戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の甲州は素晴らしい秋晴れの一日。朝晩はかなり冷えました。

先日の私のソロ講演会にご参加いただいた方々、本当にありがとうございました。久々のソロ講演会でちょっと緊張したのですが、なんとか無事に終えてほっとしております。

さて、久々に私の思いつきを一つ。

日本の防衛コミュニティーでも注目されている、例の「エアシー・バトル」というコンセプトなんですが、私が見る限りでは、主に日本で行われている分析は「アメリカがこのコンセプトをどう考えているのか」というものや、「それが日本の防衛体制にとってどういう意味があるのか」というものばかりで、肝心の「エアシーバトルの戦略コンテクスト」というものがあまり解説されていないように思いました。

ということで、私は主に戦略論的な観点から、ビジネス戦略の理論として有名なランチェスターのものからヒントを得て以下のように簡単に分析してみました。

まずは「ランチェスター戦略」ですが、これは元々イギリスのランチェスターという軍人が戦闘機の空中戦の成果の分析法(オペレーションズ・リサーチ)として編み出したものですが、日本の故・田岡氏によってビジネス用のものとして完成させられた戦略、というか、戦術分析のことです。

これをアメリカが「エアシーバトル」というコンセプトをなぜ必要としているのかという観点から考えていくと、面白いことがわかります。

まずはランチェスター式の分類法で考えますと、「強者のとるべき戦略」と「弱者のとるべき戦略」というものが分類できます。まずは以下のように列挙してみますが、

●「強者の戦略」: 

1、広域戦
2、総合戦
3、確率戦
4、遠隔戦
5、正面突破

という特色が出てきます。それの反対としては、

「弱者の戦略」:

1、局地戦、
2、一点集中
3、一騎討ち
4、接近戦
5、陽動作戦

ということになります。

で、これを「エアシーバトル」が適用されている状況に当てはめて考えてみますと、

強者:アメリカ(そして日本をはじめとする同盟国)
弱者:中国、イラン(そしてヒズボラなどの非政府組織など)

ということになります。あまり公式の文書ではいわれませんが、エアシーバトルで想定されている「敵」は、東アジアでは明らかに中国なんですね。

そしてこれをランチェスターのこの二つの分類に当てはめてみますと、

●アメリカ(強者)

1,広域戦=中国の沿岸部を広い範囲で封じ込める
2,総合戦=空・海軍を中心に、大量の武器とテクノロジーの優位をつかって
3,確率戦=範囲を広げるが細かいところで小さなポイントをかせぎ
4,遠隔戦=もちろん「オフショア」の離れた安全な場所から
5,正面突破=基本的に洋上部隊を通じた正攻法

●中国(弱者)

1、局地戦=自国の沿岸地域に入れないようにする(A2AD)
2、一点集中=空母など、大きなターゲットの破壊に集中
3、一騎討ち=奇襲で一対一、最初の一撃が大事
4、接近戦=自国の領海で潜水艦・ミサイル・衛星などで対処
5、陽動作戦=外にはプロパガンダ戦、自国の実力は明かさず

というアナロジーが使えるかと。

基本的に中国人民解放軍は(当たり前ですが)米軍に対しては自分たちのことを「弱者」ととらえており、それに見合った戦略を採用しているということがなんとなくおわかりいただければ。

以上、簡単ながら米中のエアシーバトルから見える関係性についてメモ代わりにまとめてみました。

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by masa_the_man | 2011-09-27 22:20 | 日記 | Comments(11)

田中宇氏との対談

今日の甲州は完全な秋の一日。

さて突然ですが、国際政治アナリストとしてその筋では有名なあの田中宇氏と対談をしてきましたのでそのご案内を。

明日の講演会の内容にも関わる内容です。ご興味のある方はぜひ。
by masa_the_man | 2011-09-24 22:55 | 日記 | Comments(0)

オバマの支持率

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(msnbc.comより)
by masa_the_man | 2011-09-21 18:25 | 日記 | Comments(5)
今日の甲州はよく晴れましたが、まだ夏みたいですね。朝晩も思ったほど気温が下がっていないような。

