戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の横浜北部はずっと小雨が降っておりました。とりあえず半袖でよかったのが救いですが。

さて、火曜日に放送予定の特集コーナー(http://live.nicovideo.jp/gate/lv232059814)で詳しく話す予定のドイツの派兵についてですが、とりあえずポイントだけ先に本ブログで触れておこうと思います。

すでにご存知のかたもいらっしゃると思いますが、ドイツは2001年9月11日のアメリカにおける連続テロ事件をきっかけとして、2002年からアフガニスタンに関する二つの作戦・任務(OEFISAF)に参加しております。

日本と同じく敗戦側の枢軸国でありながら、ドイツはすでにこの作戦で戦闘を行い、5000人以上の兵の規模の派兵と50人以上死者を出しているわけですが、そこでの経験についてまとまった報告や書籍が最近良いものが出てきましたので私も読んでみました。

そしてこれは安保関連法案が通過した後の事態を懸念している人々、もしくは日本の意思決定者たちにとってかなり参考となるケーススタディになるのではと思い、ここに解説してみたいと思ったわけです。

ちなみに詳しい解説は番組のほうでやるわけですが、ここではとりあえず私の個人的な感想というか、いくつか気になったポイントだけを、メモ代わりに書いておきます。

▼ドイツの派兵正当化の議論の分類

ドイツは連邦軍(Bundeswehr)を派遣して、平和維持活動だけでなく、タリバンなどと実際の戦闘を行っているわけですが、その際に政治家たちが使った正当化の議論は、大きくわけて以下の5タイプに分類できると私は考えております。

1価値観志向(value-oriented):人権、女子を学校に、報道の自由など、リベラル派の議論。
2ドイツの役割(Role/Self-identity):連邦軍の責任、評判、ボン合意の責務など。
3同盟との連帯(solidality):アメリカ、NATOなどの要請に応えるべしとする議論。
4国際法(international law):国連の安保理決議を根拠とするもの。
5権力政治(power political):テロとの戦い、タリバン打倒、安全保障、国益など、リアリストの議論。

基本的に連邦議会( Bundestag:下の写真)ではこの5つのどれか、もしくはその組み合わせを使うことによって議員たちはアフガニスタン派兵を正当化しております。意外だったのは、後半になってくると5の議論が異様に増えたことでしょうか。

▼法的根拠を満たすことへの関心

ドイツは法律大好きなので、派兵が問題になったときも憲法裁判所に判断を仰いで正統性を確保しております。一番重要なのは1994年の判断で、これによってドイツは旧ユーゴというNATOの域外で初めて活動できるような根拠を得ることになり、これ以降は憲法問題はそれほど争いになっておりません。

アフガニスタンへの派兵は国連安全保障理事会決議1386などを根拠にしてOKとしております。

▼戦略がない

基本的にアメリカに追随した戦いをしているので「戦略が必要なかった」といえばそうなのかもしれませんが、驚いたことにアフガニスタン派兵後の数年後、アメリカのイラク侵攻の失敗が目に見えてくるまで、ドイツ国内ではOEFやISAFの達成目標などはほとんど議論されておりません。その問題意識が出てきたのは、ようやく2007年くらいになってから。

▼本質的な議論ができない

これは上の議論ともつながりますが、歴史的な背景(第二次世界大戦の敗者)という関係もあるのか、自分たちの軍隊が戦争、もしくは戦闘を行うということについて、極力話題を避けようという傾向が強く見られます。

そもそもアフガニスタン介入を決めたのがリベラル・左派連合のシュレーダー政権の時代であり、その時は緑の党のフィッシャー外相。そういう意味からも、左派が責任を担っていたわけですから、本格的に「戦争反対」という言説が出てこなかった代わりに、政権担当者たちもあえて厳しい現実を議会に伝えていなかったという点もあります。

また、軍人に対して支持を与えようとして、政治家のほうがいわゆる「マイクロマネージメント」を行う傾向も多く見られました。とくにひどかったのは、装備や派遣する兵士の数の上限に関する議論で、細かいところに異様なこだわりをみせるわりには、政治・戦略レベルの話はまったくしなかった点など、まるでイラク派遣の時の日本を議論を見ているよう。

▼カネを出さない(ケチ)

実際のところ、ドイツは現在の財政規律に関する強気の姿勢を見てもお分かりの通り、アフガニスタンに派兵するとなっても国防予算はそれほど増えておらず、GDP比で1%代半ばくらいで、NATO諸国の中でも低い水準を保ったままです。

逆にこのような厳しい予算の制限があるため、2011年には徴兵制度を事実上廃止しており、その時に廃止を推進したのは、なんと軍の上層部と国防大臣(グッテンベルグ氏)。

理由は、徴兵制度だと大量の素人を一年かけて訓練するほうに時間がかかってしまい、海外派遣をするほうに人員と予算を回せないから。志願制でも、少ない数の専門家やプロを有効活用するほうが、徴兵制で烏合の衆を教育するよりははるかにマシ、という判断です。

また、武器の調達も予算の関係で遅れ、その削った費用を派遣した人員の手当に回すということをやっております。
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以上、簡単に書いてみましたが、憲法的なところ以外はけっこうグダグダで、雰囲気でものごとを決めたり細かいところにこだわったりするところは日本に似ていると感じました。

詳しくは火曜の夜にぜひ。



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by masa_the_man | 2015-08-30 20:46 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は朝から曇りがちですが、気温は昨日よりはるかに上がってます。JRが止まってて大変なことになってますが。

さて、今週の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/1440579914)でも触れた、アメリカで細々ながらも教えられている「無知の知」という分野の学問の重要性について、ニューヨーク・タイムズ紙に興味深い記事がありましたので、その要訳を。

著者はアメリカのシンクタンクの研究員ですが、これはわれわれの知的作業そのものや、教育について考える際にも参考になる記事です。

====

無知を教えることの大切さ
by ジェイミー・ホームズ

The Case for Teaching Ignorance
By Jamie Holmes

15-8/24 NY Times

http://www.nytimes.com/2015/08/24/opinion/the-case-for-teaching-ignorance.html?_r=0

●1980年半ばに、アリゾナ大学の外科の教授であるマーリス・ウィッテ女史は、「医療やその他の分野での無知についての基礎講座」というコースを設立することを学校側に提案した。

●ところが彼女の提案の受けはよくなかった。そんな授業をそもそも賛成するくらいなら大学を辞めたほうがマシだという職員もいたほどだ。ウィッテ博士はそのコースの名前を変更するように求められたが従わなかった。彼女の考えでは、自分の教える学問の分野の中に「知らないこと」が溢れていることを教えない教員が多すぎたからだ

●その数年後だが、彼女は「医学の教科書ではすい臓がんについて8頁から10頁ほど書かれておりますが、それについてわれわれがどれほど知らないのか一言も書かれていないのです」と述べている。

●彼女は自分の学生たちに、知識には限界があることや、質問のほうが答えよりもはるかに注目されるべきものであることを理解してもらいたいと考えたのだ。その後、アメリカ医学協会はこの授業に資金を出すことに同意し、学生たちはこの授業を「無知入門」(Ignorance 101)と親しみを込めて呼ぶようになった。

●もちろん彼女が教えるようなコースはまだ珍しい存在だが、近年になってから何人もの学者たちは、学問における「不確実性」に焦点を当てると、学生たちは興味を持つようになり、逆にわかっていることを強調しすぎると、知識の理解をねじ曲げることにもなりかねないことを論証している。

