戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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大理論はなぜ必要なのか

今日の横浜北部はまた曇りがちで、午前中は少し雨が降りましたが、午後は蒸し暑い曇空でした。

さて、昔翻訳したものの中に現在の国際政治を見る上でも参考になる部分がありましたのでその抜き書きを。

===

社会科学者たちは長年にわたって「秩序」(order)の問題に取り組んできた。しかし、筆者が知る限り、プラトンとアリストテレスが使用したカテゴリーの観点で分析が行われたことはない。

学者が研究で使用するのは、ボトム・アップ方式(問題を扱いやすい大きさに細分化して対処する方法)とトップダウン方式(ヘーゲルとマルクスの伝統にのっとった大理論の形式)である。

これらのアプローチは共に有用なものではあるが、先にプラトンのパラドックスに関する議論で述べたように、どちらの方式も、もう一方が生み出した知識がないと使用するのは難しい。それでも大理論が有用なのは、研究を行うための枠組みを提示し、実験論的な研究に適用可能な命題を示唆してくれるからである。

トーマス・クーン(Thomas Kuhn)が説得力を持って主張したように、ほとんどの研究はパラダイムか大理論(この二つは密接に関係していることが多い)の範疇で行なわれる。パラダイムや大理論がないと、研究プロブラムを組み立てたり実行したりすることが難しくなるか、おそらくは不可能になるだろう。

たいていの人々は理論を使用して世界の現象にアプローチするが、モリエール(Moliere)の作品の中でムッシュ・ジョルダン(Monsieur Jourdain)が散文を声に出して詠んでいるときと同じように、理論を使用しているという意識はないのかもしれない。政治家やジャーナリストの多くはムッシュ・ジョルダンと同じである。彼らが持ち合わせているのは、世界の動きに関する、中途半端であいまいな理論であり、その理論を使用するのは新しい状況に直面したときにその状況を理解するためである。

社会科学者がほかから区別されるのは、理論を明確にし、前提をはっきりと述べて理論の命題を理論の観点から正当化し、その命題を適切な証拠に当てはめてテストするか、最低でも評価するという点である。

ところがすべての社会科学者が実証主義の枠組みの中で研究しているわけではない。たとえば、社会の実体を構成し、アクターや行動に意味を持たせる背景や条件を理解することに興味を持っている社会科学者は多い。

「理解」(Verstehen)の側に身を置く学者も「説明」(Erklärung)の側に身を置く学者もともに、種類は異なるにしても、われわれの注意を特定の問題、関係性、証拠に向けさせるために理論を使用しているのだ。また、彼らは自分たちが「妥当だ」と考えるテストや評価方法に注意を向けさせる場合もある。

理論にはもちろんマイナス面もある。たとえば、理論は特定の問題を無視するか、切り捨ててしまう。また、特定の種類の調査を奨励しない一方で、認識面で一貫性を保つために、矛盾する情報をわれわれの期待に同化させることを奨励する。

たとえばハンス・モーゲンソーは、一九四〇年にフランスがあっけなく敗北したときに困惑している。なぜなら、当時主流を占めていた理論とは矛盾するという理由から、一般的にはこのような出来事は起こるはずがないと思われていたからだ。しかしこの出来事は、のちに過去を回顧することによって、既存の理論に当てはめて解釈され直されたのである。

このような巧妙なごまかしを使うことから、社会科学者は「事実が矛盾していることに照らして自らの前提を変えるというよりは、前提に固執するあまり、経験の前では敗北を続けてしまうという慢性的な傾向」を持っているのである。

互いに競合するパラダイムや大理論は、このような問題にとっては不完全で一時しのぎのものである。これらのパラダイムや理論は、新たな別の問題にわれわれの目を向けさせてくれるのであり、その問題が重要であると考えられる理由や、問題にアプローチするときの方法を教えてくれる。

また、異なるパラダイムや理論があることで、特定の大理論とは相容れなかったり矛盾したりする証拠を無視することが難しくなる。それらを無視すれば、ほかの理論やパラダイムの提唱者から間違いを指摘されるのは間違いないだろう。

国際関係には、リアリズム、リベラリズム、マルクス主義、構成主義というように、いくつかの競合するパラダイムがすでにある。英国学派、フェミニズム、プラグマティズム、認知心理学、社会学的制度主義、哲学的実在論などのおかげで、われわれの選択肢はさらに増える。これらのパラダイムは知的な細分化をもたらすとともに、知的な正直さを奨励する。その一方で、研究分野のかなりの部分を細分化させることにもなったのだ。

