戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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今日の横浜北部は朝から快晴。朝はかなり寒く、そろそろ暖房が必要な雰囲気に。

さて、先週の「韓国トップたちの怪しい“世界観”」というエントリーの続きを少し。

このエントリーでは、韓国の上層部は、日本側から見ると強烈な「甘え」ともとれる世界観を持っている、ということを、最近韓国に行った人から得た情報を元にして紹介しました。

私がなぜこのような韓国側の「怪しい」ともいえる要素を指摘したのかといえば、それは何も韓国が憎いからではなく、それを知ることが大切である、と強調したかったからです。

それでもこのような指摘をすると、「おくやまは韓国を嫌いなのか!」と非難したり、「日韓友好を推進しているのではなく、敵対関係を増長させているだけだ!」と目くじらを立てて怒る人もいるわけですが、実際はその反対です。

私は「リアリズム」という観点から、韓国の問題も「善悪」や「好き嫌い」という面から判断しない
と述べたわけですが、ここで大事なのは、

「日韓親善や国際理解のためには、相手の汚いところ・奇妙なところも直視する

という姿勢だと思うのです。

たとえば、リベラル系の人々というのは(ここでの「リベラル」というのは、リアリズムとは反対の、経済相互依存万歳の理想主義的な考えの人という意味)どうも相手の不都合なところには目をつぶって、とにかく良い面だけを見ようとしがちです。

日本の国際政治に関する議論だと、たとえば「右派」といわれる人々は「中・韓にたいして厳しく、米国に甘い」という傾向があり、逆に「左派」の人々は「米国にたいして厳しく、中・韓にたいして甘い」という傾向があるといわれております。

私は、このような傾向がそれぞれ出てくるのは理解できるのですが、自分の基本的な姿勢としては、このような偏りというのはアンフェアー(不公平)だと思っております。

なぜならそれは、どちらの側(中韓vs米?)に対しても、片方の「良い面」を強調するばかりで、どちらかの「汚い面」を見ようとしていないからです。

なぜこういうことが起こるのかというと、これはどちらも国際政治の現状に対する「冷静な分析」で見ているのではなく、単なる「イデオロギー」から見ているからです。

それが「保守」であれ「リベラル」であれ、現在の日本の置かれた状況をイデオロギー的にみてしまうと、大きく判断を誤ってしまう可能性が出てきます。

まさに韓国の日本にたいする姿勢が、このイデオロギー的(というか、もはや宗教的?)なものであることは昨日のエントリーでもおわかりいただけるかと。

このような「イデオロギーが国際政治におけるトップの判断を難しくしている」という点について、日本の経営学の泰斗である野中郁次郎氏が、ある雑誌のインタビューで良いことを言っておりました。それは、

「なぜイデオロギーがまずいかというと、白か黒の二元論だからで、現実は灰色なのです。二極の間のどこかに真理があるわけです。そういう健全なる常識がジャッジメントなのです」

というものでした。私はこの「健全なる常識」として、日本人の国際情勢の戦略的な判断のために、まず相手の汚いところ、奇妙なところから認めるという「リアリズム」的な視点が、リベラル的な解釈に染まりきった日本人にとってのちょうど良い「解毒剤」になると考えているのです。

しつこいようですが、大切なことなので、何度でも言います。

本物の「国際親善」「日韓友好」のためには、日本人は、相手の汚いところ、奇妙なところ、おかしいところがあるということを、身も蓋もない「現実」的な視線から率直に認めましょう、ということなのです。

戦略論や、それがベースになっているリアリズムというのは、どう公平に見積もっても、あまり「気持ちの良いもの」ではありません。

国際政治というのは危険なビジネス、いいかえれば「ヤクザな世界」の話なわけですから、そのようなヤクザ的な要素の部分はまずしっかり押さえましょう、というのが本ブログを書く私の基本的な姿勢です。


by masa_the_man | 2013-10-31 18:00 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は朝から爽やかな秋の晴天。気温も思ったより下がっておりませんね。

さて、またしても重要な韓国の「世界観」について。今回は韓国の二大英字新聞の一方の雄であるコリア・タイムズ紙の、昨日の社説です。

これも日本の集団的自衛権の議論についての意見なんですが、彼らの「恐怖感」や複雑な感情というものがよくわかるという意味で、なかなか貴重なものかと。

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日本の軍の復活:韓国の北東アジアの動乱にたいする備えは万全か?

●韓国の人々をがっかりさせたことがある。それはアメリカが日本にたいして、地域と全世界の両レベルにおける軍事的な役割の拡大を促したことだ。

●財政面で制約を受けつつあるアメリカには、中国の台頭を抑止する上で日本の助けを求める他にはほとんど選択肢が残されていないともいえる。日本にとっても中国が地域のリーダーとしての役割を担うところを見るのは嫌なので、これは日米両政府にとって「ウィンウィン」の状態である。

●ところが韓国にとってはこの状況はかなり異なる。結局のところ、韓国人たちは日本の軍事面での復活をただ指を加えて見ているだけというわけにはいかない。なぜなら以前の宗主国である日本は、過去の悪行にたいして心から懺悔をしていないし、謝罪もしていないからだ

●さらに日本の政権トップは、過去の帝国時代を恋い焦がれているようにも見える。韓国にとってはこれは「一度怖い目に会うと二度目は臆病になる」ということだ。

●そして韓国側にとっても、中国の台頭を妨害するための日米韓の三カ国同盟に参加するには無理がある。なぜなら韓国政府は日米両国に、経済面や、北との争いに優位に立つことに関して、そこまで頼ることはできないからだ。

●韓国政府はアメリカ政府にたいして、アメリカが日本の(集団的)自衛権――これはもしアメリカが攻撃を受けた場合には日本が助けにこれるようにするものだが、これは結局のところ日本の軍を全般的に復活させることにつながるはずだ――について支持を表明した、先月の日米の外相と国防長官同士による「2+2」の会合の後に、韓国側の事情を説明すべきであった。

アメリカの日本への支持表明は、韓国の朴槿恵大統領が米国防長官のチャック・ヘーゲル氏と会談した時に日本の自責の念の欠如について批判を行ったにもかかわらず行われたのだ。

●これはつまり、韓国政府が「実質的に機能する三カ国の同盟関係の前提条件として、日本政府が明白に歴史の悪行を認め、それを二度と繰り返さない」という点を明確にすべきであったということだ。

●これはわれわれが韓国大統領の主要安全保障アドバイザーである金章洙(Kim Chang-soo)が、最近アメリカにたいして「われわれは韓国政府の許可を得ないかぎり、日本の集団的自衛権によって韓国領内における日本の軍隊の活動を認めない」と求めつつも、実質的に日本の集団的自衛権を認めたことにたいして非常に大きな懸念を抱いている。

●識者の中には、「韓国には日本が主権を行使を阻止したり、日米というわれわれよりもはるかに大きな同盟国たちに影響を与えられるような外交的な余裕はない」という人々もいる

●たしかにこのような現実主義者たちは正しいのかもしれないし、韓国人はこの点について最小限の要請をするだけで満足すべきなのかもしれない。

●ところが問題の核心は、このような消極的なスタンスが米韓同盟を日米同盟の下に従属させてしまうという点にある。そしてさらに根本的な問題は、戦時の軍の指揮権や、安全保障面で北からの脅しや日本の軍隊が朝鮮半島に戻ってくる可能性などについてアメリカに依存しきっている中で、韓国政府側に独立した戦略思考が欠如しているところにあるのだ。

●ほとんどの韓国人は自国の政府が、地域の安全保障の管理において、南北和解の実現や米中間の外交の綱渡りを上手く行うことによって、従属しているのではなく、独立した意志と能力を持っているのかどうかを知りたがっている。