●たとえば2006年にコロンビア大学の神経科学者であるスチュワート・ファイアーステインは、彼の教えた学生たちが脳についてすべてわかっているかのように考えていることを実感してから、科学の無知についてのコースを教え始めた(彼自身は1400頁もある教科書にその原因があると睨んでいる)。

●彼は2012年に「イグノランス:無知こそ科学の原動力」という本を出版したのだが、その中で、多くの「科学的事実」というものが実は全く不変で強固な土台の上に立ったものではなく、なんども検証されてその後の世代に書き換えられるものであることを論じている。

●そもそも科学的発見というのは、一般的な学生たちが考えているほど綺麗で直線的なものではなく、むしろファイアーステイン教授の言葉を借りれば「暗い部屋の中で手探り状態でものにぶつかったりしながら、なんとか見える幻を探るような」作業が伴うものなのだ。

●それぞれの専門分野をもった科学者たちに、研究分野における事実ではなく、魅力的で不確実な領域における新しい発見についての興奮を語らせることにより、ファイアーステイン教授は、無知への興味を引き立てようとしている。

●「無知は限定的なものであり、人間のもっている知識は強固かつ安定的なものであり、科学的事実の新発見も優雅なものである」と教えてしまうと、学生たちは問いと答えの相互作用について勘違いしてしまうことになる。

●一般的には何かを「知らない」状態というのは解消されるべき、もしくは克服されるべきだと考えられがちだが、それに対する「答え」というのは、単に「問い」を解決するのではなく、むしろ新たな問いを生じさせることになるのだ。

●オーストラリア国立大学の社会科学者であるマイケル・スミスソンは、この夏のオンラインコースで無知についての教えたのだが、彼は以下のようなアナロジーを使っている。それは、知識の「島」のサイズが大きくなるにつれて、海岸線――知識と無知の境界線――も伸びていく、というものだ。

つまりわれわれの知識が増えれば増えるほど、「問い」は増えるのだ。「問い」はすぐに「答え」に直結しているわけではない。なぜならこの二つは共に増えていくものであるからだ。

●「答え」は「問い」を生じさせるものだ。好奇心というのは「不動の気質」のようなものではなく、むしろ絶え間なく獲得され助長される「思考」の情熱なのだ。

●上記のアナロジーを続けると、知識の「島」の「海岸線」の地図の作成のためには、不明確な状況に関する心理学の理解が必要になる。この「海岸線」が拡大する際に「問い」と「答え」が生じるのだが、この線には不明瞭かつ矛盾する情報がつきものなのだ。

●心理学でも実証されているように、この結果として出てくる不明瞭な状態というのは、われわれの興味を掻き立てるものであり、陽気な気分と驚きだけでなく、逆に混乱とフラストレーションをも生み出すのだ。

●「知っていること」と「知らないこと」の境目というのは、トマス・クーンが1962年に出版した『科学革命の構造』という古典的な本の中で記した、変則的なデータを認めてそれを検証していく際のわれわれの先入観に対峙していく際の苦悩にもあらわれている。

●その反対に、この島の中央部というのは安全かつ安心できる場所であり、われわれがビジネスがイノベーションを起こし続けるのに苦慮している理由はまさにここにある。ハーバード・ビジネススクールのゲイリー・ピサノ教授によれば、業績が良い時の企業は学びのスピードをゆるめてしまい、不確実から逃れようとして「島」の外側に向かうことを拒否してしまいがちだ。

●無知の研究、もしくはスタンフォード大学の科学史専門のロバート・プロクター教授が有名にした「無知論」(agnotology)というのは、まだはじまったばかりの分野だ。その理由は、その学際的な性質や、まだその歴史が浅いところにある(これについてはこの本が詳しい)。

●ところがまだ知識のない人間に対して「問い」と「答え」の豊かな相互作用を明らかにするような事例を提示したり、不明確な状態についての心理学を開拓することを強調することは、決定的に必要とされていることだ。

●また教育者というのは、無知と創造性の豊かな関係性を示したり、不確実性を戦略的につくりだすことに時間を割くべきである。

●社会学者のマティアス・グロスやリンゼー・マゴイは「無知を例外的なものではなく、通常の状態であると見なす時期にきた」と大胆に論じてるが、これは正しい。われわれの学生たちは、科学的な事実に加えて、「知識の理論」の他に「無知の理論」を身に付けることができれば、さらに知的な意味で好奇心をもつことになるはずだからだ。
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===

実はこのような「ある学問領域における無知」というのは、私が学位をとった戦略研究(strategic studies)の世界でも全く同じ状態です。

これについての詳細は私が書いた論文の中で読んでいただければ幸いなのですが、戦略研究でも無知論でも、その学問で確実になっていないものというのは本当にたくさんあります。さらにその学問が学際的になってくると、まさに学問的には知らないことだらけ。

戦略研究ではいまだに孫子とクラウゼヴィッツが圧倒的な存在なのも、むしろ戦略というものが非常に学際的な性格を帯びているところに関係がありそうです。

それにしても学問的に「知らないこと」を教えるというのは、逆説的ですが、たしかに学ぶ側にとっては興味を起こしてくれそうですね。

ちなみに上の記事では「パラダイム・シフト」という言葉を有名にしたトーマス・クーンの『科学革命の構造』に触れておりましたが、個人的には同著者の『コペルニクス革命』のほうがはるかにタメになった、実に興味深い本だと考えております。私がいままで読んだ本の中でベスト10に入る面白さでした。



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by masa_the_man | 2015-08-27 16:05 | 日記 | Comments(5)
今日の横浜北部は朝から小雨が降っておりまして、半袖では寒いくらいです。

さて、昨日の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/1440561913)でも触れたように、少し前に香港在住の中国系のジャーナリストが安倍談話に関する意見をカナダの経済新聞に書いておりましたので、その要訳を。

思ったより評価が高かったのが印象的です。

===

日本とアジアは戦争を離れて未来に向かうべき
by フランク・チン

http://www.theglobeandmail.com/globe-debate/japan-asia-must-move-on-from-the-war/article25991832/

●安倍首相は期待されていた戦後70周年の談話で下手にからまれることはなかった。首相自身が指摘したように、人口の80%は戦後生まれであり、いずれそれが100%になる。たしかに潮時であろう。

●ところがその潮時というものが、一つの区切りの感覚と共にあれば理想的だ。あいにくだが安倍首相のスピーチはこれに成功したとはいえない。代わりに昔からの議論を復活させて、日本に紛争の責任がないことを示唆してしまったのだ。

●安倍首相は日本の1930年代や40年代の行為を説明しようとして、大恐慌の影響と、西側諸国と植民地によるブロック経済の影響を挙げた。これは靖国の遊就館にある、日本の戦争における正当化の議論を思い起こさせるものだ。

●さらには世界における日本の汚点となった慰安婦問題にも正面から言明したとはいえず、朴槿恵大統領は安倍首相の談話に「不足がある」としている。中国も明らかに不満であり、国営メディアは談話を「誠意がない」と指摘している。

●安倍首相は中国をあまり気にかけていないかのように振舞っている。たとえば国名を挙げた時も、一番犠牲者が出たはずなのに中国の名前は最後に呼んだ。

●ところが安倍談話は2005年の60周年の時の小泉談話とほぼ同じ路線であった。小泉首相は同じく保守の自民党であり、在籍した五年間は毎年靖国神社に参拝していた。

●実際のところ、日本の首相が十年ごとに談話を発表する意味はほとんどない。とりわけほとんどが戦後世代になっており、彼らに戦争の罪はなく、それを謝罪することを期待するのはまちがっているからだ。