それでは、なぜさらに別のパラダイムと、それに関連する大理論が必要なのであろうか。

私は、これにはやむを得ない理由があると考えている。最も重要なのは、既存のパラダイムやパラダイムに組み入れられた理論には、人間の動機に関する説明がごくわずかしかないということである。

すでに述べたように、リベラリズムとマルクス主義は「物欲」(desire)を基礎としており、この点ではリアリズムも大きく違わない。リアリズムは「恐怖」(fear)を基礎としたパラダイムであり、このパラダイムに属する理論が主張するのは、アナーキー的な環境下にいるアクターは安全保障を第一の関心事としなければならないということであり、それが満たされてはじめて物質的な欲求に浸ることができるということである。

ところが、精神的な動機や、自尊心を求める人間の欲求をもとに構成されたパラダイムや理論は存在しないのである。また、名誉や地位を強く求めることが、どのように(政治行動を形成するとまでは言わないまでも)政治行動に影響を与えるかということについて説明しているパラダイムや理論も存在しない。

本書が提示する国際関係の理論は、ほかの理論では説明できない行動を説明し、新たな問題を見極め、わかりやすい方法で既存の理論を再構成するために必要なのである。より一般的に言えば、それは新しく実り豊かな研究プログラムを確立するためなのである。

===

以上です。ちょっと難しいですが、非常に大事なポイントを言っているかと。


by masa_the_man | 2013-07-31 23:41 | 日記 | Comments(0)

明日の講演会の内容

今日の横浜北部は曇りがちでしたが、それにしても蒸しました。

さて、明日の講演会の内容というか、簡単なレジメについてメモ代わりにここへ

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『自滅する中国』&『すべての富を中国が独占する』:出版記念講演会

狙い:中国の大戦略の動きの源泉を、戦略のロジックやその思想の特殊性から分析する

ー台頭する中国:一体何が問題なのか

―中国の「巨大国家の自閉症」

―中国の特殊な「戦略文化」:戦国時代の文献への異様な尊敬と尖閣への応用

―G2関係から見えてくる「朝貢制度」と「蛮夷操作」

―ドイツとの比較は正しいのか?

―戦略の「パラドックス」とは何か

―諸外国の対応、その1:韓国のケース

―諸外国の対応、その2:豪州、ベトナム、日本、インドネシア、フィリピンなど

―アメリカの三つの戦略

―暴発の道筋と日本の対応

====

以上のような内容についてお話させていただきます。ご期待下さい。


「中国の地政学と大戦略の失敗」CD

by masa_the_man | 2013-07-26 22:19 | 日記 | Comments(4)
おしらせです。

今週の土曜日に中国本の二冊の出版記念講演会やります。
お時間のある方はぜひお越しください!

===

士気の集い109回講演会は
7月27日(土)14時 ~16時30分(開場:13時30分)
奥山真司先生独演会「自滅する中国の大戦略?」になります。

中国は自滅するのか?世界的に有名な戦略家であるエドワード・ルトワックの戦略論を元にして、新進気鋭の地政学者 奥山真司先生が、処方箋を示します。戦略の理論から見た中国の趨勢について知りたい方、日本を何とかしたい熱い思いを持つ方、その他好奇心から興味のある方を含め、是非ともお越し下さい。

【日 時】平成25年7月27日(土)14時 ~16時30分(開場:13時30分)
【会 場】文京区民センター2F 2-A会議室(文京シビックセンター向かい側)
 東京都文京区本郷 4-15-14 Tel:03-3814-6731
 交通:東京メトロ丸の内線・南北線「後楽園駅」or都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩1分
【参加費】 事前申込:2000円、当日申込:3000円
事前申込の学生:1000円、高校生以下無料。
【懇親会】 17時~19時頃 参加費:事前申込3500円 (事前申込の学生3000円)
当日申込4000円 (当日申込の学生3500円)
【申込先】7月26日までにメールまたはFAXにて(当日受付も可)(懇親会は7月25日 23時迄)
  ★当日は混雑が予想される為 事前申込の無い方の入場は講演10分前とさせて頂きます★
【主 催士気の集い・青年部 千田宛て http://blog.goo.ne.jp/morale_meeting
  TEL 090-3450-1951(電話での事前申込はお断りしています)
  FAX 03-5682-0018 E-mail:morale_meeting@yahoo.co.jp


