戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

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U字工事の地政学

とりあえずランドパワー対シーパワーということで(笑



彼らはけっこうバランス・オブ・パワーの話を上手い具合にネタに取り入れてます(笑
by masa_the_man | 2009-11-30 11:13 | 日記 | Comments(4)
今日のイギリス南部は朝から雨と晴れ空が連続するちょっと忙しい一日でした。気温もけっこう低めです。まあもうすぐ師走なので当然かも知れませんが。

そういえば昨日のことですが、「軍事情報」という知る人ぞ知るメルマガで拙訳『戦略の格言』が紹介されておりまして、そのメルマガ主の方のコメントがなかなか鋭い点を突いておりましたのでちょっとご紹介。

この著者の方は、


通読して思ったのは「戦略とは、実践そのものである」ということ・・・・実践である以上、机上の空論は厳に排除されねばなりません。戦略家と、いわゆる学者の違いはこの点にあるのでしょう。グレイ教授は疑いなく実践者です。


と書かれておりますが、これは私の先生が聞いたら一番喜びそうな言葉です(笑)なんせ彼が目指しているのは「戦略家」であり、「学者」ではありませんので。

このメルマガの著者の方はそういう意味でかなり鋭いところを掴んでいらっしゃると思いました。

さて、ストローン氏の話をまとめます。

前回ではアロンとガロアがフランスの敗戦を目撃したことによって彼らの中で「戦略の対話」が生まれ、これが彼らの戦略センスを向上させたということを述べましたが、これと全く同じ体験をしている人がおりました。

あの『戦争論』のクラウゼヴィッツです。

クラウゼヴィッツは一八一二年にナポレオン戦争で敗北したプロシア軍を離れてロシア軍に参加したわけですが、この時に彼は目の前で「負ける」という体験をしたために、これが彼の戦略の考えを進化させたわけです。

これを聞いたときに、私は大東亜戦争で負けた時に日本の軍人で戦略思想を進化させた人がいたかどうかをちょっと考えてみたのですが、どうもあまりそういう人物は思い浮かびませんでした。

もしかしたら私が知らないだけで、そういう人物はいるのかも知れません。もし皆さんがご存知でしたらぜひ教えていただきたい。

と、ここまで説明した後、いよいよストローン氏は本題に入って行きます。それは

●戦略の理論(strategic theory)

vs

●戦略の実践(strategic practice)

という二つの概念の対比です。

彼は西洋諸国の戦略が1990年からこの二つのレベルで動いているのだと言うのです。

これをわかりやすくするために、彼はキルカレンの最新刊である「偶発的なゲリラ」 の本の内容がこれであると言っております。

ストローン氏はもちろんこの本が批判の戦略業界で賛否両論を巻き起こしているものであることを認めつつも、この本が素晴らしいのは、著者自身の個人的な実体験(戦略の実践)と、それを長期的な流れや大きな視野(戦略の理論)から考えようとしており、この二つがうまく対比されているからだと言うのです。

ここで彼は’日本ではなぜか注目度の低い)名著である、エリオット・コーエンの『戦争と政治とリーダーシップ』を引用しつつ、リンカーン、チャーチル、クレマンソー、ベングリオンというリーダーたちは、戦略の階層を縦横無尽に上下しつつ、正式な戦略の教育を受けていないにものかかわらず、「戦略の理論」と「戦略の実践」の「対話」を自分のなかである程度消化できていて、そのために成功できたというのです。

ところが現在の政治ではこのようなことはかなりできにくくなっており、たとえば政策は短期的になりやすいとして、この一例としてオバマ大統領が来年(2010年)の中間選挙を見据えて政策を考えなければならない面を強調しております。

しかし戦略(理論)というのは軍事に関する長期的な視点を考えなくてはいけませんから、ペトレイアスやマクリスタルのような将軍たちと違う利益が出てくるわけで、ここでレベル間の摩擦が起こってしまうわけです。

