戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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今日の横浜北部は朝から雨続きでしたが、夜になってやみました。

ラジオの収録行って参りました。

いやー、本当に難しかったです。何が難しかったって、しゃべる時間の管理と、わかりやすさの追及、そして発音です。まだまだ修行が足りませんね・・・

ということで、台湾論文の第4弾です。2回目の掲載。

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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー

●アメリカは1917年4月に第一次世界大戦に参戦しているが、この時のドイツ帝国は、まさに戦争に勝利してヨーロッパを支配せんばかりの勢いだと見られていた。米軍は戦争の趨勢を一気に傾けるための決定的な役割を果たし、1918年11月のドイツ軍敗北につなげた。

●1940年代初期にフランクリン・ルーズヴェルト大統領は、アメリカを率いて第二次大戦に参戦し、アジアにおける日本と、ヨーロッパにおけるドイツの野望をくじくために努力している。アメリカは1941年12月に戦争に参戦し、二つの枢軸国を倒す役割を果たした。

●アメリカの政治家たちは、1945年以来、ドイツと日本の軍事力に制限をおくために多大な努力を払っており、冷戦期にはソ連のユーラシア支配を阻止し、80年代末から90年代始めにかけての崩壊に手を貸した。

●冷戦終了直後の1992年に、ジョージ・ブッシュ(父)政権の「国防計画ガイダンス」が新聞にリークされたが、ここではアメリカが世界で最も強力な国であり、その高いポジションにいつづけることを狙っている、という大胆なことが書かれていた。いいかえれば、「アメリカはライバルの出現を許さない」ということだ。

●これと同じメッセージは、ブッシュ(息子)政権の時の、有名な2002年の国家安全保障戦略の中でも繰り返されている。この文書には「予防戦争」(preemptive war)という言葉が入っていたために、大いに批判を集めることになった。

●ところがそれとは対照的に、ほとんど批判を集めなかったのは「アメリカが台頭する大国を牽制し、世界のバランス・オブ・パワーにおいて支配的なポジションを維持する」という主張であった。

●結論としては、アメリカは賢明な戦略的理由によって、西半球における覇権を維持するために百年以上もがんばってきたのだ。地域覇権を達成してしまったために、今度は他の大国がアジア、もしくはヨーロッパを支配するのを阻止するために多大な努力をしてきたのである。

●したがって、もし中国がアジアを支配しようとした場合に、アメリカの政治家たちがどのような反応を示すのかはかなり明確だ。アメリカは中国の封じ込めのために努力するだろうし、最終的にはアジアを二度と牛耳ることができないレベルまで弱体化させようとするだろう

●よって、アメリカは実質的に、冷戦時代のソ連に対するようなやり方で中国と対峙することになる公算が高い。

●中国の周辺国は、その台頭を恐れるのが確実であり、彼らも中国が地域覇権を達成するのを防ごうとして、出来る限りのことをしてくるはずだ。

●その証拠に、インド、日本、そしてロシア、またはシンガポール、韓国、そしてベトナムのような小規模な国までが中国の台頭を恐れており、それを封じ込めるための方策を考えているのだ。

結局のところ、彼らは中国の台頭を阻止するために、アメリカ主導の「バランシング同盟」(balancing coalition)に参加することになるだろう。これは冷戦中に、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、そして中国でさえも、アメリカ側についてソ連に対抗した構図と似ている。

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●ここまでの話を踏まえると、この状況に台湾をどのように当てはめることができるだろうか?

●蒋介石率いる国民党が中国本土から逃れた冷戦初期から、アメリカは長きにわたって台湾と親密な関係を維持しているが、ワシントン政府は、中国やその他の国による攻撃から台湾を守る義務を示した協定によって縛られているわけではない。

●それでもアメリカは反中同盟において「台湾に重要な役割を担ってもらいたい」と思うだけの強力なインセンティブを持つはずである。

●第1に、すでに述べたように、台湾は経済面・軍事面での資源を持っており、ここを獲得できれば、実質的には中国の最も重要な東岸の沖合の海域をコントロールするための巨大な空母として利用することができるようになる。

●アメリカは中国側ではなく、自分たち側に戦略バランスを有利にできるという意味で、台湾の資産を欲しがるはずなのだ。


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続きはまたアップします。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy

by masa_the_man | 2014-04-30 20:40 | 日記 | Comments(0)

今日の横浜北部は朝から雨が降っております。本降りというわけではないですが、午後にピークが来るとか。

本日午後ですが、ニッポン放送(AM 1242kHz)の番組に出演します。話題のニュース7つに対してコメントするというもので、そのうち1つはミアシャイマーなどが論じている米中衝突論についてコメントする予定です。

ローカルのFMでラジオに出たことはあるのですが、全国ネットのAMは初めてです。ただし司会の方や音声さん(?)が同じ中学の出身ということで、リラックスして楽しめそうな。

さて、一昨日のエントリーからの続きです。ミアシャイマーの台湾論文の第3弾を。


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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー

●この安全保障関連の話は、台湾にとってどのような意味を持っているのだろうか?

●その答えは、「中国には、少なくとも台湾をアメリカから切り離して中立化させようとする、強力な戦略面での合理性がある」というものだ。

●ところが中国が望む最大の目標は、台湾を中国の一部にすることであり、時間の経過とともに国力を増せば、この目標を確実に追及することになるだろう。

●統一は2つの重要な点において、中国にとって戦略的に有利に働くことになる。第1に、北京政府は台湾の経済面や軍事面の資源を吸収し、アジアにおけるバランス・オブ・パワーをさらに中国に有利な方向へシフトさせようとする。

●第2は、台湾を中国沿岸の沖合に浮かぶ「巨大な空母」にしてしまうことだ。このような空母を獲得することができれば、中国の軍事力を太平洋西部に対して投射する能力が強化されることになる。

●端的にいえば、ナショナリズムとリアリストのロジックによって、中国には「台湾の事実上の独立状態を終わらせ、中国に統一してしまいたい」という強力なインセンティブが働いていることが見てとれる。

●これは、とくにアジアにおけるバランス・オブ・パワーが中国へとシフトしつつあり、台湾が中国からの攻撃から守ることができなくなるまでそれほど時間がないという意味では、台湾にとっては明らかに悪いニュースだ。

●したがって、ここで明らかに問わなければならない質問は「アメリカは台頭する中国に直面する中で、台湾に安全を提供することができるか?」というものだ。これをいいかえれば、「台湾はアメリカに安全保障を頼ることができるのか?」ということにもなる。

