戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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<   2015年 05月 ( 7 )   > この月の画像一覧

今日の横浜北部は朝から快晴で気温も上がりました。まだ梅雨前なのでそれほど蒸さないのが救いです。

さて、色々と忙しくしておりましたらあっという間に更新が遅れておりましたが、来週の火曜日の夜に放送する特番(http://live.nicovideo.jp/gate/lv221061132)でのルトワックの『クーデター入門』の内容について、目次や気になったところなどをメモ代わりに先にここに書いておきます。
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まず目次ですが、以下のようになっております。

====

▼まえがき

▼本書に寄せて(S. E. フィナ―)

▼第1章:クーデターとは何か
ー革命
ー内戦
ープロヌンシアミエント
―プッチ
―解放
―民族解放戦争、反乱、そのほか
ークーデターの定義

▼第2章:クーデターはいつ可能か
●クーデターの前提条件
ーその①経済的後進性
―その②政治的独立
―その③有機的統一:分派的利益・地域的政治単位

▼第3章:クーデターの戦略
●治安機構の中立化
●軍隊の中立化
―ポルトガル軍:1967年の状況:陸海空軍
―クーデターの戦略① 軍部への浸透
―クーデターの戦略② 警察力の中立化
―警察力の分析:パリ警察の場合:憲兵、地方警察、都市および国家警察
―クーデターの戦略③ 秘密機関の中立化:純粋な諜報活動、反諜報活動、反スパイ活動、国内の治安維持活動、国内の諜報活動

▼第4章:クーデターの計画
●政治的諸勢力の中立化:その1
ー戦略目標① 政府要人:儀礼的人物、閣内集団と強制手段を掌握している閣僚、ほかの閣僚と高級官僚
ー戦略目標② 政府外の要人
ー戦略目標③ 物的施設、装備:マスメディア、電信電話、都市への出入口の連絡、交通の要害、空港その他の交通施設、公共建造物
●政治的諸勢力の中立化:その2
ー戦略目標④ 宗教団体
ー戦略目標⑤ 政党:機械政党、反乱政党、官僚的擬似政党、先進国の政党
ー戦略目標⑥ 労働組合

▼第5章:クーデターの決行
●その前夜:決起のとき
●タイミング、結果、機密:最終点検
ー行動開始:襲撃目標:Aクラスの襲撃目標、Bクラスの〜、Cクラスの〜
●クーデター直後の情勢:新しい秩序を!
―自軍の安定化:まず内部を固める
―官僚機構の安定化:忠誓と協力
●「権力」から「権威の座」へ:大衆の安定化

====

うーん、非常に生々しいですね(苦笑)これはハンドブックというか、完全な「手引書」ですよ。

その他にいくつか書いておきたいことが。

まず第一に、ルトワックはクーデターしやすい国を見極めることの重要性を説いております。そうなると、適しているのはいわゆる「先進国」ではなく、むしろ「第三世界」の国々。

実行しやすい国の3要件として挙げているのは

①権力が少数の人間に集中、
②外国からの介入を受けにくい独立国、
③政治の中心が多数の機関などに分散していないこと。

というものです。北朝鮮はそれに当てはまりそうですが、なにぶん中国が介入してきそうなところがちょっと状況を難しくしているかと。

次に半分くらい読んだところでの感想なのですが、なんというか、国家のパワーの源泉(クラウゼヴィッツのいう「重心」)がどこにあり(秘密機関!)、それをどう分析してどこを動かせばいいのかを徹底的に論じているという意味で、意外に政治学の本として優れているのではないかと思った次第です。

もうすぐ出る本書の新板(2015年版)のまえがきには、原著の英語版が7刷され、日本語やロシア語、それに中国語(といっても繁字体の台湾版)を含む17カ国の言語に翻訳されたことや、実際のクーデターに使用されたと証拠つきで聞かされたこと(!)、それに本書が最も注目されたのはアフリカであったことなどが書かれております。

どうやら最初に本書(のフランス語版)を実際に使ったと思われるクーデターは失敗に終わったらしいですが、ルトワック自身は「俺の言った通りに実行しなかったからだ」と反論してます(笑