韓国は、周囲をはるかに大きなプレイヤーたちに囲まれている小国である。生き残るための唯一の方法は、自立した先見の明のある国家戦略を使うことであり、依存した、その場しのぎの対処ではないのだ。

●韓国人にできるのは、自分たちの政府が「自立した先見の明のある国家戦略を使うこと」を祈ることだけだ。

===

ここでのキーポイントは、「南北和解」と「米中間を綱渡りすること」が韓国自身の戦略の独立性につながると(少なくともコリアタイムスのトップたちが)考えている、という点でしょうか。

非常に勉強になりました。


by masa_the_man | 2013-10-30 14:08 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は朝から小雨がしとしと降っております。気温も低めで秋の深まりを感じますね。

さて、地政学にも関係してくるような非常に面白い本を書いた著者の「環境決定論」についての興味深い論考がありましたのでその記事を要約します。

これを読むと、その場の雰囲気や状況に流されてものごとを決定してしまう人間の悲しいサガがよくわかります。これはそのまま対外政策における「グループ・シンク」の話にもつながってきますね。

言い方をかえれば「人間はカメレオンである」とも言えますが。

山本七平氏の言葉を借りれば「空気」の話、そしてさらに拡大解釈すれば「類は友を呼ぶ」という話につながると言えそうです。

===

自分のいる場所が自分のアイデンティティーを決定する
By アダム・アルター

●1970年代初頭の実験に、何百通もの切手を貼った未送の手紙を、米国東部のある大学のいくつかの寮の近くに落としておき、そのうちの何通が無事に届くのかを調べるというものがあった。

●この研究チームは、送られてきた手紙を一通ごとに「慈善行為」としてカウントすることにしたのだが、手紙は落とされた寮ごとに送られてきた頻度が違ったわけで、いわば寮ごとの「慈善度」が違うことが判明したのだ。

●寮ごとの違いはどうやら寮の「人口密度」によって出たようで、最も閑散としていた寮の近くに落とした手紙は、そのほとんどが無事に送られてきたのだが、逆にほぼ満杯の寮の近くに落とした手紙は6割しか戻ってこなかったのだ。

●その後、同じ研究チームは別の学生たちにたいして「落ちてた手紙を見つけたらどうする?」と聞いたのだが、95%は自分の住んでいる場所に関係なく「ポストに持って投函してあげますよ」と答えている。

●一般的にほとんどの人々は自分のことを「親切だ」と考えている。自己申告のアンケートなどからわかる通り、人間というのは自分のことを親切で友好的で正直だと答えるものだ。われわれはこのような考えが、我々自身のアイデンティティーを作り上げていると考えがちだ。

●ところが実際のところは、われわれは自分たちの置かれた環境によって、直感的かつ意図しない形で、カメレオンのようにアイデンティティーを変えるのだ。

●2000年に行われた別の実験を見てみよう。スコットランドのグラスゴーにあるいくつかの建設会社は、街中の目立ったところに青色の光のでる照明を設置した。この目的はあまり見栄えのよくない地域でも魅力的に見せる効果を狙ったものだった。

●ところが数ヶ月後にグラスゴー市役所は驚くべき効果を発見した。青色の照明が集中しているところでの犯罪率が低下したからだ。

●この青い照明は、どうも人々に(英国の)警察車両に使われている青い色を想像させるようであり、これを見た人々は「警察が監視している!」と勘違いしたようだ、ということになった。

●2005年には日本の奈良県が青い照明を犯罪発生率の多い場所に設置したが、ここでも同じような結果、つまり犯罪発生率の減少が見られたという。他の場所でも試されたが、青い色の照明の下ではゴミの無断投棄や自殺率が低下したという。

●なぜ青い照明が犯罪を抑止するのかという点については様々な説明がある。暗い場所を明るく照らしだすことによって、薄暗いところでも「他人に見られている」という感覚を発生させるということや、その反対に、人を落ち着かせる不思議な力を持っている、ということも言われている。

●ところがそれよりも微妙な要因でも、実は同じような効果を発揮するようだ。たとえば、人はいる場所によっても「見られている」という感覚の違いを感じるものだ。

●英北東部のニューキャッスル大学の心理学者たちがある実験をした。これは、大学の職員が集う小さな食堂で、紅茶とコーヒーの代金を基本的に無料にするのだが、料金を入れる箱を置き、ここに払いたい人だけに支払ってもらうようにしたのだ。ただしその箱には、「見つめている二つの目」を写した写真と、単なる「花」の写真の、二つのタイプを用意している。

●研究者たちはその「二つの目」と「花」の写真を、10週間の実験期間の間に毎週架け替えており、しかも「二つの目」のほうは同じ印象のものにならないように男女別々のものを使っている。

●この実験の結果で判明したのは、「二つの目」の写真をつけた週の箱のほうが多くの料金を回収したということだ。この実験結果に触発されたイギリスの西ミッドランドの警察は、二つの目を写した大きなポスターを街中に張り出しており、報道によれば、これが街の犯罪発生率の低下につながったと言われている。

●鏡も全く同じ効果を持っているようで、しかもその効果はさらに強力だと言われている。なぜなら鏡は(比喩的な表現ではあるが)われわれ自身の心の中をそのまま覗きこませてしまうような効果を持っているからだ。

●その他の環境的な刺激もわれわれの行動に影響を与える。なぜならそれらが微妙な形で悪い行動を促すこともあるからだ。たとえば激しく議論されている「ブロークンウィンドウ理論」(割れ窓理論)では、人間はこわれた窓がある地域で犯罪を犯す可能性が高まるというものであり、これはこの地域の人々は自分たちの持っているものをそれほど大切にしない傾向があるということを暗示している。

●この理論を提唱したジェームス・ウィルソンとジョージ・ケリングは1982年にアトランティック誌に発表した記事で、もしある建物の窓が修理されていなければ、さらに建物まで壊される可能性が高まり、これがさらなる破壊行為を呼ぶことになると言ったのだ。

●同じことは街中のゴミ箱についても言えるという。ゴミが多ければ多いほどゴミは集まるというのだ。これがそのままだと人々は近くのファーストフードのゴミをそこで捨てるようになるし、荒れた場所だとこれが犯罪を引き起こすことになるというのだ。

●この二人がこの理論を提唱した1982年以降、とくにゴミ問題に関してはさまざまな実験が行われており、かなり多くの実証結果が出ている。

●たとえばある実験では、社会心理学者たちが病院の駐車場に停めてあった車139台のフロントガラスに無駄なチラシを置いておき、その車の持ち主がチラシをどう処理するのかを観察している。そしてここで出た結果も、環境が人間の対応の仕方に影響を与えるというものだった

●その駐車場にゴミが散らかっている場合(もちろんこれは実験をやる人間たちがわざとゴミを置いたのだが)、車の持ち主の半分近くがそのチラシをその場に捨てて去っていったのだ。ところが駐車場をきれいな状態に保っておくと、そのチラシを駐車場に投げ捨てていったのは10人のうちのたった1人くらいだったのだ。

●これはつまり、ドライバーたちは無意識のうちに、そのエリアに最も最適だと思われる規範に合わせて行動を決めたということだ。

●このような実験でわかるのは、一体何がわれわれの存在やアイデンティティーを決定しているのかという、驚くべき、そしてやや衝撃的な、事実だ:つまりそこには個別の「あなた」や「わたし」という存在はない、ということだ。

●もちろんわれわれは個別の性格を持っているものだが、周囲からの刺激というのはその性格に大きな影響を与えて、自分自身を見失わせてしまうほど――もしくはある特定の状況の中ではどのように行動しやすいのかを教えてくれるものーーなのだ。