「中国の地政学と大戦略の失敗」CD

by masa_the_man | 2013-07-25 14:00 | ためになる情報
今日の横浜北部は梅雨が復活したようで、蒸し暑くて曇り時々雨でした。

さて、本日クラウゼヴィッツ学会でランドパワーの理論について発表してまいりましたが、その時に色々と聞いた話などを少し。

すでに前のエントリーでも書きましたが、ランドパワーの理論というのはマハンがシーパワーの理論を言い始めるまでは戦略理論そのもの、つまり「元祖戦略論」だったわけですが、その説明の際に当然ながら古典としてクラウゼヴィッツと孫子を引き合いに出しました。

そしてこれを説明する際に、孫子の兵法における中心的なメッセージである「兵は詭道なり」の部分に触れたわけですが、その時に会場から

「日本の過去の孫子の翻訳(現代語訳)では、なぜかこの部分をオブラートに包んで強調していない」

という指摘がありました。

言われれてみればまさにその通りで、私も前回のボイドの発表の時に、このアメリカの元戦闘機乗りが孫子の本を読んで、

その真髄は、相手を徹底的に騙すことだ

と気づいたことについてちょっと意外な感想を持ったことを思い出しました。たしかに日本の解説本では、孫子についてここまで「相手を騙すこと」を前面に押し出して解説しているものはほとんどありません。

ところが私は一昨日に刊行したルトワック本を訳している時にも、この中国の「騙し好き」なところに警告している文面を何度も見ることになりまして、たしかに日本人は兵法の騙しを回避しているなぁと実感しておりました。

結論として何を言いたいかというと、日本は孫子の兵法をそれほど真面目に実践してこなかったから良かったなぁということです。

実際のところ、孫子の「騙し」が横行するような社会を、日本の中でつくってしまったら悲惨ですからね。

ところが逆にそれで問題なのは、日本人が「騙し」を真剣に実践してこなかったからこそ、今度はそれを心の底から実践している相手にたいして注意しなければならないということです。

自分たち同士で「騙し」を使っていなくても、危険なビジネスである国際関係では「騙し」が横行しているわけですから。

本当の国際親善では、このような相手の汚い「騙し」の部分までしっかりと理解してあげることがきわめて大事なのではないでしょうか?


by masa_the_man | 2013-07-24 23:48 | 日記 | Comments(10)
今日の横浜北部は晴れておりまして、夏が戻ってきました。

さて、先月のパイプライン関連の翻訳の記事をもう一度。

このネタについては日本語で上がっているものでも地政学的な分析がやや甘いものが多いので、まずは資料をここにまとめておく意味で再掲載しておきます。

===

中国の新しいエネルギールートの地政学
By K.ヨーメ

●中国国営の中国石油天然気集団(CNPC)は、ミャンマーから中国までつなぐ、天然ガスのパイプラインの建設を、先月の五月二八に完了した。同時に石油パイプラインもすぐに完成させるところまできている。

●パイプラインは7月1日に、ミャンマー西岸のベンガル湾から昆明(雲南省の首都)までガスを運び始めることになっており、石油パイプラインのほうは年内に中国の原油をペルシャ湾やアフリカから運び始めることになる。

●この中国への石油とガスの新しいルートは、この地域の地政学的な情勢にとって非常に重要な痕跡を残すことになり、主要国の戦略的計算にとってカギとなる要素を構築することになる。

●まずこのパイプラインは、中国が南西部の省とインド洋をつなげるという夢の実現を意味している。中国は研究者たちによって言われている、いわゆる「二大洋戦略」(two-ocean strategy)の完成に一歩近づいているといえる。これはインド洋と太平洋の両大洋で海洋コントロールを達成するということだ。

●パイプラインは戦略的にも非常にタイミングのよい時に完成している。エネルギー安全保障が地域の地政学にとって支配的となり、この石油パイプラインは、戦略的に致命的なマラッカ海峡を通る石油の3分の1の量の海上輸送をバイパスできることになったからだ。

北京はこの海域を「アメリカがコントロールしているシーレーンである」と見ており、いざ紛争になった時にはそこに資源を依存していることになるため中国の脆弱性が増すと考えているのだ。

●現在、中国の80%の原油の輸入はマラッカ海峡を通過しているのだ。

●このパイプラインのロケーションが重要な理由は他にもある。ミャンマーはこの地域の主要国の影響力を争う場となっているのだ。中国は段々とミャンマーの利害を高めていたが、最近のミャンマーの突然の変化は中国にとって思わぬ障害となっており、「新しいミャンマー」に対処し、アメリカと日本の新しい政策に対抗すべく政策を考え直さなければならなくなったのだ。

