戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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大晦日のご挨拶

今日の横浜北部は午前中は曇っておりましたが、昼すぎから晴れました。それにしても昨日の雨はすごかったですな。

さて、今年も残すところあとわずかということで、簡単に私からのメッセージを。

みなさんは年の瀬になると、一年を振り返りながら「今年とくに印象的だったこと」などを考えることがあるかもしれませんが、いかがでしょうか。

私の場合は、やはり東シナ海・南シナ海に関連するネタがとても印象的でした。

昨年まで地政学の理論を勉強していたのですが、基本的にその前まではあまり日本にいなかったために、正直なところ、それを東アジアの情勢「適用/応用」して考えることをあまりしなかったわけですな。

ところが二月から三月にかけて、シンガポールで東アジアの海洋情勢に関する会議に出てみたり、実際に尖閣に行ってみたり(!)したことで、自分の中でもこの海域の情勢に注目せざるを得ない状況になってきたわけです。

その後は竹島・尖閣で東アジア情勢が大きく変化したこともありまして、あらためて(古典・批判の両方の)地政学の重要性をますます実感した一年であったということです。

また、地政学以外では、やはり「戦略の階層」の重要性が自分の中で高まりました。

実際のところ、はじめて地政学とは別分野の本を出す事になった時に、編集者やその他の方々に、この階層の有用性を何度も指摘されまして、私自身もあらためてこの概念の汎用性・普遍性を実感したところがあります。

最後に、この時期になると必ず新聞の書評欄でやっているように、今年読んだ本の中で最も印象的なものを三冊挙げておきます。ご参考まで。

1、専門家の予測はサルにも劣る
2、元コースメイトの戦略理論についての博士号論文
3、Quiet: The Power of Introverts

それではみなさん、よいお年を!
by masa_the_man | 2012-12-31 17:55 | 日記 | Comments(1)

シェール革命の地政学

今日の横浜北部は朝から雨が降ったりやんだりで、夕方になってから本格的な土砂降りです。

さて、先日のシェール革命ネタについてもう一つの記事として、私が翻訳を出したこともあるロバート・カプランの最近の記事の要約を。

彼の場合は最新刊で地理や地政学を扱っているので、この辺のあたりの議論が鋭いですね。

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シェール革命の地政学
by ロバート・カプラン

●高級メディアによれば、将来の外交問題は主にアイディアを中心に争われることになるという。

●倫理道徳面での人道介入、ヨーロッパを負債から救うための為替相場の理論、それに東アジアにおけるナショナリズムの勃興や、同時に起こりつつあるコスモポリタニズムなどがそれである。

●いいかえれば、将来の世界は博士号論文で論じられているような「アイディア」によって決定されてくるということだ。

●二〇世紀の歴史でもわかるように、共産主義、ファシズム、人道主義のようなイデオロギーは、たしかに強力であった。

●ところが別の真実も存在する。地理や環境のような非人間的なものも、人類の未来を決定する力をもっているからだ。

●アフリカが貧しかったのは港に適した場所や遡上できる川が少なかったことにあり、ロシアが恐怖心に覆われているのは大規模な土地が侵略されやすかったからだ。ペルシャ湾岸地域のモスクが豪華なのは、アイディアではなく、地下に大量の天然資源が眠っていたからだ。

●おわかりだろうか。知識人というのは変えることができるものばかりについて考えるものだが、すでに起こってしまったほとんどのことを変化させることはできないのだ。

●岩の中に天然ガスを抱いているシュールについてもそうだ。ここから取れるガスは、ポスト産業社会で新しいエネルギー源になるとみられており、これを保有する国は二一世紀において優位に立つことができよう。

この点において「アイディア」というのはほとんど意味をなさないのだ。

●私が記事を書いているこのストラトフォーというサイトは、この問題についてかなり詳しく分析しているが、以下はこのサイトの分析に影響を受けて書いた私の独自の分析である。

●では誰がシェールガスを持っていて、その事実がどのように地政学を変化させるのか見てみよう。

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この要約の残りは、次に出すメルマガのほうに掲載予定です。お楽しみに。
by masa_the_man | 2012-12-30 18:07 | 日記 | Comments(1)

