戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の横浜北部は朝から晴れていて蒸し暑いです。

さて、元オフェンシブ・リアリストで現在はCNNの国際政治ニュース番組のホストを務めておりますファリード・ザカリアが面白い記事を書いておりましたので、その要約を。

===

中国のネット上でのスパイ活動は21世紀の新しい問題か
Byファリード・ザカリア

●プーチン大統領は、伝統的な国力を押し出して望みを実現する、いわゆる「19世紀型」の国家のリーダーかもしれない。それに対して中国の習近平国家主席は、19世紀型と21世紀型の両方の戦術を使うことにたけていることが段々と明らかになってきた。

●まず19世紀式の観点から見てみよう。今週締結された中露間での天然ガスの取引に関する条約は、レアルポリティーク(権力政治)という観点からは完全に理解できるものだ。

●北京はエネルギーの供給を確保しようと長年努力しているし、ロシアのクリミア併合や国際社会の侵略には反対するという規範よりも、自国の国益を優先させたのである。

●実際のところ、中国はロシアが経済制裁に直面しつつあり、ヨーロッパの顧客にこれ以上依存せずに供給を分散したいと熱望していることをしっかりと見極めていた。だからこそ北京はよい条件で締結できたのだ。

●この天然ガス取引の合意はたしかに注目を集めているが、習近平がその締結と同じ日に上海で行ったスピーチについても注目すべきであろう。このアジアの国々を集めた地域会合にはトルコ、イラン、そしてロシアの代表が招かれていたが、アメリカは招かれていなかった。

●ここでの彼のメッセージは「アジア人は自らの手で安全保障を支えるべきだ」というものだった。彼は大陸に干渉してくる「外部の勢力」に対してやんわりと脅しを表明した。

●彼は「他人のランタンの火を吹き消そうとするものは、自分のヒゲを燃やすことになる」と言っている。

●彼はこの地域における中国の視点を表明しており、アメリカが好む「アジア太平洋」ではなく、「アジア」と呼んでいる。これによって示唆されたのは、「外部の勢力」であるワシントンは、大陸の事に関して大きな役割を果たすべきではない、ということだった。

●また、習近平はアジア諸国に対して「第三者を狙うような軍事同盟を強化すべきではない」と述べている。これは明らかにアメリカと軍事協力を拡大しているフィリピンを指摘したものだ。

●これはまさにパワー・ポリティクスだ。ところがわれわれが今週目撃したのは、新たな大国の陰謀の世界である。

●米司法省は中国軍の五人の高官を訴追して、彼らが米国の企業に対して8年間行っていたとされる経済スパイを公表したのだ。このような動きは、とくに彼らが逮捕されることはないし、さらには中国を離れることもないという意味においては、全く前例のないものである。

●ではなぜ米政府はわざわざこのようなことを行ったのだろうか?今週の水曜日に外交評議会で行われた講演の席で、前国防長官であるロバート・ゲーツは、この狙いは3つあるとしている。

1,米国の企業に対して「ネットからの秘密漏洩を気をつけるように!」と警告する。

2,中国側に対して「米政府はこの件に関して本格的に問題視し始めたぞ!」と警告する。

3,米国民に対して「政府はこの問題に真剣に取り組み始めましたよ!」と知らせる。

●ここで問題なのは、これに効果があるとは誰も考えていないことだ。

●中国側はまずこれを全否定しており、これに関しては「中国軍はいかなるサイバースパイ活動は行っていない」という全く信頼性のないコメントを出しただけだ。

●指摘された軍の高官たちは、いかなる制裁にも直面することはないと見られており、むしろこの指摘を名誉であると考えることもありえるほどだ。

●何人かの専門家は、中国のサイバースパイ活動の規模は、他の国のものとスケールが違いすぎると指摘しているほどだ。ブルッキングス研究所のピーター・シンガーは、私のインタビューに対して「人類史上最大の窃盗ですね」と答えてくれた。

●その一例として、彼はアメリカが最先端の兵器システムであるF-35の開発に一兆ドルをつぎ込むことになっているにもかかわらず、「その部分のいくつかは、中国の似たような兵器の開発に使われています。そのため、15年分の戦場での優位は完全に意味がなくなりました」と述べている。

●そして彼は、中国側のターゲットは、国防関連企業から、椅子のデザインが盗まれて一年以内にコピーされてしまう家具の製造会社まで、実に多岐にわたることを指摘している。

●サイバー攻撃は、グローバル化と情報革命によって加速化されている新しいカオス的な世界の一部である。ネットワーク化された世界では、政府と民間人、国家・国際、窃盗と戦いの間の垣根をあいまいにする活動を遮断するのはかなり難しい。

●そしてこれは、伝統的な国家安全保障のメカニズムの使用だけでは実行できないことが確実だ。ここで注意してもらいたいのは、本来なら国家安全保障の問題について、ワシントンが司法的な手段をとっているという点だ。しかもこれには効果がなく、主にシンボル的なものでしかない。

●米中の天然ガスのニュースでもわかるように、伝統的な地政学はまだ生き続けていることがよく分かる。ただし米政府は同盟国と共に世界をどう動かしていくかはわかっているが、サイバーによるスパイ活動というのは全く新しいフロンティアであり、誰もこの領域の問題をどう解決していけばいいのかわかっていない。

===

ゲーツ前国防長官やピーター・シンガーのコメントは、アメリカ側がいよいよ中国を問題視してきたという意味で注目すべきものですね。

しかし習近平がここまであからさまな「モンロー宣言」しているとは思いませんでした。



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by masa_the_man | 2014-05-30 15:28 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部は朝から曇っておりまして、なんだかハッキリしない天気です。

