戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28

カテゴリ:未分類( 30 )

今日の横浜北部は相変わらず朝から快晴です。気温も低めで、とくに風が強いですね。

さて、久々にブログ更新です。ツィッターでも触れましたが、バノンの愛読書がなんと私が次に出す予定の本だとのこと。驚きです。

====

スティーヴ・バノンの暗い歴史の理論書への傾倒は懸念すべき事態だ
by リネッテ・ロペス

トランプ大統領のアドバイザーであるスティーヴ・バノンは、今週のタイム誌の表紙を飾っており、その記事の中では『4thターニング』と呼ばれるアメリカの未来を予測した本の中で展開されている理論を深く信じていることが明らかにされている。

この事実は、すべてのアメリカ国民にとって懸念すべきことだ。

なぜならこの本の著者であるウィリアム・ストラウスとニール・ハウは、人間の世代は80年から100年の周期で「サエクラム」と呼ばれる一つのサイクルを構成しているというのだ。

このような考え方が古代ギリシャ時代までさかのぼることができるとしており、ギリシャ人たちは「サエクラム」の終わりが「エクピロシス」という破滅的な出来事によってそれまでの秩序が破壊され、劇的な形で新しい秩序がもたらされると考えていたという。

この激変時代は「第四の節目」(4thターニング)として知られており、バノンはこの二人の著者のようにこの時代に突入していると考えているのだ。

(3月に邦訳が発売される)この本によれば、アメリカが過去2回経験した「4th ターニング」は、南北戦争とその再興、そして世界恐慌から第二次世界大戦までの期間だという。そしてその前は、米国の独立戦争の時代となる。

いずれの「4th ターニング」においてもアメリカ人は新たな未来のために団結して再興することを余儀なくされたのだが、それらはすべて大規模な紛争によって多くの人命が失われた後なのだ。

この「節目」は例外なく「破壊的な出来事」の発生から始まり、その後に退廃の期間が続いてから古い秩序をめぐる決定的なクライマックスが戦争とともに訪れ、最終的に新たな世界秩序によって解決して安定化するというのだ。

そしてバノンが傾倒しているこの部分にこそ、大きな懸念がある。

バノンは新たな秩序の到来のためには「激変」が必要であると考えている。それによってわれわれは紛争のクライマックスを迎えるというのだ。彼はホワイトハウスにおいて、自分が「必然的」であると考える秩序をもたらすために現在の秩序を崩すような政策をトランプにアドバイスしようとしていることを示してきたのである。

彼はカオスを発生させるために、政治・経済面での連携を分断し、伝統的なアメリカの原則から背を向けようとしている。こうすることによって、バノンは「4th ターニング」を招き入れようとしているのだ。

▼バノンにとっての「聖書」

バノン自身はトランプを使って自分自身のアメリカについてのビジョンを実現するという欲望について、あけっぴろげに語っている。

たとえば去年の夏のヴァニティー・フェアー誌のインタビューで、トランプについて「われわれにとってのガサツなツールだが・・・彼がそれを理解しているかどうかはわからない」と語っている。

おそらくトランプは理解していないのだろうが、『4thターニング』という本の視点からトランプの政策を見れば、ことの重大さがわかる

バノンは「4thターニング」を発生させる「きっかけ」はすでに起こっていると考えている。それは2008年の金融危機(リーマン・ショック)である

よって、われわれは退廃期に入っており、ハウとストラウスはこの期間のことを、孤立主義、インフラ建設、連邦政府への権力の集中とその権限の強化、そして経済の再構築の想像が考えられる期間だと考えているのだ。

もちろんこれらがその目的そのものになっているわけではない。バノンは独裁的な政治の開始が東西間での大規模な紛争に備えたものになると考えている。もちろんそこでの「東」は、中東と中国のどちらかを意味することになる。

長年にわたってバノンは、現在マサチューセッツ工科大学(MIT)の歴史学者であるデイヴィッド・カイザーにも同様のことを言わせようとして圧力をかけてきたが、失敗している。

タイム誌によれば、「バノン氏は私に向かって、独立戦争の次はさらに大きな革命となる南北戦争、そしてさらに大きな第二次世界大戦という革命をアメリカは経験しましたよね、と言ってきたわけですが、これと同じことをカメラに向かって言うように促したのです。もちろん私はそう言いませんでしたが」とカイザー教授は証言している。

