戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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今日の横須賀は快晴です。暑いです。

さて、アメリカのシリア空爆の時が刻々と迫っておりますが、ここでエアパワーの理論の元祖であるドゥーエの理論を振り返っておくのは参考になるかと思いましたので、いくつかの参考書から引用しつつ、以下のようにまとめてみました。

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ジュリオ・ドゥーエ(Giulio Dohet)は、一九二〇年代に活躍したイタリア陸軍の将軍。

「エアパワー」の効果を最も早い段階から熱心に提唱した人物で、彼の主張の核心は「エアパワー単独で戦争に勝てる」というもの。

つまり陸軍の兵士や海軍の水兵たちは戦場に送り込む必要性を劇的に減少させるから、エアパワーをもっている側にとっては、戦争をほぼ犠牲者を出さない形で勝たせてくれるのでありがたい。

彼の理論は単純。陸軍は地形、海軍は海岸線などによって行動の制限を受けるが、航空機は「行動と方向性について完全な自由を持っており・・・地上にいる人間は空を自由に飛んでいる航空機にたいして何も手出しできない・・・そもそも戦いを形作っている条件などは最初から影響を与える力を何も持っておらず、空の行動に影響を与えることは不可能」

もちろんこのような考えなので、発表された当初から批判を受けたが、とくに反発したのは彼の軍の上司たち。

ドゥーエはエアパワーについて多くの著作を残しているが、その中でも一番有名なのは、一九二一年に出版した『制空』(Command of the Air)。

この本では戦いの「ドゥーエ・モデル」とでも呼べるようなものが、いくつかの「原則」と共に提唱されている。

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第一の原則:「戦いの勝利は“制空”を達成することに絶対的に依存している」というもの。制空権をとれ

この「制空」だが、現在は「航空優勢」(air supremacy)とほぼ同意。ドゥーエにとっての「制空」とは、「敵の飛行を阻止しながら、自分たちは飛べるポジションにいること」 を意味。ドゥーエは、「制空」を国家の安全保障を確実にするための唯一のものである、と主張。

第二の原則:敵の航空兵力が地上から飛び立たぬうちに破壊し、さらに航空兵力が装備の調達先である企業の工場などを狙え

第三の原則:圧倒的なエアパワーによる攻撃を、敵国民に向かって使え。こうすれば敵国民にパニックを引き起こして意志を破滅的に喪失させ、それが自国の政府にたいする暴動を引起し、敵が陸軍と海軍を動員する前に敵国の降伏を引き出して、戦争を終わらせることができるから。

そのターゲットは広範囲で、産業、商業、そして民間の施設など。それらにたいして爆弾や焼夷弾、そして毒ガス弾(!)を使うべきだと主張。

ドゥーエにとって、空爆における狙いの正確性(精密性)というのは考慮すべき点ではなかった。なぜなら「もし標的があまりにも小さくて高い精密性を求められるようなものである場合は、そもそもはじめから狙っても意味のない標的」だからだ 。

ちなみにこのような政治・経済の中心部にある軍事・産業・民間施設にたいするエアパワーの使用は、今日では「戦略爆撃」(strategic bombing)という名で知られている。

第四の原則:エアパワーは、制度的な面だけでなく、他の戦いの次元とは独立した単独のアクターとして戦場で活躍しなければならない。つまり独立した「空軍」をつくれ

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ドゥーエは、今日でいうところの「統合戦」には強く反対 。 この考え方に従えば、エアパワーの強さは戦略的な面にあるわけで、地上部隊を支援するというところにはないことになる。彼によれば、「補助的な航空隊」というのは「無価値で無駄で有害」であるという。「制空」に貢献しないから 。

あいにくだが、ドゥーエの理論のほとんどは第二次大戦の証拠から間違いであったことが後に証明されてしまった。

たとえばレーダーやそれ以前の対空砲の登場などによって、ドゥーエが述べていた航空機の行動と行き先の自由は失われた。さらにその後の防空システムの登場はこの状態に追い打ちをかける。

また、いままで空爆に毒ガスを使った国もないし、戦争の勝利には制空や空軍の使用よりもはるかに多くのことが必要であることが判明。

ドイツのロンドン空爆でもわかるように、民間人は意外に忍耐強く、空爆がパニックを起こすという点については過大評価をしていた。

それでもドゥーエの戦略思想は、エアパワーの役割と価値について、現代の理論の重要な議論の出発点になっている。

その理由は、それが現在にも通じる議論のカテゴリーや焦点を作ったという点や、冷戦後の時代におけるエアパワーの理論化の作業におけるほとんどの叩き台を形成したから。

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ちなみにドゥーエと同時代に生きた米陸軍の将軍のウィリアム・ミッチェル(William "Billy" Mitchell)は、ドゥーエと同じように、制空と経済・産業施設にたいするエアパワーの使用によって敵国を麻痺させるべきであるという考えを支持。

