戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

<   2014年 06月 ( 8 )   > この月の画像一覧

今日の横浜北部は朝から曇っておりました。日中少し晴れましたが、なんだか梅雨空でしたね。

さて、一昨日のエントリーの続きを。

b0015356_0175277.jpg
The Atlantic より)

===

「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン

●「抑制」戦略を進める戦略家たちは、現地の政治家たちのことを、自らの持つ「武器」と共に知的に国益を追及する「戦略的アクター」だと考える。

●このような時に使われる「武器」の一つが「ウソ」である。

●「サージ」が行われている時期に、アメリカはマリキ政権がスンニ派と手打ちをするために多くの障害を越えなければならないと主張していたのだが、マリキ自身はこれらのことに「努力する」と言っていた。つまり彼は、アメリカ側が聞きたいことを言ったのだ。

●米国防省は連邦議会からイラクの状況における「進展」を年四回報告するように義務付けられていたのだが、これらを読んでみると、政治・経済の部分の報告の内容はひどいもので、ほとんど進展などはなく、さらには米軍がイラクから2011年12月に撤退してからは、その報告書さえ出なくなっている。

●多数派であるシーア派の支援を受けているマリキ首相は、なぜスンニ側に歩み寄ろうとしないのであろうか?彼にとって話し合いの場ができることは理に叶うのに、

ところがイラクでは「アイデンティティ政治」が強烈であるために、話し合いを実行することはできないのであり、彼は言ったことを実行するつもりはない。彼にとっての最高の戦略はアメリカに「安乗り」(チープライド)することだ。

●アメリカは、彼らをスンニと戦わせて和解させ、イラク軍を強化してインフラを再構築し、イラクに国としてのまとまりをつけさせて国力を上げさせるべきである。

●私を含む何人かの人々は、アメリカの撤退後にマリキ首相はアメリカへの「安乗り」を止めて、スンニ側に近寄り、アメリカが抜けた穴を埋める働きをしてくれるのではないかと考えていた。ところがものごとはその通りに行かなかった。

●もちろん証明はできないのだが、私は「状況が悪くなればアメリカかイランが助けに来てくれる」とマリキ首相が考えていたのではないかと疑っている

●たしかにこれはありえそうな話だ。もしそうだとしたら、現在「マリキはイラク国内をまとめる努力をすべきだ」と考えている人々は完全にナイーブであることになってしまう。マリキ首相は外からの援助を受けるためだったらでまかせでも何でも言う、ということだ。彼自身は何もできないのである。

●また、彼の過去の行動パターンを見てもわかるように、「少しは妥協の用意がある」という声明を発表しても、スンニ派にとってはまったく信頼できない。

●他にも、「抑制」戦略の人間は、軍事力に対して一定の敬意を払っていることが挙げられる。彼らは無人機や精密兵器、飛行機などについては他の人々と同じように尊重している。

●もちろんたった一回の攻撃を映した映像――ミサイルが建物に命中して火花を上げ、悪い奴を排除している様子――というのは奇妙なほど安心感を与えてくれるものだが、それでも戦争は戦争であり、それはメスの一切りではなく、斧を振り回す戦いなのだ。ひとたび斧が振り回されはじめると、そこには意図しなかった結果が生じる可能性が出てくる。

●もしアメリカがイラク軍がモスルやその他の都市の奪還を航空支援を提供することによって援助すれば、そこに住むスンニ派の人々のアメリカに対する感情は悪化するだろう。またもしアメリカがこのような航空支援や情報を提供すれば、イラク軍自体も成長することはないのだ。

●このような状況は、アメリカの国益にとっても致命的だ。スンニ派のすべての人々は、アメリカがイラクにおけるシーア派の覇権を助けていると知ることになるから。もしアメリカ市民の安全に関心があるのであれば、アメリカがこのような役割を果たすのは賢明だとはいえない。

●イラクとシリアにまたがって存在するISISの「国家」は、西側のターゲットを攻撃することを目論んでいるイスラム系のテロリストに「聖域」を与えることになるかもしれない(ただし現時点ではこれがISISの計画に入っているという兆候はほとんどないが)。

●実際のところ、「ISISスタン」はよい根拠地にもならないし、安全を確保できるものでもない。彼らには国際的な空港や港もないし、その隣国である、ヨルダン、アサド政権のシリア、トルコ、イラン、クルド自治区、シーア派が中心のイラクなどから協力を得ることは難しいだろうし、彼らとは実際に敵対しているのだ。また、それらの国々の間を行き来するのも難しいだろう。