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●アジアにおけるアメリカの目標と、それが台湾にどのような関係性を持つのかについて考えてみよう。

●地域覇権国は、他の地域で他の大国が地域覇権国になることを阻止しよう必死の努力をする、ということはすでに述べた通りだ。そしてすべての大国にとって最高のシナリオは、国際システムの中における唯一の地域覇権国になることである。

●歴史の例からも明らかなのは、アメリカがこのロジックにしたがって行動しているということだ。アメリカは競争相手の出現を許さないのである。

●20世紀には地域覇権を目指すだけの能力を持った4つの大国が出現した。1900年から18年までのドイツ帝国、1931年から45年までの大日本帝国、1933年から45年までのナチス・ドイツ、そして冷戦期のソ連である。

●当然のように、この4つの大国は、アメリカが西半球で達成したことを真似ようとした。

●それに対して、アメリカはどのように対処したのだろうか?実際のところ、アメリカはこれらの国々の覇権の達成を打倒・排除する面で、大きな役割を果たしたのだ。

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ちょっと短いのですが、切りが良いのでここまで。

続きはまた今夜アップします。


by masa_the_man | 2014-04-30 09:41 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は明け方によく晴れていたのですが、昼前になってから雲が出てきております。けっこう暑くなってますね。初めて半袖で外に出ました。

さて、昨日のエントリーのつづきを。ミアシャイマーの台湾論文の第2弾です。

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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー

●安全保障に関係したロジックのほうは話が別である。そしてこれは「中国の台頭」という話と切り離すことができない。

●とくにこれは、以下のような直球そのものの深刻な質問に関係しするものであると言える。それは、「時間を経て強力になるにつれ、中国はアジアでどのような態度を見せるようになるのだろうか?」というものだ。そしてそれに対する答えは台湾にとっても明らかに大きな結果を伴うものだ。

●台頭する中国が周辺国やアメリカに対してどのような態度をとるのかを予測するための唯一の方法は、大国政治の理論を使うことだ。

われわれが理論に頼らなければならない主な理由は、われわれにはまだ起こっていない「未来」についての事実を持っていないからだ

●トマス・ホッブスはこの点について、「現在というのは本質的に形成されつつあるものであり、過去の出来事は記憶の中だけに生きているものである。ところが未来の出来事というものはそもそも存在してもいない」とうまく指摘している。

●したがって、われわれは世界政治においてこれから何が起こるのかを見極めるためには、理論に頼る以外の方法は残されていないのだ。

●私の提唱する国際関係の現実主義の理論によれば、国際システム(the international system)の構造によって、安全保障に懸念を持つ国々は互いにパワーをめぐって競争に駆り立てられる、ということになる。

●そしてその中の主要国の究極のゴールは、世界権力の分配を最大化することにあり、最終的には国際システム全体を支配することにあるというものだ。

●これが現実の世界に現れてくると、最も強力な国家が自分のいる地域で覇権を確立しようとする動きになり、ライバルとなる他の大国がその地域で圧倒的にならないように動く、ということになる。

●さらに具体的にいえば、国際システムには大きくわけて3つの特徴があることになる。1つは、このアナーキー(無政府状態)のシステムの中で活動している主役は国家であり、これは単純に「国家よりも上の権威を持つアクターが存在しない」ということを意味する。

●2つ目は、「すべての大国が軍事的にある程度の攻撃力を持っている」ということであり、互いに傷つけあう能力を持っているという事実だ。

●3つ目は、「どの国家も他国の意図を完全に知ることはできない」ということであり、これはとくに未来の意図の場合は不可能になるということだ。たとえば2025年の時点でドイツや日本の意図が周辺国に対してどのようなものになっているのかを知るのは単純には不可能だということだ。

●他国が悪意を持つ可能性があり、しかもそれなりの攻撃力を持つ世界では、国家は互いを恐れる傾向を持つことになる。そしてこの恐怖は、アナーキーな国際システムの中に何かトラブルがあっても大丈夫なように国家を一晩中見張ってくれる、夜の警備員のような存在がいないという事実によっても増幅する。

●したがって国家というものは「国際システムの中で生き残るための最良の方法は、潜在的なライバルたちと比べてより強力になることにある」と認識しているものだ。ある国家の力が強ければ強いほど、他国は攻撃をしかけようとは思わなくなるからだ。

●たとえば「カナダやメキシコがアメリカを攻めてくるかもしれない!」と恐れているアメリカ人はいないのだが、これはこの2国がアメリカと戦おうと考えられるほど力が強くないからだ。

●ところが大国というのは、単に大国の中で最強になろうとするだけ(もちろんこれは歓迎すべき結果かもしれないが)ではない。

●彼らの究極の狙いは「唯一の覇権国」(the hegemon)になることであり、これは国際システムにおける唯一の大国になるということを意味する。

●現代の世界において「覇権国」になるということは、一体何を意味するのだろうか?

●いかなる国にとっても、世界覇権国になることはほぼ不可能である。なぜなら、世界中でパワーを維持しつつ、遠くに位置している大国の領土にたいして戦力投射することはあまりにも困難だからだ。

●そうなると、せいぜいできるのは、自分のいる地域で圧倒的な存在になり、地域覇権国(a regional hegemon)になることくらいなのだ。

●たとえばアメリカは1900年あたりから西半球における地域覇権国となっている。もちろん今日の世界においてアメリカは最強の国家だが、それでも「世界覇権国」(a global hegemon)ではない。

●地域覇権を達成した国というのは、それ以上の狙いを持つものだ。彼らは他の地域にある他の大国が自分と同じようなことを達成するのを阻止しようとするのだ。いいかえれば、地域覇権国というのはライバルを持ちたくないものだ。

●彼らは他の地域をいくつかの大国が林立する状態にしておきたいと思うものであり、これによってこの地域にある国同士は互いに競争し、自分の方に向けられるエネルギーの集中を不可能にしてしまえるのだ。

●まとめて言えば、すべての大国にとって理想的な状態は「世界の中で唯一の地域覇権国になること」であり、現在のアメリカはこの高いポジションを享受できていることになる。

●この理論に従えば、将来台頭してくる中国は、一体どのような行動を行ってくるのだろうか?