ところがドゥーエと決定的に違うのは、ミッチェルは敵の地上軍を攻撃する重要性についても信じていた点

彼の戦略の考えには、敵の最も重要な拠点を攻撃することの重要性や、敵の地上にある航空機の空爆、そして艦船を攻撃することなどが含まれていた。

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以上です。

やはりテクノロジーが古い時代の理論という感じは否めませんが、その基本的な楽観思想、つまり「犠牲者なくても戦争に勝てる」というところはアメリカ的な考え方に馴染みやすい感じがしますね。


by masa_the_man | 2013-08-31 15:39 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は久しぶりに猛烈な暑さでした。真夏の復活。

さて、久々に拙訳「米国世界戦略の核心」の原著者であるウォルトが、アメリカのシリア介入について反対の議論をリアリストの立場から展開しておりましたので、その紹介を。

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それでもアメリカのシリア介入は愚かな選択肢だ

●たとえ証明されたとしても、シリア政府による化学兵器の使用は、アメリカの軍事介入への有利な条件とはならない。

●これと反対の考えでは、アサド政権の軍が使ったかもしれない兵器に不当な重みを加えることになり、アメリカの介入がまだ賢明ではない多くの証拠を無視することになる。

●もちろんアサド政権の化学兵器の使用は良いわけがないのだが、それでもこの場合になぜそこまで「兵器の選択」がアメリカの国益の計算を変化させるのかはそれほど明白ではないのだ。

●アサド政権の残虐さについては数十年間にわたって明らかだったわけであり、その軍隊はすでに通常兵器を使って数千人を殺している。つまりアサド政権が自分たちの敵を500ポンド爆弾、迫撃砲、クラスター爆弾、マシンガン、アイスピック、もしくはサリンガスで殺すかどうかというのは問題なのだろうか?

●つまりそのやり方に関係なく、アサドが殺してきたことには変わりないのだ。

●介入賛成派の人々は、化学兵器を使わないという国際的な「規範」(norm)を守るためにアメリカは介入すべきだと論じている

●サリンのような神経ガスの使用はたしかに国際法で禁じられているが、それでもそれらは本物の「大量破壊兵器」ではないのだ。なぜならそれらはほとんどの戦場における使用法は難しく、化学兵器というのは禁じられていない高燃焼の火薬よりも死傷率は低いことが多いのだ。

●皮肉なことに、われわれは自分たちが介入する時に使う爆弾よりも死傷率の低い兵器の不使用の
規範」を守ろうとしているのだ


●この正当化は、アメリカ政府がやりたいことをやるために国際法を無視することさえしなければ、たしかに説得力があるはずだ。

●そして、それでも介入はよいアイディアだとは言えない。空爆によってアサド政権の化学兵器の弾頭と破壊しつくすことはできないし、これによって反乱軍が有利になるとは考えられない。

●たとえそれらが成功したとしても、そうなったらそうなったで、アサド側にとってはむしろこれらの兵器をさらに広範囲に使いたいという動機が生まれてしまうのだ。

●しかもアサド政権の崩壊は「失敗国家」を発生させてしまい、反乱軍の中にも内部闘争を勃発させてしまうことになる。シリア国民の蜂起は平和的な活動として始まったのかもしれないが、今日の最も強力な反乱グループはジハード原理主義者であり、われわれがダマスカスで最も権力を握ってほしくない人々であることを忘れてはならない

●これらの慎重さを要する懸念はまだ該当するのであり、それはアサド政権の軍隊がどのような兵器を使ったかには関係ないのだ。

●最後に、オバマ大統領は「赤線」を引いてしまうという間違いを犯してしまったために、空爆に引き寄せられてしまうことになるかもしれない。これによって彼はこの決断に自分の信頼性がかかっていると感じてしまうからだ。ところがこのようにさらに愚かな決断を下してしまうと、失われた立場を取り返すことはできないのだ。

●アメリカのパワーというのは、アメリカにとっても最も重大な権益を守るために使われる時に最も信頼性が高まるのだ。アメリカがシリアで泥沼にハマってしまっても何の利益もない。

●シリア政府の軍による化学兵器の使用でも、この事実を変えることはできないのだ。

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シリアが化学兵器を使おうが何しようが、殺したことには変わりない、という議論の展開の仕方は、余計な倫理観に左右されないリアリスト的な議論ならではという感じですね。