さて、ルトワックの戦略理論の核心にある「逆説的論理」というものについてここ数回のエントリーで少し触れてみましたが、先日の日経新聞の記事に、このロジックを体験的にわかっていると思われる人物の興味深いコメントが載っておりましたので紹介します。

その人物とは、日本のサッカー日本代表のアシスタントコーチを務めている和田一郎氏。

この人は主に日本代表の対戦相手のデータを集めて情報分析するという「分析担当」の任務をになっている人なのですが、要するに相手チームの弱みや穴を見つけ、これをA代表のチームに伝えるインテリジェンス機関的なことをやっている人です。

この人が先日の日経新聞のコラムで以下のように紹介されておりました。

===

2001年に代表スタッフに加わった分析のスペシャリスト。ワールドカップ(W杯)日韓大会のトルシエ監督からザッケローニ監督まで5代の監督に仕えてきた。

世界中から映像を集め、年間にチェックする試合数は700を楽に超える。日本代表も分析対象で、強みと弱みをつまびらかにしては練習に落とし込んで改善に役立てる

 日本がW杯ブラジル大会で対戦するC組の分析も着々と進めている。1チームにつき12から13試合は見て、分析に穴がないようにする。欧州組視察の際には対戦国の主要キャストも観察。「長所短所、現状、選手の入れ替えに応じて相手国がこれからどう変化するか」も見通していく。

(中略)

 ブラジル大会に向けての分析は、決勝トーナメントで当たる可能性があるD組のチームも進めている。勝ち上がるほどに相手は強くなり、あら探しも難しくなるのでは?

 「大きな穴ではないし、そこを突くには精度もいるけれど、どんな強国にも、それがブラジルであっても弱点は必ずある。その穴は大抵、ストロングポイントの近くにあるんですよね」。軍師の目がキラリと光った。

===

私が気になったのは、この最後の太線の部分です。

なぜならこれは、ルトワック(そして他の戦略家たち)が強調する、戦略の肝の部分をうまく表現できているからです。

たとえば戦略論でよく出てくる例は、なんといっても1812年のナポレオンのロシア侵攻の大失敗例。

当時のナポレオン率いるフランス軍の最大の強みは大規模な機動戦闘力にあったわけですが、これがモスクワまで攻め入った時に、逆にそれが段々と弱みに転換していくことになります。

なぜならナポレオンはロシアに攻め入ってどんどん勝利を重ねるにしたがって兵站線が伸びてしまい、部隊への補給が滞るようになってきたからです。

結局ナポレオンはモスクワから引き返して冬将軍に悩まされながら撤退するわけですが、これは上記の和田氏の「ブラジルであっても弱点は必ずある。その穴は大抵、ストロングポイントの近くにある」というコメントと重なります。

つまり戦略では、相手の強みが逆に弱みに転換することもあるということであり、これこそが戦略の逆説を示しているということになるからです。

この「強みがそのまま弱みに」というロジックは、けっこう他の分野にも見られることです。

たとえば戦後の日本の繁栄は教育水準が高く、これによってある程度優秀な人材が確保できたからだということがいえますが、これにも逆説的な論理が働くことにより、教育が強かったために、逆に教育がダメになるとすぐに国力の低下につながってしまうとも限りません。

米軍に至っては、RMAの議論から触発されて出てきたセヴロウスキーの「ネットワーク中心の戦い」(NCW)を最大の強みにして戦おうと考えていますが、逆に中国などはハッキングなどによってアメリカのネットワークそのものを混乱に陥れる戦いかたを計画しております。

某アイドルグループの握手会における傷害事件なども、よく考えてみればその最大の強みに潜む最大の脆弱性を突いたとも言えそうな。

そのような事情から、私は和田氏の「その穴は大抵、ストロングポイントの近くにあるんですよね」という言葉は、実は戦略のパラドックス的なところを体感的にわかっている人の発言だなぁと感じた次第です。

日本は戦後は一度も戦争をしていませんが、戦略的な感覚をわかって実践している人は民間にもいくらでもいる、ということを示す好例かと。



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by masa_the_man | 2014-05-27 17:00 | 日記 | Comments(5)
今日の横浜北部は朝晴れておりましたが、午後に入ってから雲が出てきました。

さて、中国軍機が自衛隊機へ異常接近した事件が発生しましたが、これに関して参考になる米艦船カウペンスと中国軍の艦船のニアミス事件について、戦略家ルトワックが分析したものを要約します。

ちなみにこの記事は今年の最初にウォールストリートジャーナル紙に掲載されたものです。

===

中国のリスクある軍事冒険主義
byエドワード・ルトワック

●米国防省長官のチャック・ヘーゲルは、すでに大々的に報道されている、去年12月5日に発生した米艦船カウペンスと中国の軍艦とのニアミス事件――これは中国側が意図的に90メートル近くまで接近して行く手を妨げようとしたもの――があったことを認めた。

●ちなみに90メートルというのは、船同士では衝突寸前の超危険な距離である。

●この事件は明白な疑問を投げかけるものだ。その疑問とは、「中国側の指揮官は、米艦船との事故を引き起こすような行動をよいアイディアだと思ったのだろうか?」というものだ。

●ここから明白なのは、現在の中国海軍の士官たちには、「たとえそれが人命に至る事故を起こすようなものであっても挑発的に行動したい」というインセンティブを持っているということだ。

