戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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今日の甲州は朝から快晴です。さすがに朝晩の冷え込みは厳しいです。

さて、先週とりあげて好評だった、NYタイムズ紙に掲載された意見記事の要約です。

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デモの規模は本当に重要なのか?
by ジーナップ・トゥフェックチー

全米各地(と世界各国)で先月行われた「女性の権利デモ」(the Women’s March)は、おそらくアメリカ史上最大規模のデモとなったはずだ。350万人が参加したという推測もある。

ということは、もちろん何かしらの意義があったはずであろう。

ところが過去20年間に行われてきたデモ行進を調査した人間として、私はここでみなさんに悪い知らせをお伝えしなければならない。

それは、デジタル時代のデモの規模は、そのムーブメントの強さを測ることができるだけの信頼に足る指標ではなくなっている、ということだ。過去に行われたデモ行進の参加者数との比較は、とりわけ誤解を生みやすい。

いまや「多くの人がひとつの場所に集まった」というだけでは、そのデモの力を示すことにはならない。むしろデモというのは、そのムーブメントの潜在力を象徴しているだけなのだ。

自然界とのたとえから考えてみよう。トムソン・ガゼルは草を食べている時に、目的もなく突然高く飛び跳ねることがあるが、これは捕食者に対して「これだけ高く飛べるのだから速く走れます、だから追いかけても無駄ですよ」と伝えている。

これと同じように、デモの参加者も「われわれはこれだけ集まれるのだから、本気だしたらどうなるかわかってますよね」と発信していることになる。

ところが大規模なデモを開催するのは以前よりもはるかに容易になってきている。たとえば過去には大規模なデモのためには少なくとも数ヶ月の準備期間が必要であった。たとえば1963年の「ワシントン大行進」は、その準備が9ヶ月前となる1962年12月から始めらている。

結果として25万人が集まったが、それ自体は今日の同規模のデモよりもはるかに多くの努力やコミットメント、そして準備を象徴したものであった。

フェイスブックやツィッター、Eメール、携帯電話、そしてクラウドファンディング無しでそのようなデモを組織するということは、まさに公民権運動のようなムーブメントの強さと精緻さを必要としたのである。

最近の大規模なデモが、政策面での実質的な結果につながらず、期待はずれに終わっている理由はまさにここにある。

私は2003年2月に開催された反戦デモにも参加したことがある。このデモは当時において世界中で行われた史上最大規模のデモであるとされ、世界の600以上の都市で行われた。

私は「さすがにアメリカとその同盟国たちは、これほどの規模のデモを無視するわけにはいかないのでは?」と思ったが、ジョージ・W・ブッシュ大統領はデモを「単なるフォーカス・グループによって行われたものでしかない」として退け、実際にわれわれを無視して、そのすぐ後にイラク戦争が始められたのだ。

ブッシュ大統領は、実際は1つの面で正しかったといえる。デモの参加者たちは、ブッシュ大統領を2004年の選挙で敗北させるまでの政治的に力には変えられなかったからだ。

私は2011年の「世界占拠」デモにも参加した。これは80カ国以上の1000都市以上で開催され、これも当時の時点で再び史上最大規模となり、テクノロジーの発展のおかげでもあって、たった数週間で組織されたものだ。

ここでも私は、経済格差に対するこれほどの大規模な抵抗運動のおかげですぐに政治・経済面で変化が起こると楽観視していたのだが、やはり間違っていた。前回と同様に、残念な結果にしかつながらなかったのである。

その後、世界中で似たようなデモが開催されているが、いずれも実質的な成果にはつながっていない

もちろんこれは、デモの重要性が失くなったということを意味するわけではない。デモはいまだに重要だ。

だがわれわれは、その捉え方を変えるできであろう。近年のデモは、組織的な努力の成果として見るのではなく、むしろその運動の、最初の潜在的な第一歩として捉えるべきなのだ。

今日の大規模なデモというのは、1963年の「ワシントン大行進」ではなく、どちらかといえばローザ・パークスがバスで白人に席をゆずるのを拒否したという行動に近い。

つまり以前は「最終地点」だったものが、現在は「最初の火花」になっている、ということだ。

デモの重要性というのは、以前にもまして「その後に起こること」に左右されるようになったのである。

2009年のティーパーティー(茶会党)運動を思い出してほしい。この時も全米の多くの都市に何十万人もの人々が集まり、デジタルコミュニケーションの助けを借りて動員されている。

そして他のデモ(先月の「女性の権利デモ」も含む)と同じように、これらはムーブメントへの支持を象徴的な形で表明したものであり、自分と同じような考えを持つ仲間と知り合うことのできる「イベント」としての機能を持っていたのだ。

ところがティーパーティーのデモ参加者たちは、自分たちの目指す政策を実現させるために猛烈な働きかけをした。それは、自分たちの支持する候補者を見つけて予備選挙に出し、それに抵抗した共和党員に挑戦し、政策のプロセスを見守り、ティーパーティーの方針からはずれる政治家に圧力をかけることなどだ。

先週ノースカロライナ州で開催された「女性の権利デモ」に私自身も参加したが、その参加者の数の多さと行進する人々の情熱の熱さに驚かされた。

ただし、これらのデモの参加者たちが互いの連絡先を交換せず、地元での戦略会合も開かなかったら、その数の多さもティーパーティーの支持者たちが2009年のデモの後に獲得したような影響力を持つことはできないだろう。

当然ながら、ムーブメントを進める上で参考すべきはティーパーティーだけではない。ところが街をデモ行進するだけでは何の結果も生み出すことはできないのである。

私が参加したノースカロライナ州のデモは、「さあ仕事を始めよう」(Let’s Get to Work)という歌をみんなで歌ってお開きとなった。そして今日のデモにとって、この歌の題名ほどよく当てはまるメッセージはないのである。

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これもテクノロジーの進化のパラドックスですね。

抗議デモのような形のイベントはSNSの発展によって以前よりも簡単に組織できるようになったにもかかわらず、それが実際の政治ムーブメントにつながるかどうかは別問題、ということ。

ワイリーのいうように「ランドパワーが決定権を持つ」というわけではないのでしょうが、やはり最後は地道な政治努力と政策実現のための組織運営というところに行き着くわけです。

さらに言えば、あらゆる政治組織の運営には、やはり「利権」のような構造が必要になってくる、とも言えます。



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(朝の新宿)


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奥山真司のアメリカ通信LIVE

奥山真司のアメリカ通信LIVE
by masa_the_man | 2017-02-04 18:19 | 日記 | Comments(0)
お知らせです。新刊が発売されます。

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すでに何度もここでお知らせしているのでご存知かもしれませんが、その内容は、クラウゼヴィッツの戦争論がどのように読まれてきたのか、そしてどのように読むべきなのかについて、さまざまな文献を比較検討しながら研究したものです。

もちろん体裁は「入門書」なのですが、どちらかといえば「総論」に近いかもしれません。

「日本語版へのまえがき」として原著者から日本の読者向けに一文いただいているので、今回の発売記念としてここで特別に公開しておきます。

〜〜〜

本書は、クラウゼヴィッツが生きている間に自ら経験した戦争(フランス革命戦争とナポレオン戦争)から得た教訓についての研究書であるが、ここで明らかになったのは、彼の考えが二つの段階を経ているということだ。

一つ目は、これらの戦争が戦いの形を永久に変えてしまい、将来のすべての戦争はこのパターンを追従することになる、と考えたということだ。

ところが後に、彼はこの間違いに気づき、非常に限定的なものから全面戦争、つまり非常に抑制的なものから無制限な暴力、あるいは小さな狙いから無制限な狙いまで、戦いの種類には移り変わるスケールの上のもののように、実にさまざまなタイプのものがあると考えるようになった

彼の考えをまとめたものが『戦争論』だが、この著作は彼が死んだ時にはまだ修正中であり、結果としてこの本は矛盾だらけの内容となってしまったのである。

ところがこのような欠点に気づかず、クラウゼヴィッツのいくつかの偉大なひらめきに圧倒された多くの読者たちは、『戦争論』に書かれている内容を無批判に受け取ってしまった。彼らはまだ議論しつくされていない文章を部分的に取り出したことに気づかずに、自分たちに都合の良い教訓を引き出したのだ。

端的にいえば、彼らが得た教訓は間違っていたのであり、その間違いが致命的であったともいえる。そしてこのような間違いは、互いに利益となる「安定的な講和の追究」というクラウゼヴィッツ自身も見逃していた考えを、「すべての戦争は軍事的勝利の追究、つまり我が意志を敵に屈服せしめるもの」という考えへと変化させてしまった。

したがって、クラウゼヴィッツを読んだ多くの人々に見られる第一の特徴は、彼の本に示された教訓を無視したということではなく、むしろ誤った教訓を得たということになる。

第二の特徴は、彼らの全員(われわれも含めて)がその本(というよりもすべての本)を、自分たちの文化のレンズを通して読んだということだ。

彼らは『戦争論』の中に自分たちの好みのフレーズやアイディアを見つけたのだが、これは彼らが生きていた時代やその雰囲気、それにその当時に置かれていた環境によって影響を受けていたということだ。

彼らは、クラウゼヴィッツがそれを書いていた時代の言葉の意味ではなく、その後に含まれるようになった意味を受け取るようになり、本来の微妙な表現や、その矛盾や限定的な議論を無視したのである。

したがって、クラウゼヴィッツの解釈の歴史は、政治思想や政治文化の発展の歴史が凝縮されたものであり、そのテーマが戦争に関わるものであった。

 結果として、本書はクラウゼヴィッツの著作が、人々が自らの価値観や政治・イデオロギー的な見解から論じたい議論を擁護するために、異なるイデオロギーを通じて、いかに多様かつ選択的な読まれ方をされてきたのかを論証したものだ。