●もちろん「一人ひとりが根本的に違った性格を持っており、良い人たちは良い行動をするし、悪い人たちは悪い行動をし、これらの性格はわれわれの中にある」と信じることはわれわれを安心させるものかもしれない。

●しかし明らかになりつつある様々な証拠からわかるのは、あるレベルにおいて、われわれのアイデンティティー――たとえばゴミを捨て人間 vs. 良識ある市民――は状況によって変化するものであり、その場がどのような状況にあるのかによって左右されるということだ。

●このような周囲の環境による刺激は、われわれが町中のある地区から別の地区へと歩いている瞬間でも、われわれの行動を次々に変えていくのだ。

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ううむ、これはいわゆる「環境決定論」というか、古典地政学の議論にもけっこう近い話ですね。

要するに「環境があなたの行動を決定する」ということですが、たしかに「上品な町や場所には下品で怪しい人は少ないんじゃないか」という、われわれが普段なんとなく感じていることをうまく説明できているような。

面白いのはこの記事が、「アメリカのドル札になぜ目が描かれているのか」ということについて、いわゆる「フリーメーソン説」とは違う説明(監視による濫用の抑制?)の可能性に触れているというところでしょうか。

私は最近この著者が出版した “Drunk Tank Pink: And Other Unexpected Forces That Shape How We Think, Feel, and Behave.”という本を読んでいるのですが、これがうまくまとまっている最高に面白い本です。
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ウサイン・ボルトがなぜ世界最速の男なのかという説明も、この「環境」によって決定するということなんですな。

類推すれば、少し前の韓国トップたちの怪しい世界観についての話も、これによってうまく説明できる部分はあるかと。


by masa_the_man | 2013-10-29 16:17 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は朝から快晴。しかし朝晩は寒くなりましたねぇ

さて、久々に地政学の話を。著者は東アジアのシーパワー研究の第一人者として名高いジェームス・ホームズです。

彼の分析ですが、ある程度は現在の中国にも当てはまる部分があるかと。

===

ドイツの「地理の呪い」
by  ジェームス・ホームズ

●留学時代以来、20年ぶりにドイツを訪問した。そこではインド洋における海洋安全保障について話をしたのだが、ドイツ側の安全保障関係者たちは自分たちがアデン湾よりも先の地域でいかに安全保障に関われるのかを熱心に考えていた様子だった。

●ところがドイツというのは外洋での航海の自由を常に享受できたわけではない。なぜならドイツの戦略的地理は長いこと不利な状態にあったからだ。

●ドイツは地理的にライバル国家に囲まれたヨーロッパ半島の中央部に位置しており、しかも自然な防壁に乏しい状態であった。何世紀にもわたってドイツの王国や公国、それに都市国家などは、実質的にフランス、オーストリア、ロシアなどの紛争の「潤滑油」として機能してきた。ライバルに痛めつけられたら、その腹いせにドイツの国家を痛めつける、という具合に。

●私の妻(ドイツ系)の祖先がアメリカのペンシルバニアなどに逃げ出したのは当然であろう。来週になったらフランスかオーストリアになるような戦場で暮らすよりは、(プロアメフトのチームであるピッツバーグ・)スティーラーズを発展させることのできるアメリカの山の近くで生きるほうがよいのだ。

●一八七一年のドイツ帝国の統一は、一時的にせよ、彼らの状況を改善することになった。この潜在的に圧倒的かつ支配的な工業・軍事国家の突然の台頭は、ウィーン会議(1815年)のあとのヨーロッパ政治における大国間の微妙な均衡を崩すことになったのだ。

●周辺国がまとまって対抗してくるのを防ぐために、ベルリン政府は自らの野心をうまく隠さなければならなかった。そしてオットー・フォン・ビスマルクは1890年にヴィルヘルム二世に解雇されるまで、周辺国の恐怖を抑える役割を果たしていた。

●しかしその後のヴィルヘルム二世は周辺国を怖がらせるようになり、これが冷戦の終結まで全世紀を恐怖に陥れるきっかけになったのだ

●EUの創設は、統一ドイツの陸の国境をそれまでの数百年間とは比べてものにならないほど落ち着かせることになり、同時に政治面での抑制的な態度が周辺国を安心させることにつながった。両対戦はドイツに「行動を抑える」という教訓を教えたのであり、国境が安定したことによって、ベルリン政府はいままで領土保全に使っていた努力や資金を他のことに使えるようになったのだ。

●ヨーロッパ大陸での安全はドイツを解放したのであり、その気になればドイツが海を目指すことも可能にしたのだ。もちろん海の必要性は、EUによる縛りを考えると、現時点ではありえないことになる。それでも選択肢があるということは、強力な国家の権力を握っているリーダーにとっては望ましいことだ。ドイツ以外のヨーロッパの国々と同様に、ドイツには海への進出を考える余裕ができたのだ。

●しかしこのようなことはいままで不可能であった。ヴィルヘルム二世は一九世紀末のドイツ文化に海洋文化を植え付けようとしたのだが、「海洋地理」という壁に阻まれてしまったのだ。

●地図を一瞥しただけても、いざ周辺国が敵意をむき出しにした時にドイツが直面する困難がわかる。ドイツ北部の港からの商船が大西洋に抜けるためには、南方向であればイギリス海峡、北方向であればイギリス諸島とノルウェーの間から北海を突破しなければならないのだ。

●そういう意味で、イギリスはヨーロッパ北西部の海運のライフラインを支配するのに絶好のポジションにあることがわかる

●イギリスの水兵たちは自国の地理を活用するのにたけていた。コーベットが記しているように、英海軍は一七世紀の英蘭戦争におけるオランダ海軍との戦いで常に圧倒していたのだ。英海軍がすべきことはオランダの港に出入りする商船を脅し、経済のライフラインにリスクを発生させることだけであったのだ。

●オランダの水兵たちに残された選択肢は、勝利が不可能であることを知りながら戦うか、イギリス側のシーレーンのコントロールの優位を認めるかの、どちらかしかなかったのだ。

●このパターンは20世紀まで続いている。英海軍は第一次大戦時から北海に包囲網を敷いており、世界で最も優秀な海軍の1つであるドイツ外洋艦隊を係留地で錆びさせることに成功したのだ。第一次大戦後にヴォルフガング・ヴェーゲナー提督はドイツの海についての無知が劇画のようなことを起こしたことについて嘆いている。

●ヒトラーはフランスとノルウェーの港を占拠することによって自国の地理の不利を乗り越えようとしたが、彼の陸軍は海洋戦略を効果的に行うためには広大な土地を防御しなければならなくなってしまったのだ。

●これによって判明したのは、シーパワーというものがドイツにとって「遠すぎた橋」であったということだ。たしかにバルト海へのアクセスは、ロシアに圧力を加えた状態で、スカゲラク海峡やカテガット海峡を通る場合には可能かもしれないが、それ以外には残された選択肢は少ないのだ。

●ドイツの戦略家たち、そのようなジレンマから解放されたことを喜んでいることは間違いない。われわれはドイツの戦略的地理からの休暇状態が、今後も長く続くことを祈るばかりである。

===

結局のところ、地理というのは国家の対外政策においていまだに大きな影響力を持っている、ということなのですが、これは全世界のどの国にとっても一緒です。

あらためて、国際政治における地理的な側面の重要性というものがよくわかる記事かと。


by masa_the_man | 2013-10-28 19:01 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は台風のせいで雨です。

さて、今回は最近色々と話題の韓国について少し。

その前にまず最初にお断りしておきたいのですが、私はいわゆる「嫌韓派」でもなければ「親韓派」でもありません。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は国際関係論でいうところの「リアリズム」という立場、つまり、「すべての国家は利己的である」という前提からものごとを分析するような教育を受けてきた人間であります。