これが現代の戦略を考える上での一番の問題であるストローン氏は指摘しております。

まとめとして、彼は戦略を考える際の助けとなるのはクラウゼヴィッツの「トランプのゲーム」というたとえである言いつつ、この「チャンス」を扱うゲームは、軍人だけでなく、ますます政治家たちが行わなければならない領域になったと主張しておりました。

そして最後に、現代の戦略は「(戦術レベルにおける)軍事的勝利」というものよりも、むしろこのような「チャンス」を「マネージメントするもの」としての性格が強くなってきたと論じて講演を終えております。
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by masa_the_man | 2009-11-30 10:07 | 日記 | Comments(4)
今日のイギリス南部は朝から曇っておりまして、午後から一気に雨が振りはじめました。さすがにここまで来るとすっかり冬という感じです。

まずは簡単にお知らせです。

実はあと数日以内に論文の合間に細々と進めていた翻訳がとりあえず一段落しそうな様子でありまして、来週のはじめあたりにこのブログをご覧の皆さんからまたタイトル候補の募集をはじめようと考えております。

今回もまた当選者枠を五人分用意しましたのでふるってご応募下さい。お願いします。

さて、ストローン氏の話の続きをしようと思ったのですが、時間もないので図書館で見つけた興味深い本の紹介を。

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The Domestic Sources of American Foreign Policy: Insights and Evidence

eds by Eugene R. Wittkopf & James M. McCormick (5th ed)

これは題名そのままズバリ直訳で「アメリカ対外政策の国内要因:洞察と証拠」という感じになります。

具体的には学校で使われるリーダー(副読本)という形をとっておりまして、この二人の編集者がアメリカの対外政策における国内的要因について分析した論文24本を三つの分野にわけ、それぞれに対して最初に解説を書いております。

このような「国内要因」というのは、本ブログをご覧のみなさまならすでにご存知のウォルツの「セカンド・イメージ」による分析なのですが、とくに一番最後にはブッシュ前大統領の心理学分析などもあり、ちょっと「ファースト・イメージ」も絡んでいる、いままであるようで無かった分析を集めた論文集です。

第五版まで出版されているわけですからクオリティーの高さは証明されているようなもので、特徴としてはあのミアシャイマーとウォルトによる「イスラエル・ロビー論文」も掲載されているところでしょうか。

その他にもナイの「ソフトパワー論文」からはじまって、マックス・ブート、コリン・パウエル、スタンレー・ホフマン、マイケル・マンデルバウム、そしてニューヨーカー誌のハーシュなど、学者だけでなくジャーナリストや政治家などの論文までバランスよく混ぜております。

また、本書の「前提」としてあるのは「グローバル化が国際政治を国内政治化した」というものです。

ちょっと長い文章なんですが、本編よりもこの編著者たちが書いている各章のイントロ解説はなかなか行けるものでして、私としてはむしろこれを読むだけでもかなり価値があると思っております。
by masa_the_man | 2009-11-29 07:13 | おススメの本 | Comments(10)
今日のイギリス南部はまたしても素晴らしい秋晴れでして、しかもかなりの冷え込みが。

金曜日なのでまたロンドン大学のC教授の授業をモグリで受けてきました。この内容についてはまたいずれここで書きます。

さて、昨日の話の続きを。

ストローン氏の話は、歴史家(戦史家)だけでなく戦略思想家という面もあり、この講演でもうちの先生のような実務家とは違った、なかなか鋭い指摘がいくつかありました。

まず彼が指摘したのは、「戦略」(strategy)というという言葉が近代になってから使われ始めたものであるということ。

そしてこれを一番はじめに注目して論じたのは、やはりクラウゼヴィッツということになります。これは当たり前ですな。

そして現代に近づくにしたがってますます重要になってきたのは、この戦略と政策(ポリシー)についての関係です。とくにこの傾向は核兵器が出てきた1945年以降はとくに強まったと。

また、近代になって「戦略」というものがどういう様相を帯びてきたかというと、「平時に準備をして、戦争の時のチャンス(偶然性)というものをあらかじめ少なくするように計画すること」となります。

