戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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今日の横浜北部は小雨と曇りの典型的な梅雨かと思いきや、いきなり快晴になってます。

さて、昨日の話のつづきを。

これも私の長年の観察による勝手な偏見なのですが、どうも「陰謀論」が好きな人たちにはいくつかの傾向というか、共通項のようなものがあるのではと感じております。

それは、彼・彼女らが「美しくて理路整然としたものが極端に好き」ということです。

ところがわれわれが生きている現実は、実はかなりカオス的でありまして、地理や物理や天文学のような自然科学の分野ではたしかにきっちりとした法則があるわけですが、どうも人間が絡んでくる社会面では、それこそバラバラでぐちゃぐちゃな実態があるわけです。

もちろんこれを克服しようとして人間が長い時間をかけて開発してきたのが「組織」であったりするわけですが、これをつかってもうまく他人を規律正しくコントロールできるかどうかというのは別次元の話。

ということで、結果的にわれわれは自分の部下や上司、それに恋人や自分の子供さえ(さらには自分自身でさえ!)満足にコントロールできないわけですが、なぜか国家や社会の現象となると、不思議と「誰かが上でうまくコントロールしているんだ!」と考えがちの人が出てくるのです。

ところが人間は他人をなかなかコントロールできません。できないから苦しいわけです。ここに「苦」というすごい概念が出てくるわけですね。

しかし何度もいいますが、私はいわゆる「上」の人たちが、社会や世界をコントロールしたいという動機や衝動を持っていることは否定しません。しかしそれが現実にできるかどうかは別問題。

そしてこれが「できる」と考えてしまいがちな人たちというのは、どうやら「自分はうまくコントロールできないけど、誰かにはうまくコントロールしていて欲しい」という隠れた願望を持っているんだと考えています。

そしてその願望は、実は「美しく整った世界」へのあこがれから来ているものなのかと。

陰謀論の説明というのは、ある意味で「キレイなスッキリとした解釈」を与えてくれるわけですが、それが本当に「真実」かどうかというのはあまり関係がないみたいですね。

ということで、陰謀論を信じる/信じないはもちろんみなさんの勝手ですが、私は正面からカオスな現実世界を見据えることができないとなかなか「大人」になれないかなぁと感じております。
by masa_the_man | 2013-05-31 11:03 | 日記 | Comments(4)
今日の横浜北部は曇りがちでした。午後は少し降ったのですが、なんとなく梅雨の始まりを予感させてくれるような。

さて、ひとつだけ簡単に記しておきます。

国際政治・経済関連の文献の一般書をある程度読み込んだ経験を持つ方たちだったらよくわかると思うのですが、いわゆる「陰謀論系」と呼ばれるジャンルがありまして、これにけっこうハマる人がおります。

かく言う私も十年以上前にその手の本をけっこう読んだ記憶があるわけですが、最近感じるのはこの手のジャンルの理論にたいするスタンスの取り方のむずかしさ。

というのは、陰謀系というのは、それがどのようなもの(ユダヤ系、金融系、アメリカ系など)であれ、基本的には一つのパワフルな全能的な存在が世界のすべてをコントロールしているという、単純でわかりやすいストーリーから世界の複雑な動きを分析してくれます。

これは一つの理論と言えますし、これはこれで面白いのですが、問題はそれが本当に「真実」を教えてくれるのかということ。

私が陰謀論の最大の問題点だと思うのは、それがあまりにもすぐれた合理的かつ全能的なアクターを想定しすぎていることで、ひとつの大きな事件やイベントがあったときに、そこにかなりの数の(アホな)人間が関わっているという現実を考慮に入れていないということでしょうか。

ただし私は「陰謀を考えていて、それを実行しようとしている人間はいる」という立場はそれなりに尊重しておりまして、そういう意味では完全に「陰謀論」、もっと正確にいえば「陰謀の動機の存在」を否定しているわけではいません。

ただしこれだけ複雑な世界に、先を見越してすべての情報を知りながら次の一手を的確に出し、しかも色々な考え方を持っている多数の(非合理的な)人間をそこまで操作することができるのかといえば、それはちょっと無理だろう、というのが妥当なところかと。

ということで、私は最近どんどんと不可知論的になってきてしまっているのですが、その中では地理という要素だけはあまり変化しない変数であるために、やっぱり地政学かなぁというのは我田引水的でしょうか。

関係ないですが、新しく翻訳する本が決定しました。けっこうな大著なのですが、近日中にあらためてここで報告したいと思います。
by masa_the_man | 2013-05-29 22:24 | 日記 | Comments(2)
久々にメルマガを更新しました。

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みなさんもすでにご存知の通りかと思いますが、
大阪市の橋下市長の、いわゆる「従軍慰安婦」問題に関する諸々の発言が
世界的に大きな波紋を広げております。