さて、来週というか今週末の日曜日(25日)に開催される私の講演会に向けて準備を進めておりまして、そのメモ代わりにここに少し書き込んでおきます。

まずはミアシャイマーの「オフショア・バランシング」について。

実はミアシャイマーは、「オフショア・バランシング」という大戦略の名前を主著『大国政治の悲劇』では使用しておりません。ではなんといっているかというと、「オフショア・バランサー」という国がある、と言っているわけです。それはもちろん(冷戦時代の)アメリカと(19世紀の)イギリスのこと。

そしてこの両国がとっていた対ユーラシア(イギリスの場合は対ヨーロッパ大陸)戦略をミアシャイマー自身は後に「オフショア・バランシング」であるとして、先日ここで紹介した論文の中でまとめたわけです(ただし最初にリアリストの中で使いはじめたのはおそらくポーゼン)。

それでは簡単に、ミアシャイマーのオフショア・バランシングという概念の「前提」を以下に簡単にまとめておきます。

●国家は本来「利己的」な存在である。

●アメリカは現在まちがった戦略を追求している。

●アメリカのように地域覇権をすでに達成している国にとっては、他の地域の覇権を出さないようにすればいいだけ。

●基本的にシーパワー国家だけがオフショア・バランシングを実行可能。

●オフショア・バランシングとは、ようするに他の地域の国の友好国(バック・キャッチャー)にたいしてアメリカが(バック・パッサー)が「バックパッシング」(責任転嫁)をすることだ。

●バック・パッシングの狙いは、地元の友好国に侵略的な国家をぶつけて、自分たちだけはその侵略的な国家と直接対決を避ける、という点にある。

●ミアシャイマーをはじめと主なリアリストたちがオフショア・バランシングという大戦略の適用を想定しているのは、主に「中東」地域である。

●バックパッシングのやり方は四つある。

①バック・パッサーは、脅威を及ぼす国と良い関係を結んでおく
②バック・キャッチャーとの関係を多少疎遠にしておく
③バック・パッサー側が防衛費を拡大する
④バック・キャッチャーを支援する

●ミアシャイマーは東アジアで二つのシナリオを想定している(二〇〇一年)

1、中国が脅威にならず、アメリカは撤退しする→結果として、地域は不安定化
2,中国が脅威になり、アメリカは駐留を続ける

●地域国家が戦争すれば、中立国であるオフショア・バランサーは経済的に大儲けする(例:第一次大戦時のアメリカ)

●アメリカはユーラシア大陸内の大国間戦争に巻き込まれてはいけない

●戦争は始めに当事者なるのはアホ。最後になってから介入して漁夫の利を得るのが吉。

さらに詳しい話は講演会で。

そういえばこういう話もネットで発見しました。参考まで。

以上。
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by masa_the_man | 2011-09-18 23:54 | 日記 | Comments(4)
今日の甲州は、完全な夏日でした。残暑ですね。

さて、またまたウォルファーズの警告を一つ。1960年代初期に書かれたものです。参考まで。

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●国家の対外政策を決定づける「最大の要因」についてのあらゆる議論については、すでに戦争や紛争の原因、侵略や帝国主義、そして比較的長期にわたる平和や国際協調の原因、というようなテーマで、長年にわたって書かれてきた。

●私はこのような議論についてここでまとめて振り返るようなことをするつもりはないが、国際関係における決定要因について、さらに大きな影響力をもっている学派の見解については少しここで論じてみたい。

●過去に激しい議論を巻き起こしたひとつの疑問をここで簡単に触れておこう。

●現代の一級のアナリストたちのなかで、国際政治の分野、もしくはそれ以外のあらゆる分野での人間の活動について、たった一つの決定因だけで何かを十分に説明できると論じている人は一人もいない

●議論の余地がないほど明らかなのは、「単一要因理論」というのは、プロパガンダのための優秀な道具であることを証明してきたという点だ。

●マルクス主義者、そしてそれに敵対するドイツ地政学の学者の人々は、国際政治におけるあらゆる主な動機を「経済システム」や「地理的な状況」のように、たった一つの要因からすべて説明することの有利さというものをよくわきまえているのである。

●ところがそのような一つの特定の強力な決定要素を浮き上がらせるような理論は「単純化した抽象概念」と評価されるのが関の山であり、現実の世界というのはこのような単純な枠組みには当てはまらないものである。

●ナポレオンは、地理が対外政策の流れに影響を与えると論じたのかもしれないが、それでも彼は、自分の特殊な性格やロシアの地理が自分をモスクワに向かわせたということをおそらく知っていたのだ。

●もしある人物が「ナポレオンやその後のヒトラーのロシア侵攻を促したのは地理である」と考えるならば、その人は「地理には野望を持った侵略者たちを騙して負かすという計画が込められていた」と考えていることになってしまうのだ!

