戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


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カテゴリ:日記( 1100 )

今日の恵比寿は快晴で、この時期にしてはそれほど寒くないです。


さて、昨日の番組でも触れましたが、ファーウェイCFOの孟女史がカナダのバンクーバー国際空港で逮捕・拘束された後に、在カナダ中国大使がグローブ&メール紙に掲載した意見記事を要約しましたのでご覧ください。


===


2018-12/13

カナダは中国に対して法の精神を失ったのか?

By 廬沙野(LU SHAYE

在カナダ中国大使


アメリカの要請によってカナダが実行した、ファーウェイ社のCFOである孟晩舟女史の根拠なき勾留を受けて、カナダのメディアでは実に多くのコメントが出てきた。われわれは多くのカナダ国民が、義憤にかられてカナダ政府の不合理な行動を批判しているのを見て喜ばしく思っている。


ところが中にはカナダの行動を擁護する者もおり、ファーウェイは西洋諸国の国家安全保障に脅威となっていることや、カナダが独立した司法体制をもっていて、政府からの政治介入から完全に独立したものであるべきだと論じている。


ファーウェイは世界中の多くのパートナーたちとともに、素晴らしい評価を得ている企業だ。世界で展開する事業はそれぞれ現地の法や規制に厳格に則ったものであることを公的に何度も表明している。ところが「ファイブ・アイズ」に属する国々――アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、そしてカナダ――は、ファーウェイのことを、彼らの国家の安全を脅かす存在であると証拠なしで非難しているのだ。そのような推測をもとに、彼らは恐怖の種を撒き、国民たちに誤ったことを信じさせたのだ。


もしファーウェイの通信機器がセキュリティー上のリスクになるというのであれば、西側の会社の通信機器も同じようなセキュリティーのリスクを抱えていることになる。なぜなら彼らのものも、同じ科学とテクノロジーを使っているからだ


誰がその他の国々のセキュリティーにとっての最大脅威になっているかを知りたければ、アメリカの「プリズム計画」を調べてみればよい。中国のファーウェイを非難する人々は自分たちの姿を鏡でよく見るべきなのだ。


これは結局のところ、まだ多くの人々が古い「冷戦思考」を持ち続けており、中国――中国共産党に率いられている社会主義国家――のことを「異常な国」だと信じ込んでいる、という事実に行き着くことになる。彼らは中国が西洋諸国にあまりにも急速に追いついてしまい、経済だけでなく、科学やテクノロジーの面でもすぐに追い越すことを恐れているのだ。だからこそ彼らは中国企業を取り締り、国家の安全という名の下に中国の発展を妨害するのだ。


孟女史の拘束は単なる司法案件ではなく、アメリカがその権力を活かして政治的な観点から中国のハイテク企業に対して魔女狩りを行うための、あらかじめ計画していた政治的な行動なのだ。


ところが、アメリカのいわゆる「外まで広がる管轄権」というのは、国際法における基盤を何も持っていない。アメリカのあらゆる「弱い者いじめ」的な行動の最大の理由は、アメリカが自国の圧倒的な国力に頼りながら、他国に対して権力政治を追求しているからだ。


これについては、もしアメリカの企業が外国でこのような不公平な扱いを受けたらアメリカがどのように反応するのかを想像してみればおわかりいただけるはずだ。


カナダ側は孟女史を、カナダの法律にはまったく違反していないのにもかかわらず不合理な形で拘束したが、これは明らかに司法の独立ではなく誤審だ。中国は引き続き司法の独立を強調しているが、アメリカが非合理的な要求をしてきたときに、その独立性を主張できるだろうか?カナダは拘束するという判断を独立して行ったわけではなく、もしそうだとしたらそもそも孟女史を逮捕していなかったはずなのだ。


カナダ政府はアメリカへの国際的な義務を遂行しているだけだと主張したが、中国の一市民の合法的かつ正統な権利と利益を守るという国際的な義務を果たしたのであろうか?孟女史はバンクーバー国際空港で乗り換えをしただけなのに不当に逮捕されたのだ。


中国が孟女史の逮捕の報復として何人かを拘束していることを非難している人々は、まず最初にカナダ側がとった行動についてよく考えてみるべきだ。中国に対して二重規範でののしることは、恥ずべきことであると同時に偽善的でもある。


本紙(グローブ&メール)の読者の一人は「外国企業のリーダーの誘拐・監禁にわれわれの政府が加担していることに恥を感じる」と書いている。ここ数日間には多くのカナダ人が、中国大使館に電話してきたり、ネットに自分たちの意見を書くなかで、ファーウェイに対する不公平な扱い、とりわけ孟女史のカナダ政府による拘束に対して怒りを表明している。


中国国民はカナダに対して以前は好意的な印象をもっていたが、今回のカナダ政府の行動は、彼らの感情を傷つけたのだ。


===


カナダの大手メディアではかなりの衝撃をもって受け止められた意見記事です。


もちろんカナダに対してはここまで強く出てもOK、という判断が上層部であったのかもしれませんが、このような激しい書き方というのは、中国の国際的なイメージにとってはマイナスでしかないと思います。


このカナダの案件に対する北京政府の対応というのは、ノーベル賞の時のノルウェーやTHAADの時の韓国、そして尖閣案件の時の日本の時にも見かけたものですね。


とりあえず参考まで。

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(NEW113より)

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by masa_the_man | 2018-12-19 14:23 | 日記 | Comments(0)

今日の札幌市内は、極寒の雪景色でした。


さて、数日前のエントリーに引き続き、NHKのBSのドキュメンタリーである「静かなる“侵略”」について再び書こうと思ったのですが、今回は別のことを書きます。


それはなんといっても個人的に気になっている、ファーウェイのCFO、孟晩舟(メン・ワンジョウ)女史のカナダにおける逮捕・拘束案件についてです。


もちろん私がこれに注目するのは、彼女が拘束されているのが私の昔の留学先だった場所であり、彼女は私が何度も行き来したことのある地域に住居を構えている、という個人的な理由もあります。


ただしなんといってもこの一件のインパクトが大きかった理由は、私が翻訳してきた文献の中でも、とりわけ国際関係論の「リアリズム」と呼ばれる理論の正しさを証明しつつあるように見えるからです。


すでにご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、私は2007年に、ジョン・ミアシャイマーというシカゴ大学の名物教授が2001年に出版した『大国政治の悲劇』という本を3年半かかって翻訳出版したのを皮切りに、スティーブン・ウォルトの『米国世界戦略の核心』、クリストファー・レインの『幻想の平和』、そしてやや時代はさかのぼりますが、戦中の1944年に出版されたニコラス・スパイクマンの『平和の地政学』、そしてジャーナリストですがリアリズムの理論に理解の深い、ロバート・カプランの『地政学の逆襲』などを訳出・監訳してきました。


これらの本に一貫して共通しているのが、「これから中国は台頭して、アメリカと覇権争いをする」という認識でして、ミアシャイマーの場合は「テロとの戦争」がはじまった年、そしてスパイクマンなどは第二次大戦終結前年から国際政治のパワーゲームを論拠として中国の大国化を予測しておりまして、現在の状況を考えると、まさにそれらは「慧眼」というべきでしょう。


ではこのような「リアリズム系」の本を出版してきた人間として、自分が「日本人に知ってもらいたい!」という考えで翻訳してきた本の正しさが証明されてきたことを喜ばしいと思っているかというと、実際はそうではありません。


なぜならリアリズムの理論の通りに物事が展開されていく様子を見るのは、どうも気持ち良いものではないからです。


その気持ち悪さを実感させてくれるのが、今回のファーウェイCFO逮捕拘束案件に関するカナダ政府の一連の対応と、それを報じるCBC(イギリスのBBC、オーストラリアのABC、そして日本のNHKのような、カナダの公共放送)の、夜のニュース番組の中の一幕です。




この番組では、普通のニュース報道が終わったあとに、今回のファーウェイ案件におけるカナダ政府の対応などについて、CBC以外のメディアの政治担当の記者3人をコメンテーターに迎えて鼎談するという、およそ10分あまりのコーナーがあったわけですが、ここでの3人の下した結論が、


カナダは米中の間に挟まれて事態を進展させられない


という、実に悲哀に満ちたものだったのです。


もちろんカナダは、アメリカとはNATOだけでなくNORADという北米大陸を守るための強固な同盟関係を持っているわけですが、経済的には近年中国との結びつきがますます強くなっており、アメリカとの「法の支配」のような民主的な価値観を共有していなくても、経済的には今後も中国に依存して関係を維持していかざるをえないというジレンマに陥っております。


つまり「安全保障は米国」、「経済(成長)は中国」という板挟みでして、これは日本にもある程度は当てはまる構図です。


普通の日本の感覚から見れば、カナダはアメリカと民主制国家同士で結びつきが強いので、早く孟女史を米国に引き渡してしまえばよいと思うところですが、実際に彼女が逮捕・拘束されてからカナダ側の報道を見て私が驚いたのは、中国側に配慮した弱気の姿勢、というか戸惑いでした。


実のところ、カナダのメディアでも「中国も怖いから刺激しないようにしよう」という意見がかなり見られたのです。


このような姿勢は日本のネット界隈では非常に不評ですが、当のカナダにしてみれば、そもそも米中が衝突するのは大迷惑でありまして、最悪なのはおそらく中国当局が(本稿を執筆している現時点では)2人のカナダ人を拘束し、行方不明であるという点です。