●中国はベンガル湾周辺の国々と政治的・経済的・軍事的な結びつきを強めており、主にその理由は、中東やアフリカからのエネルギーへのアクセスを確保するというところにあるようだ。

●これらの国々の中でもミャンマーは、中国の「インド洋につながる戦略的野望」にとって最も重要な国である。中国は公式的にミャンマーの国際社会への復活を祝っているが、同時に長期的な安全保障の権益を確保したいと考えているのだ。

●北京政府はこの代替的なエネルギー供給ルートの開設を、東シナ海と南シナ海における領海争いの状況への対抗策として見ている。ミャンマー中国パイプラインは、中国にインド洋へのアクセスをもたらすことになり、アジアの大国ゲームに新しい動きを及ぼすことになるのだ。

●ところが中国はすでにミャンマーにとっての「唯一の友」ではなくなっている。テイン・セイン大統領の五月の訪米はオバマ大統領のミャンマーへの歴史的訪問のたった半年後に行われているのだ。両国高官同士の交流の高まりは、アメリカのミャンマーにおける利害が大きくなっていることを示しており、これは「軸足」戦略にとって有利であるとアメリカは考えているのだ。

●アメリカはミャンマーの改革の支援を協調しており、ミャンマー側は「自国の大統領の訪米はアメリカからの投資を促すものだ」と期待している。

●中国の専門家たちは、米とミャンマーとの間の関係復活を、アメリカによる中国の台頭の「封じ込め」の一環であると見ているのだ。

●日本もミャンマーへの関与を復活させている。日本の安倍首相は五月にミャンマーを訪問しているが、この後には野党の代表であるアウンサンスーチー女史が訪日しており、日本は5億ドルもの新しいローンを提供しており、安倍首相の訪問中には174億ドルもの対日負債を帳消しにしている。

●その理由は、少なくともジャパンタイムス紙の記事で明確に述べられている。安倍氏の訪問の直前に書かれた論説記事では、「日本の動きの理由の一つは、中国の影響力の増大に対抗するためだ」と書かれている。

インドはこれまでのところ、あまり動いてはいない。中国の李克強首相が5月にインドを訪れた時に、「インドと中国は、共通の近隣諸国にたいする友好的な関係の強化を助け合う、互恵的、ウィンウィン的な結果を得るという点で合意した」と述べている。

パイプラインは北京にとってエネルギーの代替的な輸入ルートを与えてくれることになる。アメリカがこの地域の優位を保っていることから、中国にとってこれは極めて重要だ。ところが北京が長期的にこのパイプラインのおかげで得る戦略的有利は、ミャンマー国内の発展と、それにおける中国の関係に左右されることになるのだ。

===

このネタについての地政学分析は、今日中にメルマガのほうで書こうと思っております。


by masa_the_man | 2013-07-23 15:56 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は曇りの一日でしたが、かなり蒸し暑い感じでした。梅雨が戻ってきたような雰囲気です。

さて、先週発表されて話題になっていたピュー研究所の世界意識調査なのですが、なぜか日本ではあまり注目されなかったようなので、代わりにウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事の要約です。

===

アメリカは「世界のリーダー」の地位を中国に譲りつつあると見られている?

●最近発表された意識調査の結果による、アメリカと中国の国民たちは互いを疑いの目で見るようになっており、世界の人々は、アメリカが「世界の経済と政治のリーダー」の地位を中国に明け渡しつつあると感じているらしい

●ワシントンに本部のあるピュー研究所が先週の木曜日に発表した世界39ヶ国の意識調査によれば、調査の行われた23ヶ国の国々の多数の人々は、中国がアメリカを抜いて世界トップの超大国になった、もしくは最終的になると答えている

●中国人は、自分たちが最終的に支配的になることを疑ってはいないが、アメリカ人はこの質問にたいしては意見がわかれているという。

●ピュー研究所の調査が裏付けているのは、やはり最近の中国経済の拡大であり、2008年のアメリカの経済不況が、中国にたいする意識を変えたということだ。

●この調査の結論部分では、「中国の経済力は台頭しつつあり、多くの人々が最終的にアメリカの超大国としての地位にとってかわると考えている」と述べられている。

●この調査結果が示しているのは、47%のアメリカ人が、今後もアメリカの中国にたいする優位が続くと答えていることであり、これは2008年の54%から下がっている

●その反対に、中国のおよそ75%の人々が「中国はアメリカを最終的に追い抜くことになり、56%の人々が中国はもっと尊敬されるべきだと感じている」と答えているという。