さらに「ハウ自身も、バノンの過激な未来予測については衝撃を受けておりました」とカイザー教授。

バノンは自身のラジオ番組で、アメリカが世界中でイスラム過激派と「戦争中」であることを繰り返し述べており、「グローバルな生死をかけた戦争」であり、「再び中東での大規模な軍事闘争」に発展する可能性が高いとしている

また、中国との戦争も迫りつつあると言っている。これは彼が主宰していたニュースサイト「ブレイトバート」における中心的なテーマであり、2015年11月には「われわれの運営しているサイトの主なメッセージの一つは、われわれが戦争中であるということだ」と述べている。

▼繰り返される現実

究極的にいえば、過去と未来を同時に書くことの危険性は、著者がその二つをわけたものとして考えられなくなる点にある。過去の歩みやその踏み間違いというのは、容易に繰り返されるように感じるものであり、未来も決まっていると考えがちだ。

ところが実際の歴史はこのようなことを示しているわけではない。すべての時代の大災害は、常に独特な形で発生しているからだ。ストラウスとハウがその著書の中で失敗し、バノンがはまってしまったのは、まさにこの点であった。

ハウとストラウスは「危機」をもたらす出来事が「金融危機の不吉な予兆か、もしくは国政選挙のような通常の形でもたらされる」とも書いている。

これはたしかに合理的だ。南北戦争と再興までの「4thターニング」は、それ以降の世界恐慌から第二次世界大戦までの「4thターニング」とは違う形で発生したからだ。

ところがストラウスとハウは、このような違いというものを次の「4thターニング」の到来において指摘するのを忘れている。彼らは同じ「節目」が存在しないことを指摘できていないのである。

その代わりに彼らは前回の「危機」の予兆となる出来事である世界恐慌という金融危機が今回も起こるはずであり、バノンもこれを信じているのだ。彼が2008年のリーマン・ショックを「危機」の始まりであると信じているのは、まさにこの点にある。

ところがこの二つは比較できるようなものではない。米国内の失業率は前回の危機のような20%のレベルまで上がらず、最悪であった2009年10月でも10%であった。2008年の政府はフーバー大統領が2年間何もせずに状況を悪化させたのとは違い、世界的な金融崩壊を阻止するために素早く動いて対処したのである。

今回の金融危機は、アメリカ全体を苦しめる代わりに、それ以前の40年間に拡大していた経済格差を悪化させた。よって、フランクリン・ルーズベルト大統領が1933年の就任演説で描いた「世界恐慌で失われたアメリカ」という姿は、すべてのアメリカ国民に共感できるものであった。

ところがトランプ大統領が就任演説で描いた「大虐殺されるアメリカ」という暗い世界観は、多くの人々には共有されていなかった

そしてこの認識の隔たりが、まさにアメリカという国の深い分裂状態をあらわしているのだ。

▼調整

よって、「4thターニング」は来るかもしれないが、バノンがその設計図を描いているわけではない。ハウとストラウスによれば、退廃期の最大の特徴は「結束」だからだ。

この結束のおかげで、リーダーたちは危機において「独裁的で厳しく断固とした態度」をとることができるようになるというのだ。ルーズベルトはまさにこのような立場をとることになり、国民を働かせるために政府の全権を握ったのである。

ところがこのような結束は、アメリカでは長年見られていない現象だ。むしろその反対に、現在の米国社会の分裂は今までに見たことのないほどの状態なのだ。

「4thターニング」で活躍するのはベビーブーマーとミレニアル世代たち
である。ブーマーたちは暴挙によってわれわれを紛争に導くイデオローグであり、ミレニアル世代は若き「英雄」という役割を担ってその困難を戦うのである。

危機の「きっかけ」的な出来事が発生すれば、アメリカはストラウスとハウのいうブーマー世代の「老年の守護者」のリーダーの元に団結するという。そしてこのリーダーは、「いかに経済が崩壊しようとも、アメリカン・ドリームが二世代続けて拒否されるような考えに対して激しく抵抗する」ような人物だというのだ。

もしバノンがこの「老年の守護者」のために働いていると考えるのであれば、彼は一つ重要な点を勘違いしている。それはミレニアル世代こそがこの危機からの脱出を主導するという点だ。ところがトランプの考えの中には、若者の必要性は考慮されていない

トランプのメッセージは喪失感のある古い世代に人気があり、そもそもアメリカン・ドリームを追究するチャンスさえ与えられてこなかったと感じている若い世代には響いていない

2016年の大統領選挙において、選挙に行った若者のほとんどはトランプ大統領に投票しておらず、それ以上の数のミレニアル世代は投票さえしていない。この理由の一つは、トランプが若者に対してほとんど何も公約を提供していないからだ。