地政学とは何か

今日の横浜北部は、朝のうちは曇っておりましたが、午後から晴れました。

さて、またまた地政学に関する本の紹介を。

地政学とは何か
by クラウス・ドッズ

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冒頭で「地政学に関する本」と言いましたが、実質的にこれは現在アカデミック界で主流となっている「批判地政学」に関する本です。

原著は英語圏の大きな書店にいけば「入門シリーズもの」としてまとめて売られている、オックスフォード大学出版(OUP)の Very Short Introductionのシリーズの一冊として書かれたもの。

Geopolitics: A Very Short Introduction
by Klaus Dodds

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著者はロンドン大学の教授なんですが、どちらかといえば地理学のアプローチから地政学を研究している人です。

で、内容なんですが、私が研究してきた古典地政学を徹底批判するという、まさに批判地政学の観点から批判地政学を紹介したもの。

なので、これを読んだからといって、国際政治の安全保障の分野で使われている、大戦略の理論の一つとしての「古典地政学」を理解できるかというと、ちょっと厳しいところがあるかと。

すでに拙著「地政学」をお読みになられた方は、なぜ原著者のドッズが映画などのメディアを分析するのかよくおわかりいただけると思うのですが、これはまさに「批判地政学」の研究の紹介そのもの。

ほぼ9年前に書かれた私の本よりもさらに新しい情報が加わっているところは参考になると思いますが、全体的なわかりやすさという意味ではちょっと厳しいかと。

そういう意味でここでこの本を「おススメ」するのはどうかと思うんですが(苦笑)、地政学にはこういう形で書かれたものもあるんだ、ということをご理解いただくという点では参考になる本です。

参考図書としてぜひ(苦笑
by masa_the_man | 2012-12-29 17:34 | おススメの本 | Comments(1)

地政学とシェール革命

今日の横浜北部は曇っております。

さて、久々に記事の要約を。話題のシェール革命と、それが地政学に与える影響というもの。

このシェール革命についてはカプランもStratforなどに書いておりますが、とりあえず下のものもけっこう面白いかと。

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地政学とシェール革命
by アラン・リレイ

●シェール革命は西側諸国にとって有利に働くはずであるし、二一世紀前半ではアメリカのパワーをさらに強化することにつながる

●ところがメディアを通じて議論されているのは、フラッキングとよばれる採掘法の環境への影響や、天然ガスの市場価格への影響だ。

●この二つの議論は、シェール革命の本当のすごさを政治家たちにわからなくさせてしまう効果をもっている。

●実はこの本当のインパクトは、原油市場から発生するものだ。

●シェールガスは交通手段に使う炭化燃料の供給量を大幅に増加させる手段を与えるものであり、これは(中国の経済成長も原因となる)増加しつつある石油の需要をカットする役割を果たすのだ。

●ここでは二つの要因が働いている。一つはシェールガスの採掘技術(水平掘削と水圧を使用する)は、原油とガスの両方に使えるということだ。ノースダコタ州ではすでに一日あたり五〇万バレルの原油がこれによって産出されている。

●ハーバード大学の研究所が発表した資料では、二〇二〇年までにアメリカで一日に六〇〇万バレルの産出が可能だと予測されている。

●二〇一一年の時点でアメリカは一日一一〇〇万バレルを輸入しているため、海底油田などの可能性も含めば、二〇二〇年までにアメリカは石油を海外に依存しなくてもよくなるということだ。

●ところがエネルギー独立推進派の人々が見逃している点が一つある。

●この革命では、中国、アルゼンチン、ウクライナなどの場所で原油の生産が高まることにより、世界の石油価格が下がることになるという点だ。

●二つ目の要因は、天然ガスを交通機関の燃料として使えるようになるという可能性だ。

●もちろん専門家の中には、現実的にはこれを非現実的だと見る向きもあるのだが、アメリカやヨーロッパのように天然ガスのインフラが整っている国々では、これを行う点で優位に立っている。

●なぜならガスの価格が下がって一般にも普及するようになれば、一般家庭に分配してガレージで天然ガス車の充填ができるのも可能になるからだ。

●シェールオイルと天然ガスの開発のインセンティブはとくに大きい。ところがアメリカは天然ガスの価格の低下や、それによる化学物質や鉄鋼のようなエネルギーを使う産業を再輸入する事態に直面するのは初めてのことなのだ。