●また、このデータは米中間の疑念の高まりを示している。アメリカのたった37%の人々しか中国のことを好意的に見ておらず、同じく中国でも40%がアメリカに対して好意的だった。両国では同じ調査を行った2008年の時点から、好意的な答えの率が下がっている。

●中国人で「中国とアメリカとの関係が協調的である」と答えた人々の割合は30%以下であり、これは以前の68%から劇的な低下だ。これは中国内でのオバマ大統領に対する意見の低下ともほぼ一致している。

●23%の中国人は米中関係が「敵対的」であると答えている。この調査によれば、中国は非イスラム系の国としては、半分以上の人々が(54%)アメリカのことを好意的に思っていないと答えている、唯一の国である。

●しかし中国自身も自分たちの評判についてなんとかすべきであろう。アメリカは世界中の63%の人々が好意的な意見を持っており、中国よりもはるかに高い割合で「パートナーだ」と思われているのにたいして、中国は調査が行われた半分の国々で、パートナーとしての認識がようやく50%を越えている程度だ。

●中国が好意的なイメージを持たれているのは科学とテクノロジーである。そしてアメリカが最も強いとされる、いわゆる「ソフト・パワー」でも躍進している。これについてピュー研究所は「中国のソフト・パワーで一番強いのは科学とテクノロジーである」と結論づけている。

●そしてそのインパクトはアフリカとラテンアメリカで一番強く感じられているという結果が出ている。アフリカの59%の人々は、中国のビジネスのやり方を歓迎しているというのだ。

●ところがそのような偉業も、中国を人気者にしているわけではない。たとえば中国の軍事や人権政策に関することは広範囲で嫌われているし、文化面での輸出もあまり好まれていない。それでもあからさまな反中意識は世界中で限定的であるという。

中国が一番嫌われているのは日本だ。好意的に見ているのはたった5%であり、中国が支配的な超大国になるのを最も警戒している。

●日本の場合は中国との領土問題があるためであるのでわかりやすいケースと言えるが、中国にたいする輸出が増えているドイツでも、なぜか反中的な意見が増加している。

●逆に北京にたいしてもっとも支持の強い国々は、マレーシア、パキスタン、ケニヤ、セネガル、ナイジェリア、そしてベネズエラ、ブラジル、チリなどだ。アジア、アフリカ、南米の一部では中国はパートナーとして考えられている(もちろんほとんどの国は中国にとって中立的な立場だが)。

●中国は段々とアメリカと同じようなとらえかたをされてきている。たとえば両国とも、実行している政策が他国に良い影響を与えているとは思われていないのだ。

●ところが若くて教育水準の高い人々はこの両国にたいしてポジティブな見方をするようになってきている。「中国が将来得ることになる最大の資産は、世界の若者にたいするアピールであろう」と調査は分析している。

アメリカの同盟国の市民の多くは、「中国はすでに世界の経済主導国である」と考えており、この国にはイギリスとドイツが含まれる

●その反対に、中国の側にある国々である日本や韓国では、いまだにアメリカがトップであると答えている。そしてこのような国々では、中国の軍事面での野望にたいして疑念が広がりつつあることが判明している。

●「世界における中国のイメージにおける難問の一つ」は、調査を行ったたった11ヶ国だけしか「北京政府が自国民の自由を尊重している」と感じていないということだ。

===

もちろんアメリカの産経新聞といわれるウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事なので「アメリカ万歳バイアス」がかかっていることを加味して読まないとまずいですが、たとえばアフリカで中国が人気があるということは日本でもあまり知られていない点を紹介しているのが興味深いですね。

アフリカと中国との関係についていえば、今週発売予定のこの本も見逃せません(笑
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さらに本日発売のルトワック本では、このドイツやイタリアなどでの反中的な意見の台頭についても分析がなされております。

ということで、今週発売するこの二冊をよろしくお願いします。


「中国の地政学と大戦略の失敗」CD



by masa_the_man | 2013-07-22 20:41 | 日記 | Comments(5)
昨日の横浜北部はしっかりと晴れたわりにはけっこう涼しくて気持ちよかったです。真夏といっても暑さは小休止。

さて、昨日の午後に戦略研究学会の定例会で司会をやってきました。その時に聞いた講義の感想を。

今回の定例会のコンセプトとしては、経営戦略系の先生が軍事・安全保障系の人々に自分たちの専門分野の「概論」を教えるということで、二人の先生に「戦略論」と「組織論」の二つの大まかな流れや論点などをそれぞれ一時間ずつレクチャーしていただきました。