●中国の従来の公式なポジションは「日本の一般国民も戦争の犠牲者であり、ごく少数の軍国主義者たちだけに責任がある」というものであった。したがって、戦争中にも生まれていない人々に、新たな謝罪を求めるのは意味がないと言える。

●もちろんだからと言って日本人が歴史に向き合わなくてもいいという意味にはならない。なぜなら歴史に直面できることが、日本人が現在と未来に向かう際に決定的になってくるからだ。ただしそれはさらなる謝罪を発表することとは別問題だ。

●安倍首相はこの部分をよく理解しており、「それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります」と述べている。

●最近の三菱マテリアルが、アメリカ元捕虜と中国の元労働者たちに補償を支払ったことは、まさに正しい方向に向かっていると言えよう。

●70年が過ぎたが、戦争に関与したすべての側が1930年代や40年代にとらわれるのではなく、21世紀に向かって進むことを考えるべきだ。日本は過去と向き合って、未来に進まなくてはならない。それは過去の犠牲者側も同じだ。

●そのような犠牲者の中で、とりわけ中国のような国は、現在の問題に対して歴史問題を使って日本にアドバンテージをとるようなことをすべきではない

●その見本となるのが香港であろう。元英国領土の香港は、日本に侵攻されて3年8ヶ月間占領されたが、現在では日本に対して敵対的ではない。それよりもむしろ世界の中でも最大級の日本食の輸入国であり、年間500万から700万の日本人が訪れているからだ。

===

歴史問題を利用している中国にツッコミを入れているのは外部の人間にも明らかに見えるんでしょうね。ただし最後の貿易や交流の部分は余計な話のような気がしますが(笑



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by masa_the_man | 2015-08-26 16:12 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から曇っておりまして涼しいです。秋の気配がようやく訪れております。

さて、この週末に起こった北朝鮮と韓国の、国境付近での砲撃を含んだ瀬戸際外交については、日本のメディアでも「もしかしたら第二次朝鮮戦争勃発?!」ということで注目されましたが、直前になって板門店で軍の高官たちによる会議を開催することで、今のところはひとまず収束中です。

この件に関してはさまざまな意見があると思いますが、ブロマガ(http://ch.nicovideo.jp/strategy/blomaga/ar858952)にも書いた通り、私が面白いと思ったのは、韓国の大学で南北問題を研究している西洋人の教授の以下のような意見です。

一番最後の分析の部分だけを要訳です。

===

North Korea Is Mobilizing for War
By Franz-Stefan Gady
15-8/21 The Diplomat
http://thediplomat.com/2015/08/north-korea-is-mobilizing-for-war/

●金正恩は危機を盛り上げてから一気に手を引くような、いわゆる「瀬戸際外交」をまだやり慣れていない。さらに加えて、彼がどこまで目まぐるしく入れ替わっている北朝鮮の軍や党の内部を掌握できているのかについても疑問がある。

●また、ソウル側の危機の扱い方にも懸念があり、韓国は、2010年の延坪島砲撃事件の後から、不釣合いな反応による抑止理論を採用している。これはつまり、北が1発撃ってきたらその3倍から5倍の量を撃ち返すというものだ。

●この原則は、海の国境だけでなく、非武装地帯にも当てはまっているように見える。だからこそ北から4発の砲撃に対して、韓国は30発以上も撃ち返したのだ。

●では今後の動きはどうなるのだろうか?両国の首脳とも安全保障会議を開いたのは当然であり、朴槿恵大統領は疲れた顔をして前線を視察した。おそらく金正恩も視察するだろう。

●北は8月始めの地雷事件への韓国からの謝罪要求を拒否しており、韓国も北の高官級協議を拒否した。北は48時間以内の南の宣伝スピーカーの遮断を要求しており、これが守られなければ、砲撃を再開するものと見られている。

●韓国はスピーカーを止めるつもりはないし、不釣合いな反応も止める気はない。そうなるとどこに落とし所があるのかが不明確になる。

●現在のところは、通常兵力の面で圧倒的に劣っている北朝鮮は、韓国とアメリカに対して全面戦争を仕掛け、国をほろぼすようなリスクをかけてくるようには見えない。

●ところが、ここで重要なのは、金正恩が自軍をどこまで掌握できているのかという点だ。北の軍の高官たちは南からの挑発(と彼らが感じている)に対してトップが生ぬるい反応しかしていないことに不満を感じており、勝手に積極的な行動を起こすこともありえるからだ。
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===

たしかに今回は金正恩にとって、「喪」が明けてからの初めての瀬戸際外交デビュー。果たして上手くやれるんでしょうかね?

「出来レースだ」という指摘もありますが、現場の暴走という可能性もありますので、実際何が起こるのかは誰にもわかりません。



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by masa_the_man | 2015-08-24 11:22 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は久しぶりにスッキリ晴れましたが、さすがにピークの頃よりは暑くなかったですね。

数日前から緊張していた南北朝鮮国境ですが、高官同士が板門店で会談することでまずは戦闘回避できたようですね。

さて、久々にニカラグア運河建設という地政学的な話題について触れたトピックの記事の要訳を。

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ニカラグアは運河を夢見続ける
by ジャスティン・フォックス

Nicaragua Keeps Dreaming of a Canal
By Justin Fox

15-8/20 Bloomberg View

http://www.bloombergview.com/articles/2015-08-20/nicaragua-just-can-t-stop-dreaming-of-a-canal

●去年のことだが、ニカラグア政府関係者は500億ドル(6兆円)の予算で、太平洋と大西洋をつなぐ運河の建設がもうすぐ始まると言っていた。億万長者のワン・ジン氏の率いる香港に本社を置くHKNDグループは資金の調達を始めており、すべては2020年までに完成する予定であった。

●そういうわけで、ブルームバーグのマイケル・マクドナルド記者は、ニカラグア湖の岸辺にあるエルトゥールという町を取材で訪問したわけだが、この町は、運河建設のおかげで破壊される予定であった。ところが彼が書いた記事の内容は、以下のようなものであった。

●「町の人間はもう何ヶ月も運河建設関係者を目撃しておらず、工事もわずかしか行われていないという。たしかに何人かの中国人のエンジニアたちが、湖の東側に標識を立てていたのを去年の暮れに見かけたし、今年のはじめには港が出来る予定の、西岸の工事用の道が拡大され、照明が新しいものに変えられた。しかし現地の若い実業家であるメンドーサ氏(32歳)は建設計画が進まないことを確信しているために、エルトゥールの町の郊外にコンビニと隣接した2階建ての宿を建設中だ。彼は運河なんかできるわけないと大胆に述べている

●これは多くの歴史的な実例によっても論証できる見解だ。ほぼ500年間にわたって多くの人々がニカラグアの運河建設を話題にしてきており、本格的な計画は、少なくとも1849年から出てきている

●この時はアメリカの鉄道王であるコーネリアス・ヴァンダービルドが、米東海岸から経済ブームに沸くカリフォルニア州への近道として、ニカラグア政府と運河建設計画を締結した。

●ところが実際にはほとんど工事が行われなかった。ヴァンダービルドは主に旅客ビジネスの人間だったのだが、人を運ぶだけだったら大規模な運河を建設せずに、小さな蒸気船と馬車だけでニカラグアを横断できることを発見したからだ。彼の伝記の著者によれば、ヴァンダービルドの開拓したルートはアメリカに大きな影響を与えたという。

