戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の横浜北部は曇りがちでして、昼までも上着が必要なくらい秋の深まりを感じております。

さて、久々のエントリー更新。

今回は私の先生が最近の本に書いていた、「戦略の二十一箇条」について。このまとめの部分をメモ代わりに訳出しました。

私が提唱する「戦略の階層」などがこのアイディアの前提にあることは、このブログの読者の方々にはすでに十分おわかりかと。

今回の特徴は、戦略(strategy)と諸戦略(strategies)を区別している点でしょうか。

===

戦略の21箇条

1、大戦略は、安全保障コミュニティのいくつかの/すべての資源によって構成される、指針とその使用のことである。この資源には、政治によって決定された政策のための軍事的手段も含まれる。

2、軍事戦略は、政治によって決定された政策の目的のための、軍事力とその行使の脅しによって構成される、指針と使用のことである。

3、戦略というのは 政策を軍事力やその他のパワーと影響力を発揮するために使われる道具に意図的に結びつけるために建築されて維持される、唯一の「橋」である。

4、戦略は、戦略的効果を発生させることによって、道具的に政治を助けるものだ。

5、戦略とは相対立するものであり、平和と戦争の両方で機能するものだ。そしてそれは常に敵(そして時には同盟国や中立国も)をコントロールする手段を求めるのだ。

6、戦略には大抵の場合「騙し」が必要であり、その結果は皮肉的であることが多い。

7、戦略とは人間である。

8、諸戦略(strategies)の意味やキャラクターはそれが使われているコンテクストによって(もちろん支配されたり完全に決定されるわけではないが)動かされるものであり、それらはすべて常に効果を発揮していて、それを越えるたった一つのコンテクストである「戦略」(strategy)というものによって構成されている。

9、戦略は不変の本質をもっているが、諸戦略(strategies)――これは計画であったり、公式・非公式の、偶発的な作戦的意図を表したもの――というのはそれらの独特かつ変化するコンテクストや、独特な個人の決定によって表される必要性に(命じされるわけではないが)動かされる、多様なキャラクターを持っている。

10、戦略というのは、概して意見交換や交渉などによって作り上げられるものだ。

11、戦略というのは、アイディアと行動についての価値観が充満している領域に存在するものだ。

12、歴史的にみれば、特定の諸戦略というのは 常に、もしくは往々に文化や人格に形成されるものだが、一般的な戦略は異なる。

13、戦略という「架け橋」は優秀な戦略家たちによって支えられなければならない。

14、戦略というのは、政策、作戦、そして戦術などと比べて、作成したり実行したりするのが難しい。さまざまな種類の「摩擦」というのは諸戦略の形成と実行にはつきものである。

15、戦略というのは、直接/間接的、順次/累積、消耗/機動・殲滅的、持続/急襲的(ほぼ遠征的なもの)、強要/物理的、攻撃/防御的、対称/非対称的、もしくはこれらの名目上だが間違いの多い代替案の複雑な組み合わせの諸戦略として表現できる。

16、すべての諸戦略というのはそれぞれ独自の地理的なコンテクストによって変化させられるものだが、戦略自身は変化しない。

17、戦略というのは、思考と行動の面で変化しない、というよりも変化させることのできない、可変的で動的なテクノロジーのコンテクストの中に設定された人間活動である。

18、戦略とは違って、諸戦略というのは一時的なものだ。

19、戦略というのはロジスティクス的なものだ。

20、戦略理論というのは軍事ドクトリンの最も根本的な源泉であるが、ドクトリンというのは諸戦略を可能にする重要なものであり、そのガイドである。

21、あらゆる軍事行動というのは実行面では戦術的なものであるが、意図する・しないにかかわらず、作戦レベルや戦略レベルにおける効果を持たなければならない。

===

以上
by masa_the_man | 2012-10-31 22:33 | 日記 | Comments(1)