アメリカ通信」をお読みのみなさんの中には、
様々な意見をお持ちの方がいらっしゃるとは思いますが、
私はこの件については、単純にひとつの分析だけを示しておけば、
ほぼ、こと足りるのではないかと考えております。

それは何かというと、「戦略の階層」です。

「またそれか!」とお感じの方がいらっしゃるのは重々承知なのですが、
この概念は本当に色々なことを教えてくれるので、この問題でも触れざるを得ません。

-:-:-:-:-:-:-:-:-

では「戦略の階層」から何がわかるのかというと、
それは「今回の橋下市長には勝ち目はない」ということです。

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続きは私が執筆しているメルマガ、「アメリカ通信」にてご覧下さい。
by masa_the_man | 2013-05-27 12:03 | 日記 | Comments(15)
今日の横浜北部は怪しい雲がかかっていましたが、それでも雨はギリギリ降らずにスッキリした天気でした。半袖でもいけますね。

さて、興味深い記事の要約です。これは非常に「地政学」してますねぇ。

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ジブラルタルが「サッカーの独立」に一歩近づく

●冷戦時代、アメリカとソ連は互いのオリンピックをボイコットしている。国連はアパルトヘイトを行っていた南アフリカにたいしてスポーツを使って抗議している。

●では最近のスポーツと国際政治がぶつかっているのがどこかというと、イベリア半島の先にあるジブラルタルであり、ここはイギリスとスペインの間で数百年間にわたって争いが繰り広げられている場所だ。

●現在の争いの中心にあるのはジブラルタルのサッカーチームである。このチームはピークをすぎたアマチュアプレイヤーたちの寄せ集めだ。

●もちろんジブラルタルは当分の間はサッカー強国になろうとは考えていない。彼らは単純に自分たちのサッカーチームが政府を代表するものであることを考えているだけであり、いつの日かワールドカップに参戦できればいいと考えているくらいなのだ。

●ところがワールドカップのチャンピオンであると同時にヨーロッパ選手権のチャンピオンでもある巨大な隣国のスペインは、それに反対している。スペインからすれば、ジブラルタルはたとえサッカーでも独立すべきではない「領土」だというのだ

●この問題は、国際スポーツの中でも最も(わかりにくいものかもしれないが)爆発しやすい紛争の一つを燃え上がらせることになった。

スペインはもしジブラルタルが承認されればレアルやバルサのような名門チームをヨーロッパの競技に出場させないと脅しており、昨年ジブラルタルを地方チームとして認定した欧州サッカー連盟は、今週金曜日にフルメンバーにするかどうかを決定することになる。

●「ジブラルタルはスペインの心の奥にあるのです」とは『ジブラルタルの戦い』の著者であるホゼ・マリア・カラスカル氏の言葉。彼は「古い世代にとっては大問題ですが、若い世代もこの問題を発見したということですね。われわれは自分たちの領土に植民地があるということですから」と述べている。

●去年12月に行われた政治家たちからのジブラルタル参加拒否の要求にたいして、スペイン政府は「わが国は引き続きあらゆる法的手段をつかってジブラルタルサッカー協会が欧州サッカー連盟へのフルメンバーとしての参加を拒否していきます。政府としてはジブラルタルの植民地の混合チームとスペインの公式なスポーツチームとの試合を開催することを拒否し続けます」という公式見解を書面で発表している。

●スペイン外務省と首相は、この記事のために私がインタビューの申し入れした時に拒否している。スペイン政府のスポーツ関連の部門は、この問題が最高の外交部門の問題であるとだけ述べている。

●最近行われたビクトリアスタジアムでの公開練習の時に、ジブラルタル代表チームの監督であるアレン・ブラ氏はこの紛争を以下のようにまとめてくれた。「すぐ隣に世界・欧州チャンピオンがいるわけですよ。彼らとはいつでもどこでもどんなことをしても戦ってみせますよ」と彼は500メートル先のスペインとの国境を指差しながら語ってくれた

●「スペイン政府はわれわれが欧州サッカー連盟に参加することを政治的な理由から阻止しようとしたわけで、それでことが進まなかったんですよね。ところがわれわれはスペインが間違っていることを証明したわけです」

●ジブラルタルは人口3万人のイギリスの海外領土だ。1713年のユトレヒト条約で永久に割譲されたわけだが、スペインは長年にわたってこの文書の法的根拠に疑いがあると議論している。

●この条約以来、スペインは二回ほどジブラルタル奪還を試みているが、その二回とも失敗している。イギリスは海軍基地を設置し、これによって地中海の戦略的コントロールを手に入れたのだ