●これと同じことは他の場所でも見られる。たとえば陸軍は蘭州軍管区の指揮官は今年の4月にジャンムー・カシミール州のラダック地方の要害を占領しているが、インド側が公式訪中をキャンセルすると警告してから撤退している。

●また、中国の海警が、日本の実効支配している尖閣諸島に侵入を繰り返していることも同じだ。

●冷戦時代はこのようなことは起こらなかった。たしかに米ソ間では航空機や艦船は互いに何度も遭遇しているし、ベルリン中央部の有名な「チェックポイント・チャーリー」では、兵士がにらみ合いをしているが、それが事故につながった例は少なかった。

●その理由は、ソ連の士官にとって「冒険主義」というのはキャリアを終わらせるほどの厳しい処罰を課せられるものであったからだ

ところが中国の場合はそれが正反対で、党のリーダーたちが軍事的な冒険主義を積極的に勧めているのだ。政府にコントロールされたメディアはこれを賞賛しているのであり、われわれはこの理由を問うべきだ。なぜなら、これは結局中国のリーダーたちにとって、リスクの大きいことだからだ。

●米艦船カウペンスは中国の最初の空母である遼寧を公海から監視していたのだが、この船団は強力な米空母や潜水艦たちにとって狙いやすい単なる標的にすぎないものだ。今回のニアミス事件の当事者のカウペンスも、排水量一万トン近くの巨大なミサイル巡洋艦である。

●さらに中国側にとって危険なのは、海上自衛隊がその気になれば、尖閣周辺に侵入してくる中国側の海警の艦船や軍艦、さらには遼寧の船団全部も簡単に沈められるという点だ。

●最も頭の悪い10代の少年でも、大きなトラックにむかって子供用のスクーターに乗りながらチキンレースをしかけて遊ぶようなことはしないものだ。

●ではなぜ中国のリーダーたちは屈辱的な敗北を冒すようなリスクを軍人たちに認めているのだろうか?

●この答えは、これよりも遥かに大きな文脈、つまり1978年に鄧小平によって進められた「平和的台頭」が2008年に破棄されたということの中にある。

●ちなみに「平和的台頭」は、2003年に鄭必堅(Zheng Bijian)によって説明されるまで公式には表明されなかったと考えられている。

●「平和的台頭」についての彼らの議論はシンプルだった。誰にも脅威を与えず、静かに行動して、経済的な台頭の環境づくりのために台湾を攻撃せず、これによって貿易関係に害を与えなければ、海外からの投資も呼びこむことができる、というものだ。

●この政策は目覚ましい成功を収めた。なぜならアメリカが中国の経済発展を積極的に推し進めてくれたからであり、これに他国も続いたからだ。

●ところが2008年にすべてが変わった。

金融危機のおかげで、アメリカのパワーがすぐに崩壊すると読み違えた中国は、長年主張するのをやめていた突然インド領内のアルナチャル・プラデシュ州内のほとんどの領有権の主張を復活させ、 日本の親中派の政治家たちを拒絶して、尖閣を要求しはじめたのだ。

●また、南シナ海の広大な海域において「九段線」を主張しており、これはフィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、そしてベトナムなどの排他的経済水域にかぶるものであった。ちなみにこれらの要求は現在の中国のパスポートにも反映されており、ここに印刷されている地図には、韓国の水域も含まれているほどだ。

●中国側からの圧力を感じている7つの国々は、当然のように反中で(少なくとも外交的には)まとまっており、いくつかのケースでは、そのまとまりかたが決定的なものもある。たとえばインド・日本・ベトナムという非公式の同盟関係が、ベトナムに近代的な潜水艦を供給するというものだ。

●中国の突然の防空識別圏(日本と韓国のそれと重なっている)の主張は、困難な状況にあった日韓関係を改善させる方向に向かわせているのだ。

●中国のリーダーたちは、韓国からインドまで続く反中同盟の台頭に直面していることに不満を述べており、この原因はアメリカにあると非難している。

●ところが有名な「アジアへの軸足移動」(ピボット)にもかかわらず、この原因は周辺国を反中に仕立て上げた米国務省の悪意にあるわけではなく、中国自身がそれぞれの国々に対して要求してきたことにあるのだ(ただし防空識別圏の一件の後でも、たとえば日本は中国の日常的な脅しに対抗する意味で国防費を上げるべきではないだろう)。

●専門家の中には、「中国が長期的な視点で賢い体系的な脅しを行っている」と見ている人もいる。

●ところが別の人々は「1カ国ずつではなく、7カ国も同時に喧嘩を売るのは賢いとはいえない」と主張している。

●また、相対的な国力が上がっているためみんなを警戒させている国が、わざわざ早い段階から反中同盟を作らせてしまい、しかも彼らに中国からの輸入製品をボイコットさせるような行動するというのはどう考えても合理的ではない。

●中国の共産党の指導者たちは大規模で活力のある経済を管理する能力があることを証明してきたし、彼らの民衆の抑圧は上手く、目に見える残虐さは最小限に留められてきた(少数民族のものは除く)ため、彼らが対外政策においても同じくらい上手く立ちまわるはずだという想定はたしかにできる。

●ところがこれまでの証拠でわかっているのは、役に立たないナショナリズムと軍国主義の勃発の長期化であり、不吉なことに、これは第一次大戦前のドイツの姿と重なるところがある。

