戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


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南シナ海:中国擁護論

今日の横浜北部は昼まで快晴でしたが、午後に入って曇りまして、にわか雨も降りました。梅雨らしい天候です。

さて、南シナ海における中国の埋め立て問題に関して、リベラルなジャパンタイムズ紙が中国側の立場を擁護する論調の米国の専門家の記事を掲載しており、非常に興味深かったのでその要約を。

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新たな「中国バッシング」の始まり
BY マーク・バレンシア(中華人民共和国海口市の中国南海研究院の非常勤上席研究員)

●我々は再び「中国バッシング」を目にしている。今回の理由は、南シナ海での島や暗礁の埋め立て活動である。米国防総省は、中国が現状を変更し、政治的に不安定な状態を発生させ、国際的な法や規範からはずれ、これらの「地形」(features)と呼ばれる場所を「軍事化」していると非難している。

●アシュトン・カーター米国防長官はとりわけ「暗礁を航空基地にすることは主権の行使の範囲に該当するとは言えず、国際的な空と海の交通を制限できない」と非難している。フィリピンやベトナムはさらにひどいことを述べており、とくにフィリピンは中国のことを戦前のナチス・ドイツになぞらえている。

本稿は、中国の行動や政策、とりわけ中国側の主張するレトリックや行動――そしてその明確化や説明を行うことを拒否していること――を擁護するものではない。ここではアメリカやその他の国々が中国が罪を犯した、もしくはこれから犯そうとしていると考えていると理解している。

●実際のところ、中国のレトリックとそれまでのコミットメントは実際の行動と一致していないと受け取られ、これが疑念や「最悪のシナリオ」についての想定などを発生させている。中国が埋め立てた地形をスプラトリー諸島での軍事的プレゼンスやコントロールを強化するために使ったり、とりわけそこで防空識別圏を宣言して強化することについては、深い懸念があるのだ。

●まずここで、事実と幻想をわけて考えてみよう。

●中国は南シナ海のすべての地形について領有権を主張している。ところがベトナムと台湾も同じ主張をしている。フィリピンとマレーシアは、そのうちのいくつかを主張している。現代の国際法における「主権」を構成する基準である、継続的かつ実効的な支配、統治と制御という面では、この場合のすべての主張者たちには弱みがある

●スプラトリー諸島には「チュオンサ島」と、台湾が支配している「太平島」を含む、いくつかの「法的な島」がいくつか存在する。中国はこれらを占拠していないが、占拠は「主権」にはならず、中国は主権を主張していない。これらの島は「人間の居住又は独自の経済的生活を維持」できているように見える。これは12カイリの領海、200カイリの排他的経済水域(EEZ)、そして最大350カイリの大陸棚を有することにもなる。

●もちろんそれらの主権の主張、その領域の広がりやスプラトリー諸島の「地形」などは、係争国同士で交渉されるべきものだが、中国はいくつかの「干潮時にも海面上に現れない暗礁・砂州・堆」(submerged features)などを、これらの法的な「島」からのEEZの内部に入るものとして主張しているのかもしれない。これらは主権を有することにはならないが、自国の主張するEEZ内で人工構造物を埋め立てる権利になる可能性がある。

●別の主張では、中国が埋め立てている暗礁・砂州・堆は、領有権を主張している「島」の領海の中に入るものであったり、その島の周辺の「領海基線」の内部にある、とするものがある。そうなると、それらは主権の範囲内ということになる。もちろんこれらはかなり誇張したものかもしれないが、それでもそれを使った議論の可能性は否定できない(そして他の主張者たちも同じことを主張できる)。

●とにかく最大の問題は、中国がどのような主張を行っており、その理由がどのようなものなのかを誰も知らないという点だ。ただしここで言えるのは、アメリカの法的な立場は「ホームラン」というわけではないということだ。

●ここでのポイントは、たとえば「領海基線内」というシナリオの場合、中国はいくつかの暗礁・砂州・堆や12カイリの「領海基線」の内部においては領有権の主張を行うことが可能だということだ。したがって、カーター国防長官の批判には議論の余地が出てくることになる