その証拠に、七月の共和党大会では青年部代表のアレクサンドラ・スミスが、自分の党に対してこのような状態を警告しており、「共和党は長年にわたってミレニアル世代に対して何もアピールしていいません。わが党はあまりにも老人向けであり、自分たちの価値観を次の世代にアピールするための努力が足りないのです」と説いている。

ハウとストラウスによって示された「4th ターニング」には、アメリカ国民がすべからく合意できるような価値観への回帰が必要となるのだが、ミレニアル世代と共和党(というかバノン)との間の距離はあまりにも大きい。

その理由として、ミレニアル世代というのは米国の歴史の中でも最も多様な集団(43%が非白人)であり、そのほとんどがバノンの「人種紛争」というビジョンを共有していないからだ。

「4thターニング」には、米国が国内の分裂と外からの脅威に対して結束するというストーリーが描かれている。著者たちはこれが歴史の自然な流れであり、その発生は不可避であると説明している。

ところがメキシコやカナダに対する脅しや、渡航禁止措置などによってわれわれが目撃しているのは、敵の創出であり、しかもこの敵というのは多くのアメリカ人がそもそも欲していないような存在なのだ。

バノンの「4thターニング」に対する信仰は、われわれを結束させるものではなく、分裂させるものだ。これは危険であり、まだ誰も見たことのない現象となっている。

そして当然だが、次に何がやってくるのかは、まだ誰にもわからないのだ。

===

この記事を書くために記者の方は本を読み込んだらしいですが、やや勘違いしているところがいくつかあります。たとえば原著で「老年の守護者」(Gray Gaurdian)となっているところを、記事では「老年の戦士」(Gray Warrior)と誤って表記していることなどでしょうか。

「バノンが心酔しているって本当なの?」という人は、この動画も参考になります。

バノンはこの中でも4thターニングについて触れており、「アメリカは現在4thターニングを迎えている、われわれブーマたちはミレニアル世代に富という遺産を残せてやれなかった」などと、完全にこの本から影響を受けた発言をしております。

実際にトランプ政権では今一番影響力が大きいという報道が出てきているわけですから、かなり気になりますね。

ちなみに私が監修した訳本の発売は来月になりそうですが、すでにその内容についてはCDの方で徹底的に解説しておりますので、詳しくはそちらを参考にしていただければ幸いです。

■未来予測と戦略CD
~『The 4th Turning(危機の時代)』と『戦略の階層』~
http://www.realist.jp/the4thturning.html


b0015356_159839.jpg

(車内からの富士山の眺め)

▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略〜
奥山真司の『未来予測と戦略』CD
奥山真司の『未来予測と戦略』CD



▼奴隷の人生からの脱却のために
戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
戦略の階層を徹底解説するCD


▼〜あなたは本当の「孫子」を知らない〜
奥山真司の『真説 孫子解読』CD
奥山真司の『真説 孫子解読』



▼〜これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分して結構です〜
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座CD
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座


▼〜これまでの地政学解説本はすべて処分して結構です〜
奥山真司の地政学講座CD 全10回
奥山真司の地政学講座 全10回






奥山真司のアメリカ通信LIVE


奥山真司のアメリカ通信LIVE
by masa_the_man | 2017-02-07 18:08 | Comments(0)
今日の横浜北部は昨日と同様快晴でしたが、気温は一気に下がりました。風が冷たかったですね。

さて、本日は朝から来月に出る予定の次の本の原稿チェックを行っておりまして、その内容紹介を少し。

何度も紹介しているのですでに耳タコという方もいらっしゃるとは思いますが、『クラウゼヴィッツの正しい読み方』に続いて出る予定の訳本が、

b0015356_21244755.jpg
The Fourth Turning: What the Cycles of History Tell Us About America's Next Rendezvous with Destiny
by William Strauss & Neil Howe

という本です。直訳すると題名は「第四の節目:歴史のサイクルから知るアメリカの運命」と言った感じでしょうか?