●当時のドイツは最高の大学と最も先進的な産業と、最高の銀行を持っており、唯一欠けていたのは、「平和的台頭」を続けるという戦略の知恵だけだったのだ。

===

ルトワックのこの分析が本当だとすると、今回の中国軍機の異常接近事件も「北京中央政府の統制のとれていない現場の暴走」ということになりますね・・・・。

「戦術は巧みだが大戦略がまったくなっていない中国」というのは、最近のフィリピンやベトナムの一件でもなんとなく実感されつつある今日この頃。



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by masa_the_man | 2014-05-25 15:06 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はやや雲が出ましたが、なんとか天気の崩れはありませんでした。

さて、またしても久々の更新ですが、今日はここ数日間に連続で話を聞いてきたエドワード・ルトワックの話を。

私が『自滅する中国』を監訳したことはすでにご存知の通りだと思いますが、彼の戦略書としては主著となる『エドワード・ルトワックの戦略論』という本を出したことは、私が最近始めた動画生放送でもご紹介させていただきました。
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ただしこの本は、彼の文体の難しさもあって、非常にわかりづらいところがあり、彼の理論の核心となる戦略の「逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)というものが、正直なところうまく解説されているようには思えません

ところが彼が口頭で説明すると、このパラドックスというものを実にわかりやすく説明してくれます。

今回の来日では食事を囲みながら彼がこの戦略の「逆説的論理」を自身でうまく説明してくれたのでその要約を。

まず、ルトワック自身は、史上優れた戦略家としてその優れた性質が「文書」として残っているのはたった二人だと言います。それは、ナポレオンとチャーチルです。

そしてルトワック自身が実例として使うのは、このチャーチルの方。

チャーチルというのは、ご存知の通り、それほど学校での成績はよくなく、むしろ落ちこぼれの部類に入る人間でしたが、軍に入ってからメキメキとその才能を発揮。

そういう意味で、彼は戦略の本質というものを本能的に直感で理解していた人間の典型だ、というのがルトワックの見解。

ではその戦略の才能がどこにあらわれているのかというと、ルトワックによれば第二次大戦中の1941年9月末の英空軍幹部との会話。

この時にチャーチルは、ポータル元帥の進言する爆撃機のみによるドイツ戦の勝利の綿密な計画について逐一論破していくことになったが、これがまさに彼の戦略についての直感をよくあらわしているとのこと。

なぜなら、たとえば英空軍が後にハンブルグを空襲で全滅させて大成功したように、最初に何かを成功させると、それは「今日成功したがゆえに、明日は失敗することになる」という戦略の逆説的論理を、チャーチル自身がよく理解していたから。

ではチャーチルは何をわかっていたかというと、最初に空爆が(ハンブルグなどで)成功すると、その効果は次の目標都市では半分、そしてその次の都市ではさらにその半分というように落ちていってしまうということ。

なぜならドイツ側もまな板のコイではないわけですから、一度爆撃されると、それに対抗して工場を分散したり、代替品を開発(ゴムなど)したりして、次の攻撃には備えることができるわけです。

結果として、ドイツはイギリスからの空爆後のほうが軍需産業の生産性が効率化したというデータもあるくらい。

なぜチャーチルはこのようなことを見越せていたのかというと、それは彼が「敵の反応や対抗措置」というものが戦略を行う上で決定的になることをよく理解できていたからです。

つまり戦略というのは敵がいるからこそ成り立つものであり、しかも敵がその攻撃に対して行ってくる対応や反応が決定的な意味を持つ、ということなわけです。

私の先生のグレイはこのルトワックの説明を、「戦略に時間という概念を入れたという意味で革命的だ」と解説しておりましたが、これはたしかに鋭いところをついているかと。

どうも戦略というものを考えた時、われわれは「相手がこう動いてくる」ということを忘れがちなのですが、このような例を聞くと、「逆説的論理」などと難しい言葉を使われなくても、なんとなくその戦略の複雑さと面白さが理解できる気がします。

ちなみに『…戦略論』の中にはチャーチルの良い言葉が引用されております。それは、

「力の等しい国家間で行われる今回の戦争、あるいはあらゆる戦争に勝利する確かな方法があると考える者は、無分別な人間である。唯一の計画は耐えることである」(p.93)

というものです。

たしかにこれは、戦略の「逆説的論理」というものを上手く表現できておりますね。



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by masa_the_man | 2014-05-23 23:43 | 日記 | Comments(11)
今日の横浜北部は朝からよく晴れましたが、午後から少し雲が出てきました。

さて、久々の更新です。

その理由なんですが、実はミアシャイマーの『大国政治の悲劇』の第二版の翻訳作業が佳境を迎えておりまして、数日以内に完成させないと他の仕事ができないので必死やっていたからであります。

今回の特色は、すでにご存知の方もいらっしゃるように、最後の第十章がすべて今後の中国の分析に書き換えられているところでありまして、当然ですが、いくつか興味深い記述があります。

その中でもとくに気になったのが、今後の中国に対してアメリカやその同盟国たちがとるべき戦略についてのもの。

ミアシャイマー自身によれば四つあるとのことですが、それが書かれた部分を、今回はここで特別に要約して掲載しておきます。

===

●台頭する中国に対処するための最適な「第一の戦略」は「封じ込め」である。これによれば、アメリカは北京政府が領土を侵略したり、より大きくみればアジアにおいて影響力を拡大するために軍事力を行使するのを牽制することに集中すべきであることになる。

●この目標のために、アメリカの政策担当者たちは中国周辺のなるべく多くの数の国々を巻き込んでバランシング同盟の結成を狙って動くことになる。そこでの究極の狙いは、NATOのような形の同盟関係を構築することだ。冷戦期のNATOは、ソ連の封じ込めという意味ではかなり効果的な制度だったからだ。