●同様に、心理学者たちはヒトラーの性格が世界の出来事の流れに影響を与える大きな決定的な効果を持っていたことを説明できるのかもしれないが、それでも本物の歴史学者たちは、第二次大戦をヒトラーの病的な傾向にすべての原因を押し付けるようなことはできないのだ。

●よって、このような「単一要因」vs. 「多数の要因」というアプローチは今日では深刻な議題とはなっていないが、むしろ「環境の役割」と「性質的要因の役割」に関する議論は終わっていないし、おそらく永遠に終わることはないだろう。

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単一の要因による説明はプロパガンダには最適、という指摘が重要ですね。ものごとを単純に説明している理論ほどプロパガンダに利用されやすいと。

ちなみに一番最後は、簡単にいえば「氏か育ちか」ということですね。
by masa_the_man | 2011-09-15 23:35 | 日記 | Comments(0)
今日の甲州はまたよく晴れて暑くなりました。

さて、アーノルド・ウォルファーズの名言をここにポイントフォームで少し書きだしておきます。参考まで。

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●多くの点で、国際政治におけるパワーと影響力というのは、市場経済における「マネー」と同じ役割を果たしている。

●このような経済では、マネーというのは消費と生産のために必要となるモノを購入する際には不可欠なものである。

●したがって、ほとんどの人々にとって、マネーの獲得は直近の目標となり、自分のため、もしくは利便性において価値のあるものを獲得するための「手段」なのだ。

●ところが少数派である二番目の人々は、賢明であったり、もしくは幸運なために、準備資金を蓄えることができるのだ。

●これらの資金は、まだ見ぬ危機や、チャンスへの備えとして有用であり、人の信用を上げてくれるし、経済面での安心や行動の自由の感覚を与えてくれるのだ。

●三番目のグループは単なる「ケチ」と呼ばれる人々であり、彼らはマネーを「サービスを得るための手段」としてではなく、それ自体の獲得に価値を見出すのだ。彼らは無限にマネーを貯めようと思うのだ。

●影響力とパワーを求めるという点で、国家も人間のマネーに対する態度と同じように三つのカテゴリーに分類できる。

●まずほとんど国は最初のカテゴリーに分類され、外的な必要条件や、その獲得のために支払う犠牲の大きさのためにきわめて制限のある、貴重なアイテムである「パワーと影響力」を求めるのだ。

●これらの国々にとって、パワーと影響力というのは、国家が直近で必要となるものを満たすために使われるのだ。

●二番目のグループは、パワーや影響力を直近の必要性のために使う必要がない。このカテゴリーに属する国家は、脅威が存在しない時、それに特に欲望を持っていない時でも、軍や同盟国を維持するものなのだ。

●イギリスとポルトガルの数百年間にわたる同盟関係はこの典型的な例といえる。

●最後のカテゴリーに属するのは、パワーや影響力そのものの獲得を目的として求める国家たちである。

●ここでもマネーの場合の「ケチ」の例でも明らかなように、このような国はパワーの無制限の獲得や、他国へ過剰な要求をしたりするのだ。

●このような国家では合理性というものが失われ、その行動は病的になり、状況に関係なくパワーの最大化に向かって突っ走ってしまうのだ。

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要約すれば、「その日暮し」「金持ち」「金の亡者」ということでしょうか。それが国家のパワーに対する態度にも当てはまる、と。
by masa_the_man | 2011-09-13 23:28 | 日記 | Comments(0)
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(cnn.comより)
by masa_the_man | 2011-09-13 18:28 | ニュース | Comments(1)
今日の甲州は快晴になって暑かったのですが、さすがに朝晩はかなり過ごしやすいです。

さて、「エアシー・バトル」との絡みもあって気になる「オフショア・バランシング」ですが、以前掲載したミアシャイマーの記事(原文は2008年当時のもの)が完成しましたので、残りの部分と合わせて全編ポイントフォームで要約をここに載せておきます。