台湾有事シナリオ

今日の横浜北部は秋晴れのスッキリした天気でした。だいぶ気温が下がってきましたが、まだ昼間は半袖でもいけますね。

さて、私がお世話になっている国際地政学研究所が、11月15日になんと“Coming War with China”という刺激的なタイトルのワークショップを開催するという企画を立てておりまして、その議題のためにいくつかの衝突シナリオを考えております。

もちろん中心になるのは尖閣をめぐる日中衝突シナリオなんですが、それよりも大規模になる可能性をもつ、台湾有事シナリオについても検討中です。

その参考のためと言ってはなんですが、私が知っているアメリカのある本(未訳)の中に、その叩き台となりそうな台湾有事シナリオがありましたので、その該当部分を以下に要約しておきます。

もちろん以下はあくまでも「シナリオ」でして、フィクションであることをお忘れなく。

===

●危機の開始は二〇一七年の三月

●この数年前から北京政府に対する民衆のデモは、経済状況の厳しさが増す度に、段々と激しくなってきていた。

●様々な要因(環境悪化、一人っ子政策、福祉政策の欠如、政府の腐敗など)から国内の情勢が不安定になるにつれて、李全国家主席はいくつかの演説で間接的に生活水準の悪化を認めつつ、その原因として、中国の「調和的な勃興」の阻止を企む「海外勢力」の要因を指摘するようになった。

●しかもこの「海外勢力」の中心にいるのは、日本とアメリカ

●この「敵対勢力」は、原油をはじめとする石油価格を高止まりさせ、不平等な貿易システムを押しつけ、中国国内の不満分子を煽り、台湾に中国本土への投資をやめるように迫っている、というのだ。

●この声明発表が行われたのは四月一六日だが、その二日後にアメリカ初の女性大統領MCは,
記者会見でこれを懸命に否定。

●アメリカ側の経済学者などは、このような経済状態の不振は、むしろアメリカの経済状態の悪化に起因すると結論。

●ところがこのような指摘を意に介さない李主席は、五月一日のメーデーの演説で、中国の平和的な勃興のために必要となる三つの「新提案」を披露する。

●第一は台湾に独立に関する議論をすべてやめて、本土側にさらに投資をするように促すこと。

●第二はアメリカに対して周辺地帯における基地や同盟関係などから手を引き、中国の「包囲」を即刻中止すること。

●第三はアメリカにたいして、湾岸地域の産油国に圧力をかけて原油価格を下げるように求めることである。

●ところがこの年の二月の時点で、中国政府高官たちはすでに台湾問題を「実力で解決」する決心をしていたという報道が出てくる。このカギとなったのが中国民衆が求めている「ナショナリズム」の動機だという。

●五月から六月にかけて、北京政府の首脳部は台湾問題について、台湾側に圧力をかけはじめる。

●北京側は「台湾が急速に独立に向かっており、核兵器を獲得する可能性まで検討している」というインテリジェンス機関が得た秘密文書の存在を発表する。もちろん台湾側はこの文書の存在を否定。

●ところが中国(とロシアとイラン)はこの文書を非常に問題視するようになる。

五月末になると中国側の軍の動員の兆候が確認され、米政府高官たちの間で緊張が走る。大統領も安全保障会議でこの件について集中的なブリーフィングを受けたことがワシントンポスト紙に報道される。

●まずその兆候として見られるのは、この二ヶ月間だけで、従来の中国からと思われるサイバー攻撃の量が2倍になり、軍事関連施設のコンピューターへの侵入の量は3倍になったこと。

●五月二〇日には、人民解放軍が対衛星(ASAT)撃墜実験を突然行い、これは中国自身の古くなった衛星に対して、地上からのレーザーシステムを使って行われたもの。

●アメリカの諜報機関によればこの実験は成功しており、しかもアメリカ側の衛星を一時的に「盲目」にする能力もアップしたことが確認されたという。もちろん中国側は以前からこのような能力を開発していることを頑に否定している。