●中国が主張するEEZ内の「人工構造物」は、最悪の場合でも500メートルの「安全水域」の主張は可能であろう。この領域は上空にも拡大させることができ、中国の「軍事警戒圏」(外国の航空機の接近の際に警告する)の設定は合理的だといえるのだ。

●中国が占拠し、埋め立てを行っている法的な「島」(クアテロン礁、フィアリー・クロス礁、ジョンソン南礁)のおかげで、これらは領海となり、これにともなって上空通過の禁止も適用できるだろう。したがって、アメリカのこれらの地形の上空と領海の通過は、中国の主権の主張に対する挑戦だと見られかねない

●おそらくアメリカの立場は「主権が確定しておらず、どの主権も認められない」というものだろう。もしくは、アメリカは中国側の「外国の軍艦が領海に侵入する際にはあらかじめ知らせるべき」とする管理方法に挑戦する意図をもっているのかもしれない。ところがベトナムも同じような管理方法を使っており、同じような挑戦をアメリカから受けるべきであることになる。

●つまりここでのポイントは、何がアメリカにとっての問題であり、それがなぜなのか、その理由が不明確であり、それが中国側に誤解されやすいということだ

●中国側が地域の規範に即していないという批判についてはどうであろうか?すべての係争国たちが、自国が占拠している地形の周囲の土地を埋め立てており、軍を使ってそれらを維持し、使用可能なものにしている。もちろん中国の埋め立ての規模は、それらの当該国たちのすべてを合わせたものよりも大きい。おそらく中国は、この海域の民間的な問題の管理は、それを行う国の広さ、人口数、そして経済の規模に見合ったものであるべきだと考えているのかもしれない。

●よって、中国がこの地域の責任についてのビジョンと能力の面において、小規模な国家たちのものをはるかに上回っている点については、驚くに値しない。

●では中国の防空識別圏の主張はどうであろうか?実際のところ、このような識別圏の法的な基盤や「ルール」というのは(おそらく「自衛」もしくは「上空通過の自由」という一般的な原則をのぞけば)存在せず、自衛の場合はとりわけどの国にとっても優先事項である。

●防空識別圏については、アメリカが第二次大戦後に、自国や日本、台湾、そして韓国に対して前例として確立したものであり、どうやら他のすべての国もこの防空識別圏をモデルにすべきであると考えているようだ。ところが最初に確立したからといって、その事実によって「すべての国が従うべきルール」としては正当化できず、とりわけ国際的な合意がない場合は問題となる。

●こうなると中国は、パラセル島やおそらくプラタス島をのぞいた係争地となっている島や海域以外では、自国の海岸線から200~250カイリを防空識別圏として宣言できることになる。

●このような議論は、理論面での要件やその実行の面で問題を作り出すにせよ、中国に対して批判的な人々のほとんどが認めざるを得ないものであろう。たしかに正統性の面で懸念となるのは、中国が東シナ海で宣言した防空識別圏にも同じようなルールや規則が適用されることである。これには防空識別圏に侵入する外国の航空機が、たとえ通過するだけの場合や、最終到着地が中国の領空内ではなくとも、あらかじめ中国側に通達を行うことなどが含まれる。

ところが中国はこれまでこのようなことを実行しておらず、日本は台湾の航空機が自国の防空識別圏に入る際に同じような要求をしており、オーストラリア、ミャンマー、そして台湾も外国の航空機が自国の防空識別圏に入る際には同じような要求をしているのだ。

●ここでのポイントは、中国にも自分たちの防空識別圏を宣言する権利があり、数か国との係争地域でなければ、この行為そのものが不安定化要因とはならないということだ

●ところが、スプラトリー諸島のいくつかや海域を含む中国の防空識別圏は、かなりの懸念材料になりうる。これはアメリカ、日本、そして東南アジア諸国たちにとって「航空路やシーレーンを含む南シナ海をコントロールしたい中国」を表すために最悪の恐怖を巻き起こすことにつながる。 彼らにとっては「航行の自由」への脅威と映るし、アメリカにとっては「越えてはならない一線」(レッドライン)となる可能性があるのだ。

●本稿の結論は「中国の行動は、原則として他の国々がやってきたことと見合ったものである」というものだ。また、米国は主権問題に関しては中立とは見えないのであり、中国を批判する国々も偽善者だということだ

●おそらくここですべき最も鋭い質問は、一体誰が、どの現状維持の状態を崩しており、地域を不安定化させているのか、という点だ。それは中国の埋め立て活動なのか、それとも米軍のリバランスと、中国からの政治的・軍事的野望の挑戦――とりわけ領有権の主張――についての感覚なのだろうか?そのようなアメリカの政策とその遂行は、紛争を解決して平和と安定に寄与するのだろうか?それともその状況を悪化させているのだろうか?