●今日のジブラルタルは、まるで「小さなイギリス」である。ジブラルタル・ポンドはイギリスのホンドとしてそのまま使える法定貨幣である。赤いイギリスの電話ボックスは通りに立ち並んでおり、警察官はイギリス式のヘルメットをかぶって街を歩いている。LCCはイギリスの観光客を運んでくるのだ。

●ジブラルタルにかんするスペインとイギリスの関係は1980年代から大きな騒動は起こっていないが、ラホイ首相率いるスペインの右派が政権をとってからその態度は硬化している。

●ジブラルタルサッカー連盟の代表であるガレース・ラティン氏は欧州サッカー連盟への参加の提唱者だが、彼はそれほど心配していないという。

●「この欧州サッカー連盟参加の動きは16年前にはじまりましたが、われわれはその家族の一員になりたかったからです」とは彼の弁。

●「スペインは公式にわれわれの参加を拒否をしていますが、われわれは他の53カ国と友好関係を築きたいだけであり、われわれを認識してもらいたいだけなのです」と言っている。

●ラティン氏は世界で最も古いサッカー連盟のトップである。1895年に結成され、この領土には二つのトップリーグに16チームがひしめくのだ。

●ところが彼らが欧州サッカー連盟に公式に参加を表明したのは1997年のことであり、そこから法的な争いがはじまって、最終的にスポーツ仲裁裁判所(CAS)は欧州サッカー連盟にたいしてジブラルタルを地方チームとして受け入れるよう指示したのだ。

●アメリカのスポーツ弁護士であり、裁判でも何度か勝訴を勝ち取った経験のあるポール・グリーン氏は、「スペインがCASの決定を無視することはできませんよ。CSAの狙いは政治を介入させないことでして、この場合は政治がポイントじゃなくて、法律がどう言っているかというところなんですから」と述べている。

●ジブラルタル代表の選手たちのほとんどはアマチュアで、本職を他に持つ人々ばかりだ。多くは30歳に近づいていて最盛期をすぎており、次のヨーロッパ選手権やワールドカップは次の世代の仕事である。現世代はただ単に次の舞台を設定しようとしているだけだ。

●ジブラルタルの地方チームとしての資格は、他の小国との試合を可能にした。たとえば現在ヨーロッパの最低ランクにあるサンマリノにたいして7−5で初勝利をあげたし、フェロー諸島にも去年の親善試合で3−0で勝っている。この勝利は「ヨーロッパ中に衝撃を与えた」という。

●ジブラルタルのキャプテンであるロイ・チポリーナ氏は「サンマリノを倒したことによってわれわれはすでに彼らのレベルにあることを証明できました。彼らはすでに8年から10年くらいプレーしてまだ勝利をおさめていないわけですが、われわれはたった3ゲームで勝利したわけですから」。

●監督のブラ氏は、いつかはスペインからも勝利したいと言っている。「私が代表監督になったときから目的は一つでした。それは世界にたいしてスペインが言っていることはむちゃくちゃであること、つまりわれわれが政治的な理由から欧州サッカー連盟に参加したくて、われれにはその資格がないということなんですが、それがいかに間違っているかを証明することだったんです」とのこと。

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こういう点を考えると、イギリスというのはなんとも罪作りな国ではありませんか。

それにしても世界が安定してくると、逆に自治・独立の機運が高まるということも言えそうな。サッカーだけでなく、あらゆるスポーツにも戦略や政治が密接にからんでおりますね。
by masa_the_man | 2013-05-26 22:02 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部はスッキリ晴れましたが、気温はやや低め。これくらいだと本当に気持ちいいですよね。

さて、以下の本が届きましたので簡単な書評を。

タイミングが良すぎるというか、先日のエントリーでも紹介したウォルツの処女作が、とうとう日本で新発売されました。

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人間・戦争・国家: 国際政治の3つのイメージ
by ケネス ウォルツ

はっきり言いまして、名著です。

学術的にはネオリアリズムを打ち立てた『国際政治の理論』のほうが重要なのかもしれませんが、すでに本ブログでも何度か触れてきた通り、私はこちらのほうがはるかに知的刺激を受ける本だと思っております。

内容はタイトルにかなり大きなヒントが隠されておりまして、実は「戦争の原因」という哲学的な問いかけについて、三つのレベル(人間、国家、国際関係)ごとに議論していくというもの。

テーマは広いのですが、それをうまくまとめて俯瞰しておりまして、やや文体的にはわかりにくいところも多少あるのですが、その議論の仕方(たとえば第四章の冒頭の水をつかった喩えなど)はかなり読みごたえのあるところが多々あります。

しかもウォルツのすごいところは、冒頭の2001年版の序文にもありますように、この本全体の構想を図書館で座って考えていたときに「閃光がひらめい」て、それをメモとして書き留めたものがもとになっているということです。