25日の講演会はこの辺もからんで話ができればと思いますので、ご参加を予定されているかたは、ちょっと長くなりますが、ご参考までにぜひ。

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軍靴を陸から引き上げろ

重大な地域での最適な戦略は、部隊を撤退させてバランス・オブ・パワーの政治に戻ることだ

By ジョン・ミアシャイマー

●大統領は変わったが、アメリカはまだ中東でトラブルにはまっている。オバマはイラクからの撤退を公約にかかげていたが、それが終わる兆候は見えないし、アメリカにとってのテロ問題は悪化している。

●また、ガザ地区ではハマスが支配し、イランは核抑止の獲得に向けて動いており、アメリカやその同盟国たちもそれを阻止することはできないでいる。

●そしてアメリカの中東でのイメージは、過去最悪になっているのだ。

●これらの結果は、そのすべてが、ブッシュ政権が中東地域を米軍の力を使ってイラク政府(やシリアやイランなど)を民主化させて友好的な政権につくりかえようとした誤った政策のおかげだ。そして当然のように、思ったとおりにはことはうまく運ばなかった。

●よってオバマ大統領は、この重大な地域に対して新しい戦略で臨まなくてはならない

●幸運なことに、アメリカには過去にも効果を発揮したことがある戦略が残されている。それが「オフショア・バランシング」だ。冷戦時代はこのおかげでワシントン政府はイランとイラクを封じ込め、ソ連が石油の豊かなこのペルシャ湾地域に直接介入してこようとするのを抑止したのだ。

●対中東戦略としては「オフショア・バランシング」というのはブッシュの(アラブの春を目指した)中東政策よりは野心的なものではないが、それでもアメリカの国益を守るという意味でははるかに効果的である。

●実際にはどうするのかというと、アメリカはオフショア・バランサーとして中東の外に軍事力(特に陸軍と空軍)を配備するのだ。だから「沖合」という意味の「オフショア」という形容詞がつく。

●一方の「バランシング」の意味は、イランやイラク、サウジアラビアなどの地域の国家にお互いを抑止させるということだ。

●ワシントン政府は外交的には関与を続けるのだが、紛争などが起こった時に必要とあらば弱い国側を応援するのだ。

●また、空・海軍を使うことによってアメリカが引き続きコミットメントを行っていることを示しつつ、一九九〇年のイラクによるクウェート侵攻のような、不測の事態にはすぐに対応できるような能力を維持するのだ。


●ところがここで重要なのは、アメリカが中東に軍隊を派遣するのは、地域のバランス・オブ・パワーがかなり崩れてきて、その中のたった一国がその地域全体を支配する恐れが出てきた場合だけなのだ。

●それ以外の場合は、アメリカは兵士やパイロットたちを「水平線の向こう側」、つまりその地域の海の外側か、アメリカ本土の基地においておく、ということだ。

●このアプローチは、ブッシュの高慢なレトリックを聴き続けた後だと皮肉に聞こえるかもしれない。なぜならこれだと民主制や人権擁護の推進にはあまり効果を発揮しなそうな感じだからだ。

●ところがブッシュ自身もこれらの約束を果たせなかった点では一緒であり、国家がどの政治システムを選ぶのはかはワシントンではなく、各国家の責任なのだ。

●よって、国益を目指すためのアメリカの戦略を現実的な理解を土台にして、アメリカが達成できないことを明確に認識するのは、実は全く「皮肉的」なことではないのだ。

●さらに言えば、オフショア・バランシングというのは全く新しい戦略というわけではない。アメリカは冷戦期のほとんどを通じて、この大戦略を中東で実行して成功させていたのだ。

●しかもアメリカはこの地域に軍隊を駐留させようとしてはいないし、ここの国々を無理やり民主制度に作り変えようともしていない。

●その代わりにワシントン政府はその地域の様々な同盟国を――陸軍と海兵隊が5師団、戦術戦闘航空団三つ、そして三つの空母打撃群で構成される緊急展開部隊(RDF)のような形で――支援して、もしソ連、イラン、イラクがバランスを崩そうとしてきた場合には抑止したり直接介入したりしようとしているのだ。

●アメリカは一九八〇年代にイラン革命軍を封じ込めるためにイラクを支援していたが、イラクが一九九〇年にクウェートに侵攻してバグダット政府に有利なバランスをつくろうとすると、アメリカはRDFを中心とした多国籍同盟を結成してサダム・フセインの軍隊をつぶしている。