ここでも問題になっているのは「規範」(norm)が国際法を越えるのかどうかという点です。

S・ウォルト徹底解説CD
by masa_the_man | 2013-08-30 00:46 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は雲は多めでしたがなんとか晴れました。また明日から猛烈な暑さになるとか。

さて、先週からやっているエアシー・バトルとオフショア・コントロールについての議論の紹介ですが、とうとう3本目の解説記事をメルマガのほうに書きましたのでお知らします。

実は今回で終わらせるつもりだったのですが、意外といちゃもんをつけてきたコルビーの反論が読み応えのあるものだったので、つい細かいところまで紹介しすぎてしまい、今回も長くなってしまいました。

ということで、最後のまとめは次回のメルマガで書くことにします。

今回の記事の目玉は、なんといってもコルビーがアメリカの対東アジアの「大戦略」を説明している点でしょうか。

彼の頭の中では「エアシー・バトル」という「作戦レベル」の概念が「大戦略」と直接結びついてしまっていて、その間にある「軍事戦略」が決定的に欠けてしまっているわけですが・・・。

ということで、やや長文かもしれませんが、詳しくは以下のエントリーを読んでみてください。

ペンタゴンの対中戦略:「エアシーバトル」をめぐる熱い議論(その3)


by masa_the_man | 2013-08-29 22:12 | 日記 | Comments(0)

シリアを空爆するがいい

今日の横浜北部は少し気温が落ち着いてようやく秋に近づいた感じが。

昨日は熊本まで一泊で出張してきました。加藤清正公が作った城が思ったよりも立派だったので驚きました。聞きしに勝るとはこのことですね。これを踏まえて山梨にはぜひ甲府の舞鶴城を復活させてほしいのですが。

さて、シリア情勢の緊張度が高まってきましたが、なかなか挑発的な意見記事がありましたので要約です。著者はノースウェスタン大学の若手のイアン・ハード准教授。

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たとえ違法でもシリアを空爆せよ
By イアン・ハード

●最近のシリア内戦での虐殺では十万人以上が殺されており、アサド大統領のこれ以上の虐殺を止めるための何らかの緊急な対応が求められる。

●ところがこのような状況の中で、国際的な軍事力の使用についての法的な基盤についての混乱が見られる。

●まず法的な面からいえば、シリア政府の化学兵器の使用は、自動的にアメリカの武力介入を正当化できるものではない

●ところが倫理的な面から言えば、この法はやぶってもいいことになるし、私は個人的にオバマ政権はシリアに介入すべきだと考えている。しかし、既存の国際法にはそれを正当化できるものが何もないのだ。

●ジョン・ケリー国務長官が今週の月曜日に強調していたのはまさにこの点であった。彼は化学兵器の使用は「国際的な規範が破られたことにはそれなりの結果が伴う」と述べている。彼が「法」という言葉の代わりに「規範」という言葉を使った点がミソである。

●シリアは1972年の生物兵器禁止条約の加盟国ではないし、1993年の化学兵器禁止条約の加盟国でもない。さらにもし加盟国であったとしても、この法が適用されるかどうかの判断は国連安全保障理事会によるのであり、これは大きな欠陥なのだ。

●シリアは戦争における毒ガスの使用を禁止した1925年のジュネーブ条約を批准しているが、この条約は第一次大戦後の国際的な戦争を念頭において作成されたものであり、国内での紛争は想定されていない

●では「化学兵器がそもそも禁止されているものである」という主張はどうなのだろうか?

●たしかにいくつかの行動――たとえば民族大量虐殺、奴隷制、そして海賊行為――は、条約などが存在しなくともそもそも不法的なものであると考えられているが、それでも化学兵器はまだこれらのカテゴリーには入っていないのだ。

今日ではおよそ10カ国が化学兵器を保持しており、その最大量を持っているのがロシアとアメリカだ。この両国とも段々とその量を減らしつつあるのだが、それでも約束を果たす期限となっていた去年の時点では全廃できていない。

●もちろんアサド政権が人道的な原則をこの二年間の内戦においていたるところで破っているのは間違いない。これには民間人を区別なく殺害することを禁じた1949年のジュネーブ条約を違反していることが含まれている。

●ところがこの条約は安全保障理事会が合意しないと行動を起こせないため、ほとんど意味がないことになる。これは現在の国際法の欠陥であり、普遍的に認められている介入の際の法的な基盤は存在しないのだ。

●1945年以降の世界の国家が従うべき法的な義務というのは国連憲章にある。この憲章では国家に「国土の統一やいかなる国の政治的独立にたいして武力の使用の脅し、もしくは実際の使用をすること」を慎むことを求めている。