それからストローン氏は、近代の戦略には三つの機能があると主張します。

1、チャンスを自分に都合よく利用することを狙う機能
2、戦争の遂行における偶発的な出来事のインパクトをある程度予測しておくための機能
3、長期的な視点を維持して狙いを定めておくための機能


また、ここで興味深かったのが彼の「有名な戦略思想家はなぜ生まれたのか」という分析です。

彼は戦略家としての教育は受けていないのに戦略思想について鋭いコメントを残している人物として、フランスの二人の有名な知識人の名前を挙げました。ピエール・ガロアとレイモン・アロンです。

まずアロンは社会学者なんですが、クラウゼヴィッツについての素晴らしい分析(『戦争を考える-クラウゼヴィッツと現代の戦略』)を書いておりまして、ロンドン大学のC教授は、先日このアロンの著作を「クラウゼヴィッツについて書かれたものではベストだ」と言っていたほど。

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一方のガロアは空軍にエンジニアとして務めた職業軍人だったわけですが、後に「フランスの核兵器の父」と呼ばれるようになった人物ですね。

では彼らがなぜそのような素晴らしい戦略思想的な分析をすることができたのかというと、ストローン氏の言葉でいえば「戦略の対話(ダイアローグ)があったからだ」とうことになります。

たとえば孫子は春秋戦国時代、マキャベリはイタリアの弱小都市国家の悲劇的な運命、クラウゼヴィッツはナポレオン軍の脅威、そして『戦略の思想家たち』を編集したエドワード・ミード・アールはナチス・ドイツという脅威に直面していたからです。

アロンとガロアもこの例にもれず、彼らは1940年のナチス・ドイツによるパリ陥落を目撃してイギリスに亡命してからフランスの亡命政府の発行する新聞に時事評論を書き、これが彼らの「戦略対話」の原点となったとストローン氏は見ております。

そういえば戦後のアメリカでもベトナム戦争からハリー・サマーズの「戦略論」(On Strategy)という本が生まれましたし、最近の「テロとの戦争」では、なんといってもデヴィッド・キルカレンの「偶発的なゲリラ」(The Accidental Guerrilla)がそれですね。

ストローン氏はこのキルカレンの新刊をけっこう評価しているようで、その理由を、彼がこの「テロとの戦い」を実体験していて、それが理論との対話につながっているからだ、としておりました。

ここまで書いて時間切れです。続きはまた明日
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(一番右がストローン氏)
by masa_the_man | 2009-11-28 10:10 | 日記 | Comments(9)
今日のイギリス南部はまた素晴らしい秋晴れでしたが、昨日よりもかなり冷え込みました。

さて、昨日のセミナーの話の中でも、とくにストローン氏の話を少し。

第一次世界大戦の歴史の世界的権威でありますストローン教授ですが、私はすでに顔を知っていたので、セミナーが開始する前に彼と少し話をしました。

まず私がサインをしてもらうために持っていた本(The First World War: A New History)がどういう経緯で書かれることになったのかと質問をしたわけですが、彼はこれをチャンネル4(例の市橋容疑者のドキュメンタリーを作っているテレビ局)が制作したドキュメンタリー映画の参考文献として書いたと答えてくれました。

このドキュメンタリーは四枚組のDVDとして発売されていることは昨日のエントリーでも紹介した通りですが、ストローン氏はこの制作のためのテレビ局と一年ほどじっくり作業をしたようで、そのための十人前後の特別制作チームがつくられ、ナレーターの言葉も彼が一字一句手を加えてつくりあげたそうです。