●またインテリジェンス機関の情報によれば、人民解放軍の海軍が潜水艦の能力を増強しており、すでに本格的な連携した動きをするための演習を計画しているという。もちろんこれは東アジアのシーレーンの安全にとっては悪夢。

●さらには(戦略核ミサイルを担当する)第二砲兵隊も準備のために動いているとされ、台湾や日本に一番近いところにすでに部隊を移動させているという報告もある。

●また、北京政府の高官たちが戦時に司令部を移すと見込まれている、内陸部での活動も確認されているという。

●アメリカ側は、中国の内陸部まで爆撃機を使って攻撃できるわけではない。B-2が使えるのも夜だけ。アメリカの航空戦力はちょうど近代化を完成させるギャップのところにあり、爆撃機も潜水艦からのミサイルも足りない

●しかも前方展開している基地にある核兵器などは、すでに中国側の長距離ミサイルの射程に入っているおかげで脆弱になっているために使用できない可能性が高い。

●ところが四月から五月にかけては人民解放軍の陸上部隊に大規模な動きは見られず、台湾に対する揚陸艦などの準備も見られない。

●このおかげでアメリカの何人かの政府高官や軍関係者は、「中国は前回の台湾危機の時と同じように、ただハッタリをしかけているだけだ」と安心してしまった。

●まだ一年半しか政権についていないMC大統領は、極東の同盟国たちに対して自国と味方の国益は守ると宣言しつつ、中国を刺激しないようにするというジレンマを抱えながら状況に対応していかなければならなくなったのだ。

●そして運命の演説は6月22日に行われた。李主席は、日本とアメリカが台湾を公式に独立宣言を出させる手助け(核武装を含む)をしており、中国を封じ込めて面子をつぶそうとしていると非難した。

●そして台湾の「反乱分子」を阻止するためにわれわれは準備を始めていると宣言をし、さらには中国の「領海内」を航行するいかなる船も、潜水艦で撃沈されるおそれがあると警告した。

●また、台北の港への航路に高機能の機雷を設置。これによって、台湾は事実上の海上封鎖状態に陥ることになった。

●また、第二砲兵隊もこの海上封鎖作戦を支援する行動に移り、台湾で大規模な原油タンカーが入港できるたった二つの港に照準を定めた。

●これによって、中国は一発も銃を発射せずに戦争状態に突入したことになる。

●他にも李主席は、中国の「領空」に入ってきた衛星は、どの国のものであっても人民解放軍の空軍によって撃ち落とすと宣言。

●最後に、李主席は台湾に関して干渉してきた場合、それがいかなる国であったとしても「中国と宣戦布告した」と見なすことを強調して演説を終えた。この場合に念頭におかれていたのは、もちろん韓国と日本、それに中央アジア諸国に点在する、米軍の基地である。

●ところが予想に反して台湾は北京側の強力な圧力に屈せずに、外国に協力を要請した。六月二四日の報道によれば、台湾首脳部はこの海上封鎖でも二ヶ月くらいは持つと判断しているという。

●海上封鎖は国際法的にみれば明らかに戦争行為であるため、国連安全保障理事会は同日に緊急召集されたが、拒否権を発動した中国によって物別れに終わる。

●しかもロシアは北京を支持しながら「台湾こそが侵略者だ」と非難する決議を逆に提案。米英はその意見に反対を表明。

●六月二八日にはアメリカと日本が台湾を間接的に支援するために、中国からの輸入品に検閲強化を準備していると発表。これに対して李主席は猛烈に反発し、日米は中国の平和的な勃興を崩そうとしていることを「確認した」という声明を出す。

●そしてその翌日には前日の声明を裏付けるような動きを大統領が確認。中国側はアメリカの(民間を含む)情報インフラに対して大規模な攻撃を開始したという証拠が出てきた。

●主な攻撃先は、ペンタゴン内のコンピューターネットワークと、ニューヨークの株式取引所に対するもの。これによって取引は二日間停止した。

●また、人民解放軍海軍の潜水艦は「演習」と称して世界中の海上石油・天然ガス施設などに攻撃を開始。中国はアメリカと日本に向かう石油の流れを止める覚悟があることがここで明確になる。