もちろんカナダ政府も本音では中国に実力的な対抗したいのでしょうが、実際にできることと言えば、フリーランド外相がここ数日の記者会見などの席で述べているように、


アメリカから政治的な圧力ではなく、カナダ司法の手続きとアメリカへ引き渡し協定という純粋な司法上のプロセスです


と強調して繰り返すことだけ。


カナダは、国土こそ中国よりも大きい(ロシアに次いで世界第2位)ですが、経済や人口、軍事力の規模など、国力(パワー)では中国にはまったくかなわない状態です。


そのような彼らが、今回のような「自国民の拘束」という事態に実際に直面して、「法の支配」など眼中にない中国に対して何ができるかというと、「外交チャンネルを使って働きかけをしてます」「法の支配です」「政治ではなく手続き上の問題です」と訴え続けることくらい。


つまり中国側にされるがままでありまして、上記のようなメディア関係者たち3人の「カナダは米中の間に挟まれて事態を進展させられない」という悲観的な結論につながるわけです。


ここで参考になるのが、リアリズムの理論書などよく引き合いにだされる、ツキュディデスの『戦史』に出てくる「メロス島民の対話」というエピソードです。


これは当時の強国であるアテナイの使節が、ライバルのスパルタに対抗する上で、まず弱小国であったメロス島の島民たちに「俺たちにつくか、それとも敵であるスパルタ側につくか」と迫った時の対話を再現して記したものです。


メロス島はどちら側につくでもなく「中立状態のまま平和を維持したい」と願ったわけですが、アテナイ側に聞き入れてもらえず、最終的に交渉決裂でから後にアテナイ軍に包囲されて島民のほとんどが虐殺されてしまいます。


この虐殺前の交渉の時にかわされた有名な言葉が、アテナイの使節が語った「強者と弱者の間では、強きがいかに大をなし得、弱きがいかに小なる譲歩をもって脱し得るか、その可能性しか問題になり得ないのだ」というものであり、簡単にいえば「強いものには従うしか選択肢はない」ということ。


これはまさにリアリズムが発動した世界で発生しやすい「弱小国の悲劇」を教えるものですが、現在の中加関係ではこのリアリズムでよく引用されるエピソードの「メロス島の島民」の状態が、まさに実現しようとしております。


ただし私が考えているのは、中国がアメリカとの直接対決を避けながら、あくまでもカナダに対してはさらに猛烈に政治戦を仕掛けてくるというものです。


これはグリギエル&ミッチェルという学者たちが数年前から提唱している、いわゆる「探り」(probing)というものでして、彼らはアメリカの潜在的なライバルで、リムランドの同盟国たちに接しているロシア・中国・イランは、まだパワーが強力なアメリカとは直接的な対決は避けながら、あくまでもその同盟国たちをいじめ抜く作戦に出てくると論じております。


この点において、カナダはリムランドに属しているわけではありませんが、それでも「アメリカの弱い同盟国」として攻撃しやすい対象であることは間違いありません。


結果として、中国はアメリカが直接的に動くまで、カナダに対してさらなる嫌がらせを徹底してくるでしょうし、まだまだ「人質」として中国国内で失踪するカナダ人の数は増えるはずです。


そしてそれに対して、カナダは孟女史に対して、黙々と司法手続きを進めることしかできないのです。


繰り返しますが、これから世界ではリアリズムで説明できるようなゼロサム的な政治争いの現象が、とくに米中間を中心に起こってきます。


もちろん世界の文明が「中華圏」と「民主政国家」にスッキリわかれて戦うような状況も願いたいところですが、中国が世界的によほど目に余ることをしないかぎり、ナポレオンに対抗するために七回にわたって結成された「対仏大同盟」に比するような「反中同盟」の結成までには、まだまだ時間はかかるでしょう。




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by masa_the_man | 2018-12-14 23:19 | 日記 | Comments(1)

「世界観」の違い

今朝の横浜北部は雲が多めですがなんとか晴れそうです。

さて、先日の番組でも少し触れましたが、NHKのBS1で放送された「静かなる“侵略”〜中国新移民に揺れるオーストラリア」は、最近見たテレビ(!)の番組の中でも、個人的にインパクトの大きいものでした。

もちろんその理由の一つは、私が取材に行ったハミルトン教授の本をベースにしており、そこからさらに踏み込んで、教授自身のインタビューだけでなく、本には出てこなかったタスマニアの現地取材を長期にわたって行っていたことなどでしょう。やはり資金力のあるところは違いますね。

ただし私が今回の番組を見てあらため感じたのは、国際政治だけでなく、あらゆる人間社会の中で重要なのは、やはり「価値観」(value)の部分にあるということでした。

たとえばこのNHKの番組ではあまり深掘りして語られませんでしたが、ネタ元となったSilent Invasionが問題提起し、その後にオーストラリアで中国系の新移民たちに対する警戒感が広まっているのは、彼らが持ち込む価値観、その背後の北京が推し進めている、自由主義陣営とは異なる思想や生き方、倫理観などの違いがベースにある、という点でしょうか。

これを「文化」と言ってもいいですし、英語圏では"way of life"などとも言われますが、これは要するに「戦略の階層」で言うところの、一番上の「世界観」の話です。

もちろんNHKの番組の場合は、単純に「違う肌の色をした人間がわれわれをコントロールしている」という人種差別的な要素もないとは言い切れないでしょうが、それ以上に重要だと思うのは、やはり新移民たちが持ち込む「自分たちとは違う(政治的)価値観」という要素が生み出している軋轢です。

本稿をお読みの方は、私が以前から戦略文化の話をしていることをご存知かもしれませんが、このような価値観に関する話は、戦略学の世界でも一つの大きなテーマになっておりまして、私はとりわけ戦争に使われるテクノロジーの面で、興味深い事例が取り上げて議論されている点が気になっております。

われわれは一般的に「テクノロジー」というと、それは世界共通のもので、国や文化を越えて誰でも共通に使えるものという一般的なイメージをぼんやりと感じておりますが、このテクノロジーの使われ方というものには、如実にそれを使う人や国の文化や世界観、つまり価値観の違いというものがあらわれてきます。

その中で私が興味深いと感じている一例が、精密誘導技術に関することです。

ご存知の通り、初期の精密誘導兵器というのは第二次大戦の頃からありますが、本格的に運用されはじめたのはアメリカのベトナム戦争の頃からで、後にGPSの登場によって湾岸戦争では精度が飛躍的に上がったわけですが、この開発が積極的に進められた要因の一つには「人道的な配慮」というものがありました。

この「人道的」とは、敵を無差別に破壊する際に発生する、いわゆる「副次的な被害」(コラテラル・ダメージ)を最小限に抑えたい、そして精密誘導兵器でこの被害を抑えられれば、ミサイルによる爆撃も単なる殺戮ではなく、「悪いやつだけ」を取り除くという、いわば外科手術的なものにできるという思惑が、米軍や米政府側にあったわけです。

いいかえれば、このような精密誘導兵器の開発というのは、アメリカという国家の(リベラルな?)価値観、つまり「世界観」が反映されたものとも言えるわけです。

ところが同じ精密誘導兵器というテクノロジーでも、使用者が変われば、その使用者の「世界観」が劇的に反映されることがあります。

その典型的な例がシリアに介入しているロシアでして、彼らはアメリカと同じような精密誘導兵器を使って、なんと病院を空爆しているのです。

ようするにアメリカが「人道的」な目的で精密誘導兵器を使って被害を最小限に抑えようとしているのに対して、ロシアは「非人道的」な大量殺戮を狙って、同じテクノロジーを活用しているわけです。

「テクノロジー」は、私が提唱する「戦略の階層」では最下層に位置づけられておりますが、その他の階層と同じように、最上階にある「世界観」の影響を受けております。

そしてこの「世界観」ですが、外側からは見えにくい「ソフトウェア」的なものですから、そのインパクトは本当に実感されるまで見過ごされることが多いように思われます。

まとめますが、今回のNHKのドキュメンタリーで扱われていたトピックの背後には、この「世界観」を含む、オーストラリアと中国の「価値観」の違いというものが背景にあるのは間違いないのですが、そこまで踏み込むのを求めるのは、たった一時間弱のドキュメンタリーにはやはり無理なのでしょうか?

現在のファーウェイのCFOの逮捕の案件などもそうですが、われわれは表面的な「技術競争」ではなく、もっとその背後にある「価値観の対立」にまで敏感にならないといけないとあらためて感じます。


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(ハドソン研究所)


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by masa_the_man | 2018-12-07 11:08 | 日記 | Comments(0)
今朝の横浜北部はやや曇っていて寒いですが、雨が降ることはなさそうです。

さて、ここ何回かにわたって触れている「作戦実行メンタリティ」について、くどいようですがもう一度語ってみたいと思います。

今回の来日でルトワックが、防衛省の進めるイージス・アショアの呑気な配備計画について批判をしていたことはすでに触れた通りですが、それ以外にも私があらためてこのような「作戦実行メンタリティ」について考えさせられたことが一つあります。

それは、現在準備中の監訳本の中にあった記述です。

まだ詳しくは言えないのですが、次に出す本の内容を簡単にいえば「アメリカは同盟国の重要性を認めよ」というものです。

この本が最初に出たのは前回の大統領選挙の直前の2016年なのですが、この中で主張されているメッセージは、現在のトランプ政権にはまさにうってつけの内容ではないでしょうか?