●軍事力に使用が認められるのは、安保理に許可された場合か、自己防衛(ヨルダンやトルコはこの方式でアサド政権に対抗する同盟側に参加することを考えている)の場合であるが、それでも純粋に人道的な理由というのは認められていない

●もちろん法だけではなく、倫理が政策的な決定を導かなければならないこともある。90年代のルワンダやバルカン半島で起こっていた虐殺以来、人道面からの介入のために武力の使用を許可するための「第三のカテゴリー」として設定すべきだという動きが出てきている。これは「保護のための責任」という概念で語られている。そしてこれは国連やほとんどの国々に受け入れられているものだ。

●ところがこれは国連憲章には存在しないし、法的な根拠も持っていない。

●同じようなことは1999年にNATOがユーゴ内のコソボを国連の認可なく爆撃した時にも出てきた問題だ。その当時も今回も、ロシアと中国が安保理での許可を与えようとはしていないし、「コソボに関する独立国際委員会」はのちにこれを「違法だが正統的」な軍事力の行使であると呼んでいる。

●この時にNATOは暗黙的に自分たちの行動が違法なものであることを認めていた。彼らは自分たちの行動を法的な面ではなく、倫理的、そして政治的な言葉で弁護したのだ。

●国際犯罪法の規範の制度機関というのは国際司法裁判所の11年間の経験を踏まえてそれ以降に強化されてきている。カンボジア、ルワンダ、そしてユーゴなどの特別裁判からわかるのは、虐殺犯たちは処罰されるべきだという総意ができつつあるということをあらわしている。

●ところがもしホワイトハウスが(国務省がやっているように)国際法を真剣に考慮することになれば、この両方のいいとこ取りはできない。つまり「違法だが正統性」な介入のほうが何もしないよりはマシだという主張をするか、もしくは国際法を変えるべきだと主張するかのどちらかだ。

●この戦略を、私は「解釈上の不服従」(constructive noncompliance)と呼んでいる。

●そして今回のシリアの場合、私は後者を選ぶ。ロシアと中国がどうしようもないことはわかっているため、オバマ大統領と同盟国のリーダーたちは、すでに国際法が発展してきたことを踏まえた上で、シリア介入には安保理の許可は必要ないと宣言すべきだ。

●これは多くの人々の賛同を得るはずであるし、私もこれは正しいと思う。ところがアメリカ政府が「法の支配」を文明社会の基礎だと認めるとするなら、これが新しい法的な道につながっていることは明らかなのだ。

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新しく法を制定するか、それとも「違法」であることを知りながら「人道的・倫理的」なところから介入するのか・・・・ジレンマは続きます。

結局のところ、これも世界観というか、価値観の問題です。戦略とは価値観の話なんですね。


by masa_the_man | 2013-08-28 21:57 | 日記 | Comments(6)

マハンのテーゼ

今日の横浜北部は全般にくもり空でして、ようやく暑さが一段落。気持よかったですねぇ。

さて、ひとつ調べものをしていたら再確認したマハンのテーゼを。

アルフレッド・セイヤー・マハンといえば、泣く子も黙る「シーパワー理論」の提唱者として古典地政学では有名ですが、彼が述べたとされるテーゼとして、

大陸国家であることと海洋国家であることは両立し得ない

というものがあります。ところがその出典であるとされる『海上権力史論』を読んでみても、そのような箇所は見当たりません。

ということは、この「テーゼ」はどこから来たのか?!と疑わしくなってしまいますが、実はマハンはこのテーゼを別の言葉で言い換えております。

その証拠が、最も有名な「第一章」の中の、六つのシーパワーの構成要素(地理的位置、海岸線の形態、領土範囲、人口、国民性、政府の性格)を説明する際の、なんと最初の要素である「地理的位置」について論じる際に、

1,なぜイギリスは海洋国として有利だったのか
2,なぜオランダと
3,そしてフランスは、富(国力)を増大できなかったのか

という三つの例を挙げつつ、それぞれの国が地理的な位置のおかげで歴史的に海軍力へと国家資源を集中できる度合いが左右されてきたということを述べております。

つまりこれは地理的な事情から、どの国も陸軍力か海軍力の両方に資源を投入させることは不可能だという意味になり、であるがゆえに「大陸国家であることと海洋国家であることは両立し得ない」というテーゼに至るわけです。

マハンは直接このテーゼを書いているわけではないんですが、イギリス、オランダ、そしてフランスの三国の例を比べながらこのテーゼを暗示している、という方が本当は正確かもしれません。