ようするに一瞬で全体像を思いつき、あとの論文を各作業はそれを埋めていくだけだったというわけですが、このような創発的なプロセスについての記述はなかなか示唆に富むものであります。

いわれてみれば、この本の分析は極めてシンプルですし・・・。

実はこれ、ウォルツのデビュー作でありまして、しかも博士号論文をそのまま出版したものがこの分野で「古典」になったわけですから驚きです。

このクオリティの高さですから、その生徒であった人々にとって悩みのタネになっていたというのは理解できるところでして、弟子であったウォルトによる先日の追悼記事でも、論文を書く時に相当のプレッシャーになったことを告白しております。

といってもウォルトだって『同盟の起源』という古典を書いているわけですから生徒としてはすごいもんだと思いますが。

ということで、古い哲学者などの名前がバンバン出てくるのであまり読みやすい本だとはいえませんが、その論じ方とアイディアには後に理論を一つ立ち上げるだけの力量を感じる参考になる本です。日本の国際政治関係の大学ではこれが必読本にならないとウソですな。

訳文も申し分ないものです。おススメかと。
by masa_the_man | 2013-05-25 20:53 | 日記 | Comments(1)
おしらせです。

私がCDで「累積・順次戦略」に絡めて解説をしている本の著者であるスーザン・ケイン女史のインタビューが、今夜のNHKの衛星放送の番組で放送されるそうです。

私の家にはテレビがないので残念ながら見れないのですが(泣)、お時間のある方はぜひご覧になってみてください。

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5月24日(金) ”内向型人間”の魅力と可能性 ~作家スーザン・ケインに聞く~

アメリカで去年ベストセラーとなった本「QUIET]。性格がおとなしく、リスクを取ることに慎重な「内向型人間」について書かれ、出版と同時に反響を呼んだ。

ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなどが内向的人間の典型だとし、内向型人間には世界を変える力があると訴え、外向型の人間がもてはやされ、内向型人間がないがしろにされているアメリカ社会に警鐘を鳴らす。

日本語版の出版に合わせ来日する著者のスーザン・ケインさんに、鎌倉キャスターがインタビュー。

内向型人間の魅力と可能性、内向型人間があまり評価されない現代社会の問題、内向型の性格を活かす方法などを聞く。

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by masa_the_man | 2013-05-24 11:29 | Comments(1)

戦争論(まんがで読破)

今日の釧路は昼過ぎまで快晴だったのですが、午後から曇って小雨まじりになりました。

さて、戦争論について日本語の本を色々と読んでいるところなのですが、名著をまんがで解説するシリーズのようなものがあったので、それについて書評を。

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「戦争論 」(まんがで読破)
作・クラウゼヴィッツ

というものなんですが、基本的にこれは作者がなく、企画ものとして「バラエティー・アートワークス」というグループが作ったということになっているみたいです。

で、内容なんですが、思ったよりよくまとまってます。見事に先入観を裏切られました。クオリティ自体はなかなか高いものだといえるでしょう。

しかし、しかしです。

やはりというか、「クラウゼヴィッツが二人いる」ということや、あまり重要ではない戦術面のほうの記述(とくに防御の優位性など)がかなり多く、どう論じられてきたか、どこが現代でも重要なのか、というところがやや見えにくいのかと。

また、当然かもしれませんが「三位一体」の記述にやや甘く、また戦争の天候(雰囲気)についての記述もすくなく、最も重要な「摩擦」についても解説はほんの数ページ。

それでも概略を知るという意味では今までにないくらいアクセスしやすい本であることは間違いありません。

ということで深い知識よりも広く浅くという方には意外とおススメです。
by masa_the_man | 2013-05-23 20:58 | 日記 | Comments(0)

ウォルツの死亡記事

今日の横浜北部はやや曇りがちですが、かなり蒸し暑いです。

さて、すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、国際関係論を学んだ人間だったら誰でも知っている巨人であるケネス・ウォルツが先週亡くなりました。

その死亡記事が出ておりましたのでさっそく要約を。

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ケネス・ウォルツ:国際関係の専門家、88歳で没
byダグラス・マーチン

●国際関係論の著名な思想家として知られるケネス・ウォルツは議論を呼ぶような逆張り式のアイディアをもつことでしられており、たとえばイランが核兵器を持てば中東は安定すると論じたことでも有名だ。

●今月の3月12日に88歳で亡くなった。彼が上席研究を務めていたコロンビア大学は、死因は肺炎からの合併症であると発表している。

●外交評議会(CFR)の名誉会長であるレスリー・ゲルプは、ウォルツのことを国際関係論を形成した五大巨人の一人だと言っている。ちなみに他の四人とは、ハンス・モーゲンソー、ヘンリー・キッシンジャー、サミュエル・ハンチントン、そしてズビグニエフ・ブレジンスキーである。