今日はその2回目のゲラチェックを行っていたのですが、近日中にその訳者解説を書かなければならないので、その予行演習としてここにメモ代わりに書いておきます。

原書を読まれたことのある方はご存知かもしれませんが、この本はいまから20年ほど前の1997年に出た本です。

しかもその内容は、なんというか、私がいままで訳したことのないものでありまして、なにが書かれているのかというと、これが非常に説明しづらい。

ざっくりいえば「アメリカの歴史を振り返ったもの」ということになるのかもしれませんが、その方向性としては未来予測というか、歴史の「波」について振り返ったもの、という感じのものです。

歴史の波といえば、地政学の分野ではロシアの経済学者であるコンドラチェフが提唱したとされる「コンドラチェフの波」というのが有名なところですが、これは70年ほどのサイクルで景気の上下があることを経済史から振り返ったもの、ということになるでしょう。

コンサル業を営む原著者のハウとストラウスは、そのような波だけにとどまらず、すべての人類の歴史において、20年ごとに移り変わる「世代」(ジェネレーションズ)が存在し、その集団が人生の段階を移り変わるときに、世の中の様相もそれまでのものと大きく変化する、としております。

アメリカの考えというのは、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」という論文からもわかるように、どちらかといえば歴史が一つの方向に向かって進むというイメージを持つものが多いわけですが、このハウとストラウスはそのような考えは特殊であり、実は古代ギリシャ・ローマの時代から、人類は歴史が繰り返すことを知っていた、というところから話を始めるのです。

これを彼は「循環史観」と名付け、現在盛んな西洋の一般的な「線的史観」とわけて考えつつ、イギリスとアメリカの歴史は、20年ごとの節目の春夏秋冬があり、その4つの季節で1セットとなる、およそ80年から85年ごとのまとまり(サエクラム)を繰り返している、というのです。

おそらくここまで話を聞いて、一般的な人の感想は「まあ、そんなもんかな」というものかもしれません。

ところが彼らがスゴイ(のかどうか判断がつきかねますが)のは、このような

「20年×4世代(春夏秋冬)=1サイクラム:約80年」

という公式を元にして、それをなんと薔薇戦争の時代から現在(1997年)までのすべての期間や事件などにそれぞれ当てはめて、各世代やその時代の雰囲気に名前を付けて、それらを表などにしてまとめているという点なのです。

まず最初に私が感心したのは、一つの「世代」が形成されるとき、彼らが最初に生まれ育った時代(0〜20歳)までの雰囲気に大きな影響を受ける、としていることです。

具体的にいうと、私は1970年代生まれなので、私が成人するまでの80年代から90年代の時代の雰囲気、つまりバブルからその崩壊の頃の時代背景というものを身に着けているということです。

そして私のような人物が成人してから中年になるまで(20〜40歳)を見ると、若い時にはバブル崩壊後の就職氷河期、そしてそのまま「失われた20年」をすごすことになります。

このような時期を過ごしてきた私たちの世代は、全体的な傾向として、他の世代たちよりもサバイバルの技術を身につけていることが多く、世界に対してもリアリスティックに対処する傾向を持つ、と指摘されております。

私の世代は、日本では「団塊ジュニア」や「新人類」「ロス・ジェネ」「バブル世代」などと言われるわけですが、原著者たちはアメリカの同世代を「ジェネレーションX」や「第13代」という呼称で呼んだりしておりまして、この世代を主に1964年から84年までに生まれた人々である、と定義しております。

この本によりますと、この世代と似たような特徴を持った世代は、われわれの1サエクルム前、つまり1886年から1908年までに生まれた祖父の代に出現していたというのです。

しかも面白いことに、われわれとその1サエクルム前の世代、さらにその1サエクルム前の世代に、ハウとストラウスは共通の名前を付けております。

それが「遊牧民」(Nomad)というもの。

そういえば数年前に「ノマド」という言葉が流行りましたが、これをハウとストラウスたちは、私を含む世代たちの共通の呼称として使っているのです。

参考までにその前後の世代をそれぞれ述べておきますが、世代の並びというのは人類史を通じてそのほとんどが、

預言者→遊牧民→英雄→芸術家

となっており、これが1世代20年のまとまりの流れとなって、順番に繰り返しあらわれているというのです。

そうなると私のすぐ下の世代、つまり84年〜2004年生まれの若い人々は「英雄」(Hero)世代ということになります。彼らはいまでこそ「ゆとり世代」とか「草食系」と言われたりしておりますが、その1サエクルム前の彼らの祖父の代は、まさに第二次世界大戦を20歳から40歳までの若者として最前線で戦った本物の「英雄」世代であります。

そのさらに下の世代は「芸術家」(Artist)と呼ばれておりまして、2005年以降に生まれたまだよちよち歩きの世代か、もしくは戦争中に生まれた、石原慎太郎などを筆頭とするベビーブーマーたちよりも前の世代ということになります。