実に興味深いのは、この本の結論部分で「作戦実行メンタリティ」に大きく関係することが書かれている点です。

具体的には、アメリカ自身が同盟国に対する安全保障面でのサポートを充実させることの次に重要なのが、同盟国が抱えがちないくつかのリスクに気をつけろ、と記されている点です。

ではその「リスク」は何かというと「同盟国がアメリカのマネをして、”フルスペクトラム”な装備を求めてしまう」というものです。

ようするに、同盟国が資金的な余裕もないのに、世界ナンバーワンの軍事超大国であるアメリカのような「全方位万能」な装備を整えようとしてしまい、そのおかげで各分野でろくな装備を整えることができない、ということです。

同盟国にそうさせてしまう理由はいくつかあるわけですが、その本の中で指摘されている最も興味深い要因は、「最も成功しているアメリカの能力とその考え方をそのまま輸入したほうが気楽だ」という、まさに作戦実行メンタリティーから大きく外れたものです。

いいかえれば、「アメリカが持っているから日本も」という考え方です。

これは自分の置かれた戦略環境というものを考えず、身の丈を知らずに安易にものごとを決定しているわけで、たしかに気楽で頭をつかわずに済む点ではいいかもしれませんが、実際は安全保障に関する政策面における考えの「真剣さ」が欠けていることがよくわかります。

この他に、この本にある注目すべき点が、アメリカが同盟国たちに対して軍事面で求めるべきものに「防壁」と「反乱」という2つがあるという興味深い指摘です。

まず「防壁」ですが、これはまさに現在の日本が行っているような、主に相手が攻撃してくることを阻止することを意識した「抑止力」となる軍事力や態勢の構築がからむものであり、イージス・アショアのようなミサイル防衛システムなどはこの典型ですね。

ところがもう一つの「反乱」は、政治的にはかなり受け入れがたいものです。

なぜならこれは、同盟国が侵攻されたあとに、占領軍に対して反乱(ゲリラ)戦を行い、既成事実化をする前に撤退させることを狙ったものだからです。

つまり一度占領されることを前提とした戦いに備えよ、ということですね。

これは日本では「竹ヤリか!」となって大きな批判を受けること必至ですが、大きく状況は違えど、バルト三国などではロシアの侵攻に備えて、この「反乱」的な準備が進められております。

日本は島国ですし、防衛面では最新鋭の「無駄な」イージス・アショアに備えるだけの余裕がまだあるのかもしれません。だからこそこのような真剣な防衛策に本気で取り組んでいないわけであり、そもそもそれが必要ないと考えられているのでしょう。

ただし、それで本当にいいのでしょうか?

戦略には「相手」がいます。そしてわれわれはこの「相手」に対して、「日本の領土を占領したらまずいことになる」と本気で考えさせるような対策や行動をしているでしょうか?

この作戦実行メンタリティについては、今後もまだまだ書いていきたいと思います。


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(地下鉄ユニオン駅)

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by masa_the_man | 2018-11-24 14:02 | 日記 | Comments(0)
今朝の恵比寿は晴れてて涼しく快適です。

さて、前回の話の続きを。

「新たな冷戦」に備えて日本は文化的にルトワックのいう「作戦実行メンタリティ」というものを獲得できるのかという話でしたが、そこまで書いて、私はそもそも大事なことを書き忘れていたことを指摘されました。

それは、「作戦実行メンタリティ」とはそもそもなんぞや、ということです。

この大事な概念ですが、文春新書のルトワック三部作では、形を変えながら通奏低音のように何度も出てくるものなので、「日本4.0」で出てきても雰囲気的にはわかったような気になりますが、やはり担当した訳者としては、この概念をここで明確にしておく必要があるでしょう。

今回の訪米も含めて、私が受け取った彼の言う「作戦実行メンタリティ」ですが、現在私は大きくわけて3つの特徴があると考えております。

まず一つ目の特徴が、「チープに行う」という点です。

これは彼の戦略アドバイスとしてはデビュー作の『クーデター入門』から一貫しておりまして、あらゆる軍事作戦では「最小の労力で最大の効果を上げることが大事だ」という、当然といえば当然の考えから来ております。

今回の『日本4.0』では、これが北朝鮮を空爆するための日本のF-15の改装の提案につながっておりまして、「イスラエルが30年前に自国のF-15を改装して地上攻撃型にできたので、日本もたくさん持っている空対空戦闘用のF-15を改造すべきだ」というアドバイスにつながっております。、

しかもこれには数年かけて多額な資金を投入する必要はなく、すでに国際的に流通している機材(増槽や空対地ミサイルなど)を購入して改造するだけで、短期間で安価に十分な能力を得られる、というのです。

逆にいえば、このようなインプロ的なことができない軍隊は、そのメンタリティとして非効率な官僚的な考えに毒されているいる、ということです。

このような指摘は、軍事組織としての肥大化を憂慮した『ペンタゴン:知られざる巨大機構の実体』という訳本の中でも繰り返し説かれているところでありまして、装備の性能の高さや調達面での公平性を厳格に求めすぎてしまうがゆえに、それに関わる余計なプロセスが膨れ上がってしまうことを問題視するわけです。

二つ目の特徴が「リスクを恐れない」ということです。

この例として、ルトワックはイスラエルのモサドの犯行といわれるイランの核科学者に対する暗殺作戦を、アメリカがバルカン半島介入で戦争犯罪人としてセルビア人のムラディッチを捕らえるのにリスクを恐れるあまりに失敗して中止した、「アンバーライト作戦」と対比して説明しております。

また、ルトワックは指摘しておりませんが、リスクを恐れない利便性という意味では、タイの警察が捜査などの連絡用にLINEを活用としていることなどもヒントになりそうです。ネットではLINEのセキュリティの脆弱性が指摘されて久しいですが、情報漏えいというリスクを恐れなければ、たしかにLINEグループのようなチャット機能は非常に利便性が高いわけです。

もちろん自衛隊は「ミルスペック」の要求や「情報保全」というリスクの観点から、LINEを部隊の活動に採用することはないでしょうが、利便性や効率性を最優先するという面では「スマホ使ってLINEで連絡」というのは、一つの大きなヒントとなります。

三つ目の特徴が、「すぐ実行する」です。

このメンタリティを示す良い題材としてルトワックが使うのが、2013年にフランスのオランド政権下で実行されたマリへの武力介入案件(セルヴァル作戦)です。この際にフランス軍は大統領に一言も文句を言わず、伝染病予防のためのワクチンを隊員に射たなければならないから待ってくれなどと言わずにすぐに実行しているわけですが、この即応性というものを評価しているわけです。

「いや、それは武力行使をいとわないフランスの話で、平和国家の日本では無理でしょう」

という反応は当然でしょうが、ここで逆にわれわれが考えなければならないのは、政治面を含めて、そのような実行の決断をできないことや、それに対処するための即応能力を持てていないリスクでもあります。

これだけテクノロジーの進歩や情勢変化の速い国際環境の中で、このようなメンタリティを持たないままで良いとは言い切れないところが、逆に日本の置かれた厳しさというものを感じさせてくれます。

果たして日本政府や自衛隊、さらには組織などに属するわれわれ日本人一般は、上記のような「最も利便性の高いことを余計なプロセスを経ずにリスクを恐れずにすぐ実行する」というメンタリティを持つことができるのでしょうか?

それともそれを持たずに「座して死を待つ」状態でいいのでしょうか。

日本のように「成熟した」組織文化を持った国や個人のレベルではなかなか難しいでしょうが、国際情勢が厳しいものとなりつつある時に、われわれにはこの国内の文化的な面を変えるべきか、変えてはいけないのか、それともはじめから変えられないのか、という問題としてますます問われてくるように思えてなりません。

そういう意味で、ルトワックの「作戦実行メンタリティ」という概念は、自衛隊だけではなく、これからものごとを成していくあらゆる人々にとって忘れてはならない有益なヒントをくれる概念であることは間違いないでしょう。

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(マハン・ホール)

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by masa_the_man | 2018-11-15 04:06 | 日記 | Comments(0)

作戦実行メンタリティー

今日のワシントンDCは曇って気温は低めでしたが過ごしやすい一日でした。

さて、本当に久々の更新となりましたが、遅れに遅れていたルトワック本の新刊の宣伝も兼ねて、最近感じたことについて書いてみたいと思います。

すでにご存知の方も多いと思いますが、ルトワックの『日本4.0』が大変好評をいただいておりまして、この分野では再びベストセラーとなっております。ありがたいことです。

その中でルトワック自身が繰り返し使っていた「作戦実行メンタリティー」(operational mentality)という言葉に気づいた方もいらっしゃるかと思います。

ルトワック自身は、日本が進めようとしている新たな「イージス・アショア」の話を聞いて思うところがあったようで、今回出演したBSフジのプライムニュースの中でも「完成までに10年もかかるイージス・アショアなど幻想でしかない」と手厳しいことを述べておりましたが、その理由は、日本政府や防衛省に「作戦実行メンタリティー」が欠けているからだとしておりました。

ではなぜ日本には「作戦実行メンタリティー」がないのかというと、当然ながら、それは長年にわたって実戦を経験していないからというのが最大の理由として挙げられると思いますが、私が今回ルトワックから強烈に感じたのは、やはり「戦略文化」としか言い表しようのない概念でした。

ややマニアックな話になりますが、「戦略文化」(strategic culture)という概念は、英語圏の戦略研究では1977年9月にジャック・スナイダーがランド研究所から発表した「ソ連の戦略文化」(PDF)という報告書の中で、アメリカの「合理性」をベースにした考えでは当時の敵であったソ連の核戦略は理解できないことを指摘する際に使われたことから議論されるようになったもので、私の指導教官であったグレイもその議論に積極的に参加した人間の一人です。

この「戦略文化」という概念なのですが、人間の普遍性や共通性を突き詰めようとする学問の世界では、国家や民族の違いを強調するためにやや扱いに困るものなのですが、戦いの現場観を持っているルトワックの中では「文化の違い」というのは当然のことでして、とりわけ戦略の世界ではこれが最も大きな働きをすることを前提としてものごとを分析します。