そういうことなので、どうも日本以外の他国のことを「好き/嫌い」、もしくは「善悪」という立場で判断することにはあまり慣れていないんですが、これを前提として議論を進めていきたいと思います。

くどいようですが、私が専門で勉強してきた(古典)地政学では、国家の「世界観」、もしくは「地理観」というものが、国際関係の動きを現実的に見る時に非常に重要であるとされております。

最近つとに反日姿勢を強めている韓国ですが、この国の「世界観」、とくにそのリーダーたちが日本についてどのように考えているのかを、あるソースから仕入れました。

その前に、みなさんもご存知の通り、私はアメリカの戦略論の大家であるエドワード・ルトワックの中国論である『自滅する中国』という本を翻訳したわけですが(おかげさまで3刷行きました!)、この中の第16章が、近年の韓国の対外政策についての興味深い分析となっております。

このルトワックの韓国分析は重要なので、まずは目立った部分を書き出してみましょう。

===

●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。
彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。
中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。

●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、
 グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、
 実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても
 (死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。

●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する
従属者となってしまっている。
 米国には(北との)全面戦争への抑止力、そして中国には
 (北からの)一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。

●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、
 しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員
 となることを模索しているのかもしれない。
 韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、
 かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。

●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、
 「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。
 ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、
 日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。

===

さて、私はこの部分を初めて読んだ時に、二つの点について疑問を持ちました。それが、

1,従属したがる国もある。それが韓国だ。
2,彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている

という部分でした。

私は留学時代に韓国の同年代の人間と付き合いがあった経験から、上記(2)の「文化面で深い敬意を持っている」という部分については、今でも「ルトワックの分析はちょっと間違ってるかなぁ」と微妙に思っているところがあります。

しかし(1)の「従属したがる」という部分については、これは本当なんだな・・・と、あらためて実感したことがありました。

それは、今年の8月に韓国で行われた、「日韓次世代指導者交流」というイベントに関係者として参加した人物から、かなり信ぴょう性の高い情報を聞いたからです。

このイベントというのは、どの国でもやっている、国会レベルの議員同士の二国間の交流イベントであり、今年は日本の議員たちがソウルに訪問しております。

ここに関係者として参加したある人物が、私に貴重な情報をいくつか教えてくれたのです。その場で彼が見たり聞いたりした韓国側の議員(しかもかなりの高官)たちの発言や態度などを要約すると、以下のようになります。

===

●鳩山元首相の言ったような「日中韓による”東アジア共同体”を作ろう」というリアリズムに欠ける発言が韓国側から多く出されて正直困った。

韓国側の議員は、メディアの前とそうでない時で、態度がまったく違った

韓国側は「いざ有事になったら日本は必ず助けに来てくれる」と根拠もなく確信をしている様子であった。

●その証拠に、ある高官は「たとえば円・ウォンスワップが実質的に消滅したが、その代わりに元・ウォンスワップを中国と結んだ。ところが両通貨ともに国際通貨でない。元とウォンのスワップにはあまり意味がないことはわかっている」と発言。

●しかもさらに続けて、「それでもいざという時には日本に飛び込めば、必ず助けてくれる」という驚きの発言を(しかもかなり本気で)している。

●彼らが議論をふっかけてきたのはいわゆる「従軍慰安婦」問題であり、竹島については一言も発言なし。

===

とのこと。

これらの発言や態度からわかるのは、韓国では現在の政府のトップレベルにおいても、日本にたいする完全な「甘え」があるという点です。

これはつまりルトワックのいうところの、「従属したがる国もある。それが韓国だ」という分析は正しいということになります。

ただし韓国にとって、これは地政学的に非常に大きな問題を抱えることになります。なぜなら古典地政学の1つのテーゼとしてあるのは、

世界観と現実の地理の間に大きなギャップが出てくると、悲劇が起こる

というものであり、この点において、韓国は自分たちの置かれた地政学的に厳しい状況に目をつぶって、

どうせいざとなったら日本が助けてくれるはず

と、勘違いしている可能性がかなり高いからです。

そして実際に、日本は97年の通貨危機の時に韓国側に緊急資金援助して救っており、しかもそれが感謝されるどころか、逆に「妨害した」として恨まれている部分があるわけです。これは必然的に、「現実の地理」(東アジアの現実)と、「世界観」(いざとなれば日本を含む他国に頼れる韓国)というもののギャップを生みます。

つい最近ですが、韓国の国会で旭日旗の使用を禁止する法案が提出されております。

しかしこういうことをやってしまうと、極端な話、いざ朝鮮半島有事となった時に最悪の場合、たとえば自衛隊の艦船が韓国の港に寄稿できなくなったりする可能性もあります。

これは、彼らが彼らは現実的・戦略的にものごとを考えることができなくなっているという証左であり、別の言い方をすれば、日本からの救済という「オプション」を自ら排除するかの如く行動することで、ある意味で、自分で自分の首を締めるようなことをしている…とも言えるわけです。

私たちが韓国とお付き合いをする際には、「彼らの世界観はかなり特殊なものである」ということを、情緒的にではなく、冷静に見極めて、しっかりと理解しておく必要があるのではないでしょうか?


by masa_the_man | 2013-10-26 03:00 | 日記 | Comments(24)
今日の横浜北部は朝から曇・小雨状態でした。また台風が来ているみたいですね・・・。

昨日は韓国に関する非常に面白いネタを仕入れたのですが、これはメルマガのほうで後ほど。

さて、今日はここ数日のものとは打って変わって、人類の戦争の関係についての壮大なテーマについて書かれた、ちょっと前の文化人類学の観点からの記事の要約。

===

われわれは「戦争をする生き物」なのだろうか?
By ディビッド・バラッシュ

●戦争の足音が聞こえる。悲しことだが、これは別に新しいことではない。同時に、戦争が常にわれわれと共にあったし、これからも一緒であるという主張も驚くべきことではない。

●ところがこの中でも新しいのは、とりわけ進化生物学の分野で判明した戦争好きな「人間の本質」についての知見である。

●今年、ナショナル・インタレスト誌に掲載された「われわれの類人猿の親戚たちは戦争について何を教えてくれるのか」というタイトルの記事が、「なぜ人間は戦争をするの?」という疑問に答えるようなものであった。

●また最近のニュー・サイエンティスト誌に掲載された記事でも、「戦いは人類の進化の中で一定の役割を果たしている」と主張されており、サイエンス誌でも「戦いにおける死というものは狩猟社会ではあまりにも頻繁に起こっていたために、初期の人類の進化に重要な圧力を加えた」と主張している。

近年登場しているこのような「人類が生物学的な面において戦いを好む性質がある」というコンセンサスは、実は怪しいものだ。それは単に科学的根拠に乏しいだけでなく、道徳的にも歓迎できるようなものではない。なぜなら人間の潜在性についてあまりにも狭い見方しか促進してくれないからだ。

●たしかにわれわれの先祖は戦争に近い活動を行っていたことはたしかなようですが、それでも全員がそうであったあったというわけではない。

●人類が脳を発達させたのは、たしかに自然淘汰によって他の者よりも頭の良い者が暴力的な闘争で選ばれてきたところもあるが、同時に知性を高めたのは自然淘汰によってとくにコミュニケーションや協力に長けている祖先が生き残ってきたからだとも言えるのだ。

紛争を避け、和解して協力的に問題解決にあたるのは、生物学的にもありえることであり、自然淘汰での生き残りにもポジティブな結果をもたらすものだ。

●現在まで判明しているのは、チンパンジーはたしかに人間にとっての戦争のような活動を行うが、チンパンジーと非常に近いピグミー・チンパンジーは互いに愛しあうことで有名だ。