この本のまえがきにあるルトワック自身の言葉も印象的です。

===

本書は、実際に国家権力を握るために活用できるような、クーデターのテクニックを紹介することを目的としている。やる気と材料があれば素人にもできるという意味で、本書は料理本に似ており、その狙いはクーデター実行のための知識を提供することにある

・・・本書は政治的には中立の立場に立ってクーデターのテクニックを論じたものであり、国家の権力を奪うという目的のためだけに書いたものであって、その後の政策をどのようなものにするかはまったく感知するところではない

===

とにかく刺激的な本であることだけは確かです(苦笑

火曜日の特番でじっくり解説する予定です。


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by masa_the_man | 2015-05-30 20:34 | 日記 | Comments(8)

ノリエガを追い出した曲

今日の横浜北部は昼間に快晴。しかし夕方になると気温が意外に下がりました。

さて、昨晩都内で特殊部隊の戦略理論についての発表しましたが、その準備段階で調べていた時に面白い事実を知りましたので、それについてメモ代わりにここへ。

特殊作戦のことを調べている時に、個人的に興味があったのは、アメリカが89年から90年にかけてのパナマ侵攻でした。

この一連の作戦を読んでいると、色々な本で、パナマの首都を制圧されたノリエガ大統領が町の中に逃げ込み、最後はバチカンの大使館に逃げ込んだとあります。それが1990年の正月のこと。

それに対してアメリカが行ったのは、バチカン大使館に超大型のスピーカーを向けて、大音量でハード・ロックの音楽を昼夜問わず流した、というものです。

これにたまらずかどうか知りませんが、バチカン側からのアメリカに抗議があり、ノリエガは3日目に大使館から外に出て投降します。音がすごかったんでしょうな。

いくつかの文献ではこの音楽を流したところまでは書いてあったのですが、どの曲を流していたのかを詳しく書いておりませんでした。ところがある文献に、偶然にその曲名が書いてありました。

1曲目はGuns N' Roses の  Welcome To The Jungle。



そしてもう1曲は、The Clash の I Fought The Law



うーん、けっこう人気のあった曲ですが、さすがに大音量で聴き続けたら精神的にくるかもしれませんね・・・とくにガンズのほうは退廃的な感じがなんとも。

米軍の心理戦部隊は、この2曲をエンドレスかつ大音量で流したそうです。

一部にはヘビメタを流したという説もありましたが、この2曲に関してはハード・ロックとパンクという位置づけでしょうな。

2曲とも歌詞が「おバカ」という意味では共通してますが(苦笑

ということで明日のエントリーからまた通常モードに戻りたいと思います。


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by masa_the_man | 2015-05-21 23:24 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は朝からよく晴れております。初夏の陽気ですが、まだ梅雨の前なので暑くてもカラッとしてますね。

さて、本日都内某所で発表する資料を作成しましたので、おいでにならない方々向けに以下の通りに貼り付けておきます。ご参考まで。

===

1、特殊作戦・特殊部隊とは何か

●歴史的な経緯:最近よく使われるが・・・
●そもそも特殊部隊って何?
●共通する定義が無い: 6つの特徴?
●セオリー(theory)がない:武勇伝、装備紹介など
●「戦略」の定義から考える: チームの一員→統合理論へ
●日本の例

2,特殊作戦の戦略効果発揮のためには

●極めて難しい使い方
●単独で戦争に勝利できる?:戦略爆機の議論と同じ
●特殊部隊が招きやすい2つの危険: 政治家と軍人
●戦略面での有用性: Operation Nimrod (1980)
●戦略面での弱点: Operation Eagle Claw(1980)
●意外な成功: Operation Urgent Fury(1983)@グレナダ
●完全な成功?: Operation Just Cause(1989-90)@パナマ
●実は消耗戦で効果を発揮: SASのフランスでの戦い(1943)

3,クラウゼヴィッツの『戦争論』との関連

●何を教えてくれるか
●摩擦、戦争(戦場)の霧、士気+物理、重心、消耗と殲滅など

まとめ

1,セオリーがない
2,運用難しい
3,クラウゼヴィッツは相変わらず有用

以上です。

これで一時間以上しゃべれますかね・・・?


