍関係者たちは西太平洋の外側を見るようになり、さらにその向こう側にどのように戦力投射をすべきかを考慮しはじめた


海軍戦略家たちはインド洋やアフリカの角、そして中国の海洋生命線として致命的な水路として重要なペルシャ湾のような海域において、いかに中国の軍事的影響力を発揮するのかを考えている。


中国とアジア・欧州に広がる国々を莫大な貿易とインフラで結ぶ「一帯一路構想」は、それと同じような目的を持っている。


中国の戦力態勢はいまだに自国の海洋・領土の周辺域(さらには国内治安の安定)に集中しているにもかかわらず、北京は軍事的にグローバルな規模の展開へと移りつつある。


人民解放軍は海賊対処や危機における撤退、さらには中国沿岸から何千マイルも離れた海域での海軍演習を実行するようになった。そして北極海やバルト海のように、さらに遠くの海域にも突き進んでいる。人民解放軍海軍は、空母をはじめとする、ある種のグローバルな戦力投射能力を開発しているのだ。


また、中国はそのような作戦を継続するために必要な後方施設を確保しようと動いている。北京は戦略的な位置にあるジブチに最初の海外軍事基地を開設したし、インド洋沿岸にも次々と計画を実行にうつしており、バヌアツやスリランカを始めとする国々に対して、経済力や強制的な外交を使いながら港湾やその他の施設を獲得しようと動いていると報じられている。


さらに、中国の軍隊はアフリカで軍事演習を行っており、これは海外における中国人を守るための努力の一環である。


このようなグローバルな態度は中国のポップカルチャーにも見てとることができる。最近中国で大ヒットしたある映画では、架空のアフリカの国で起こった内戦の混乱状態の中から中国の艦船が海外の中国人を救うという内容のものであった。


もちろん中国がアメリカと匹敵するようなグローバルな軍事力を持つようになるにはまだ少なくとも数十年という時間がかかるだろう。それでも北京はその方向に明確かつ意図的に動いているのは確かなのだ。


アメリカの視点から見れば、この「中国の長期的な野望」とでも呼べるものは非常にやっかいである。米中関係が敵対的になりつつある現時点において、北京はアメリカと地域だけでなくグローバルな規模で競っていく時代を先取りして見据えている、ということだ。


そしてもし中国が現在のように自国沿岸周辺でまだ争いが激しい段階でさらにグローバルなプレゼンスを望んでいるのであれば、西太平洋で支配的な立場を確立できた時にはどれほど野心的になるのかは見当がつかない


これは目標や権益が能力と共に拡大する、中国という勢いのあるグローバルな権力という立場を象徴するいくつかの中のたった一つの面であろう。


唯一の望みは、中国が「前のめり」になってしまっているという点だ。海外で大規模な足がかりを得ようとする努力――とりわけ港のような施設へのアクセスの確保――は、その動機や意図について国際的な疑念を生じさせている。これは中国の戦略的台頭に対するさらなる国際的な抵抗の発生につながるかもしれないのだ。


さらに、もし中国の軍事費が永遠に増大しないという前提に立てば、グローバルな活躍という面で有益となる戦力投射能力――たとえば空母打撃群など――と、対艦ミサイルのようにアメリカが台湾をめぐる戦争に介入してきた時に最大の威力を発揮する兵器の開発のように、二つの能力の間のトレードオフに直面することになるだろう。


世界規模の大国は、常にリソースその優先順位をつけた割当という厳しい決断を迫られるものだ。中国はその野心が大きくなるにつれて、すぐにこのような状況を思い知ることになる。


====


簡潔にいえば、「中国は軍事的に世界的な力を獲得する方向に動いているから警戒せよ」ということですが、こういう大きな視点の議論は、普段あまり見かけないからこそいいものですね。


アメリカの中国に対する軍事戦略に関しては私も数年前にアーロン・フリードバーグの『アメリカの対中軍事戦略』という本の翻訳をお手伝いさせていただいておりますので、ぜひそちらも参照していただければありがたいです。


かなりテクニカルな内容ですが、むしろアメリカ側の考え方が如実にわかるという意味で、非常に勉強になったことを覚えております。

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(ボンダイビーチ)



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# by masa_the_man | 2018-06-20 10:17 | 日記 | Comments(0)