〜〜〜

クラウゼヴィッツも人の子です。彼はたしかに偉大な「戦争の哲学書」を書いたわけですが、だからといってそこに書いてあるものが完全に正しいわけではないのですが、未完の本であったために誤解され、誤用され、利用されてきたことはもっと認識されてもいいですよね。

ところが一番の問題なのは、それがどれほど未完であったかという認識のないままに、いまでもそれを「まったく問題ないもの」としてシレっと引用しているというその態度なのかと思います。

この本には、このような問いに対する答えがいくつか書いてあります。ぜひご参考にしてみてください。



もちろん、CDでもこの本からの知見が十分に盛り込んであり、きっちり解説していますので、ぜひご参照のほどをよろしくお願いします。

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(横須賀中央)


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奥山真司のアメリカ通信LIVE

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by masa_the_man | 2017-02-01 00:00 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はまたしてもよく晴れましたが、風が出て昨日に比べてかなり冷えました。

さて、お約束していたロシアの地政学についての興味深い論文の要約です。

記事そのものは去年の夏のフォーリン・ポリシー誌に掲載されたものですが、それ自体も一冊の本の中のハイライトみたいですね。

===

ロシアの「明白な天命」の意外な起源
BY チャールズ・クローバー

メガネをかけてやや冷淡に見えるエドワード朝時代の学者ハルフォード・マッキンダー卿が、自らの研究が冷戦後のロシアで使われていることを知ったら極めて不快であろう。

マッキンダーは1904年に王立地理協会で発表した「歴史の地理的回転軸」というタイトルの講義を行ったことで最も知られている人物であるが、ここで彼は、ドイツではなくロシアが英国にとっての最大の敵であると論じたのだ。

これによって彼は「地政学」として知られるようになった華やかな理論を提唱したのであるが、そこで予測されたのは、それがドイツと二度の世界大戦を戦う前に発表されたという事情のおかげで、彼自身の理論にとってかなり不利に働いたと言える。

ところが冷戦が始まった自身の晩年になると、それまで説いていたことが現実化したために名誉を回復することになった。世界が1904年の講義の中で見通した通りの構図になってきたからである。

その構図とは、海軍で世界の海を支配していた「イギリスとアメリカ」が、広大な草原と厳しい冬のおかげでナポレオンとヒトラーを敗北に追い込んだ難攻不落で陸の要塞であるユーラシアの「ハートランド」を含んだ、世界の最も支配的なランドパワー国家である「ソ連」に対抗する、というものだ。

テクノロジーの進化と人類の啓蒙が数世紀にわたって進んでいるにもかかわらず、マッキンダーは「地理は世界秩序における根本的な構成要素のままだ」と考えており、これはシーパワーであるアテナイと、ギリシャ最大の陸軍を誇っていたスパルタが、ペロポネソス戦争において対立していた状況から変わっていないというのだ。

これ以降、地政学の研究者たちはほとんどの軍事紛争では、常に強力な海軍と強力な陸軍を含むものであったとしている。いいかえれば、シーパワーとランドパワーは衝突する運命にある、ということだ。ユーラシア大陸内部のロシア帝国の領土にある世界最大のランドパワー国家は、世界最大のシーパワー国家――この責務はその後すぐにイギリスからアメリカに引き渡された――と永遠に争い続けるというのだ。

1919年になってもマッキンダーは「ロシアが英国の最大の敵である」という考えにこだわっていた。彼は「ロシアとドイツの間に完全な領土的緩衝地帯」をつくることを提唱し、この考えを彼の最も有名な言葉である「東欧を支配するものはハートランドを制し、ハートランドを支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制する」として正当化したのである。

この言葉がハートランドの内部で注目されるまでには50年かかったが、いざ注目され始めると、マッキンダーは「無名の人」から突然「預言者」としての称号を(誤った理由から)得るまでになった。

ロシアが征服・支配する潜在的な可能性についてのマッキンダーの警告は、戦間期の欧州のエリートたちにそのような事態に陥ることを阻止するために発せられたものであった。つまりそれは、ロシア版の新たな「明白な天命」を示す「稲光」となったのだ。

2008年のグルジアへの侵攻、2014年のウクライナへの侵攻、そして最近のシリアでの作戦、さらにはユーラシアのハートランドにある「ユーラシア連合」と呼ばれる元ソ連邦の地域を影響圏に組み込もうとする動きなどは、地政学理論の中で奇妙なほど予言されていた。

マッキンダーは、経済ではなく地理のほうが世界権力の根本的な決定要因であり、ロシアは単純にその物理的な位置関係によるおかげで、グローバルな役割を担う国家の1つとなっていると考えていた。

そしてプーチン大統領の下で、一風変わったマッキンダーの理論がロシアのエスタブリッシュメントに浸透してきたのだが、これは主にアレクサンドル・ドゥーギン(Alexander Dugin)という1980年代のペレストロイカ時代にロシアの主要なナショナリストの一人として台頭してきた人物の功績である。

ドゥーギン氏のロシアのエリートたちとの奇妙なコネクションのおかげで、地政学は現在ロシアで「主流派」的な考えになっている

マッキンダーの主張は、「西洋諸国との紛争はロシアにとっての永続的なものだ」と主張するドゥーギンをはじめとするタカ派たちにとって、有益なものであった。ただし彼らは、それがなぜ永続的なものなのかについてうまく説明できていない

冷戦の最大の原因は、普遍的な寛容、民主制度、そして「歴史の終わり」という新たな時代に入り、イデオロギー面での戦いであり、これが終了したことによって冷戦が消滅したように思える。

マッキンダーの「預言者」という立場への変化はドゥーギンが1997年に発表した『地政学の基礎』(The Foundations of Geopolitics)という本によるところが大きい。この本は、ソ連後の時代にロシアで書かれた本の中で最も奇妙かつ印象的で恐ろしい本であり、ロシアのタカ派の人々に広く参照された本となったのである。

この本はドゥーギンが「新右派」の識者たちとの交流や、ロシア軍参謀本部軍事アカデミーにおける隔週ごとの講義、そしてその後にロシア国防大臣を1996年から97年まで務めたイゴール・ロジノフ(Igor Rodionov)将軍という、まさに「タカ派中のタカ派」の人物の援助の下で生まれたものだ。

ドゥーギン自身によれば、彼が士官学校の新入生が必ず受ける入門コースの講義で使った資料は、将軍たちの新たな指摘による修正や、パリやミラノからやってきた右派系のゲストスピーカーたちによる講義での知見も加えて、1993年までにはまとまってきたものだ。

したがってドゥーギンは、ニッコロ・マキャベリのような形で、征服と政治支配のためのハウツー本を意識的に書いたのだ。『君主論』(これはマキャベリ自身が権力を失って十年間職にありつけなかった後の、実質的にフローレンスの当主であったメディチ公に向けた就職申込書として書かれた)と同じように、ドゥーギンは1993年以降に無職なってからロシアの国家安全保障エリートたちを称える本として書いたのである。

1991年までにドゥーギンはソ連のタカ派の最大の宣伝者となっており、ソ連軍の資金援助を受けた新聞のために、陰謀論とナショナリスト的な扇動を混ぜ合わせた意見を書いていた。ところがKGBと同年8月のソ連赤軍によるクーデターの失敗によって、ドゥーギンは国内で無職のまま過ごすことになった。

ロシア内でも有名な知識人エドゥワルド・リモノフ(Eduard Limonov)と共に彼は「国家ボリシェヴィキ党」(NBP)というケンカ腰の党を創設して政治活動(自分では政治芸術プロジェクトと呼んでいた)を始め、タカ派との関係やロジノフのような人々との人脈のおかげで、ドゥーギンは奇妙なことにロシア連邦軍参謀本部軍事アカデミーでの非常勤講師としての職を得た。

軍事アカデミーとの関係を使いながら、ドゥーギンはモスクワのフルンゼンスカヤ通りの薄汚れた地下室にあるNBPの党本部の事務所で、ロシアのタカ派に大きな影響を与える本を仕上げた。

ドゥーギンのおかげで、マッキンダーは「オックスフォード大学で終身在職権を得ることもできなかったエドワード朝の珍奇な人物」から、国のトップに英国式の戦略的方向性についてのアドバイスを与えた人物となり、しかも次世代の官僚たちにもそのアイディアが戦略的要件を与え続けている、まるでリシュリュー枢機卿の英国版のような存在になった。

ドゥーギンによれば、マッキンダーと正反対の立場をとる他の地政学者が存在したという。それらのほとんどはドイツ人であり、彼らはマッキンダーとまったく同じロジックを使いながら、グローバルなシーパワーではなく大陸のランドパワーの防衛のために論じていた

19世紀後半のドイツの地理学者であるフリードリヒ・ラッツェル(Friedrich Ratzel)は、レーベンスラウム、つまり「生存圏」という言葉を概念として提唱したわけだが、これは後にドイツ第三帝国に国家的責務として目指すべきものとされたのである。

この次の世代の地政学的著作の数々が、その後に地政学をナチスと関連づけて考える風潮を作り上げたと言える。その代表がマッキンダーと同世代となるカール・ハウスホーファー(Karl Haushofer)であり、ドイツ陸軍の将軍から戦略理論家となった人物だ。彼は独ソ日による三国同盟を強く提唱した人物であった。

主流派の政治学者たちは、地政学の分野に関してやや疑念を持った目で見ていた。彼らの地政学専門家に対する目は、経済学の主流派の学者たちが、いずれは経済システムが古い貨幣で永続的な価値を持つ金に戻るのは避けられないと信じる「金本位制支持者」(gold bugs)を見るような目とほとんど同じであった。

同様に、地政学者というのはその専門家集団の中でも奇妙な下位集団とみなされながらも、国際政治における手段、つまり領土をめぐる戦略的紛争というのは、いかに高尚な原則や進歩があろうとも常に使われることになると考えていた。そして彼らの考えは時として、その正しさを証明してきたのだ。