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by masa_the_man | 2015-05-20 15:43 | 日記 | Comments(1)

特殊部隊の戦略論

今日の横浜北部は朝から初夏の快晴です。カラッとしていて気持ちいい週末ですね。

さて、今月末に都内某所で研究発表する特殊部隊の理論について少し。

突然なのですが、某学会で「特殊部隊と戦略論」というテーマで話をすることになりました。

きっかけは、なんといっても私が特殊部隊について知りたかったからという、なんとも逆説的なもの。実はわたしはいままで特殊部隊については映画などで見聞きしたことはありながら、それについては全くの素人。

ただし十年ほど前に、この本の中で自分の指導教官が戦略レベルからの分析として何章か書いていたこともあり、少々気になっていたのはたしかです。

ただし日本で出ている本を見てみると、どうも各国の特殊部隊事情や、その装備品などを紹介するものは多いのですが、具体的にそれがどのような「戦略的効果」、つまり「いかにそれで戦争に勝てるのか」ということについて書かれているものは、私がさらっと見たところでは皆無でした。

訳書で興味深いと思ったのが、これとかこれとかこれくらいでしょうか。

私がイギリスで学んでいた時期にはイラク戦争の関係もあって、コースメイトたちに特殊部隊や特殊作戦の戦略効果について研究しているのが何人かおりまして、以下の本はそのうちの一人が出版したものです。

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これはまさに「戦略効果」について書かれたものでしたが、どちらかといえば第二次世界大戦の文脈が強調されたものでした(ダムバスターズに関する解説は必見)。

特殊部隊のオペレーションやタクティクスについては今後も公開されることはなさそうですが、その戦略的な意味という点では、日本でも本格的に研究すべき時期に来ているのかなぁと、問題意識として感じている今日このごろです。

たしかにロシアのいわゆる「ハイブリッド戦」のように、軍隊を特殊というか、非正規的な使い方をするやり方は今後もどんどん増えてきそうですし。

ということで、これから上記のような本をヒマを見つけては読んでいくことになりますが、そこで学んだことについては本ブログでも少しずつ書いていきたいと考えております。

「参考になる本を知っているよ!」という方はぜひ教えてください。


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by masa_the_man | 2015-05-10 11:14 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は朝から快晴です。暑くなりそうですね。

さて、昨晩書く予定だった最近出た戦略文化についての本の三冊目の紹介を。

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Deciphering Sun Tzu: How to Read the Art of War
by Derek M. C. Yuen

すでに本ブログでも紹介した、デレック・ユエンの『孫子解読:兵法の読み方』です。

その内容は彼の博士号論文を元にしたものであり、西洋の読者に対して孫子の兵法を解説しつつ、その文化的・哲学的な背景を、西洋の戦略思想と比較しながら炙りだしていくというスタイルです。

まず目次は以下の通り。

1, 中国戦略思想のシステム
2,「兵法」が生まれるまでの話
3,孫子から老子へ:中国戦略思想の完成
4, 兵法解読
5, 西洋の孫子の継承者:ボイドとリデルハード
6 中国の戦略文化について

著者は第一章で、古代中国にも西洋の戦略思想のベースとなっている階層的な考えがあったことを指摘しつ、中国の戦略思想には体系的に四つの学派が存在したとして、

1,戦略学派(権謀)
2,作戦戦術学派(形勢)
3,陰陽学派
4,技術学派:(技巧)技術、テクノロジー

と分類しております。

実際のところ、3を除けば西洋の戦略思想にもそれに当てはまるものはあるわけですが、決定的に欠けているのが3の「陰陽学派」。

それに中国の戦略思想には「天地人」という三つのレベルがあり、それを全般的に理解するためのカギになるのが「道」(Tao)の思想だと分析します。

第二章と第三章では、実は老子(の書物:道徳経)が孫子の影響を受けてまとめられたことや、その成立までの道教的な思想的背景について解説しております。

おそらく本書の白眉は第四章の西洋の戦略思想との比較から特徴をあぶり出すところであり、孫子が西洋のもの(とくにクラウゼヴィッツのもの)と較べて大戦略レベルを扱い、同時により包括的な視点をもっていることや、有名な格言についてそれぞれ解説しているところです。