●また、アメリカは世界の海の支配の維持に努めなければならず、これによって中国がペルシャ湾や、とりわけ西半球のように、離れた地域に戦力を投射するのを困難にしなければならないからだ。

●オフショア・バランサーとして豊富な歴史を持つアメリカにとって理想的な戦略というのは、なるべく背後にいて、中国の周辺国たちに中国封じ込めのほとんどの重荷を負わせるというものだ。つまりアメリカは実質的に中国を恐れるアジアの国々にバック・パッシングをするということだが、これは以下の二つの理由から、実際には行われない。

●その理由としてまず最も重要なのは、中国の周辺国が中国を抑え切れるほど強力ではないということだ。したがって、アメリカには反中勢力をリードするしか選択肢は残されておらず、その強力な力のほとんどをリードすることに傾けることになるはずだ。

●さらにもう一つの理由は、中国に対抗するためのバランシング同盟に参加するアジアの多くの国々の間には大きな距離の開きがあるという点であり、これはインド、日本、そしてベトナムの例を考えてみても明白だ。

●したがって、ワシントン政府には彼らの間の協力関係を取り持ち、効果的な同盟体制を形成する必要が出てくる。もちろんアメリカは冷戦時代に似たような状況にあったわけであり、ヨーロッパと北東アジアでソ連を封じ込める重荷を背負う他に選択肢はなかった。

●現地の国々が潜在覇権国を自分たちの力で封じ込められない場合には、沖合に位置しているオフショア・バランサーというのは、 実質的にオンショア、つまり岸に上がらなければならなくなるのだ。

===

「封じ込め」の代わりとなる戦略は三つある。最初の二つは、予防戦争を起こしたり、中国経済の発展を遅くするような政策を採用することによって中国の台頭を阻止することが狙われている。

●ところがこの二つのどちらもアメリカにとっては実行可能な戦略とはならない。三つ目の戦略は「巻き返し」(rollback)であるが、これは実行可能でありながらその利益はほとんどない。

「予防戦争」が実行不可能な理由は、単純に中国が核抑止を持っているからだ。アメリカは自国、もしくは同盟国に対して報復可能な国の本土に対して破壊的な攻撃を仕掛けることはできない。また、中国が核兵器を持っていなかったとしても、アメリカの大統領が中国に対して予防戦争を仕掛けることは想像しづらい。

●中国がこのまま急激な経済成長を続けることができるのか、そして最終的にアジアを支配しようとして脅威となるのかは誰にも確実なことが言えないのだ。この未来の不確実性も予防戦争を見込みのないものにしている。

「中国経済の成長を遅くする」という戦略は、核戦争に比べれば確かに魅力的な選択肢ではあるが、これもまた実行不可能なものだ。この場合に一番の問題となるのは、アメリカの経済にダメージを与えずに中国経済を鈍化させる実際的な方法が存在しないという点だ。

●もちろん「中国経済の方がより大きなダメージを受けるはずだから相対的にアメリカ経済の立場が上がる」という議論もできるだろう。ところがこれが実現するのは、アメリカが中国以外の貿易相手を見つけることができて、中国側は見つけられないという二つの条件が合わさった場合だけだ。

●あいにくだが、世界中の多くの国々は中国と経済的な結びつきを深めたいと考えており、ワシントン政府が中国との貿易と投資を断絶するためにつくりだした真空状態は、それらの国々によって埋められることになる。

●たとえばヨーロッパの国々というのは、中国に深刻な脅しを受けることがないため、貿易相手としてアメリカの立場に取って代わる最有力候補であり、彼らが中国経済の発展を引き続き促すことになるはずだ。端的にいえば、中国は経済的に孤立させることはできないため、アメリカはその経済に対する悪影響をあまり与えることができない。

●「封じ込め」に代わる三つ目の戦略は「巻き返し」であるが、これにはアメリカが中国を弱体化を狙ってその友好国の政権の体制転換をしたり、さらには中国国内でトラブルを起こしたりすることを含む。

●たとえばパキスタンが中国側と密接な関係を結んでいるとすれば(これは将来確実に実現しそうなことだが)、ワシントン政府はイスラマバード政府の体制転換をして、親米派のリーダーにすげ替えるのだ。もしくはアメリカは新疆ウイグル自治区やチベットなどで独立派を支援するなどして政情不安を煽ることもできる。

●アメリカは冷戦時代にソ連に対して主に「封じ込め」を実行していたが、現在わかっているのは、いくつかの面で同時に「巻き返し」をやっていたということだ。一九四〇年代後半から五〇年代前半にかけてソ連国内で反乱工作をしかけていただけでなく、親ソ派と思しき世界中の無数の政府のリーダーたちを次々と追放していった。

●実際にもワシントン政府は、一九五〇年代から六〇年代にかけて中国に対していくつかの隠密工作を直接仕掛けている

●このような「巻き返し」工作は、超大国の間のバランス・オブ・パワーにはわずかな影響しか与えておらず、ソ連崩壊を早めることにはつながらなかったと言えるが、それでもアメリカのリーダーたちはあらゆるところで「巻き返し」を実行しており、ワシントン政府の政策担当者たちが将来強力になった中国に対して、この政策を使わないはずがないとは言い切れないのだ。