最近番組で米朝首脳会談が実現した最大の要因として「北朝鮮が核武装したから」という指摘をしたわけですが、

それに対して、


「核武装がスゴイという分析は単純すぎる」というものや

「アメリカには露中に対抗するという奥深い戦略がある」

「むしろワナとして北朝鮮を国際社会に組み込んだのだ」

「むしろ勝ったのはアメリカだ」


という批判がありましたが、これらに対していくつか反論をしてみたいと思います。


まず「単純すぎる」という主張に対して私が言いたいのは、たしかにその通りかもしれないが、それでも全体的な問題の核心は核兵器にあり、この最大の問題から目をそらせてはいけないということです。


日本人としては目をそむけたいのかもしれませんが、核兵器というのは本当にすさまじい効力を持っておりまして、現在の国際社会で「大国」と呼ばれる国は、もれなく核武装をしております。そしてパキスタンのような核武装を達成した国はアメリカにつぶされずに、達成できずに解除されてしまったリビアは、トップのカダフィが殺されております。


つまり核武装は、少なくとも北朝鮮の金正恩委員長にとっては「体制保証」のための切り札であり、自分を国際社会において米国とも対等に話をするのを可能にしてくれたもの、ということになります。


もちろん「体制保証の切り札」というのが私の単なる主観的な判断であるという可能性はありますが、少なくとも状況的に金正恩自身がそう考えていることは明らかでしょう。


次に「勝ったのはむしろアメリカだ」という批判ですが、私はそれらは「希望的観測」としては非常に正しいと思いますし、むしろ今回のシンガポールの会談ではそのような「アメリカの勝利」という結果であったら良かったと個人的には思っています。ところが残念なことに、それらはあくまでも「希望的観測」でしかないのです。


今回のトランプ大統領の「敗北」や「核武装」について、私は以下の2点が論拠として挙げられると考えております。


①小国であっても核武装すると別物

まず一点目は、トランプ大統領が現地時間で6月15日の朝の、記者との受け答えにおける発言です。この時のトランプ大統領はホワイトハウスの庭を歩きながら、何人かの記者たちと「カジュアルな記者会見」という形で質疑応答を行ったわけですが、この時の受け答えで、以下のようなものがありました。


===


記者:大統領、あなたは金正恩氏と、北朝鮮に拘束されていた(米国人学生の)オットー・ウォーンビアー氏を死に追いやった状況について熱心に語ったとおっしゃってましたね。それと同時に、金正恩氏の人権侵害の経歴を擁護しております。なぜそんなことができるんですか?


トランプ大統領:「なぜかって?それは私が(米国にいる)あなたとあなたの家族が核兵器で破壊されることを望んでいないからです」


===


おどろくべきことに、これは文字起こしされて、ホワイトハウスの公式HPに掲載されています。


この発言がなぜおどろきなのかというと、世界最強のアメリカという国家のトランプ大統領が、どこまで本気かどうかはさておき、


北朝鮮の核兵器が怖いから会談した


と公式に認めてしまったという事実です。つまり彼は、「小国でも核兵器を持てば慎重に扱わなければやばい」ということを認めてしまったのであり、おそらく北朝鮮だけでなく、その他の核武装を望む国々にも「核武装の素晴らしさ」というものをあらためて認識させてしまったということです。


②トランプに深い思慮はない


二点目は、トランプがあまり考えなしに政策を決定しているという事実です。


これについてはニューヨーク・タイムズ紙の記事で報告されているホワイトハウスの最新の状況から、その様子をうかがい知ることができます。すでに『炎と怒り』という暴露本でも有名ですが、トランプ政権はカオス状態にあります。


しかもさらに新しい状況を報告したその記事では、ホワイトハウス内のムードは、大統領が直感だけで行動しようとますます自信を

深めていることに対する、茫然自失の諦めの状態にあると書かれているのです。


このような状況で、トランプ大統領に「アメリカには露中に対抗するという奥深い戦略がある」、「むしろワナとして北朝鮮を国際社会に組み込んだのだ」と言い切れるかというと、私はかなり難しいと考えております。


もちろんこれについて「リベラルで反トランプのNYタイムズ紙だからこういう見方をするんだ」という反論もできるでしょう。


ただし突発的な米韓軍事演習の中止の決定による混乱や冒頭に紹介した「核兵器で殺されなくない」という発言など、どう考えても彼がそこまでものごと深く考えて決定しているとは思えず、この記事で報告されている政権内のカオスは事実であると考える方が自然です。


「経済制裁が効いて金正恩が会談に乗ってきたからトランプの勝利」というのも、1つの議論としてはあるでしょうが、本当にそのせいで会談が実現したのかどうかは、北朝鮮側の証拠がないので、実際のところはわかりません。


