戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の横浜北部は朝から小雪が降っております。


今年も残りわずかとなりましたが、みなさんはいかがだったでしょうか。


私はおかげさまで5冊(4thターニング、ルトワック、クラウゼヴィッツ、ミアシャイマー2冊)も出版できまして、まさに「レコードイヤー」となったわけですが、とくに後半にあまりブログを更新できなかったのが心残りでした。


来年もすぐに孫子やクーデター、それにグレイやルトワックなどの4冊の本の出版がすでに決定しておりまして、日本の戦略に関する議論にわずかながらでも貢献できればと考えております。


さて、今年最後の更新は拙訳『米国世界戦略の核心』でも有名なハーバード大学教授のスティーブン・ウォルトがフォーリン・ポリシー誌のブログに書いた記事の要約です。


国際関係論という学問では基本である「バランス・オブ・パワー」(勢力均衡)という概念を中心に、アメリカの対外政策のまずさを指摘した興味深いものです。ちょっと長いですが、ぜひ。


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バランス・オブ・パワーを忘れていないか?

byスティーブン・ウォルト


もしあなたが国際関係論の入門コースを大学などでとったことがあり、教師が「バランス・オブ・パワー」(勢力均衡)の概念を教えてくれなかったとしたら、母校に連絡してその授業料を返金してもらおう


この概念は、ツキュディデスの『ペロポネソス戦争(戦史)』やトマス・ホッブズの『リヴァイアサン』、それに古代インドのカウティリアの『実利論』、そして近代のリアリストであるEHカー、ハンス・モーゲンソー、ロバート・ギルピン、さらにケネス・ウォルツらの研究にとっても中心的な概念となっている。


ところがこのような長い傑出した歴史を持っているにもかかわらず、このシンプルな概念は、アメリカの対外政策を担うエリートたちのあいだでは忘れられていることが多い


なぜロシアと中国が協調しているのか、もしくはなぜイランが様々な中東のパートナーたちと勢力を結集しつつあるのかに疑問を感じる代わりに、彼らはそれが独裁主義や反射的な反米主義、さらにはその他のイデオロギー面での団結にあると想定するのだ。


このような「集団的な記憶喪失」のおかげで、アメリカのリーダーたちは無意識的に敵をまとめてしまい、そのような勢力を分断できるチャンスを見逃してしまうことになる。


バランス・オブ・パワー(もしくは私の提唱したバランス・オブ・スレット:脅威均衡)の土台にあるロジックはわかりやすいものだ。国家には互いに相手の攻撃から守ってくれる「世界政府」のような存在が存在しないため、国家は占領されたり強制されたり危機に直面する事態を避けるため、自分の持つ資源や戦略に頼らなければならない、ということだ。


強力な国家や脅しをかけてくる国に直面すると、恐れをなした国家というのは、国家間のバランスを自らになるべく優位な状態にシフトさせようとして、自らの資源を更に投入したり、同じ危険に直面している他国との同盟を求めるものだ。


それが極端になると、同盟には、たとえば以前は敵と見なしていた国や、さらには将来的に敵となることがわかっているような国との共闘も必要になってくる場合も出てくる。だからこそアメリカとイギリスは第二次世界大戦においてソ連と同盟を組んだのが、これは彼らの間で、ナチス・ドイツを倒すことのほうが長期的な共産主義の懸念よりも重要である、と認識されていたからだ。


ウィンストン・チャーチルの名言に「もしヒトラーが地獄を侵攻するというのであれば、私は英国下院で悪魔についても好意的な演説をするだろう」というものがあるが、これはまさにバランス・オブ・パワーのメカニズムを完璧にとらえたものだ。


フランクリン・デラノ・ルーズヴェルトもドイツ第三帝国を倒すためであれば「悪魔と手を握る」という似たような発言をしている。同盟相手を本気で求めている場合、その相手を選んでいる余裕はないのだ。