現在の「マハン的」な国家といえば、もちろんお隣の中国ですが、果たしてこのテーゼの意味することについてどこまで自覚していることやら・・・。

ということで明日は初めて熊本に出張してきます。


奥山真司の地政学講座 全10回

by masa_the_man | 2013-08-26 21:38 | 日記 | Comments(1)
以前おしらせした、ロシアの専門家を招いて開催した北方領土に関するワークショップの講演録小冊子は、おかげで完売しました。ありがとうございます。

お申込みいただきましたみなさんには厚く御礼申し上げます。

取り急ぎお知らせまで。
by masa_the_man | 2013-08-25 11:03 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部はまた曇りがちでしたが蒸しました。この湿度はいつ下がるのでしょうかね。

さて、少し前のものですが、ミアシャイマーの先生であるローズクランスの「なぜアメリカとヨーロッパの自由貿易協定(The Transatlantic Trade and Investment Partnership:TTIP)は重要なのか」という興味深い議論です。

TPPとの絡みから見ると、これはブロック化というよりも世界経済の統合というリベラル的なアジェンダということになりますが。

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西側諸国を復活させるための貿易同盟

By リチャード・ローズクランス

●ホレス・グリーリー、ナポレオン・ボナパルト、セシル・ローズの三人は一見すると全然異なる人物のように思えるが、三人が合意していたのは「領土、政治、そして経済の規模は国家の成功に決定的に重要な要素である」という点だ。彼らは西側諸国の間、ヨーロッパ、そして海外において、さらなる領土の獲得を求めていたのだ。

●1904年にオックスフォード大学の地理学者であるハルフォード・マッキンダーは、威厳のある建物の中で開催されていた王立地理学会において、ロシアにある中央アジアの凍てつく草原である「ハートランド」を支配した国が「世界島」(ヨーロッパとアジア北部)を支配し、やがて世界を支配するだろうと述べている。

●マッキンダーによれば、ロシアの平原のような中央に位置する領土というのは海軍力を持たずに東西に拡大する可能性があるというのだ。

●実際のところ、当時のロシアは戦争と革命に直面しており、ハートランドを完全にコントロールできず、さらには世界支配などとても無理だった。

●ところがマッキンダーの言葉が示していたのは、領土と経済規模が国家間の競争で果たす、決定的な役割についてであった。

●マッキンダーを引用したわけではないが、オバマ大統領とドイツのメルケル首相は最近ヨーロッパとアメリカを結ぶ巨大な自由貿易圏である「環大西洋貿易投資パートナーシップ」(Transatlantic Trade and Investment Partnership: TTIP)を結成することを狙って動いている。これによって世界のGNPの半分の経済圏が生まれることになる。

●6月19日にベルリンにおいて、オバマ大統領はメルケル首相の隣でヨーロッパとアメリカは「世界経済の原動力」であることを宣言し、自由と正義と平和を目指す世界の動きにおいて大きな役割を果たすべきだと述べたのだ。

●もちろん二つの大陸を統合することによって貿易と雇用は増加するだろうし、オバマ大統領の目標である、アメリカの輸出の倍増と投資と消費の増加の土台となるはずだ。

●メルケル首相にとっても悪い話ではない。ドイツの車や医療機器はアメリカの市場に流れ込むことになるし、その反対にアメリカはマイクロチップやバイオ系機器、それに液化天然ガスを融通してくれるからだ。

●もし計画通りに来年締結されれば、経済学者たちが予測しているのは少なくとも10年間で100万以上の雇用が生まれ、大西洋の両側にとってGDPが0.5パーセント増えるということだ。多くの大企業にもビジネスチャンスが生まれ、投資と観光業も膨れ上がるという。

●ところが「大西洋海峡」を橋渡ししようとするこのような動きの背後にある本当の理由は、パワーが東洋に移っているという点にあり、そのために西洋諸国がまとまる必要があるからだ。

●逆説的だが、ヨーロッパとの距離を縮めることはオバマ政権の「アジアへの軸足移動」にとって必要な手段なのであり、これによってアメリカとドイツは先進的な産業を合わせて熟練した労働者の力をあわせることができるようになるのだ。

●短期的には中国がこの環大西洋の組み合わせにたいして、他の地域の国々との結びつきを強化することで反応するはずだ(というより、そうしている)。

●中国はドルを売ってユーロを買いながら、アメリカ内の企業における結びつきに頼ろうとしており、ロンドンの金融マーケットに参入してアフリカ中に集中投資している。ところがこのような投資が身を結んだわけではない。たとえばスーダンやジンバブエ、ミャンマーや北朝鮮は新たな国際経済秩序の柱になりそうにもない。

●つまり西側の民主制国家の集まりに対抗できるような勢力を中国がつくれるわけではなく、その間に西側はつい最近、新たにクロアチアをEUに参加させているほどなのだ。

●オバマとメルケルの民主制国家規模の拡大の追求というのは、もちろんそれほど目新しい目標ではない。人口、富、そして経済が大きい国のほうが生産力が高く、大規模な範囲で貿易を行うことは、戦略家たちは昔から気づいていたのだ。

●もちろん世界中で貿易の障壁を崩すという試みはすでに失敗しているのだが、オバマとメルケルにとって東洋の国々の台頭に対抗するために行わなければどのようなものなのだろうか?