さらに中国側が軍事演習をやめるように金正恩に頼んでいた、という報道があったことからもわかるように、「北朝鮮を中国から引き離し米国側に取り込んだ」という議論はやはり無理でしょう。


ということで、私は現時点では今回の米朝会談はやはりアメリカの「北朝鮮を核武装国として認めてしまった失敗」であり、あらためて核武装の効力を国際的に喧伝してしまった、トランプ大統領の思いつき的な「失策」だと考えております。


トランプ大統領はたしかに素晴らしい不動産取引のできる人なのでしょう。それでも国際政治における「ディール」ができるかどうかは、

やはり別の能力だと考えたほうがよさそうです。

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(伊丹空港の上空からの眺め)



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# by masa_the_man | 2018-06-19 09:33 | 日記 | Comments(3)

今日の横浜北部は雲が多めながらなんとか晴れました。


さて、昨日のトランプ大統領と金委員長との会談を受けて、ワシントン・ポスト紙のジョッシュ・ローギンの記事が参考になりましたので要約です。


========


米朝首脳会談の最大の勝者は中国だ

By ジョッシュ・ローギンJune 12


トランプ大統領と北朝鮮のリーダーである金正恩委員長との首脳会談は、習近平国家主席の想像をはるかに越えた(北京側の視点からみれば)良い形で終わった。


たった一日の会談のあと、トランプ大統領は米韓軍事演習を停止することに合意したわけだが、これはまさに北京政府が首脳会談前に提案したことを正確に行っただけだ。トランプは在韓米軍の撤退を公言したわけだが、これは中国にとって巨大な「戦略的棚ボタ」となるものだ。


トランプ氏は中国が北朝鮮に対する経済制裁をダメにしているが、それに対して自分が何もできないことを認めている。そしてトランプ氏は北の政権に正統性を与えてしまっており、これによって北京を両国間において大きな影響力を持つ存在として維持するための、長期的なプロセスを開始してしまったのだ。


ロシア・ヨーロッパ・アジア研究センターの代表であるテレザ・ファロンは「トランプ氏は勝者と敗者というわかりやすい構図が好きだが、今回の歴史的なトランプ=金サミットのあとの最大の勝者は、まさに習近平のようだ」と述べている。


北京と平壌の関係は、ほんの数ヶ月前までは暗礁に乗り上げていた。ところが習近平と金正恩はうまく改善させて戦略を連携させ、現在は――トランプのおかげで――首脳会談を望ましい形で達成したのである。


その合間にトランプ氏の譲歩は、同盟国との関係悪化や、東アジアにおけるアメリカの戦略態勢を弱体化させ、中国が望む外交の枠組みを支持するというリスクを生じさせたのだ。


実際のところ、トランプと金正恩がシンガポールで合意した「ディール」は、そもそも北京によって提案された「凍結のための凍結」だったのだ。


ファロンによれば「アメリカの同盟国たちの信頼を失わせることは、習近平にとって重要な勝利の1つ」であり、「北京は“凍結のための凍結”と合同演習の停止を望んでいた。そしてトランプ氏はまさにこれを何の対価もなく与えてしまったのだ。彼の交渉術とはすごいものだ」と述べている。


トランプ氏は米韓合同軍事演習をやめただけでなく、中国と北朝鮮のレトリックをそのまま使って、以前米国が「軍の即応体制と抑止にとって必要だ」と説明していた軍事演習を批判したのだ。


「われわれはウォーゲームを停止する。これによって多額の資金を節約できる。さらに、これはそもそも挑発的なものだ」とトランプ氏は火曜日の記者会見で述べている。


その同じ記者会見の中で、トランプ氏はすべての在韓米軍を韓国から撤退したいとも公言しており、これは実際にトランプ自身が長年にわたって個人的に語っていたことである。ところが彼はさらに平壌との将来的な交渉の中で、米軍の減少についても議題に乗せたいと述べたのだ。


「われわれの兵士を撤退させて帰還させたい。現在われわれは韓国に3万2千人もの兵士を駐留させているのだ・・・もちろんこれは北朝鮮との交渉の中で現在は議題として取り上げているわけではないが、将来的にはどこかの時点で議題となるはずだ」と述べている。


またトランプは、米・韓・日が行ってきた「最大圧力」というキャンペーンを弱体化させることによって、北京に勝利を与えている。彼は北に対する新たな制裁を延期すると述べただけでなく、中国が厳格に制裁を実行していないことを認め、しかもそれを無視したのだ