当然ながら、「バランス・オブ・パワー」のロジックがアメリカの対外政策、とりわけ安全保障の懸念が深刻になってきた場合において、重大な役割を果たしていることは言うまでもないだろう。


アメリカの冷戦時の同盟(つまりNATO、北大西洋条約機構であり、アジアにおいてはハブ・アンド・スポークと呼ばれる二国間条約によるシステム)は、ソ連にバランシングして封じ込めるために結成されたものであり、これと同じ動機のおかげで、アメリカはアフリカ、ラテンアメリカ、そして中東などの地域の独裁的な政権を支援したのである


同様に、一九七二年のリチャード・ニクソンの中国との国交回復は、ソ連の台頭の恐怖や、北京との関係強化はモスクワを不利にすることになるという判断によってもたらされたものだ。


ところがその長い歴史や継続的な妥当性にかかわらず、政策担当者や知識人たちはバランス・オブ・パワーのロジックが同盟国と敵側の双方の行動をどのように突き動かしているのかについて見誤ることが多い。


この原因の一つは、アメリカで一般的に見られる「国家の対外政策は、外的な状況(直面する様々な脅威など)ではなく、そのほとんどが国内政治の性格(リーダーの性格や政治・経済体制、もしくはその国で支配的なイデオロギーなど)によって決定される」と捉える傾向から生まれている。


このような観点からみれば、アメリカの「自然な」同盟国は、われわれと価値観を共有する国、ということになる。


アメリカを「自由世界のリーダー」と言ったり、NATOのことをリベラルな民主制度によって構成された「大西洋横断コミュニティー」と言う人々は多いが、この時に暗示されているのは、これらの国々が「世界秩序のあるべき姿」について共通の展望を持っているので互いに支え合っている、ということだ。


もちろん「共有された政治的価値観」というのは全く意味がないものだとは言い切れない。たとえばいくつかの実証的な研究では、民主制国家同士の同盟は、独裁国家同士の同盟や、民主制と非民主制国家による同盟よりはいくらか安定していることが示されている。


それでも「国内政治の性格が、敵・味方の判別につながる」と想定してしまうと、われわれはいくつかの点においてものごとを見誤ってしまうことになる


第一に、もし「共有された価値観」がわれわれを結びつける強力な力だと信じてしまうと、われわれが持つ既存の同盟関係のつながりの強さや継続性というものを勘違いしてしまうことにもなりかねない。


その典型的なのがNATOだ。ソ連崩壊はこの同盟関係の最大の存在理由の消滅させることになり、新たな任務を与えるために多大な努力が必要になったわけだが、それでもこの同盟関係の崩壊を予兆させる問題の繰り返しや増加は止めるには至っていない。


もしアフガニスタンやリビアにおけるNATOの作戦が上手く行っていれば事情は違ったのだろうが、実際は失敗しているのだ。


もちろんウクライナ危機はNATOの緩やかな衰退を一時的に止めることになったのかもしれないが、それでもこの事実は、NATOのまとまりをつくる「外的な脅威」(つまりロシアがもたらす恐怖)の中心的な役割をあらためて強調したにすぎない。


「共有された価値観」というのは、大西洋両岸の三〇カ国近くの国家による同盟関係を十分に維持する上では単に不十分なのであり、しかもNATOが土台としているリベラルな価値観を、トルコ、ハンガリー、そしてポーランドが破棄してしまった現在においては、ますますその不十分さが浮き彫りになってきている。


第二に、もしバランス・オブ・パワーを忘れていると、他国(非国家アクターの場合もあるが)が自国に対してまとまって歯向かってくるような状態に驚かされることになる。たとえばブッシュ(息子)政権は、二〇〇三年に国連安保理にイラク侵攻案を了承させようとした時に、フランス、ドイツ、そしてロシアらがまとまって妨害してきた時に驚いている。その理由は、サダム・フセインを排除してしまえば、結果的に自分たちが被害を被ることになることを知っていたからだ(そして結果的に彼らは実際に被害を受けた)。