●単純にいえば、ヴァンダービルドはゴールドラッシュを、アメリカの太平洋への社会の拡大につなげて貢献した。運賃を安くして旅程を早めることにより、ヴァンダービルドは東から西への住民の移動と、西から東への金の流れを速め、経済的に大きなインパクトを与えたのだ。

ところがニカラグアにとってのインパクトは、わずか一瞬のはかないものだった。1869年にアメリカで大陸横断鉄道が完成すると、ニカラグア・ルートは完全に不要なものとなり、この国の運河建設は再び「夢」の状態に逆戻りしてしまったのだ。シンシナティ大学の文学部の教授によれば、ニカラグアの歴史や文学の中で、運河は最も重要な神話的な要素となったという。

●1914年にパナマ運河が完成して、太平洋と大西洋の間に大きな貨物船を迅速に通すことができるようになると、それは経済的な面での嫉妬の対象にもなった。

●パナマはコロンビアの一地方でしかなく、ニカラグアにはすでに魅力的な町があり、豊かな牧場主も存在していたほどだが、そのパナマがいまや中央アメリカにおいて最も豊かな国となっており、一人あたりのGDPでは、ニカラグアの4倍の規模を誇るようになっているのだ。

●パナマの豊かさは明らかに運河の恩恵によるものだが、ここまでくると運河だけとは言えなくなってきている。この国の首都は、まるで太平洋にあるドバイのような都市になっており、摩天楼が立ち並んで地域の金融・商業の中心となっているのだ。

●もちろんニカラグアを横断する運河を建設することで、首都マナグアがこのような都市に変貌するとは思えないが、それでもニカラグアが運河を夢見るのはわかるような気がする。いずれにせよ、現時点では彼らは別の夢を探すべきであろう。

●実はわたしは1995年に首都マナグアに行ったことがある。この時は、ニカラグア国民議会がヴァンダービルドの経路を更新して、両岸に貨物港をつくり、その間に鉄道を通す計画を認可したのである。

●ところがこの「乾いた運河」の建設計画にもほとんど進展は見られず、グアテマラやホンジュラス(この2国は共同開発)、エル・サルバドル、コスタリカ、そしてコロンビアも同じような鉄道を計画したが、いずれも実現は難しそうだ。

●「乾いた運河」が魅力的なのは、パナマ運河を通過できないほど大きな貨物船がこの鉄道使ってくれれば、実際に運河を掘る必要もないし、船からコンテナを鉄道で運ぶことができれば、ロジスティクス関連のビジネスや、さらには最も必要とされる、製造業から生まれる雇用が期待できるからだ。

●ワン・ジン氏が進めているとされるニカラグア運河の計画は、来年完成するとされる拡張工事が終わってもパナマ運河を通行できないような、巨大な貨物船でも通過できるようにするものだといわれている。

しかしこのような巨大な船が通れるかどうかは怪しいし、運河も建設して儲けが出るのかも怪しい。さらにパナマとニカラグアが競合することになると、両者ともに建設費を払えなくなる可能性もあるのだ。

●もちろんこのような価格競争は、世界の海運業にとっては朗報となる可能性がある。それでもニカラグア運河は、パナマ運河と肩を並べるような存在にはならないだろう。しかも日がたつにつれて、運河建設の実現性は遠のくばかりなのだ。
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===

地政学では「通り道」の問題はかなり重要です。これが変化すると、国際政治のパワーバランスも変化する可能性も出てくるからですね。

地理、テクノロジー、地理観という古典地政学の「三位一体」の関係は、このニカラグア運河の例でも顕著に見てとれます。



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by masa_the_man | 2015-08-22 16:20 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は一日中雲が多かったわりには蒸し暑かったですね。さすがにこれで夏の暑さは終わりでしょうか。

さて、先週の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/14401622)でも触れた、米海軍の地政学に関する話です。ペルシャ湾のプレゼンスに関する意外に重要な記事の要訳です。

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米海軍、ペルシャ湾でのプレゼンス低下へ

Navy reducing presence in Persian Gulf
By Kristina Wong

15-8/16 The Hill

http://thehill.com/policy/defense/251197-navy-reducing-presence-in-persian-gulf#.VdGCq1_X1hg.twitter

●世界の海におけるアメリカの国力や抑止力を表す最も強力なシンボルは、近い将来ペルシャ湾には存在しなくなるかもしれない。

●米海軍は過去七年間においてペルシャ湾やその近辺において少なくとも1隻の空母を維持してきたが、それが全く存在しなくなる期間を伸ばす計画を立てている。

● このプレゼンスの減少は、アメリカがイランとの核合意を準備し始めたのと同時に始まったものであり、ホワイトハウスや米軍関係者たちは、議員や批評家、それに同盟国たちに対して、米軍がイラン政権に対して圧力を与え続けると説いている。

● その証拠に、もし核合意が連邦議会で承認されれば、ペルシャ湾に二ヶ月間米空母が存在しない期間ができることになる。空母セオドア・ルーズヴェルトは10月あたりにこの地域を離れる予定であり、その代わりの空母ハリー・トルーマンは、来年の1月まで到着しないことになる。

● このギャップは、ISと戦っている間に発生するものだ。空母ルーズヴェルトは、同盟国側がISに対して行っている空爆の20%を担っているが、米軍関係者はトルコの航空基地が使用できることになるためにこのギャップは解消されるという。

● 米政府関係者によれば、プレゼンスの低下は要求の低下によるものではなく、単に使用可能な空母が少なくなったことや、優先順位がアジア太平洋地域に移っていることが挙げられるという。

● 「短期的には継続的なプレゼンスが必要です。よって需要はあり、戦闘指揮官たちも要求しており、アジア太平洋地域の司令官も要求しているのです。ところがその要求に応えるだけのものがないんですよ。そうなると、大統領や国防長官の指示にしたがって準備するしかないんですよね」とはその政府高官の話だ。

● この空母の空白期間は、ペルシャ湾地域のアメリカの同盟国たちが「核合意によってイランの国力と影響力が増す」と心配しており、アメリカがイランに対する対抗力となってくれるのかを懸念している最中に行われるものだ。

●アリゾナ州選出の共和党上院議員で軍事委員会の議長を務めるジョン・マケインは、7月30日の公聴会で 「空母がいなくなると、この地域へのコミットメントの証拠を失ってしまう」と述べている。新しく海軍作戦本部長となる米海軍のジョン・リチャードソン提督も、「空母がないと、れわれの能力にとっては損失だ」と述べている。

● ところが米海軍は、プレゼンスの低下によって空母をより自由に動かせるようになると言っている。「2016年の会計年度では、いくつかの場所で空母のプレゼンスを継続できなくなったことはたしかだが、全体的に見れば世界での空母のプレゼンスは上がったと言えます」とは米海軍の報道官の弁だ。

●アジア太平洋地域では、空母ジョージ・ワシントンがメンテナンスを行うために4ヶ月という長い期間にわたる空母ナシの状態があるのだが、基本的に将来にわたって空母のプレゼンスを継続させる方針であることは変わりない。 米政府と海軍の関係者たちは、司令官たちの空母のプレゼンスの要求は他の艦船などで代替できると言っている。

●ところが米海軍研究所の所長のピーター・ディリー元海軍中将は、ペルシャ湾に空母を駐留させることができる能力というのは、同盟国たちに安心を提供し、潜在的な敵を抑止して諦めさせる上での特殊なアセットになるという。