●この分野は1950年代に発展したのだが、これは第二次大戦の経験と冷戦のはじまりによって、専門家たちが国家同士がどのように互いに作用しあうのかを正確に説明しようとして始まったのがきっかけだ。

●その時の目標は国際政治を分析するための概念的な枠組みを構築することであり、これはそれ以前に研究されていた外交史や軍事史が提供できなかったことであった。

●コロンビア大学のロバート・ジャービス教授は「理論がなければわれわれは迷子だ」と述べている。「われわれはいろいろな突発的な現象の前で何も理解できずにたたずむだけなのです」

●ウォルツの主張の一つにあるのは、戦争の原因は人間の攻撃性や悪い政府にあるのではなく、アナーキーな厳しい国際関係の性質にある、というものだ。彼によれば、それぞれの国民国家は自らの国益を最大限獲得しようとするというのだ。

●彼はソ連崩壊の例をよく使っていた。自由になったアメリカはいじめっ子になったのだが、それは自分と同じくらいのサイズの敵がいなくなったからだという。

●2011年のカリフォルニア大学バークレー校のオーラルヒストリーのインタビューで彼が述べたのは、この新しい「一極」世界では、アメリカは「権力を濫用し、貧しく弱い国を選び出して(アメリカはこれが得意だ)叩きのめすのです」ということだ。

●「もちろんこれは悲しむべきことだが、これは支配的な、もしくは過去に地域で支配的で、現在は世界で支配的である国家の典型的な行動パターンなのです」と述べている。

●ウォルツ氏は従来の考え方を打ち破り、核兵器で対峙するアメリカとソ連の「二極」状態を、地球をほろぼすような暴発直前のにらみ合いではなく、史上最も安定的な勢力均衡だと考えた。

●ところが批判者たちは彼のモデルが第一次大戦の例、つまり二つの同盟同士が破壊的な結果を生み出したことですでに破綻していると述べている。

●それにたいするウォルツ氏の反論は、冷戦はそれとは根本的に性格の違うものである、なぜなら20世紀の超大国同士は、自分たちが従えている同盟国たちよりもはるかに強力であり、彼らだけが重要だったからだという。

●さらにウォルツ氏は核拡散が平和につながると主張した。「管理された核兵器の拡散は、恐れるよりも歓迎すべきだ」と彼は1981年に書いている。彼は核武装した国家というのはつねにその兵器を注意深く管理するため、大規模な戦争に巻き込まれたことはないと言うのだ。

●ちなみに1999年のインドとパキスタンの(カシュガル)紛争は大規模戦争には当たらないとしている。

●ウォルツ氏のゴールは、「構造的リアリズム」もしくは「ネオ・リアリズム」と呼ぶ視点を提供することによって国際政治の考え方を明確にすることであった。この理論では戦争への緊張の高まりは国家同士の相互作用によるものだとされている。

●前述のジャービス氏は「あなたが違う意見をもっていたとしても彼は考えを深めてくれるのです」と述べている。

●ジャービス氏によれば、彼の最大の業績は、特定の対外政策の問題の分析よりも、彼の理論についての議論であるという。

●ところが実際に最も議論を呼んだ彼の主張は、「イランに核武装をさせよ」という特定の問題だったのである。

●彼は去年のフォーリン・アフェアーズ誌に「なぜイランは核武装すべきなのか」というタイトルの論文を寄稿しているが、そこで中東という地域ではイスラエルが唯一の核武装国家であり、それがもう一つ増えれば安定化に寄与するというのだ。

●彼によれば、イランが核兵器を使うのはありえないという。なぜならイランの指導者たち(もちろん憎むべき存在ではあるが)は自己破滅的ではないからだ。その前例として彼は毛沢東時代の中国を挙げている。1960年代から70年代の文革中でも中国は政治面での過激派から核弾頭をしっかりと守ったからだという。

●その批判として「イランのイスラム教リーダーたちは神の承認を得ていると考えるために、そこまで自制的ではないだろう。イランはテロリストたちと非核兵器と共に核兵器を共有するかもしれないし、核をもつことによって逆に周辺の弱い国々たいしてはされに挑発的な行動に出るおそれもある」という異論が出た。

●ウォルツの記事が出た一ヶ月後にイスラエルのネタニヤフ首相は「イランを核武装させれば中東が
安定するという人もいますよね。しかし私はこのようなことを言う人は人類の愚かさをもうひとつ別のレベルに引き上げたと言えるでしょう」と述べている。