●南シナ海におけるすべての領有権主張国たちは、ガイアナ対スリナム事件における「係争地における物理的な地形を変化させる一方的な行動をとるべきではない」とする、仲裁裁判所の裁定に違反している。これはもちろん島の主権にも適用できるものであろう。

●さらに、アメリカやオーストラリアのような第三者がそのような係争地で一方的な行動を起こすことがいいのかどうかも問われるべきだ。

●匿名のある米政府高官は、中国の埋め立て活動に関して「そこには軍事的な脅威はなく、むしろ象徴的な意味のほうが大きい」と述べているが、これはおそらくこれまでの意見の中で最も正確なものであろう。

====

「国際法的な立場からは中国の立場も理解できる」という議論ですが、その議論の立て方がとても興味深い。

彼自身は現在の立場があることから、どうもその議論にバイアスがかかっているという印象を及ぼしており、突っ込みどころが多い点は否定できないですが、逆に中国側がこれを参考にして領有権を正当化してくることがわかるという意味で大変貴重なものかと。

結局のところ、このような議論を見る限り、やはり国際政治の問題は(残念ながら)パワーの問題なのだと感じざるを得ません。


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by masa_the_man | 2015-06-28 17:38 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は一日中雨かと思いましたら、以外に曇り空だけでもちました。

さて、今夜のニコニコ動画の生放送で、

▼奥山真司の「アメリカ通信」LIVE!
2015/06/23(火) 開場:19:57 開演:20:00
http://live.nicovideo.jp/gate/lv223459732
(※20時から再放送、21時から生放送です。)

引き続き南シナ海の埋め立て問題について触れるので、それに関連した話を少し。

この問題ですが、とりあえずここ数日は大きくニュースで取り上げられることはなく、中国側の「埋め立て工事終わった」という報道で、一時的に「幕引き状態」となっているような感じです。

ここで問題になってくるのは、中国側が今後、戦略的に何をしたいのか?という点です。

先週の生放送でも少し触れたように、それがスパイクマンのいうような「アジアの地中海」の支配かどうかはさておき、私は以前から個人的に、以下の3つのことが言えると考えております。

■1:戦略として統一見解のようなものはない ■

戦略というのは、当たり前ですが「集団」が練ってそれを実行するものです。

では中国に確固たる「戦略」はあるのか?というと、実のところ、それは誰も知らず、更に言えば、もしかすると、北京政府自身さえもわかっていないのではないか?という疑念を抱かざるを得ない・・・ということ。

とりわけ現在は、習近平国家主席は、汚職取り締まりをかなり重点的に行っている時期です。

であるならばなおさら、習近平主席自身の意向がそのまま軍事行動などにも反映されてもよさそうなものですが、中南海での権力争いがいまだに継続中なのでしょうか、ハッキリとした「統一見解」のようものがまだ見えてきません。

まあ内紛中の13億人の中国の、これまた南シナ海という流動的な問題において、統一見解などが出てくるわけがないというのは当然でしょう。

余談ですが、最近、孫子関連の本を読んでいて改めて気付いたことがあります。

中国の戦略思想は、「戦略階層」の上位概念である、「世界観」や「政策」はあるのに、その次の階層である「大戦略」や「軍事戦略」を完全にすっ飛ばして、いきなり「作戦」階層のこと実行してしまう・・・。そんなバランスの悪いことをよくやるわけです。

現在の南シナ海でのハチャメチャな行動など、まさにこれで説明できそうです。

■2:カプランの「できるからやる」

これはすでに他の媒体で私が説明したものでして、実は1の説明にもつながってくる重要なものです。

それは、ロバート・カプランが数年前に来日していた時に述べていた、「”できるからやってみる”戦略」です。これを英語でいえば、「capability-based approach」ということになります。