●この答えをシンプルに言えば、「中国はアメリカが西半球を支配したような形で、アジアを支配しようとする」ということになる。

中国は地域覇権を目指すようになる。とくに中国は自国と周辺国(とくにインド、日本、そしてロシア)とのパワーの差を最大化しようとするはずだ。とにかく最も強力になって、アジアの他の国々が自分のことを脅せるような手段を持てないようにすることを目指すはずなのだ。

●ところが、これは中国が他のアジアの国々で暴れまわって征服することができるほどの軍事的優位を追及しているということでは(もちろん常にその可能性は存在するが)ない。

●むしろより実情に近いのは、中国が自分に許される行動の範囲を拡大して、それを周辺国に認めさせたいということだ。そしてこれはアメリカが南北アメリカで自分がこの地域の「ボス」であることを認めさせていることと近い。

●また、中国がさらに強力になれば、アメリカをアジアから追い出すことになるのは確実であり、これはアメリカが19世紀にヨーロッパの列強を西半球から追い出したのと同じなのだ。われわれは中国が1930年代の日本がやったように、独自の「モンロー・ドクトリン」を持ちだしてくることを予測すべきなのだ。

●そしてこのような目標は、中国にとっても戦略的な合理性を持つものだ。北京政府は日本とロシアを軍事的に弱めたいと思うものであり、これはアメリカが隣国であるカナダとメキシコを軍事的に弱いままにしておきたいと思っているのと同じである。

●まともな考えを持つ人物であれば、自分のいる地域に強力な国家が位置している状態は避けたいと思うはずだ。その証拠に、すべての中国人は、日本が強力で中国が弱かった過去の2世紀に起こったことを、確実に覚えているのだ。

●さらにいえば、強力になった中国は、自国の裏庭で米軍が活動している事実を受け入れようとは思わないはずだ。

●これと逆にことを考えてみればわかりやすい。アメリカの政策家たちは、西半球に他の大国が軍隊を送り込んできた場合には激怒するはずだ。この外国の部隊は、アメリカの国家安全保障に対する潜在的な脅威と見なされることは確実なのだ。

●そしてこれと同じロジックが、中国にも当てはまる。米軍が自国の玄関口に派兵されていることについて、中国は全く安心できないのだ。モンロードクトリンのロジックに従えば、中国の安全保障は、米軍をアジアから追い出すことによって改善することになる。

●なぜわれわれは中国がアメリカと異なる行動をすると思い込んでいるのだろうか?中国のリーダーたちは、アメリカのリーダーたちよりも強い道徳的観念を持っているのだろうか?より倫理的であろうか?ナショナリズムが抑えめになっている?生き残りにそれほど懸念を持ってない?

●これらの疑問に対する答えは、当然のように、すべて「ノー」だ。だからこそ、中国はアメリカを真似して、地域覇権を目指す公算が高いことになる

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今回は自身のオフェンシヴ・リアリズムの理論の説明がメインでした。次回はいよいよアメリカの対アジア政策などの本論に入ってきます。

つづきはまた後ほど。



by masa_the_man | 2014-04-29 11:52 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部はよく晴れまして、ほとんど初夏のような陽気でした。

さて、個人的にいくつかの対外的なイベントが一段落しましたので、少し落ち着いて気になっていた学術論文の要約を。

これは最近ナショナル・インタレスト誌に発表された、ミアシャイマーの台湾に関する論文です。日本でも一部のメディアでは取り上げられてましたね。

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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー

●「中国の台頭が続いている」という事実は、台湾にとって何を意味するのだろうか?

●ただしこれは今日や来年の話ではない。台湾が本物のジレンマに直面するのは数十年先の、経済成長が(確実とはいえないが)続いて、今日よりもはるかに強力になった中国に直面した時の話だ。

●現在の中国は、軍事力の面ではそれほど強力であるというわけではない。軍隊は粗悪であり、米軍にははるかに及ばない存在だ。現在の状態で米国に軍事的に闘いを挑んでしまえば、北京政府にとっては取り返しのつかない失敗につながるだけだ。

●いいかえれば、中国は現在の世界のバランス・オブ・パワーに制約を受けているのであり、しかもそのバランスは明らかにアメリカに有利な方へ傾いている。

●ところがパワーというのは同じ場所に留まっていることはほとんどない。

●ここで本当に重要となる質問は、「バランス・オブ・パワーが台湾とアメリカにとって極めて不利に傾き、中国が現在よりも相対的に遥かに多くのパワーをコントロールしていて、しかもアメリカと同じ規模の経済力と軍事力を備えてしまっているような未来の世界で、一体何が起こるだろうか?」というものだ。

●つまりこれは、中国が現在よりもはるかに制約を受けていない状態にある世界、ということだ。これはありえないように思えるし、不吉な感じがするものであるが、それでも実際にそのような時代が来るかもしれないのだ。

●これは私の確信である。中国の台頭の継続は、台湾にとって大きな結果をもたらすことになり、しかもそのほとんどが台湾にとって悪いものになるはずだ。

●中国は今日に比べて遥かに強力になるだけでなく、しかも台湾を自国の領土の一部にすることについては、引き続き真剣に取り組んでいくはずなのだ。

●さらにいえば、中国はアメリカが西半球で行ったのと同じようにアジアを支配しようとするだろう。これはつまり、アジアにおける米軍のプレゼンスを(消滅させるまでには至らないにしても)低下させようとし続けるということだ。

●もちろんアメリカは、これについて激しい抵抗をするだろうし、中国の台頭する国力を封じ込めようと必死で努力するはずだ。そこから起こる安全保障競争は、どのような結果になろうとも、台湾にとっても都合の悪いものであるのは確実だ。時間は台湾の味方ではないのだ。

●以下でこれから述べるのは、アメリカと中国、そして台湾の間で一体何が起こるのかを予測したものである。

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●ほとんどの台湾人にとって理想なのは、主権を得て国際的にも「独立」を承認されることであろう。これが魅力的なのは、過去の65年間で台湾人の間に(中国とは異なる)「台湾」という強力なアイデンティティが生まれたことに原因がある。

●自分たちのことを「台湾人」とみなす人々は、自分たちの国民国家を当然欲しいと思うものであり、中国本土の一つの「省」になることには。ほとんど意欲を示していない。

●台湾の国立政治大学にある選挙研究所の調査によれば、1992年には台湾在住の17.6%の人々しか自分たちのことを「台湾人」だと感じていなかったという。ところが2013年にはその数が57.5%に上昇しており、明らかに多数派になってきている。「中国人」と答えた人はたった3.6%だったという。

●さらにいえば、2011年に行われた台湾国家安全保障調査によれば、もし台湾が独立宣言を行っても中国本土から攻撃されないことが確約されている仮定した場合、実に80.2%もの台湾人が独立を選ぶ、と答えたという。