「中国の習近平国家主席は・・・北との国境を封鎖したが、ここ数ヶ月はやや緩めているのかもしれない。でもそれでもかまわない・・・私はここ二ヶ月間において、国境は制裁を実行しはじめた頃と比べて開放されているのだが、それも現実だ」と述べている。


中国の外交部は、火曜日に北への制裁解除を求める声明を発表して、会談から成果を挙げられるように「掛け金」を釣り上げている。


北京は首脳会談が実現したという点だけでもトランプと喜んで合意するはずだ。中国外交部部長の王毅は、声明文書の中で、「両国首脳が共に座って台頭な立場で議論できただけでも重要な意義がある。これは新しい歴史をつくったのであり、北京はこれを歓迎し、このような結果を支援する」と述べている。


CIA長官のマイケル・ヘイデンは、「金委員長との将来の交渉に向けたプロセスを始めるための良い会談が行われたのはポジティブなことだが、北朝鮮が何か新しいことに合意した考えるべきではないし、このためにわれわれが大きな代価を支払ったことは忘れてはならない」と私に語ってくれた。


彼によれば「われわれは世界最悪の独裁者の一人に対して、われわれと対等であるという感覚を、大統領の言葉を通じて、建前上でも本音レベルでも与えてしまったのだ。そしてそこからわれわれが得た成果というのは、将来のどこかで合意することを考えようという合意だけであった」のだ。


中国にとってさらに嬉しいことに、トランプ氏はアメリカの同盟国である、韓国と日本に対して混乱を与えた。ソウルの大統領府の報道官は、火曜日の声明で「現時点でトランプ大統領の声明の真意についてはさらなる情報が必要だ」と述べている。


トランプ大統領に対して不可逆な非核化の約束がなければ金委員長に譲歩しないよう求めていた日本政府は、屈辱を味わっているはずだ。


トランプ氏は自分の直感を信じており、金委員長は非核化に真剣に取り組むと考えていて、トランプ氏が申し出ている経済開発支援を欲していると考えており、必ず約束を果たすはずだと信じている。


「それでも彼は約束を果たすだろう。もちろん私が間違っている可能性はあるので、たとえば半年後に私はみなさんの前にたって自分が間違っていたと言うかもしれない。もちろん私はそれを認めるかどうかはわからないが、何らかの言い訳は見つけるかもしれない」と述べている。


北朝鮮の独裁者の誠意を盲目的に信じることによって、アジアにおける米国の戦略態勢を破壊し、同盟関係に疑問を生じさせ、北朝鮮への圧力を緩和するのは、まったく合理的ではない


もし北京の戦略的な狙いが「アジア地域におけるアメリカの地位の弱体化」にあるとすれば、トランプ氏は彼らにとってかなり役に立つ仕事をしたということが言えるだろう。


====


たしかにトランプ大統領の言うように事態が進めば、北京にとって願ったり叶ったりですね。ただし私は逆に、やはり今回の「失敗」は、トランプ政権自身の自滅的な要素が大きいと考えております。


それよりも重要だと思うのは、なんといっても北朝鮮が会談を実現させたことによって、図らずとも小国が核武装をすることのメリットを世界中に教えてしまったこと。


正直な戦略家は、核兵器を入手した国家には圧倒的な破壊力による大規模侵攻に対する抑止能力と、他国からのリスペクトが与えられる、と主張することが多いわけですが、一時的にせよアメリカとの対等な関係が樹立可能であることをシンガポールで金委員長は立証してしまいました。


もちろんワシントン側がこの失敗を認めて政策変更をしてくるかが今後の見どころですが、少なくとも短期的には北朝鮮、そしてもし本当に米韓軍事演習が停止されれば、中国の外交的な勝利は固まりそうです。

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(メイド・パーティー)



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# by masa_the_man | 2018-06-13 20:10 | 日記 | Comments(1)

今日の横浜北部は昨日の梅雨入り宣言後でもなんとか晴れております。


さて、本当に久々の更新となってしまいましたが、面白い記事があったので要約しました。将来戦の備えとしてSFの役割は重要であるとする意見記事です。


====


SFで21世紀の戦いに備えることは可能か

By MLカヴァナウ

2018-5/28


小説家のマーガレット・アトウッドは、ヴァラエティ誌が行った最近のインタビューで「911連続テロ事件のハイジャッカーたちは映画スター・ウォーズを観て飛行機をビルに突っ込ませるアイディアを思いついた」と答えて炎上している。