このような歴史ドキュメンタリーというのはかなり作られているわけですが、このDVDほど一人のプロの歴史家が制作サイドにがっちり加わって作られたものはないとか。

私もこのDVDを見たことがあるのですが、たしかに完成度はかなり高い。

また、彼の三部作のうちの第二作目についての進行状況はどうなのかと聞くと、

「うーん、それは聞いてもらいたくない質問だなぁ(苦笑)オックスフォードに移ってからは全然作業が進んでいないんだよ(泣 」

とのことでした。たしかにあれほどの傑作を書いて有名になってしまうと、いろいろと研究以外のことで時間がとられてしまうのは仕方ないのかも知れませんが。ちなみに二作目は1914年から1917年までを書くつもりと言っておりました。

私がサインをもらった本については、ドキュメンタリーが完成する直前の二ヶ月ほどで書き上げたとのことですが、すでに頭の中に入っていることだったので、資料面などではそれほど苦労しなかったとか。

その代わりに名作「The First World War: Vol.1 To Arms 」のほうは書き上げるまでに準備期間を含めて25年(!)かかったとのこと。まあわからんでもないですな。

このような会話のあとに、いよいよストローン氏の講演がはじまったわけですが、彼のテーマは「チャンスとしての戦略をどのように考えればいいのか」という、戦略理論の王道を行く内容。

具体的には現在のイギリスが直面しているアフガニスタンの戦略や英国防省の意思決定の状況などの話が出たわけですが、時間がないのでこの続きはまた明日。
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by masa_the_man | 2009-11-27 10:40 | 日記 | Comments(0)
今日のイギリス南部はまるで台風一過のような素晴らしい秋晴れの空だったのですが、気温が一気に下がりましてけっこう寒かったです。

さて、実は今日は学校で開催されたセミナーにスペシャルゲストが来ましたのでその内容の報告を。

今回のゲストは、なんとあのルパート・スミスヒュー・ストローン

と言っても「知る人ぞ知る」という感じなので簡単に紹介すると、スミス氏はNATO軍のNo2も務めたイギリス陸軍の元将軍でして、戦略学の学徒たちには

The Utility of Force: The Art of War in the Modern World
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という本で有名です。これは『名著で読む戦争論50冊』の中の一冊にも選ばれてますね。

本ブログでもたしか二年くらい前のエントリーに彼の講演についての内容を書いたと思います。

そしてもう一人のヒュー・ストローン氏は、第一次世界大戦史の世界的権威でありまして、現在はオックスフォード大学の歴史学の教授。この人はなんといっても完成度の高い

The First World War: To Arms
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という本を出してこの分野で金字塔をうち立てた人なのですが、これは実は第一次世界大戦史の三巻ものの第一巻として出版されたので、あと二巻が出版される予定なのですが、どうなることやら。

ちなみに私の先生はこの本を「出典も含めて一字一句最後まで読んだ」と言っているほど、内容も濃いし素晴らしい本です。

これのダイジェスト版というか、ドキュメンタリー(DVD)を制作した時の副読本として出されたのが以下の本なのですが、こちらも読みやすく内容も濃い優れもの。

The First World War: A New History
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この人は歴史だけでなく戦略学にもけっこう詳しい人でして、クラウゼヴィッツの『戦争論』の解説本や戦略の理論そのものについてもかなり積極的に論文などを書いております。その一例が、

Carl Von Clausewitz's "On War": A Biography
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です。これがまた傑作。

セミナーのほうはまずこのストローン氏からはじまり、戦略の理論についてけっこう細かい話をしまして、これがなかなか密度の濃い素晴らしいものだったのですが、今日は時間もないので簡単にスミス氏が話してくれたことをひとつ。

スミス氏は1964年からイギリス陸軍の軍人としてのキャリアをはじめたわけですが、まだ新米の兵隊として訓練していた頃に「戦略の大成功例」を見たという逸話を披露してくれました。これがなかなか面白かった。

彼はある日の駐屯地で受けていた訓練を終えて、自分の部隊の十人の仲間と共に夕方になって宿舎に帰ってきたらしいのですが、訓練につかっていたライフル銃のひとつをどこかに置いて来てしまったみたいで、どうしても9丁しか見当たらなかったとか。