●また、別の最近の調査では、台湾人の80%もの人々が、台湾と中国が別々の国であると見なしていることが判明している。

●ところが台湾は、予見できる将来において、公式な独立を獲得することはない。その主な理由は、本土の中国が、そのような結末を看過するわけがないことにある。

●実際のところ、中国は「もし台湾が独立を宣言したら戦争を仕掛ける」と明言している。2005年に制定された「反分裂国家法」では、台湾が独立への動きを示した瞬間に「(北京)政府は非平和的手段やその他の手段をとる」ということを明らかにしている。

●さらに注目すべきことは、アメリカも台湾を主権国家として認めていないということであり、オバマ大統領によれば、ワシントン政府は「一つの中国という政策を完全に支持」しているのだ。

●したがって、台湾が予見できる将来にわたってせいぜい望めるのは「現状維持」であり、これはつまり「事実上の独立状態」であるということだ。その証拠に、前述した国立政治大学の選挙研究所が去年の6月の調査結果によれば、90%の人々が半永久的、もしくは将来のいつかの時点まで現状維持を続けるべきだと答えているという。

●起こりうる中で最悪のシナリオは、北京の主導による中国との統一である。

●もちろん統一というのはさまざまな方法で起こりうるものだ。おそらく最もマシなものとしては、台湾が現在の香港のように、かなりの自治的な状態を保った形での統一であろう。北京の主導者たちは、このような解決法を「一国二制度」と言っている。

●ところがこのような解決法は、台湾人には受けが良くない。ある記者が言うように、「台湾の大多数の人々が、たとえば有利な条件であったとしても統一には反対しております。長期的な追跡調査でも、統一への支持が段々と落ちてきていることが示されています」というのだ。

●端的にいえば、事実上の独立状態というのは、その政治的な状況がどのようになろうとも、「中国の一部になる」よりは、はるかに好ましい選択肢なのだ。

●ところが台湾にとって決定的な質問は、「台頭しつつある中国に直面しても、統一されるのを避け、事実上の独立状態を維持できるのか?」というものだ。

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●では中国の側から見た場合はどうであろうか?彼らは台湾をどのように考えているのだろうか?

●中国の台湾についての見方には、二つのロジックがある。一つはナショナリズムと共に発展したものであり、もう一つは安全保障に関係したものだ。

●ところがこの二つのロジックは、最終的には同じ結論に到達してしまう。それは「中国と台湾の統一」である。

●まずナショナリズムの方の話だが、これは非常にわかりやすい。中国は台湾を自国の一部にすることについて真剣に取り組んでいるからだ。

●中国のエリートたち(と国民)にとって、台湾は決して主権国家になってはいけない存在だ。この場所は古代から中国の聖なる領土の一部なのであり、中国がまだ弱かった1895年に、憎き日本に取り上げられた場所だという

●そしてこの島は、再び中国の一部として統合されなければならないのであり、2007年に胡錦濤は第17回全人代で「両岸は中国国家の再生の過程で再統一される運命にある」と述べている。

●中国と台湾の統一というのは、中国側の民族主義的なアイデンティティの中核をなすものの一つであって、この問題に関して妥協は全く許されないものなのだ。その証拠に、北京政府の正統性(レジティマシー)の中には、台湾の独立国家化を防ぎ、将来的には統一することを確実にする、ということが含まれているのだ。

●中国の主導者たちは、台湾の吸収がなるべく早く行われるべきであり、しかもそれが平和的になされれば良いと主張している。それと同時に、彼らは「いざとなれば軍事力の行使も選択肢の一つである」ということを明確にしている

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まだまだ先は長いので、続きはまた明日。


by masa_the_man | 2014-04-28 22:58 | 日記 | Comments(0)

孫崎享氏の講演を聞いた

今日の横浜北部はよく晴れまして、気温も上昇。春を越えてすっかり初夏の陽気かと思いました。

さて、戦略研究学会の年次大会に出席してきたのですが、孫崎享氏の特別基調講演を聞きましたので、それについて少し。

噂に聞いていた孫崎氏の講演ですが、まずタイトルは

東アジアの安全保障を考える

というものでして、氏の肩書は、

「東アジア共同体研究所所長、元外務省国際情報局長」

というものでした。

具体的な内容についてはすでにTwitter上で中継した通りなのですが、大きな流れとしては、まずは今回のオバマ訪日における記者会見での日本メディアの報道の仕方が極めて恣意的なものであったという指摘からはじまりました。

次に米軍の高官が上院に対して「上陸作戦ができない」と明言していたことなどを指摘しつつ、そもそもの戦略の定義とはどういうものか、それに歴史的経緯から、日本にとって領土問題が最優先の議題ではなかったこと、米中がもう軍事衝突をしないという方向に動いていることなどを次々と指摘。

また、日中間には戦前の日米間以上の戦力差があるとして、「戦えない」という前提から戦略を考えなければならないと言明してから、米国の東アジア戦略には四つの選択肢があること、最後に棚上げ論が最適であるとして話を終えました。

まず話を聞いて思ったのが、意外とゆっくり、しかもハッキリしゃべるので、聴衆側としては聴きやすいという点。

これはその前のセッションに出てきた首藤元衆議院議員の、少し焦った感じの速いしゃべりかたと比較すると、その聞きやすさが全然違います。

ただし講演の内容はかなり断定調の政治的なものでありまして、正直なところ、学会の基調講演としてははどうかな、と思ったところがいくつかありました。

個人的に気になったのは以下の3点。

1,クラウゼヴィッツの悪用

『戦争論』の中の、とくに1827年以前の「観念主義者としてのクラウゼヴィッツ」の典型である「敵軍の殲滅」を説いた部分を、恣意的に引用して「古い戦略論だ」と一蹴。

つまり氏はクラウゼヴィッツが「相手や周囲との関係から最適解を導き出す」ということを考えずに、ひたすら「敵の打倒」を目指していたという点でダメだ、と言いたいらしいのです。

これはリデル・ハートに代表されるクラウゼヴィッツ批判の典型的なものですが、実はクラウゼヴィッツ自身も「トランプ遊びと同じで、相手の出方が重要」と述べておりまして、「敵の打倒しか考えていない」という孫崎氏の指摘は正確ではありません

彼はどうもシェリングのゲーム理論に希望を求めているようですが、戦略論の世界ではシェリングが出てきたために、逆に昔のクラウゼヴィッツの議論の中にすでに同じようなことが述べられていたことが再発見されたという経緯があります。

見方によれば、実はクラウゼヴィッツの理論ほうが「相手」という存在を意識していた関係から「古くて新しい理論」とも言えるわけです。

2,日本の中国に対する現状認識は間違っている?