●さらに議論を呼んだのはウォルツ氏の北朝鮮についての主張だ。たしかに北の政府は不快な存在だが、彼らが敵を抑止する手段として核兵器を諦めるのはわれわれの利益にならないという。

●ここで彼はリビアのカダフィ大佐の例を挙げる。なぜなら2003年に核開発計画を諦めたことで、彼の滅亡が早まったかもしれないからだ。

●最近ゲルブ氏はウォルツ氏とキッシンジャー氏と昼食会を開催したが、キッシンジャー氏はイランに核武装させるのを徹底的に反対したという。ゲルブ氏によると「実に活発な議論が行われましたよ」とのこと。

●ケネス・ニール・ウォルツは1924年6月8日、ミシガン州のアンアーバー生まれ。第二次大戦中に陸軍に参加し、オハイオ州のオバーリンカレッジで経済学の学士を取得するとコロンビア大学の大学院で政治科学を専攻。彼の博士号論文は1959年に「人間・戦争・国家: 国際政治の3つのイメージ」として出版された。

●彼の「国際政治の理論」(1979年)は二つの超大国が存在する「二極」世界の概念の理解を進化させた。もちろん彼がこのコンセプトを発明したわけではないが、彼はその働きを鮮やかに説明したのだ。この本はこの分野における必読本となった。

●1995年にウォルツ氏とスタンフォードの学者であるスコット・セーガン氏は「核兵器の拡大:討論会」とする本を出版しており、これも国際関係論のコースではよく読まれた。彼らはこの議論をアップデートしたものを後に出版している。

●ウォルツ氏は1950年に朝鮮戦争に従軍した時にコロンビア大学で教えはじめ、朝鮮戦争から帰国してから57年まで教えている。その後にブランディスやカリフォルニア大学バークレー校などさまざまな大学で教えて、最後にコロンビア大学に戻ってきている。

●彼の妻であるヘレン・リンゼーは2008年に亡くなっており、彼女との間にはダニエルとケネスジュニアの二人の息子と四人の孫がいる。

●ウォルツ氏はアメリカ政治科学学会の会長を87年から88年までつとめ、99年にはその協会が三年一度授与するジェームス・マディソン賞を受賞している。2008年にはウェールズ大学のアべリスウィス校が「思想の王様:理論、主題とウォルツ」という彼の名前を冠したカンファレンスを開催したほどだ。

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以上です。

理論にはあまり踏み込んでませんが、資料的な価値はけっこうあるかと。

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by masa_the_man | 2013-05-21 18:28 | 日記 | Comments(0)

マッキンダー名言集

今日の横浜北部は朝から小雨がシトシト降っております。気温もやや下がりましたね。

さて、現在配送中の「地政学講座」と関連するのですが、以前つくった名文集があったのでついでにここに貼付けておきます。

現在の国際政治を見る上でも参考になるものばかりです。

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「地理学からみた歴史の回転軸」(1904年)

1.しかし現代以降、つまりコロンブス後の時代において、我々は再び一種の閉鎖された政治システムと交渉をもたなければならないようになったのだ――しかもそれは全地球規模の現象である。およそあらゆる社会勢力の爆発は、周囲の未知の空間、野生的な無秩序のなかに吸収され、または拡散してしまうかわりに、地球の反対側からの鋭い反響を呼び、その結果として世界の政治的・経済的有機体の弱い部分は破壊されることになるのだ。

2.つまり我々はようやく全世界的な規模であれこれの地形を比較考察したり、またさまざまな事件のあいだの真のつながりを考えたりすることができる時代を迎えた、という意味である。これは言い換えれば、世界史全体のなかにおける地理的な因果関係について、少なくともなんらかの特徴をしめす図式を発見するための努力だといってもいいだろう。そしてもしこの試みがうまくいけば、現に国際政治のなかで競合しつつあるさまざまな勢力の成り行きについて、ある程度の見通しを持つためにこの図式が現実に役立ってくれるかもしれないのだ。

3.ヨーロッパの文明が花開いたのは、あくまでも外民族の野蛮な行為に対する抵抗の歴史を通じてだった。私がこの講演の席でとくに諸君にお願いしたいのは、しばらくのあいだ我慢して、ヨーロッパの地理ならびにヨーロッパの歴史を、アジアの地理ならびにアジアの歴史に従属するものとして見ていただきたいということである。事実として、ヨーロッパの文明と称するものは、かなり現実的な面からみれば、アジア民族の侵入に対する世俗的な戦いの産物にほかならなかったからである。

4.近代ヨーロッパの政治地図を見てまず最初に気づくことは、ロシアが一方において広大な大陸のほぼ半分の地域を占めていることであり、西欧の諸国がその反対側で狭い領土を分割しあっている状態である。