この戦略文化ですが、ルトワックの中では「作戦実行メンタリティー」と密接に結びついておりまして、たとえばこれが欠落している韓国やイタリアなどに厳しい批判を加えることになるわけです。

そこで「新冷戦」が開始したという話につながってきます。

まだまだ日本では新たな米中冷戦の本格的な開始については十分な認識が広まっていないようですが、ルトワック的な議論を前提とすると、この冷戦の始まりは、彼の地経学の議論からもわかるように、それがあくまでも「戦い」であるために、国際関係において「戦略のロジック」が発動したということになります。

この「戦略のロジック」とは、紛争において二者が互いに相手を貶めようとするために、そこに関係性のダイナミズムが発動するということです。

わかりやすくいえば、相手を殺そうとしてこちらが動くと、相手も殺されないように必死で抵抗して、その作用と反作用が事態を複雑で矛盾したものにするということです。「モード」が変わってしまうのですね。

いいかえれば、冷戦という「戦時」になって戦略のロジックが発動して、国際関係の「モード」がゼロサムに変わってしまったために、「平時」の協力関係を基調としたウィンウィンのロジックは通用しなくなったということです。現在の米中の貿易戦争などはまさにその兆しですね。

そうなると日本にとって最も必要になってくるのが、この戦略のロジックを克服するための「作戦実行メンタリティー」だというわけです。

ただしここで、大きな問題が発生します。というのは、日本政府や自衛隊、さらには国民までが、自分たちの「戦略文化」を変えて本当に「作戦実行メンタリティー」を身につけることができるか、ということが問われてくるからです。

戦略文化に関する議論では、この「作戦行動メンタリティー」のような「文化」が変化するには二つのパターンがあるとして、

1:時間をかけてゆっくり変わる
2:外的なショックで一気に変わる

とされており、たとえば2の例として、戦後の日本やドイツの平和主義への変化などを引き合いに出す議論も見受けられます。

さて、われわれは本当に文化やメンタリティーを変えて新たな冷戦という事態に対処していけるのでしょうか。これについてはまた続きを書いてみたいと思っています。



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(映画館の入り口にあった「武器持ち込み禁止」の看板)

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by masa_the_man | 2018-11-08 21:25 | 日記 | Comments(3)

今日の横浜北部は朝から晴れております。関西で大災害をもたらした台風一過の次に北海道で震度6強など、改元や大仏建立などが待ったなしの大災害が続いておりますね。


さて、今回は昨夜からアメリカで大きな話題になっているトランプ政権内部のおそらくかなり高位にいると思われる匿名の人物による、トランプ政権内部の様子を説明したNYタイムズ紙に掲載された意見記事です。


===


私はトランプ政権内の「レジスタンス」の一員だ

by 政権内の匿名の高官


トランプ大統領は近代の他のどの大統領たちとも異なる問題に直面している。


その問題はFBI特別捜査官による捜査だけではない。トランプのリーダーシップについて国内が大きく分裂しているからでもない。彼の所属する共和党が、大統領を追い落とそうと決意を固めた反対勢力によって、下院での多数派の地位を追い落とされそうだからでもない。


最大のジレンマ――大統領自身はわかっていないようだが――は、トランプ政権内の高官たちの多く人々が、大統領が行おうとしているアジェンダや最悪な意向の一部を懸命に止めようとしているという点だ。


なぜこのようなことを知っているのかって?それは私がその高官の一人だからだ


まずここで明確にしておきたいのは、これは左派の「大衆的なレジスタンス」ではないということだ。われわれは政権に成功してもらいたいと思っているし、その多くの政策はすでにアメリカを安全にしたし、繁栄に導いたと考えている。


ところがわれわれは、自分たちの最初の任務は「国のために尽くすこと」であると考えているし、大統領はわが国にとって有害となる行動を続けていると考えている。


だからこそトランプ政権で任命された高官たちの多くは、民主制度を守りつつ、政権終了時まで、トランプ氏が思いつきで間違った政策を行おうとするのを阻止しようと誓ったのだ。


その根本にある最大の問題は、大統領の「道徳観念の欠如」にある。彼と働いたことのある人間は、彼が何か明確な原則に沿ってものごとを決断するようなタイプの人間ではないことを知っている。


もちろん彼は共和党の人間として選ばれたわけだが、大統領は保守派たちによって長年にわたって支持されてきた理念などにはほとんど親近感を見せていない。その理念とは、自由な思想、自由市場、そして自由な国民である。


もちろん気分が良い時は、これらの理念について公式な場で主張したことがある。ところが気分が乗らないと、それらをあからさまに非難するのだ。


彼は報道陣のことを「国民の敵」であるという考えを大規模に売り込んだわけだが、それに加えて彼は全般的に「自由貿易」や「民主制度」に敵対的な考えを直感的に持っている。


もちろん勘違いしないでいただきたいのは、ほぼ雪崩のように毎日続く政権に対する批判的な報道の中でも、それが見逃しているポジティブな面もあるということだ。トランプ政権は、効果的な規制緩和、歴史的な税制改革、そして米軍の強化など、多くの成果を挙げている。


ところがこれらの成果は、衝動的で敵対的、卑しくて効果のない大統領の指導力(のおかげではなく)にもかかわらず、もたらされたものだ。


ホワイトハウスから各省庁の幹部室に至るまで、政府高官たちは自分たちの大統領の発したコメントや行動に対する疑念や疑問を、個人的には持っている。高官たちのほとんどは、自分たちの仕事を彼の気まぐれから切り離そうと努力している


彼との会談で話題が逸れたり脱線したりすることが常であり、大声で同じことを繰り返すこともあり、彼の衝動的な決断は、中途半端でよくわかっていない、まるで無謀な「逆探知」の必要なものになることが多い。


たった一週間前に決断した大きな政策の決定を覆すような大統領府での会合に激怒したある高級幹部が、最近私に語ったのは、「大統領の毎分ごとに決断を変えるやり方にはあきれてものも言えないよ」ということだった。


ホワイトハウスの内外で土台となって働く「無名の英雄」たちにとって、このような気まぐれな行動はさらに深刻なものとなる。


何人かの補佐官はメディアによって「悪人」とされてきたが、彼らはプライベートでは悪い決断を大統領府の中だけで封じ込めるために(といってもそのいくつか件では明らかに失敗しているが)多大な努力をしてきた。


この混乱した時代において、このような事態はまったく安心のできないものかもしれない。だがアメリカ国民に知っておいていただきいのは、部屋には「大人たち」がいるという事実だ。


われわれは何が起こっているのかをしっかりと把握しているし、ドナルド・トランプが正しくない時でも正しいことをしようと努力している。


その結果が、大統領の権力が二つの路線にわかれているということだ。


たとえば対外政策だ。公の場でも私的な場でも、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩委員長のような「独裁者好き」であることを見せており、その逆に同盟国や似たような価値観を持つ国々との絆にたいしてほどんと評価をしていない。


ところが鋭い記者や専門家たちは気付いているように、政権内のその他の人々は「別路線」で動いており、ロシアのように介入している国を非難して処罰するべきだという意見や、世界中の同盟国たちはライバルとして馬鹿にされるのではなく、友人として手を取り合うべきだという意見まだ存在している。


たとえばロシアについては、大統領自身はイギリスにいた元ロシアのスパイが毒殺されかかった事件に対する報復として、プーチンのあまりにも多いスパイたちを追い出すことに気乗りしない様子である。彼は補佐官たちに対して数週間にわたってロシアとの衝突をやめるように訴えており、アメリカがロシアの悪意ある行動に対して経済制裁を続けることに不満を表明している。ところが彼の安保チームは、経済制裁によってモスクワの責任を追求しなければならないことを知っていたのだ。


これはいわゆる「ディープステイト」の仕業ではない。「安定的な国家」の仕業である


多くの人が目撃している不安定な状況にもかかわらず、閣内には大統領の弾劾に関する複雑な手順を開始する「米国憲法25条」を発動せよという声が早くからあがっていた。ところが憲法に関わる危機を起こそうという人間は誰もいなかったのだ。


したがってわれわれはできる範囲で政権を、それが終わるまで、正しい方向に修正することにかけたのだ。


より大きな懸念としては、トランプ氏が大統領という制度に対して行ったことよりも、むしろわれわれが国家として彼に好きにさせてしまっていることの方が問題だ。われわれは彼と共に落ちてしまったのであり、われわれの言説から礼儀正しさというものが失われることを許してしまったのだ。


故ジョン・マケイン上院議員は、辞世の手紙の中でこれをうまく表現している。すべてのアメリカ国民は彼の言葉に耳を傾けるべきであり、部族主義的な罠にからめとられてはならないし、われわれの共有された価値観とこの偉大な国への愛で団結するという、崇高な狙いを忘れてはならないのだ。


もちろんマケイン上院議員はもういない。ただしわれわれは彼の示してくれた教訓を思い返すことができる。それは、政治における名誉や、国政における対話というもの修復するための道標なのだ。トランプ氏はそのような名誉ある人間をおそれるかもしれないが、われわれそのような人間をこそ尊敬すべきである。


トランプ政権内には、国家を優先することを選んだ人々による「静かな抵抗」が存在している。ところが本物の違いは、政治を越えた一般の市民、つまり党派やレッテルの垣根を越えて「アメリカ人」というアイデンティティーの下に結集する人々によってつくられるはずだ。


===


11月に出る予定のボブ・ウッドワードの新刊の内容がさっそくメディアで話題になっておりますが、その内容を裏付けるような、政権内部のカオスぶりが描かれておりますね。


これなども「匿名の人物が書いた」ということで、トランプ支持者たちからは「政権に批判的なNYタイムズ紙の記者が想像で勝手に書いたんだ」批判されそうですが、私は個人的にこれまでの一連の報道などを踏まえてみると、かなり信憑性の高いものであると感じております。