つまり、中国は周辺諸国に圧力をかけることができるほどの軍事力や経済力を持つようになったので、実際に様々な行動を起こします。

そして、ある程度の成功は収めつつも、その姿勢の根本には「能力があるからできることはやっている」という、ある意味で「闇雲」とでも言えそうな狙いがある、というものです。

もちろんこのようなアプローチは、capability、具体的には軍事に変換できるだけの「経済力」や「財力」があるからこそ実現可能なものでして、最近、噂されているように、中国の国家財政が破綻してしまえばその「能力」も無くなってしまうので、元も子もありません。

このような手当たりしだいの(=累積)戦略というのは、傍から見ていると恐怖感を引き起こさずにはいられません。

■3:「抵抗最弱部位」を狙う戦略

私たちが中国のことを考える際に、最も警戒しなければならない戦略は、おそらくこの概念です。

ある媒体でインタビューされた時に、私は中国の戦略を理解するカギとして、「ローカス・ミノリス・レジステンティエ」(locus minoris resistentiae)という医学用語を挙げたことがあります。

これはつまり、身体の中で抵抗力が落ちている「抵抗最弱部位」のことであり、たとえば膝に古傷がある人が梅雨時になるとシクシク傷んだり、肺が弱い人が少し体調を崩すと肺に障害が出やすくなるというものです。

中国の場合もこれと同じで、相手の最も弱ったところ、つまり抵抗が最も弱い部分を狙って、そこに攻撃を仕掛けてくるというものです。

具体的に対日戦略の例でいえば、年金記録などの個人情報にハッキングを仕掛ける、等が手っ取り早いやり方でしょう。そもそも、日本人一般はセキュリティ意識が低い、とはよく言われるところですが、その戦略効果は他の国と比べても飛び抜けて高いといえそうです。



そういえば中国がアメリカに仕掛けているとされているハッキング事件も最近暴露されたばかりです
▼CIAなどで個人情報が大量流出か 米
http://www.news24.jp/articles/2015/06/14/10277281.html



南シナ海での行動を見ていても、アメリカが強く出てくる場合には引いており、(埋め立てた島に大砲を配備したが米側に指摘されるとすぐ撤去)何もない場合にはせっせと埋めてやハッキングを実行するなど、まさに「抵抗最弱部位」を「手当たり次第にできるところから」やっている感じです。

もちろん、その合間を縫って、尖閣沖の接続水域へちゃっかりしっかり侵入しているのは相変わらずです。

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以上のようにポイントを3点に簡単まとめてみましたが、今夜は再び「アジアの地中海」というスパイクマンの概念から見えてくる南シナ海の運命について解説してみます。

アメリカは果たして南シナ海での中国の台頭を許すのか、それとも抵抗するのか?本日仕入れてきた最新情報も加えて解説しますので、ぜひ番組の方を御覧ください。


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by masa_the_man | 2015-06-23 19:35 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は一日曇りでして、午後は強烈なにわか雨がありました。梅雨まっただ中です。

さて、現在大きな注目を集めている南シナ海について少し。

私がいま住んでいるところにはテレビがないのですが、聞くところによると、本日のNHKの1900からのメインの報道番組であう「ニュース7」で、南シナ海埋め立て問題について、海外取材も交えて扱われたとか。

本ブログや生放送などをご覧の方にとっては、この中国の埋め立て問題というのは取り立てて珍しい話ではないかもしれませんが、個人的には(まだ足りないながらも)大手メディアがここまで取り上げるようになったかというのは、なんというか不思議な気持ちになります。

もちろんこの問題は、今後の国際政治の流れだけでなく、日本の今後の安全保障環境にも決定的な影響を与える可能性が大きいので目を離せないわけですが、日本のメディアは(その善し悪しは別として)総じて安全保障問題には関心が低めです。

そのような中で、当然ながらこの問題に最も関心をもつべきであろう防衛省から、非常に参考になるプレゼン資料(PDF)が公開されました。そのいくつかのキャプチャ画像は以下の通りです。

b0015356_21354790.png
b0015356_2136854.png

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この資料を見て最初に感じることは、なんというかその独特なプレゼンのスタイルの「匂い」でしょうか。一枚に情報が凝縮されて「テンコ盛り」という感じが(笑