●地域におけるISISの野望を考慮すれば、これらの隣国たち(それぞれ国境を往来する過激を警戒している)との関係がさらに悪化することが予測される。

●さらにはスンニ派も孤立してしまえば自滅する運命にあるし、その中にはさらに過激な勢力と手を組もうとする勢力が出てくる可能性がある。

アメリカはこれらのどの勢力にも肩入れすべきではない。どこかに肩入れして、たとえばインテリジェンスを提供してしまえば、その情報が世界中に知れ渡ることになり、逆にアメリカに対してその情報が使われてしまうことにもなりかねないのだ。

●もちろんアメリカはイラクのために戦って血を流したために、その戦闘を支持する人々の中には、以前と同じ達成不可能な目標をさらに追及しようとする人がいることは理解できる。

●このような目標にはリベラルな民主制の、宗教派閥で分裂していないイラクの建設などが含まれるのだが、これは海外で改革計画を推し進めようとする情熱を共有しているアメリカの民主・共和の両党の対外政策担当者たちにとっては好ましいものとなる。

●ところがこのような目標は、アメリカにとっての「致命的に重大な国益」とはならない。これをいいかえれば、これらはアメリカが多数の命を奪ったり失なったりしてまで達成したい国益ではないということだ。

●しかもこれらは何をしてもおそらく実現不可能なものばかりである。事実上の分断状態こそが、唯一受け入れ可能な結末だからだ。

●最後に、われわれがアメリカ国民の意見としてわかるのは、オバマ大統領が選ばれた時の民意はイラクから撤退することにあったということだ。彼はイラク撤退を公約して大統領になったのだ。

●「抑制」を推進する人々の議論は、イラクで新たに軍事介入をするのは不要であり、賢明でもないというものだが、その他にも、われわれは「これが民主的な形で表明されたアメリカ国民の考えに沿ったものかどうか」という点を考慮しなければならない。

●国内の民主制から生まれた意見を無視して、海外の分断された暴力的な社会で無駄な目標を追い求めるのは実に奇妙なことと言えるからだ。

===

このポーゼンの「抑制」という大戦略の考え方は、基本的に「オフショア・バランシング」に近い考え方ですね。

ただし新刊のほうを読むと、オフショア・バランシングの「オ」の字も書いていませんが(苦笑

そういえば新たに「イラク3分割案」も出てきておりますし、米国の中でもこれくらいの撤退だったらOKという雰囲気が出てきていることは注目ですね。なんだかベトナム末期化してきました。





奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-26 00:13 | Comments(4)
今日の横浜北部は朝から曇っておりまして、時折にわか雨が降ったりしております。

さて、メルマガのほうでも触れた、バリー・ポーゼンのイラクに関する意見記事を。

彼の新刊が出たちょうどいいタイミングで、イラクへの再介入問題が浮上してきました。
b0015356_14561830.jpg
この新刊は注目です。

==

「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン

●「またか」である。世界のどこかで危機が起こると、アメリカの知識人たちは必ず政府に何らかの「行動」を促すものであり、それは大抵の場合が軍事的なものだ。そしてその声は「ただ黙って見ているだけじゃなくて何か爆撃しろ!」となる。

●二〇年以上間続いたアメリカの圧倒的な覇権状態のおかげで、ワシントン中のパソコンのキーボードは、まるで「地球の裏側まで介入せよ」とプログラムされているように見える。

●そして今回はイラクなのだが、ここの政府は、スンニが多数派を占める地域において実質的なコントロールを失っている。ISISはイラクの中で不満を持つスンニをまとめる勢力から、特定の地域では軍備も優れたイラク政府軍を圧倒するような勢力になってきている。

●このような状況を、アメリカの知識人たちはイデオロギーの左右関係なく「米国の致命的な国益が脅かされている」と見ており、オバマ大統領に「戦闘機や爆撃機を飛ばせ」と要求している。

●ところがイラク侵攻から11年がたって現在の泥沼に直面している今、われわれはこのような事態をどのように考えればいいのだろうか?

われわれは2003年に戦争開始を叫んで大災害を及ぼした時と同じ人々が主張する「攻撃すべき論」を聞くべきなのだろうか?