●多くの文化人類学者にとって、「狩りをする男」というのは典型的なモデルであるが、同時に「収穫する女」を想定している学者たちもおり、協力したり平和を保つような存在もあると見られている。

●60年代から70年代にかけてナポレオン・チャグノンがアマゾンの戦闘的なヤノマモ部族についての研究を発表した時、われわれ研究者の想定していた通りの暴力的な存在で適者生存を説明してくれる存在だったのでウケがよかった。

●ところが振り返ってみると、そのような1つの種族から人類全体まで一般化して、しかも戦争という複雑な現象を知ることができるかというと、甚だ疑問なのだ。

●私は、多くの進化生物学や生物文化人類学の学者たちが「原始時代の人類の戦争」という見方に引きづられすぎてしまっていると考えている。紛争回避や和解というのは(”自然”であり重要でもあるのだが)あまり注意を引かないものだからだ。

●ところがとくに遊牧民の間では平和づくりというものが顕著に見られるものであり、たとえばタンザニアのハッザ族の人々はたしかに喧嘩をするが、それでもどうやら一度も部族間抗争をした形跡はないのだ。

●ニュージーランド沖のチャタム諸島のモリオリ族は、社会的な冷やかしのような手段を使いながら、個人間の争いが決して集団間の抗争に発展しないようにするためのいくつかの方法を持っているのだ。マレーシアのバテック族も同様で、殺し合いをするなどはもっての他で、自分たちは実に平和的な集団であると認識している。

●したがって、「人類は本質的に戦争を好む」というのは単に間違っているだけでなく、平和構築が可能かどうか、そしてそれを目指すべきなのかという可能性について諦めさせてしまうようなものなのだ。もちろん私は歴史上の特定の戦争について述べていることではないことはご理解いただきたい。

●チェロキー族の言い伝えだと言われている逸話がある。

●ある女の子の夢の中に、二匹の狼が激しく戦い続けている場面が何度も出てくるという。これについて彼女は部族の長老格の自分のおじいさんのところに聞きに行くと、これは人間の中にある平和と戦争という二つの力が争っている様子だと説明される。

●これを聞いた女の子はがっかりして、どちらが勝つのかを聞くと、彼の答えは「お前がエネルギーを注ぐほうだよ」という。

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これは文化人類学からの戦争と人間の本質という大きなテーマについての意見です。

ここでの「人類」にもさまざまなタイプがあるということですから・・・・最後のチェロキー族の逸話は、ルトワックの「戦争のエネルギーを焼きつくすのが戦争の役割」という部分につながってきそうな。


by masa_the_man | 2013-10-24 22:49 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部は朝から曇りでしたが、雨はまったく降りませんでした。けっこう過ごしやすい一日でしたね。

さて、昨日Twitterで紹介した、奴隷制への旧宗主国側への謝罪・賠償金請求に関する最近の動きの話題を。

ここで勘違いしてはいけないんですが、イギリスは賠償金は払っているのは事実。しかしそれは制度を廃止したために損をした奴隷のオーナーたちに対して支払われたもの。

イギリスもフランスもオランダも、賠償・謝罪はしないわけで。

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カリブ諸国は奴隷制の被害について賠償金を計算中
By スティーブン・キャッスル

●ウイリアム・ヘイグ英外相は2008年に出版した自伝の中で奴隷解放のために戦ったある人物に触れつつ、人間を取引する行為というのは擁護しようのない野蛮行為であり、「徹頭徹尾、カネ目当ての残虐で非人道的なものである」と述べている。

●その奴隷経済を支えたカリブの14ヶ国は、ヘイグ氏にたいしてその言葉に見合った通りのことを行うように求めている。

●二百年間続いたこの非人道的な感覚によって、この14ヶ国は自分たちが受けたと信じている被害の目録を作成することを計画しており、その後にイギリス、フランス、そしてオランダという元帝国たちから謝罪と賠償を求めようとしている。

●それを実行するために、彼らは今年にイギリスが1950年代に統治下のケニヤ人にたいして行った拷問にたいする賠償を勝ち取った、ロンドンの弁護士たちを雇入れている。

イギリスは1807年に奴隷貿易を違法化したが、その遺産は残っている。2006年にトニー・ブレア首相(当時)は奴隷貿易にたいして「深い悲しみ」を表明している。オランダの厚生大臣も7月に同じような声明を発表している。

イギリスはすでに奴隷貿易の賠償金を支払ったことがある。しかし支払ったのは奴隷のオーナーたちにたいしてであり、その犠牲者たちではない

●イギリスは大西洋間で300万人以上の奴隷を運搬しており、そのインパクトは莫大なものだった。歴史家たちの推測によれば、ビクトリア朝時代にイギリスの富裕層の五分の一から六分の一は奴隷貿易から何かしらの利益を得ていたという。

●ところがはるか昔に死んでしまっているリーダーや将軍たちの行ったそれらの行為にたいする謝罪――ましてや賠償――というのは、世界中でも微妙な問題となっている。トルコはオスマン帝国時代のアルメニア人の大量死にたいする責任については拒否しているし、それを「虐殺」と呼ぶことなどは(フランス議会はそう呼んでいるが)言語道断だ。

●ビシー政権下のユダヤ人にたいする犯罪にたいして、ジャック・シラク大統領(当時)が謝罪したのは1995年であったし、現在のオランド大統領も去年になって元植民地であるアルジェリアへの扱いが「苛烈で不公平であった」と認めている。しかし彼は謝罪をするには至っていない。

●彼の前任者であるサルコジ大統領は、2010年にハイチへの支援と債務の解消を申し出ており、同時に「植民地化の傷」についても認めている。

●1997年にはイギリスでブレア首相が1840年代の「ポテト飢饉」について「今日でも痛みを感じる問題だ」と述べているが、「痛みを感じる」ということは公式な謝罪とは違うのだ。

●たしかにそのようなコメントでは、1970年にワルシャワのゲットーでひざまずいたウィリー・ブラント元首相や、ナチスの犯罪について賠償金を払った、戦後のドイツほどまでのことは触れられないのだ。

●カリブ諸国側の議論では、彼らの酷い過去が今日まで引き続き彼らをおびやかしている、ということになる。今年の七月にアンティグア・バームーダーのボールドウィン・スペンサー首相は「われわれがいまでも直面している資源開発の困難の原因は、われわれが奴隷制と植民地化された時に蓄積することができなかったという歴史的な過去にあるんです」と主張している。

●彼によれば、賠償金は奴隷制と人種差別によって受けた被害に直接支払われるようなものでなければいけないという。

●ロンドンの法律会社でカリブ諸国に雇われたレイ・デイ社の顧問であるマーティン・ディ氏は、裁判の手続きは来年にハーグの国際司法裁判所で始まる可能性があると言っている。

●「カリブ諸国とアフリカ西部で起こったことはあまりにも酷いことであるとわれわれは感じております。なので国際司法裁判所に提訴すれば勝訴の可能性はあると思いました。実際のところ、ある階層の人間をまとめて服従させるということはとんでもないことですからね」とはデイ氏の弁。

●そのカリブ諸国の何ヶ国は、すでに受けた被害についての調査を開始しており、それらは奪われた教育・経済の機会や食事や健康問題まで含まれるという。

●もちろん「数世紀前の悪行まで追求するのは意味がなく、カリブ諸国は経済開発支援という形で賠償金を受け取っている」と指摘する声もある。

●法的な面でも厳しいものがある。たしかに英米の企業は過去の奴隷制とのつながりについて謝罪しているが、19世紀のアフリカ系アメリカ人の奴隷の子孫たちによる賠償金獲得への試みはほとんど成功していない。そして成功したケニア人のマウマウ族の反乱にたいしてイギリスが行った拷問にたいする賠償のケースでも、奴隷制の被害者が裁判所に姿を表したわけではなかったのだ。