「侍女の物語」をはじめとするディストピア的な作品で有名なアトウッドだが、この指摘は間違っていた。19人のハイジャッカーたちは、映画スター・ウォーズにインスピレーションを受けたわけではないからだ。アルカイダはデス・スターの破壊を再現しようとしていたわけではない。


ところがアトウッド女史のコメントは、それほど間違っているというわけでもない。なぜなら文学や映画は長年にわたって戦争の現実をうまくとらえているものであると考えられてきたし、その逆に、それらが戦争についての考えに影響を与えてきたからだ。「現実の戦争」(real war)と「映画の中の戦争」(reel war)の間には、直接的な関係性が存在するのだ。


もちろんこれは特別に目新しいことではない。芸術というのは、人類の歴史が始まって以来、戦争に影響を与えてきたし、その逆も同じなのだ。『イーリアス』は古代の戦争についてのほぼ創作であるが、アレクサンダー大王は枕元においていたと言われている。


ジョン・スタインベックは戦争を目の当たりにしたことはないのだが、1942年に発表した『月は沈みぬ』という小説では軍事的に占領された小さな町が題材となっており、第二次大戦の欧州戦線ではナチスに占領された地域のレジスタンス側にとって良き手引書となって大きな影響を与えている。


とりわけノルウェーにおける抵抗運動で役に立ったため、スタインベックは1945年にノルウェー王ホーコン七世から戦時の功績を讃えられて自由十字勲章が与えられている。


現代の戦士たちもまだフィクションから学んでいる。スタンレー・マクリスタルとデイヴィッド・ペトレイアスという二人の元将軍たちは、1960年に発表されたThe Centurionsというインドシナ半島やアルジェリアにおけるフランスの空挺部隊の活躍を描いた小説に大きな影響を受けたと述べている。


NATOの最高司令官で米海軍の提督だったジェームス・スタヴリディスは、自分の軍歴においてヘミングウェイの多くの小説が大きな示唆を与えてくれたと指摘している。


「911事件調査委員会」の報告書では、諜報機関のメンバーたちが民間の航空機が武器となることを認識していたことが記されている。彼らはこの認識を国家のインテリジェンス関連の情報から得たわけではなく、トム・クランシーが1994年に発表した小説「日米開戦」(Debt of Honor)から得たとしている。これは民間航空機が首都ワシントンDCに突っ込んで米国の政治中枢をほぼ破壊するような内容のものだった。


米国政府はこの種の情報――つまり本や映画、そしてその他の創造的な産物によるインテリジェンス的な価値のある情報――を公開情報、つまり「オシント」(OSINT)として分類して扱っている。


さらに、同政府はインテリジェンスの目的のために、場当たり的ながら、あえてフィクションからヒントを得ようとさえしている。


実例として、911後にペンタゴンは二十数人のハリウッドの脚本家や監督たちから将来起こりうるような不測の攻撃を想像してくれるようにたのんでいる。


さらに最近の話では、米陸軍の参謀長であるマーク・ミレー将軍は、2016年にシカゴのプリツカー軍事博物館における講話で、米軍は将来戦に必要となるものを学ぶためにSFを研究していると述べている。


たしかに現代において、戦いの本質が速い勢いで変わっていることは間違いない。現在実質的にCIAの長官を代行しているマイケル・モレルは、最近アトランティック誌で、今日ほど米国が様々な脅威にさらされている時代はないと述べている。それらを予期して対処するためには、ハリウッド級の創造性が必要になってくるはずだ。


このような理由から、フィクションと戦争の間の長年にわたる非公式な関係性から学ぶべきであろう。米国の安全保障機構は、このような推測的な研究を、一時的なものではなく、より正式なプログラムとして拡大させるべきである。


米陸軍は、将来戦を予期して対処するために、ビジネス界のリーダーや先端の技術者、さらには学者たちの知見を集めるための機関として、最近になって「未来コマンド」(Futures Command)の立ち上げを宣言している。


この司令部が設置されるのはすべてカリフォルニア州内の都市であると見られており、ロスアンジェルス、サンディエゴ、そしてサンフランシスコの名前が上がっている。


米陸軍はこの計画の中に、小説家や脚本家のような「戦略的想像者」たちを加えるべきであろう。「未来コマンド」やその他の機関では、「フィクション・インテリジェンス」を生み出す創造的な専門家たちが役立つはずだ。


ちなみに「フィクション・インテリジェンス」は国家安全保障の専門家であるオーグスト・コールによって「フィシント」(FICINT)と呼ばれているものだ。これによって次のアメリカに対する攻撃を予期し、その予防戦略を形成し、いざという時に実行できるようにするのだ。