ここで指摘されるのは、孫子は戦略の心理学的な部分を強調していたという点であり、それが「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」や「上兵は謀を伐つ」という格言に活かされていて、それをよくわかっていたのがボイドとワイリーだという指摘をしております。

そして第五章でボイドとリデル・ハートとの比較をさらに行い、第六章では中国の戦略文化に関する指摘として、西洋では「孔孟戦略文化」と「戦闘的戦略文化」の二つがあることを理解できている学者が少ないことを挙げており、一般的に西洋における中国の戦略文化の研究が浅いことを指摘しております。

たしかに西洋では中国の「三国志」や「漢書」、それに四書五経などについての知識はほぼ皆無に近く、孫子そのものについてもそこまで深く理解されているとは言えず、その点では日本はこの分野においては相当有利な立場にあることがわかります。

ただし本書の最大の「売り」は、なんといっても現在の中国系の戦略思想をわかる人間が、西洋の戦略思想をダシにしてそれをわかりやすく伝えようとしているという点ではないでしょうか。

本文自体は180頁ほどと短いのですが、書かれている内容はとても濃密。これを読むことによって逆に西洋の戦略思想のいくつかの特徴もわかるという意味で、大変有用であると思います。

似たような本としては西洋人側からの視点による「孫子とクラウゼヴィッツ」という本(というかモノグラフ)がありますが、むしろ本稿で紹介しているちょほうが中国側の思想に迫っているという意味で日本人的には興味深いと思われます。

以下は本書の中で私が気に入った文の引用です。ご参考まで。

●戦争はすべて完全に「複雑系」なわけではないが、人間的な面が支配的な一つの「複雑系」ではある。

●孫子は合理的な力と非合理的な力が戦争に存在することを理解していたために、クラウゼヴィッツと比較して、戦争をそこまで予測不可能なものとはみなしていない。

●孫子は戦争を「マインド・ゲーム」であると見ていた。

●クラウゼヴィッツは「己」を知っているのかもしれないが、「彼」を知らない。

●孫子がよく強調する「正と奇」であるが、この核心にあるのは「謀を伐つ」、つまり敵の思考を攻撃するということであった。そういう意味で、戦争というのは、常にその本質から心理的なものである。

●孫子の最大の課題は、戦争や戦闘に勝つことではなく、すべてを「天下の元に(中国によって)治める」ということであった。

●戦略では、それがどう受け取られるかがすべてだ。結果的に、相手の知覚を操作することが戦略のエッセンスなのだ。

●中国の戦略思想では、腕力やテクノロジーよりも「脳力」のほうに重きを置いており、そのために軍事紛争よりも大戦略面での争いのほうがより「正統的」な紛争の形であると認識されている。

以上


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by masa_the_man | 2015-05-08 09:59 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はまたしてもよく晴れました。しかし思ったよりは涼しい感じでした。

さて、またまたスパイクマンに関する話題です。

以前に本ブログでも触れたことがありますが、スパイクマンの予測した「アジアの地中海」についての興味深い論考がありましたので、その要約を。

現在私が日経ビジネスオンラインで行っている連載(http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150327/279273/)ですが、たしかにスパイクマンというのは実に面白い地政学的な予測をいくつも行ったことで有名です。

・日経BPオンライン
「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150420/280168/

そしてその予測のうちの一つが、今回の記事でも話題になっている「アジアの地中海」(Asiatic Mediterranean)というもの。

スパイクマン自身は70年以上前の本の中で「シンガポール、香港、そしてオーストラリア北岸」という3辺に囲まれた島だらけの海域を「アジアの地中海」と呼んでいるわけですが、たしかにここは現在、「南シナ海」を含んだ一大係争地となっております。

これについて書いたのは、本業は弁護士を務める、地政学好きな半分学者のセンパという人です。

===

ニコラス・スパイクマンと「アジアの地中海」をめぐる争い
by フランシス・センパ

●イエール大学で国際関係論の教授を務めていたニコラス・スパイクマンは、第二次大戦中に、アメリカの国家安全保障の土台を成す根本的な地政学的要因を探る2冊の本を書いており、彼自身が「アジアのリムランド」と呼んだ場所のコントロールをめぐる米中間の争いをすでに予見していた。