●しかもこのケースでさえ、当初は数々の元植民地から謝罪を申し込まれることを恐れた英政府から疑問の声が発せられ、ヘイグ外相が賠償を行うと発表した時も、「これは先例になるようなものではない」と主張しているのだ。

●英議会はたしかに1807年に大西洋での奴隷貿易の禁止を制定しているのだが、それが効力を発揮するにはかなりの年数がかかっており、1833年に英議会は奴隷の元オーナーたちにたいして2000万ポンドを賠償金として支払っている。ロンドン大学のユニバーシティー・カレッジのニック・ドレーバー氏によれば、これはその当時の国家予算の4割にものぼり、これは現在の210億ドル(20兆円)にもなるという。

●ドレーバー氏の調査によれば、この賠償金を受け取ったのは作家のグラハム・グリーンやジョージ・オーウェルの先祖たちや、現在のキャメロン首相の遠い親戚だという。

●ところが現在の犠牲者の子孫たちにたいする賠償金の支払いの可能性はかなり低い。ケンブリッジ大学の国際法の専門家であるオキーフィー氏によれば「この提訴が身を結ぶという可能性はほぼゼロに近い。これは国際法の中でもたんなる幻想だろう」と言っている。

●彼はオランダとイギリスはすでに国際司法裁判所の権限を認めているが、イギリスの場合は1974年以前の出来事に関しては関知しないとしている

●オキーフィー氏は「賠償金というのは、国際的にそれが行われた時に違法であると認められた時に支払い義務が発生します。そして奴隷制と奴隷貿易は当時は国際的に違法だったわけではないので、それを行っていた帝国たちもそのように認識していませんでした」と述べている。

カリブ諸国側の弁護師たちもそれをわかっており、せめて望めるのは公式・外交を通じた圧力によって達成される示談だと暗示している。「われわれの主張は、最終的には歴史的な主張が政治的に解決されるべきだということです。まあそれでも国際司法裁判所でかなりよい主張はできると考えておりますが」とはデイ氏の弁。

●ヘイグ大臣自身の考えも、この難しい事実を表現している。彼はイギリスで最も有名な奴隷制廃止論者であったウィリアム・ウィルバーフォースの伝記の中のエピソードを引用しているのだが、これは1783年に起こった、飲水のなくなった奴隷船から船長が貨物の損失の保険金を獲得するために、133人もの奴隷を海に落としたというものだ。

●2007年はこの奴隷貿易廃止から200周年だったのだが、ヘイグ氏はこのような時代の「男女や子供の売買が、この国のために法にのっとって莫大な規模で行われ、それが利益を上げる商業活動になった」ということに遺憾の意を持つと述べている。

ところが外相としてのヘイグ氏は賠償金の支払いに反対している。英外務省はイギリスが「奴隷制を非難」しており、現在も存在しているところにはその撲滅を働きかけるとしているが、「われわれは賠償金がその解決法であるとは考えていない」と声明で述べている

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これは左右にかかわらず、日本にとっても関心の高い話題かと。


by masa_the_man | 2013-10-22 21:25 | 日記 | Comments(5)
今日の甲州は朝から雲が多めでした。朝晩はだいぶ冷え込みますね。

さて、少し前の記事ですが、アメリカのテクノロジー面での優位に水を指すような分析がありましたので、その内容の要約を。

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アメリカが「イノベーション大国」って本当?

By イアモン・フィングルトン

●連邦議会は機能していないし、失業率は高すぎだし、アメリカのインフラは崩壊しつつある。それでも政治的に様々な見解を持つアメリカ人の全員が同意することが一つあるとすれば、それは「アメリカはハイテク分野で世界をリードしており、今後もこの状態が続く」という意見だ。

●たしかにこれはアメリカ人にとって自慢でもあり、便利なアイディアだ。このシナリオによれば、中国はそれほど創造的ではないため、アメリカを追い抜けないことになる。イノベーションには民主制度が必要なのだが、中国は独裁体制だからだ。

●たしかにアメリカは現代の世界を形作った多くのイノベーションを生み出したというのは事実である。ところが歴史の証拠を幅広く見ていくと、「政治面での自由がイノベーションに必須の前提条件である」という考えは間違っていることが判明する。

●たとえば古代世界における最も創造的な社会のうちで、自由であったのはほんのわずかである。メソポタミアもエジプトも、まったく「自由」ではなかった。

●近代初期のヨーロッパの国々も非常な創造性を見せたが、それでもこの時代は人々を洗脳するために血の凍るような努力が行われていた。もっと最近の例では、ナチス・ドイツやソ連のような独裁的な文化を持つ国々が、かなり多くのイノベーションを生み出していた事実もある。

●アメリカ自身の歴史でさえ、「必要なのは自由だけだ」という神話を否定している。もちろん建国当初からアメリカの政治文化にとって「自由」というのは中心的な存在であったが、アメリカ人は常にテクノロジー面で世界をリードしていたわけではなく、そうなったのはつい最近のことなのだ。

●IBMの研究所の元代表であったラルフ・ゴモリー氏が私に教えてくれたのは、1930年代までのアメリカは主に他国のテクノロジーをうまくコピーすることに長けていたという事実だ。これは最近の日本や東アジアの国々と同じような状態だ。

●ではなぜアメリカは20世紀半ばからテクノロジー面で最も優れた存在になれたのだろうか?その原因は「自由」ではなく、もっとつまらないものだ。つまり「カネ」である

●第二次大戦の際に米国政府は本格的に企業と共に研究開発を行うようになり、その後に冷戦開始と1957年のソ連のスプートニクの発射があったおかげで、政府の資金援助による研究が一気に盛んになったのである。その結果の一つが、インターネットの開発を手がけたDARPAだ。

歴史を見ていくとわかるのは、「リッチな国が未来を先取りする」ということだ。リッチな国の企業には、優秀な人材と物資、それに機器や知識が集まりやすくなるからだ。

●こうなると一つの疑問が出てくる。中国は現在リッチになりつつあるが、これによって世界一イノベーションの進んでいるアメリカも、将来は追い抜かれることになるのだろうか?

●この疑問は非常に大切だ。なぜならアメリカのイノベーションの勢いが、すでに下降傾向にあるからだ。

●シリコンバレーのベンチャー投資家であるピーター・シエルが答えてくれたところによると、アメリカのここ数十年間のイノベーションというのは非常に狭い分野に限られており、IT関係や金融サービスが主なものだという。その反対に、交通関係は40年前に比べても進んでいるとはいえず、がんの治療法についても似たようなことが言えるという。

●ワシントンのITイノベーション財団の代表をつとめるロブ・アトキンソン氏は、中国が研究費の面でもアメリカに急速に追い上げをかけていることを指摘している。もちろんそれは豊富な財源によるものであり、その成果が出始めているというのだ。

●OECDの統計によれば、中国の研究投資はGDP比で2000年に0・9%だったものが2009年に1・7%まで増えている。そして2000年から2007年までの研究開発の数は2倍以上に増えているのだ。

●ところが同時期のアメリカの研究開発の数の増加は10%以下であった。アメリカの研究機関の中には、2023年までに中国の研究開発費の総額がアメリカのそれを抜くと予測するものある。

●国際特許申請数についての実際の統計も、このような不吉な予兆を示している。特許についての国際機関(WIPO)によれば、2011年に最多く特許を申請したのは中国の通信企業であるZTE社であり、2009年のそれと比べて五倍も増やしているのだ。別の中国企業である華為(ファーウェイ)は2011年の時点で第三位にまでのぼりつめている。10位以内にランク入りしたアメリカの企業は、クアルコムだけだ。