●イラクでの内戦の激化と事実上の分断化の確率の上昇は、第一の原則から検証されなければならない。アメリカは莫大な資金と人命を費やしてイラクを民主的な多民族国家として機能するように努力したのだが、この試みは失敗したのだ。われわれはまず現状分析からはじめなければならない。

●では現状はどういったものかというと、我々が新たなコストと新しい責務を負うように求められているということだ。ではこれで本当に成功する見込みはあるのだろうか?

●アメリカの学者、政策家、そして政治家の中には、私が出したばかりの著書の中で示した「抑制」(restraint)というアメリカの新しい大戦略についての見方に賛同する人々が、数は少ないながらも確実に増え続けている。

●われわれはアメリカが対外政策において「規律」を取り戻す必要があると考えている。この規律とは、優先順位をより厳格に設定し、さらに批判的な目でコストと成功のチャンスを計算するということだ。

●大戦略という用語については様々な議論がなされているが、私はこれを「不確実な世界においてアメリカの領土保全、主権、安全、そしてそれらを維持するために必要となる、パワーポジションを守るためのもの」と定義している。

●ではこれがイラクの場合にどう当てはめられるのだろうか?

●ISISが悪い奴らであることは間違いない。ところが「分断したイラク」は最悪の場合にはアメリカへの攻撃を考えるテロリストたちに「聖域」を与えることによって、アメリカの安全を脅かすことになる。

世界というのは、悪い奴や「聖域」で溢れた場所なのだ

●アメリカはこのようなテロリストたちをパキスタン、イエメン、そしてアフリカ中で様々な諜報機関などを通じて監視しており、時には彼らを急襲することもある。

●さらに重要なのは、アメリカがテロリストの脅しに対して「強靭化」したことだ。防御的な手段と監視、そして必要な時の急襲などの組み合わせによって、アメリカはかなりの量の「安全」を確保することができている。

●アメリカはイラクのマリキ首相に肩入れするべきではない。彼は権力欲にまみれたシーア派の優越主義者で、この派の人々の利害や安全しか頭にないからだ。

●マリキ首相が監視や投獄、そして暴力を激しく使っているために、スンニ派の中の中立的な立場の人々までISISの狂信主義者に傾かせることになっている。つまり、彼は問題を解決する人物ではなく、むしろ問題の原因そのものになっているのだ。

●このため、われわれはイラクの国内政治に干渉することについては慎重にならざるをえない。「抑制」戦略から考えれば、他国の国内政治へ介入するコストや、それが失敗する確率が高いという点に留意しなければならないからだ。


●そもそも問題なのは、そのタイミングや原因は不明ながら、「アイデンティティ政治」(identity politics)が世界中のほとんどで急増しているということだ。そしてこの現象は、おそらく冷戦終結の前から始まっていたとみられる。

●「アイデンティティ政治」というのは政治的な指導者が国家、民族、そして宗教的なアイデンティティを中心にして支持を集めるというものだ。

●ところがこの種の政治のやりかたというのは政治面での妥協をかなり難しくしてしまうものだ。政治的につくられたアイデンティティというのは、他集団に対する不信感や恐怖を植え付けるのだ。

●そして彼らは銃を持って自分たちにどのように生きるべきかを説く外国人(=アメリカ人)にはとくに抵抗を示すのだ。

●アメリカは他国の政治に介入してかなりのエネルギーを注いでいるのだが、その努力のほとんどは失敗に終わっている。それでもタイミングのよい小規模の介入はうまくいくこともある。

●「アイデンティティ政治」はアメリカにとって分断統治の政治を実行可能にしてくれるのだが、これが成功させるためには、アメリカが忍耐強く待ち、自分自身が問題にならないようにしながらチャンスをうかがう必要が出てくる。

●つくられたアイデンティティというのはたしかにある集団の統一感を生み出すのだが、その反対に集団間に深い分断状態をつくりだすこともある。そしてこれこそがチャンスをもたらすのだ。

●イラクを考えてみよう。スンニとシーアは互いに嫌っているのだが、同時にアメリカの保護も嫌っている。ところが彼らだけで放置されると、簡単に内紛を始めるようになる

●イラクの「サージ」の伝説の中には、アメリカがうまくスンニを「覚醒」させて、彼らの多くをアメリカ側につかせたという話が含まれている。頭の良い外交官や司令官であったら、残存する分裂を利用することを考えるものだ

●イラクのスンニは外国のジハード系の人々(イスラム教によって地元の事情を越えられると考えている人々)と手を結んだ。これが今日の状況では何を意味するのだろうか?