ドゥーギンの『地政学の基礎』は第四版まで売り切っており、軍事アカデミーやその他のロシア内の軍事大学において教科書として採用され続けている。フーバー研究所のロシア右派の専門家である歴史家のジョン・ダンロップ(John Dunlop)は「冷戦後のロシアに出版された書物の中で、軍、警察、そして国家主義的対外政策のエリートたち間でこれほど影響力を持ったものはおそらくないだろう」と述べている。

1996年にはエリティンの政策における西欧化のシンボルとされていたアンドレイ・コジレフ(Andrey Kozyrev)が失脚し、同年に軍事アカデミーでドゥーギンの後援者であったロジオノフ将軍は、91年8月のクーデター失敗の時にエリティン側についた空軍トップのパヴェル・グラチェフの代わりに国防大臣に任命された。

さらにロシア議会はソ連邦の解体を公式に認めた91年「ベロヴェーシ合意」を無効宣言し、同時に91年に行われた国民投票によって70%のロシアの有権者が支持したソ連邦の維持を法的に拘束性のあるものとして認めたのである。

もちろんこれらは単なる見せかけだけのパフォーマンスだったわけだが、それでもソ連邦崩壊のたった5年後にロシアのエリートの大多数が帝国の復活を支持したのは、もしその議会の圧倒的な票数が指標になるとすれば、きわめて象徴的な出来事であった。

ドゥーギンの本は、ロシアのエリートたちが大変化を経験している真っ最中に出版されたわけだが、それでも1998年8月にルーブルが崩壊した時まで、ロシアのリベラリズムはなんとか持ちこたえていた。後にドゥーギンの本はモスクワの主要書店のレジの横に並べられるなど、きわめて特殊な扱いを受けている。

ドゥーギンの主な議論はハウスホーファーの本の中に直接見ることができる。それはアメリカとNATOによって主導され、新たに独立した国家群の地理的な「輪」によってロシア封じ込めを狙う「大西洋主義」(Atlanticism)の陰謀を阻止する、というのだ。

ドゥーギンの狙いはシンプルであり、まずソ連を復活させて、それから巧妙な同盟外交を使って日本、イラン、そしてドイツとのパートナーシップの構築に集中し、アメリカと「大西洋主義」の手先たちが行おうとしているロシア封じ込めを排除するというのだ。

その「ユーラシア」を構築するために重要になってくるのが、狭いナショナリズム的な政策の追究をやめることにあるという。なぜならそれは潜在的に同盟を組む相手を排除してしまうことにもなりかねないからだ。

それを論証するために、ドゥーギンは新右派の理論家であるジャン=フランソワ・シリア(Jean-François Thiriart)が述べた「ヒトラーの最大の間違いはヨーロッパをドイツにしようとした点にある。その代わりにヨーロッパのものにすべきであったのだ」という言葉を引用している。

そのため、ロシアは「ロシア帝国」ではなく、「ユーラシア帝国」をつくるべきだということになる。ドゥーギンは「ユーラシア帝国は共通の敵の存在を土台として構築されるだろう。それは大西洋主義の拒否であり、アメリカの戦略的コントロール、そしてリベラルな価値観がわれわれを支配するのを拒否する、というものだ」と書いている。

忘れられているが、本が出版された1997年の時点ではこのようなアイディアは完全に狂っていると思われていた。当時のロシアのGDPはオランダよりも低く、過去には圧倒的だった赤軍も寄せ集めにすぎないチェチェンの反乱軍に戦場で勝てずに屈辱的な講和を結ばざるを得なかったほどだ。

この当時は、ロシアをドイツのワイマール時代になぞらえるような分析が多くあり、ドゥーギンの本は、まさに戦間期のドイツを崩壊させて過激化へと駆り立てたのと同じ暗いエネルギーがロシアにも存在して台頭していたという証拠になっていた。

この本で論じられていたのは、ロシアが受けている屈辱は外国からの陰謀の成果だ、というものであった。本の表紙には、オカルト好きの人々の間では「カオスの星」として知られるスワスチカに似たシンボル(矢印が八方向に放射している)が燃えている様子が描かれており、本の中でも何人かのナチスや極右の人間が好意的に取り上げられている。

ドイツ第三帝国との共通項はすでに多く見られるが、極めつけは地政学的「枢軸国」の構築を主張している点であり、これにはドイツと日本も含まれているのだ。

ドゥーギンの本には「特権の壁で守られてきたエリートや世界の政権の中で、公にすることを嫌いながら何世紀にも渡って実践されてきた、陰謀的なルールである権力政治が影で実践されている」という前提があった。

このアイディアは、陰謀論好きな大衆に大受けする「秘密の知恵の奥義」が散りばめられており、ルーン文字の刻印や、あらゆる形の矢印が刻まれた謎めいた地図、そして世界外交におけるいままで聞いたことのない奇妙で微妙な鉄則などにあふれていた。

ところがその本には、読者の誰もがすぐに興味を持つような素晴らしい結論の論拠となる事実が記載されていたのであり、これはまるで「コックリさん」で遊んでいる人全員が、すでに知っていたことをあらためて占い板の上で示された時に驚いてしまうようなものだ。

地政学がそこまでわかりにくい最大の理由は、それを実践する人々が狂っていて、極めて難解であり、しかもニュルンベルク裁判で処罰されたからではない。むしろそれが権力そのものを、うまく隠すものであったからだ。

もしくはドゥーギンが言うように、「地政学は国際政治の根本的なメカニズムを見せつけてしまったからだ。このようなことは、世界のあらゆる国々のトップが曖昧な言葉や抽象的なイデオロギー的スキームで隠しておきたいと思うもの」なのだ。

『地政学の基礎』はそれ以前のドゥーギンの著書と比べるとはるかに落ち着いた内容であり、その議論の展開もうまく、オカルト、数占い、伝統主義、そしてそのほかの奇妙な形而上学への言及も少なかった。実際のところ、まだ彼が教えている軍事アカデミーの高官たちから、その本を書く上で多大なる支援を受けたことも考えられる。

ドゥーギン自身は自分のロシア軍とのコネを隠そうとはしていない。冒頭のページから軍事アカデミーで協力しているニコライ・クロトコフ将軍のことを共同執筆者(本人は否定しているが)であり、最も影響を与えた人物であると述べている。

ところが軍との関係はドゥーギンの著作に一定の権威や、表向きかもしれないが公的な権限のような感覚を醸し出しており、さらには彼自身が本の中で述べているようなロシア右派の陰謀の影にいるとされる本当の人物であるかのような印象を与えているのだ。そしてこれが完全に誤りであるとは、否定できないのである。

ドゥーギンは明らかに権力を欲しているようであり、その座にいる人間に対して最大限のアピールをしている。彼によれば、地理と権力の要件を理解できる人間にのみ国家の舵取りができるという。

さらにドゥーギンは「人間が地理に依存している事実は、権力の頂点に近づくにつれて明らかになるばかりだ。地政学とは権力を求めるための、権力の世界観であり科学なのだ」と記している。

もちろんドゥーギンの中ではソ連を再興しなければならなかったし、ジョージア(グルジア)は分割し、ウクライナは併合されるべきであったことは言うまでもない。その証拠に「独立国としてのウクライナは一定の領土的野心を持っているため、ユーラシア全体にとって大きな脅威となっている」というのだ。

ところがアゼルバイジャンは、「モスクワ・テヘラン枢軸」のためにイランに受け渡してもよいとしている。フィンランドはロシアのムルマンスク省に加えてもいいし、セルビア、ルーマニア、ブルガリア、そしてギリシャは聖教の「第三のローマ」や「南ロシア」として加えてもいいという。

ドゥーギンの文章は、学識を感じさせる徹底的なものなのだが、この本の中でやや変わった議論として展開されているのは、ロシアがなぜ帝国を必要としているのかの理由を説明した箇所だ。

アレクサンドル・ヘルゼン(Alexander Herzen)からアンドレイ・サホロフ(Andrey Sakharov)に至るまで、ロシアの識者たちは帝国がロシアの永続的な後退性の主な原因であると主張してきた。現在のロシアの機能不全や、そのグローバルなステージでの野望と釣り合わないステータスと影響力の欠如は、その国土の広さに原因にあると述べる人もわずかにはいる。結局のところ、ソ連時代の14の領域を失った後でもロシアはまだ地理的に世界最大の領土を抱えているのだ。

さらに、ロシアの陸上文明は、単にシーパワー国に対する戦略的な敵であっただけでなく、文化的にも文明的にも特殊なものであり、重商主義的・民主的な大西洋世界とは違ってそもそも階層的で独裁的なものだった。ドゥーギンは帝国こそが、ロシアの価値体系とは正反対のリベラリズムの侵攻を止める唯一の手段であると説いたのである。

『地政学の基礎』の影響は、その売上数からみれば驚くべきものであった。ところがさらに驚くべきなのは、それが作家の本当の指標となる、剽窃された数の多さであった。

ドゥーギン自身も自分のアイディアが「ウィルス」のように広がっていることを知っていた。この本は同じようなマニュアルや教科書に再録されており、それらのほとんどはマッキンダーやハウスホーファーをはじめとする理論に触れていた。

ロシアの書店には「地政学」のコーナーがつくられはじめ、ロシア連邦議会は「地政学委員会」をつくり、そこに極右のウラジーミル・ジリノフスキー(Vladimir Zhirinovsky)率いる「自由民主党」の代議士たちがあふれることになった。

影響力の大きなオリガルヒで、影のキングメーカーと言われたボリス・ベレゾフスキー(Boris Berezovsky)は、1998年にテレビの「今日の英雄」という番組に出演した時に、最後に「一言だけ言わせて欲しい。それはロシアの運命は地政学にあるということだ」と述べている。