●このような傾向は非常にまずい。なぜならアメリカの特許面での立場は劇的に弱くなっているからだ。米連邦議会は、アメリカの中小企業の知的財産の保護を困難にしてしまっている。

●知的財産権の侵害についての本の著者であるパット・チョート氏は、もし新しい特許をアップルやマイクロソフトのような大企業に有利な状態にしてしまうと、中小企業は立ち行かなくなると述べている。彼らの特許はすぐに大企業にマネされてしまい、泣く泣く不利な条件で明け渡すことになってしまうからだ。

●もうひとつの懸念材料は、アメリカが研究開発部門を海外に移しつつあるという点だ。米国科学財団によると、2009年の時点でアメリカの多国籍企業の研究部門の雇用者の27%は海外に住んでおり、これは2004年の16%から上昇している。

●そして中国はこのような流れから[漁夫の利」を得ているように見える。

●インテル社とアプライドマテリアル社は海外で主要研究機関をつくっており、ある特許法の専門家によれば、この両社のどの部門の動きよりも大規模なものであるという。さらにこの二社の海外研究員のほとんどは中国人であり、しかもその製造を行う工場のほとんどは中国国内に位置することになるのだ。

●もし東アジアの文化がテクノロジー面での創造性にとって障害にならないとすれば――そしてインテルもアプライドマテリアルの両社ともそう思っていないようだが――なぜ東アジアの科学者やエンジニアたちはそれほど優秀ではないのだろうか?

●おそらくその理由の一つは、そこには別の種類の「テクノロジーの創造性」というものが存在するからだ。

●根本的なブレイクスルーはニュースになったりノーベル賞獲得に貢献するものだが、ラルフ・ゴモリー氏が指摘するように、そこには別の創造性、つまりこれらのブレイクスルーを「経済的に富を生み出す手頃な価格のものにする」という世俗的な任務もあるのだ。

東アジアの企業というのはこのような「世俗的な任務」に焦点を当てることが多く、しかも生産テクノロジーにおける「あくなき改善」というのはあまりニュースとして取り上げられない。ところがこのような面での成功が、この地域の彼らをこの60年間で豊かにした原動力なのだ。

●中国のテクノロジー面での創造性を研究したジェームス・ウィルソンというイギリスの教授は、中国の科学面での進歩を、スポーツのそれと対比させて見ている。中国は1988年のソウル五輪で金メダルの獲得数で11位だったが、その20年後には1位になっている。

●「もし中国がスポーツでこのような偉業をこれほど早く達成できるのであれば、科学やイノベーションの分野でもそうなれないはずはありませんよね?」とは彼の弁だ。

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イノベーションは「カネ」(money)の集まるところで発生しやすくなる、というのは元も子もない指摘ですが・・・・実際そのようなところはあるんでしょうな。

私が翻訳した『戦略論の原点』の原著者のJ・C・ワイリーも、「アメリカのテクノロジー面でのイノベーションは大きな国家的プロジェクトが10年ごとに行われてきたことが原因だ」と指摘しておりまして(pp.145-48)、その証拠に、

1940年代:マンハッタン計画◎
1950年代:遠距離早期警戒網(DEW Line)◯
1960年代:アポロ計画などの宇宙開発◎
1970年代:コンコルド計画断念☓
1980年代:スターウォーズ計画▲

という科学資源の集中があったと言っております。そして、その際に重要な基盤となったのは、なんといってもカネだというのです。

たしかにいまの中国はカネを持っていますから、これが今後どのようなイノベーションとなって出てくるのか・・・気になるところではありますね。


by masa_the_man | 2013-10-19 20:55 | 日記 | Comments(4)
おしらせです。

「戦略の階層を徹底解説する」というCDの発売から早くも一年近くが経過しましたが、予想以上のご好評をいただいておりまして、おかげさまで大ヒットしております。

このCDのテーマとなっている「戦略の階層」という概念ですが、そのシンプルさと驚くべきポテンシャルの割には今まで見過ごされていたものでありまして、私はこれを理解できれば、日本という「国家」だけでなく、「会社組織」や「個人」までもが戦略的になれるはずだと確信するに至っております。

ところがこの概念、非常に重要であるにもかかわらず、その応用がけっこう難しいと感じる方が多いようです。

たとえば「戦略の階層」のCDでは個人への応用の仕方を中心に説明したわけですが、「ではビジネス方面にはどのように応用すればいい?」とか、「事例がたくさんあるほうがよりケーススタディになるので続編を!」という声も多く聞くようになりました。

しかしあいにく私はビジネスや経営を専門に学んできた人間ではなく、本業は「地政学」のような「国家戦略」や「大戦略」の分野です。

もちろん私は以前から「戦略の本質はあらゆる分野で共通のものだ」となんとなく考えておりましたが、個人の戦略は良いとしても、なにぶん経営戦略は自分の専門外のことなので、これに言及することは少し控えておりました。

ただし戦略論の核となる「戦略の階層」の、経営・ビジネス分野への応用の必要性は痛切に感じており、いつかはこれに対応しなければと思っておりました。

そんな矢先に、ある一つの事実が判明しました。

これまで私のCDをお聴きになった方にはお馴染みだと思いますが、一緒にCDの企画を行なっている和田さんがドラッカーの思想に相当詳しく、「ドラッカーも戦略の階層を意識させる発言が多いよ」とよく言ってくれたことを思い出したのです。

だったらこの「経営コンサルタントの祖」の構築した手法を「戦略の階層」の新たな視点でとらえるために、コラボをしてみよう・・・私はそう思い立ったわけです。

具体的にいえば、私の指導教官で戦略思想家であるコリン・グレイの『戦略の格言』という本の中の格言の内容と、ビジネス系では有名なあのピーター・ドラッカーのビジネス・経営系の名言をそれぞれ持ち寄って、それらを互いにぶつけてみるというものです。
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これはいわば「軍事戦略」と「経営戦略」を、主に「戦略の階層」という概念を中心に据えて、互いに比較検討するという、ハッキリ言ってかなり無謀な(?)企画です。

いや、正直なところ、私自身も「軍事と経営の戦略論を比較しても違いすぎるから意味ないんじゃないか」と感じていた部分は若干あったのですが、いざやってみると、面白いほどアイディアが符号するのです。当初の私の不安は完全に吹き飛びました。

つまり両者のアプローチはたしかに違うんですが、その目指しているところは究極的には不気味なほど似ているんですね。これには制作した側の私自身も驚きましたし、しかもかなり勉強になりました。

ということで、コリン・グレイとピーター・ドラッガーの格言による「戦略の階層」の解説CDが完成しました。CD3枚組で約200分収録した大ボリュームの本格的なものです。

戦略を身につけるために、ぜひみなさんに積極的にご活用いただければ幸いです。


「国家戦略とビジネス戦略を同時に学ぶ」CD


戦略の階層を徹底解説するCD
by masa_the_man | 2013-10-16 22:56 | 戦略解説CDシリーズ
今日の横浜北部は朝から暴風雨でしたが、10時過ぎあたりから晴れてきました。夕方には少し晴れましたね。

さて、韓国政府側が今回の日本側の「2プラス2」の会談について日米側にどのような感想を持っているのかについて興味深い分析記事がありましたので、その要約です。

結局のところ、ルトワックが「自滅する中国」で指摘していたことの正しさがここでも垣間見えております。

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日米の防衛ガイドラインの同意は韓国を苦しめる
By シン・ジェフン

●韓国の新聞の一面の写真がAPECのサミットの様子を物語っている。この写真では、韓国の朴 槿惠大統領が、隣にいる日本の安倍首相を無視して反対方向を向いているのだ。これは10月7日にバリ島でのことである。
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●この二人のリーダーはほとんど挨拶を交わしておらず、日本のメディアによれば、接触は「ほんの数秒間」の最小限に抑えられたという。