もちろん日本の中国に対する脅威認識については「距離」という地理的な問題がありますから、それなりにバイアスがかかることは理解できますが、それでもPEWリサーチの意識調査の結果を元にして、

「諸外国は中国がアメリカを経済的に抜くかもと答えているのに、日本だけは中国がアメリカの経済を抜くことはない

として、希望的観測(?)を元にして現状を見誤っているからダメだ、という議論を展開します。

ただしここで問題なのは、その「岡目八目」的な諸外国(欧米諸国)で、中国に関する情報が日本と比べてメディアでどれだけ流されているかが微妙だという点や、すでに述べたような、中国の隣という日本の地理的な事情というものをほとんど考慮していないという点です。

「中国が本当にアメリカを経済的に抜くかどうか」という意識調査の結果と、その予測と現状認識の正確性とは、実質的には全く関係ないという点を、孫崎氏は意図的に混同しております。

3,日中の軍事バランスは、戦前の日米間以上に、日本にとって圧倒的に不利

これもよくわからない前提でした。

そもそも軍事バランスが「圧倒的に不利」って本当なんでしょうか?戦前の日本とアメリカと同じくらいってのは言い過ぎでは?

アメリカの「核の傘」が効いていない!という点はまあわからないではないとしても、とにかく現時点でも中国に軍事的に圧倒されている、もしくは圧倒されるのが時間の問題なのだから、日本にはオプションがない、だから棚上げ・現状維持に務めよというのは、かなり論理の飛躍があるような気が。

実は私はこの「核の傘」の話の時点で、いつ孫崎氏が「だから日本は核武装しなければならない!」と言い出すのかと内心ヒヤヒヤしておりました(笑

まあそれは冗談としても、逆に日本としては「軍事・非軍事分野でのあらゆる抑止力の強化に務める」という方向に話がいかなかったのが、大いに疑問のところ。

本当に「他にオプションがない」んでしょうか?

もうちょっと知恵をしぼった、創意工夫のある分析や意見が欲しかったところです。

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と、気になったところをいくつか挙げてみたのですが、私はとくに孫崎氏は「中国のエージェントである」とは感じませんでした。彼はどうやら本気で、心の底からこのような議論を主張しているように思えたからです。

ただし問題は、「彼の主張が、向こう側にとってはかなり利用価値のある魅力的なものに映っている」という点です。

少なくとも私が北京上層部の人間であったら、絶対に(良い意味でも悪い意味でも)利用させていいただきたい人物かと。

ということで、実につたない感想でしたが、かなり知的刺激を受けましたので、メモ代わりに書いてみました。

明日は昼すぎから幕張メッセに行ってます。「H2-43 オンザボードブース」におります。


by masa_the_man | 2014-04-26 23:07 | 日記 | Comments(13)
今日の長良川は快晴でした。昼間は上着なしでもいいくらいでした。

ここ連日は色々なところに出張して忙しくしておりました。土曜日は学会の大会で司会をしまして、日曜日は幕張で生放送です。

そのような中で、数日前に面白い話を聞いてきましたので、そのネタについて少し。

エドワード・ルトワックと言えば、私が翻訳した『自滅する中国』以外にも、そろそろ出版される『エドワード・ルトワックの戦略論』でも有名な戦略家であることは、本ブログをご覧の皆様でしたらご存知の通り。

この人、話を聞くと、ほぼ毎年のペースで来日しているようで、前回日本に来たときに、このルトワックの講演を聞きに行ったある政府関係者の方に聞いた話。

この彼は、まさに『自滅する中国』で展開されている内容の話をこの時の講演会で聞いたらしいのですが、最後の質疑応答の時間に、以下のような質問を、ルトワック本人にぶつけてみたそうです。

1,日本がとるべき戦略は?

2,戦略を練るには具体的にはどうすればいい?

そしてこれに対するこたえは、なかなか刺激的なものだったそうで、

1,日本人はもっと子供を産んで増やせ

2,サロンをつくれ

というもの。これだけだとなんだかサッパリわかりませんが、要するに彼が言いたかったのは、人口減少は国力の衰退に直結するので、もし東アジアで現在くらいの生活水準を維持したいのであれば、国力、経済力、そして社会保障制度を支えることができるだけの税金を支払ってくれる「これからの若年層」がいないとダメ。

そして今のままでは先細りが必至なので、これから一気に子供を増やさないと(中国などに対抗する上での)国力の維持ができない。無理でもいいから子供を増やせということでした。

もう一つの「サロン」ですが、これはもっと非公式なところで外交や安全保障を考える人々のグループが定期的に集まれる場をつくって、そこで人脈のネットワークを構築しておけ、ということなんでしょう。

ヨーロッパの場合はそれがもうちょっとフォーマルなものになってチャタムハウスのような存在につながっていったと言えますし、イギリスの場合はオックスブリッジ、フランスの場合はエコール・ノルマルのような学閥系の人脈もありそうな。

ただし日本でこれをやる場合には、無理に高級なホテルなどでやる必要はなく、別け隔てなくできる「居酒屋」という便利なものがありますので、これを活用しない手はないかと。

また、原則として、この会議で発言したこは外にもらしてはいけない、というようなルールを互いに作っておくことも重要かと思います。そうでないと、自由な発言ができませんので。

ちなみにルトワック自身は、「アメリカにはサロンがないので、アメリカには戦略がない」と断言していたそうであります。

なかなか示唆に富む視点かと。


by masa_the_man | 2014-04-24 22:54 | 日記 | Comments(8)
昨日のエントリーの続きです。

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さて、すでにお知らせした、うちの大学の学部がイギリス国防省と共催した「対暴動」(Counter Insurgency: COIN)の戦略のセミナーについての続きを書きます。

現ブッシュ政権がイラクで実行している「サージ」という作戦のブレーンであるジョン・ネーグルの発表が終わってから、質疑応答の時間になりました。

ここで最初に質問したのは私の先生だったのですが、これはまさに私が以前のエントリーで紹介した議論の内容とそっくりで驚きました。

まずネーグルのほうはいわゆる「クルセーダース」と呼ばれる、「陸軍を全面的に文化学習させろ!」という主張をする陣営でして、陸軍の組織改革(対暴動能力の強化)を全面に押し進めようとする側。

ところが私の先生の意見は「保守派」と呼ばれ、「陸軍は戦う組織でなければならない」と主張して、既存の武器システムなどは残し、そんなに劇的な改革は必要ないとする陣営に入ります。