●シェール革命の次のインパクトは、原油価格の低下につながることによっても感じられることになる。

●さらに大きくいえば、シェール革命はアメリカが外国と対峙する際に使える様々な選択肢を与えてくれる。ヨーロッパにとっても大方ポジティブなものだ。

●はじめにアメリカ向けに輸出された多種多様な液化天然ガスの供給は、最後はヨーロッパのマーケットに売られてきている。

●二〇二〇年までに液化天然ガスの形のシェールガスは、ヨーロッパにかなりの量が流れ込むと予測されており、さらにはヨーロッパ域内での採掘も始まる可能性がある。

●また、ヨーロッパはこの革命の第二ステージとして、原油価格が減少の圧力にさらされるために、それが得になると言えよう。

●また、EUにとってはアメリカが原油を自給自足できそうなところに懸念がある。危険なのは、アメリカが中東の湾岸地域から石油の流れを確保しようという直接的な動機を失うからだ。

●少なくともこれが示しているのは、ワシントンがヨーロッパにエネルギーの安全保障にたいしてさらなる投資を行うように求めてくることになる、といことだ。

●EU側のオプションとしては、天然ガスの燃料への使用を開発することによって、エネルギーの安全をヘッジすることだ。そうなると産油国は価格下落に直面して状況が厳しくなる。

●中国にとってもシェールガス開発のインセンティブは大きい。アメリカのエネルギー省の調査によれば、中国の保有量はアメリカのそれよりも多いのだ。

●北京政府が交通機関用にシェールガスを開発する地政戦略的な理由は、米海軍が太平洋と中国の石油タンカーの通るほとんどの海域をコントロールしているからだ。中国が天然ガスを交通機関用に使えるようになれば、アメリカの海上封鎖を無効化することができるのだ。

●それにたいして、ロシアとサウジの将来は厳しい。シェール関連や天然ガスのインフラは今後増えるだろうし、マーケットの価格下落を避けるのは難しいからだ。

●地政学的に、シェール革命はアメリカの立場を強め、中国のエネルギー依存を減らし、財政問題に直面しているグローバル経済を活性化させ、ロシアとサウジアラビアの立場を落とす可能性がある。

●西側諸国と中国にとってシェール革命は素晴らしい可能性を秘めており、これを推し進めるべきであろう。

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原油の供給も同じテクノロジーのおかげで増えるから価格も下がると。ロシアとサウジにとっては最悪の事態、ということですな。

天然ガスで車を走らせるというのはどうなんでしょうか。
by masa_the_man | 2012-12-28 12:00 | ニュース | Comments(7)
今日の横浜北部は朝から快晴でした。昨日よりはひどくはなかったですが、それにしても寒かったですよね。

さて、われらが習近平総書記の発言を、「戦略の階層」を使って軽く分析を。

その前にまずお断りしておきたいのは、現在の北京政府の上層部の発言というのは、完全に「建前」であるという点は否定できないということです。

それでもこのような「建前」を分析するのにどのような意味があるのかというと、それは彼らの発言にはそれでも国民全体の願望というか、ある方向へ誘導したいという、一つの動機や動因のようなものが代弁されているからです。

まずはウェブマガジンであるWedge Infinityから、元中国人の中国ウォッチャーとして名高い石平氏のコラムの文の引用。

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そして習総書記自身、11月29日、6人の政治局常務委員らを伴い北京市の国家博物館を訪問して中国近現代史の展覧会を参観した後に、「アヘン戦争から170年余りの奮闘は、中華民族の偉大な復興への明るい未来を示している」などと国民に語りかけた。約10分の演説で、彼は「中華民族」や「(中華民族の)偉大な復興」という言葉を合わせて20回近く連呼した。11月15日の総書記就任披露目の内外会見でも、彼の口から頻繁に出たキーワートの1つはやはり「民族の偉大なる復興」なのである。