●バグダッドのシーア派政権に積極的に参加することを考えている人々にとって賢明な戦略とは、スンニ側の市民とジハード側との一時的な同盟関係が崩壊するのをじっと待つというものだ。

===

この続きはまたのちほど。

明日の夜は2000時からまた放送します。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-24 11:07 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は晴れ時々の微妙な天候がつづいております。

さて、久しぶりに本の紹介を。

国際関係論では元々ハードコアなリアリストであった理論家のランドール・シュウェラーというオハイオ大学教授が、かなり斬新な理論による未来の国際関係のビジョンを示しております。

Maxwell's Demon and the Golden Apple: Global Discord in the New Millennium
by Randall L. Schweller
b0015356_17382860.jpg


タイトルを直訳すると、「マクスウェルの悪魔と黄金のリンゴ:新世紀における世界の不調和」という感じでしょうか。

ある論文を拡大したもので、本文はたった160ページ。薄いのですが、議論そのものは物理やギリシャ神話などから概念を引っ張ってきて国際関係に当てはめるという、なかなか野心的なもの。

具体的な主張は意外にシンプルで、「今後の国際関係はエントロピーの増大によって無秩序化していく」というもの。

単純といえば単純かもしれませんが、私見ではこの本の「売り」は、なぜ無秩序化なのかという理屈を引っ張って来るやり方と、それがどのように進むのかというロジックの部分を、比較的わかりやすい文体でしっかりと押さえているところにあるように思います。

著者は基本的に世界の秩序が大規模な戦争(覇権戦争)によって作られているとする強固なリアリスト的な見方をベースにしつつ、そこから大きくわけて3段階の論理展開から、世界が無秩序化することを主張しております。その3つとは、

1,大国同士が破壊力の大きい兵器を持っているために「覇権戦争」は起こらない
2,現在の覇権の盟主であるアメリカが衰退している
3,エントロピーによるズレを「覇権戦争」によって修正できないため、無秩序化が進む

というものです。

ギリシャ神話や熱力学第二法則などの応用については、そのやり方がジョン・ボイドが行っていたものに近いなぁという印象を受けましたが、その語り口の軽さ(REMの歌詞や携帯のゲームアプリなどを引き合いに出している点など)は、テーマの難しさにもかかわらず、どちらかといえば取っ付き易い印象を与えてます。

果たしてこの本が売れるかというとかなり微妙ではありますが、国際関係論の理論についての議論に一石を投じているという意味では、斬新な試みによる注目すべき本でしょう。

一般向けではないですし、おそらく翻訳も出ないでしょうが、現在の無秩序だった国際関係をうまく説明している本として、そのスジの専門家は見逃せない好著です。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-21 18:06 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部はやや雲がありましたが、真夏のような陽気でした。

さて、一つだけ皆さんにご報告が。

本日のことなのですが、目黒にある海上自衛隊の幹部学校に行ってまいりまして、新しく設置された「客員研究員」というポストをいただきました。

もちろん「客員」ですので、別に防衛省・自衛隊の所属になるわけでなく、単なる無給のボランティア的存在です。

ただしデスクが借りれて、しかも防研の図書館や電子ファイル類にアクセスできたり、海外からの研究者にも直接会えるという極めて大きいメリットがあるため、喜んでお引き受けさせていただいたという次第です。

目黒の方には週一回ほどしか通わないのですが、すでに今日行っただけで貴重な部内資料(有名著書の試訳など)を見せていただき、大変満足しました。

ここはいわゆる「シーパワー」の領域に入るわけですが、この学校に有名なシーパワー本が所蔵されていないことに気づくなど、私がイギリスで学んできたことがさっそく活かせそうな部分を発見しましたので、このような点から積極的に貢献していければと思っております。

ということで特に私の生活が劇的に変化するわけではないのですが、今後は本ブログにおいて戦略系の資料の紹介などがやや多くなるかもしれません。

以上、簡単にご報告まで。

明日は久々に本の紹介など。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-20 23:31 | 日記 | Comments(9)
今日の横浜北部は朝方晴れたのですが、昼前から雲が出てきました。雨は降りませんでしたが暑かったですね。