もちろんこのままでは部隊の連帯責任になるので、みんなも手分けして必死に探したのですが、何度探してもないものはない。

で、これを隠しておくと部隊全員の責任になってしまいますし、上官が先にこのような不都合な真実を発見してしまうと部下の責任になりますが、上官に報告すれば上官の責任になるので、すぐ上官に報告(苦笑

で、この上官も曹長あたりに報告してバックパシング(責任転嫁)を狙ったらしいのですが、この上官の上官だったネルソン曹長とかいう人物がけっこう有名な人だったみたいで、教育はそれほど受けていなかったらしいのですが、時として異様な戦略センスを発揮した伝説を持っていたそうです。

で、この人が報告を受けてスミス氏たちのいる新米兵たちのところまで来たらしいのですが、さすがに彼の管理下にある部隊の銃の紛失はちょっと問題になるわけです。

ここで彼は何をしたかというと、まず紅茶をたのみ、それをすすりながら宿舎の中を行ったり来たりしてうんうん考えていて、しばらくしてから

「よし、これで行こう!」

と決断。で、何を言ったかというと、

「正直に言ったら明日の朝まで銃探しだ。しかし嘘をついたら嘘に生きるまでだ!」

と言ってから、

「残りの9丁の銃も、全部外の野原に隠してこい!」

という命令を下したのです。

あっけにとられている新米兵たちはとにかく自分たちの銃を近くの野原に隠してきたわけですが、隠し終わったところを確認すると、

「まずお前たちは夜十二時まで寝ていろ、そして班長は夜中に小便におきてから銃が無くなっていることを発見したと言って大騒ぎをするんだ」

というのです。

そして厳重に口裏合わせをして、「寝ていたら銃が盗まれていた」ということにすることを徹底。

で、言われた通りにスミス氏たち新米兵はとりあえずベットに行ってぐっすりと眠ったわけですが、予定通り夜中頃になって班長が銃が全部盗まれたことを「発見」してそれを報告すると、駐屯地中がてんやわんやの大騒ぎ。

で、どういうことになったのかというと、駐屯地の全員が銃の捜査に狩り出されることになったのです。

もちろん夜になってますので見えないわけですが、この駐屯地のトップにとっては自分のところで銃が盗まれたとなっては大問題なわけですから、野外用のライトをつけて真夜中過ぎだというのに銃を探しまわらせたのです。

しばらくして銃発見の報告が曹長のところに次々に舞い込み、一時間後には10丁全部が見つかって一件落着。

ところが銃を無くして「盗みに入られた」彼ら以外の全員は、罰として夜明けまで訓練させられたとか(苦笑

ここでスミス氏は戦略家としてネルソン氏からいくつか貴重な教訓を得たとして、

1、実行する人以外には戦略を教えてはいけない
2、自分がコンテクストを作ってしまう
3、自分たちではなくて、他人を動かす
4、最後まで口裏をあわせなければだめ

と言っておりました。

そしてこのエッセンスは孫子の「第五:勢篇」に書かれていると言っておりました。

ちなみにこの銃を無くした人物というのは、実はスミス氏本人だったそうです(笑
by masa_the_man | 2009-11-26 09:42 | 日記 | Comments(22)

トルコとEUの微妙な関係

今日のイギリス南部は朝から荒れ模様の天気でして、数日前に上の湖水地方で大洪水があった時のように激しい雨が降るかと思えば、午後から西風が激しく吹いております。

さて、今日は火曜日だったので毎週恒例のランチ・ミーティングでした。

今回の発表者はギリシャ人の若い男でして、彼はまだ論文のテーマを決めていないのですが、とりあえず「アメリカ/ギリシャ/トルコ」の三国関係をテーマにしようと考えている関係から、今日はトルコの戦略文化について話すことにしたみたいです。

ところが彼は「戦略文化」についてはほとんど語らずに、トルコのEU参加のことについて延々と語っており、ここから見えてくるトルコ(とギリシャ)の国家戦略の狙いを述べるという作戦に出ました。