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そして次の引用は、中国系のニュースサイトから。

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わが民族は偉大な民族だ。5000年余りの文明発展の過程で中華民族は人類文明の進歩に不滅の貢献を果たした。近代以降わが民族は数々の苦難を経験し、中華民族は最も危険な時期に到った。その時以来、中華民族の偉大な復興を実現するため、無数の人徳ある志士が奮起し、抗争したが、1回、また1回と失敗した。中国共産党は結党後、人民を団結させ、率いて、先人の屍を乗り越えて後に続き、粘り強く奮闘し、貧しく立ち後た旧中国を日に日に繁栄し強大になる新中国へと変え、中華民族の偉大な復興にかつてない明るい展望を開いた。

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他にも防衛研究所のレポートからの引用。

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胡錦濤政権が強調していた「平和発展」も「中国の特色ある社会主義の内在的要求」(『人民日報』
2011/11/29)と位置付けられ、中国の発展と台頭が他国の脅威とならないことが再びアピールされた。また習近平自身も、12 月 5 日の外国人専門家との座談会において「中国は覇を唱えず、拡張しない」として平和発展の道を強調している(『人民日報』2012/12/6)。なおこれと関わる新たに加わった言葉として「新型大国関係」がある。これは 2012 年 5 月の米中戦略・経済対話において胡錦濤が米中関係について使用した言葉である。この概念は、中国が大国となった現実を反映し、相互の利益を尊重しつつ、かつ歴史上繰り返されてきた既存の大国と新興国家との摩擦・衝突を回避しようとすることを目指している

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最後はサンケイの社説から、

===

胡錦濤総書記が中国共産党大会で、「国家の海洋権益を断固守り、海洋強国を建設する」と表明した。

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というもの。

これらを踏まえるとどのようなことがわかるのでしょうか。

ここで例のごとく「戦略の階層」を使ってみましょう。

この概念で最も重要なのは、階層のトップに位置する「世界観」というもの。なぜならこのレベルは、全ての階層レベルに最も大きい影響を与えるからです。

そして中国の公式文書や要人の発言というのは、どちらかといえばこのような上部の階層を強調するようなものが多く、日本の政治家などと比べるとかなり明確に「世界観」が判明しやすいのです。

たとえば国家の方針、つまり「政策」レベルを見てみましょう。

上記のコメントから引っかかるキーワードは、「中華民族の偉大なる復興」というもの。ようするにパワーの拡大傾向。これには経済だけでなく、軍事力も含まれてくるのは当然。

しかしもっと重要なのは、彼が「アヘン戦争以来の」と「復興」という言葉を使ったところ。

これは戦略の階層でいうところの「世界観」のレベルだが、彼らは基本的に日本を含む西洋列強から19世紀後半から20世紀前半にかけて「辱しめ」を受けており、これからそれ以前の「偉大な状態」に戻したいという欲望を見せているわけです。

いいかえれば、彼らの「本来あるべき姿」というのは「アヘン戦争前」の偉大な帝国なのであり、現在の現状打破プロセスは単に「元の状態」に戻るだけという認識。

これを別の言葉でいえば、「失地回復」、つまり「レコンキスタ」であって、失われたものをただ取り返しにいくだけなのだから自分たちには絶対的な正義がある、ということになります。

すると、彼らは「平和的な台頭」や「新型大国関係」なと言いつつも、その「取り返すべきだ」という世界観と他国との関係における大戦略は矛盾することになります。ここでジレンマ発生。

また、「海洋強国を建設する」というコメントは「大戦略」のレベル。これは戦時の戦略のみならず、貿易を含む平時の戦略が含まれてくるからです。

ということで簡単に分析してみました。ご参考まで。

さらに深い分析については「戦略の階層」のCDを聴いていただきたいのですが、個人的にはこの概念は本当に使えるなぁと実感する今日この頃です。
by masa_the_man | 2012-12-27 22:55 | 日記 | Comments(2)

地政学の「ガイド本」

今日の横浜北部は朝からよく晴れております。それにしても朝晩は部屋の中でも凍えるほどですね。

さて、またまた本の紹介を。

Geopolitics: A Guide to the Issues
by Albert T. Chapman
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久々に地政学そのものについての本です。

が、私がいつもここで紹介するような、一つのテーマを掘り下げた本というよりも、なんというか、ガイド本という形のもの。

著者は米国はインディアナ州のパデュー大学(Purdue University)の教授で、以前にもこれと似たような体裁の「軍事ドクトリン」についてのガイド本を書いております。