ドゥーギンは地政学を「オープンソースのPCのソフトウェア」のようなものだと指摘している。彼がプログラムを書いて、それをみんながコピーしたからだ。

===

ドゥーギンについては『胎動する地政学』の最後の論文であるジョン・エリクソンのもので知っていた部分はあるわけですが、まさかロシア内でここまでベストセラーになって浸透しているとは思いませんでした。

ここで注意しなければならないのは、純粋なロシア人のナショナリズムと、ドゥーギンの標榜する「ユーラシア主義」というものを区別して考える必要があるということでしょうか。

そういう観点から、たしかにドゥーギンはロシアの右派という位置づけになるのかもしれませんが、権力に近い、いわゆる「官製ナショナリスト」であるとあるロシア専門家がおっしゃっておりました。

この論文ではそこまで明確に区別されているわけではないですが、これは非常に重要な点かと。つまりドゥーギンはナショナリストではなく、むしろ「帝国主義者」ということになるわけですね。

それにしても「ユーラシア主義」の究極の目標として、ドイツと日本との同盟が考えられているとは・・・。中国に対する言及がないのも気がかりです。


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(羽田上空から富士山)

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奥山真司のアメリカ通信LIVE

奥山真司のアメリカ通信LIVE
by masa_the_man | 2017-01-31 20:38 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部はまたしても朝から快晴です。寒さもだいぶピークになってきました。

さて、ロバート・カプランがまた地政学系の新刊を出版したようですが、それに関連したような記事を連発しております。

ドラマの番宣のためにバラエティーに出まくっている主演俳優みたいな位置づけでしょうか?いや違うか。

===

アメリカは海洋国家だ
By ロバート・カプラン

アメリカは2つの海洋に挟まれた海洋国家である。海軍が世界最大であるだけでなく、その沿岸警備隊も世界で12番目の規模を誇る海軍であると言える。

米海軍はアメリカの第一級の戦略ツールであり、おそらく使われることのない核兵力よりも、ツールとしての有用性ははるかに高い

米海軍は平時・戦時にかかわらず世界の公海におり、海上交通路や主な海洋のチョークポイントを守っている。これによって実質的に世界の自由貿易体制を守っており、アメリカの同盟国たちに原油などのアクセスを保証している

さらに米海軍は、内陸部への攻撃能力も担保している。すなわち、イラク、アフガニスタン、そしてコソボなどへの爆撃は、インド洋やアドリア海における艦船からも行われたということだ。

歴史的にみれば、アメリカのこのような立場は特殊なものだったわけでなく、アテナイ、ヴェニス、そして大英帝国などはすべて偉大な世界的海洋国家であった。これにオランダやポルトガルを加えてもいい。

海洋国家というのは、もちろん例外はあるが、一般的にドイツやロシアのようなランドパワー国家と比べて穏健的であったということは言える。地上部隊は侵攻のために使われるものだが、艦船は親善寄港したり貿易を促進したりするものだからだ。

また海軍は、陸軍のように外国の領土を占領しない。陸軍は予測不能の事態に備えることが求められるが、海軍(と空軍)は日毎に戦力投射を行っているのだ。

アメリカはベトナムやイラクで不必要な戦争を行ってしまったのかもしれないが、アメリカのパワーそのものは減少しておらず、この主な理由は海軍と空軍の規模の大きさのおかげである。他にも、米海軍はアメリカに、地域の紛争に関与させつつもトラブルの外に置くことができているのだ。

もしアメリカが海洋国家であることを認めることができれば、われわれは対外政策においても失策を少なくできるだろう。なぜなら海軍力は商業や自由貿易秩序の保護に主眼を置いたものであり、帝国主義的な獲得や国益を目指すものではないからだ。

だからこそ海軍というのは、あらゆる時にどこへでも展開できるのであり、それに対して海外に大規模な陸上部隊を展開するということは連邦議会での議論が必要となってくることが多い

米海軍はおよそ300隻の艦船を持っているが、この事実は重い。なぜならもしその数が200であったら世界はかなり異なる状態にあるはずだからだ。現状よりも暴力はもっと発生していて、無政府状態的なものであるはずだからだ。

東アジアの平和は、実質的にアメリカの第7艦隊が守っており、第5艦隊は、イランと湾岸諸国(サウジアラビアを含む)との戦争を防ぐ役割を果たしている

この300隻体制の米海軍は、その他の軍種と合わさることによって世界のどの国よりも強いパワーをアメリカに与えているのである。

ところがここで覚えておいておかなければならないのは、この「強力なパワー」も「圧倒的なパワー」というわけではないということだ。世界のほとんどの紛争や政情不安のほとんどは、この二つの概念の間で起こっているからだ。

たとえ600隻の海軍、さらには現有のものよりも遥かに大きい規模の海軍を持っていたとしても、中東にある国家の崩壊を防ぐことはできないかもしれないからだ。

言い換えれば、アメリカは自国の国益を守りつつ、自分ではコントロールできない世界をやり過ごすために備えなければならないのである。

これについてもう少し詳しく説明してみよう。

アメリカの世界への影響力は徐々に下がっていくだろうが、他の大国が同じようにする能力も時の経過とともに下がっていくはずだ。なぜなら中国、ロシア、そしてヨーロッパ内の経済状況は、アメリカそのものの経済問題よりも深刻だからである。したがって、われわれのパワーは世界で絶対的な量としては下がるのだが、相対的に他の主要国や同盟よりも高まるはずなのだ。

これらを踏まえて考えると、米海軍はアメリカの国家の「体力」を図るバロメーターとなる。艦船のような「海洋プラットフォーム」というのは恐ろしく高価なものであり、米海軍の規模の艦隊を維持する能力は、税金という形での国民からの支援や、GDPにおける健全な増加が必要になるからだ。

大規模な海軍は、その国がどのような国かを写す鏡である。中国、ロシア、そしてヨーロッパの経済面での構造的弱さを考慮に入れてみれば、彼らが長期的にも米海軍に追従できるかどうかは疑問なのだ。

最大の疑問は、短期的な脅威となっているロシアではなく、長期的な脅威である中国のほうだ。彼らは本当に経済改革を行うことができるだろうか?これについて私も答えようがない。

よって、米海軍の規模に注目しよう。それがアメリカの地政学的パワーの1つの指標であるのは確実だからだ。

===

あらためて「現代はまだシーパワーの時代の時代であり、それを主導するのはアメリカだ」という地政学的な主張ですね。

カプランは私が翻訳した『インド洋圏』から地政学の理論書を相当読み込み始めたようで、それまでの現地からのリポート記事を少なくする代わりに、それまでの体験を理論的にまとめて述べていたのが地政学関連の書籍だったことに気づき、そこから地政学にはまったそうです。

今回の新刊はどちらかといえば以前所属していたストラトフォーの人々、とりわけゼイハンをはじめとする人々の議論を援用したように見受けられますが、あらためてアメリカはシーパワーであることを確認しているという点では貴重です。


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(南の島)

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奥山真司のアメリカ通信LIVE

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by masa_the_man | 2017-01-26 17:24 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部もよく晴れて寒い一日でした。

さて、昨晩触れて好評だった記事の要約です。ここでの知見はかなり応用の効くものですね。

===

偽善の最大の問題点
By ジュリアン・ジョーダンほか

偽善の最大の問題点はどこにあるのか。

誰かが人の行動を咎めている時に、その人自身がそれと全く行動をとっていることがわかると、なぜわれわれは腹立たしく感じるのであろうか?

もちろんその答えは自明のことのように思える。自分の説くことを実践しなかったり、自分の理想とする行動を行うだけの意志の力が欠如すること、そして自らが悪いと明らかに知っている行動をあえて行うということは、明らかに道徳面での失敗だからだ。

ところがわれわれがある専門誌(Psychological Science)で発表した最新の研究によれば、それには別の理由があることがわかった。

われわれが主張したいのは、偽善が嫌われる理由は、歯に衣着せぬ形で道徳を説く人々が自らの善を不当に示していると見られるからだ。

これを言い換えれば、人間は意志の失敗や性格の弱さに反対するのではなく、誤った含意に対して反対するということだ。

たとえばあなたの会社の同僚に、環境保護活動家のような人物がいたとしよう。彼は誰かれ構わずに、オフィスを使っていない時には電気を消すように言って回ったり、リサイクルできるものは資源回収の箱に入れるように口うるさく言い回るような人物だ。文書を両面印刷ではなく、片面印刷にした場合にも抗議する。

もちろん彼の態度は高飛車ではあるが、それでもあなたは彼の提唱していることには同意せざるを得ないのだ。

ところがある日、あなたはこの人物が会社で言いまわっていることを自宅で何もできていなかったと知ってしまう。彼はまさに「偽善者」であろう。

そうなると、あなたの中で彼の尊敬すべき「活動」は、道徳的に無効なものとなる。実際のところ、彼の活動はその「偽善性」のおかげで、ポジティブなものというよりもネガティブなものとなってしまうのだ。

つまり「自分自身では何もやらないくせに、他人に向かってよく堂々と電気を消すように言えるな!」ということだ。

このような偽善に対する嫌悪感というのは、人間の感情的にきわめて自然に発生するものであるが、冷静に考えてみれば、そこには心理学的な謎があることに気づくだろう。

なぜなら、あなたが環境保護(この場合は省エネ)を重要であると考えているのであれば、同僚がその正しい価値観を推進しているのは(たとえ彼が省エネしていなくても)歓迎すべきはずだからだ。

論理的な面から言えば、ある行動を非難したり、それに取り組んだりすることは「不誠実」だとは言えない。ではなぜ自分が批判していることを自分がやってしまっている場合には、その受け取られるイメージが悪くなるのであろうか?