●オフショア・バランシングは、今日において以下の点において、特に魅力的なものとなっている。

●第一に、アメリカがイラクのような、大規模で犠牲が高くつく戦争に巻き込まれるチャンスを(完全に消滅させるわけではないが)減少させてくれる、という点だ。

●アメリカは自国の軍隊をつかってわざわざ中東をコントロールする必要はないのであり、必要なのはただ他の国がそうするのを防ぐことだけなのだ。

●この狙いがあるため、オフショア・バランシングというのは軍隊を使ってこの地域の政治を変えることは拒否し、その代わりに地元の同盟国たちに危険な隣国を封じ込める役割を果たしてもらうのだ。

●アメリカはオフショア・バランサーとして国力を節約しておくことができるのであり、介入は最後の手段としてとっておくことができるのだ。そしていざ介入しても、それをすぐ終了させて沖合に撤兵する。

●比較安上がりなこのアプローチは、現在アメリカがおかれた状況を考えると、とくに魅力的なものであることがおわかりいただけると思う。

●アメリカの債務棚上げ措置は財政にとってかなりの高くついたのであり、今後経済の状況が本当に改善するかどうかというのは明らかではない。このような状況下で、アメリカは中東、もしくはその他の地域で、いつまでも戦争を続けられるわけがないのだ。

●ワシントン政府は(二〇〇八年末の時点で)すでにイラク戦争に6千億ドル(50兆円)つかっており、紛争が終わるまでにこの総額は1兆ドル(80兆円)以上になりそうなのだ。

●しかもイランと戦争がはじまれば、その経済的負担がさらに増すことは想像に難くない。

●もちろんオフショア・バランシングは「タダ」というわけではなく、アメリカはある程度の外征部隊を維持して迅速に派兵できるようにしておかなければならないのだ。しかしこれは、今までの戦略よりもかなり安上がりになることは間違いない

●第二に、オフショア・バランシングはアメリカのテロ問題を改善してくれる。

●20世紀の教訓は、ナショナリズムやその他の地元のアイデンティティというものがまだ根強く残っており、外国による占領は地元からの強烈な反発を生み出す、ということだ。このような不満は、アメリカにたいするテロや大規模な暴動となって顕在化することになる。

●レーガン政権が一九八二年のイスラエルのレバノン侵攻の後にベイルートに米軍を派遣した後、地元のテロリストたちは、一九八三年四月にアメリカ大使館、そして同年十月には米海兵隊の宿舎に対して自爆テロを行って三〇〇人以上殺害して対抗したのである。

●できるかぎり米軍を外に引いておくことは、米軍をアラブの土地に恒久的に駐留させることによって発生する怒りを最小限に抑えることになるのだ。

●第三に、オフショア・バランシングはイランとシリアが感じている「アメリカに政権交代させられてしまう!」という恐怖――これこそが彼らが大量破壊兵器をもとうとしている理由だが――をやわらげることになる。

●テヘラン政府に核武装をあきらめさせるためには、ワシントン政府がイラン側の正統的な安全保障の懸念を解決してやり、あからさまな挑発を抑えるべきなのだ。米軍をその周辺から撤退させることは、それに向けた「はじめの一歩」になるはずだ。

●アメリカは中東から完全に撤退することはできないが、オフショア・バランシングはアメリカがそこで戦争に巻き込まれる危険度を下げてくれるのだ。

● いままでの戦略では、潜在的な的をまとめて敵にして一致団結してアメリカに向かってくるようにしていたのだが、オフショア・バランシングでは反対に地域の国々にアメリカに有利になるように競争するよう支援するのであり、これによって分断統治の戦略を促進するのだ。

●この戦略を対中東向けに採用する第四の理由は、それ以外の戦略は効果がないからだ。

●たとえば、一九九〇年代初期のクリントン政権は「二重の封じ込め」を追求していたが、これはイラクとイランの両者を使って互いを牽制させるのではなく、アメリカが自ら両国を封じ込めようするものであった。

●ところがこの政策だと、両国ともアメリカのことを憎い敵国と見なすようになってしまう。また、この政策ではアメリカがクウェートやサウジ・アラビアに大規模な数の兵力を派遣する必要が出てくるのだ。

●そしてこの政策こそが、地元地域での不満を起こし、オサマ・ビン・ラディンがアメリカに宣戦布告することにつながり、一九九六年のコバールタワーズの爆破事件や二〇〇〇年の駆逐艦コールへの攻撃、そして最終的に9・11事件へとつながったのだ。