そして私たちよりもすぐ上の世代である「預言者」(Prophet)という世代は、1946年から64年までに生まれた、アメリカでいうところのまさに「ベビーブーマー」をカバーする世代でありまして、日本でも団塊の、いわゆる「戦争を知らない子供たち」も含まれ、彼らも現在社会の中で最も人口数の多い世代であります。

こういう世代構成で見ていくと、世代の移り変わりや、なぜサプライズが起こるのか、ということがわかるというのが原著者のハウとストラウスの議論なのですが、ここで時間がなくなってきてしまいましたので、続きはまた明日。

b0015356_22152975.jpg
(正月に見た富士山)







▼奴隷の人生からの脱却のために

戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
戦略の階層を徹底解説するCD

▼~あなたは本当の「孫子」を知らない~
奥山真司の『真説 孫子解読』CD
奥山真司の『真説 孫子解読』


▼~これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分して結構です~
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座CD
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座

▼~これまでの地政学解説本はすべて処分して結構です~
奥山真司の地政学講座CD 全10回
奥山真司の地政学講座 全10回



奥山真司のアメリカ通信LIVE

奥山真司のアメリカ通信LIVE
by masa_the_man | 2017-01-05 16:50 | Comments(9)
今日の横浜北部は朝から曇っておりましたがギリギリ降らなかったですね。

さて、先週の放送(https://youtu.be/cF5g8VLIjDQ)でも触れた「国境」の話題について、保守派のビクター・デイビス=ハンソンの意見記事を要約したものを。

===

なぜ国境は重要で「ボーダレスワールド」は幻想なのか
by ビクター・デイビス=ハンソン

「国境」がここまでニュースの話題として取り上げられるのは史上初めてではないか。

中東から欧州に殺到するイスラム系難民やテロリズムの台頭のおかげで、欧州内の移動自由の権利を認める、いわゆる「シェンゲン協定体制」に対して反発が巻き起こっている

欧州の人々は人種差別主義者ではないが、中東からの移民の受け入れについては、それが合法的に入国して、しかも欧州の価値観や態度を共有を約束することができる人々(この点については不寛容であるとして何十年も前に破棄しているが)については受け入れる、という方向に行き着いているように見える。

欧州の人々は自分たちの国境が、北アフリカや中東での文化や社会を断絶している役割を果たしていたことをいまさらながら再確認しているのだ。

アメリカでもこれと同じような危機が発生している。オバマ大統領が反対にもかかわらず不法移民に対して大統領権限で恩赦を与えているからだ。メキシコや中南米からの不法移民に対する米国民の反発は、トランプ候補の台頭(これは国境に壁をつくると公約したことでも予測できた)を許すことになったのだが、これはドイツに難民が流入したことによってメルケル首相に対する反発が発生したのと同じことだ。

欧州と北米で人々の怒りを盛り上げているのは、エリートたちが推し進めている「ボーダレス・ワールド」である。エリート内では「ボーダーレス」が現代のポリティカリー・コレクトネス的な立場を占めるようになっており、その他の似たようなアイディアと共に、われわれの使う言葉を規定しつつある。

最近よく使われる言葉に「不法異邦人」(illegal alien)というものがあるが、これは「非合法移民」(unlawful immigrant)という曖昧な言葉から「証明書を持たない移民」(undocumented immigrant)という名前から、単なる「移民」(immigrant)や、完全に中立な「移住者」(migrant)というものに移り変わってきている。こうなると、この人物が入国してきているのか出国しつつあるのかわからなくなるのだ。

今日の国境開放への動きというのは経済・政治的な要因(米本土や欧州の人間が避けるような低賃金の仕事を請け負う労働者の必要性や、破綻国家を逃れようとするもの)だけによるものではなく、西側の学界が数十年間にわたって「国境言説」(borders discourse)というトレンディーな分野の知的扇動によってつくりあげたものでもある。

この「ポスト国境主義」とでも呼べる分野では、国境は単なる人工的な構成物となり、それは権力にある者によって外の世界、つまり貧乏で非西洋的で「排除すべき存在」を意図的に切り離すための手法でしかないということになるのだ。

あるヨーロッパの学者によれば、「国境が引かれるところで権力が行使される」というのだが、この観点からいえば、国境が引かれていないところには権力が行使されないということになる。これはまるで、ドイツになだれ込む中東移民たちには、その数の多くても西側の不満を抱えた政治による巧妙なごまかしによって権力を持てないといわんばかりだ。