今月号のアトランティック誌で紹介された論争というのは、このような対立軸を中心にして行われていたわけですが、うちの先生もこの事例に漏れず、ネーグルの議論を聞いて自分がジェンティールと同じ「保守派」に属することを察知したらしく、

「ちょっと待て、君が私のマスターコースの生徒だったら落第だ!」

といきなり失礼なことを言ったのです(苦笑

これにはさすがのネーグルも面食らった様子でしたが、とりあえずうちの先生の言うことを最後まで聞いてみようということに決めたようで、神妙な顔つきで聞いておりました。

まず私の先生の主張ですが、以下のようにいくつかの要点をあげました。

1、戦略は創造的な活動である
2、戦略は勝つための理論だ
3、戦争(war)と戦闘行為(warfare)は違う
4、ドクトリン(doctrine)と理論(theory)は違う
5、戦争の本質(nature)と様相(character)は違う

まず最初の1と2については完全に先生の主張する単なる前置きとしての主張だったのですが、問題は3〜5の三つです。

とくに先生側としては主張したかったのは5の部分でして、ネーグルの主張はまるで論敵であるマーチン・ファン・クレフェルトの「時代が変わってクラウゼヴィッツの理論は不要になった」という主張や、や、LSEのメアリー・カルドーらの「戦争の本質が変わってしまった」という議論と重なって聞こえるらしいのです。

クラウゼヴィッツ主義者の先生としては、これは許しがたいことなんですね(苦笑

また、3や4についてはネーグルがあまりにも「ドクトリン中心主義」になっていて、もっと高いレベル(=戦略)で物事を捉えていないと批判し、結局のところはあまりにもCOINだけに特化しようとするのはどうか?核の脅威だってあるし、グルジアで見られたように通常戦争だってあるはずだ、という保守派ならでは意見で締めくくっております。

それに対してネーグルはどう答えたのかというと、たしかに「戦争の本質」などの言葉使いには注意すべきであることを認めつつ、自分自身はウィリアムソン・マレーのような歴史的分析が一番重要であると思うと言い、最も気にかけているのは、いままでのように軍事(戦闘)力が決定的でなくなってきたこと、そして孫子のいうような「戦わずして勝つ」という部分である、ということでした。

またもう一つの反論として、ネーグルは米陸軍のCOIN対策への予算の配分がまだ全予算のうちの5%以下しか使われていないことを挙げており、これだけじゃあまりにも少ないからもっと投入しよう、というのが彼の真意であることを述べて、とりあえず決着ということになりました。

面白かったのは議論のあとの昼食の時間に、うちの先生とネーグルが仲良く連れ立って一緒に食事をしていたことですね。

私も二人の会話をそばで聞いていたのですが、「戦略文化」などの話をしていて、思ったより意気投合している様子でした。


by masa_the_man | 2014-04-22 07:00 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から小雨が続いております。

午前中に某幹部学校で講演してきましたが、三時間連続だったのでさすがに疲れました。明日も三時間がんばります。

さて、以前のイギリス留学時代のエントリーを、自分の勉強がてらにここに再掲します。ランドパワーの理論について参考になるものがありましたので。

肩書などはいずれも当時(2008年10月)のものであることをご留意いただければ。

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すでにお知らせしたように、ここ二日間は、うちの大学の学部がイギリス国防省と共催した「対暴動」(Counter Insurgency: COIN)の戦略についてのセミナーに参加しました。

参加者はなかなか豪華で、現役の英陸・海軍のジェネラル(将軍)や、キングスカレッジの教諭たち、そしてアメリカから数人の国防知識人が来ておりました。

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(会場の様子)

中でも個人的に注目だったのは、ここでも先日ご紹介したジョン・ネーグル(John A. Nagl)です。

このネーグルという人物は、世界の戦略学の生徒たちの間では名前を知らない人はいないと言われるほど有名人なんですが、その理由は彼が現在のイラク戦争におけるペトレイアス将軍のブレーンだからです。

彼は陸軍士官でありながらローズ奨学生としてオックスフォード大学でイギリスのマレー半島の対暴動の活動を詳細に研究した博士号論文を書きました。

その論文を本にしたのがこれ↓であり、すでに世界中の戦略学の生徒や国防計画作成関係者たちにとって必読文献となっております。

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Learning to Eat Soup with a Knife: Counterinsurgency Lessons from Malaya and Vietnam
by John A. Nagl

本ブログでは、今月号のアトランティック誌でアンドリュー・ベイセヴィッチが書いた米陸軍周辺で行われている議論における一方の論客(クルセーダース)、と言えばおわかりいただけるでしょうか。

二日目の今日は、この人が午前中のセミナーの最後の発表者だったわけですが、面白いことに私の先生がこのネーグルに質問して噛み付くような場面があったのです(笑

これはどういうことかというと、ネーグルに代表される「クルセーダース」と、ジェンティールに代表される「保守派」の、いわば「代理論争」が、運の良いことに私の目の前で繰り広げられたということなのです。
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(代理論争勃発の決定的瞬間)

もちろんネーグルは色々なところで発表しているので、パワーポイントを使っての説明には非常に手慣れた様子です。ただしあまりジョークを使わないので、若干湿った感じの発表になるのがやや気になりました。
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(発表を行うネーグル)

彼は発表開始直後から、自分とジェンティールとの論争が今月号のアトランティック誌でまとめて紹介されていることを指摘しつつ、現国防長官であるロバート・ゲーツのことを高く評価しながらその言葉を何度か引用して発表を進めました。

ネーグルは特にゲーツが陸軍に対して「もっと準備せよ」と厳しい表現を使った最近のスピーチを使いつつ、

「学習する組織としての米陸軍」(The U.S. Army as learning institution)

という概念を盛んに主張します。

そういえばビジネス戦略などでは日本の組織は戦略的に「学習派」(learning school)であるという指摘がありましたが、ネーグルはアメリカの陸軍こそがこうしなければならない、と言いたいらしいのです。

ここで彼が強調したのは、「適応」(adaptation) と「学習」( learning) は決定的に違う概念である、ということです。

なぜなら前者は瞬間的なものであり、過ぎてしまえば元に戻ってしまうことを示しているのに対して、後者のほうはその効果が恒常的で、その後の流れを完全に変えてしまうものだからです。

もちろんネーグルが目指しているのは、アメリカ陸軍が「学習」することなんですね。

ここからネーグルは米国空軍の天才パイロットであったジョン・ボイド(John Boyd)の概念である「OODAループ」は実は組織にも使えるものであるとして、やはり組織も学習すべきなのだと論じます。