午後に藤沢にある某大学のキャンパスに行って参りました。2限分ほど特別講師を務めてまいりました。緊張しました。

さて、最近読み込んでいるカプランの『アジアの難問』という本から気になった箇所を抜き書きしました。

今週号の週刊文春にはあの池上さんが南シナ海について書いていたようですが、この本の方が現在の動きという意味ではかなり深く知ることができるかと。

===

●カリブ海は、メキシコ湾と広域カリブ海を抱えて、フロリダからベネズエラまで広がっている。

●この「広域カリブ海」は、南北アメリカを一つの地政学的システムに統合しており、南シナ海とほぼ同じ大きさを誇っていて、その縦と横の長さはそれぞれ二四〇〇キロと一六〇〇キロだ。

●ところがこの二つの海は、地図の上だと正反対の視覚的効果を持っている。南シナ海の方は、大陸と大きな島に囲まれているのだが、カリブ海の方は、大小様々な島がその中心に位置しているのだ。

●ご存知のように、地図というものは注意深く見ないと騙されやすい。なぜなら南シナ海はたしかに莫大なエネルギー資源の動向を左右する場所でありながら、実に多くの(非常に細かい)地理的な特徴を持っているからだ。

●カリブ海の歴史のカギを握っているのは、モノと奴隷の貿易の増加をもたらした「砂糖革命」である。

●一七七〇年までにカリブ海のすべての島々は、ヨーロッパ列強の植民地となっていた。ところが奴隷貿易の衰退と、南北アメリカの温暖な陸地へと注目が集まるにつれて、ヨーロッパの人々のカリブ海への情熱は冷めていった。

●アメリカが帝国主義的な勢力として台頭してきたのはこのような時期である。

●北米大陸の温帯地帯でのアメリカの拡大は、「強欲」以外の何物でもなく、これはたとえば中国が自らの大陸の運命を実現しようとしていたのと全く同じだ。

●実際のところ、この頃のアメリカというのは、とりわけ自国の大陸での政治的な統一という面で見れば、現在の中国よりも近代の発展の初期段階にあったのだが、それでもすでに「広域カリブ海」の支配を狙っていた。

●アメリカはこの場所を、自分たちの地政学的な権益圏の中に自然に入るものだと見なしていた。そしてこれこそが、一八二三年の「モンロー・ドクトリン」のエッセンスであった。

●ラテン・アメリカは一九世紀始め頃までにヨーロッパ列強の支配から解放されており、ジェームス・モンロー大統領とジョン・クインシー・アダムス国務長官は、ヨーロッパ列強が植民地を獲得しようとする動きに対しては徹底的に反対していた。

●米海軍大学教授のジェームス・ホームズの言葉によれば、この二人は「現状維持の状態を保とうと思っていた」のである。アメリカによる「広域カリブ海」の支配は「孤立主義」でもないし、現地の人々を従属させることでもなかったし、国際協調の破棄を意味していたわけでもなかった。

●実のところ、モンロー・ドクトリンが宣言されている間にも、米海軍はイギリス海軍と協力して奴隷貿易を取り締まるためにカリブ海を警備していたほどだ。

●ようするにモンロー大統領は、カリブ海からヨーロッパ列強のすべての海軍を完全排除するのを狙っていたというよりも、彼らがこの地域の陸地にもう一度足がかりを作るのを阻止することだけに集中していたのだ。

●つまりモンロードクトリンは、一般的に思われているよりも、はるかに控えめな政策だったのだ。

●カリブ海の地理で重要なのは、それがアメリカと近い場所にあり、ヨーロッパの列強からは遠く離れて位置していたという点だ。これは南シナ海が中国に近く、アメリカや西洋諸国からは遠いのと同じ構造だ

●ヨーロッパの列強の中で当時世界最大の海軍を持っていたイギリスは、ジャマイカとトリニダード島、英領ギアナ、英領ホンデュラス、そしてアンティル諸島に基地を持っており、今日の南シナ海における米海軍のように、二〇世紀初頭のカリブ海において唯一アメリカに対抗できる立場にあった。

●ところがイギリスは、アメリカが自分の大陸の海洋の延長線上にある場所を守るために必死に戦うはずだとわかっていたために、あえてアメリカに挑戦しなかった。

●これと同じ理由から、アメリカは南シナ海で中国に対して公式に挑戦するのを表明することについては慎重になるべきであろう

●さらにいえば、イギリスはたしかにカリブ海で経済的にも軍事的にも重要なプレイヤーではあったが、一九一七年になるとカリブ海におけるアメリカの経済の影響力のほうがイギリスのそれを越えていた。