ところが「ボーダレスワールド」の夢は、それほど新しいものではない。プルタルコスは自身の随筆集の中で、ソクラテスがアテナイの人間ではなく「世界市民である」と考えていたと主張している。欧州では共産主義の普遍的な「労働者の団結」という考え方は「国境のない世界」というアイディアを土台にしたものであったし、「万国の労働者よ、団結せよ」とマルクスとエンゲルスは強く勧めている。この考えに従うと、戦争が発生するのは国家が持つ国境という時代遅れのものをめぐっての不要な争いのためだということになる

何人かによれば、この終わりなき戦争を防止する方法は、国際的な統治のために国境を廃止することとなる。HGウェルズの『来るべき世界の物語』(The Shape of Things to Come)は国際的な識者たちが世界政府をつくることによって国境が最終的に消滅する世界を描き出している。

このようなフィクションは現実世界でも一時的な流行をつくりだしているのだが、国境という存在をなくそうとする動きは(ウェルズが生きていた当時の国際連盟がその一例だが)常に失敗している。

それでも左派は「ボーダレスワールド」の願いを持ち続けており、それは倫理的に優れたものであり、人工的に押し付けられた「違い」に対する勝利であると考え続けているのだ。

ところが真実は違う。なぜなら、国家の定めた国境というのは「違い」をつくるのではなく、そもそもあった「違い」が反映されたものだからだ。エリートたちの国境を消滅させようとする試みは、無駄であると同時に破壊的である

国境――そしてその維持、もしくは変化させるための戦い――というのは、農耕文明の始まりと同じくらいの長い歴史を持っている。古代ギリシアの戦争は、雑草の茂った土地をめぐって争われた。係争地となる高台の農園は耕作にはあまり向かなかったが、都市国家にとって文化の発生と終わりを決定するという意味で極めて高い象徴的な価値をもっていた。

歴史の中で、戦争を引き起こしたきっかけというのは伝統的にそのような国境地帯であった。アルゴスとスパルタの境や、ローマ帝国の国境としてのライン河とドナウ河、もしくはドイツとフランスの権力争いの象徴となったアルザス・ロレーヌ地方である。

これらをめぐる紛争は、少なくともその当初は隣国を侵略して占領するための目標であったわけではない。国境とは、明確な区分けを尊重する異なる社会同士の「相互表現」だったのであり、経済面での必要性や軍事安全保障といった面だけでなく、隣国の干渉や脅しに屈することなく独自の活動が行えるよう確保するための手段でもあったのだ。

ボーダーレスを崇める普遍的な教義を主張する人々の多くは、卑しい偽善から逃れることはできない。2011年にオープンボーダーの提唱者であるアントニオ・ヴィラライゴサは、市長公邸の周囲に壁をつくった最初のロス市長となった。

公邸周辺に住む人々はこの案に反対したが、その理由として、そのようなバリケードの必要性がないことや、1.2メートル以上の壁を宅地に造ってはならないとする市の条例に違反すること、逆に安全に疑問を投げかけることや、新しい壁は公邸の権力の象徴となったことなどを挙げている。

エリートたちは壁を造ることによって外界を切り離すことができるかもしれないが、その政策はその外で活動する資金や影響力をもたない非エリートたちに大きな影響を与えることになる。

壁によって生まれるこの二つの集団――ペギー・ヌーナンはこれを「守られた人々」と「守られていない人々」と呼んだが――は、ジェブ・ブッシュの選挙戦で誇張されることになった。フロリダ州知事を務めたブッシュ候補がメキシコからの不法移住を「(アメリカに対する)愛から出た行動」と呼んだが、この発言によって彼は自ら選挙戦にトドメを刺すことになった。

どうやらブッシュは、彼のアイディアが自分自身と家族に対してどのような影響が出るのかを選べるだけの富を持っていたということらしいのだが、アメリカの南西部に住んでいる人々にとって、このようなことはほぼ不可能だ。

より大きな視点からいえば、国境を軽視する人々というのは、なぜ数百万人もの人々がそもそも国境を越えて、非常に大きなリスクを背負いながら、使いやすい言葉や祖国を捨てようとするのかという問題を見ようとしていない。その答えは明白だ。1960年代の中国・香港間、現在の北朝鮮と韓国の間のように、移住というのは大抵は一方通行であり、非西洋から西洋、もしくは西側への支持という形で現れるのだ。

彼らは国境を越えるために歩き、登り、泳ぎ、そして飛ぶのである。そしてこれは、国境が人間の経験に対して異なるアプローチをとる社会をそれぞれ区別するものであり、一方がもう一方よりも成功していると見られていることの証拠となっている。西洋の社会というのは、国民の総意や宗教への寛容性、司法の独立、自由市場資本主義、そして私有財産の保護などを最も推進しやすい統治体制をもっており、これによって彼らの祖国にはほとんど存在しない経済的繁栄や身の安全を個人に提供しているのだ。