●それでもアメリカにとっても最も効果を発揮する戦略が、今後も「封じ込め」である事実は変わらない。

===

いかがでしょうか。

まとめると、

1,封じ込め
2,予防戦争
3,中国経済の鈍化
4,巻き返し

となるわけですが、最終的には「封じ込め」を推しております。

うーん、なんというか、彼の国際政治の理論の中には「相互利益」とか「協力」とか「愛」という要素は微塵もないわけで(苦笑

ということで夏までには出版できそうな雰囲気です。がんばります。



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by masa_the_man | 2014-05-16 20:35 | 日記 | Comments(9)
今日の横浜北部はまたしても快晴。気温も上がって完全に初夏でした。夜になると涼しいですが。

さて、米中の戦力のデタントを提案するある論文の要約部分の冒頭部分を、さらに要約しておきます。

今後のアメリカ側が今後の中国との関係を(軍事)戦略面でどのようにしたいと考えているのか、ひとつの方向性を教えてくれるものであると言えるでしょう。

===

米中は、現在、もしくはいずれかの時点で、核攻撃や衛星への攻撃、もしくはコンピュータのネットワークに対する攻撃で、相手に甚大な被害を与えるような能力を互いに持つことになる。逆説的ではあるが、互いの持つ国力にもかかわらず、その戦略的脆弱性は高まりつつある。とくに2001年9月11日以降のアメリカ人は、この脆弱性を感じることになった。ただし中国側がどこまでこのような感覚を持っているかは明確ではない。

核攻撃に対する脆弱性というのは、米中両国にとっておなじみのものだ。ところが米中両国は宇宙やサイバー領域での被害を受けやすくなっている。これは、両国の今後の発展と安全がこれらの領域に依存度を深めつつあるのに、互いに対衛星(ASAT)能力やサイバー戦争の能力を身につけつつあるからだ。中国にとって経済的統合、生産、そして他国との貿易――そしてつまり成長の継続とおそらく政情の安定――は、アメリカの場合と同じように、データの共有の活力やネットワークの形成などに戦略的面で左右されることになる。

これらの3つの戦略領域の特徴は、技術的にも経済的にも、そして作戦的にも「攻撃優位」(offense dominant)であるところだ。核兵器、ASAT、そしてサイバー兵器からの防御というのは困難であり、米中のように大規模で先進的な攻撃力を持ち、さらには決意の堅い国家に対しては、先細りするような結果しか生むことができない。核兵器は明らかに攻撃優位なものである。なぜならたった一回の爆発で1つの都市を破壊することができるからだ。さらに言えば、アメリカが核兵力による第一攻撃能力を維持するよりも、中国が戦略ミサイルの発射台の残存率を上げたり、発射可能な兵器を増やしたり、アメリカのミサイル防衛網を突破するほうが、容易かつ安価なのだ。まだ公式に認めてはいないが、アメリカは中国が獲得しようと決意を固めている第二攻撃による核抑止を阻止することはできないのである。

衛星というのは、そもそも脆弱性の高いものだ。発見されやすく、追跡も容易で、しかも壊れやすい。これらを破壊したり、そのパフォーマンスを劣化させたりするのは、それらを守ることよりも容易なのだ。ASATインターセプターというのは衛星そのものよりもはるかに安価である。同様に、コンピュータ・ネットワークの防御は攻撃側の規模と精度が上がったことによってその難易度と値段がますます上がっている。サイバー攻撃を防ぐ側にとって頭の痛いのは、デジタル機器などの世界の市場と供給網が統合――その主な競合企業は、アメリカと中国の半国営企業――されてきており、ネットワークのインフラの戦略的な劣化や、サービスの妨害を引き起こす潜在力が上がっていることだ。一般的に言って、戦略面での攻撃優位があれば、米中両国とも攻撃側に投資しようするのは自然であり、互いに相手に負けまいとして開発を競い合うことになる。

攻撃優位の他にも、テクノロジーの進歩のおかげで戦略攻撃にかかる人命と資金面でのコストが下がっており、その様相も重爆撃による大規模な侵入から、核兵器、対衛星兵器、そしてサイバー戦争へと移り変わってきている。もし公共サービスの妨害による死亡の可能性を考慮しなければ、ASATとサイバー戦争は「非暴力的」なものとして捉えることもできる。戦略的攻撃の選択肢における予期される犠牲者の数が落ちるということは、国際的な憎悪や国家のリーダーの抑制のレベルが落ちる可能性もある。抑止が欠如しているため、宇宙とサイバー領域における戦争の敷居は、攻撃側が強くなることによって、危険なレベルまで低下するかもしれないのだ。

===

「米中は互いに攻撃に弱くなっているので、そろそろ手打ちをしましょうよ、中国さん」というのがこの論文の主旨です。

問題なのは、この論文を書いた人間が現在のオバマ政権に近いところにいるというところでしょうか。

アメリカのアジアの対応(南シナ海での衝突など)にどこまで影響を与えているのかはまだ明確ではありませんが、少なくとも政権の中にこういう意見の人間がいることを知っているだけでもよろしいかと。

メルマガのほうでは、去年暮れのバイデン訪中時に起きた米中艦船ニアミス事件の真相(?)について書きます。



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by masa_the_man | 2014-05-11 23:23 | 日記 | Comments(0)
私が留学中から大変お世話になっておりました、日本におけるクラウゼヴィッツ研究の泰斗である川村康之元防大教授がお亡くなりになりました。

私も明日夜のお通夜だけ参列して受付要員としてお手伝いさせていただくつもりです。

以下は詳細です。

====

日本クラウゼヴィッツ学会長、戦略研究学会理事(元副会長兼編集委員長)の元防衛大学校教授、川村康之元1等陸佐は、入院加療中のところ、平成26年5月7日(水)夜、永眠されました。