本当に盛りだくさんの内容でして、司会をやっていた私自身もまだ消化しきれていない部分があるのですが、戦略論そのものというよりも、むしろ国際関係論との共通項をたくさん発見できたことが収穫でした。

たとえば出てきているテーマも似ている点がけっこうありまして、そのいくつかを箇条書きしますと、

―一般理論というか、合理性を無理やりすべてのタイプに当てはめるところからはじまっている。

―大きなアクターの動きから研究が始まっている点。国際関係論では大国、経営論では大企業。

―コンサルタント(アドバイザー)が共に議論形成に大きな役割を果たしている部分がある。

―合理性で説明できなくなってきた時に「文化」や「複雑な人間」というファクターを強調するようになってきた。

―アメリカの強烈な単純化への欲望。

―ポーターvsミンツバーグは、まるでネオリアリストと戦略文化派の議論そのもの。

―コンティンジェンシーについての考察。不確実性の強調。

―経営戦略論の権威と言われる人でもクラウゼヴィッツや孫子の古典をほとんど理解できていない。その逆も同じ。

―段々と価値観の話(戦略の階層の上位)に話が移ってきている点。

―計画的戦略vs創発的戦略(ミンツバーグ)は、そのまま順次戦略vs累積戦略

―ともに中国に対してどう対処していいのかわからない。

ーともにNPOやソーシャルというアクターたちにたいして理論化できていない。

―ともに経済学にたいして冷ややかな目で見ている。

ということです。

非常に気になったのが、以前は日本人同士で共通の暗黙知というか、わざわざ言語化しないでもわかっていた「あうんの呼吸」のようなものが若い世代で急速に失われつつあり、何をするにも分厚いマニュアルが必要になってきていると講師の方が指摘していたことでしょうか。

これは日本人の共通ソフトが劣化してきたという風にも言えるのかもしれませんが、見方をかえれば日本人がより世界水準の「普通の人」になってきたとも。

それと、やはり気になったのは経営論の先生たちの使うケースが、非常に短期間に陳腐化するスピードが段々と速くなってきているということでした。つまり論文で使った数ヶ月前の成功例が、論文を出す頃には経営破綻しているという。

たとえばここ数年間「痛くない注射針」で優良企業として様々な媒体で持ち上げられていた岡野工業が、一億円の所得隠しを行なっていたことが最近ニュースになりましたが、このように成功例として持ち上げていたら実際はヤバイことやっていたという例は論文を書く側として脅威だとか。

とにかく私の中で消化するのにやや時間はかかりそうですが、それでも別の知の大系を知ったという意味でとても刺激を受けました。

なんというか、結局のところは「人間」という複雑性をめぐる問題でありまして、問題意識はけっこう近いのかなぁとあらためて感じた次第です。


by masa_the_man | 2013-07-21 00:10 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は久しぶりの文句なしの快晴だったのですが、意外に気温が低くて過ごしやすかったですねぇ。

先ほど久しぶりに国際地政学研究所のワークショップに参加してきたのですが、アメリカの大戦略に関する議論が出てて、けっこう参考になりました。

さて、来週の水曜日の夜なのですが、クラウゼヴィッツ学会で冷戦後のランドパワーの理論について発表をしますので、その予告というか、参考文献紹介を。

ランドパワーといえば、戦略理論としてはおそらく最も古い戦略理論でありまして、マハンやコーベットがシーパワーの理論を書くまでは事実上は「唯一」の戦略理論でありました。

この分野について古典といわれるのは孫子とクラウゼヴィッツですが、主に冷戦後のものに特化すると、参考になるのは以下の四つがあると思われます。

1,アンドリュー・クレピネヴィッチが、自身の働くシンクタンク(CSBA)の文書として発表したTransforming Legionsという題名のモノグラフ。その抄訳版はこちら

2,『第三の波』で有名なトフラー夫妻が、戦争の形態の移り変わりにフォーカスして書き、エアランドバトルの形成の経過を記して、のちに「軍事における革命」(RMA)の議論にもつながることになった、『アルビン・トフラーの戦争と平和―21世紀、日本への警鐘』。ただしこの本は抄訳版のようになっていて、肝心のところがけっこう抜け落ちてる。

3,元米陸軍大佐のダグラス・マグレガーの書いた「Breaking the Phalanx: A New Design for Landpower in the 21st Century」という本。部隊の分散化とネットワーク化を主張。