この本の良い点は、かなり端的ながらも地政学的な問題点や有名論文、それにそれらを研究しているシンクタンクや学者(うちの先生も含む)などを、一気にまとめてズバッと紹介している点でしょうか。

とくにイントロダクションで「地政学はダイナミックなものである」ということをしっかりと認識している点や、第一章において著名な地政学の学者を簡単に紹介している点はおススメかと。

ただし問題は、とくに後半のシンクタンクの紹介や世界各国の地理的な紛争などについて、かなり偏った、しかも浅い分析しかできていないことでしょうか。

たとえばイギリスから地政学的な研究をしているシンクタンクとしてIISSの名前が外れていたりしている点など、かなり疑問の残る箇所が多々あるところ。

基本的に「読み物」としてではなく、むしろ「資料集」として持っておくほうがよいかなぁというのが個人的な意見です。

そういう意味であまり「おススメ」というわけにはいきませんが(苦笑)、とりあえずこの分野に興味のある方にはひとつのガイド本にはなるのかも、と思っております。
by masa_the_man | 2012-12-25 16:20 | おススメの本 | Comments(1)

孫子vsクラウゼヴィッツ

今日の横浜北部は午前中「氷雨」が降っておりましたが、午後はなんとか晴れ間も見えて、気温もゆるみました。

さて、久々に日本語の本の紹介を。

米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ
Byマイケル・I・ハンデル 、訳:杉之尾 宜生、西田 陽一
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原著者の故マイケル・ハンデル(2001年没)といえば、なんといっても世界の士官学校で戦略学のテキスト並みの扱いを受けた『戦争の達人たち―孫子・クラウゼヴィッツ・ジョミニ』(Masters of War: Sun Tzu, Clausewitz, and Jomini)の著者としても有名な、アメリカの陸軍戦争大学と海軍戦争大学の両方で古典戦略理論を教えてきた名教授。
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(92年の初版)
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(これがその邦訳版)

ちなみに『戦争の達人たち』の原著は、第三版で大幅改定されて、以下の本になっております。実際はこちらのほうが新しく、しかもかなり分厚くなっている(170→512ページ!)ので、現在教科書として使用されております。

Masters of War: Classical Strategic Thought
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(2001年の第三版/増補改定版:未訳)

この『戦争の達人たち』の初版が出る直前に、アメリカ陸軍戦争大学(カーライル)が無料で発行している小論文(モノグラフ)として出されたものの翻訳版が、今回紹介している『孫子とクラウゼヴィッツ』です。

この本は、孫子とクラウゼヴィッツという洋の東西を代表するそれぞれの戦略思想家の理論を、それぞれの言葉を同じテーマにそって並べて比較・検討するというところにそのキモがあるわけですが、この比較から浮かび上がってくるのは、

「孫子とクラウゼヴィッツは、けっこう同じこと言ってたんだ」

という意外な結論。

たしかに時代も背景も文化も違うため、この両人はかなり違う意見を述べているように一般的には思われておりますし、実際にそういう部分もあります。

その典型が、「情報」(インテリジェンス)についての扱い。

たとえばクラウゼヴィッツのほうは、『戦争論』の第一篇の第六章において、戦争における情報というものを「信頼ならないもの」として論じているわけですが、孫子のほうは一貫して情報を決定的な要素であるとして重要視。

他にもクラウゼヴィッツは「勝利のためには流血が必要」という正面突破的な立場をとるのにたいして、孫子は「なるべく効率よく(できれば実際に武力を行使せずに)勝つべし」という意見を強調していて、アプローチの違いは明白。

ところがこのような違いも、ハンデルに言わせると「同じ問題にたいして異なるアプローチを使っているだけ」であり、実際は二人とも意見がかなり近いと。

たとえば「情報」の意見について、ハンデルはこの二人の違いは、注目している「戦略の階層」の違いにあることを指摘しております。

具体的にいえば、クラウゼヴィッツのほうは「作戦」レベル以下における情報のあやふやさを強調していて、その反対に孫子のほうは軍事戦略以上のレベルにおける情報の重要性に注目しているわけで、これが両者の意見の違いに直結しているというハンデルの指摘はかなり貴重かと。