●9・11事件の直後に、ブッシュ政権は中東の「二重の封じ込め」を放棄して、地域の変換へと動き出している。たしかにバグダットが陥落した時にはブッシュの成功は約束されていたように見えた。ところが占領政策はすぐに悪化し、この地域におけるアメリカの地位はどんどん落ち始めたのだ。

●オバマ大統領がアメリカを泥沼から救い出すには、過去に成功していた対中東戦略に戻るべきなのだ。具体的にいえば、オフショア・バランシングという戦略はイラク戦争をなるべく早く収束させて、この地域全体の犠牲者の数を減らすことを意味する。

●イランに対して予防戦争をちらつかせて脅す――このアプローチではテヘラン政府の核兵器獲得への欲望や、アハマディネジャド大統領の人気を高めてしまうことになる――代わりに、オバマ新政権はイランに安全を約束して、その見返りに核濃縮計画に検証可能な制限をするような交渉をすべきなのだ。

●アメリカはシリアのアサド政権への狙いをはずし、イスラエルとシリアの両国に和平条約を交わすように圧力をかけるべきである。

●もちろんこの戦略はアメリカが中東で直面する問題をすべて解決してくるようなものではない。それでも将来のイラクのような大災害の発生の確率を下げてテロ問題をかなり緩和してくれるのであり、ワシントン政府の核拡散防止の展望を最大化してくれるのだ。

●またこれは人的にも財源的にもかなり負担を軽減してくれるものだ。

●もちろん国際政治においては「絶対安全な戦略」というものはないのだが、それでもオフショア・バランシングはわれわれが実行できる最も安全に近い戦略であろう。

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この論文の要点についてはのちほどまた。
by masa_the_man | 2011-09-12 22:59 | 日記 | Comments(0)

オフ会終了

今日の東京は日差しが強く、残暑が厳しい感じでした。

さて、オフ会が終了しましたので簡単にお礼だけ。

今回は①エアシーバトル(とスペースパワー)、②ヨーロッパの覇権、③海底ケーブルの地政学、という三つのテーマで御三方に発表いただきました。非常に興味深い発表でした、本当にありがとうございます。

次回は10月15日(日)の開催ですが、テーマが最終決定しましたら、こちらでお知らせします。

その次の11月のオフ会ですが、日程は11月13日(日)で決定しております。
by masa_the_man | 2011-09-11 22:47 | 日記 | Comments(1)

海から迫る中国の挑戦

今日の甲州は朝から秋のスッキリした陽気でしたが、昼には厳しい残暑が復活。

さて、久々に地政学的な論説記事を発見しましたので要約を載せておきます。

著者はもちろんプリンストン大学の「ドラゴン・スレイヤー」のアーロン・フリードバーグで、彼はここ最近のシャングリラ・ダイアローグでも活躍中。

お題は中国のシーパワー増強論と米国の債務問題に関するものです。これは旬なテーマだ。

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海から迫る中国の挑戦

by アーロン・フリードバーグ

●財政危機は、アメリカをアジアで高まりつつある戦略面での危機に直面させつつある。

●民主党は社会保障の支出を守りたいのに対して、共和党は増税反対であり、両者とも国家債務をなんとか管理しなければならないと言っているため、防衛費が削られるのは確実であろう。

●よって次の十年間での削減額は、総額で50億ドル(38兆円)ほどが計画されている。

●米国防省がアフガニスタンやイラクから撤退して支出を抑えたとしても、兵器の購入費や新たな武器の開発費用は確実に減るだろう。しかもこれらの制約は、アメリカが戦略的な挑戦を受けている時に強まっているのだ。

●中国は年率10パーセントの成長に支えられてほぼ二十年間にわたって急速に軍備を増強している。

●中国は自らの本当の意図を隠しており、アメリカの戦略家たちは911以降にそれ以外のことにかかりきりであったのだ。それでも中国の軍備増強の次元や方向性は、かなり明らかになってきている。

●冷戦終了の時点で、太平洋は実質的に「アメリカの湖」となっていた。日本や韓国のような友好国にある基地のおかげで、アメリカの空海軍は同盟国を守って安心させ、潜在的な侵略者を抑止し、西太平洋全域からインド洋に向かう貿易航路の安全を確保したのだ。