●この2冊のうちの最初の本は、1942年に出版された『世界政治における米国の戦略:アメリカと勢力均衡』(America’s Strategy in World Politics: The United States and the Balance of Power)である。

●これはほぼ500頁になる力作であり、世界におけるアメリカのポジションを、「地理と権力政治から」詳細に検討したものであった。

●スパイクマンによれば、すべての国際政治には勢力争いというものが含まれており、これは「生存競争とほぼ同じで、相対的なパワーのポジションの上昇が国家にとって内外における最大の目的となっている」というのだ。

●彼は西半球や大西洋間、そして太平洋間地域におけるアメリカのパワー・ポジションを「旧世界vs. 新世界」という視点から分析している。

●彼は自分の分析に、経済・人口・そして軍事的要因を含めており、「アメリカの安全保障は、ヨーロッパと極東における優位な勢力均衡の上に成り立っている」と結論づけている。

●2冊目の本である『平和の地政学』(The Geography of the Peace)は、それよりもはるかに薄いものであり、彼の死後の1944年に出版された。

●この中でスパイクマンは地理的に世界のパワーの中心地となる場所を指摘する地政学的な地図を描いており、これにはユーラシアの「ハートランド」(これはマッキンダーがユーラシア大陸の北部・中部を示した言葉)やユーラシアの「リムランド」(ハートランドを囲む半月形の領域で、西欧、中東、東南アジア、極東の国々を含む)、そして北米が含まれていた。

●それぞれの重要な地域のパワーの潜在力を比較した後に、スパイクマンは「リムランドをコントロールしたものがユーラシアを制し、ユーラシアを制したものが世界の運命をコントロールする」という印象的な言葉を残している。

●日本がまだアメリカの敵国で、中国が同盟国であった時に、スパイクマンは根本的な地政学的な要因を見越しつつ、第二次大戦後にはアメリカに対する日本と中国の立場が入れ替わると予測していた。

●スパイクマンは1942年に「中国」が「アジアの地中海」と呼ぶ「ユーラシア大陸沿岸部の大部分を制すことになる」と記している。彼は「アジアの地中海」を「とりわけすぐれた島嶼世界」であると説明しており、日本海や東シナ海、そして南シナ海によって構成される「周辺海」であるとした。

●これらの周辺海は中国の太平洋へのアクセスや、インド洋と太平洋をつなぐ海上交通路をコントロールしている。

●さらにスパイクマンは、マラッカ海峡とパナマ運河がそれぞれの地域における戦略的・貿易的な通路でありチョークポイントである、という地政学的な類似性を指摘している。

●スパイクマンは、「四億人の人口を抱え、近代化し、活発化し、軍事化した中国は、日本にとってだけでなく、アジアの地中海にいる西側諸国のポジションにとっても脅威となるだろう」と書いている。

●彼は将来いつかの時点で、中国のシーパワーとエアパワーが「アジアの地中海」をコントロールするかもしれないと警告しており、現在の日中間の緊張や、中国と小規模な地域各国、それにアメリカのアジア太平洋地域への「ピボット」へと駆り立ててているのは、まさにこの安全保障上の脅威なのだ。

●したがってスパイクマンは、戦後の極東における勢力均衡を回復して維持するために、日米同盟の結成を進言したのである。

●ここで覚えておかなければならないのは、スパイクマンがこれを書いていた時に、日本とアメリカの兵士たちは互いに太平洋の血みどろの戦いで殺しあっていたという事実だ。

●その2年後の『平和の地政学』の中で、スパイクマンは極東では戦後に中国が支配的な勢力になると明確に宣言しており、アメリカの国家のリーダーたちに日本やフィリピンなどの場所に基地をつくり、アジアの地中海に戦力投射可能にすることによって中国がその地域で圧倒的な勢力になることを阻止すべきだと説得したのだ。

●「アメリカは・・・戦時/平時を問わず、アジアが自国にとって永続的な関心を呼ぶ場所であること認識しなおすべきであり、しかもそれを永続させなければならない」と書いている。