●「イランとペルシャ湾をはさんで反対側にいる人間たちにとって、米海軍が真ん中にいるとわかっていたら、夜も安心して寝れるはずです」とはデイリー所長の弁だ。さらに加えて、空母は高い能力を持った駆逐艦と巡洋艦を引き連れてくるという点も重要だという。

●所長によれば、たとえばイランには短距離・中距離弾道ミサイルが多くあるが、空母打撃群にはかなり高い弾道ミサイル防衛能力が備わっているという。

●「ペルシャ湾周辺国というのは、米海軍の艦隊が来ているかどうかに非常に敏感です。私はあえて言いますが、ホルムズ海峡を常に通行可能にして貿易が自由に行われている状態を保つことは極めて重要なことなのです。米海軍はこの海域に過去50年間常にプレゼンスを継続しておりますが、来なくなったら彼らも絶対に気づくでしょう」とは所長の弁。

● 米政府の関係者たちは、空母のプレゼンスの低下は、ここ数十年間に派兵が何度も繰り返されてきた結果であり、何度も引き伸ばしにされてきたために、長期のメンテナンスが必要になってきているという。

●さらに加えて、議会による財政緊縮の煽りを受けたおかげで、メンテンナンスと再配備の予算が削減されて、不確実性が生まれてきたのだ。

●もちろんアメリカにはまだ10隻の空母があるが、1隻は日本に常駐して、2隻はメンテンナンスに入っているため、任務遂行可能なのは7隻だけであり、しかも指令が出てからすぐに任務につける数はさらに少なくなる。

●たとえば1隻が展開するためには、それを支えるために3隻が必要であるとされており、ここからわかるのは、アメリカは世界中の脅威に対処するためには2隻の空母しか使えないということなのだ。

●デイリー所長は、数年前と比べて状況が「大きく違う」と指摘している。「4年前の米海軍は3隻の空母を前進展開できたし、30日以内にもう2隻、そして90日以内にもう1隻を追加できたはずだ。ところが現在はたった2隻しか前進展開できないのだ」と述べている。
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米海軍が艦船のメンテナンスという点から、以前のレベルでは物理的にプレゼンスを維持できなくなったという内容です。

この(一時的な?)真空地帯を中国海軍がどのように埋めてくるのか、世界のシーパワー体制の将来を考える上では非常に気になるトピックです。

スローンの『軍事戦略入門』の第一章の「シーパワー論」や、マハンの100年ちょっと前の議論でも説明されていたように、実はシーパワーという概念には、単なる「一国の海軍力」だけではなく、もっと広い「グローバルな海上貿易体制」という意味も含まれることがあります。

それを支えているのが米海軍なわけですが、この力が今回のように「衰えた」(と感じられた)となると、なんらかの形で世界政治に影響は出てくるわけで。

誰かが弱体化すると、それは別の側のパワーの相対的な増加を意味するわけですから。



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by masa_the_man | 2015-08-21 22:24 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部は一日やや曇りがちでした。さすがに暑さも真夏という感じではなくて、なんとなく涼しくなったような気が。

さて、天津の爆発事故の直後に起こったタイの爆破事件も注目されておりますが、これに関連することを先日の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/1439977893)でも解説しました。

その元記事の要訳を。

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タイの銃殺人率はアメリカに匹敵

Gun murder rate in Thailand on a par with United States
by AFP-JIJI

15-8/11 Japan Times

http://www.japantimes.co.jp/news/2015/08/11/asia-pacific/crime-legal-asia-pacific/gun-murder-rate-thailand-par-united-states/#.VdPXhujtmko

●タイは外国人にとってはリラックスした雰囲気で訪れやすい国であるが、ここは銃火器による殺人によって争いが解決される国でもある。

●メディアでも殺人が話題にならないことはなく、その原因は、個人的な関係やビジネス取引がこじれて「メンツ」をつぶした、つぶされたということによるものが多い。

●最近のケースでは、あるショッピングモールの中で怒った恋人が相手の首を撃ったというものがあったし、ある男が自分の住むバンコクのアパートで、警備員と口論になって撃ったというものもあった。他にもバスの運転手が、運転の下手さかげんを繰り返しなじってきた乗客の胸を撃ち抜いたというものもあった。

●バンコクのある西側の国の大使館を守る警察官は、記者に対して「タイには本物の銃文化があります。軍隊式の文化で、制服や男のパワーを強調するやつです」と答えている。

●タイでどこまで銃文化が害を及ぼしているのかという点は計測不能である。タイ政府はここ十年間に6400人の反乱兵を殺してきた深南部のイスラム教居住区以外には、詳しい年間殺人数の分類を行っていないからだ。

●シドニー大学が運営する世界の銃に関する統計データを集めているGunpolicy.org では、タイはアジアで最も銃による殺人率が高い国の一つであるとされている。10万人あたりの銃による殺人率は3.48人であり、これは隣国のカンボジアの3倍で、アメリカとほぼ同等である。

●とにかく明らかなのは、民間に出回っている銃の数の多さである。タイ政府によれば、人口6700万人に対して、登録されている銃だけで610万丁あるという。GunPolicy.orgによれば、タイの銃の数は、闇に出回っているものを含めれば合計1000万丁近くあるらしい。

●アメリカの国務省は、現地スタッフに対して「タイにはアメリカに匹敵するほどの熱烈な銃文化があり、銃が関係した殺人件数では世界一のレベルになった」と警告している。

●ところがアメリカが長年にわたって銃規制を論じているのに、タイではこれほどの銃に対する熱中が及ぼす人的被害があっても、国民全体としてはまったく気にしない様子だ。

●タイのカシット元外相は「誰も問題提起しないし、誰も責任を背負おうとしないんですよ」と投げている。彼は厳しい銃規制や不法な銃に対する恩赦が必要だという立場の人間だ。

●彼によれば、タイにおける銃殺人に対する怒りが少ない原因としては、カルマの概念が信じられていることが挙げられるという。「死んでしまえば終わりです。それを受け入れてあきらめるんですね。われわれは死を人生の一部として静かに受け入れるのです」と彼は述べているが、そういう彼自身も2丁のピストルを登録している

●もちろん法律上ではタイは銃規制が厳しいのだが、法律の目は簡単にかいくぐれるという。タイの警察のトップの一人は、そのあまりの銃の多さのため、部下たちが町に出る時に心配になるという。別のトップの一人も「すべての銃を登録したいです」と記者たちに向かって述べている。

●タイ政府にとってカギとなるのは店頭販売されるすべての銃の「指紋」を記録したデータベースの作成であろう。
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タイは一度しか行ったことないんですが、アメリカ並の銃社会というイメージはなかったですね。

バンコクでテロっぽいことが起こっておりますが、たしかに仏教国という割にはクーデター起こって軍政とか敷いてますから、影の部分もそうとう深そうです。



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by masa_the_man | 2015-08-20 21:52 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は、雲は多めですがなんとか晴れております。さすがに暑さのピークは抜けましたが、昼間はやはり暑いですね、

さて、昨日の放送( http://www.nicovideo.jp/watch/1439951113)でも触れた、今後起こるであろう米中戦争を防ぐために、アメリカがとるべき3つのアプローチについて書いた記事の要訳です。

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中国の対米戦争はもう始まっている?
by スティーブン・メッツ