マーガレット・アトウッドは映画「スター・ウォーズ」が911事件のハイジャッカーたちのインスピレーションとなったことを指摘して馬鹿にされたのかもしれないが、彼女の提案は全く信じがたいものというわけではない。


さらに彼女のその後の「SFの著者たちは将来に何が起こるのかを考える点では優れた才能を持っている」というコメントはまったく正しい。


米軍はこのような才能を公式に採用すべきであろう。911事件調査委員会の結論でも印象的なように、911連続テロ事件の失敗の重要な要素のうちの一つが、対処する側の「想像力」の欠如だったのだ。


映画「スター・ウォーズ」のように、われわれは「続編」を許してはならないのだ。

===

著者は現役の米陸軍士官で、現在は陸軍士官学校のあるウェストポイントの研究員をつとめているそうですが、この種の話は戦略系の人間たちの間でも以前から非公式には論じられてきたことですね。


もちろん未来予測そのものはあまり当たるわけではないのですが、いざ紛争が起こった際に柔軟に対応するという意味では、このような「考えられないことを考える」という想定を普段から考えておくことは重要ですね。


それにしても米陸軍が「未来コマンド」を作るとはなんとも大胆なことを。

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(ダーウィンの喫茶店からの眺め)


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# by masa_the_man | 2018-06-07 15:18 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部はよく晴れました。花粉がすごいようで完全に春の陽気です。

さて、すでにご存知でしょうが、いよいよ『ルトワックのクーデター入門』が発売になりました。

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エドワード・ルトワック著『ルトワックのクーデター入門』(芙蓉書房出版)

まだ書店には並びきっていないようですが、おかげさまでリアルの書店で出ているところではかなり好評のようで、一部ではこの週末だけで完売したところもあるとか。東京駅前の某大型書店の本店では100冊も追加注文が入ったと聞きました。

タイトルだけみると冗談のように思えますが、実は本気の内容の本です。

目次は以下のとおりです。

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2016年版へのまえがき
初版まえがき(1968年)
ウォルター・ラカーによる序文(1978年)
第1章 クーデターとは何か?
第2章 クーデターはいつ可能か
第3章 クーデターの戦略
第4章 クーデターの計画
第5章 クーデターの実行
補遺A 弾圧と経済
補遺B クーデターの戦術的側面
補遺C 統計データ
訳者あとがき

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ここで一つ注意していただきたいのは、本書は日本でも長年絶版状態になっていた初版の日本語版であるエドワルド・ルトワック著、遠藤 浩訳『クーデター入門:その攻防の技術』の復刊ではなく、2016年に出た改訂版である原著の日本語版、という位置づけであることです。

ようするに初版の『クーデター入門』とは別の本である、ということです。

もちろん内容そのものはオリジナルの『クーデター入門』と今回のものは、訳した私の感覚からすると90%は同じなのですが、たとえば日本語版の方はかなり古い表現の仕方が含まれていたり、いくつかの箇所では誤訳があったため、今回の本ではかなり手を入れております。

すでにお読みになった方はおわかりでしょうが、この本は、その一義的なテーマ(権力の奪取)とは違って、本質的には本格的な政治分析の本です。

詳しくは「訳者あとがき」の方にも書かせていただいたのですが、さすがにルトワックのデビュー作だけあって、後に発展させていく戦略論の論理についての基本となる考え方がすでにつまっていて興味深いものです。

翻訳作業を終えて、現段階で訳者として印象に残っているのは、やはり最後の第五章の、クーデターを成功させた直後の実行部隊の不安定さと、その対策についての議論の部分でしょうか。

そして意外に読み応えがあるのは、経済成長と国民の治安維持(弾圧)について書いた「補遺A」でしょうか。目のつけどころが鋭いと関心しました。

「訳者あとがき」で書き忘れたのですが、この本は当然ながら、日本のような近代式の組織的に複雑化した国家には(残念ながら?)使えません。もし日本で使用する価値があるとすれば、それは「ゲームや小説などの創作ものの参考書」ということになるでしょうか。

そして究極的にはこの本が描こうとしているのは、もしかしたら「人間とは何か」というなのかもしれない・・・・ここまで感じていただけたら、その訳出作業に関われた者としては本望かと。

ということで、ぜひよろしくお願いします。


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(左が旧版、右が新版)


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# by masa_the_man | 2018-03-26 23:39 | おススメの本 | Comments(0)