●さらに、「他の潜水艦部隊が台湾周辺に潜んで米艦隊の到着を待機している」という情報も出てきた。

●また、第二砲兵隊は通常弾頭のミサイルにより、東アジア周辺の石油・天然ガス施設に照準を定めたということがアメリカのインテリジェンス機関の情報によってもたらされた。

●ここでアメリカ側の緊急安全保障会議のメモがリークされた。前回の台湾危機のような状況の再現になれば、米海軍にとっては「自殺行為」になるというアドバイスがなされたという。

●しかもこの会議で説明されたのは、アメリカ側にはそれを阻止するのに十分な原潜の数が足りないということだった。

●またアメリカ側にとって不利なのは、沖縄とグアムにある米軍基地がすでにミサイルによって狙われているということであり、これによって陸上の航空基地を使っての空爆作戦は不可能になりつつあるという報告がなされたという。

●このような事情から、航空機を移動させるかどうかで会議内で激しいやりとりがあったのだが、国務省長官はそういうことをすれば日本側が「アメリカに見捨てられた!」と感じてしまうと力説

●これについての大統領の判断は、とりあえず移動はしないが、状況が変化したら日本側に緊急で通達をする、というもの。

●国防省側はグアムに長距離爆撃機を緊急配備することを提案。しかし中央アジア諸国は自国へのアメリカの爆撃機の配備についてはかたくなに拒否。

●こうなると爆撃機は中国内のターゲットのほとんどをカバーできないために、ミサイルの使用を考慮に入れなければならなくなるが、大統領はこれも中国側を刺激するとして却下

●さらに国防省長官は、中国がアメリカの指令系統(C4ISR)をダウンさせるだけの能力があると進言。とくに中国は衛星システム全体をダウンさせることが可能。

●もちろん日米は協力して台湾の海上封鎖状態を助けることができるかもしれない。たとえば中国から北米のほうに伸びている海底ケーブルをカットしたりできるのだ。これに対して中国側は紛争をエスカレートさせることができよう。

●結局のところ、米統合参謀本部は核兵器を使う覚悟がないかぎり、台湾を助けることができないと結論づけた。

●この紛争が世界戦争に急速に展開していくのをおそれた大統領と日本の金井首相は、北京にたいして「これ以上紛争の拡大を望まない」というメッセージを伝え、臨検を停止することを示唆している。

●ところが中国側の返答は「われわれの主権は取引できない」として提案を拒否。再びボールは日米側に戻されることになる。

●ここで彼らにとっての選択肢は二つに一つだ。戦争か、降伏かである。

===

以上でシナリオは終了しておりますが、けっこう中国側の動きが激しいものとして描かれているような気が。実際の北京政府はここまで断固とした態度をとるのか微妙な感じがしますが・・・・

ということで参考まで。
by masa_the_man | 2012-10-14 00:04 | 日記 | Comments(8)
すでにみなさんもご存知の通り、京都大学の山中教授がiPS細胞の発見の功績が認められてノーベル賞を獲得しました。これはめでたいニュースです。

それに関連して一言。

昨日の受賞の報を受けての記者会見の後に山中教授が講演などで語っている言葉として「ビジョン&ハードワーク」というものが注目されております。

ということでネットを探してみますと、たしかにこういう言葉を残しておりますね。

===

技術者マインド・関西人のユーモアも…山中語録

(中略)

 ◆ハードワーク◆

 1993年、米国に渡り、本格的な研究者人生をスタートさせた。一生肝に銘ずる言葉と出会う。「Vision(ビジョン)& Hard Work(ハードワーク)。目的をはっきり持ち、それに向かって懸命に働くということ。研究者が成功する条件で、日本人はハードワークは得意だが、ビジョンを見失っている学生が本当に多い」(08年4月、母校の神戸大入学式の特別講演で)