われわれの主張は、あなたの同僚に対する嫌悪感は完全に論理的なものであり、偽善者が行う最大の侮辱は、彼自身が自らの信条に反することを行っていること(例:ブーメラン)ではなく、むしろ彼の道徳的な宣言の使用が「私は道徳面での正しい行動をしている」という誤った信号を発している点にある。

これは道徳面からの非難というものを、他人を非難するためのツールではなく、「自らの評判を高めるためのもの」と捉えてみれば納得がいく。

ある一連の実験で、このような考え方を支持するような研究結果が出た。つまり人間は、誰かの規範的な宣言(たとえば「エネルギーの無駄遣いは道徳的に誤っている」など)を、それを発した人物も自ら行っているはずだと捉える傾向がある、ということだ。

その証拠に、われわれの研究結果によれば、ただ単に「私はエネルギーを無駄使いしていません」と発言する人よりも「エネルギーの無駄使いは道徳的に間違っている」と発言する人物のほうが、実際にエネルギーの無駄使いをしていないはずだ、と信じられる傾向があることがわかっている。

道徳的な非難というのは、とりわけ強力な「行動のシグナル」として働くのであり、その本人が直接的に述べた行動よりも強力なのだ。

このような道徳的批判の構造がわかると、人々がなぜ「偽善者に騙された」と感じるのかがわかる。われわれの今回の別の研究でも、人々は偽善者のことを不誠実であり、しかもこれは正面からウソを述べている人よりも不誠実であると感じることがわかっている。

とくに注目すべきなのは、偽善者というのは、オープンにウソをついている人物(たとえば「絶対にエネルギーを無駄使いしたことがない」と断言した人物など)よりも信頼性が低く、好感度が低く、道徳心のない人間であると評価されやすいという点だ。

われわれの理論をさらに検証すべく、われわれは被験者たちに「非発信偽善者」(non-signaling hypocrites)についてどのように感じるのかを聞いてみた。これは、外では道徳的な行為に取り組むよう提唱しながら、個人的な行為については道徳的な面を何も示唆しないというものだ。

たとえばこれは「私はエネルギーを無駄使いするのは道徳的に間違っていると考えますが、自分ではこれを守れないことがあるんですよね」と述べるようなものだ。

この実験の結果、われわれは人々がこのような「非発信偽善者」を、従来の偽善者よりもはるかにポジティブにとらえるということがわかった。

実際のところ、被験者たちはこの「非発信偽善者」を完全に大目に見ることにしており、同じ程度のエネルギーを浪費しつつも他人も責めない人、と同じくらいの評価をつけるのだ。

一見すると奇妙とも思えるこれらの実験結果、つまり「偽善者でありながら誤りを認めれば評判を上げる」というものであるが、これはわれわれの「偽善者が嫌われる最大の理由は、それが誤った信号を送っていることにもある」という理論を認証するものである。

これらを踏まえて、われわれの研究は、なぜその同僚の偽善が、たとえ人々にエネルギーの浪費を抑えるように進めるを抑えるものであり、環境的にはポジティブな影響を持つものであったとしてもイラつくものであるのかを明らかにしている。

これは単に、彼が自ら説くことを実践できていないということではないし、自分で間違ったことをしておきながら他人の同じ行動を批判するということでもない。

むしろこれは、彼の歯に衣着せぬ道徳論が、彼自身の「善行」をあやまって発信し、不適切な評判上の利益につながるからだ。そしてこれは、彼が公的な場で非難する個人たちの犠牲のもとに積み上げられるものだからだ。

結局のところ、われわれは単に「この理想を自分でも実現できいませんよ」と認めておけば、はるかにマシなのだ。

===

このようなことはわれわれも感覚的にはわかっていたことですが、こうして実験で証明していくというのは学問の面白さでもあります。

ただしこの「偽善」に対する嫌悪感に関しては、普段の生活だけでなく、国内から国外まで、あらゆる「政治」には本当によく見られる現象ですよね。

この内容を一言でいえば、批判すると批判した人自身の行為がバレなければ評価は上がりますが、裏でやっていることがバレると「偽善者」としてダメージが大きくなる、ということです。

これは批判する人は相当の覚悟がなければ批判するのはリスクがある、ということになるわけですが、このようなメカニズムは、新約聖書のヨハネによる福音書にも出てくる「罪のないものだけ石を投げよ」というあのエピソードにもつながりますね。

逆にいえば、本当に批判されるべき部分がなければ堂々と批判し、批判する時は自分の非も認めながら批判すればいい、ということにもなりますな。

まあ墓穴を掘ることになるので、政治家はなかなかそう表明することができませんが。




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by masa_the_man | 2017-01-25 18:37 | 日記 | Comments(3)
今日の横浜北部は相変わらず晴れましたが、とりわけ真冬の寒さを感じました。

さて、久々にハーバード大学教授のスティーブン・ウォルトのブログから印象的な記事がありましたので、かなり短いバージョンとなりますが、その要約を。

===

バラク・オバマは対外政策の失敗そのものだ
by スティーブン・ウォルト

私が2009年にこのブログを書き始めた時はちょうどオバマ大統領の誕生の重なっていて、当時の雰囲気として私の中にも希望と恐れが同居しているような状態であった。

彼の態度は知的だったし、彼の政策には同意できるものがあったが、その対外政策の狙いがあまりにも野心的なもののように見えたからだ。

そして現在はオバマ政権の終わりにあるわけだが、私の感想について述べておく必要がある。結果として、私の判断としてはあまり好ましいものではないと言わざるを得ないのが残念だ。

まずボジティブなところから述べてみよう。彼が政権を担った当初、なんといっても大恐慌並みの世界金融危機に入っており、失業率がアップし、数百万人のアメリカ人が家を失っていた。

二つの勝利なき戦争を行っていたし、オサマ・ビンラディンはまだ逃げており、世界におけるアメリカのイメージは最悪であった。

ところがそこから何が起こったのかといえば、アメリカの経済は復活して失業率はほぼ解消され、2千万人のアメリカ人は新たに健康保険を得ることができ、ゲイの人々は合法的に結婚できるようになったのである。しかもこのようなことを、彼は共和党の強烈な反対の中でやりとげることができたのだ。

対外政策の分野でも、イランと核合意をし、ビン・ラディンを捕らえ、パリ協定にサインし、キューバとの国交を回復した。国内的にも大統領としての立派な人物としての務めを果たしており、これは新たに政権に入ってくるトランプ氏とは対照的だ。

ところがオバマ政権はとりわけ対外政策の分野では悲劇的であった。彼は「リベラル・ヘゲモニー」という失敗した対外政策を変えるチャンスがあったにもかかわらず、そこから抜け出すことができなかった。そしてこれがトランプを生み出す結果にもつながったのである。

第一が2009年に行ったアフガニスタンに対する「サージ」(増派)である。これは始めから失敗することが目にみえていたものであるが、実際に実行してやはり失敗した。彼はブッシュ政権から引き継いだ「テロとの戦争」をさらに拡大してしまい、これをトランプ政権も引き継ぐことになってしまった。

第二が、「アラブの春」を読み間違えて、誤った対策をしてしまったことだ。彼らは始めからこれを「草の根」による民主制度を求めた運動だと勘違いしてしまい、その初期から誤った支援を表明してしまったのだ。これがリビアやイエメンへの介入やつながり、シリアではアサド排除に動くことになったのである。シリアに深入りしなかった点は評価できるが、そのプロセスは成功であるとはいいがたい。

第三が、中東和平プロセスについて「パレスチナ独立」を目指しつつも、いつものように失敗してしまったということだ。これはオバマ政権がこれまで失敗してきた親イスラエルのアドバイザーを雇ってしまったことで目に見えていたことだ。イスラエルに対して厳しい態度がとれないオバマ大統領が解決できるわけがなかったのである。

第四が、ロシアとの関係悪化である。政権初期の「リセット」はたしかに合理的ではあったが、自分たちの推進する東欧やロシア国内での民主化がモスクワ政府にとってどれほど警戒されるのかを想像することができなかった。プーチンのクリミア獲得についても予測できなかった。

第五が、アジアにおける「リバランス」の失敗である。これを宣言すること自体は間違っていないのだが、その優先順位を明確にできず、その優位をどんどん中国に明け渡して失っていってしまった。中国の主導するAIIBに参加しなかったのも(同盟国であるイスラエルや英国が参加したがっていたにもかかわらず)失敗であろう。

これらの失敗の理由は2つある。1つは彼の対外政策を実現する人々が基本的に「リベラルの十字軍」であり、アメリカの「グローバルなリーダー」的なポジションを守ることに血道をあげるような人物たちばかりであったことだ。しかも彼はアメリカの国益が何かを明確に説明せずに、安価にグローバルな問題を解決しようとしたのである。

彼が対外政策でどれを優先すべきかを明確に決断できなかったという点は、その政権最後まで続いたのである。

第2の理由は、これは国内外にかかわらず、オバマ大統領自身が敵の合理性というものを過信していたことだ。彼は考えの違う人間同士でも協力し合えるものだと信じていたようで、互いに議論したり意思疎通することによって協力してもらえると考えていたのである。

ところがネタニヤフ首相やプーチン大統領らの考えはアメリカ人の考えていることとは劇的に違う。結果的に彼らの同意は得られなかったわけだが、オバマ自身はとりわけ国内の相手が「アメリカの成功」よりも「オバマ・民主党の失敗」を狙っている人物であったことを見抜けなかったのである。