5.大陸を横断または縦断する鉄道網が発展した結果、ランドパワーの成立の条件が大きく変貌しつつある。そして道路を作ろうにも、材木ひとつ、そして石材ひとつもままならないユーラシア大陸内陸のハートランドにおいては、鉄道が発揮する効果は絶大である。ともかくも鉄道は平原に大きな奇跡をもたらした。なぜならば、ここでは道路建設の時代を飛び越して、鉄道がいきなり馬やラクダの機動力に取って代わったからである。

6.満州地方におけるロシア陸軍の存在は、そのランドパワーの移動機能をまざまざと証明して見せている。もとより現在のシベリア鉄道は単線であり、したがって戦略的な輸送手段としてはまだ頼りない気がする。しかしながら、やがてアジア全体が鉄道でおおわれる日が来るには、今世紀の終わりを待つまでもないとおもわれる。

7.ところで今の勢力関係を破壊して、回転軸となる国家に有利な地位を与えることは、やがてユーラシア大陸周辺の諸地域にたいするその勢力の膨張をうながし、それが莫大な大陸の資源をその艦隊の建設に役立たせることにもつながるのだ。

8.いうまでもなく、歴史の各時代における政治勢力のバランスは、一つには地理的条件――これには経済的な意味と戦略的な意味がある――の産物である。ところが同時にそれは、その当時にたがいに競争しあっているさまざまの国民の数や、またそれぞれの生活力、装備の能力、また社会的な組織力等の相対的な要因によっても規定される。

9.これまでの全歴史を通じて、人類社会の動きは常に原則的に一定不変の自然の様々な特徴によって左右されてきた。

10.結論として言えるのは、たとえ現在のロシアに代わって新しい勢力が内陸の一帯を支配する位置にたったとしても、同地域の回転軸としての地理的な重要性が持つ意味は少しも変わらない、ということである。たとえば日本人が中国人を支配し、また彼らを組織してロシアの帝国を倒し、その領土を征服したと仮定してみよう。その場合は、おそらく黄禍が世界の自由を脅かすことになるだろう。というのも、その場合に彼らは広い大陸の資源を背景にした上、さらにこれに加えて海の正面を持つこと結果になるからだ。

「デモクラシーの理想と現実」(1919年)

11.戦略的な観点を考慮に入れて考えると、ハートランドには次の諸地域が含まれることになる――バルト海、ダニューブ川中流および下流の航行可能な部分、黒海、小アジア、アルメニア、ペルシャ(現在のイラン)、チベットおよびモンゴル地方がそれだ。したがって、この枠の中に入るブランデンブルグ=プロイセンおよびオーストリア=ハンガリー、ならびにロシアの三カ国は、かつて騎馬民族の時代に欠けていた豊富なマンパワーの供給源を構成することになる。近代戦略的な意味におけるハートランドとは、要するに必要に応じてシーパワーの侵入を阻止できる地域のことである。

12.現代の陸軍はいうまでもなく、大陸を横断ないし縦断する鉄道網のほかに、さらに自動車輸送という手段をもっている。おまけに航空機もある。最もこれは使われかた次第では、かえって自分の命取りになりかねないが、しかしシーパワーに対抗するランドパワーの有効な武器なりうる素質をもっている…これを手短にいえば、どのような軍事大国でも、ハートランドとアラビアを占領してしまえば容易にスエズという世界の交差点を押さえることができてしまうということなのだ。

13.東欧を支配するものはハートランドを制し、ハートランドを支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制す

14.マンパワー――すなわち、人間の集団が発揮する威力――は、もとより現代においても組織の力に依存するところがきわめて大きい。これはまた言葉をかえていえば、企業組織や社会組織の問題でもある。ところで、これまで「ドイツ文化」の思考が外部にとって有害だったのは、それがもっぱら地理的な事実と経済的な事実とに意識を集中して、そのほかのことをまったく考えようとしない傾向があったからである。

15.もし我々が将来に災い種を残したくないと考えるなら、この際、東欧におけるドイツとスラブ間の問題に最終的な結末をつけないような戦争の善後策を絶対に受け入れてはならない。我々が必要とするものはドイツ人とスラブ民族の間の適正なバランスであり、しかもその両方がそれぞれ真の独立を享受できるような解決策でなくてはならぬ。

16.もし我々が“東方問題”をその大筋において完全に解決しようとせず、中途半端な妥協に走るとすれば、我々はただ一時の休憩時間を稼いだにすぎないことになる。そして我々の子孫は、再びハートランドを攻囲するために新たに大軍を組織しなければならない必要に迫られるだろう。


「球形の世界と平和の勝利」(1943年)