===

これについてですが、私の「武器捨て本」を読まれた方はすでにご存知の通り、これは山中教授が無意識的に戦略の肝となる部分を理解していたということ。

どういうことかというと、

ビジョン:順次戦略

ハードワーク:累積戦略

ということになります。

私が翻訳したワイリーは、著書の中で「この二つの戦略の両方を使わないとダメ」としておりますが、山中教授は(米国で教えられて?)この二つを意識していたと。

しかも彼は上の講演会で、「日本人はハードワークは得意だが、ビジョンを見失っている学生が本当に多い」としており、日本人は累積戦略が得意だが、順次戦略が(とくに若者たちに)ないと言っているわけです。

さらに面白いのは、この記事の見出しが「技術者マインド」で、さらに該当部分の小見出しが「ハードワーク」だけ、という点でしょうか。

日本人がいかに累積戦略が大好きかを象徴しているような(笑

ということで「二つの戦略」を活用しての山中教授のノーベル賞獲得、本当におめでとうございます。
by masa_the_man | 2012-10-09 10:43 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は、朝から曇っておりましたが、いまは晴れて来ました。

さて、久々に安全保障関連の記事の要約を。書いたのはイギリス人の若手研究者ですが、なかなか鋭い分析をしております。

====

最高の国防は「対話」にあり
By ウォルター・ラドウィグ

●米国務省の「日米安保は尖閣に適用できる」という声明発表と、時期を同じくして行われたレオン・パネッタ米国防省長官の北京訪問は、米中間で高まりつつある、アジアにおける軍事プレゼンスの緊張を見せつけることになった。

●この状況では、中国側はアメリカに対抗しようとしており、国防戦略が外交に絡んでくると危険な「勘違い」が生じやすくなる構造も浮き彫りになっている。

●オバマ政権のアジアにおける「軸足」の根拠となる米軍の軍事戦略は、国防省内では「エアシーバトル」として知られている。

●この戦略は、海・空軍の長距離機動投射能力を使って、潜在的な敵国が米軍を「排他地域」に侵入してくるのを阻止するために設置する機雷や潜水艦、対艦ミサイルなどの高度なテクノロジーを克服することを狙って採用されている。

●これは対イラン戦にも使えるのだが、主な狙いはアメリカの同盟国が段々と対立姿勢を見せてきている中国に警戒感を強めている、アジア・太平洋地域に採用されるものと想定されている。

●これにたいして北京政府は「中国に対する明確な挑戦の兆候だ」と解釈している。

●つい先頃の尖閣危機が起こった時、私は北京に滞在中で、様々な中国の戦略関係者と会合を行っているところだった。この会合ではっきりとわかったのは、北京は「エアシーバトル」や、それよりも大きなアジアへの「軸足」の転換を北京に対する挑発であると感じているということだ。

●ところが同時に判明したのは、人民解放軍や北京政府では、自分たちの圧力的な戦略が地域や隣国を恐れさせているものなのかを理解できている人はほとんどいない、ということだった。

●その反対に、多くの中国側の関係者たちは、「中国の立場を強力に海外へと推し進めていけば必ず他の大国から尊敬と協力を得ることができる」と信じていたのだ。

●一方でアメリカの政府関係者たちは、エアシーバトルは特定の国に向けて用意されたものではなく、あくまでも中東やアジア・太平洋地域で安全保障の維持のために必要となる軍事能力の維持のためのものであるという苦しい公式説明を行っていた。

●ところがプライベートの会話では、彼らはエアシーバトルは次の台湾海峡危機や南シナ海における紛争を念頭に置いたものであることを告白するのだ。

もちろん中国もアメリカも、相手側が敵意を持っており、自分たちは防衛のために軍事的な準備を行っていると見なしている。よって、このような状況で公式声明として出される「調和のある関係づくり」が少なくとも虚しい言葉に聞こえてしまうのは当然であると言えよう。