●これはアメリカの地理的な近さと、その急増しつつあった経済力による結果であり、現在のアジアにおいて中国がアメリカの影響力を超えつつあるのと同じ構図だ

●後にカリブ海は「アメリカの地中海」と呼ばれるようになっている

カプラン『アジアの難問』第二章より

===

ここで興味深いのは、なんといっても南シナ海とカリブ海を比較していることでしょうか。

このアナロジーは、実はカプランがスパイクマンの本を読んでから得た着想でありまして、アメリカの地政学的なアイディアというものが、このカプランという外交ジャーナリストの筆を通じて、現在のアメリカの国防政策にも間接的に影響を与えているということにもなります。

もちろんアメリカのカリブ海と中国の南シナ海というのは相違点も大きいわけですが、「大国は、近接した海を独占的に支配しようとしたがるものだ」ということを教えているという意味では、比較対象として面白いわけです。

ただし問題は、カプランが言うように「中国のほうが南シナ海に対して圧倒的に距離が近い」という事実であります。

そうなると「カリブ海の時のイギリスに習って、アメリカは南シナ海に手を出すな」という風にも読めますし・・・。

アメリカの微妙な立ち位置を教えてくれる好著です。

明日の夜は2000時からまた放送します。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-17 22:40 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は朝から快晴です。昼過ぎには少しにわか雨がありましたが、真夏のように暑いです。

本当に久々の更新です。別に更新しないつもりではなかったのですが、たまった仕事に追われているうちにあっという間に時間がたってしまったというのが本当のところです。

さて、個人的に注目している南シナ海情勢なのですが、これについて一昨日のFT紙が興味深い社説を書いておりましたのでその要約を。

これはJBプレスの方には出てないみたいですね。

===

南シナ海に迫る紛争:中国とその周辺国との対立は危険なレベルに
by FT論説委員

●中国と周辺国の海洋紛争の緊張は、新たなレベルを迎えた。

●南シナ海では、北京がハノイやマニラと活発な領有権争いを行っており、これがロバート・カプランの本の題名のように「アジアの難問」になってきている。

●東シナ海では尖閣諸島をめぐる争いがとりわけ有害であり、双方の計算違いが発生する可能性は高い。日中の航空機は定期的に異常接近を繰り返しており、先月にはベトナムの漁船の乗組員が中国側の艦船に衝突されて沈められた後に海中から救助される事態まで発生している。

●すでに死者も出ている。北京が五月に石油の掘削用リグをパラセル諸島の近くに移動させた時、反中デモがベトナム全土で巻き起こったのだが、この時に死者が四人も出ている。

●日本の好戦的な安倍首相は、最近行われたシンガポールのシャングリラ・ダイアローグで、日本政府が航行の自由を脅かされている国に支援をすることを表明している。

●チャック・ヘーゲル米国防長官はさらに踏み込んで、北京を名指ししながら「威嚇と強制」を行っていると非難している。中国もそれに応答して、ヘーゲルの言葉は「覇権にあふれている」と述べている。これによって緊張は高まってきた。

●ではこの緊張はどのようにして緩和できるのだろうか?万能ではないが、それでも国際法は一定の役割を果たすことができそうだ。フィリピンはすでに中国との間で国連海洋法条約(UNCLOS)を通じた解決を求めている。

●この訴えの一部は、北京が南シナ海全域を主張しているように見える、いわゆる「九段線」の範囲と妥当性に疑問を呈するものだ。中国は「九段線」が一体何を意味するのかを正確に答えようとしていない。国際的な裁定者の誰かがこの問題について解決するのは歓迎すべきことであろう。

●ベトナムはフィリピンにつづいてUNCLOSの元に国際司法裁判に訴えることを考慮している。日本、マレーシア、ブルネイ、そして台湾も司法裁判に有利な形で持ち込むことができるだろう。

●ワシントンも自らUNCLOSを批准すれば、このような動きを援助できたはずであり、中国に国際的なルールに従うように圧力をかけられたはずだ。

●それでも訴えは訴えでしかない。そもそも歴史的な領有権の主張と国際法の区別がまず明確になっていない。UNCLOSは1982年にようやく締結されたのであり、中国のいくつかの主張は数世紀以上もさかのぼるものがあるのだ。

●また、厳密にいえばUNCLOSが主権争いを裁定できるわけでもない。その任務はある海洋面のものが島か岩かを判断することであり、それが200海里の経済的排他水域(EEZ)の主張の根拠になるかどうかを判断することだ。

●このような紛争は、より大きな動きから出てくる「症状」でしかなく、この事実をわれわれは認める必要がある。中国が強国化するにしがって、戦後の「パックス・アメリカーナ」は弱体化しているのだ。