このような資料はとくにこれまでの経緯を知る上で重要なのですが、孫子の頃から言われているように、戦略を考える上で重要なのは「相手がどのようなことを考えているのか」という点です。

ご存知の方は「いまさら」と感じるかもしれませんが、私は昨年の10月末に、この南シナ海問題について、とりわけ中国側の視点を教えてくれるような本を、ほぼ同時に2冊出版しております。
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一冊目はもちろんシカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーの『大国政治の悲劇』(改訂版:脚注付き)でありまして、この中の最終章となる第10章の中で、「中国の台頭は平和的にはならない」という自らの主張を論じる中で、中国にとっての南シナ海の問題について触れております。

ところがそれよりもさらに中国の南シナ海についての見解を教えてくれるのが、もう一冊のロバート・カプランというジャーナリストの書いた『南シナ海:中国海洋覇権の野望』という本です。
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この本は日本版のタイトルがテーマそのものずばりを言い表しているのですが、南シナ海周辺国の安全保障問題を旅行記のような形で説明しつつも、その歴史的な経緯や現地の政府高官へのインタビューなども交えるという、独特のスタイルで書かれております。

その中で、実際にカプランが北京の安全保障セミナーに参加した時の様子が書かれていてとても参考になる部分があります。以下にその部分を要約した形で書き出してみます。

===

●北京には怪しい「特効薬」があふれていた。それは「中国は守りに徹している間に、アメリカは侵略している」というものだ。その核心にあるのが南シナ海の問題だ。

●北京では、タカ派もハト派も関係なく「中国が近代に入ってから西洋の列強に大きな被害を受けた」という感情が深く共有されており、彼らは南シナ海の問題を、例外なく「国内問題である」とみなしている。

●なぜなら彼らは単純に「南シナ海は、海洋に伸びた中国の領土である」と認識しているからだ。

●ある晩、私が中国の学生向けに開催したセミナーでは、緊張に震えながら恥ずかしそうにしていた若者が、「なぜアメリカは我々の調和と慈愛に対して覇権で対抗しようとするのですか?アメリカの覇権は中国の台頭に直面すれば混乱を招くだけです!」と吐き捨てるようにコメントしていたほどだ。

●北京の理屈からいえば、アメリカの権益はまたして「覇権的なもの」と映る。北京の理屈から言えば、アメリカこそが「アジアを支配下におさめて、その莫大な戦力投射能力を、野蛮な形で発揮している」ということになる。

●つまりワシントン政府こそが南シナ海の紛争を「煽る」存在であり、中国ではなくアメリカこそが「抑止されるべき存在」であることになるわけだ。

●結局、中国は東アジアにおいて儒教の価値観を基礎とした冊封体制を2000年近くも維持してきたのであり、ヨーロッパの勢力均衡体制よりはるかに調和がとれて、戦争の少ない状態を維持してきたということになる。

●したがって平和の維持に関して言えば、「欧米諸国は中国に何も教える資格はない」というのが彼らの言い分なのだ。このような独特な感覚は、彼らの地理観によってもうかがい知ることができる。これについては究極の解決法のようなものは存在しないといえよう。

●したがって、われわれは再び「封じ込め」という概念に戻ってしまう。

(pp.234-35)

===

うーむ、なんというか、彼らにとっては南シナ海の問題というのはただ単に(国家の神話によって)「取り返しにきている」という感覚があるわけですから、彼らにとっては「完全に正義」な問題となってしまっているわけです。

もちろん彼らの狙いは、この海域で戦争を起こすことにあるわけでなく、あくまでも地政学的なパワーバランスを修正するためのポジションの修正にあるわけですから、必ずしも周辺国との軍事衝突を必要としているわけではありません。

ただ問題なのは、それを実現するためには軍事衝突が手っ取り早い、と勘違いしてしまう人間が北京や軍人たちの中に出てくる可能性を否定できない部分かと。

まあとにかくこれからもこの問題はダラダラと続きそうです。


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by masa_the_man | 2015-06-18 22:15 | おススメの本 | Comments(5)
今日の横浜北部は、梅雨の中日なのか、朝から晴れておりました。さすがにもう半袖ですね。