4,こちらも元米陸軍の高官で陸軍大学の校長であるロバート・スケールズの『Yellow Smoke: The Future of Land Warfare for America's Military 』という本。これは情報ネットワーク化などのテクノロジーの進展について理解はするものの、対テロ戦にはいまだに現場の兵士が立つ必要があるという、やや保守的な立場に立つ。

この他には米軍の公式文書の数々があるのですが、ここではとりあえず割愛しております。

来週はこれらの著書などで提唱されている理論を中心に、クラウゼヴィッツの理論との関連性などについてお話させていただくつもりです。

ということで、以下の告知しておきます。

===

2013年7月度研究会のご案内

日時:7月24日(水)18:30~20:30

場所:日本学士会館310号室
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最寄駅:地下鉄神保町駅下車3分
(東京メトロ半蔵門線、都営三田線・新宿線)
千代田区神田錦町3-2-28 TEL:03‐3292‐5936

3)奥山真司氏 (戦略学博士・当会理事)

4)テーマ:「冷戦後のランドパワーとクラウゼヴィッツ」

5)参加費: 会員 1,500円、非会員 2,000円


by masa_the_man | 2013-07-19 22:49 | Comments(0)
お知らせです。

ルトワック本とほぼ同じタイミングで出るダンビサ・モヨの訳本の表紙が完成しました。

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すべての富を中国が独り占めする
ダンビサ・モヨ (著), 朝倉慶 (監修), 奥山真司 (翻訳)

原題がWinner Take All なので、それほど外れた邦題ではないかと。

ちなみに帯にある顔は私ではありません、念のため。

来週には店頭に並ぶそうです。どうぞよろしくお願いします。


by masa_the_man | 2013-07-17 15:35 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は少し気温が低めでしたね。いやー、連日の暑さがおさまって少しホッとしました。

さて、フランスに憧れをもつ平和主義の人々の幻想を打ち破るかもしれない記事として面白いものがあったので要約します。

フランスほど「軍国主義国家」というのは、世界でも例を見ないほどですね。軍人にたいする国民の尊敬は今でも圧倒的なものがありますし。

===

フランス人はなぜパレード好きなのか
by ロバート・ザレツキー

●パリのシャンゼリゼ通りで毎年7月14日に行われる大騒ぎは、フランスの国家としてのまとまりと自信を示すために行われるものであり、国民にとっては待ちに待った祝日である。この日に限ってはフランスは経済・政治面での困難を忘れて、リラックスしながら道行くパレードを観賞できるのだ。

もちろんこのパレードで注目を集めるのはミッキーのようなキャラクターの巨大な風船ではなく、対空ミサイル搭載車や戦車であり、ここでもフランスの例外主義は本当に「例外的」であることをわれわれに思い起こさせてくれるのだ。

●実は、フランス革命の思想的な一端を担った思想家であるジャン=ジャック・ルソーもパレードが大好きであった。パレードは「(王族から)解法された自由な市民」の表現の一つであったという理由から、ルソーはそれらが「共和国に唯一必要なエンターテイメントだ」主張している。

●そしてこれはバスティーユ襲撃のたった一年後のことであり、実のところ、ルソーの理想はほぼ実現しつつあったのだ。

●この革命という大きなイベントを記念するために、その主人公となったパリ市民たちは「パリ祭」を計画した。フランス国民全員(この新しい国をつくった連邦化したコミューンたち)は、この祝いに参加するようパリに招待されたのだ。

●この祭りは、突然「自由」で「平等_になってしまったこの三千万人の個人たちにたいして「博愛」の精神を植え付けるための集団的な「振り付け」の一種である。

●ほとんどの歴史家たちが同意しているのは、この国家的な行動が単に人気が高いだけでなく、極めて自発的なものであるという点だ。全国民がパリの祭りのために駆り立てられるのだ。

●パリにつくと、彼らは祭りのための舞台づくりに邁進する。つまり、ルソーの共和的な夢を復活させ、市民――都会や田舎、貧富や老若男女を問わず――は手に道具をもって、国防省とセーヌ川の間の土地に円形劇場をつくったのだ。

●1789年の創造的混乱から生まれた市民軍である「国民軍」(national guard)がそばにいたのだが、これはいわば啓蒙時代の「ウッドストック」であった。

●青白赤のリボンを身につけた国民軍たちは、自分たちが革命を支持していることを証明するために全国の地域を代表して派遣されてきており、1790年のフランスでは、国民軍はジミ・ヘンドリックスと同じくらい(彼もウッドストックで赤白青の衣装を身にまとっていた)国民の意志を反映した存在として人気を得ていたのだ。