実は面白いことに同じコースメートにトルコ人がおりまして、この彼もかなり興味津々に発表者の彼の話を聞いておりました。

彼ら二人は非常に仲がよいのですが、歴史に詳しいかたならお分かりの通り、なにせトルコとギリシャというのは過去に何度も戦争したほど仲がわるく、最近でもキプロス島の帰属をめぐって領土紛争を繰り広げております。

とりあえずギリシャ人の彼の発表はあたりさわりのないものだったのですが、面白かったのはトルコ人側の反応。

彼はギリシャ人の彼が言った「トルコは瀕死の病人だ」という指摘を「それはオスマン・トルコ時代のことですが・・・」と軽くクギを刺したあとに、トルコ側からの視点を披露。

まず最近EUの大統領に選ばれたベルギーの首相が「EUはキリスト教国の連合だ」と発言したことを指摘し、結局は宗教(トルコ側のイスラム教)が重要な要因になっていると主張します。

また、トルコのEU参加に関しては法律面でフランスがかなり嫌がらせ(?)的な行為をしていることや、歴史的な経緯(ハプスブルグ時代にウィーンを何度も攻められたことがある)もあってか、オーストリアがかなりがんばって反対していることなどを挙げておりました。

サイードの「オリエンタリズム」を読んだことのある人ならおわかりかと思いますが、この彼が指摘していた面白いことは、「歴史的にヨーロッパ人の間で“ヨーロッパ”というアイデンティティーが成立するプロセスで、一番身近だった“非ヨーロッパ”であったトルコが果たした役割が大きい」ということでした。

つまりEUの根本的なところでは、「オレはトルコ人じゃない→ヨーロッパ人だ」という確認でアイデンティティーをつくってきた部分があったと言いたいわけですね(まあアラブなんかも果たした役割は大きいのですが)。

ところがEU拡大というのはトルコを入れるということになった段階で、彼ら自身に「非ヨーロッパ人であるトルコを受け入れてもあなたはヨーロッパ人なのですか?」というアイデンティティーの矛盾を引き起こすような深い質問を突きつけることになるために、ヨーロッパ人にとっては感情的にけっこう厳しい、というわけです。

このトルコ人の彼もこのヨーロッパ側の感情/宗教面でのEU参加のむずかしさを実感しているようでありまして、

「このままプロセスが長引けば、トルコ側もヨーロッパ側に対する信頼を失って保守化し、じゃあ参加しなくていいよということになる。だから結局トルコはEUに入らない」

と断言しておりました。

おそらくフランス側もじらすことによって、トルコが自発的に「入らない」と言い出すことを狙っていると彼は見ているようですが。

ちなみにトルコはNATOに参加しておりますから、軍事面ではシーパワー、しかし経済的にはややランドパワー寄りという、なんとも両生類的な微妙な位置にあるリムランドパワーとして生きて行くことになるような感じですね。
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by masa_the_man | 2009-11-25 10:09 | 日記 | Comments(22)
今日のイギリス南部は朝にけっこう降りまして、昼過ぎから晴れ間が見えました。気温はけっこう下がってますね。

さて、論文やってて時間もないので友人から教えられた日本のサイトのネタを転載しておきます。

ルトワックといえば『ビザンツ帝国の大戦略』という新刊を最近出したわけですが、この本は私の周辺でもけっこう話題でして、先週火曜日のミーティングで私の先生がハードカバーのものを持って来ておりました。

かなり分厚いものなんですが、フォーリンポリシーのサイトに彼自身の要約が載っておりまして、それをあるサイトで翻訳して紹介されたものを友人に教えてもらいましたので、一部修正の上で転載させていただきました。

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Take Me Back to Constantinople

How Byzantium, not Rome, can help preserve Pax Americana.