さて、昨日に引き続き地政学に関連したことを少し。

地政学というか、国際政治における戦略的な関係における地理的な要素の果たす役割について、当然ながら、それを矮小化するというか、無視したがる人が多いのは嘆かわしいことです。

ところが地理という要素は、人間がこの物理世界に存在する限り、いかにサイバー空間が拡大しようとも、それが無関係になるということは絶対にありません

もちろん昨日述べたように、「第三の波」的な、いわゆる情報や金融などの分野では、地理という要素は消滅したように思えるのは間違いありません。

それでも人間は物理世界に生きているわけですから、その物理世界が「地理」という形で人間に制約している部分は、好むと好まざるとにかかわらず残ってしまっているのです。

これをちょっと学問的に説明してみましょう。

マイケル・ハワードという人物がおります。イギリスの保守党の党首に同姓同名の方がおりましたが、こちらのハワードはイギリスの戦争学の権威でありまして、ロンドン大学のキングス・カレッジを創設しただけでなく、「ミリタリー・バランス」を毎年発行しており、つい先日もシンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアローグ」を主催しているシンクタンクである、IISSの創設者であります。

また、世界的にはクラウゼヴィッツの『戦争論』の英訳版(1976年)の訳者の一人としても知られた歴史家です。

彼の著作は日本でも数冊出ておりまして、つい最近も非常に短い『第一次世界大戦』が出たばかり。

この人がまだ現役バリバリであった頃に書いた論文で、「これを知らなかったらクラウゼヴィッツ研究者としてはモグリだ」と言われるものが、フォーリン・アフェアーズ誌の1979年の夏号に掲載されました。

そのタイトルは「忘れられた戦略の次元」(The Forgotten Dimensions of Strategy)という一発ではよくわからないものなのですが、ここでハワードが言いたかったのは、クラウゼヴィッツは戦争や戦略を考える際に「社会」という次元に注目したことで特徴があるのだが、アメリカはソ連との冷戦を考える際に「テクノロジー」の要素だけに注目しすぎて偏りすぎている、というものです。

別の言い方をすれば、クラウゼヴィッツは戦争や戦略には

1,精神、2,物理、3,数学、4,地理、5,統計

の5つの次元があると『戦争論』で述べたのに対して、ハワードは上記の論文の中で、

1兵站、2作戦、3社会、4テクノロジー

の4つを区別し、そのうちの3の重要性を強調しております。

このハワードの議論のインスピレーションを受けたのがコリン・グレイという人物なのですが、この人は戦略を考える際にどれだけの要素があるのかを、アメリカの国防大学などで行ったゼミで学生たちと考えるうちに、「戦略には17個の次元がある」という答えに至った(最大は21だったらしいのですが重なっていたので減らした)らしいのです。

それをすべて列記してみますと、その17個は3つのグループに分かれることになりまして、

A:国民と政治
1国民、2社会、3文化、4政治、5倫理

B:戦争の準備
6経済・兵站、7組織(国防計画)、8軍事行政,9情報と諜報,10軍事理論とドクトリン,11テクノロジー

C:戦争そのもの
12軍事作戦、13指揮、14地理、15摩擦と偶然性、16敵の存在、17時間

となります(ちなみにルトワックが『戦略論』の中で最も強調しているのは16と17)。

その結果が以下の図です。
b0015356_0375011.jpg
本来はこれは横向きなのですが、戦略の階層の上下関係をわかりやすくするために政治をトップ、軍事作戦を下に持ってきて作成してもらったものです。

ここから私が何を言いたいのかというと、私がテーマにしている地政学的な問題というのは、国際政治を含むすべての「戦略関係」というもの中では、数ある次元(要素)のうちのたった一つのものでしかないということです。

ところがやっかいなのは、たった一つのものでしかなく、その働きが普段は見えないものであっても、要素としては残っていて確実に存在しており、それがいざという時に決定的な役割を果たすこともある、ということなのです。