そういえば欧米の戦略学の文献を読んでいると必ず見かける「作戦のスペクトラム」というのがあります。
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ネーグルはこれと全く同じような図をスライドで使いながら、

「現在の軍事作戦における戦闘(コンバット)の比率は少なくなった」

と主張しました。たしかにこの図だけ見ると、軍隊が戦うという機能は五つの柱の内の一つだけになってしまいます。

しかも彼はここで、この図でもわかるように、これらの全体のオペレーションを包み込む役割を果たしている「情報作戦」(information operation:大きい灰色の矢印)が決定的に重要である、と説いたのです。

ここですかさず会場からコメントが出たのですが、それは、

「情報作戦という名前はどうかねぇ」

というものでした。

ネーグルはつい先日も同じような指摘を受けたということを認めて「影響作戦」(influence operation)という名前にしたほうがいいかも知れない、と回答。

しかしここでまた大きな問題に直面します。それはこの「情報・影響作戦」を一体誰が行うのか、という問題なんですね。

このように問題のある概念が含まれていることを認めつつも、彼は自分の最も重要な主張を行います。それは

軍事的に勝つのではなく、総合的に勝たなければならない

というものです。

たしかに戦争では、軍事的に勝っていても政治的に負けているという例はいくらでもあります。だから最近の戦略学でも「正統性」(レジティマシー)の重要性がさかんに言われてきたわけです。

最後にネーグルは、現在のアフガニスタンの紛争で米陸軍は学んでいる最中であることを強調しつつ、

1、これからは対暴力(COIN)が陸の戦いの中心になる
2、陸軍は学習する組織にならなければいけない
3、陸軍は「長期戦争」にトランスフォーメーションさせていくべき

という三つの結論にまとめて話を終えております。

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この続きは明日掲載します。


by masa_the_man | 2014-04-21 18:30 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は朝のうちはけっこう晴れていましたが、午後から曇って風も強くなり、けっこう寒くなりました。

ここ数日はけっこう色々なところに顔出しておりまして、来週からはいよいよ某幹部学校で戦略思想家、そして某局で戦略そのものについて講義をすることに。

そのための準備で色々と忙しくしております。

さて、本日はエアパワー関連の本について紹介しようと思ったのですが、立ち読みした本があまりにもすごい「戦略本」だったので、こちらのご紹介を。

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スリム美人の生活習慣をマネしたら 1年間で30キロ痩せました
by わたなべぽん

マンガで女性向き、しかもダイエット本です。1時間もかからずに読めます。

「なんじゃそりゃ?!ブログの主旨と合ってないんじゃね?」

とお感じのかたもいらっしゃると思いますが、いやいやどうして、なかなかすごい「戦略」本です。

中身は女性の著者が、95キロあった体重を色々とやることで1年で30キロ落とした、という話を、ドキュメンタリータッチでマンガで描いたものです。

これのどこが一体「戦略」なんだと思いきや、冒頭から「世界観」の話に始まり、OODAループや「摩擦」、そして「累積戦略」や「順次戦略」、さらには「ファースト・イメージ」とほぼ同じ考え方などが、これでもかというくらい頻繁に出てきます。

おそらくこれを描いた本人は、戦略的な概念などは全く知らないまま実行され、その経緯を描かれたはずだと思いますが、よくよく考えてみると実に戦略思考に則った合理的なものばかり。

最も印象的なのが、あとがきの部分にある、

●リバウンドを繰り返してきた私に一番必要だったのは、「やせる方法」よりも「太らない生活」だったのかもしれません。(p.118)

という言葉。

おそらくこのマンガの中で最もよく描けていると思うのは、少しずつ成功を重ねていったときに自分の世界観が変わっていく流れをうまく捉えているところでしょうか。

なぜ私にこの本がピント来たかというと、実はカナダ時代に私も猛烈に太りまして、一大決心をしてから15キロほど痩せた(しかもリバウンド無し)経験を持っているからです。

ちなみにカナダに留学している時は、日本人の女子留学生の中に「日本から来ると最初の一ヶ月で平均7キロ太る」という都市伝説(!)がありまして、それがまったく不思議と感じないくらいまわりでブクブク太っていった子を見かけました。

まさか自分がそれほど太るとは思っておりませんで、事実、留学の最初の3年間はほとんど太ってなかったのですが、その後になぜか一気に太りまして、あわてて自分でダイエットをしたという体験があります。

なので、定期的にこの手の本は書店などで気になって手にしてしまうわけですが、まさかここまで戦略的によく書けているとは思わなかったのでご紹介してみたくなりました。

ぜひご参考まで。


by masa_the_man | 2014-04-19 21:48 | 日記 | Comments(1)

プーチンのメディア工作

今日の甲州は霞がかかっておりましたが、それでも朝から晴れておりました。

友人がイギリスから来ておりまして、今日から東京観光を本格的に始めるそうです。京都、大阪、山梨と回ってきているのですが、大阪の人はフレンドリーだけと英語が全然通じなかったと言っておりました。

さて、昨日Twitterのほうで紹介した、プーチンのプロパガンダ工作についての記事の要約です。

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一つの国家に一つの声:プーチン・ロシアにおける報道制御
by マキシン・ディビッド

●ヨーロッパで実際に戦争が起こるかどうかは議論されているが、すでに言葉を使った戦争はロシアで実行されており、これによってプーチンの人気は増加し、西側の人気は下がっていると言える。

● これはEUがクリミア併合の結果としてドミトリー・キーセリョフという親ロシアのテレビ・ジャーナリストの個人資産凍結を示唆していることからも明白だ。

●クレムリンがプーチンの政権復帰からプロパガンダ活動を積極的に行っていることに気づいているのはEUだけではない。ジャーナリストの権利を保護する団体であるCPJがプーチンに宛てて書いた手紙で示されているのは、ロシアで実際に抑圧が起こっているということだ。

●皮肉な見方をする人々は、このような高いレベルのプロパガンダは、クリミア併合の結果としてロシアの一般市民が被る政治・経済的なインパクトが感じられる前に国民の支持を広く集めておきたいとする、プーチンの狙いによって行われていると見ている。

そもそもクリミアはウクライナの他の地域からの補助金に大きく頼っており、その負担を今度はロシアが背負うことになったのだ。

●ウクライナがあらゆる分野で経済的に問題をかかえていることはよく知られており、もし他の地域が独立するとなると、ロシア国民がその債務を引き受けなければならなくなってしまうのだ。