ローマ帝国式の容赦無い拡張主義や外国支配や全面戦争の手法を米国が真似たらかえって没落を早めることになるので、むしろローマ帝国よりも8世紀長続きしたビザンティン帝国の方を手本にすべし。

また、ローマ帝国はあまり国家政策や戦略などにについて知識のなかったヴェゲティウスの本以外にはローマ帝国は戦術・戦略に関する文献はほとんど残していないが、ビザンティン帝国は戦術から戦略、そしてインテリジェンスに至るまで、あらゆることを書き残している。

私は過去20年間にそれらの文献を渉猟して、アメリカが大国でいつづけるいるための教訓として以下の7点を引き出した


1、戦争は可能な限り避けよ。ただし、いついかなる時にも戦争が始められるかのように行動せよ。訓練を怠ってはならず、常に戦闘準備を整えておくべきだが、実際に戦争そのものを望んではならない。戦争準備の最大の目的は、戦争開始を余儀なくされる確率を減らすことにある。
 
2、敵の情報を心理面も含めて収集せよ。また、敵の行動を継続的に監視せよ。それは生産的な活動ではないかもしれないが、無駄になることはまずない。
 
3、攻撃・防衛両面で軍事活動を活発に行なえ。ただし、戦闘、特に大規模な戦闘は、よほど有利な状況で無い限り避けよ。敵の説得を武力行使のおまけ程度に思っていたローマ帝国のように考えてはならない。武力行使を最小限に留めることは、説得に応じる可能性のある者を説得する助けになり、説得に応じない者を弱める助けになる。
 
4、消耗戦や他国の占領ではなく、機動戦を実施せよ。電撃戦や奇襲で敵をかき乱し、素早く撤退せよ。目的は敵を壊滅させることではない、なぜなら彼らは後にわれわれの味方になるかもしれないからだ。敵が複数いる場合、お互いを攻撃させるように仕向けられれば、単一の敵よりもかえって脅威は小さくなる。
 
5、同盟国を得てバランス・オブ・パワーをシフトさせ、戦争を成功裏に終結させることにつとめよ。外交は平時よりも戦時においてこそ重要である。銃が口を開けば外交官は黙るという馬鹿げたことわざは、ビザンティンがそうしたように否定せよ。最も有用な同盟国は、敵に最も近い国である。彼らは敵との戦い方を最も熟知している。
 
6、政権転覆は勝利への最も安上がりな方法である。戦争の費用とリスクに比べれば実に安上がりなので、不倶戴天の敵に対しても実行を試みるべきである。宗教的狂信者でさえ買収可能であることは銘記すべき。ビザンティンはかなり以前からこのことに気付いていた。狂信者はもともとクリエイティブなので、自分の大義に背く行動でさえ正当化できるものなのだ(「イスラムの最終的な勝利はいずれにせよ明らかなのだから」云々)。
 
7、外交と政権転覆では目的を達成できず、戦争が不可避となった場合には、敵の弱点を衝く手法と戦術を適用せよ。消耗戦は避け、辛抱強く徐々に相手を弱体化させよ。これは時間が掛かるかもしれないが、急ぐ必要は無い。なぜなら、ある敵がいなくなってもすぐに代わりの敵が必ず現れるからだ。支配者は入れ替わり、国家は興亡を繰り返すが、帝国は永遠である。もちろんこれは自ら帝国を弱体化させなければ、という話だが。

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これとやや関係しておりますが、タイムズ社が発行している「本の新聞」(TLS)でルトワックがキルカレンの新刊(そしてすでに古典)の書評を書いておりました。これについては今日学校の図書館でコピーしてまいりましたので、そのうちここでその内容をご紹介します。
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by masa_the_man | 2009-11-24 07:58 | ニュース | Comments(28)

ベルギーの部隊の名前

今日のイギリス南部は午前中は雨が降っていたのですが、午後になってすっきり晴れました。やや寒さが厳しくなっております。

さて、またみなさんにひとつ協力していいただきたいことが。

翻訳でひとつわからない名称がありまして、第二次大戦中のベルギーの1st Regiment Chasseurs Ardennaisというのがそれです。

どうやら予備役によって構成されていた部隊らしいのですが、彼らはバルジの戦いの前にベルギーのボダンジュという町でドイツの第一SS装甲師団を丸一日釘付けにしていたらしいのです。