ただし上の記事で言われているような「思いつきで決める子供大統領」と「それ以外の大人の閣僚・スタッフ」という、いわゆる「二つの路線」というものが本当だとすれば、私は逆にこの「子供大統領」を、ある意味では共和党側のスタッフたちがある程度は自分たちのアジェンダのために使う、という部分もあると考えております。


具体的には、大統領が「朝鮮半島での軍事演習をすべてやめる」と言っておきながら、マティス率いるペンタゴンは無駄な演習だけやめて、本当に重要なものはやめないというパターンとか。


上記の記事では、税制改革や規制緩和など、共和党が好む政策は実現しているため、「共和党はトランプ大統領の単なる人質」ではなく、決定的な相違がなければ、互いに利用できるわけです。新しい最高裁判事の指名などはまさにそれですね


何を言いたいかというと、人数で圧倒している共和党の政権内にいる「大人たち」は、「〇〇とハサミは使いよう」と考えて大統領を操作しているフシもありそうだ、ということです。


この著者の身分についての真相は闇の中ですが、数年後にはジョージ・ケナンの「X論文」やウォーターゲート事件のときの「ディープ・スロート」のように、何年か後に「書いたのは自分です」と名乗りを挙げてくることを期待しましょう。



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(オスプレイ)


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by masa_the_man | 2018-09-06 14:22 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部は薄く雲がありますが朝から晴れております。

さて、久々に更新です。先日の番組でも紹介した、自衛隊にリソース配分の変更を迫る内容の、ジャパン・タイムズ紙に掲載された記事の要約です。

原著者はMITの博士課程(日本研究)の研究生、訳はRogue Monkさんにお世話になりました。

===

by ミナ・ポールマン 18-8/19

日本の自衛隊三軍には、名声と影響力において、常に明確なヒエラルキーがある。陸上自衛隊、海上自衛隊、そして航空自衛隊という順番だ。

冷戦中の陸上自衛隊(陸自)が地位を得たのは、その規模の大きさと、ソ連による北海道への上陸侵攻作戦への日本のこだわりのせいだった。同時に、陸自は長年にわたって予算獲得における影響力も長年にわたって獲得してきた。しかし、北朝鮮のミサイルから中国の海洋侵略まで、日本が直面する脅威の性質は変化した。そのため、陸自の役割と重要性は薄れつつある

最近の陸自の「水陸機動団」の創設は、こうした情勢に対する「官僚政治」というレンズを通して見れば一番分かりやすいだろう。

水陸機動団(米国の海兵隊を思い浮かべてもらいたい)は、中国の海洋侵略に対処する目的で生み出されたものだ。この部隊の任務は、日本の領土を奪還するための上陸作戦の実行だ。

こうした能力の保持は、戦術的には一見望ましいように思えるかもしれない。しかし、これはどうも戦略レベルで考えられたものでは無さそうだ。つまり、「水陸機動団が派遣される実際の状況は一体どのようなものか、そしてもしそうなった場合、どれほど危険な情況になっているのか」というレベルでの考えである。

実際考えなければならないのは、これが「日本にとって最も合理的な戦略なのか」ということだ。島嶼が中国に占拠された時点で、すでに日本は負けているからだ。

この新部隊は3月末に発足し、4月初めに初の演習を実施した。今年中にもさらに演習をする予定だと言われている。この部隊は約2100名から成り、日本の南西部に本拠を置いている。AAV-7水陸両用車やMV-22オスプレイ、チヌーク・ヘリコプターを擁する作戦に特化している。

AAV-7水陸両用車の導入が生産上の理由から遅れたことに関心を払う者はいた。しかし本当に関心をもつべきは、導入から40年になるAAV-7水陸両用車は珊瑚礁に適していないという事実だ。そして日本南西部の島嶼の85パーセントは、その珊瑚礁に囲まれているのだ。

遠く離れた島の防衛には、新たな種類の水陸両用車が必要だ。しかし日本は、すでにBAEシステムズに30輛のAAV-7を発注済みであり、最終的には2020年までに52輛を保有しようとしている。三菱重工は新たな水陸両用戦闘車両の開発を検討中で、このほうが日本が求めるものに適っているかもしれない。

しかし日本が求めるものに適う車両が生産されるのはまだ2・3年かかる。それまでAAV-7は国内の災害派遣に使えるかもしれない。しかし日本南西部の島嶼奪回作戦には適してない。

陸自は他の面でも改革を進めている。たとえばセバスチャン・ロビンは「機動戦闘車を優先させて戦車を破棄する」という日本の決定について分析している。

「自衛隊は、伝統的に高価な資産である主力戦車について、維持費が高く、想定される戦闘シナリオの多くで使いづらいことを認めたのだが、これはいままでにないほど将来を見通した考え方であった。もちろん16式機動戦闘車が理想的な解決策か否かは議論の余地がある。それでもこれまで重要視されてきたプラットホームが投資に見合った利益をもたらさないと認識できた部分は、世界中の多くの軍隊が学べる点ではないだろうか」

また陸自は初めて、海自の指揮下にない輸送船の購入を検討している。南西部の島嶼での緊急事態に迅速に対応するためだ。こうした変化が軍種間の協力を改善するのか劣化させるのか、その答えは今後出るだろう。ただし水陸機動団がもつ利点の一つは、協力体制の拡大なのだ。

さらに、イージス・アショアも陸自がミサイル防衛――これは日本の国防政策立案者の最優先事項だ――に関与するための一つの方法である。これまでの日本のミサイル防衛システムは、空自が運用するPAC-3と、海自のイージス艦に頼ってきた。ところがイージス艦の運用が海自の人員を逼迫しているため、海自はイージス・アショアによる陸自の関与拡大を歓迎するはずだ

ただしこうした変化も、すべては表面的なものかもしれない。日本を取り巻く脅威の環境は根本的に変わったため、陸自は国益のために、その優越的な地位を手放さざるを得なくなるかもしれないからだ。

エリック・ヘジンボサムとリチャード・サミュエルズは『インターナショナル・セキュリティ』の記事で、以下のような批判を行っている。

「陸自は自衛隊三軍のなかで優先的な扱いを受けている。・・・中国の脅威が一義的に海・空のものであるにも係わらず-―そして日本の列島という地理にも係わらず―-陸自は海自・空自よりも50パーセント増の予算を得ている・・・日本の防衛上の問題は、北からの陸上侵攻から、南への海空の脅威に変容した。それを考えるなら、三軍の間で予算を組み替えるべきだ。しかし防衛省はその代わりに、論理的には海・空に属する任務(新たな上陸作戦部隊など)を陸自に与えた」

2010年と2013年の防衛大綱で、日本は注目すべき転換を行った。静的防衛から動的防衛への転換であり、北のロシアの脅威から南西方面にある中国の脅威への転換である。それと同時に、日本は「解決策は問題に見合ったものでなければならない。予算と人員の優先順位は陸自から海自に変えるべきだ」と認識すべきである。

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日本の脅威認識と、それに対する自衛隊の予算配分について、かなり明確な提言をしておりますね。日本は懲罰的抑止を制度的に担保されておらず、あくまでも拒否的抑止しかできないことになっている点など、組織的な摩擦や政治的な事情のおかげで、このようにシンプルにものごとは進められないでしょうが・・・

あくまでも外国の日本研究者からの視点ですが、個人的には軍隊の最大の要件である「柔軟性」を考えさせてくれるという意味で、議論のたたき台やネタとしては有用な意見記事だと考えております。

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(那覇上空からの眺め)

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by masa_the_man | 2018-08-30 08:20 | 日記 | Comments(3)

今日の横浜北部は蒸し暑い真夏日でして、外に出るとまるで暖房が入っているような錯覚を感じました。


さて、サッカーのワールド・カップが終わったタイミングで、知的好奇心をそそられるような記事がありましたのでその要約です。


おりしもZOZOの前澤社長が新球団をつくりたいと発表して話題になっておりますが、スポーツとはどういうものであり、チームとファンの関係、そしてそこで使われるマーケティングなどを考える上で、1つのヒントになるような記事です。


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スポーツは幸せを破壊するとイギリスの経済学者が証明

By アンドリュー・ヴァン・ダム

2018-7/17


「スポーツは世界をより悲しい場所にする」というのは本当だ。われわれにはそれを証明するデータがある。


幸福感をモニターするアプリを使った300万の反応と、数年分のイギリスのサッカーの試合の場所と時間に関するデータを使って、サセックス大学の経済学者であるピーター・ドルトンとジョージ・マッケロンは、ファンたちがチームが勝った時に感じる幸福感の量は、チームが負けた時に感じる悲壮感の量のたった半分にしかならないと計算している。


これはつまり、両チームのファンの数がほぼ同数であると想定した場合、先日のフランスとクロアチアの間で戦われたワールドカップの決勝戦は、その前日の状態よりも、世界をやや不幸にしたということになる。


実質的な量という観点から見れば、サッカーは人間の幸福感を破壊するものなのだ。


これを証明するために、この二人の研究者たちは一日に32,000人(といっても正確な数は日によって変わるが)からアプリに送られてくるデーターを解析し、その人々たちに対して幸福感を100点満点で表現し、誰と一緒にいて、何をしていたのかを尋ねた。


この反応には情報の位置情報が含まれており、これによって試合が行われたスタジアムにいたか、スタジアムに行った経験があるかがわかってきたのだ。二人はこの結果を、日中の時間帯や週の中の日によって幸福感が違うことを踏まえた上で修正したのだ。