●スパイクマンが70年以上まえに予見したこの「アジアの地中海」は、中国、アメリカ、日本、そして地域の小国たちの間で、地政学的戦場となっている。ここ争われているのはエネルギー資源であり、経済的影響力であり、重要な海上交通路のコントロールであり、領土の政治的なコントロールであり、アジア太平洋地域における全体的な勢力均衡なのだ。

●『平和の地政学』の結論部分で、スパイクマンは当時のアメリカのリーダーたちや、現在、そして将来のアメリカのリーダーたちにも参考となる、最後のアドバイスを行っている。

●それは、アメリカのアジア太平洋地域やその他の地域における安全保障上の利益は、国際制度機関や世界共同体のようなものによって保護されたり維持されることはない、ということだ。

●「われわれは今後も、自らの国力に頼っていかざるをえない。今まで存在したすべての大国は、常につかの間の休息を求める不用心さにそそのかされて没落していったのであり、歴史はこれを実証している」(p.130)

===

おりしも上述した連載を書くときにスパイクマンについて調べてみましたら、数年前に較べて新しい情報がネット上にいくつも掲載されておりまして、あらためてスパイクマンの地政学的な予見の鋭さに対する関心が高まっていることを実感しました。

私が翻訳した「平和の地政学」も合わせて、リアリズムから国際政治を冷徹に見ることの重要性を感じてもらえれば幸いです。


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by masa_the_man | 2015-05-04 00:52 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は朝から快晴です。昨日に引き続き、連休に入ってもいい天気ですね。

さて、戦略文化に関する3冊目の本を紹介する予定でしたが、ネットで面白い手記を発見しましたのでその要約を。

現在私が日経ビジネスオンラインで連載している地政学入門で先日ニコラス・スパイクマンを取り上げましたが、色々と調べているうちにネットでスパイクマンの授業を受けた経験のある、元米海軍兵士の手記を発見しました。

彼はスパイクマンの最後のゼミ生だったらしいのですが、授業では第二次大戦のロールプレイングゲームをやっていたみたいですね。

===

1942年 秋学期

1942年の夏、つまり真珠湾攻撃の翌年のことだが、私はイエール大学で自分のキャリアの方向性を決定づけることになった二つのクラスを履修することになった。

一つのクラスは、自分の目が弱いにもかかわらず、米海軍に入るためにとった、日本語の入門クラスである。

二つ目のクラスは極東に関するゼミであったが、私がこれをとったのは、私の国際関係論のメジャーの必修科目の一つであったのと同時に、ニコラス・スパイクマン教授がそれを担当していたからだ。
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(ライフ誌1942年6月1日号より)

スパイクマン教授は国際的に「地政学者」として圧倒的に知名度をもつ人物であった。彼は地理が国際関係の主要な動因であり、海、川、そしてそれらの流れる方向、気候、そして地形などが国民の気質に大きな影響を及ぼし、その国の対外政策に莫大な影響を与えると考える学者であった。

スパイクマン教授の姿もきわめて印象的だった。彼はクラスに入ってくるなり学生たちを圧倒する雰囲気をもっており、背が高く、彼の深くてよく響く声にはきついオランダ語なまりがあった。

とにかく彼はエレガントであった。黄色のベストを着て、そこには金の懐中時計の鎖がならび、黒っぽいスーツにグレーのスエードのスパッツを履いていた。

彼が授業で言った最初の言葉は(ほぼ70年後の今でも覚えているが)は、われわれがまったく予期しないものであった。

「諸君、君たちはここに極東のことを学びに来たわけですよね。私はおそらく君たち全員よりも極東のことについては詳しいと思います。もしかすると君たちが将来知ることになることすべてよりも詳しいでしょう。しかし私はオランダ人であり、オランダは植民地を持っていて、アメリカ人は植民地をもつことを認めておりません。よって、あなたがたは私のことを信じれないかもしれません。なので、あなたがたは自分たちで学習するしかないでしょう