ネットで探しても日本語訳でスタンダードなものが無いようなので、また皆さんのお知恵をお貸ししただければと思いました。

ちなみに私は

「第一猟騎兵アルデンヌ連隊」

という訳で行こうと思っているのですが・・・・

ぜひお願いします m(._.)m


by masa_the_man | 2009-11-23 10:08 | 日記 | Comments(20)
今日のイギリス南部は朝から雲一つない快晴でして、気温もそれほど低く快適な一日でした。

さて、今日は時間もないので、ロンドン大学のC教授のところでもらってきたシラバスにあった、去年の実際の年末試験で出た問題をリストアップしておきます。

もちろんこの問題に対する「正しい答え」というものはなく、ロンドン大学の学生たちは、先生の講義の内容や必読文献を参考にしながら、三時間以内にこれらの質問についてそれぞれ小論文を書くことになるわけです。

もちろんここでは皆さんに答えろというわけではありませんが、本ブログをご覧のみなさんで「われこそは」とお考えのかたは、ぜひ本エントリーのコメント欄に自分なりの回答をご記入下さい。

ちなみに私が知っている限りでこのような小論文での高評価の基準となるのは、

1、自分なりの見解/主張がある

2、テーマについて一定の知識がある

3、論理の組み立てがしっかりしていて、うまく論じている

の三点だと思われます。

優秀な回答をしていただいても私から賞品は何もでませんが(苦笑)、とりあえず本ブログのみなさんからのわずかながらのリスペクトはいただけるのでは。

別にみなさんの知的力量を試すわけではありませんので、「ちょっとレベルの高い知的な遊び」だと思ってお気軽にご回答下さい。

このエントリーは一週間ほど先頭にはりつけておきます。

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制限時間三時間以内で、以下の中から三つの質問に答えよ。点数配分は三問とも平等。


1、戦争(war)と戦闘行為(warfare)違い(があるとすれば)は何か?

2、「戦争の方法というのは歴史家の頭の中にだけ存在する」という言葉があるが、これに同意できるか?

3、「われわれが軍事において必要なのは“革命”(RMA)ではなく、“反革命”(counter-revolution)である」というのはラルフ・ピーターズの言葉だが、これについて議論せよ。

4、「NATOは使命を探している同盟である」、これについて議論せよ。

5、戦争の実行にあたって、われわれは孫子かクラウゼヴィッツ、またはその両方から、どのような教訓を学ぶことができるのだろうか?

6、「先進国の間では、欲望ではなく不満が紛争の主な原因であると説明できる」という言葉があるが、これに同意できるか?

7、西洋諸国が二十一世紀初頭に直面する地政学的難問について論ぜよ。

8、「重要なのはテロ組織を倒すことである。これは戦争ではなく、戦略的な挑戦なのだ」というのはオバマ大統領の言葉だが、これについて議論せよ。

9、戦争行為としての大量殺戮(genocide)について議論せよ。

10、グローバル化は安全保障の議題をどのように変化させたのだろうか?以下の三つのうちの一つだけをつかって議論せよ:国際組織犯罪、気候変動、エイズ/HIV、難民、リスク社会

11、「非対称戦」(asymmetrical warfare)と「人道的な戦闘行為」(humane warfare)の主な要因は何か?どちらか一方だけ議論せよ。

12、コリン・グレイの本の題名は『再び迫る血まみれの世紀』(Another Bloody Century)だが、ここで論じられているように、二十一世紀は二十世紀と同じくらい戦争が起こるだろうか?

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こうして書いてみると、答えるのは意外とむずかしそうですなぁ。

まあロンドン大学の大学院生の年末試験なので当たり前なのかも知れませんが。
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(パディントン駅のチャリティーコンサート)
by masa_the_man | 2009-11-23 06:41 | 日記 | Comments(25)