もちろん問題は「ではいつ重要になるのか」というタイミングの問題ですが、これはまさに「イザという時」としか言えず、その重要性は(グレイのたとを使えば、レースカーのパーツやカレーの個々の具のように)普段から交じり合っているものであり、その表れ方は「時と場合による」としか言えないのです。

ただし現在の日本周辺を見ても、安全保障関連の問題が出てくるときというのは環境がきわめて「地政学的」になってきてしまうのであり、安保法制の話には実は地政学的な問題が背景にあるという点は、まさにこのような部分にあるわけです。

地理的な要素、そして地政学的な次元というのは、国際政治には常に存在しております。ただしそれが決定的な重要性を持つかどうかは「状況による」としか言えないのです。

戦略における地理という要素の恒久的な働きについてさらに知りたい方は、『胎動する地政学』の最初の章に収められているグレイの「逃れられない地理」という論文を参考にしてみてください。

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by masa_the_man | 2015-06-14 00:34 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は昼まで降ったりやんだりでしたが夕方にはなんとか雨が上がりました。

さて、遅きに失した感がありますが、一つお知らせがあります。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、日経ビジネスオンラインというウェブサイト上で、地政学入門という形で4月末から連載をしておりました。

途中で休んだこともありますが、基本的に一週間一本ペースで書いておりまして、すでに9回分を書き上げました。
b0015356_2158025.jpg

タイトルは“「あなた」のための「地政学」講座”というものでして(例によってタイトルは著者に決定権限はないのですが)、現代の国際政治に役立つものの見方を、本ブログのみなさんもご存知の通りの、古典地政学の理論をベースにわかりやすく説明するというスタイルです。

ちなみにすべての回を列記しますと、

第1回:キッシンジャーがタブーを破った禁断の「地政学」

第2回:『坂の上の雲』に登場するマハンが唱えたシーパワー:陸の勢力と海の勢力の二項対立

第3回:地政学の父マッキンダー:欧州の成り立ちを地図と歴史で解く

第4回:「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマン

第5回:ヒトラーに地政学を個人教授したハウスホーファー:「日独防共協定」に関与

第6回:米国と地政学:戦後のソ連との戦い方を戦前ドイツに学ぶ:基本は「上から目線」

第7回:地政学的手法で斬ると見えてくる“ギリシャ危機の真の姿”

第8回:米中関係を地政学的に分析する:「地理的世界観」が全世界に影響

第9回:中国がかわしたい米国の“海峡封鎖”:大国の世界展開は「内海」の確保に始まる

となっております。

おそらく次は北極海の地政学について書くことになりそうですが、原稿の元ネタは次に出す予定(のハズ)の本の草稿なのです。

意外に思われるかもしれませんが、今回の連載を通して私が全般的に主張したいのは、「現在の国際政治のすべてが(古典)地政学で説明できるわけではない」ということです。

ただしそれに付け加えて言いたいのは、「それでも地政学的な視点が重要性を帯びてくる場合があるので、最低限この知識はもっておこう」というものです。

あえてたとえるならば、(古典)地政学的な視点というのは、現代の国際政治全般を山の森にたとえると、その森の下にある「地層」の部分に注目するような見方でしょうか。

普段は金融や情報通信のようないわゆる「第三の波」的な分野がわれわれの日々の生活の中心でして、これは山や林の中にどのような花や木の実がなっているかが最大の関心のようなもので、その下にどのような地層や土の種類があるのかはあまり自覚されないのと似ています。

ところがいざ台風が来たり、地震が起こったりすると、森の下が地すべりを起こしたり、その近くを通る川が氾濫したりするなど、地質学的な要素、つまり地政学的な要因というものが突然決定的な重要度を高めてくるのと一緒です。

地政学、および地理的な要素というのは、たしかに普段はそれほど要素的に活躍はしませんが、何かの拍子に(好むと好まざるにかかわらず)フォーカスされてしまうわけで、だったら無視せずに勉強しておきましょうよ、と私は言いたいのです。

ということで、もう少し連載のほうを続けます。


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by masa_the_man | 2015-06-12 21:59 | Comments(0)

ローマ帝国の大戦略

今日の横浜北部は朝からよく晴れて初夏の陽気でした。そろそろ梅雨でしょうか?