しかし私がこの本で一番重要だと思うのは、ハンデルがこの両者の理論を比較することによって、間接的に「戦略は普遍的なものである」ということを主張している点でしょうか。

アメリカを発信源とする軍事/ビジネス戦略では、どちらかというとテクノロジーの劇的な変化・発展によって戦略が根本的に変わるという意見が多いのですが、その逆にハンデルは古典の二大巨人の比較検討を行うわけです。

これは時代に逆行しているアナクロニズムなのでは?という疑問を引き起こすわけですが、ハンデルのこの研究の前提にあるのは、

戦略というものは、時代と場所を越えても変わらない

という保守的な考え方。

そしてこの考えはどこから来ているかというと、それは、

人間の本質は不変である

という確信から来ているわけです。そうなると、2000年前に書かれた本と、200年前に書かれた本も、どちらも「人間」の行為である「戦争」という現象を対象としている点では同じなわけですから、現代にもヒントになることがあるという前提があり、ここにわれわれが今でもこれらの古典を研究する価値があることになります。

ハッキリいえば両者(とくにクラウゼヴィッツ)の難解な言葉を読むのは多少抵抗のある人もいるかもしれませんが、比較することで浮かび上がってくる両者の違いと共通項、そしてその限界というのは、軍事・戦略・安全保障以外の分野にも応用できるきわめてすぐれたものばかり。

ビジネス戦略に興味のある方も一読する価値はあるかと。
by masa_the_man | 2012-12-22 18:14 | おススメの本 | Comments(2)

自民党らしさ:メモ

今日の横浜は昼までなんとなく晴れてましたが、午後に入ってから雲行きが。相変わらずの寒さです。

さて、先日聞いた話のメモをここに。自民党の安倍新政権に関するものです。

●取材をしててよくわかるのが、やはり自民党が政権に戻ってきたんだなぁということ。

●まず顕著なのが、彼らが「カレンダー」を用意してきたところだ。

●この「カレンダー」とは、つまり目標と優先順位を決めて、それをスケジュール通りに行うということを明確にしていることだ。

●民主党にはこの「カレンダー」をつくることができる人間がいなかった。だから仕方なく財務省の役人が書いていた。つまり「政治主導」は単なるかけ声で、実際はこの点については自民党時代よりも「官僚依存」であった。

●この「カレンダー」を意識している自民党にとって、先日の選挙の大勝は、単なる「準決勝」であった。だから選挙当日の安倍さんの表情が厳しかったのだ。

●「決勝」は、なんといっても来年の夏の参院選。自民党はこれに標準を合わせ、ものごとの優先順位をつけてスケジュールを組んでいる。

●最初の課題は2月22日の「竹島の日」。これを政府主催で行うつもりで、安倍さんはあれだけ公約にかかげていたからやるのではないか(←実際はやらないことになった)。

●そのすぐあとの25日は韓国の新大統領の就任式。いずれも平日。政府主催で竹島の日は実施するから大統領就任式には出れない。(←出ることになるかも)。

●韓国側が一番恐れているのは、やはり来年2月の竹島の日。韓国の新政権は、これで国内がナショナリズムで沸騰して手に負えなくなるのを恐れている。

●天王山である参院選から逆算してスケジュールを立てていることがヒシヒシと伝わってくる。そのための最大の課題は4~6月の景気の動向。ここをなんとか浮上させて、夏の参院選に臨んでくるつもり。

●外交安全保障では、優先順位はまず日米同盟の修復。それを踏まえた上での日中関係の修復へと移る。

●自民党政権はまず訪米を優先する。そのあとの三月末に少し休みが入るので、そのあたりに韓国を訪問するかも。

●防衛費は上げるはず。

●靖国参拝はスルーするだろう。とにかく目標は参院選突破で「ねじれ」の解消にあるから。

●こういう風にカレンダーをしっかり意識しているのは自民党ならでは。

以上です。ご参考まで。
by masa_the_man | 2012-12-21 16:32 | 日記 | Comments(8)
今日の横浜北部は朝からよく晴れておりましたが、朝晩はとにかく寒い!