Has China’s War With America Already Begun?
by Steven Metz

15-8/7 World Politics Rreview

http://www.worldpoliticsreview.com/articles/16408/has-china-s-war-with-america-already-begun

●この夏のワシントン周辺の安全保障専門家たちの必読書は、ホワイトハウスの政策文書や大手シンクタンクの報告書ではなく、ピーター・シンガーとオーグスト・コールという二人の安全保障専門家たちの書いた小説だ。

●彼らの書いた『亡霊の艦隊』(the Ghost Fleet)という小説は、トム・クランシーの伝統を受け継いだスリラーであり、この本が注目されている大きな理由の一つは軍事技術の最先端を説明している点にあるが、それ以上にそのシナリオがアメリカと中国の大規模な戦争という多くの政治家や専門家たちが恐れるものだからだ。

●中国の台頭や、段々と強まるその独断的な態度を見ている人々は、アメリカが最後にアジアの国と大規模な戦争を戦った歴史によって警戒するようになっている。

●たしかに1941年の真珠湾攻撃によって日米戦争は始まったが、東京政府はその奇襲の数年前から基地のネットワークを構築して、軍の戦力投射能力を拡大していたのだ。真珠湾攻撃はただ単にアメリカ人に紛争の存在を教えただけで、日本側から見れば戦争はすでに始まっていたのだ。

●ところがワシントン政府と米軍たちは戦争がどれほど近づいているのかを気づかずにいた。これは今日の中国にも当てはまるのだろうか?中国との戦争はすでに始まっているのではないだろうか?

●ここ数十年間にわたって、中国の安全保障戦略では、外からの侵攻を比較的低い軍事技術の軍隊によって抑止することが狙われていた。ところが経済発展が始まると、北京政府は軍事力を誇示する新たなチャンスを見つけたのだ。

●中国の国家安全保障・軍事戦略は、戦力投射に傾き、アジア太平洋地域におけるアメリカの支配に対抗するものとなったのだ。最も目立つのは、中国軍の質・技術面での莫大な向上である。

●最近の米国防総省の報告書によると、中国は「長期的かつ総合的な軍事近代化計画」を推進中であり、敵の戦力投射能力を打ち負かし、危機や紛争の時に第三国(これには米国が含まれる)の介入を防ぐことを狙っているという。

●軍事力が向上するにつれて、中国はより独断的な政策を実行するようになっている。その一例が南シナ海であり、2014年の米国防総省の報告書では、中国が「スプラトリー諸島で埋め立てを行い、インフラを構築して」民軍両用の継続的な使用をすると書かれている。

●ボニー・グレイサーがCFRの報告書で説明しているように、これは軍事衝突の無数の可能性を秘めている。彼女は中国の狙いが直接的な紛争にあるとは想定していないが、それでも確信を持って否定することは誰にもできない。北京政府には、過去と比べて米国との衝突のリスクを背負う覚悟が明らかにできているように見える。

● 中国の攻撃性は、米政府に対するサイバー攻撃にも見てとることができる。この攻撃は最近になって新しいレベルにまで到達しており、人事局のデータベースからの大量の個人情報の漏洩はニュースにもなった。オバマ政権はこれに対する報復を考えているようだが、どのような行動をとるのかはまだ未定だ。ところがホワイトハウスがここまで覚悟していることは、これ事態が危険の広がりを示していると言える。

●さらに懸念すべきは、北京政府によるこれらの行動の蓄積だ。これについてはまた歴史が良いヒントを与えてくれている。

●真珠湾攻撃までの長年にわたる日本の行動は、それ自体が耐え切れない挑発行為というわけではなかった。ところがアメリカの政治家たちは、紛争が不可避となるパターンが明確になってから、東京政府が長年準備をしてきたことをようやく知ることになったのだ。

●中国の行動はこれと同じことなのだろうか?さらに重要なのは、もし中国の行動がさらなる大きな紛争につながるとすれば、アメリカが戦争を防ぐためには一体何ができるのだろうか?もしアメリカの政治家たちが中国との紛争を一致団結して避けたいと考えるのであれば、以下のような三つのアプローチを考慮することができるだろう。

一つ目が、紛争を避けるために何らかの手打ちをして、権力を共有する仕組みをつくるというものだ。ところがこの最大の問題は、アメリカ側がこれによって中国側を満足させられるかどうかを確実に知ることができないという点だ。

●さらにいえば、これは中国自身にもわからないという部分がある。なぜなら政府内でも意見の違いがあり、権力の共有を認める勢力と認めない勢力が争う可能性があるからだ。そしてそのような取り決めは、たとえ両国にとって望ましいものであったとしても、その実行は無理だということにもなりかねない。何人かの中国人が言っているように、この地域を支配できるのは北京政府かワシントン政府のどちらかであり、両方ではないのだ。

二つ目のアプローチは、非対称的な対抗圧力を強調するものだ。もし中国が南シナ海で軍事プレゼンスを拡大しつづけ、アメリカに対してサイバー攻撃を行い、アメリカとの紛争のチャンスを増やすような軍事近代化を追求しつづけるのであれば、ワシントン政府側は北京政府側が最も恐れることや嫌がることを行うのだ。

●これには、軍事協力関係を疎遠にしたり終わらせることや、制裁のようなさまざまな経済手段を使用したり、米軍の非正規戦の能力(外国のゲリラ活動や解放運動を支援)を補完することなどが含まれる。

●もちろんこのアプローチのリスクは、中国の中に親米派と反米派がいれば、このような対抗手段は反米派を増長させ、権力の共有などは不可能になってしまうことだ。

三つ目のアプローチは、直接的で対称的な対抗圧力を使うことだ。これにはアメリカのサイバー能力(攻撃・防御の両面における)の拡大や、海軍力の向上が挙げられる。また、アジア太平洋地域の他の国々との軍事関係の強化も含まれる。

●ところがこれも中国内の反米派を増強させ、アメリカ自身も大きな額の資金が必要になってくる。もちろんこれは最も安全な手段かもしれないが、コスト的に最も高くつくことになるのは間違いない

●日本が1941年に戦争に向かったのは、大恐慌から復活するまでのワシントン政府に軍事的に対抗するチャンスが狭くなりつつあると考えたからだ。中国もアメリカのアジア太平洋地域におけるパワーが後退しつつあり、その空いた穴を埋めようと考えているのかもしれない。

●もしそれが本当ならば、アメリカがやるべきことは、中国に対して「撤退していない」ということを(たとえ中国にとって不快な手段を使ってでも)理解させることだ。

●ところがもし中国が「アメリカとの紛争は不可避であり、すでに始まっている」と考えているのであれば、アメリカ側の気付きが早ければ早いほど、大戦争に至らない効果的な対抗手段を考える時間が増えるのである。

●もしそれに失敗してしまえば、シンガーとコールの本は、単なる警告ではなく悪い予兆となってしまうかもしれないのだ。
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この記事で提唱されている「アメリカがとるべきアプローチ」をまとめると、以下の3つです。

①米中共同管理(Power-sharing approach)
②テロや民主化運動で嫌がらせ(Asymmetrics approach)
③正面から軍事圧力で対抗(Symmetric approach)

そして、著者がオススメしているのは③ですね。コストが高いのが難点ということらしいですが。

日本をアナロジーとして引き合いに出すのは正直迷惑なところがありますが、中国と日本の戦略文化の違いはさておき、直近で参考にできるとすれば、たしかに真珠湾攻撃しかないんでしょうな。