結果として、移民たちは西側諸国に向かうのであり、とりわけその理由は西洋文明が人種ではなく文化で定義されるものであり、その作法を共有したいと考える異人種は受け入れる唯一の存在なのだ。

西洋社会に生きる同化していない多くのイスラム系の人々は、西洋の法体系を無視して過激主義に生きることができると考えている。今日、パキスタンからロンドンに降り立った人は、祖国で実践していたイスラム教の戒律にしたがおうとするはずだ。

ところがこれには二つの暗黙の前提がある。一つは彼がパキスタンのイスラム教の戒律の元に帰りたいとは思わないことであり、もう一つはもし同じような文化を新しい土地に持ち込んだとしても、最終的には最初に祖国を逃れたのと同じ理由でその土地から逃れることになる可能性が高いということだ。

同様に、「証明書を持たないラテン系」の若者がドナルド・トランプの演説会を邪魔しようとする際も、彼らはよくメキシコの旗を振ったり、「アメリカを再びメキシコにしよう」(Make America Mexico Again)というスローガンを書いたプラカードを見せたりしている。

ところがこの感情的なパラドックスについては注意すべきだ。国外追放される可能性に怒りを感じている市民権をもたない彼らは、自分たちが最も生きたくない国の旗を何の考えもなく振っているのであり、同時に自分たちが断固として居残りたい国の旗を無視しているのだ。

国境というのは、隣家との間にあるフェンスと同じように、それぞれの国を分けるものであり、一方にあるものと、もう一方にあるものを「境界化」するための手段なのである。

国境は生得的な人間の欲望としてある獲得欲や所有欲、それに物理空間への欲求を強めるものであり、これは国境が明確に確定して分離されているものとして見なされ、そのように理解されないと不可能なのだ。

壁やフェンス、もしくは警備パトロールなどによって明確に引かれた国境線や、その管理というのは、人間の本性の中心に響いてくるのであるため、それをすぐに取り去ることはできない。それはローマやスコットランドの啓蒙主義に至るまでの裁判官たちが「モエム・エト・トゥーム」、つまり「私のものとあなたのもの」と呼んだものなのだ。

たしかに友人の間ではフェンスのない国境は友好関係を強化するものだ。ところが友好的ではない人間たちの間では、国境が強化されれば平和を維持することにつながるのだ。

====

デイビス=ハンソンといえば、「西洋式の戦争方法」を提唱したことで戦略研究では「戦略文化」の議論でだいぶ引用された古典学者ですが、この意見記事は米国の古い保守派の意見を代弁しているといえるでしょう。

議論としては「西洋バンザイ」という側面があるためにけっこう雑なところがありますが、フクヤマは「住みたいと思う国に移住することで移民たちは優れた国に足で投票している」と言ったことと通じるところがあります。

以下は放送時の様子です。ご参考まで。

b0015356_15183433.jpg
(南の島)

▼奴隷の人生からの脱却のために
戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!戦略の階層を徹底解説するCD

▼~あなたは本当の「孫子」を知らない~
奥山真司の『真説 孫子解読』CD
奥山真司の『真説 孫子解読』


▼~これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分して結構です~
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座CD
奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座

▼~これまでの地政学解説本はすべて処分して結構です~
奥山真司の地政学講座CD 全10回
奥山真司の地政学講座 全10回



奥山真司のアメリカ通信LIVE

奥山真司のアメリカ通信LIVE
by masa_the_man | 2016-10-16 00:28 | Comments(3)
今日の横浜北部は朝から曇っておりまして、時折小雨になるような状態です。

さて、先週の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/1456284440)でも解説しましたが、タイム紙のコラムニストがアメリカの「トランプ旋風」に対して、やや冷ややかな視点から興味深いコラムを書いておりましたので、その要約を。

ビジネスマンと政治家には求められるスキルが違うことをよく言い表した、とても優れた記事です。

===

なぜビジネス界のスターはダメな政治家になるのか
by ダニエル・フィンケルステイン

16-2/17 The Times

1933年2月1日のことだが、著名な新聞のコラムニストのウォルター・リップマン――彼はアメリカのエスタブリッシュメントの思慮深く健全な代弁者である――は、重要なメッセージを携えて、大統領に選ばれたばかりの人物の待つジョージア州に向かった。