布団から出るのが厳しいわけですが、イギリスでもカナダでも、これほど家の中が寒い経験はなかったような気が。

さて、メルマガのほうにも載せましたが、朝日新聞がなかなか面白い人物にインタビューをしましたのでその要約を。

「自称」と朝日新聞はつけてますが、「リアリスト」の意味がわかっているかは極めて怪しいかと。

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閻学通・清華大当代国際関係研究院長に聞く
中国・強硬派〜中華民族の復興で米と衝突は不可避 「信頼なき協力」を

●中国と米国との競争は不可避だ。今後十年間でどんどん激しくなるが、軍事衝突というよりは、あらゆる面での競争になる。

●理由は簡単。中国の目標はかつて占めた国際的な地位。かたやアメリカは世界唯一の「超大国」としての立場を譲つもりはないから衝突する。

●過去の中国は弱かったが、それでも米国のリーダーシップに従ってきたわけではない。

中国は米国と軍事衝突を起したくない。ところが米国が「アジア回帰」で東アジアの同盟ネットワークを拡大している。これは中国の孤立化を狙ったものだ。

●アメリカは表向きには否定しているが、それを中国では誰も信じてはいない。

TPPは政治目的を隠すための経済的な旗印だ。できるだけ多くの味方をつけて中国との競争に備えるためのものだ。

●アメリカのアジア回帰はたしかに成功している。おかげでフィリピンとミャンマーは中国にたいして急に敵対的になった。

米中両国は「相互信頼」という幻想は捨てて、「信頼なき協力」を追求すべきだ。過去には出来たし、そうしなければ「衝突」を管理できない。

●いまの米中間は相手を直接殴り合うボクシングではなく、むしろ得点を奪い合うフットボールのようなものだ。激しく得点を争っても、武力行使はない

●米中間は価値観で争っている面もある。古代から中国には、欧米の近代的な価値観よりも偉大なものがあった。

●たとえば「公平」だが、欧米の「平等」より素晴らしい。「正義」は「民主主義」より高い。バスで真っ先に席につくのが「平等」だとすれば、お年寄りに席をゆずるのが「公平」だ。

●たしかに中国国内ではそのような価値観が実践されておらず嘆かわしいかぎりだ。いまの拝金主義はダメ。

●いままでは米国の一極支配だったが、これからは中米の二極体制に移行していく。経済的利益よりも安全保障の利益が優先されることになる。

●米中だけでなく、日中の衝突も不可避だ。

●米国がまだ中国より強大なのに対し日本は中国より弱い。この現実を日本は受け入れないとマズいことになる。

日本が「アジアの一国」として振る舞えば中国も協力する。ただし西欧の一員とみなせば色々と面倒なことになるはずだ。

●尖閣問題では「棚上げ」に代わる新たな原則をみつけるべし。ただし今後は新しい政権が互いに出てくるため、事態は来年に向けて沈静化する方向にある。

===

歯に衣着せぬ、まさに「ストレート・トーク」な方で、個人的には非常に好感が持てます(笑

彼の意見の中で「おや」と思ったのは、やはりなんといっても中国の「古代思想」を、(無理矢理)現代に結びつけようと努力している姿勢でしょうか。

つまり彼は、今後の中国の台頭のための大戦略における「価値観」の重要性をよくわかっているわけですね。

このような観点から書かれた彼の本は、すでに英訳されております。私もさっそく購入。

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ちなみにちょっと宣伝になりますが、彼のような「リアリズム」を理解するために以下の二つのCDが極めて役に立つかと(笑

☆「これから『リアリズム』の話をしよう
S・ウォルトの「米国世界戦略の核心」解説CD:リアリズムの立場から小国がアメリカにたいして仕掛けている戦略を列挙して解説。実は日本も戦略的だったという意外な姿が浮かび上がる!?