このトピックについては、こちら(http://ch.nicovideo.jp/strategy/blomaga/ar855691)でも少し詳しく書いておりますのでよろしければぜひ。



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by masa_the_man | 2015-08-19 11:57 | 日記 | Comments(7)
今日の横浜北部は朝からずっと降っておりまして、なんとか暑さも一段落。

さて、4日連続の更新になりますが、今日はブロマガ(http://ch.nicovideo.jp/strategy/blomaga/ar854369)でも触れた記事の要訳を。

米軍が主導した食品加工技術によって、われわれの食べ物の好みも変わってきたという話です。

これは軍事技術がわれわれの生活を変えてしまったという意味で、テクノロジーと社会、そして人間の変化という、私にとっては非常に興味深いケースです。

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How we went from beef on the hoof to mystery meat in a box
by Anastacia Marx De Salcedo

http://www.latimes.com/opinion/op-ed/la-oe-desalcedo-military-meat-20150802-story.html

15-8/2 LA Times

骨付き肉から謎の箱入り肉までの歴史
by アナスタシア・マルクス・デ・サルセド

●菜食主義者の人々にとっては驚きかもしれないが、われわれ(アメリカ人)は動物性タンパク質を驚くほど多量にとるようになった。2000年の年間一人あたりの消費量は90キロであり、これは1950年代から18キロも増えていることになる。

●ところがここで重要なのは、われわれがとる肉というのは、骨から引き剥がされ、化学物質などを使いながら、朝食用のパテや昼食用のナゲッツ、そして電子レンジ用のメニューとして加工されているという点だ。

●ほとんどの人々はこのような変化を、われわれが屠殺のようなものを嫌う食習慣の幼稚化にあると考えている。ところが現在の消費者の好みというのは、スーパーマーケットによって主導されたわけではなく、20世紀初期の米陸軍による、兵士用の糧食のコスト削減の追求にその起源がある

●つまりこの分野では、供給から需要が生まれたのだ。

●数世紀にわたるわれわれの食生活では、夕食に骨付き肉を出すことが、ある種の保険のように働いていた。骨がついていれば、その肉が動物のどの部分から使われているのかを知ることができるし、それが新鮮なものかもある程度判別することができたからだ。

●逆に貧乏人たちは、主にシチューやスープの中にある正体不明の肉片をがまんして食べるしかなかったのだ。

●ところが第一次世界大戦が始まると、米軍とシカゴの食肉業者たちは470万人の米兵たちのために、一日450グラムの肉を用意する必要に迫られたのだ。もちろん海外にまるごと枝肉などを運ぶわけにはいかなくなったので、陸軍の補給部は安全な形で大量の食肉を運ぶ方法を必死に考えはじめたのだ。

●1918年にはジェイ・ホーメル(のちにSPAMなど販売)少尉の助けを借りて、陸軍はシカゴに食肉加工向上と運搬システムを設置している。この結果として、軍は骨や脂肪、それに軟骨などを取り除いた肉を25%少ない重さで運ぶことに成功した。

●長方形の塊で冷凍され、麻袋や油紙に包まれた肉は、運搬する際に60%もスペースを節約できた。

●第二次世界大戦では、シカゴのアーマー&スウィフトという食肉業者が海軍と協力して、骨抜きの技術に投資し、肉をランク分けして瞬間冷凍することに成功した。

●1946年の米陸軍省は「軍における牛肉の加工技術の進展は、牛肉を現在の世界で活躍する陸軍の糧食にすることで成功した。米軍は骨なし牛肉の冷凍・梱包技術をこれ以上の実験がいらないほどの地位まで高めたのだ。今後は民間がこれを活用する時代に入った」と記している。

●ところが現実はそう簡単にいかなかった。なぜなら、その普及にはスーパーマーケットの台頭や、鉄道の駅の近くにある町の食肉店のような古いビジネスモデルが、ハイウェイの近くの工場で加工されるという新しいモデルに淘汰され、しかも消費者側も、箱詰めされた骨なし肉の経済的・実用的な利点を受け入れる必要があったからだ。

●1963年から2002年まで、米国内の最大の加工工場から出荷された箱詰め牛肉の割合は、総売り上げの10%以下から60%まで上昇しており、現在ではスーパーで売られている牛肉の90%以上を占めるようになった。

●米軍は骨抜きを止めていない。箱入り牛肉が普及すると、軍の幹部たちはやや控えめに、肉の購入価格を60%に引き下げる目標を立てた。そして実際に、牛の中で最も安い部位の肉を集めて加工することにより、カット肉のような見た目と味を実現して、値段を下げたのである。

●また、軍の食品科学者たちは研究室に向かうと同時に、大学や産業界に手を広げて共同研究を始めた。彼らは肉をほぐす機械を改善し、肉の結着剤(肉の粘液と塩とその他の化学物質で構成)を発明し、肉にリン酸塩を加えるとジューシーさや歯ごたえ、そしてフレーバーが加わることを発見したのだ。

●また、これらの技術の発展によって、クズ肉をまとめて、肉片やカツレツ、もしくはステーキに似せた成型肉が実現したのである。

●1972年には軍の主導した成型肉プロジェクトが実を結び、グリル・ステーキやスイス・ステーキ、薄焼きステーキ、そして朝食用のステーキなどが工場で生産できるようになった。76年には成型肉としての仔牛のカツレツが部隊に配られることになり、ラムやポーク・チョップ、それにやや遅れてビーフステーキも可能となった。

●こうして成型肉は、個別包装されたレーション(MRE)として正式採用されることになったのだ。

●米軍がこの目標を達成した後に、彼らは手を引いて、コストの安さを追求する民間の業者に成型肉のプロモーターとしての役割を引き渡した。産学は共同して製造コストを下げる方法を追求している。

●このような方法には、温脱骨(死体がまだあたたかいうちに骨を抜く)や脱腱、機械分離法(枝肉をこし器に押し付ける)、脂肪をタンパク質の沈積物に混ぜること、そして血漿を還元物として使う方法などだ。

●このような奇妙なテクニックによってできたアイテムは、まずファーストフード店のメニューとしてデビューすることになり、スーパーの冷凍食品コーナー、そして最後に冷蔵ケースの中に陳列されるようになったのだ。

●成型肉の消費は90年代から2000年代初期にかけて急上昇し、97年には全米統計局が「非家禽食肉加工」という新しい産業分野を付け加えることになったほどだ。この分野では240億ドルの年間売上があり、2007年までにはそれが370億ドルにまで成長している。

●20世紀はじめのアメリカ人はTボーンやプライムリブにこだわっていたが、米軍のおかげで、アメリカ人はもう自分たちの夕食の食材の確かさの証明としての骨付き肉にはもうこだわらなくなった。むしろ米軍が開発した食べ方、つまり骨なし(ボーンレス)と成型肉を好むようになった、とも言えるのである。
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これは明らかにテクノロジーの発展が人間(の好み)を変えた、という典型的な例ですね。

ヘラクレイトスは「戦争は万物の父である」という言葉を残しておりますが、これはやや大げさだとしても、少なくとも牛肉の加工という面では、戦争や軍事的要求からの技術の発展という要素は見過ごすわけにはいきません。

人間はテクノロジーを発展させますが、そのテクノロジーは、逆に人間を変えてしまうのです。



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by masa_the_man | 2015-08-17 15:04 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は晴れておりますが、暑いながらも朝方は秋の気配を感じるようになってきております。

さて、翻訳も一段落しましたので本日で3日連続のブログ更新です。今日は中国の軍拡が終わりであるというやや楽観的な内容のナショナル・インタレスト誌からの記事を要約です。