●そして米軍はこの地域全域で何の障害もなく自由に活動できたのだ。

●ところがこの状況は変化しはじめた。中国は1990年代半ばから米国防省の専門家の言う「アクセス拒否能力」(A2)を備え始めたのであり、これは武装面で正面から対抗するのではなく、コスト効率のよいやり方で無力化する方法を北京政府が求めている、という意味だ。

●北京政府は、比較的安価だが、かなり正確な射程を持つ大量の非核弾道ミサイルや、海や空から発射できる巡航ミサイルなどを装備しつつある。

●これらの兵器は何百マイルも外の海に届くため、西太平洋で活動するアメリカの港や航空基地のかなり数を破壊したり無力化したり、米空母を含む軍艦を沈めたりすることができるのだ。

●また、人民解放軍はアメリカの人工衛星やサイバーネットワークを無能化するようなテクニックを試験しており、数は少ないが、アメリカに届くような核弾頭付きミサイルを加えている。

●もちろん米中の直接的な軍事衝突の可能性は低いが、それでも中国はアメリカの前進基地にいる部隊をノックアウトできるようなオプションを獲得しようとしているように見えるし、これによっていざとなった時のワシントン政府の対応を困難にしようとしている。

●このような準備は、もちろん中国がアメリカとの戦争を求めているということを意味するわけではない。実態はむしろその逆で、彼らの狙いは主に「周辺国を威圧すること」であり、同時にワシントン政府にはいざ紛争が起こっても助けに来れないようにする、ということなのだ。

●こうすることによって、中国周辺のアメリカの同盟国たちはアメリカが本当に助けに来てくれるのか自信を持てなくなるのであり、しかも自分たちの力だけでは中国の軍事力に対抗できないために、中国の要求に従い始めるかもしれないのだ。

●古代中国の軍事理論家の孫子の言葉を借りれば、中国は「戦わずして勝つ」ような手段を求めているのであり、アメリカの安全保障の約束を色あせさせることによってアジアの支配的なパワーとなり、アメリカの同盟関係を無効化し、最終的にはこの地域からアメリカを押し出すことを目指しているのだ。

●もしアメリカとアジアの友好国が防衛関係を強化していこうとするのであれば、たとえ中国が強力になったとしても、まだまだ優位なバランス・オブ・パワーは維持することができよう。

●ところが中国の軍備増強に備えることに失敗すれば、北京政府が勘違いをして周囲に強気の態度に出始めて、紛争だけでなく、武力紛争のリスクまで高めることになるのだ。

●実際のところ、中国の最近の資源や海の境界線の争いにおける日本やそれ以外の小国との南シナ海周辺の行動を見てもわかるように、この紛争のリスクは高まりはじめていると言える。

この問題は、外交の話し合いだけでは解決するようなものではない。中国の軍事政策は「勘違い」によるものではなく、他国が直面しなければならない、意識的に狙われた戦略の一部なのだ。

強さは侵略を抑止するのであり、弱さはそれを誘発する

●北京政府はアメリカや同盟国側が準備する動きを挑発的だと非難するが、現在のアジアの安定を転覆しようとしているのは中国の行動のほうなのだ。

●中国の周辺国の多くは、昔とは違って中国の不平をあえて無視しようとしており、自分たちの国防費を上げて、アメリカとさらに緊密に連携しようとしている。

●ところが彼らはアメリカが今後も本気でコミットしつづける気がなければ、これらの行動には出ようとしないだろう。

●もちろんワシントン政府はアジアのパワーバランスを維持する責務を全て負う必要はないのだが、それでもその維持の努力をリードしなければならないのだ。

●米国防省は中国の生長しつつある「アクセス拒否能力」に対抗する手段を見つけることを最優先にする必要があり、これらの手段が実際に使用される確率を下げなければならないのだ。

●そして、これにはコストがかかるのだ

●支出削減の時代に必要な費用を正当化するため、われわれのリーダーたちは「国益」や「アジアへのコミットメント」についての説明をさらに明確にしなければならないし、中国の熾烈な軍備増強が及ぶす問題についての解説を率直にしなければならない。

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ブロディの「戦略にはドルマークがついている」という名言そのもののような内容ですね。

ただしアメリカ後の(シーパワーによる)世界秩序を考える上ではかなりヒントになることが書かれております。
by masa_the_man | 2011-09-07 22:41 | ニュース | Comments(5)