☆「1時間でわかるミアシャイマーの理論
ミアシャイマー「大国政治の悲劇」解説CD: 強固なリアリズムの立場から米中衝突を予測。閻学通はこの人物の中国版と言えるかも。大国は拡大するという「攻撃的な理論」を豊富な歴史の例を使って論証。
by masa_the_man | 2012-12-20 20:53 | 日記 | Comments(8)

政治家は「偉い」もんだ

今日の横浜北部は朝から雨で、かなり気温も低め。個人的にはモスクワの10月半ばくらいの気候という感じでしょうか。

さて、今回の選挙について一言感想を。

今回私が書くことは、おそらくこれをお読みの皆さんにはご理解いただけないかもしれず、もしかしたら非常に誤解を受けるだろうなぁということを承知で、あえて書いてみます。

すでにtwitterのほうでご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、私は昨日数カ所(しかも党の違う)の選挙事務所を覗いてきまして、その場にまるで支援者であるかのような顔をして紛れ込み(笑)、一種の社会見学をしてまいりました。

実は私は三年前の総選挙の時にも同じことをやっていまして、その時に味をしめたために、今回はこのようなことを行うのが二回目です。

そして今回、選挙事務所というものを覗いてみてあらためて感じたのは、「政治家は偉い」ということ。しかも私は「どの政治家も」という但し書きまでつけてしまいたいと思います。

なぜか。

政治家というのは、一般的にメディアでは、われわれの税金をつかって好き勝手やっているようなイメージを持った、ようするに「罵る対象」として格好の攻撃ターゲットとなっております。

たしかにある程度のポジションまでいけば、国の政策を動かせるという意味で絶大な権力を持つこともできますし、実際にそれを悪用して金を溜め込んでいるような人もいるのは事実でしょう。

よって、「公僕」である彼らはつねに批判にさらされなければならないというのは、民主制国家では当然ということになります。

ただしだからといって、彼らをおいそれと気軽に批判したり非難する資格が、私を含めて、政治活動を行っていないわれわれ全員(とくにメディアや批評家)にあるかというと、私は最近この点について大きな疑問をいだいております。

選挙活動の様子を表層的に見た私でさえも感じているのは、立候補を表明して政治活動を行おうとしている政治家および政治家予備軍というのは、その思想的立場はさておき、何も実際の政治活動を行っていないわれわれのような人間に比べて、最低限のレベルでは「偉い」というべきなのかと。

なぜなら、彼らは批評したり文句を言うだけでなく、実際にアクションを起しているからです。

小沢さんのようなレベルの「大物」は別としても、ほとんどの日本の政治家(しかも国政レベル)というは、政治資金が足りなく、よって雇える秘書の数も少なく、時間もほとんどない中で、ほぼボランティア状態で、しかも家族/家庭生活を犠牲にしながら、政治活動を行っております。

ちなみに公設秘書の数ですが、日本は3人、韓国6人、そしてアメリカは平均15人以上です。

結果として、日本の場合は秘書たちを選挙対策に回せば終わり。政策をつくるほうに回すこともできません。

立法府の構成員である議員たちが、その肝である「政策づくり」にリソースと時間を注げられなくなるわけですから、日本の政治がダメになるのは火を見るより明らか。

しかも突然選挙になって落選する可能性は常に残っているために、身分の保証もなく、常に文句を言われ、常に頭を下げまくって、常に恐怖と隣り合わせのプレッシャーのある環境で生きております。

さらには仕事に対する名誉は段々と失われており、「クリーンな政治」という怪しいかけ声の元で政治資金はどんどん減らされつつあるため、政治家をやっていても報酬面で「報われる」ということはほとんどありません

つまり、いま政治家をやっている人、もしくはこれから政治家になろうとしている人たちは、よっぽどの変わり者か頭のおかしいひと、もしくは強烈に自分を騙している人です。

いや、むしろそこまでできないと、「選挙に出馬して当選してさらに活動を継続する」ということまではできないわけです。

これを「エラい」と言わずになんと言おうか。「実際にあなたもこれをできますか?」と言われれば、私は全く「イエス」と言う自信がありません。

もちろん私は「政治家を批判したり罵倒したりするのを止めよう!」と言いたいわけではありません。

でも少なくとも、彼らは私たちよりも、“実行”しているという時点ですでに相当「偉い」、という視点で考えてみるのもありなのかと。

一言でいえば、「みなさんは政治家にたいして色々と言いたいことあるみたいだけど、少なくとも彼らはアンタたちよりはエラいです」ということですな。

選挙の、まるで戦争のような壮絶さを目の当たりにして、そんなことを思った次第です。
by masa_the_man | 2012-12-17 16:56 | 日記 | Comments(32)