葬儀等は下記により行われますので、謹んでお報せ申上げます。

御通夜: 5月10日(土)1800時~
告別式: 5月11日(日)1200時~

場所: 新板橋駅前ホール
     Tel 03-3963-1194
     Fax 03-3963-1154
     171-0004東京都板橋区板橋1-48-13
     交通: 都営地下鉄三田線「新板橋」駅下車すぐ

喪主: 令夫人 川村真理

合掌
by masa_the_man | 2014-05-09 14:43 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から快晴です。これから暑くなりそうです。

さて、簡単に資料だけ。先日のアメリカの討論番組で出てきた意識調査の結果です。

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(msnbc.comより)

質問は「米国の世界政治についての関与はどうあるべき?」というもので、それに対する答えが、

1,さらに関与すべき(19%)
2、関与を減らすべき(47%)
3,現状維持(30%)

というものです。ここからかなり厭戦気分が高まっている、と読み解くこともできますね。ただしこういうものも「気分」で「周期的」なものですから、アメリカがまた積極関与主義に傾いていくことは十分考えられますが。

これがフィリピンやベトナムの件に関してどの動いていくのかが気になります。



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by masa_the_man | 2014-05-09 10:49 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部はとくに午後よく晴れました。

とうとう中国とベトナムの船が南シナ海で衝突しました。その背景の一端を知るために、とりあえず拙訳ルトワックの『自滅する中国』から参考になりそうな部分を抜き出しておきます。

下の引用は第15章からです。

===

すでに述べたように、中国の近隣諸国との問題は、(中国自身が経験した可能性のある)傲慢な発言や差し出がましい行為だけが原因ではないし、未解決の領土紛争に限られるものでもない。

このような問題は、むしろ中国の非常に急速な軍拡から発生したものであり、中国が持つ巨大な潜在力があらゆる方面でパワーバランスを乱しているから起こっているのだ。

国家が将来身につけるパワーというのは、お金の場合と同じで、割り引いて見積もられることはなく、逆に割り増しされて注目を浴びるものだ。

それゆえに、中国の軍拡そのものが、近隣諸国の独立にとっての脅威となるのだ

 これはベトナムについても(とくに脅威を感じているために)当てはまる。世論でも政府の公式見解でも、ベトナムが中国に従属していた時代の印象は良好なものではない。これは実際に(第二次大戦中のそれほどでもない)日本のイメージや、(朝鮮戦争時のかなり悪い)韓国のイメージのほうがはるかにマシなのだ。

逆にベトナム人の「国家」としてのアイデンティティを形成したものは、中国の侵略への抵抗だった

表面的には国際協調主義を標榜していたベトナム共産党が、一九七五年に南ベトナムを掌握した時にすぐさまできる限り多くのホア族(中国系ベトナム人)を(物理的に国境の外まで追い出すか、難民ボートに乗せたりして)国外へ追放した理由はここにある。

確実に言えるのは、ベトナム人の漢民族とその国にたいする一般的な態度は、中国を中心とした「天下」システムとは相容れないものであり、諦めてそれに従うことは決してないということだ。

文化的な複雑さは置いておくとしても、西沙諸島と南沙諸島は、とにかく彼らにとって見過ごすことのできるような小さな問題では決してない。これは独島/竹島などの例と似ている。

両諸島は数百の島や岩礁、暗礁から構成されており、合計約六四万八〇〇〇平方マイルにのぼる排他的経済水域(EEZ)の主張が両国間でなされているのだ。

ベトナムの中国への抵抗の手段の一つは、今でも自国の軍事力である。ベトナム軍は深刻な装備技術面での遅れに苦しんでいるが、戦闘意欲と基礎的な能力は欠いていない。

しかし一九七九年と全く同じ形で中国と対決することになれば、ベトナムには大国の同盟国が必要となる。ベトナムは米国をその大国と見なしているようであり、おそらくインドや日本も当てにしているようだ

ベトナムは何の迷いもなく先手をとっている。同盟結成というのは中国の拡張主義から自然発生したものだが、それでもそれを公式化する必要があるため、ベトナムは二〇一〇年にASEANの議長国になったことを利用しつつ、多国間交渉のフォーラムを形成することによって、海洋紛争を「国際問題化」した。彼らの狙いは、明らかに中国を多国間交渉の場に追い込むことだった

本来のアメリカの方針は、南沙諸島の領有を主張する全ての関係国、つまりブルネイや中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾、そしてベトナムに対して、受動的な「中立的立場を取る」というものだった。

二〇一〇年冒頭においても、アメリカのその姿勢に変化はなかったため、ベトナムは自分たちが守っていた原則――「透明性の原則」(暗礁や岩礁への施設の突然の設置は行わない)や「法の支配」、そして「航海自由の原則」――をアメリカに同意するかどうかを確認することしかできなかった。

しかしベトナム外交は、かつての捕虜であったジョン・マケイン(John S. McCain)上院議員に始まる米国の友人と、オーストラリアからの助力を得た結果、アメリカの政策を変えることに成功した。

もしかすると、この変化は中国の軍拡の意図せぬ結果だったのかもしれない。二〇一〇年七月にハノイで開催されたASEANの地域フォーラム外相会議では、当時のアメリカの国務長官であったヒラリー・クリントン(Hillary R. Clinton)が、「航行の自由」はアメリカの「国益」だと繰り返し主張しており、いかなる国の武力行使および行使の威嚇にも反対すると言ったのだ。