もちろんオバマ大統領は知性にあふれた規律のある、愛国的で尊敬すべき人間である。彼の人気の高さは意識調査における支持率の高さからでもうかがい知ることができる。

ところが彼の対外政策の成績は、ほぼ落第と言ってもいい。世界の状況やアメリカの立場も、彼が政権をとった時点から良くなっているとはいえないのだ。

アフガニスタンとイラクはすでに始まっていたので彼のせいではないかもしれないが、それでも彼の決断はそれを悪化させることには貢献している。

ところがトランプ政権になってさらに悪化するようなことになると、数々の失敗はありながらも、オバマ政権は懐かしがられるようになるのかもしれない。

====

なかなか手厳しいですが、リーマン・ショックから立て直したという点だけはもっと評価されてもいいでしょう。

ただしあらためてこうしてみると、期待はずれだった部分はどうしようもないですね。
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by masa_the_man | 2017-01-23 23:59 | 日記 | Comments(1)
今日の横浜北部はかなりの冷え込みながらも快晴でした。

さて、久々に本の紹介を。
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原題をそのままいえば「太い棍棒:ソフトパワーの限界と軍事力の必要性」ということになるでしょうか。

原著者は日本でも主張である「戦争と政治とリーダーシップ」が出ているために、ごく一部では有名な人物ですが、ジョンズ・ホプキンズ大学の教授であり、ブッシュ政権などで実務経験のある共和党系のネオコン派の学者であります。

実は今回の共和党政権にもトランプ候補でなければ政権入りが確実視されておりましたが、すでにかなり以前から反トランプの急先鋒であったために今回はあえなく「落選」してしまったという事情があります。

その内容ですが、簡単にいえば「軍事力というハードパワーの効力を忘れちゃだめだぞ」というもの。

だからこそタイトルはセオドア・ルーズヴェルトの「ソフトに語り、太い棍棒をもって」という有名な言葉から取られているわけですが、著者のコーエンが主張したいのは、アメリカが世界をリードする上で最も重要となる軍事力の「賢明な使い方」。

まずコーエンは、アメリカが直面している問題が複雑性を増していると指摘します。これが彼らの議論の大前提。

その論拠として、彼はアメリカが戦争を中東で実際に戦闘を行なっているにもかかわらず、同時に欧州やアジアではロシアや中国に対して「抑止」を行わなければならず、しかも国民には過去の戦時の大統領が享受できた「戦争を戦っている」という国民間の緊張感や高揚感はありません。

そのような複雑な状況をより明確にするために、コーエンは現在のアメリカが軍事的解決を必要とするような問題として直面しているものとして4つの要因を挙げます。それを列挙しますと、

1、中国
2、イスラム系の動き
3、少数のヤバい国(イラン、北朝鮮、パキスタン)
4、宇宙&サイバー空間

となります。

そしてこれに対してアメリカがどのように対処していくべきなのか、最後にコーエンはアメリカが対外政策において守るべき6つのルールを披露して終えます。

全体的に言って、戦略論を知っている人間にすればとりわけ珍しいことを言っているわけでもなく、むしろ「軍事力を忘れるな」というごく当たり前の主張をしているだけとも言えるわけですが、クラウゼヴィッツや孫子などを使って議論をしているあたり、意外に新鮮な議論に感じる人も多いかもしれません。

個人的には中国を明確に「ナンバーワンの脅威」と明言している点や、戦略の相互作用的な部分を強調している点、さらにはかなり政策文書的な意味合いも濃いという部分が気になりました。

ただしそれ以上に面白いと思ったのは、彼がわざわざ本で主張しなければならないほどオバマ政権では軍事力の有用性が軽視されてきたと(彼のような共和党系の識者が)感じていたことを教えてくれるという点でしょうか。

残念ながら面白さという点では彼自身の主著にはかないませんが、新大統領就任というタイミングという意味では、アメリカの国防関係者たちの間ではそれなりに話題になるかと。

根本的な面としては、アメリカの戦略系の人々の考え方や、そのロジックの立て方を知る上では参考になりそうな良書です。
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by masa_the_man | 2017-01-21 23:58 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は久しぶりに曇った朝でして、午後は雪が降るかと思うほど寒かったですね。

さて、昨日から取り組んでいた長文の論文の要約です。著者は若手の日本研究者としても有名なAEIのマイケル・オースリンです。彼はトランプ政権に入るんでしょうか?

まさかこんな古典地政学バリバリの論文を書くとは思いませんでしたが。

====

アジアの地中海:戦略、地政学、そしてインド太平洋の海におけるリスク
by マイケル・オースリン

中国がパラセル諸島の中のウッディー島に最新の戦闘機と地対空ミサイルを配備したというニュースは、北京政府が南シナ海で実効支配している人工島を軍事化するのではないかという長年の懸念が正しかったことを証明した。

太平洋軍の司令官であるハリー・ハリス米海軍提督は、去年の二月に連邦議会の公聴会において中国が南シナ海を軍事化しており、この事実から目をそらすことは「地球が平らであると信じるのと同じです。私は中国が東アジアで覇権を追究していると考えております」と述べている。

アメリカ国内では、南シナ海における中国の動きにどのように対抗していけばいいのかという問題について、長い間議論が交わされている。

そのポジションについては、すでに認められている国際法を基盤とした法的な立場をとるものから、中国が主張する島や海域の周辺で米海軍の艦船の航行や航空機の上空通過を行う「航行の自由作戦」(無害通航という主張と対になっているが)を含む限定的な軍事行動を求めるものまで、さまざまなものがある。

中国が人工島を増加させ、もともと岩礁だったところを軍事施設につくりかえている間に、南シナ海では多国籍による海洋警戒活動を行う計画も議論されている。

ところが南シナ海で争われる権益だけに目を奪われてしまうと、東アジアの戦略環境についての大きな視点を失うことにもなりかねない。われわれはどうしても個別の地域の現象だけに注目しがちであり、たとえばスプラトリー諸島のことだけを分析していると、同海域にあるパラセル諸島について無視しまうことにつながるのだ。

また、オバマ政権が東シナ海における尖閣諸島をめぐる日中の衝突のリスクの高まりに集中していたのは、たった三年前のことなのだ。したがって、われわれは現状の変更を脅かすような事態が起こるたびに驚かされることになるのである。

われわれは、アジア太平洋地域全体という大きな地政戦略的概念からものごとをとらえるべきであろう。そしてそのためには、1940年代に一度だけ議論された概念を掘り出す必要があるかもしれない。

その概念とは、東アジアの「内海」(inner seas)、もしくはアジアの地中海」(the Asiatic Mediterranean)という統合された戦略空間を示すものだ。

この概念の有用性は、アメリカやその同盟国やパートナーたちが直面する地政学面での挑戦は、東アジアの公共的な海洋空間全体のコントロールをめぐる争いが高まりつつあることを明確に教えてくれる点にある。

もしこのようなアプローチが使えるのであれば、この地域に関する地政学的な考えの発展について簡潔に見ていく際に役に立つだろう。

▼地政学の理論

地政学は、ハルフォード・マッキンダーと、彼のよく引用されるが誤解されることも多い「ハートランド理論」から始まる。

マッキンダーの有名な1904年の論文である「歴史の地理的回転軸」(The geographical pivot of history)では、実は「ハートランド」というアイディアについては端的にしか議論されておらず、それは実質的にユーラシアの大草原のことを示し、ここの占有があらゆる世界帝国にとっての究極の目標であるというのだ。

マッキンダーはたしかに「ハートランドを制するものは世界を制する」と書いたのかもしれないが、本当に重要なのは、ハートランドの守りとアクセスを与える「リムランド」をめぐる争いを想定していたという点だ。

リムランドにはユーラシア大陸における「ヨーロッパ半島」とアジアの沿岸地域、そして中東などが含まれる。ウェス・ミッチェルとヤクブ・グリギエルが最近出した本の中でわれわれに示したように、プーチン率いるロシアと、中国が今日獲得しようとしているのは、リムランドであるように見えるのだ。

マッキンダーが最初に議論をしてから40年後の第二次世界大戦の絶頂期に、イエール大学の地政学的な思想家であるニコラス・ジョン・スパイクマン(Nicholas John Spykman)は、このマッキンダーのリムランドの考えを復活させ、20世紀のそれまでの大国間戦争の状況も加味した上で修正した。

死後の1944年に出版された『平和の地政学』(The Geography of the Peace)の中で、スパイクマンは世界覇権のための本当の争いはリムランド内で起こっているという考えを示している。

さらに重要なのは、彼がリムランドと島国家の沖合に接する「外周の半円弧」に接している「周辺海」、もしくは「内海」のコントロールの獲得がリムランドの支配の前提になると議論したことだ。

したがってスパイクマンによれば、世界大国にとって最も重要な水路は、ヨーロッパにおいては北海と地中海、中東ではペルシャ湾とインド洋西側の沿岸水域、そしてアジアでは東シナ海、南シナ海、そして黄海だというのだ。

スパイクマンの議論は、アルフレッド・セイヤー・マハンの「外洋のコントロールが海洋国家の最も偉大なゴールである」という主張に、新たな展開を加えたのである。

マハンのように広大な世界中の海洋ハイウェイに注目させる代わりに、スパイクマンは世界の人口の大多数が住み、生産力が最も集中し、貿易が最も活発に行われている地域に注目したのである。

1943年にフォーリン・アフェアーズ誌で発表した「球体世界と平和の獲得」(The Round World and the Winning of the Peace)という論文の中で、マッキンダー自身はすでに最初に示した立場を修正している。スパイクマンと同様に、マッキンダーはリムランドや「周辺海」の重要性を強調したのだ。

実際のところ、第二次世界大戦では、「大西洋の戦い」や「珊瑚海海戦」、そして「ミッドウェイの戦い」を除けば、そのほとんどがヨーロッパとアジアの「内海」で行われたのである。

もちろん「内海のコントロール」というのは、とりたてて新しい軍事的概念というわけではない

これはイギリス海軍が英仏海峡やフランス沿岸の水域でナポレオン側の艦船に対して行っていた十年以上にわたる戦いや、大日本帝国の海軍が中・露の艦隊の黄海におけるプレゼンスを減少させようとして1894年と1904年に戦い、それによって朝鮮半島と中国本土へアクセスを得たことの理由を説明してくれるものだ。