●ここで確実に言えるのは、西太平洋で最終的に新しい秩序が生まれるのは避けられないということだ。

●もちろんアメリカやその他の国々は中国を永遠に封じ込めようとするだろう。ところが長期的に見れば、これは紛争を起こす原因となる。

●妥協は必ずしも領土主権の譲渡を伴う必要はないのだが、それでもこれは中国の権益が脅かされないと安心させるようなものでなければならない。これを行う最適な方法は、日本、インド、そしてアメリカを含む国々と中国を、地域の枠組みに拘束することだ

●「東アジアサミット」はその一つの案であろう。ここには太平洋のすべての大国を参加させるのであり、安全保障面でも権限を持たせるのだ。このサミットの権限を強化することにも注力すべきだ。そのためには地域全般における信頼醸成の働きかけや、海賊対策や災害支援などでの協力も含まれるだろう。

●少くともここでは小競り合いのエスカレーションを防ぐための、効果的なコミュニケーションの場を提供すること――中国とベトナムの場合は失敗している――ができるはずだ。

●もちろんこの広域アジア安全保障ネットワークの実現のためには数年、いや数十年かかるかもしれない。しかし何かしらの地域的な努力がなければ、中国周辺の海の波は高くなるだけだ。

===

カプランの最新刊をネタにして書かれたような社説ですが、なんというか、南シナ海の将来についてやや悲観的ですね。

これについての私のコメントはメルマガのほうで。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-13 16:59 | 日記 | Comments(9)
今日の横浜北部は朝から曇っておりましたが、いよいよ午後から雨が降りました。梅雨入りです。

さて、簡単にお知らせです。

アメリカのインテリジェンス企業として老舗となるStratforの代表で、「ザ・カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン」の著者としても名高いジョージ・フリードマンの『100年予測』がこのたび文庫化されまして、その解説の部分を私が担当しました。

b0015356_2213312.jpg


「古典地政学」の専門書ではないが、一般書や未来記として読むのは思考実験になってよい、という旨のことを書きました。

書店に並ぶのは来週からかもしれません。ぜひお手にとってお読みください。


奥山真司のアメリカ通信LIVE


https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy




by masa_the_man | 2014-06-05 22:16 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部はよく晴れて、しかも真夏日でした。

目黒にある某幹部学校で学生さんたちの研究発表を聞いてきました。興味深いトピックばかりで、こちらも大変勉強になりました。

さて、久々に仕事関係の記事の要約です。これは「累積戦略と順次戦略」というCDの中でも触れた話題とかなり共通している部分がありました。

===

あなたはなぜ仕事を嫌いなのか

by トニー・シュワルツ&クリスティーン・ポラス

●われわれの働き方というのは機能不全に陥っている。職のある幸運な人でさえ、毎朝会社に行くのはあまり楽しいとは感じていないはずだ。

●そして家につくまでには何もやる気が起きなくなっているのに、寝る前までメールに返信を書かなければならなかったりするのである。

●このような経験は中間管理職だけでなく、段々と会社のトップの人たちにも見られるようになっている。

●われわれはコンサル会社を経営しているが、ある企業のトップは自分の時間が失われつつあることに危機感を感じたためにコンタクトしてきた。あまりにも仕事と生活で忙しいために、全く集中できなくなってしまったというのだ。

●「燃え尽き症候群」について研究しているあるハーバード大学の教授も、アメリカの企業のトップ72人を無作為に選び出して調査した結果、ほぼ全員がその候群の兆候を示していたとしており、その一つの原因が仕事にあると指摘している。

●ギャロップ社の2013年に行われた意識調査では、アメリカの従業員たちの中で、「仕事に熱中できている」答えたのは30%だけだという。世界142ヶ国で行われた調査では、この数字が平均13%に落ちる

●端的に言えば、われわれのほとんどにとって仕事は自分を枯渇させ、落胆させる経験であり、しかもその明白な理由から、この状況は悪化しているのだ

●まず要求される時間の量が、われわれの能力を超え始めている。これによって仕事をするのに必要なエネルギーが奪われてしまうからだ。厳しさを増す競争環境も、このプレッシャーを高めている。

おそらくその最大の原因が、デジタルテクノロジーの台頭であろう。われわれを前例のないほどの情報の洪水にさらし、昼夜を問わずその情報への応対を迫ってくるからだ。

●我が社は自分のクライアントの企業2社を含む幅広い分野の会社の従業員にたいして、ハーバード・ビジネス・レビューとの共同調査を行った。その結果は非常によく似たようなものばかりだった。