●これについて、第二次大戦後の戦略家たちは同じような結論に至っている。

●国務省の伝説的な政策企画室の室長であるジョージ・ケナンとポール・ニッツェは「ロシアと中国の物理的な資源とドイツと東欧諸国の技術と機械を組み合わせれば、対抗できないほどの最強の軍事力になる」と認めているのだ。

●したがって、同盟国側は後にNATOを結成するような忍耐強い努力の積み重ねを開始したのであり、これは後にEUとなる経済力の統合によって下支えされることになったのだ。

●ゴルバチョフやとくにエリティンの政権下で、ロシアは西側やEUへの参加を求めていた。1996年の選挙のおかげで、ロシアはとうとう西側のような民主制国家になったと考えた人も出てきたくらいである。

●ところがプーチンが政権につくとこの夢は潰えてしまった。しかも資源の値段が上がったため、ロシアは西側を必要としなくなったのであり、同時に民主制も必要としなくなったのだ。

●結局のところ、冷戦の勝利というのは西側諸国が経済や産業面で決定的な強さを持っていたからこそもたらされたものである。しかもパワーが対等だったからではなく、パワーに差がついていたからこそソ連を西側が打ち負かすことができたのだ。

●もちろんこれは東側にたいする経済戦争開始の宣戦布告ではない。むしろこれは中国とその他の国々が西側に参加することの必要性の認識であり、これによって半分ずつの世界を一つにしようということなのだ。

●アメリカとヨーロッパが今日の状態で組めば32兆ドルの経済規模になるが、これは将来さらに拡大する。

●勢力均衡は紛争につながるが、バランスが一方に傾きすぎると多国はその経済の中心国に引き寄せられることになるのだ。

●そして中国はその中心国に依存している。ロシアとは違って、中国は石油の大半を輸入しなければならず、現在は一日に970万バレルを消費しているのだ。石油と天然ガスを買うための資金は輸出から調達しなければならず、その輸出は主に西側諸国に向けてのものなのだ。

●この点において西側諸国は今後も有利な立場にある。なぜなら中国は輸出したうちのたった50%だけの付加価値しか得られないからだ。その他はヨーロッパやアメリカの会社の利益となっており、これらの会社が中国の輸出品の研究開発や設計、それにマーケティングと資金調達を行っているのだ。

●今後数十年間、中国は資金を得るために西側諸国にモノを売らなければならないし、まだもっていないテクノロジーにアクセスしなければならない。

●つまりヨーロッパとアメリカの経済の統合には、さらにオープンでリベラル、そして法治的になった中国の参加も必要になってくる。

●もちろん批判的な人々は、これはすでに強い関係を段階的に強化していくだけの話であり、新たな貿易協定などなくても中国を取り込んでいけるはずだという

●ところがアメリカはすでに試して失敗している。2009年のG-2がそれであり、二国間だけでやろうとしていたのだが中国のトップはそれを拒否してオバマ側の気候変動について協力する計画を行き詰まらせたのだ。

●つまりアメリカ側にとって、西洋諸国がまとまることによって中国の気を引くことが必要であることは明らかになったのだ。

●ヨーロッパとの新しい貿易協力の主な有利な点というのは、政治・安全保障面での強い土台があるということだ。もちろんこの土台は平和的なものだが、強力な同盟関係は、西側がそれ以外の国々と対処して復活する際に、テクノロジーや軍事力の強さ、そして政治的な意図という要素を加えることになるのだ。

●結局のところ、戦争ではなく貿易が、他国を西側の経済の中心に呼び込むことになるのだ。

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経済圏の拡大がカギであるということですな。


by masa_the_man | 2013-08-24 22:56 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部は朝から曇ってまして、昼すぎに猛烈な雨に。少し涼しくなりましたが、それでも蒸しますね。