もちろんこの二つの主張はアメリカの新たな姿勢を表明したものではなかった。ところがその後に、彼女は「南シナ海の海域についての正統的な主張は、領土の地勢についての正統的な主張によったものでなければならない」とも述べたのだ。これは新たなアメリカの新しい姿勢の表明であり、中国の南シナ海全域への主張を否定して、ベトナムの主張を支持するものだった。

中国外交部部長の楊潔篪(ようけっち)からは即座に(伝えられるところでは)怒りを含んだ反応があったという。

彼はこの問題を会議で取り上げた参加国全てを非難し、全海域は海南省の一部であり、中国の領海以外の何物でもないと主張した。この発言は、外交部部長による、断固かつ申し分のない民族主義者(左派)的な主張であった。

中国の田舎育ちの民族主義者たちから見れば、楊潔篪は極端な国際主義者と言ってもおかしくないような人物であり、彼はたしかにロンドンとワシントンで長年暮らした経験を持っているのだが、この時の彼の答えは「全てはわが国のものであり、話し合う余地はない」であった。

ところがそれから五ヶ月もしない二〇一〇年十二月にインドネシアで開かれたASEANの会合では、中国の代表はベトナムと米国が呼びかけた通りの多国間交渉の開始に合意している。この交渉は、少なくとも多国間の「行動規範」の策定を目的としたものだった。

中国の変心の原因としては、いくつかの理由を挙げることができる。

考えられる理由の一つとしては、この後退は、二〇〇八年以降のやり過ぎた傲慢さからの全般的な後退の一部だというものであり、これは中国共産党の上層部からの命令だという。

この全般的な後退は、戴秉国の長文の論説で説明された、正統性のあるものだとされている。この論説の題名は「あくまでも平和的発展の道を歩もう」(Jianchi zou heping fazhan zhi lu:堅持走和平発展道路)であり、ASEAN会合の直前の二〇一〇年十二月六日に発表されたものだ。

二番目に考えられる理由は、そもそも中国の主張が国際社会から受け入れられないからだ。

なぜなら南沙諸島は中国からあまりにも距離が離れているのにたいして、領有を主張している他国の海岸からの距離のほうがはるかに近いのだ(ただし台湾は明らかな例外だ)。地図を見てみると中国の主張にはかなり無理があり、「大昔、名もなき漁師がこの群島を訪れた」という話を持ち出してきても、他国から嘲笑を買うだけだ。

考えられる三番目の理由は、「中国は元々妥協の余地のない態度を取っていたが、そのために紛争が反中同盟を形成する非常に効果的な仕組みになってしまった」というものだ。その証拠に、突飛な行動を取るフィリピンと、常に扱いが難しかったマレーシア政府は、この紛争のお陰で反中同盟の方に囲い込まれてしまったからだ。

四番目の可能性は、国務長官のヒラリー・クリントン(Hillary. R. Clinton)の説得が非常にうまかったか、国防長官のロバート・ゲイツ(Robert M. Gates)の説得が非常にうまかったというものだ。

というのも、ゲイツ長官は同じ台詞を二〇一〇年十月にハノイで開催されたASEAN拡大国防相会議の席で述べているからだ。

この拡大会議は「ADMM+8」と呼ばれ、ベトナムとシンガポールによる提案を五月一〇〜一一日のハノイでの会合で受け入れて制定されたものだ。ハノイでの会合は、元来のADMM+6というASEAN参加国とパートナー国(中国、インド、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国)によるものだった。この六ヵ国にさらにロシア連邦と米国が加えられたものが「ADMM+8」である。

この会議で米ロという二つの大国を参加させた目的は、公式には「地域協力圏としてのASEANの正統性と、米ロの東アジアへの関与を強化することにある」と説明されている。

しかし当然のように、現実の結果はこの会議における中国の発言権の弱体化であった。それまで中国は、この会議における唯一の大国であった。これは、中国の軍拡が必然的に生み出したもう一つの結果である(ADMMパートナーの八ヵ国から一ヵ国[例:中国]を減らせば、あっというまに集団安全保障会議になる。そうした会議の体制をそもそもベトナムが望んでいたという可能性はあるのだ)。

しかし最も可能性の高い理由は「南沙諸島の領有を主張する国家の中でも、ベトナムが飛び抜けて活発だった」というものだ。そして紛争にたいする中国の非妥協的な態度が、米国とベトナムの再接近をもたらしたといえる。

米国とベトナムの関係は外交上の協力から出発したのだが、これは暗黙の軍事同盟にもなりつつある。そして、この同盟関係は極めて効果的なものになりうるのだ。

もちろんこの同盟は、一九九五年に復活したアメリカとベトナムの外交関係の「当前の結果」というわけではない。

この関係は中国が「主導」したようなものである。もちろんこの同盟が北京で計画されたものでないことは明らかだが、それでもこのおかげで、ベトナムと米国の関係はより密接なものになったのだ。

===

いやぁ、軍の艦船がからむとまずいでしょう。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


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by masa_the_man | 2014-05-07 23:26 | 日記 | Comments(4)

ロシア軍部隊の展開図

今日の横浜北部は朝からハッキリしない天気でして、時々小雨が降りました。

さて、ワシントン・ポスト紙にロシア軍部隊の展開図がありましたので、参考資料としてこちらに貼り付けておきます。

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次はその元となったRUSIのもの。ウクライナ陸軍のものと二つあります。

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これらを見ると、ウクライナは海(黒海)へのアクセスを失いつつあることがよくわかりますね・・・挟み込まれてしまう恐怖というか。



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by masa_the_man | 2014-05-05 19:43 | 日記 | Comments(5)