●この気まずい会合は、東アジアの二つの重要な国同士で溝が深まっていることを象徴しており、中国が領土の主張の強化や北朝鮮の核とミサイルの脅威という日韓両国にとっての安全保障環境が悪化しているにもかかわらず、過去からの歴史認識の違いを何も解決できていないのだ。

●ところが両国を分断させているのは二国間だけの問題だけではない。

アメリカが日本と安全保障分野でのつながりを深めることは、日本を軍事的に強化することにつながり、それが韓国政府の戦略オプションを狭めるために、韓国側の反感を買っているのだ。

●10月3日に合意された、日米防衛協力のためのガイドラインの来年までの再改定の合意は、日本の独立した軍事能力をワシントン政府が劇的強化しようとしているという憶測の信ぴょう性を高めることになった。

●これによってソウルでは、古くは敵であった日本が、アメリカの利益のために東アジア広域での責任負担を拡大しようとしているのではないかという懸念が巻き起こったのだ。

●韓国の専門家たちは、昔からたとえのように、韓国は中国と日本という大きな二つのクジラに挟まれたエビのようになってしまうのではないかと恐れ始めている。このような推測は、北からの核による脅しと共に、日本による侵略、占領、そして残虐な行為を思い起こさせることになる。

●日本の安保責任の負担が増えることになれば、それは韓国側の戦略面での独自の選択肢にとって悪い兆候となるだけでなく、中国と強いつながりを持つことによって北朝鮮の核能力を抑えようとしている韓国の政策を邪魔をすることになるのだ。

●また、アメリカは韓国側にたいしても責任の負担を譲渡しようとしている。チャック・ヘーゲル米国防長官は、ソウルに四日間滞在した中で北朝鮮の軍事力を見極めた上で、米韓の軍事同盟の強化のための一連の手続きを明言している。

●彼の韓国訪問は、2万8千5百人の米兵士をかかえる韓国にたいするアメリカの防衛のコミットメントを増強するという流れとは反対のできごとであった。

●たとえばヘーゲル長官と韓国の国防大臣は2015年に韓国の将軍への現場の軍の指揮権を譲渡する時期を遅くすることで、今回はほぼ合意に達したところだった。

●また彼らは、韓国の高官たちが自国にたいする北からの核攻撃やミサイル攻撃が起こった際に「北朝鮮の核施設にたいする先制攻撃を認めるもの」と説明している新しい「戦略枠組み」について合意しているのだ。

●その後にヘーゲル長官は10月3日に東京に飛んでいる。そしてそこでケリー国務長官と合流して2プラス2の会合に参加して、来年に日米の新しいガイドラインを制定することに合意しているのだ。この際に、オバマ政権は日本の軍事力の強化の決断について、韓国政府側には何も相談していない

●韓国側の怒りは、安倍政権が「集団的自衛権」と呼ばれるものを推進しようとしていた時期に行われたことによって、ますます強まることになった。この集団的自衛権とは、日本が「自国の同盟国への第三者からの攻撃を自国への攻撃とみなす」ということだ。

●これによって日本は地域における重要な軍事力を持つことになるだけでなく、必然的に再武装を禁止する憲法9条の再解釈が行われることになるのだ。

●新しいガイドラインは、核武装をしてミサイルの発射を行おうとしている北朝鮮を明らかに標的にしたものだ。この合意の文言の中には中国について一言も触れられていなかったが、尖閣諸島の領有権争いが新たな脅威になりつつあることが暗示されている。

軍事大国である中国と、悔い改めていない元植民地統治国である日本がアメリカの助けを借りて武装化を行っている状況というのは、韓国にとって挟み撃ちにされてしまう可能性を高めており、これが韓国政府をろうばいさせている

●この戦略は、朴大統領がとっている「中国と良い関係を形成する」という政策に水をさすものである。しかも中国は、北朝鮮に対して大きな影響力を持っている。同時に、中国は韓国にとって莫大な経済パートナーであり、対外貿易の四分の一は中国とのものなのだ。

●日本政府との凍りついた関係とは対照的に、中国の習近平主席はAPECの席で北朝鮮を制御することについてさらなる約束をしている。サミットとは別の会合で、習主席は朴大統領にたいして「中国は北が核兵器に使用する部品などの輸出を禁止するだけでなく、北がもう一度核実験を行ったら厳しく対応する」と明言している。さらに、彼は中国が国連安保理の決議にしたがって北朝鮮を厳しい経済制裁の状態に置くことを約束しているのだ。

●まとめていえば、中国は現在の東アジアでの影響力の拡大において、韓国に日中のどちらの側にも立たずに、できれば中立的な立場を維持することを願って、韓国側に言い寄っているのだ。

●韓国は、韓国側の地政学的な事情を考えずに日米同盟の強化を決めた、アメリカの政策を不安に感じている。

●10月1日にヘーゲル長官が朴大統領と会談した時、ヘーゲル長官は「そろそろ日本と関係回復したらどうですか」とたずねられた時に、朴大統領は「日韓関係の重要性はわかりますが、われわれの(過去の歴史の)傷に塩を塗り続けているのは日本ですよ」とすぐさま言ったと言われている。

●しかしそのような短気な受け答えにもかかわらず、彼女の選択肢は少ない

●彼女はもし中国側が北朝鮮に核武装を完全に諦めさせることができなければ、アメリカや日本からの提案をこの時点において拒否できないからだ。また、韓国政府にとっても、領土的に侵略的になっている中国に直面しつつ、日本と米国と距離をおくというのは賢明ではない。

●この戦略的ジレンマを解消する良い兆候として出てきたのは、10月8日から10日まで、韓国の領海内で日米韓の三カ国による合同軍事演習を開催することを合意したことだ。この演習には米空母ジョージ・ワシントンや日韓の艦船が参加している。

●それでも三カ国の同盟関係はスムーズになるというわけではないだろう。アメリカが東アジアにおいて日本に大きな役割を与えようとしていることについて韓国政府は疑念を抱いており、国防費削減に直面している米軍は、その国防の肩代わりを日本にさせようとしているのではないかと疑っているのだ。

●保守派の朝鮮日報は、ヘーゲル長官の東京における合意のすぐ後の10月6日の一面の見出しで「アメリカは反中政策を日本に外注している」と書いている。

●韓国政府の高官たちは、ヘーゲル長官が東京で防衛ガイドラインに合意するということを言わなかったことについて非常に不満に感じている。

●韓国議会の外交委員会の委員長を務めたことのある人物は韓国政府のジレンマについて「状況は混乱している」とコメントしている。彼の考えは、アメリカは勝手に日本の軍事力を強化するのではなく、むしろ日本と韓国の歴史問題を解決するように働きかけるべきだ、というものだ。

●彼によれば、第二次大戦中の従軍慰安婦―これは日本軍に強制的に売春をさせられた女性たちのこと―への率直な謝罪があれば、日韓関係は改善するという。彼は「われわれはオバマ大統領がガイドラインの制定の前にこの問題に関して中立なブローカーとなることを願っております」と述べている。

●そしてアメリカが現在進行中の予算の削減からくる制約のおかげでリーダーとしての役割を放棄しつつあることについての懸念を表明しているのは、彼だけではないのだ。

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アメリカが日本とガイドラインの合意を進めるということを韓国側に相談していなかったということについてお怒りの様子が伝わってきます。これはある意味で韓国政府のインテリジェンスの失敗とも分析できるわけですが・・・・

それにしても「北の暴発を中国に制御してもらう」という指摘はここでも繰り返されてますね。

ということで、非常に興味深い「地政学的」な話題でした。


by masa_the_man | 2013-10-15 20:47 | 日記 | Comments(4)