ところがアメリカのリーダーたちは、なぜこれらの国々がサダム・フセインを排除し、地域を民主化するチャンスに乗らないのかを理解することができなかったのだ。ブッシュ政権で国家安全保障アドバイザーをつとめたコンドリーザ・ライスは、後に当時を振り返って「あえて大胆に言うと、われわれは単純にわかっていなかったのだ」と認めている。


また、アメリカの政府高官たちは、イランとシリアがアメリカの侵攻の後に、イラクの反抗勢力を共同で助けはじめたことについても驚かされている。


もちろんブッシュ政権の「地域民主化」を失敗させることは、イランやシリアにとっても完全に合理的なものであることは言うまでもないことであったし、しかもイランとシリアは、イラクの占領がうまくいけば、その次の「標的」になったはずなのだ。つまり彼らは、脅威にさらされた国々が普通に行動するように行動したまでであった(しかもこれはバランス・オブ・パワー理論の予測の通りである)。


もちろんアメリカ側にとってこのような行動は好ましからざるものだが、それによって驚かされてはいけないのである。


第三に、政治・イデオロギー的な結びつきに注目したり、共有された脅威の役割を無視してしまえば、われわれは敵を実際よりも強固にまとまった存在と見なしてしまうことになる。アメリカの政府高官やコメンテーターたちは、敵が単なる「手段」、もしくは戦術的な理由によって協力しているという点を見逃しつつ、「敵は共通の目標に向かって互いに深く協力している!」と考えがちだ。


たとえば冷戦初期にアメリカでは共産圏を非常に統制のとれた一枚岩の存在であり、すべての共産主義者たちを「クレムリンの息のかかった工作員である」と誤信していた。この間違いのおかげで、彼らは中露間の間の強烈な分断を見抜けなかった(否定した)だけでなく、アメリカのリーダーたちは非共産主義の左派までが親ソだという誤った想定をしてしまったのである。


ちなみに、ソ連のリーダーたちも同じ間違いをしており、第三世界の社会主義者たちを共産主義に取り込もうとして何度も失敗している


嘆かわしいことに、このような誤った直感的な想定は、たとえば「悪の枢軸」(イラン、イラク、北朝鮮は同じムーブメントによって動かされているという想定)や「イスラモ・ファシズム」(Islamofascism)という言葉などからもわかるように、相変わらず生き続けている。


過激主義者たちのムーブメントを、異なる世界観や多様な目標を持った、互いに競いあっている組織として見るかわりに、アメリカの政府高官や知識人たちは、彼らがまるで全く同じ作戦要項を使って行動しているかのように語り、そのように行動してしまうのだ。


ところがこれらのグループは、一つの共通のドクトリンは持って強く結びついているような状態からはほど遠く、深いイデオロギー的対立や個人的なライバル関係によって悩まされており、強い信念というよりは、状況的に発生した必要性によって共闘していることが多い。


もちろん彼らはトラブルメイカーではあるが、それでもすべてのテロリストたちを「一つのグローバルなムーブメントの下で働く一兵卒」であるかのように想定してしまうと、その脅威を実際よりも恐ろしいものとして映し出してしまいがちだ。


さらに悪いのは、そのような過激主義者たちの間にある分裂や分断状態を促す方策を求めさせる代わりに、ワシントン政府は彼らを一致団結させてしまうような行動や発言をしてしまうことが多いことだ。


わかりやすい例を挙げてみよう。イラン、へズボラ、イエメンのフーシ派、シリアのアサド政権、そしてイラクのサドル派らの間には、たしかにイデオロギー面でいくらかの共通点はあるのかもしれないが、これらのグループはそれぞれ異なる利益やアジェンダを持っており、彼らの間の協力関係は、イデオロギー的に統一されてまとまったものというよりも、むしろ戦略的な同盟として理解するほうが正しい。


彼らに対して全面的に否定するような行動――サウジ・アラビアやイスラエルはこれを期待しているのだろうが――をしても、それは単に彼らのような敵たちに対して、互いに協力させるように駆り立てる理由を与えてしまうだけだ。