昨日お知らせしたエアシー・バトルとオフショア・コントロールについての議論についてですが、1本目の解説記事をメルマガのほうに書きましたのでお知らします。

というか、この議論を一本にまとめようとしたのですが、いかんせん戦略についての二人の識者のガチンコ討論を一本のメルマガにまとめるのは至難の業。

ということで、この続きは次回のメルマガで書くことになりました。

ちなみにこの記事を書く上でやはり大切だなぁと思ったのが「戦略の階層」です。どうやらこの論争を行っている一方の論者は、この階層のことにどうも無頓着のような気が・・・・。

詳しくは以下のエントリーを読んでみてください。

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ペンタゴンの対中戦略:「エアシーバトル」をめぐる熱い議論


by masa_the_man | 2013-08-23 22:34 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は気温も湿度も高めでした。少し風があったのでなんとか過ごせましたが、それでも汗びっちょり。

さて、今日はここをメモ代わりに使わせてください。

エアシーバトルとオフショアコントロールという、ペンタゴンの対中戦略(戦術)についての非常に興味深い誌上討論が行われておりますので、そのリンクだけ先に貼り付けておきます。

Don't Sweat AirSea Battle
Sorry, AirSea Battle Is No Strategy
The War over War with China
Offshore Control vs. AirSea Battle: Who Wins?

これらの解説については今週末に発行予定のメルマガで書きます。

それにしてもこれはまさに「戦略の階層」の話なんですよね。


by masa_the_man | 2013-08-22 23:45 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から曇りがちでした。午後には雨が降ったみたいですが、相変わらず気温は下がってくれません。

さて、非常に興味深い記事がありましたのでその要約を。著者はCNBCで番組を持っている金融系の若いコラムニストです。私も何度かテレビで見たことあります。

内容は、アメリカの金融機関でよく行われている「他社・他国の有力者や高官の娘や息子を雇うのは汚職かどうか」という興味深いもの。

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コネで雇うのはスキャンダルか?
BY アンドリュー・ロス・ソーキン

●先週末のことだが、NYタイムズはアメリカ合衆国証券取引委員会(SEC)がJPモルガンチェイスが中国でのビジネスを円滑に進めるために中国政府高官の子供を雇ったことについて捜査を開始したと報じている。

●この捜査開始の報道は、ウォール街に衝撃を与えた。もしJPモルガンが中国のエリートの子供たちを雇ったことによって「連邦海外腐敗行為防止法」に違反したということになれば、アメリカの金融機関全般がトラブルに陥ることになるからだ。

●アメリカのほぼすべての金融機関は、中国で最もよいコネを持った人物を雇おうとしており、しかもそのような人物は「太子党」に属している人々であることが多い。「連邦海外腐敗行為防止法」では、会社がビジネスの見返りとして意思決定者に個人的な利益を与えることは禁止されている。

●ところが力を持った会社の上層部や政治家の子どもたちを雇うことは、アメリカの銀行たちが中国でビジネスを行う際の特殊なルールであるというわけではない。これはアメリカでも長年行われてきた慣習だからだ。

●ベア・スターンズ社の上級トレーダーであり、現在はアデルフィ大学で教えているマイケル・ドリスコール氏は「これは何千年も行われてきたことですよ」と述べている。彼は「私にも二人の息子がおりますが、一人は大手金融機関でいまインターンをやってます。これは常に行われているものなんですよ」と述べている。

●いくつかの会社では「身内主義」にたいして明確なポリシーを定めている。そしてこれにはそれなりの理由がある。会社の関係づくりのために家族の一員を雇うというのは常に会社の利益になるわけではないからだ。

●ところが金融機関というのは多かれ少なかれ一定のコネを持った人々を雇うものであり、それは家族やビジネス関係を通じて行われるのだ。そしてその考えの背後にあるのは「新しく雇った子がドアを開けてくれるかもしれない」という考えだとドリスコール氏は言う。

●ところが私がこの件に関してインタビューを行った多くの人々と同じように、ドリスコール氏はここに法的な問題があるとは見ていなかった。「子供を雇ったからといって必ずしもコネクションができるわけではないからです。よくても”仲間に入れてもらえる”ぐらいでしょうか」とは彼の弁。

●彼はさらに「チキンスープみたいなものですよ。害はありません」と付け加えた。

●しかし「リンクトイン」で調べてみると、会社のトップの子供たちが、親が関係を持ちたい他の会社で働いていることはすぐにわかる。

●ジェフ・キンドラ―がファイザー社のトップだったときに、彼の息子のジョシュアはモルガン・スタンレーで働いている。広告大手のWPPのマーチン・ソレル代表の三人の息子はゴールドマン・サックスでそれぞれ何度か働いており、もちろんこの会社はWPPとビジネスを行っている。