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なぜ中国の莫大な軍拡は破滅する運命にあるのか
by サルバトーレ・バボネス

Why China's Massive Military Buildup Is Doomed
Salvatore Babones

15-8/5 National Interest

http://nationalinterest.org/feature/why-chinas-massive-military-buildup-doomed-13494

●南シナ海での紛争の可能性が高まりつつあるなかで、現在最も注目を集めているのは、中国の軍備拡大である。

●最近の報道では、中国が海南島に巨大なドック関連施設を建造中であることや、南シナ海の島を航空基地にしようとしているが、これはこの地域全体を震え上がらせて各国の武装化を促している。ここでのメッセージは明らかだ。200年におよぶ西洋の支配を経て、中国が復活したということだ。

●ところが本当にそうだろうか?西側の災厄預言者たちの予測とは裏腹に、中国は近い将来において政治的に崩壊するような危機には直面していないし、経済は減速しているが、ライバル国と比べてもその状態はまだ健康的であるといえる。

●ただし「中国が世界を制する」という主張(というか恐怖)は明らかに大げさである。その理由は、国家予算的に無理があるからだ。

●2015年の中国の軍事費の成長率は10.1%であり、これは過去20年間の二桁成長の継続である。ところが鋭い経済学者たちはこの数値がインフレ率と調整されていないと説いている。

●さらに悪いことに、彼らは兵士の給料(人民解放軍の最大の予算)の上昇率がインフレ率よりも高いことを考慮していないのだ。たしかに総額はものすごいが、それでも7410億元という額は以前ほど追いついていないのだ。

●そして腐敗がある。もちろんアメリカにも調達面でスキャンダルがないわけではないが、米軍では腐敗はそこまで組織化されたものではない。ところが中国ではあらゆる官僚組織の中に腐敗が存在し、人民解放軍も同様であることは北京政府自身も認めている。

●今年の1月中旬に、北京政府は2014年に汚職で検挙された16人の軍高官の名前を挙げており、これには兵站関連の幹部が多数含まれていた。さらにすごいのは、4024人(82人の将軍を含む)の幹部たちへの汚職捜査が開始されたと報じられたことだ。

●中国の過去20年間における二桁成長のうちのどれくらいの額が汚職に流れたのかは誰も知ることができないだろう。ところが中国の軍事費の拡大の開始は、1998年に人民解放軍の民間ビジネス部門の閉鎖とほぼ同じ時期に始まっているということだ。サイドビジネスを禁じられた人民解放軍の幹部たちは、自らのビジネスモデルを国庫から直接盗むものにシフトしたのだ。

●巨大な人民解放軍の組織構造は7つの軍管区にわかれており、各区の幹部たちは過剰な予算権限を握っている。このような環境のおかげで、汚職がはびこるのは当然だといえよう。軍の下部組織でさえ腐敗によって巨額の資金が搾取されているという話は有名だ。

●汚職の規模を考えると、人民解放軍の幹部たちが出世のために賄賂を払って、実質的にポジションを金で購入するというのが日常的な風景である。もちろんこれによって人民解放軍の能力そのものが貶められるものではないかもしれないが、確実に軍事予算のインフレにつながっており、しかもその規模は莫大なのだ。

●中国の国家統計局の発表によれば、今日の中国の軍事費はGDPとほぼ同じように増加しており、GDPの1.3%で安定しているという。また、北京政府はその詳細は述べていないが、GDPの1.4%は国内の治安維持向け(警察や準軍事部隊などを含む)であることを認めている。

● 西側の中国専門家たちはこの二つの数字を合わせて中国がGDPの3%を国防費として使っていると分析することがあるが、これは明らかに不適切だ。

●80%以上の国内治安維持用の予算は現地政府(省)の部隊で使用される。北京政府は外部の人間にとっては不透明であるが、われわれが一つ確信できるのは、各地方が独自の軍事力を備えようとするのを北京政府は絶対にゆるさないということだ。

●アメリカは国防費としてGDPの3%以上の額を使っており、これは世界でも有数の高さのレベルにある。

●アメリカが世界最大の経済規模を誇り、最先端の技術を持ち、世界中に同盟国のネットワークを張り巡らせていることを考えると、中国をそれほどおそれる必要はない。その予算を詳細に見ていけば、それが杞憂であることがますます確信できる。

●中国が全体的に中間層に移行していくにしたがって、社会保障費はGDPよりも早く拡大している。中国の農村部へと教育を拡大しており、住民票をもたないような都市部の住民に対してまで福利厚生を手厚く継続しようとしている。

●それと同時に中国の人口の高齢化は急速に進んでおり、健康保険や年金システムに大きな負担がかかっている。65歳以上の高齢者の率は今日の10%から2035年には20%に上昇すると見られている。高齢者に対するサービスは、今後数十年間にわたって政府の財源を圧迫することになるだろう。

●アメリカと同じように、中国も国内と国防の予算の優先順位の選択に悩んでいる。この二国の最大の違いは、アメリカがすでにリッチな国であると同時に人口構成のバランスがまだ崩壊しないと見られていることだ。

●また、アメリカは比較的効果的な累進課税システムを持っており、危機が起こった時にはその税率を容易に上げることができるが、中国はそのようなシステムを持っていない

●その他のほとんどの中所得国と同じように、中国も主に(消費税、法人税、譲渡所得税などの)間接財源にたよっている。これらからの税収額は所得よりも上昇速度が遅く、したがって中国経済が発展しても税収全体は経済全体よりも増加が遅くなるのだ。

●結果として、中国の国防費は行き詰まることになる。もちろん人民解放軍の予算は、効率の向上や腐敗の減少などによってその勢いをある程度継続させることは可能であろうが、それでも二桁成長の時代は終わっている。

●おそらく北京政府はもうすぐ軍に対して「少ない額で多くのことをやるように」指示することになるだろう。これにはアメリカの将軍たちも中国側に同情できるようになるのではないだろうか。

●経済成長が著しい時に軍人として高い給料で雇われた経験のある中国の多くの軍人たちにとって、これは厳しい知らせであろう。ところがこれは中国の周辺国や、アジア太平洋地域の安全保障にとってはよい知らせだ。

●もちろん南シナ海では一夜にして平和が実現するわけではないが、現実として中国は現在のようなペースで地域での軍備拡大を続けることはできないのだ。

●アメリカ、日本、そしてオーストラリアのような、発展した自由民主制国家の最も進んだ武器というのは、その財政能力である。

●中国やロシアのような独裁的で腐敗した国家というのは、たしかに短期的な軍事力の拡大において目覚ましい成果を上げるが、歴史的にみても、財政面でそれを継続する力に欠けている。中国はどう考えてもすぐに発展した自由民主制国家になるとは思えない。そしてそれが不可能ということになれば、アメリカや周辺国を脅せるような財政力を持てないということになる。

●もし中国がなんとかして発展した自由民主制国家になれたとしても、周辺国やアメリカはその新しい中国を恐れる必要は何もないのだ。

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ポイントとしては、国内治安維持のコスト、汚職、そして財政力のなさという3つが挙げられておりますね。

ただしこの記事の筆者が見逃していると思うのは、現場の部隊が勝手に暴走する危険があるということでしょうか。そういう意味で、私は素直に「恐れる必要は何もない」とは信じられないですね。



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by masa_the_man | 2015-08-16 15:00 | 日記 | Comments(7)