この二つの例がさらに示しているのは、内海のコントロール争いは、リムランドをめぐる、より大規模な争いの最初のステップであり、この海洋面での競争は陸での動きが始まったり、陸軍同士が決着をつける数年前から始まって続くことが多いということだ。

スパイクマンが自らの理論に当時最新の戦いを取り入れようとしたのは、空の領域であった。制空権の確立が軍事的に達成可能になったのは第二次大戦中からであり、バトル・オブ・ブリテンという激しい空中戦は、内海争いが空域に広がった一つの例だ。

実際のところ、1940年代の航空機は、技術面でまだ限界があったため、空中戦はそのほとんどが沿岸部やリムランドの地域に限定されていた。

ところがそこで目指される目標はいまでも変わっていない。それはリムランドへのアクセスを与えてくれる、海洋・空域のコントロールなのだ。

第二次世界大戦は、外洋・内海の制海権が戦略的に必須となった、最後の大戦争だ。そして第二次世界大戦後は、ソ連のブロックを除いて、アメリカが全世界の海洋やほとんどの空域を支配してきた。

ところが新たな時代には新たな地政学的概念が必要となり、結果的にスパイクマンの理論はサミュエル・ハンチントンによって修正された。それまでのユーラシアをめぐる争いはユーラシアの主要国同士の中で行われたのだが、いまや世界の軍事力のバランスは、別の半球に存在する国家に握られることになった。

つまり、地政学的コントロールの維持というアイディアは伝統的なモデルには当てはまらない可能性が出てきたのだ。

これに関して、ハンチントンは1954年に米海軍研究所の発行する「プロシーディングス」の中で発表した有名な論文の中で、一つの答えを出している。

「国家政策と大洋横断海軍」(National Policy and the Transoceanic Navy)という論文の中で、ハンチントンは米海軍の戦略を要約しつつ、現代においては米海軍のパワーは大洋横断的な範囲で投射されるのだが、その目的は変わっていないと主張している。

ハンチントンは第二次世界大戦後の海軍力が、リムランドにおける陸上での争いにだけ使えるものであると予見している(そしてこれは米空軍についても全く同じ主張を行うことができる)。

ハンチントンの議論は1950年のマッカーサーの仁川上陸作戦や、北ベトナムに対する空母を使ったアメリカの航空作戦、そして1991年の湾岸戦争における航空・着上陸作戦、そしてその10数年後のイラク戦争などの理由についても説明できるのだ。

つまり海軍力はもう制海権の獲得のためには使われなくなったのだが、その理由は、ソ連との潜水艦との競争という分野を除けば、やはりアメリカが海で圧倒的な力を獲得したからである。

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長いのでつづきは次のエントリーで。

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by masa_the_man | 2017-01-20 19:59 | 日記 | Comments(0)
つづきです。

▼中国と「アジアの地中海」

現在のわれわれは1945年から維持している「内海」のコントロールに対して最大の挑戦がつきつけられているのだが、その瞬間にも戦略的重要性について忘れつつある。

われわれは一つの問題が浮上してくると、それをその地域だけの別々の問題として扱い、短期的な戦術行動を行ってから、再び以前のような緩い無関心の状態に戻る。

ところがわれわれがここで大胆に認めなければならないのは、中国が第一次世界大戦のドイツや第二次世界大戦の時の日本のように外洋を求めて挑戦しているということだけでなく、アメリカが太平洋の外洋で支配的な合間に、アジアの周辺海や周辺空域を支配しようとしているという点だ。

この事実に気づくことができれば、われわれはこの地域における中国の軍事活動についての理解を深めることができるだけでなく、リスクに直面しているエリアを示すことができる。それは「アジアの地中海」(the Asiatic Mediterranean)である。

日本海、黄海、そして東・南シナ海によって構成される水域というのは、東アジアの国々の歴史、アイデンティティ、そして貿易にとって、まさにヨーロッパにとっての地中海のような決定的な位置づけにある。

もちろん「アジアの地中海」からインド洋をつなげて考えるのは地理的にはやや誇張したものであるが、その二つの海域をつなげる水路は世界で最も重要なものでありつづけている。たとえば「アジアの地中海」の水路では年間7万隻の船が通過し、世界の貿易の3割を占めるからだ。

世界の貿易ネットワークは、中国、日本、韓国、台湾、ベトナムなどをはじめとする国々にある無数の工場に依存しており、それらはまさに「アジアの地中海」の沿岸部に位置しているのだ。そしてこの水路は、海洋ユーラシアと西半球全体をつなぐ「ちょうつがい」となっている。

ここで再びスパイクマンの理論を援用すれば、「アジアの地中海をコントロールすればアジアをコントロールすることになる」のである。

中国によってわれわれが直面している問題は、二段階にわかれる。それは「アジアの地中海」における海洋の自由を脅かし、それによって究極的にはアジアの生産性や貿易能力を脅かすということだ。

またそれによって中国はアジアのリムランドや、マッキンダーが「外周の半円弧」と呼んだ地域に対する圧倒的な立場を有することになる。このアジアの地域には、日本、フィリピン、インドネシア、そしてオーストラリアが含まれることになる。

ここで覚えておかなければならないのは、このリムランドと「外周の半円弧」は、地理的に大陸、半島、そして列島など、複合的な形をとっているということだ。

日本は1930年代に朝鮮と台湾をコントロールしたが、これは中国への侵攻を助長し、これによってリムランドで大成功をおさめることにつながったが、中国のハートランドや道のない太平洋に拡大しようとした時に泥沼にはまることになった。

今日の中国は日本と東南アジアを脅かすような能力を獲得しつつあるが、そのパワーは本土からだけのものではなく、内海にある外部の基地からも投射できつつあるのだ。

このような観点からみると、2013年11月に北京政府が東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設置したことは、中国がアジアの周辺空域を支配するためのひとつの動きであると言える。

このような拡大的で統合的な戦略環境を「アジアの地中海」のような形で理解できなければ、中国の長期的な挑戦を完全に理解し、把握し、対処することができなくなるのだ。

▼その対策

ではこのような状況に対して、われわれは一体何をすべきなのだろうか?

第一に、われわれは「アジアの地中海」というアイディアを意識的に取り入れなければならない。この地中海は、北はカムチャッカ半島、南はマラッカ海峡まで広がり、しかもこの水域は互いにつながっていて、アジアの「やわらかい急所」である。

その次に、われわれの最終目標は、引き続き「アジアの地中海」の完全なコントロールにあり、その安定を保証することにあることを受け入れることだ。

このためにはいくつかの点で政策を変更すべき必要がある。

第一に、われわれの計画とオペレーションを、この空間全体をシームレスにカバーし、コントロールを維持することに向けるということだ。

第二次大戦時の連合国側は、地中海東部の喪失を許さず、あとの半分の西部をオープンな状態に保ったのである。その意味で、南シナ海と東シナ海を分裂させてはいけないのだ。

そのためには、たとえば平時の「航行の自由作戦」は地域全体を通じて行われなければならないし、同時に戦時計画においては機動可能な水域を同盟国側の兵力によって維持できるよう準備しなければならないのである。

第二に、平時と戦時の両方に備えた包括的なリスクの見積もりを出すためには、インテリジェンス、監視、そして偵察などの活動を再整理する必要がある。

第三に、米国防総省は同盟国や友好国たちと安定を維持するために協力し、そしてグレーゾーン事態やあからさまな戦闘状態での共同的な対処できるのかという点について、具体的に議論しはじめるべきである。これには共同警戒監視や非殺傷機器分野での合意、そしてインテリジェンスのさらなる共有などが含まれるだろう。

アメリカの太平洋司令部、太平洋艦隊、そして太平洋空軍は、この論文で提唱されている考えや計画の大きな変化をすでに大きく促しており、すでにこの地域の責任を担っている。

われわれの約束と権益の両方を守るという責務は、決して軽いものではない。ウlォルター・リップマンは1943年に出版した『アメリカの対外政策』(U.S. Foreign Policy: Shield of the Republic)の中で、海外でのコミットメントは国力とのバランスを考慮したものでなければならないと忠告している。

スパイクマンと同じように、リップマンは第二次世界大戦の絶頂期に、バランスの不均衡が戦争の直接的な原因であると書いている。

彼は1899年から1942年までの太平洋におけるアメリカの対外政策を痛烈に批判しており、その理由としてアメリカ自身が日本の台頭に対して、そのコミットメントと国力の間の不均衡に気づけなかったからだとしている。

ところが1945年以降の太平洋では、ソ連による限定的な挑戦があっただけで、深刻な脅威というものは存在しなかった。ほぼ50年前となるベトナム戦争(われわれがアジアのリムランドで現地勢力を支えた最後の例だ)以来、われわれのアジアでのコミットメントと国力の間がバランスがとれていることを確認しなければいけない初めての状況に直面している。

ハンチントンが「オフショア・バランシング」の原本的なものと呼べるようなものを書いていた時代とは違って、現在のわれわれには現地のコントロールに対する深刻な挑戦者がいる。

この挑戦者は、今日の時点では米軍全体を破壊するだけの能力はもっていないかもしれないが、それでも着実に力をつけつつある

さらに重要なのは、この挑戦者が「アジアの地中海」のコントロールを目標として定め、たとえば人工島を建造することを通じて、その地政学的なバランスを完全に変えてしまおうと行動しているということだ。

したがって、われわれはこの挑戦に対して二つの面で失敗するリスクを抱えている。一つは、この地域におけるわれわれのコミットメントとパワーを不均衡にしてしまうことであり、もう一つは、その問題の全体像や流れを認識できないことだ。