最後に、バランス・オブ・パワーの力学を無視してしまうことは、アメリカが持つ最大の地政学的な面での優位を無駄にすることにつながる。西半球における唯一の大国であるアメリカは、同盟相手の選択肢は豊富であり、潜在的に彼らに対して大きなレバレッジを持っていることになる。


アメリカは地理的な孤立によって与えられている「タダの安全」のおかげで「お高くとまる」戦略、つまりある地域のライバル関係が激化した時にはそれを活用し、距離の離れた地域にある国家や非国家アクターたちをアメリカの賛意や支援を得るために争わせ、現在の敵たちの間にくさびを打ち込むチャンスを待つこともできるのだ。


このアプローチには柔軟性や、地域の情勢についての深い理解、他国との「特別な関係」を回避すること、そして価値観の違う国を敵対視しないような態度が必要になってくる。


あいにくだが、アメリカはここ数十年間にわたってその正反対のことを、とりわけ中東でやってきたのだ。アメリカは柔軟性を見せるかわりに、まったく同じパートナーとつきあいつづけ、彼らを自分たちの思い通りに行動してもらう代わりに、彼らをどうやったら安心させることができるのかばかりに気をとられてきたのだ。


われわれはエジプト、イスラエル、そしてサウジ・アラビアとの「特別な関係」を、それを正当化する理由がなくなりつつある中で、ますます深めてきてしまったのだ。そしていくつかの例外をのぞけば、イランや北朝鮮のような敵国を、脅される「のけ者」として扱って制裁を加えてきたのだが、彼らとは交渉してこなかったのだ。そして嘆かわしいことに、その結果は明白になっている。


=====


リアリストの面目躍如というか、この本でも展開されたような、実にウォルトらしい議論です。


この背景にあるのは、やはり「アメリカの大戦略は19世紀のイギリスを真似ろ」ということでありまして、あからさまに「分断統治」を勧めているところなどは、リアリストたちの大戦略についての議論に出てくる典型的な政策提言です。


ところが問題は、このような議論が「人気がない」という点にありまして、アメリカの外交エリートたちには本当に状況がまずくならないとなかなか受け入れられない政策を提案しているということでしょう。


「敵を無駄に団結させている」という議論も、陰謀論的な発想をすれば「アメリカが戦争の永続化を企んでいる」という反論もできそうですが、ウォルトの根底にあるのは、目先の利益や正義などに振り回され、集団的な利益を考えられずに集団的に行動せざるをえない人間のイメージでしょうか。


そうなると、人間(この場合はアメリカ)は「バランス・オブ・パワー」のような人間社会の単純なメカニズムを忘れてうろたえてしまう、ということになります。


つまりシンプルにいえば「人間はアホである」という想定なのでしょうが、これをカッコよく言えば古代ギリシャで劇などのテーマで何度も繰り返された「悲劇」になりますね。


来年こそはわれわれもこのような事例を「他山の石」として賢明なポリシーを貫きたいものです。


それではみなさん、よいお年を!

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(虹)






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by masa_the_man | 2017-12-31 09:51 | 日記 | Comments(0)

今日の横浜北部はよく晴れまして、相変わらず真冬の気温でした。


さて、久しぶりに読んだ本の感想とメモを。


すでにツィッターや一部の講演などで紹介しておりますが、私が今年読んだ本の中でベストの一冊について書きたいと思います。


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Future of War: A History

by Lawrence Freedman



原題を直訳すれば『戦争の将来:その歴史』という、ちょっとわかりづらいものになるのですが、その内容を簡単にいえば「次の戦争はこうなる!」というコンセプトで書かれた、いわば「将来戦」や「未来戦記」についての文献を、歴史的に振り返ったものです。


有名なところでは、SFライターのH・G・ウェルズの一連の作品だといえばおわかりいただけるかもしれませんが、さらにイメージしやすいところでは、80年代から90年代にかけて活躍したトム・クランシーの著作、それにややマイナーですが『第三次世界大戦』などがあるイギリス人のジョン・ハケットなどが有名どころ。