この二人はそれぞれ個人の幸福感の平均レベルが異なることを調べたために、常に気分が悪いか良いという人間がいることも説明できた。ところが彼らはアプリのユーザーが国全体よりも若年層に偏りがちであることに関しては修正できていない。


応援するチームが勝利した直後には、ファンたちは通常よりも幸福感が3・9ポイント上昇している。これは音楽を聞いた時と同じくらいの上昇だ。


ところがチームが負けた直後のファンたちは、通常より幸福感を7・8ポイント失うことになり、これは仕事や勉強、そして列に並んで待った後に失った幸福感の、ほぼ2倍以上となる。


この研究者たちはこの結果を「かなり劇的なもの」と表現しており、しかも時間に納得できるようになったと述べている。なぜならサッカーの試合後の悲しみは数時間残るものであり、その反対に勝利の幸福感はすぐに消えてなくなってしまうものだからだ。


負け試合は、勝利によって得られたはずのファンの幸福感を、結果的には4倍も奪うことになるという。しかもこのインパクトは、ファンが実際に試合会場に足を運んでいた場合にはるかに大きくなるという。


ドルトン氏はこのデータは自分自身の体験にも当てはまると言っている。応援しているニューキャッスル・ユナイテッドは、彼が知っている限りでは一度もよい結果を残していないのだ。


彼は「実際の体験として、私は自分の応援しているチームがウェンブリー・スタジアムで行われた重要な試合で7回も負けたのを目撃しているのです。つまり私は他のどのフットボールのファンよりも敗北感を経験しているはずなのです」と言っている。


ドルトン氏は自分と同じような仲間がいて、しかも彼らもサッカーによって感情的に打ち砕かれていることを知ることができてホッとしたという。「私がそれほど奇妙な存在ではないことを知ることができて本当に安心しました」とは彼の弁だ。


それではなぜ人々はスポーツのファンであることをやめないのだろうか?


この二人の研究者によれば、その理由の1つは、人間は自分たちの応援するチームの成功についての予測がうまくないからだという。


たとえば、もしあなたが「うちのチームは5試合のうち3試合は勝つはずだ」と考えるタイプの人間であれば、負け試合が勝った試合よりも2倍あなたを悲しくするとしても、試合を観戦しつづけることは極めて合理的であると言える。


同氏たちは「ファンというのは自分の応援するチームの勝率に関して、体系的に過大評価するものであり、実体験の後でもその予測を決して修正しないし、学ばないのです。多くのサッカー・ファンたちはあいかわらず試合を見にいって、この試合だけは自分たちの勝利の予測を裏付けてくれると期待しがちなのです」と記している。


また、彼らはその他にもスマホのアプリにはうまく反映されないが、それでも幸福感を上昇させる要素がある可能性を指摘している。それは、自分のチームが点をとった時の瞬間的な幸福感の上昇(試合には結果的に負けたとして)や、同じような好みを持つ人々との仲間に加わった嬉しさ、そして試合そのものの緊張感や美しさなどである。


これについてドルトン氏は、「決勝ラウンドで負けるまでのイングランドのワールドカップでの活躍は、スポーツが持つ素晴らしい効果を証明してくれた」と述べている。つまり「経済に対してかなり大きな効果を及ぼしました。自国のサッカーチームが快進撃をしている時の高揚感は何にも代えがたいもの」だったのだ。


ところがその効果にも二面性がある。ドルトンは、アメリカのプロフットボールの6つチームの結果を解析した、アメリカ在住の二人の研究者たちの分析を指摘している。それによれば、予期されていたよりも悪い負け方をした場合と、その地域での発生した家庭内暴力の件数の間には、相関関係があるという。


ドルトンは「このような結果は非常に重要です、それらはあらゆる効果の1つのマーカーとなるからです」と述べている。


===


よく読んでみれば、サッカーファンたちの試合後の幸福感と喪失感を、アプリを使ってビッグデータ的に解析したものですが、これはここ二十年ほど流行しているプロスペクト理論などを輩出してきた、いわゆる行動経済学の1つの研究結果のようですね。


データ的にはかなり主観的な部分(100点満点で答える)もあって微妙ですが、研究の着眼点は面白い。


なぜ私がこの記事の内容に興味を惹かれたのかというと、なんといってもこの「スポーツ」の部分を「戦争」に置き換えても成り立つ話だと感じたからです。


ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、戦争学や戦略学の分野では戦争をスポーツの一種としてとらえる考え方がありまして、もし上記のスポーツ観戦における「負けた時の心理的インパクトの強さ」と「勝ちを期待してしまうファンの心理状態」というのが正してければ、これはそのまま、


なぜ人類は戦争をやめられないのか


という根本的な問いに対しても、実に大きな示唆を持つことになります。


そしてこれはどうやら、リアリズムの識者たちが繰り返し指摘している「人間本性」(human nature)からやはり発生したこと、と言えそうですね。


本質的に欠陥を抱えている人間たちによって、われわれの世界はなんとか回っております。だからこそスポーツも戦争もこの世に存在し、われわれはその結果に一喜一憂するわけです。


そう考えると、ある飲料メーカーの「このろくでもないすばらしき世界」というのは、なかなか言い得て妙ですね



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(珍しいアパート)



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by masa_the_man | 2018-07-18 22:31 | 日記 | Comments(0)
今日の横浜北部も相変わらずの夏日でした。唯一の救いは午後少し曇ったことでしょうか。

さて、昨夜の番組でも少し触れた、米海軍大学の教授による新たな中国のシーパワー分析の記事の要約です。

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中国のシーパワーの可視化

By ジェームズ・ホームズ


海軍力を増強させるあたって、中国は様々なアイディアを使っており、それは時代の新旧だけでなく、洋の東西をも問わないものだ。


そして中国の海軍面での野望を理解しようとしている米軍のリーダーたちは、たとえば現代の車にもれなく備わっている「クランプル・ゾーン」(crumple zones:クラッシャブルゾーン) という防御システムを思いうかべることによって、この戦略をイメージできるかもしれない。


また、中国がシーパワーを蓄える際に研究している思想の中身や、人民解放軍海軍やその他の兵力が作戦・戦略面での目標を達成するために準備している実際の兵力や方法論を見ることによって、米軍のリーダーたちはその海洋戦略を理解できるはずだ。


過去の偉大な思想家たちの考えは、中国の戦略、作戦、そして戦術面の異なる面を浮き彫りすることによって、この理解の助けとなるだろう。


▼中国のシーパワー:人民解放軍海軍以上のもの


シーパワーはその国のもっている艦隊だけで考えるべきものではない。それは海軍だけの領域の話ではなくなっているからだ。空軍、陸軍、そして戦略ロケット軍などは、次第に外洋へとリーチを伸ばしており、シーパワーの陸上手段のような役割を果たしつつある。


「海軍」(Naval)とは「海洋」(maritime)の一部を構成したものであり、端的にいえば、「海洋」面での力を構成するツールの数は多いのだ。それらはすべて中国のさらに大きな「軍事戦略」の下位に属するものであり、さらには中国軍が仕えている「政治目的」に従ったものだ。


ところが常にこれがそのような状況であったわけではない。過去においては、遠い海を進んでいた艦隊同士が、制海権と、それがもたらす果実をかけて争っていた。艦隊同士は沿岸砲(射程は数マイルだった)が届かない数マイル沖で衝突しており、その指揮官たちは沿岸から離れて外洋での活動に集中していた


たとえばホレイショ・ネルソン卿のトラファルガー海戦における勝利(1805年)は、陸地から離れた水域で起こったものだ。それは純粋な「海戦」だったのだ。ところが帆船時代においても海軍の指揮官たちは沿岸砲の潜在性について少しは考えていた。英国の海戦の「神」であるネルソンでさえ、船は陸上の砦を倒すには向かないとアドバイスしている。


沿岸の砦を回避するのは、蒸気船の時代に入っても懸命な手段であることに変わりない。ユトランド沖海戦(1916年)ももう一つの艦隊同士に限定された戦いであり、イギリスの「大艦隊」はすべての船を北海に持ち寄り、ドイツの「大洋艦隊」もすべてのアセットをつぎ込み、砲撃戦を行っている。


ところが将来トラファルガーやユトランドのような戦いが起こるかというと、かなり疑わしい。長射程の精密誘導火力の出現によって、むしろ将来の戦いは、七五年前のソロモン諸島の戦いに似たものとなるだろう。この戦いでは、日米両国が半年にわたってガダルカナル島のヘンダーソン飛行場を巡って、陸海空すべての軍事力をつぎ込んで争っている。


この飛行場のコントロールをできた側は、南太平洋全域にわたる敵の海上輸送と島の基地を攻撃するための最初のポイントを獲得できるようになるのだ。陸上ベースのシーパワーは、ソロモン諸島の戦いの最大の目的であると同時に、それを戦うための最大の手段の一つでもあったのだ。


誘導ミサイル時代の到来は、陸上ベースのシーパワーの時代の到来や、そのリーチの拡大、精密誘導性、そしてその破壊力を早めただけだ。中国の戦略では、この火力革命を自らの優位としつつある。人民解放軍は、海洋面での使用可能なすべての力を中国の前進的な沿岸防衛に注ぐことになるだろう。


中国の海軍力には、空母や誘導ミサイル駆逐艦のような、戦闘艦隊を構成する目立った艦船が組み込まれている。その他にも、短距離用だが高速の警備船や、対艦巡航ミサイルを搭載したディーゼル電池式の潜水艦などがある。陸にある飛行場から飛び立つ、ミサイルを運搬する航空機も一定の役割を担うことができるし、トラックから発射する対艦ミサイルも、それと同様に「シーパワー」のツールの一つとして数えることができる。