●従業員の生産力が上がったり、仕事への満足度が高いのは、以下の四つの欲求が満たされた時だという。それは、1、身体、2,感情、3,メンタル、4,精神だ

●これらの要求を満たせば満たすほど、従業員たちは仕事にやりがいを感じて働いてくれるようになるという。別のギャロップの調査で判明しているのは、仕事に熱中できている人が多い社のほうがパフォーマンスも良いという結果が出ている。

●ところが「仕事熱心」は、パフォーマンスの高さにつながるわけではないことも判明している。重要なのはやる気よりも「継続的に熱中できるか」(sustainably engaged)というほうだという。

●単純にいえば、働く人が仕事場で何を感じるかが、彼らの仕事のパフォーマンスにも絶大な影響を与えている、ということだ。

●結果として、これらの研究からわかったのは、会社にとって従業員のこの四つの要求を満たすことがどれほど大切なのかということだ。

●1、身体:これは休息である。休息を差し挟むことによって従業員の創造性は復活するし、上司が休むように勧めているという雰囲気があると、その会社に従業員が残る可能性も高まるし、健康状態にも良い影響があるという。

●2,感情:これは直属の上司に大切に思われているかという部分に最も大きく影響される。

●3,メンタル:仕事場で最も大事な仕事に集中できていると答えている人はたった20%で、最もできていると答えた人でも50%だという。

●4,精神:自分の仕事が「社会の役に立っている」と仕事の目的を感じた人ほどその会社に残る確率が上がる。

●我々が企業のトップによく聞く質問は「社員が仕事に熱意や価値を見いだしたり目的をもって集中できたら、彼らの仕事のパフォーマンスも上がると思いますか?」というもの。答えはほぼ「イエス!」になるのだが、「ではそのために御社では何をされてますか?」と聞くと気まずい沈黙が続くことになる。

●この「不都合な沈黙」をどう説明すればいいのだろうか?

●これについての明白な答えは、「給料以外にも従業員に投資しなければならない」という点について、ごく最近まで必要なことだと思われていなかったという点にある。

●従業員が自分のこなせるキャパシティーの量の仕事をこなしている場合はまだ大丈夫なのだが、最近の彼らの能力は限界に達しつつ(主にデジタルテクノロジーが原因だが)あり、この問題を解決できなくなってきたのだ。

●たとえばある会社に従業員に昼寝をとらせたりする実験をして、彼らの生産効率性が上がることが証明できても、会社側が今後もそれを実行できるかは別問題だ。時間で雇うという習慣から抜け出せないからだ。

●企業にとって、この問題を解決する簡単な方法は、以下のような単純な問いかけをすることだ。それは「従業員によりエネルギーを感じてもらい、ケアされていると感じてもらい、より集中してインスピレーションを感じてもらうにはどうすればいいのだろう?」というものだ

●無料でできるものはいくらでもある。たとえば会議を90分以内にすることや、メールの返信に規定をつけることなどだ。

●また、会社の中にスポーツジムや昼寝用の部屋を作ったり、栄養価の高い食事などを提供するというものもある。これは多くのシリコンバレーの会社がやっている。

●また、会社のリーダーたちに部下を気遣う様子を見せるように命じたり、短期の結果を出そうとして怒りをあらわにしたりするのを止めるように指示したりすることでも大きな効果を生むことができる。

●そのほかにも、従業員たちに「自分たちの仕事が社会に役だっている」ということを教えこむことで、彼らはより熱心に働く確率が高まるのだ。

●リーダーたちの持っているエネルギーは、良きにつけ悪しきにつけ部下に非常に伝わりやすい。リーダーたちが部下に「持続可能な働きかた」をするように明確に伝え、しかもそれを実践してみせると、われわれのハーバードビジネスレビューとの共同調査では、従業員たちは55%も仕事に情熱的になり、53%集中力が上がり、離職率も低くなるという結果が出ている。

===

私が最初に気になったのは、テクノロジーの発展による落ち着いた時間の喪失という点でしたが、従業員の心理学という点での知見が意外に大きなファクターであるという分析を聞いてなるほどと思いました。

日本の企業はこの辺について、これから否が応でも対応していかなければならなくなるんでしょうね。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy

by masa_the_man | 2014-06-02 22:15 | 日記 | Comments(2)