日本に関連したものだと、たとえばジョージ・フリードマン(STRATOFORの創設者)の『カミングウォー・ウイズ・ジャパン』などが具体例としてイメージしやすいでしょうか。


著者のローレンス・フリードマンといえば、日本にも数年前に来日したことのある英国の戦略研究の大御所でありまして、長年にわたるロンドン大学キングス・カレッジ教授のほか、英国政府の公式なフォークランドの戦史を編纂したり、イラク戦争におけるイギリスの介入を調査するチルコット委員会のメンバーもつとめたことのある、いわば「戦争研究の学長」的な存在であります。


主著として有名なのは、なんといっても核戦略の歴史を最も詳細に書いた『核戦略の発展』(Evolution of Nuclear Strategy)なのですが、数年前に『戦略:その歴史』(Strategy: a History)という「戦略」という概念についての歴史を振り返った分厚い本を出版して話題になりましたが、彼はこの本を書くのに20年以上かかったと来日時に申しておりました。


今回紹介する本は、もしかするとその続編的な位置づけになるのかもしれませんが、個人的にはこの「未来戦記の歴史本」のほうが、はるかに完成度の高いものだと確信しております。


本の構成は大きく三部構成になっておりまして、第一部は主に19世紀後半から冷戦終結までの「未来戦」に関する文献をまとめて振り返ったもの。


第二部は、冷戦後のテロとの戦いまでを振り返り、それまでの将来戦の予測が(冷戦の終わりによって)大きくはずれ、代わりに実際に起こった戦いが内戦につながる民族紛争や虐殺などであったという事実に、戦争の研究者たちがどのようにキャッチアップしてきたのかを中心に見ております。


最後の第三部は、「ハイブリッド戦」や「ドローン」のように、いま現在予想されている将来戦に関する主な概念を紹介しつつ、戦争の将来像をなんとなく探る、という内容になっております。


実は私はこの本が草稿段階にあるときに、その内容を何人かの人々に聞いていたので「こりゃ面白い本になるぞ・・・」と思っていたのですが、いざ完成したのをみたら期待以上の面白さでした。


では何が面白かったのか。私はいくつかこの本からほのめかされているポイントをいくつか挙げてみたいと思います。


実際の戦争は、予測されていたシナリオよりも長期化する傾向がある


フリードマンは冒頭で1870年の普仏戦争にまず注目するわけですが、ここでプロイセン側がセダンの戦いであまりにも劇的な勝利(といっても翌年のパリ入城の際にはゲリラ戦に手こずった部分はあるわけですが)を収めてしまったために、この「戦場の決戦で戦争が決まる」というイメージが世界に広まってしまったという事実を重要視しております。


ところがその次に欧州で起こった大戦争(第一次世界大戦)では、プロイセン軍のように各国の軍が動員を迅速に進めて決戦を狙いながら塹壕戦で戦いが長期化。この事実からもわかるように、戦争は「将来戦」のシナリオで想定されていたよりもダラダラ続いたものが多い、ということを指摘しております。


とくに彼が注目したのが、英米圏で「奇襲攻撃」(サプライズ・アタック)が広く信じられてきたということであり、実際に第二次世界大戦における真珠湾攻撃などの例もあったため、それが色濃く残り、現在のサイバーの分野でも真珠湾的な大規模先制攻撃が相手に行われるのでは、というシナリオづくりに影響を与えていると述べております。


テクノロジーによる軍事面での革命は、それほど革命的ではない


これはとくに第二部で強調されているのですが、核兵器の登場の後のいわゆる「核時代」に入って戦争の様相が劇的に変わったといわれながらも、実際に起こった戦争は相変わらずライフルや迫撃砲など、どちらかといえば前世紀から続いているような生臭い戦い。