さて、前回のエントリーに引き続きルトワック本の紹介ですが、今回は同時に原著が復刊されることになった、彼の博士号論文を元にしたローマ帝国に関する本です。

b0015356_2135339.jpg

The Grand Strategy of the Roman Empire: From the First Century A.D. to the Third
by Edward N. Luttwak

原題を直訳しますと、『ローマ帝国の大戦略:一世紀から三世紀まで』というシンプルなもので、内容も題名の通り、1世紀から3世紀までの300年間のローマ帝国の大戦略の違いを分析するというもの。

目次は大きく見ればかなりシンプルで、以下の通り。

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▼推薦の言葉

▼はじめに

▼イントロダクション

▼第1章:ユリウス=クラウディウス体制:オクタヴィアヌスからネロ時代までの従属国と機動的な部隊
ーシステムの概要
ー従属国たち
―従属国たちの管理
―ローマ軍の戦術的構成
―部隊の戦略的派兵
―結論

▼第2章:フラウィウス朝からセウェルス朝まで:科学的な前線と、ウェスパシアヌスからマルクス・アウレリウスまでの妨害的な防衛
ーシステムの概要
―国境防衛:戦術的な面
―国境防衛:戦略的な面
―従属国システムの減退
―ローマ軍
ー結論

▼第3章:縦深防衛:3世紀の大危機と新しい戦略
ーシステムの概要
―脅威の変化
―帝国の新しい国境
―城塞都市と強化点防衛
―国境部隊
―地方部隊
―中央野戦部隊
―結論

▼エピローグ

▼補遺

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これだと元の論文が3部構成で書かれていたことが一目瞭然という感じですが、ルトワックはこのように時代を完全に3つにわけて、およそ100年間ごとのローマの大戦略(grand strategy)の特徴をそれぞれ分析しております。

まず各時代のローマ帝国の大戦略を「システム」(体制)と名づけて、第1章で紹介するシステムは「覇権的拡大」、第2章のシステムは「領土安全保障」、そして第3章では「先細りする状況」というシステムであるとして詳しく解説していきます。

普通のローマ帝国に関する本を読むと、ローマ軍は戦術的にも好戦的であったというイメージがありますが、ルトワックによればそれは間違いで、たとえばユダヤ戦争におけるマサダ要塞の攻略戦(70-73年)などでは、極めて慎重な攻略法をとっていることを指摘しております。

というのも、ローマは紀元前146年までのカルタゴとの戦いで大規模な軍隊を使う戦争の戦い方における複雑さを学んでおり、それ以降の五賢帝の時代などの拡大期には、むしろローマ軍に好戦的な戦術を使わせるよりも、軍隊の存在による脅しを使う「強制外交」をとっていたと分析します。

つまりローマ人たちというのは、その領土の拡大期には「抑止」的な軍隊の使い方をしており、戦略における物理的な面よりも、むしろ相手の恐怖心にどこまで訴えかけることができるかという、いわゆる心理的な面をよく理解していたというのです。

このようにみると、まさにローマ帝国興亡史という感じですが、とりわけその戦略面・軍事面から見ているという意味では画期的なものかもしれません。地図や図、それに表なども意外に豊富です。

これをざっと読んでみての感想ですが、どうしても現在のアメリカの大戦略との比較をしたくなってしまうほど現代的な示唆に富んでおります。また、戦略における心理的な面や相手の反応の重要性など、後に『戦略論』に集められたアイディアの数々がすでにここに現れていたことを発見したのも興味深いところでした。

この続編として、ルトワックは『ビザンツ帝国の大戦略』という大著を再び2009年に出しました。こちらはおそらく翻訳はされないでしょうが、さすがに本人も認めるだけあってなかなかの名著です。

このような本を「クーデター入門」と全く同じ著者が書いたとは思えないほどですが(苦笑)、その歴史分析の正確性はさておき、その後にローマ軍そのものに対する興味を喚起したという意味では、一つの功績があったと言えるでしょう。

そろそろこれの新板が出るようですが、果たして邦訳は実現するのかどうか。


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by masa_the_man | 2015-06-04 23:04 | おススメの本 | Comments(5)