ワシントンでの中国の能力と意図に対する懸念はようやく高まりつつあるが、それはおそらく半無意識的な形でこれらの事実の認識に遅れたことにようやく気づいたからである。

政策担当者たちは、いまになってわれわれのパワーがそのコミットメントに合ったものではなく、とりわけそのコミットメントが、周辺海の将来的な安定や、どの単一勢力にもコントロールさせないようにすることだと正しく理解されているのかどうかを懸念しはじめている。

このような観点からみれば、われわれの同盟体制というのは皮肉なことに、周辺海のコントロールに比べれば二次的なものであることとなる。なぜならその海域のコントロールを失ってしまえば、われわれの同盟国に対するコミットメントの達成が、さらに困難かつ高価なものとなってしまうからだ。

本論文で提案された政策の実行は難しいだろう。ところがそれらは、もしわれわれがパワーと影響力の両方を現実的に維持しようと思うのであれば必須のこととなる。

「アジアの地中海」の一部を失えば、その他の地域の同盟国とパートナーたちはアメリカとの関係を見直すか、それとも中立を宣言するかもしれないし、自ら行動の自由を確保しようとするかもしれない。

地政学的に孤立したアメリカは、オペレーション的にも弱体化したアメリカのことを意味する。ある海域で排除されてしまうと、そこに再び戻ろうとする際に国富から多大な犠牲を支払うことにもなりかねない。

よって、望ましいのは「アジアの地中海」の全体性を保ちつつ、その安定を維持することだ。そうすることによってはじめて、致命的に重要なアジアのリムランドを紛争のない場所のままにしておくことができるのだ。

ベンジャミン・フランクリンの有名な言葉を言い換えてみると「アジアの地中海はまとまったままでなければならないのであり、もしそれができなければ確実に分裂するであろう」となる。

====

久しぶりに「古典地政学」の知見に直撃した論文ですね。

実はこの論文、一箇所間違いがある(スパイクマンとマッキンダーの混同)のですが、訳した時に修正しておきました。

個人的には「アジアの地中海」という概念がだいぶ拡大されている点が気になりますが、オースリンのような考えはすでにマッキンダーが「周辺海」という概念として提案していたとも言えますし、「ユーラシア・ブルーベルト」というアイディアにつながっているともいえます。

いずれにせよ「リムランドに接している海域が重要」というのは、シーパワー側からの視点としては欠かせないものですよね。

そういえばスパイクマンの主著が翻訳されたこともあるので、応用編とでもいえるこの論文がもっと読まれてもいいかと。

ちなみに私もこのような概念の数々をCDの中で講義しております。ご参考まで。


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by masa_the_man | 2017-01-19 19:30 | 日記 | Comments(2)
今日の横浜北部はまたしてもよく晴れました。寒さも一息?

さて、昨日の話のつづきとして、トランプ政権への移行チームが難題に直面していることを指摘した興味深い記事がありましたので、その要約を。

===

トランプはショーマンでありマネージャーではない:カオスに気をつけよ
by ドイル・マクマナス

1月20日の就任式に向かってトランプの政権移行チームからは色々な動きが報じられている。

次期大統領はわずかな数の閣僚しか指名しておらず、その何人かの候補者は今週から連邦議会の公聴会に参加しはじめている。

その合間にトランプ・タワーからは、ホワイトハウスで働くスタッフや、新たな主席補佐官となる共和党委員長のレインス・プリーバス、それにテレビのリアリティ番組の司会者であるオマロサ・マニゴールドまで、多くの人材登用のニュースが発表された。

ところがそこにはいくつかの危険信号が見えてくる。両党の実務経験者たちは、トランプ政権がカオスに確実に直面することを警告しているからだ。

政府機関のマネージメントについての研究では最も優れた専門家の一人である、ニューヨーク大学のポール・ライト教授によれば、

「トランプは官僚チームづくり関していえば、近代のどの大統領の政権よりもスケジュール的に遅れている。もちろん彼自身は就任式を無事に迎えることはできるだろうが、政権チームはオバマ政権の決まりごとをキャンセルすること以外はほとんど何もできない」

というのだ。

もちろんこの問題のそもそもの原因は、トップであるトランプ氏自身にある。次期大統領は、その仕事のスタイルとしては起業家やショーマン向きであり、大規模な組織のマネージャーのタイプではない

彼は最後に聞いたアドバイスを参考にしてものごとを決断することで知られており、政策発表はツィッター上で行い、しかもこれは周囲のアドバイザーにあらかじめ知らせない形で行われることが多い。しかも彼自身は組織のヒエラルキーに対して我慢できない性格だ。

先月行われたテクノロジー系企業のトップたちとの会合でも、

「私のスタッフに電話してくれたら、それは私に電話したことと同じですよ。そこに違いはありません。公式な指揮系統はないんです

と発言している。

ところがホワイトハウスというところでは、大統領の注意を促すような問題や危機などが溢れかえっており、これらによって常に長期戦略が脅かされるような事態が発生している。

通常の場合、このような問題の出入りを管理するのは首席補佐官の仕事であり、彼が大統領の会合のスケジュールや情報の流れをコントロールして、トップが優先順位の高い問題に対処できるようにするものだ。

トランプ氏の場合、これはプリーバス補佐官の仕事となる。プリーバス氏はウィスコンシン州の共和党委員から全米共和党委員長となり、その流れの中でトランプからの信任を勝ち取った人物である。

ところがプリーバス氏がそのすべてを管理できているとはいえない。なぜなら現在の移行チームのスタッフからは、その実態として三人がトップであるという証言が出ているからだ。その三人とは、プリーバス、政治戦略家のスティーブン・バノン、そしてコミュニケーション戦略家であるケリーアン・コンウェイである。

このような構造が、混乱を生み出さないわけがない。

トランプ氏の「トロイカ体制」はレーガン政権の時の優れたコンビネーションを想起させるものだ。この時も補佐官で有力な人間としては、ジェームス・ベイカー、マイケル・ディーヴァー、そしてエドウィン・ミーズという三人がいた。ところがホワイトハウスではベイカーが明らかにその三人の中で最も権力を握っていた

ただしトランプのチームにおけるプリーバス首席補佐官は、ベイカーのような立場にはない。

さらにややこしいのは、プリーバスとバノンは、時として敵対的な関係にあった勢力をそれぞれ代表して政権に参加してきているという事実だ。

プリーバスは共和党の下院議長であるポール・ライアンに近い存在であり、共和党の伝統保守のエスタブリッシュメントを代表する存在だ。

ところがバノンはメディア組織であるブレイトバートの元トップであり、過去には共和党のエスタブリッシュメントを「叩きつぶし」て、ライアンを下院議長の座から引き釣りおろしたいと発言したこともあるほどなのだ。

しかも次期大統領がどちらの勢力に沿った「トランプ主義」を採用するのかも明確ではない。選挙期間中に方針が明確にされることは一度もなかったからである。

ところが過去の政権は、これらをすべて明確にしてきたきた。

ブッシュ(息子)政権で首席補佐官を務めた経験のあるジョシュア・ボルテン氏は、「われわれは最優先の政策が何かについて不明確だったことはありません。450ページにわたる政策文書がすでにあったからです。ところが現在の移行チームはそこまで行ってませんね。これは懸念すべき事態です」と先月行ったインタビューの中で述べている。

たしかにここ数日間で任命の速度は加速しているものの、トランプチームはまだ過去の政権に比べて、スタッフ採用の面ではかなり遅れている

ライト教授は、「彼らは今週まで人事担当責任者を指名できていなかったわけです。ほとんどの政権は去年の7月か8月の時点でその人選を終えているものです。なんせ3,300人もの人間を任命しなければならないわけですから。時間がかかるのは当然ですよ」と指摘している。

トランプに任命された人々にはビジネス経験や選挙運動の経験、そして軍事経験のある人々はいるが、最高行政府の経験を持つ人は少数だ。

再びライト教授によれば「トランプ氏にはこのような官僚組織を管理した経験は決してありません。彼のビジネスのやり方はフラットであり、それでも機能していたわけです。ところが連邦政府というのは最もフラットではない組織であり、その階層は63層にもわかれているのです。彼の周辺には彼の政策を実行するための官僚組織を管理するやり方を深く身につけた人はいないのです」という。

もちろんトランプ氏はこれを驚くほど鮮やかにやってのける可能性はある。過去にもこのようなことをやったからだ。彼の選挙戦は、開始当初から過小評価されてきた。

ところがすべての新米大統領にとって、政権をとったばかりの時には混乱するのは常であり、その混乱の煙はすぐに充満してしまう

たとえばクリントンは、大統領になるまで地元のアーカンソー州の知事を一〇年以上務めた経験があったにもかかわらず、就任一年目は散々であった。

ホワイトハウスの補佐官たちはドワイト・アイゼンハワー大統領の言葉をよく引用する。彼は大統領になる以前に、欧州米軍を指揮した経験をもっている。

アイゼンハワーは「組織においては、無能な人間から天才を生み出すことはできないが、組織の混乱は容易に大災害につながりやすい」と書いている。

===

中心や秩序を失った組織は、その大小の差はあれども混乱しやすいということを指摘した記事ですが、迷惑なのはそれが中だけで収まらず、たとえば大国のような規模の大きい国家の場合は、その影響が外に出てくると周辺国にとっても大迷惑。

ましてや(好むと好まざるにかかわらず)世界の中心的な役割を果たしているところにこれですから、あまり良い予感はしませんね。

上の記事では「クリントン政権でも最初の一年は混乱」といってましたが、それ以上に気になるのは、トランプ政権の場合も確実にまず政権初期(およそ半年以内)に中国と接触事件的な事案を起こして右往左往する、ということかと。

ブッシュWの時はEP-3が中国軍機と接触して強制着陸し、数日間拘束された「海南島事件」、オバマ政権の時は音響測定艦「インペッカブル」が中国側の漁船などに進路妨害された事案などがありましたので。
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by masa_the_man | 2017-01-18 22:00 | 日記 | Comments(3)