たとえば今回のシリアでの内戦でもわかるように、AIやロボット、それにドローンなどはまだ主役たりえず、相変わらずスナイパーや手榴弾が活躍する白兵戦的な戦いが続いております。


軍事テクノロジーも、それを使う側の政治や文化に左右される


アメリカはすでに70年代から精密誘導爆撃を目指して軍事テクノロジーを進化させてきたわけですが、それはアメリカが目指していた、重要人物だけを狙い、副次的損害(コラテラル・ダメージ)を最小限に抑える、「なるべく血を流さない戦争」、もしくは「人道的な(?)戦闘」。


ところがこれはまさにリベラルの価値観を持ったアメリカによって目指されていたものであり、おなじ精密誘導技術は、ロシアがシリアで病院を爆撃したことからもわかるように、逆に大量虐殺にも使えてしまうわけです。


つまりテクノロジーというのは、それがどう使われるのかは、やはりそれを使う側の国の戦略文化、そしてさらにはその政府が選択する政策や特定の状況下の決断によっても左右される、ということです。フリードマンはその辺の話を、豊富な例をつかって語っております。


将来の戦いの予測は外れる


未来を予測するのはむずかしいわけですが、とりわけ戦争に関しては、その戦い方がどのように変化するのかについては、ほとんどの人々が外していることをフリードマンは論証します。


もちろん第一次世界大戦が塹壕戦になると予測した人物はおりましたし、本の中でも紹介されているわけですが、全体的にみれば正確に予測していた人は皆無。


そこでフリードマンのアドバイスはどうなるのかというと、将来の戦いについてはとにかく懐疑的で批判的な態度をとるべきだ、ということに。ただしこれはそれに備えることが無意味であるということではなくて、もちろん計画は大事。


そうなると、むしろ私はこれを踏まえて「いかに柔軟に対応できるか」という面を強化するのが最も重要なのでは、と本を読んだ後に感じました。


いずれにせよ、エピソード豊富な名著です。私は訳すヒマがないので、ぜひどなたかに訳していただければありがたいです。



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(晴岩の浜辺)



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by masa_the_man | 2017-12-28 00:08 | おススメの本 | Comments(0)

ミアシャイマー本の復活

今日の横浜北部は雲が多めでしたがなんとか晴れました。

さて、ほぼ二ヶ月ぶりの更新ですが、お知らせです。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、いくつかの偶然が重なり、私が手がけていたミアシャイマーの訳本が、二冊同時に復刊されました。
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左の小さい文庫本は『なぜリーダーはウソをつくのか』、そして右の大きいほうがミアシャイマーにとっての主著となる『大国政治の悲劇』であります。

どちらも数年前の版元のまさかの倒産から奇跡の復活をとげてくれたわけですが、あらためて復刊するにあたってゲラを見直してみると、やはり色々と勉強になる点が数多くありました。

まずミアシャイマーの方は「完全版」とするにあたって、紙面の都合から旧五月書房版ではネット上に掲載していた原注の日本語訳を、あえて訳出して含めたために、ページ数が増えて650ページ越えになってしまったわけですが、その原注を読み直す際に、あらためて原著者のミアシャイマーの学者としての力量を堪能させていただきました。

というのも、この原注の部分は、この分野に関心のある人間でしたら、80年代から90年代末まで展開されていた国際関係論における「大理論」に関するディベートの、いわば集大成的なまとめとなっているからです。

また、ミアシャイマーはそもそもが抑止論の専門家としてデビューしたこともあり、とくに第四章を中心とする戦略論関連の文献の充実ぶりは群を抜いております。

「リーダーはなぜウソをつくのか」については、トランプ大統領になってからとりわけ話題になっている、いわゆる「フェイク・ニュース」や「印象操作」という概念を考える上で、かなり参考になるものだと思っております。

2017年もあとわずかですが、年末年始に骨太の国際政治学者であるミアシャイマーの議論に触れて知的興奮に身を任せてみる、というのはいかがでしょうか?



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by masa_the_man | 2017-12-24 23:26 | 日記 | Comments(1)