人民解放軍は毛沢東式の「積極防衛」戦略を編み出しており、それを近年に「沖合水域防衛」と名前を換えているが、これらの海と陸をベースとしたシーパワーのツールを、「砦としての中国」やその沖合を、アメリカとその同盟国たちから守るための、一つの鋭い兵器として融合させている。


では彼らはこのような兵器をどのように準備するのだろうか?中国共産党の指導層がまず最初に考えるのが、東アジアと太平洋西部である


戦略とは、そもそも優先順位を設定すると同時に、それらを勇気を持って実行するためのアートである。そこから考えると、主要戦域――この場合は国土と接続水域のことだが――を、はるか遠い海での副次的な取り組みのために犠牲にするという考えは、合理的とはいえない。つまり、中国にとっての「アクセス」とは、本土から始まるのだ。


ところがもし人民解放軍の指揮官たちが本土を守ることができて、しかも中国が太平洋において陸上配備型の兵器やディーゼル潜水艦、そして高速攻撃船に興味を持っているとすれば、人民解放軍のリーダーたちは、海軍の水上艦隊のかなりの部分を犠牲にして、中国の地理的近郊の外へと繰り出すこともできるのだ。


時の経過とともに、これは遠洋において北京の対外政策の実現に貢献する、「遠征艦隊」へと発展する可能性もある。政治のリーダーたちが沖合の海での防衛に自信を深めつつある今、彼らは遠征的な目的に注目し、そこにエネルギーを注ぎ込みつつある彼らは海軍力を分割して「外洋防護」に回すこともできるし、本土で不要なリスクを背負わずに同様の任務を行うことができるのだ。


そして実際のところ、中国のリーダーたちは、域外への展開のために知的な面と物理的な面の両方において準備を進めている。これは注目に値する。なぜなら、外洋防護やその他の遠征的な展開というのは、戦略家や政治指導層が最も懸念する海域を支配下においてから、ようやく海軍がとりかかる任務だからだ。


北京は、インド洋をはじめとする海路への取り組みを気楽な気持ちで開始できたのであり、これは本土近くの海域における積極防衛を実行する上での海、空、そしてミサイル部隊を統合した能力について、指導層が自信を持ったことを示している。


これらはアメリカの国防計画担当者や、その地域にある同盟国・友好国たちにとってどのような意味を持つのだろうか?


これは、中国が地域の水域や空域における支配について段々と自信を深めているということだ。さらにこれは、アメリカと東アジアにおける同盟国・友好国が、中国の沖合の水域における防衛戦略に対抗するために不可欠なハードウェアを土台とした戦略を作成しなければならないことも示している。


もしこれができれば、アメリカは同盟国へのアクセスを確保して、アジアにこれらの国々を「戦略的ポジションを持たない状態」から救い出すことができる。太平洋西部でうまく競合できれば、人民解放軍海軍に対して中国本土だけを守るようシグナルを出すことができるのであり、間接的にはインド洋やその他の係争海域における中国からの圧力を緩和できる。


同盟関係を強化し、中国の拡大主義的な地域外における海軍のプレゼンスを抑制するためには、アメリカは戦略的な焦点を東アジアに移さなければならないのであり、海洋面でのエネルギーとリソースをこの地域に注がなければならないのだ。


▼目標:沖合の「クランプル・ゾーン」


中国には「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略があることはよく言われていることだが、これをわかりやすくいえば、海と陸をベースにした兵器を使うことによって沖合に「クランプル・ゾーン」をつくろうとする試み、ということになる。


車の先端のエンジンがある区画や、後ろのトランクの部分というのは、いわゆる「クランプル・ゾーン」を構成している。これらは「堅い盾」としてつくられたわけではなく、衝撃があるとうまく壊れるように設計された、犠牲的な構成部品なのだ。車の設計の最大の狙いは、車会社が最も価値をおいているものを守ること、つまり車内にいる「乗客の身の安全」である。


もし「クランプル・ゾーン」が完全に堅いものであれば、衝突した時の力は車内、そしてその中にいる人間に直接伝わることになり、彼らを死に至らしめる可能性が出てくる。「クランプル・ゾーン」はそのかわりに、衝突のエネルギーを吸収してやわらげる働きをするのだ。


近接阻止のメカニズムもこれと似ている。本土とその近海の安全は、北京が最も懸念するものである。ところが人民解放軍の指揮官たちは、自分たちが太平洋西部を「進入禁止地帯」にできるとはもちろん考えていない。彼らはアメリカの太平洋艦隊を域内の水域から完全に排除するための防衛線を設けることは無理であると知っているのだ。


軍事史では、長距離に広がった前線を守ることは極めて難しいことが示されている。「万里の長城」でさえ難攻不落の構造物ではなかったし、そもそもそれを建設した人々もそういうつもりで作ったわけではない。


どの軍隊も、このような防衛線のすべての線上において潜在的な敵に対して強い状態をつくることはできない。防御側は配備を分散させ、各個の戦闘力を薄くしなければならないのであり、この分散状態は、表面上は弱い敵部隊の集団でも、その線の一部では優位な状態になり、そこからの通過を許してしまうことになる。


▼海に向かうクラウゼヴィッツ


守る側にある人民解放軍がやろうとしているのは、日本やその他の同盟国や、すでにこの地域に前進配備している米軍への救援のために西進している米太平洋艦隊の増援に対して、なるべく高い(といっても完全にムリなものではないだろうが)コストを与えることだ。


そういう意味で、中国の沖合の水域の防衛について参考となる最初の思想家は、戦略思想の賢人の一人であるクラウゼヴィッツのものとなる。


クラウゼヴィッツは戦時に勝利する方法として三つ挙げている。これを簡潔にいえば、相手を粉砕すること、威圧すること、もしくは破産させることである。クラウゼヴィッツによれば、戦争においては「非常に勢力に開きのある国家間」に戦争があるのは一般的であり、力の弱かった方が勝者になることも往々にしてあることだ。


彼はつづけて「現実の戦争に講和の動機をもたらすものが二つある。第一は、以後の勝算が全然立たない場合、第二は、戦勝を得るための犠牲があまりにも大きい場合である」と述べている。


いいかえれば、もし中国が敵に自信をなくさせることができたり、もしくはワシントンが太平洋西部に侵入する「価格」を支払えないほど引き上げてしまえば、中国は大規模な艦隊同士の戦いで相手を倒すことなく勝利することができることになる。


このような海戦は、そもそも遠く離れた外洋での保護任務を必要とし、ここ二十年間で北京が大胆に投資してきた人民解放軍海軍の水上艦隊を、わざわざリスクにさらすことになる。


よって、人民解放軍の上層部は、アメリカの政治リーダーたちに対して、「活動中の太平洋艦隊を危険にさらし、アジアだけでなくユーラシア大陸周辺におけるアメリカの国益を守る米海軍の能力を危機にさらすような大きな損害を被るリスクを本気で背負えるのか?」と宣告できるようになる。


これに対してホワイトハウスは、高い代償の支払いや、海での敗北のリスクにうろたえるかもしれない。もしうろたえることになれば、北京は危機の際にきわめて貴重となる「時間」をかせぐことができるだろう。


クラウゼヴィッツは、心理学的な効果のために軍のハードウェアを展開するこの中国のやり方に、賛意を表明するはずだ。


▼毛沢東の積極防衛


強靭な能力があれば、中国は抑止や強要ができるようになる。中国のシーパワーの次の顔は、毛沢東の睨んだ表情として言い表すことができる。


2015年に発表した最初の公式な軍事戦略として、中国の指導者層がわれわれに教えたのは、毛沢東式の「積極防衛」が、いまでも中国の戦略の作成に重要であるばかりでなく、「積極防衛という戦略概念こそが(中国共産党の)最大のエッセンスである」ということだ。


これが意味するのは、人民解放軍は固定化された防衛線を守ろうとしていないし、太平洋の外洋で決戦をしようとしているわけでもない、ということだ。


彼らは撤退戦をやろうとしているのであり、これはつまり、海域を譲りつつ、その合間に「クランプル・ゾーン」の内部のどこかで海軍による作戦行動を準備するために、米艦隊に断続的な攻撃を加えて分断化しようというのだ。


この「曲がるが折れない」というアプローチは、陸戦にルーツを持つ中国共産党の伝統に則したものだ


毛沢東は自身の考えを説明する際に比喩表現を喜んで使っており、たとえば中国の内戦時には紅軍の指揮官たちに対して「(強い敵軍を)深みに誘い込み」、敵の戦力を少しずつ削り取って分離し、小さくなった部隊からつぶすべきだと進言している。


「十本の指を傷つけるよりは一本の指を切り落とした方がよく、敵に対しても、一〇個師団を撃破するよりはその一個師団を殲滅した方がよい」と言っている。つまり指は一本ずつ切り落とせということだ。


毛沢東によれば、紅軍は手慣れたボクサーのように振る舞うべきだという。これについては1974年の「キンシャサの奇跡」においてモハメド・アリが対戦相手で筋骨隆々のジョージ・フォアマンに初期のラウンドで打たせて疲れさせ、最後のラウンドで自分はカウンターパンチをしかけて倒した例を考えてみればよい。


一時的な戦略的後退は、モハメド・アリや毛沢東の紅軍に役立ったのだ。今日の人民解放軍にも使えないわけがない。


実践的な面からいえば、人民解放軍は米海軍を数百マイル沖合で攻撃できるような兵器を集めており、太平洋におけるトラファルガーに先駆けて疲弊させておこうというのだ。これができれば、弱者である中国は、アメリカと対等に立てることになる。