「私はこのセミナーを、この戦争が終わったあとに交わされることになる講和条約を書くところまで演じることで実行しようと思っております。つまり君たちの一人ひとりが極東に権益をもった国になるわけです。もちろんわれわれはこれを始めるにあたって、いくつかの前提を決めなければなりません。つまり、誰が戦争に勝ち、それぞれの国がどのような経済状態におかれ、最も重要なのは、どの国が極東で最も多くの部隊を配備し、それらをどこに配備するのかという点です

私はそれ以降の授業でどのような議論が交わされたのかは覚えていないが、鮮明に覚えているのは、次のイエールデイリーニュースで、スパイクマン教授が心臓発作を起こしたということであり、若い先生が彼の代わりにゼミに参加したということだった。

私は代役のこの若い先生の名前や人となりを全く覚えていないが、次の授業で誰がどの国をプレイするのかを決めて、スパイクマン教授が決めた想定にしたがって議論を始めなければならなくなったことだけはよく覚えている。

それから数ヶ月間、参戦国をプレイする学生たちはクラスに週に2・3回集まり、個別にも誰かの部屋で集まったりした。

友人のドークが代表していた中国と、私が代表していたイギリスは、極東に最も多くの部隊を置いているという前提でゼミが始まった(ドークと私は当時まだ普及していなかった電話で互いによく連絡をとりあった。われわれは学生会の幹部をしていたからだ)。

われわれは電話を持っていたおかげで、われわれは他のゼミ生たちから望む譲歩を引き出せることができるようなった。

たとえばイギリスは中国にたいして引き続き香港における特別な権益を得たいと思っており、その代わりに中国はイギリスからオーストラリアの中国移民への差別をやめてもらうよう圧力をかけてもらいたいと考えていた。そして私(イギリス)はこれを実現するための、何らかのインセンティブを探らなければならなかったのだ。

このような交渉を考える際には、自国の政策を理解するだけではまったく不十分であった。秋学期が終わる頃になると、われわれはスパイクマン教授が求めていたように、この地域のすべての関係各国の政策をよく理解できるようになっていた

スパイクマン教授は学期末までには回復して戻ってきたが、心臓発作のおかげで色白く病弱な様子になっていた。また、彼にわれわれの長期的な交渉の結果を教えるのを申し訳なく思った。

まず最初に、われわれは彼に対して、国際連盟のような国際的な組織を創設したことを伝えた。ただし例外措置として、強力な主要国には投票の面で特別な力が与えられる体制にした

彼はこの結果を喜んだが、次にわれわれは彼に悪い知らせを伝えた。つまりオランダから蘭印をとりあげて国際連盟の委任統治下におくということだ。そして仏印にも同じ措置を施すというのだ。

オランダとフランスを代表していた二人の学生は、怒りのあまりクラスから出て行ってしまった。その後にわれわれはすぐに細かい条項の制定にとりかかった。

スパイクマン教授は落ち着いてきて、いくつかの条項や、その取り決めの背後にある論理づけの部分に質問を始めた。最終的に彼は取り決めに気乗りしない様子でサインして、戦後にアメリカが経済的に最強の立場になることが明らかなことや、この地域に最大の軍事的プレゼンスをもつこと、そしてアメリカはわれわれのように反植民地的な感情を強くもっているために、この結論が容易に証明されるであろうことを認めたのだ。

冒頭に書いたように、スパイクマン教授のセミナーから得た刺激と知識や、同時期に受けていた日本語のコースが、私自身の国際ビジネスのキャリアを決定づけることになった。

私は米海軍に入隊してコロラド州ボールダーの日本語学院に学び、その後にワシントン、太平洋、そして日本でさらに海軍に従事した。戦後には入学の難しかったハーバードビジネススクールに入学し、最終的にジープ社の極東部門でのマネージャーとなった。

1942年の秋は、私の将来にとって本当に重要な転換点となったのだ。

ネッド・コフィン(Ned Coffin)

===

上ではスパイクマンが心臓発作になったとありますが、翌年の1943年の夏に死んでいるわけですから、実質的にこれが彼の最後の授業となったわけです。

ゼミ生たちに現在進行中の戦争について国ごとにわかれて議論させ、最後の講和条約をサインさせるまで交渉する、という授業は面白いですなぁ。



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by masa_the_man | 2015-05-02 12:01 | 日記 | Comments(3)