●現在の経済制裁はプーチン周辺の政治エリートたちを狙い撃ちしたものだが、この効果はまだ下の方まで降りてきてはいない。よって、ロシアにとってみれば、後で問題が出た時のために今のうちからスケープゴートを準備しておくのは合理的なのだ。

●より皮肉ではない見方からすれば、プロパガンダ作戦は「国家を一体化させるための試み」であるとみなすこともできる。

●これはプーチンが去年9月に行った「精神、文化、民族自決がなければ前進できないし、内外の問題にも対処できず、グローバルな競争にも勝てない」というスピーチにも明示されている。つまりロシアの明確なアイデンティティ構築が優先されているというのだ。

●扇動作戦は、プレハーノフとレーニンの伝統にもあるように、民衆の意見を味方につけて主導し、このスピーチに従う形で行われたのだ。

●したがって、西側諸国の悪行はあばかれ、「半分の真実」と、誤った情報を流すキャンペーが開始され、一般国民の恐怖と不満は、政治的な効果を発揮するために活用されることになったのだ。

このキャンペーンの「世界観」では、ロシアの未来はまずい国内の政策や、経済改革の失敗ではなく、むしろホモセクシャル(大抵は小児性愛者として描かれる)、移民、敵対的な西洋諸国の軍隊、ファシスト(ロシアのウクライナにたいするプロパガンダでは常用されている)、そして冒涜者たちに原因があることになる

●このような扇動キャンペーンは、クレムリンとは異なる視点を持つメディアが次々と閉鎖されていることによっても進んでいる。

●たとえば去年の12月にRIAノヴォスチはロシア・トゥデイ(Rossiya Segodnya)にとって代わられ、クレムリン寄りの宣伝家であるキセリョフがそのトップにつくことになり、ボイス・オブ・ロシアと外向けのロシア・タイムス(RT)が編入された。

●RTに関しては、リズ・ウォールというアメリカ人のアンカーが生中継中に、毎日の仕事をこなす上で「倫理・道徳的な面で問題に直面した」と言って辞任している

● このように三つのメディアを一つにまとめて異論を許さない状況にするというのは、当然ならが問題が出てくることになる。

●就任してから最初のスピーチで、キセリョフはRIAノヴォスチが本来果たすべき任務を忘れてしまったということを示唆している。

●彼は、「問題は国営ニュースメディアをどのように位置づけるかということだ。客観性というスローガンの元、われわれは現実の姿を歪曲して自国を外国のように見てしまいがちです。私はこのような蒸留された、疎遠なジャーナリズムの時代は終わったと考えております」と述べている。

●このスピーチを行った後の質疑応答の時に、キセリョフは政府のメッセージとロシアのメッセージをどの区別すればよいのかという点について尋ねられている。

●これについての彼の答えは恐ろしいもので、「父なる国土と政府にたいする態度を区別してください。もしあなたの計画の中に政府を転覆するような狙いが含まれていて、私の計画と一致しない場合は、私があなたに直接教えてあげますよ」というものだった。

●「一致しない場合」の例はすでに明確になっている。独立系のテレビ会社(Dozhd)は何十ヶ月にもわたって攻撃を受けており、ここはロシア政府高官の腐敗を暴いたり、ロシア史におけるいくつかの点に対して疑問を呈したり、キエフやマイダン広場から生中継するなどの報道のおかげで、大手チャンネルとしての資格を失ったり、広告主や衛星放送の放映権を失ったりしており、長期的には生き残れない状態となっている。

●エコー・マスコヴィーという独立系ラジオ局は「ソ連崩壊後のロシアのアイコン」とまで謳われていたが、ロシア政府の総務省と衝突して、今年三月にはウェブサイトが突然ブロックされている。その一ヶ月前には、このラジオ局のトップがクレムリンのPR部門担当者の妻に交代したこともあった。

●ネットは多くの人々のニュースの受け取り方に革命を起こしており、SNSの台頭は多くの国々の一般人が従来よりもはるかに多くの見解にアクセスできるようになったことを意味していた。したがってインターネットの普及率は、国家が扇動やプロパガンダに対抗する際の重要な指標となる。

●ほとんどの調査で判明しているのは、ロシアでは全人口の45%が常にネットを使っているという。

●こうなると、国家のメディアの統制に対抗できる挑戦者が多いわけで、そこには希望があることになる。実際にクレムリンが挑戦を受けているのは間違いない。

●もちろんインターネットをコントロールするのは難しいといえるが、それでもロシアのプロバイダーたちは何度も検閲を受けている

●ロシアではウェブサイトの検閲を容易にする法案(the System for Operative Investigative Activities SORM)によって、国家には七つも情報を阻止する権利を持った機関が存在することになり、実際にウェブサイトを何度もブロックさせている。

●しかもこの効果は甚だしく、その法案が成立してから最初の一年間で、サイトのブロックは1万4000件にも及んでいる。同じようなアメリカの法案(Stop Online Piracy Act :SOPA)の方は、猛烈な非難にさらされている。

●また、クレムリンは2010年から11年にかけての調査でもわかるように、ロシア人の大多数が世界についての情報のほとんどを国営テレビから受けているという事実によって助けられている。

●もちろんロシア国内には反体制派はいるし、元気なことは元気なのだが、それでも独立系のブロガーたちは、国営メディアに比べればその影響力ははるかに小さい。

●以前のようにまだ世界が安定して時期でも、ロシアにおけるメディアの自由度というのはあまり賞賛されるようなものではなかった。

●国連やNATO,OSCEがロシアの今後の対外政策の行方や周辺国におよぼす影響などを議論しているが、それよりも心配なのは、自由に対する抑圧の高まりである。

●現在見ている限りでは、ロシア国内では反西洋的な言説が盛り上がっている。そしてこれがロシア人の大多数の間でこのまま続くことになると、東西の間でまた「カーテン」が敷かれる可能性が出てくる。

●しかも今回の場合はその東西分断の線がはるかに東側になり、しかもそのために不安定で暗いものになるかもしれないのだ。

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当たり前ですが、プーチンはけっこう「強権」ですよね。ただしこれはあくまでも「民衆からの支持」によって支えられている点も見逃してはならないかと。

まあその「民衆」を動かすところに肝があるのかもしれませんが。

それにしても『自滅する中国』で指摘されているロシア側の世界観というのはやはり当たっているんですね。これを読んであらためて納得しました。


by masa_the_man | 2014-04-17 14:15 | 日記 | Comments(4)