17.ハートランド全体としての地形的な特徴は、これを戦略的な思考の基礎とするのに十分である・・・これまで私は、いわゆるハートランドの概念について色々と述べてきたが、これが二十年ないし四十年の歳月を経た今日でも、いまだに有効であるばかりでなく、むしろますます迫真の力をおびてきたと自信をもって主張できると確信している。

18.一度汚染された水路も、その両側に強力な堤防を築くことによって、きわめて効果的に清潔に保つことができるかもしれない。その堤防の片側に北太平洋の周辺のシーパワーがある。将来そのどちらの方面に向かってふたたび戦争を企てても、ドイツ人には絶対に勝ち目がないことを徹底して教え込んでやれば、あとはドイツ人自身が問題を解決するだろう。

19.かくてハートランドは、この地球上で最大の天然の要塞を形成することになる。その上、この要塞は史上初めて量的にも質的にも十分に満ち足りた守備兵力をもつことになったわけだ。

20.その第一はフランスという橋頭堡であり、第二が英国という外堀を持った飛行基地であり、それから第三がアメリカ合衆国東部およびカナダにおける熟練したマンパワーならびに農業、工業などの潜勢力である。

21.いまや西ヨーロッパと北米は様々な機能を持った、一つの統合された共同国家群を形成しているといえる。この事実は第一次世界大戦においてアメリカとカナダの軍隊が大西洋を越えてフランスで戦ったことにおいて初めて明らかになったのだ…アメリカにおいて最も降雨量が多く、そして最も石炭を多く産出するのは東側の地帯なのであり、ヨーロッパにおいてはこれらが逆に西側に集中しているのだ。よってヨーロッパの西側と北米の東側は物理的に補足しあう関係であり、お互いに分担して大きな共同体を急速に形成しつつある。


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by masa_the_man | 2013-05-20 15:56 | 日記 | Comments(0)
さて、久々に本の紹介をします。

いわゆる「オフショア・バランシング」論と少しだけ関係のある学術書なのですが、テーマはいかにもアメリカという感じです。

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Cutting the Fuse: The Explosion of Global Suicide Terrorism and How to Stop It
by Robert Anthony Pape & James K. Feldman

題名を直訳すると『導火線の切断』という感じになるのかもしれませんが、表紙の写真からもわかるように、これは自爆テロに関係したものです。

日本の場合だと、どうしても安全保障の関心は中国を中心とした「国家対国家」という形の、いわば伝統的な脅威に関心が集まっておりますが、常に戦争継続中のアメリカの関心は(一時期から多少減ったとはいえ)やはり(自爆)テロというところにあります。

それがなぜ「オフショア・バランシング」と関係しているのかといえば、この著者の一人であるロバート・ペイプが、この本の最後に提案としてこの大戦略を採用すべきだと提案しているからです。

このペイプという人物は、『大国政治の悲劇』のミアシャイマーの弟子で、現在もシカゴ大学で教授をやっているわけですが、戦略学の分野ではなんといっても戦略爆撃(strategic bombing の研究の第一人者として非常に有名。

とくに『勝利のための空爆』(Bombing to Win)は、社会科学的な手法を駆使しながら「戦略爆撃って、実はあまり効果がない」ということを実証した(といっても結論は議論されてますが)すぐれもの。

ところがペイプ自身は2001年の9月11日から研究分野を「自爆テロ」に一気に変えまして、その数年後には『勝利のための死』(Dying to Win)という似た題名で、これまた膨大なデーターを社会科学的に分析しながら自爆テロの実態(とくにナショナリズムという原因)に迫っております。

そして今回ご紹介する『導火線の切断』ですが、これは『勝利のための死』のアップデート版とも言える内容です。

結論としては、「アメリカに対する自爆テロが起こる場所というは、米軍が占領している場所と深い相関関係がある」というすごく単純なことになるわけですが、特徴としてはそれを詳細なデータを使って示していることや、この現象を「肺がん」とかなり似たような部分があること、そしてそれを防ぐにはどうしたら良いのかというところまで踏み込んでおります。

最後の解決法として出てくるのが「オフショア・バランシング」なわけですが、たしかに自分たちが直接手を下すよりも、その地域の同盟国に押さえつけてもらったほうが(アメリカとしては)合理的だ、ということに。

そういうわけで、「オフショア・バランシング」は本書ではメインの議論ではなく、あくまでも「おまけ」のような扱いなわけですが、それでも別の安全保障上の懸念から一つの大戦略の考え方として採用を呼びかけられているという意味では面白いかと。

300頁以上ありますので気軽に読める本ではないですが、その扱っている事象の広さや文の読みやすさなどは、この分野の主著的な扱いという意味で貴重です。
by masa_the_man | 2013-05-19 07:00 | おススメの本 | Comments(3)