●この祭りにおける国民軍の役割は、現在のパレードに軍が参加している理由の一端を説明するものだが、そこには他の理由もある。ナポレオン時代とその後のフランスの台頭によって、7月14日はあえて口にしてはならない歴史的な重要性を持ったのである。

●それは普仏戦争の敗北によって逃れていた第三共和政が、1880年にパレードを復活させたからだ。

●フランスの左派はパリ祭における軍隊の役割を右派よりも強調する。これは外国から来た人々にとっては奇妙に映るかもしれないが、理由は単純だ。軍は国家の復活を象徴するだけでなく、共和国化した、革命を行った国家の伝統を受け継ぐ存在であるからだ。

●話を数世紀先(そして二つの共和制の後)の現在に移すと、フランス人はその政治思想に関係なく、相変わらず今でも軍を尊敬している。

●たとえば二年前に「緑の党」の大統領候補であったエヴァ・ジョリーが、パリ祭のパレードに兵隊や兵器を参加させるかわりに「市民」のパレードにしようと提案したことがあるが、直後からあらゆる政治家や知識人たちからの猛反発を食らい、ジョリーはすぐにその提案を引っ込めたことがある。

●そして今年のパレードでも、フランスの経済が芳しくないにもかかわらず(というよりも、むしろそうだからこそ)、さらには社会党の政府が同じく人気がないにもかかわらず、誰も軍の参加に疑問を差し挟む人はいないのだ。

●ところがもしわれわれが今年のパレードを文学の文献のように分析したらどうなるのだろうか?

●パリそのものはそのような分析が可能だ。たとえばフランスの右派はパレードの通り道をブルジョワが住む通りやパリ西部の保守系の地域へと通そうとするはずであるし、左派は行進を革命が最初に起こった町の東部の労働階級の多い場所で開始させて終わらせようとしている。

●ところが7月14日のパレードはパリの中心部を横切るものであり、凱旋門からシャンゼリゼ通りを通ってコンコルド広場を通るため、象徴的ではあるが、この町(そして国家全体の)イデオロギー面での対立を乗り越えるのだ。

●今年の通路は多くの意味で「省略版」とも言えるものだ。政府は国防費を削減したために、登場する飛行機や車両の数は少なくなっており、その燃料費をかなり浮かせている。



●ところがパレードの参加者はかつてないほどのにぎわいだ。まずパレードに参加するフランス軍の数は削減されておらず、さらに今年は外国からのゲストの数が多いのだ。

●たとえばクロアチア兵が参加しているのだが、これは彼らのEUへの参加を象徴している。ところがさらに重要なのは、60人のマリ兵と、フランス・ドイツ混成旅団が参加していることだ。

●この二つの派遣隊は、ある特定の地政学的現実によるものだ。

●マリがパリに来たのは、パリが最初にマリに行ったからだ。「サーバル作戦」と名付けられた今年初めのフランス軍の軍事行動は、イスラム反逆軍の侵入を阻止するためのものであったが、これはマリとフランスの双方で非常に高い支持を得たものであった。

●フランスがテロとリンクしたイスラム系の動きを打倒するという、世界の舞台で発揮する実力を持っているということは、フランスにとって過去の革命の栄光の匂いと共和国の理想主義以上のものがあったのだ。

●ところが同時にフランスは、「サーバル作戦」を経済的にも兵站的にも継続することはできないことを自覚していた。なぜならそれには同盟国たちからの支援――しかもいやがるドイツから――が必要であったからだ。

●この作戦の支援のためにドイツのアンゲラ・メルケル首相が用意したのはいくつかの輸送機だけだった。オランド大統領がこのすぐ後に「ヨーロッパ軍」を言い始めたのはこのことが頭にあったことは明らかだ。

●フランス・ドイツ混成旅団が今週の日曜日にパレードに参加して、彼がヨーロッパ軍を呼びかけてからも、実はほとんど何も反応はない。要するにこれはたんなる「見世物」としか思われていないのだ。

●ただし最初に行われたパリ祭がわれわれに思い起こさせてくれるのは、「見世物」は観客を動かすだけでなく、国家を動かすこともあるということだ。

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重要なのは、革命を起こした市民軍=国軍という考え方ですね。


by masa_the_man | 2013-07-16 19:33 | 日記 | Comments(6)