●ところがこれはキンドラ―氏やソレル氏たちの子どもたちがその会社の職に不適合であったということになるのだろうか?それは全く違う。彼らは全員が聡明で高い教育を受けていたのだ。ソレル氏の息子の一人は独立してゴールドマン・サックスのパートナーになっているほど。

●ではこれは「汚職」になるのだろうか?それにはちょっと無理がある。

●ブラックストーン社の代表であったスティーブン・シュワルツマン氏の息子のテディーは、ゴールドマン・サックスでインターンをしていたが、その後にシティーグループでアナリストをしている。彼はその後にスカデン・アープス・スレート・メガー&フロム社の弁護士になっており、そこから映画業界に進出して成功を収めているのだ。

●ではゴールドマン・サックス、スカデン、シティーグループが彼を雇ったのは彼の父親のせいだろうか?彼らはブラックストーン社とビジネスをすることを望んでいたのだろうか。おそらくその可能性はある。

●ところがそれよりも可能性が高いのは、彼らがその育ちの中で身につけた、素晴らしいコネを持っている考えたからだろう。彼のレジュメはたしかに輝かしいもので、学士はペンシルバニア大学、デユーク大学の法学院を優等で卒業している。

●同じことはチェルシー・クリントンにも言える。彼女は大学を出たあとにマッキンゼー・アンド・カンパニー社で働いており、後にクリントンの選挙資金を集めたマーク・ラズリー氏が創設したヘッジファンドで働いている。

●ところがスタンフォード大学を出たチェルシーは、彼女を知る人物すべてが賞賛しているように、相当頭が良いらしく、同じ年に卒業した生徒とたちとまったく遜色のない能力を持っているのだ。

●では親が誰かというのは重要なのだろうか?もちろん重要ではあるだろう。彼女はその後にバリー・ディラー氏おインターネット会社であるIACグループで働いており、NBCニュースにもゲストレポーターとして出演している。そしてこれも批判の的になっている。

●そしてロバート・ルービンの息子のジェイミーだ。彼は連邦通信委員会(FCC)や富裕層向けの銀行であるアレン・アンド・カンパニーで働いており、しかもこれは彼の父がクリントン政権で財務省長官をやっていた時なのだ。

●私はジェイミーを長年知っているが、彼も家族の名前がなくても同じような職につけたほど能力のある人間だ。いくつかのケースでは、むしろ親の名に恥じないように、他の人よりも能力をつけるために努力したと告白する子供もいる

●ワシントンではロビー活動と汚職の間はグレーだ。2008年までジョー・バイデン上院議員(当時)の息子であるハンター・バイデンは、連邦議会で定期的にロビー活動を行っていた。

●ワシントン・ポスト紙は昨年の報道で「2007年から、現役の議員の親族の56人が、議会に影響を与えるために雇われている」と報じている。

●連邦議会はロビー活動を制限する法案を通過させているが、それでも議会には議員の息子や娘たちがロビー活動を行う余地は十分にあるのだ。

●もちろんこれはあまりよい印象を持たれないことはたしかだ。ドリスコール氏も「これはあまり見栄えのいいもんじゃないですよね」と言っており、たしかに見苦しいものだ。

●ところが実際のところはこれが世界の現実である。ビジネスにおいては「より良いコネ」を持っている人物を雇うのを禁止するようなことは無理なのだ

●ただし、わざわざわ見返りを得るためによいコネを持つ人物を雇うとなると話は別問題だ。そして太子党をやとって、彼らが表面上は仕事をしているように見せかけて、実際はビーチで遊んでいるだけというなら、これも問題だろう。これはまさに「汚職」に見えるからだ。

●ところがエリートたちの子供の多くはかなり高い教育を受けており、すごいネットワークの中で生きてきたのだ。よってビジネス側がこれを活用せず、しかもそれに見向きもしないというのは土台無理なことなのだ。

●これは弁護のしようがないかもしれないが、それでも世界の現実なのだ。「重要なのは、君が何を知っているかではなくて、誰を知っているかだ

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そういえば私の先生も似たようなことを申しておりました。

「イギリス人で、しかもカナダで教えていたのに、なんでアメリカ政府のアドバイザーとして働くことができたんですか?」「そりゃコネだよ。アメリカはとにかくコネ、コネ、コネだ」

アメリカは日本以上にコネ社会、ということですね。

ただし上の記事は一つの真実を述べております。エリートの子たちというのは、一部の例外を除いて、やっぱり高い教育を受けているわけですから、基本的に優秀なのが多いですね。


by masa_the_man | 2013-08-21 22:28 | 日記 | Comments(0)