●ストックホルム国際平和研究所は中国が二〇一一年度に国防費として1290億ドル使ったと発表しているが、このうちのかなりの部分が「A2」(近接拒否)の能力の獲得に使われたとしている。

●その大規模な国防費にかかわらず、中国の軍事テクノロジーと軍はほとんど実戦を経験しておらず、最後に使われたのは一九七九年のベトナムへの侵攻で失敗した時だ。

●さらに重要なのは、北京政府の主な安全保障の関心は国内に向いているという事実だ。つまり人民解放軍のかなりの数が国境や治安維持のための支援に使われているのだ。

●また、人民解放軍では、それぞれの管区が独立して「軍閥」になるような事態を防ぐために、かなりの努力や資源が使われていることも指摘しておくべきであろう。

●一方でアメリカ人は、米軍が世界の国際秩序を担保して維持するポジティブな役割を果たしていると考えがちである。

●たとえばペルシャ湾地域にプレゼンスを維持することによって、石油がアジアやヨーロッパへ流れるのを見守ったり、アジアやヨーロッパで安全保障を担保することによって互いの敵対関係を緩和し、互いの経済成長に集中させるように仕向けるというものだ。

●ところが中国にとってアメリカが脅威に映るのは当然といえよう。なぜならアメリカには自分たちよりも六倍もの国防費があり、アジアでの第三、第四、第五の強さの軍事力をもつアジアの国々と同盟関係だったり戦略的パートナーになったりしているからだ。

北京の政策家たちが認識しなければならないのは、米軍がグローバルなコミットメントを行っており、そのうちのほんの一部がアジア太平洋地域に向けられているという事実だ。

●その証拠に、オバマ大統領の「軸足」発言にもかかわらず、米陸軍と海兵隊は、イラク戦争前のレベルに回復されるだけであり、しかも恒常的な派兵は考えられておらず、国防費の総額も次の十年間で4870億ドルの減額されることになるのだ。

●もちろん私はアメリカに「エアシーバトルをやめよ/A2への対抗をやめよ」と提案しているわけではない。民主制度や重要な貿易相手国とのアクセスを守り、同盟国を安心させるためには、アメリカの軍事力の投射能力は必要となってくるからだ。

●ところがこのコンセプトは、中国の戦略関係者の間には深い不信感を呼び起こすものであり、この戦略でカギになってくるのは、中国のトップのリーダーや学者、それに戦略家たち、そして次世代の若い軍のリーダーたちに広い交流関係を築くことなのだ。

●米軍が頻繁に行っている近代化についてや、中国の軍事力と行動についての率直かつ明快な説明は、両者の対話に欠かせないものであり、世界の二大経済国同士の協力関係にも必要なものだ。

●それとは反対に、軍事戦略だけの狭いフォーカスは互いの疑いを増すだけであり、コストのかかるライバル関係をエスカレートさせるだけだ。

●両国は、軍事計画というものはリスクのヘッジを狙った最悪のシナリオの想定であり、どちらかが望む結果を表明したものではないということを思い起こす必要があるのだ。

===

「エアシーバトル」の話が出てきましたが、この記事の筆者が勘違いしているのは、これは「作戦」であり、「軍事戦略」ではないというところですね。

それと興味深いのは、北京も米国も、「自分が強硬的な姿勢を見せれば他国は屈服する」という意識を持っていることが伝えられていることでしょうか。

これはつまり、大国というのもの他国が自分の力を恐れて「バンドワゴニング」するというバイアスを持っているということを図らずも表明してしまったということです。

問題なのは、この「バンドワゴニング」というものは歴史上あまり発生していないということですね。つまり豊富な軍事力をそなえた大国というのは、「他国がバンドワゴニングする」と勘違いする傾向、いわば「バンドワゴニング思い込みバイアス」(?)を持ちやすいということです。


「中国の地政学と大戦略の失敗」CD

by masa_the_man | 2012-10-09 09:54 | ニュース | Comments(4)