人民解放軍が持つ実に多くの対艦ミサイルは、潜水艦や警備艇、そして「クランプル・ゾーン」を動き回る戦術航空機と相まって、そこに大胆に攻撃をしかけようとしてくる米軍に対して処罰を与えようとするものだ。


もし中国の「接近阻止」防御が強力になり、米太平洋艦隊に対して許容できないコストを与えることができるようになれば、北京は海軍戦闘部隊を温存できるようになるかもしれない。港を出ずに目的を達成できるのであれば、わざわざ大事な艦隊を近海に展開させてリスクにさらす必要もなくなるのだ。


クラウゼヴィッツや毛沢東は、このような戦略に賛同するはずだ。


▼マハンと砦


中国のシーパワーの次の二つの顔は、アルフレッド・セイヤー・マハンとテオフィル・オーブである。この二人の海軍士官は、自分たちがそれぞれ生きていた時代に長射程の精密度が上がっていた時に海洋における戦術を見通していた。


マハンは日露戦争時に、ロシアの司令官たちが太平洋艦隊を旅順港の沿岸砲の射程内で守ろうとしていたことを非難している。「要塞艦隊」は、海戦においては「急激に時代遅れ」になっており、この考え方のおかげで戦艦の作戦行動範囲が限定されつつ、指揮官たちに小心さを生じさせているというのだ。


しかし、旅順港の沿岸砲の射程が伸ばされて、黄海や日本海決戦が行われた対馬海峡まで攻撃できるようになっていたとすればどうだっただろうか?おそらく東郷平八郎の連合艦隊は、ロシアの大砲のおかげで自由な行動ができなかっただろうし、そうなれば結果はわからなかったはずだ。


もし沖合へ数百マイル射程が伸びていれば、おそらく戦争の結果は違っていただろうし、「要塞艦隊」の戦略は誤りでもなかったはずだ。そしてこれは中国にとっても、明らかに取るべき選択肢となる。


▼オーブ提督と「青年学派」


オーブ提督はマハンとは正反対の人物であった。彼は大英帝国の王立海軍のような、外洋型の覇権者に対抗しようという、19世紀の海軍戦略の派閥である「青年学派」の生みの親だ。


彼らによれば、フランスのように海洋面では後塵を拝する勢力は、魚雷、機雷、潜水艦、そして水上警備艇という形の「非対称的なテクノロジー」を使うことによって、沖合の海域から王立海軍を追い払うことができるというのだ。このような艦船や兵器は、軽量で安価なのだが、沿岸近くの戦艦や巡洋艦を相殺することはできた。フランスのような大陸国家にとっては、このような兵力でも十分であった。


オーブの生きていた時代のこのアイディアは、現在の状況にはさらによく当てはまる。テクノロジーは潜水艦や水上艇をかなり強力にしたのであり、これは「青年学派」の戦略に新たな息吹を吹き込んだと言える。


この「青年学派」と「要塞艦隊」のコンセプトを合致させれば、沿岸に火砲をおいて、これに小規模かつ安価でミサイルや魚雷で武装した水上艇などと組み合わせれば、海洋面での覇権者、つまり米海軍に対して対抗できるのだ。かくして、中国は沖合の水域における防御を遂行できるようになる。


▼ルーズベルトと「身軽な」艦隊


そして中国のシーパワーの最後の「顔」は、セオドア・ルーズベルトである。海軍大学が1908年に開催した「戦艦カンファレンス」の前に、ルーズヴェルト大統領はランドパワーとシーパワーの共生について長々と演説している。


彼にとって、この二つは軍事力を互いに補いながら強化してくれる存在であった。沿岸砲の砲手と小艦艇の乗組員たちは、海からの襲撃から港を守る任務を協力して担わなければならないのであり、これを行うことを通じて戦闘艦隊を外洋での敵艦隊との戦闘に集中させることができるのだ。


つまりこのような統合的な任務の分担によって艦隊を「身軽」にすることができるのであり、「敵艦隊の捜索と破壊」に集中してもらおうというのだ。ルーズベルト大統領によれば、この敵艦隊の破壊こそが「艦隊の存在を正当化できる唯一の機能」である。


このような洞察は、それから百年後の毛沢東主義者たちを喜ばせている。セオドア・ルーズベルトと毛沢東というのは、戦略においては実に奇妙な共通項をもっているのだ。ルーズヴェルトの沿岸砲と軽量の戦艦のように、人民解放軍が太平洋西部における沖合の防御で十分に密集的な群れをつくることができれば、人民解放軍海軍の水上艦船は「身軽」になるだろう。


これこそが沖合の水域での防御における最大の目標となる。人民解放軍は主に「要塞艦隊」と「青年学派」的なプラットフォームを使って本土を守るだろうし、これによって外の水域で水上艦隊のほとんどを(常設的ではなくても)定期的なプレゼンスに回すことができるはずだ。


したがって外洋での保護は、太平洋西部での積極防衛がうまくいくかどうかに左右されることになる。もし北京が「クランプル・ゾーン」を手渡しても負けることはないと考えるようになれば、中国の海洋周辺部の外での任務のために大規模なタスクフォースを自由に派遣できる、と感じるようになるはずだ。


▼まとめ:中国の戦略に関するアイディア


一つの戦略を構成するこれらの概念について、アメリカやその同盟国、そして友好国たちは、深刻に受け取るべきだ。中国のシーパワー――これは単なる現在の人民解放軍海軍の存在だけの話ではない――は今後も存在するものだからだ。


では米海軍の指導者たちはどうすべきなのだろうか?


第一に、ここで明確にされた中国の海洋戦略を突き動かすアイディアについて、真剣に考え抜くことだ。過去の良いアイディアは、精密誘導兵器やセンサー技術の進化のおかげで、その有用性が認められつつある。


クラウゼヴィッツ、マハン、オーブ、そしてルーズヴェルトという中国のシーパワーをあらわす五人の顔は、人民解放軍の指揮官たちの戦略的企図を瞬間的に理解させてくれるものだ。


第二に、米軍は中国の「クランプル・ゾーン」を突破するための編成と対抗策を考え抜かなければならない。もちろんこういうのは単純であるが、やはりクラウゼヴィッツが指摘したしたように、人間の意志の争いにおいては単純なものこそ難しいのだ。


第三に、中国の作戦行動のパターンを研究すべきだ。もし人民解放軍海軍が地域外に一定数の水上艦隊を長期にわたって展開するようになれば、これは中国が積極防衛に自信をつけてきたことを示すことになる。


インド洋に永続的に船団を展開できるようになれば、北京が沖合の水域での防衛を十分なものだと感じている証拠となる。そしてこれは、アメリカやその同盟国、そして友好国たちにとって、克服し難い圧倒的な障害物となるだろう。


北京が南アジアの港湾へのアクセスをどれほど求めているか、その態度だけでもその兆候はつかめるはずだ。船というのは兵站面での支えがなければ本土から遠い場所で長期にわたって活動できないものだからだ。北京が基地の権利に関する交渉を増やせば増やすほど、人民解放軍海軍の海外における行動の自由は増えていくからだ。


端的にいえば、中国の船乗りと飛行機乗りたちの広い世界における行動の仕方が、共産党のリーダーたちの「クランプル・ゾーン」における信頼度の高さを物語るのだ。そしてこれによって、このゾーンの突破のための方法論や、そのために必要となるハードウェアなどが示される可能性もある。


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いかがでしょうか。

アメリカの典型的な中国脅威論を前提とした「中国のシーパワー分析」の論文でしたが、ここでの特徴は、中国の戦略をあらわすためにここ十年ほどでよく使われている「A2AD」という概念をわかりやすくするために「クランプル・ゾーン」と言い換えたことと、五人の戦略思想家のアイディアを使って、そのシーパワー論の全体像を説明したという点です。

アメリカでこのように中国の脅威を喧伝してくれるのは、日本の立場からするとやはりありがたいと思うわけですが、私がここで少し気になるのは、このホームズの分析がやはり「アメリカ人向け」のものであるという点です。

中国の歴史や文化にそれほど関心のないアメリカ人にとっては仕方のない部分はあるのですが、拙訳『真説孫子』でも指摘されたように、やはりもう少し中国の戦略思想のバックグラウンドの部分はおさえておいて欲しかった、というのが正直なところです。毛沢東だけではなんとも物足りないわけです。

ただし、五人の戦略思想家を使った分析などは意外に斬新であり、個人的に気になったのは、クラウゼヴィッツ系の人はあまり引用しない、『戦争論』の第一編第二章のいわゆる「コストインポージング」的な言葉をあえて引用してきている部分と、オーブの「青年学派」という「弱者がいかに強者に対抗するか」という基本的な戦略的アイディアを持ってきている部分でした。このようなアイディア勝負の論文は、やはりアメリカ人ならではのものかと。

これを訳したあとの私の率直な感想としては、中国はさておき、日本も中国に対しては「弱者」の側に立って「青年学派」的な装備や戦略を追求することを真剣に考える時期に来ているのではないか、というものです。

もちろんアメリカという強力な「矛」があるために、日本は「盾」だけを考えていればよかったのでしょうが、どうもその「盾」も、著者のホームズが指摘するように、近年のテクノロジーの進化(とりわけ長射程化と小型・安価・軽量化)によって、大きく状況が変わってきております。

しかしこれは自戒も込めて言うのですが、もしかしたらこのような「現実はすでに大きく変わっている」ということに気づいて、それに対処するための行動を実際にとることのほうが、国防においては最も重要だといえます。よって、この論文のような新しいアイディアについて、われわれはもっと敏感であるべきなのかもしれません。



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(ダーウィン港入り口)

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