その人物とは、フランクリン・デラノ・ルーズベルトである。彼は世界は金融危機の状況の中で一ヶ月以内に政権を担う予定であり、就任演説に備えているところであった。リップマンはルーズベルトに対して「独裁者なみの権力を握るという気持ちで準備をせよ」とアドバイスしたのだ。状況はそれほど悪化していた。彼は「やや控え目の独裁者になれば、今後の最悪の状況でも対処できる」と述べたのである。

このような言葉は今では少し考えられないところだ。リップマンがジョージア州に向かうたった2日前に、アドルフ・ヒトラーはドイツ首相に就任したばかりだったからだ。同年4月には『独裁大統領』という映画が公開され、その中では大統領が議会を停止して戒厳令を敷くということが行われていたが、これは今から見れば考えられないことである。

ところがこのアイディアをソフトにしたような手段は、政治的に説得力もちつづけ、驚くほど広く潜在的な支持を得ている。これはアメリカだけの話ではなくて、イギリスでも同じである。

たとえばそのアイディアをまとめると「政治家というのは、役に立たない無能で腐敗した個人の烏合の衆であり、自分のカネばかり心配して他人を垣間見ない人間」である。彼らは「本物の仕事」をしたことがなく、何も実行できない、ということになる。したがってわれわれに必要なのは、物事を実現できる人間だということになる。政治の「泡」の世界の中で生きているような人間はそもそも必要ではなく、成功したビジネスマンが必要であり、単なるしゃべりの上手い人間ではなく、勝者、そして実行者が必要だというのだ。

ドナルド・トランプの大統領選の中心にあるのは、まさにこのようなメッセージである。彼のメッセージは、従来の保守派とは違う。彼は「家族計画」を支持しているし、産婦人科での中絶には賛成しているし、イラク戦争におけるブッシュ大統領を批判している。

その代わりに彼が主張しているのは、「政治は失敗した。いまこそビジネスを行うべきである」というものだ。彼は最新刊のCrippled America(未邦訳)の中で「私よりもビジネスのことをわかっている人間はいない」と豪語している。しかも「この混乱した状況は、リーダーシップの中でも最悪の形のものを必要としている」と、まるでリップマンが言ったようなことを述べているのだ。

つまり「アメリカには、常識感覚とビジネス的な洞察を持った人間が必要だ」ということであり、これはトランプ氏が持っている要素だとわれわれは確信できる。なぜなら「私はリッチだ。実際のところマジでリッチだから」である。

従来の候補者たちは政策の詳細を打ち出すのに必死だが、トランプ氏はただ単に他人の実行力のなさに不満を述べるだけである。

たとえば国民皆保険制度の改革についての彼の見解は、「ほとんどのアメリカ人に対して健康保険をリーズナブルな価格で提供するというような複雑な問題に対する私のアプローチは、難しいビジネスの上での問題への対処の仕方と同じだ。つまり世界中で最もこの分野に詳しい人物を集めて一つの部屋に閉じ込めて、最も望ましい方法に合意できるまで考えさせる、というものだ」と述べている。たしかにこれはその通りなのだろう。

共和党が伝統的に訴えてきたメッセージは「政府は大きすぎて、権力を持ちすぎていて、強力すぎる」というものであった。ところがトランプ氏のメッセージは「政府が弱すぎて、役立たずで、使えない」というものだ。政治家は敗者で、彼こそが勝者だ、というのだ。
b0015356_23275571.jpg
(economist.com より)

トランプ氏の無神経さと自己中心的な態度は、たしかに見ものであるが、同時にそれは憂慮すべきものでもある。それでも魅力的なものであることには変わりなく、限界はあるがそれでも強力であり、しかもなかなか収まる気配がない。これには2つの理由がある。

一つは、現在のアメリカの政治に原因がある。長年にわたって大統領府と議会との対立的な関係は決定的となっており、満足した統治ができない状態になっている。アメリカは負債でデフォルトに近づいたり、国際的な協定に合意しづらい状況に陥っている。

言い争いばかりをしている党に対するフラストレーションこそが、トランプ氏に近いような政治的な人物を台頭させる原因となったのだ。イタリアのビジネスマンで首相になったシルヴィオ・ベルルスコーニ氏は、道化でありながら監督でありつつもペテン師という役割を演じていた。ところが彼は有権者たちに政治の霧を取り払う道筋を示したおかげで支持を得たののだ。

しかもベルルスコーニ氏の不適切な行動は、むしろ得票数の増加もつながっている。なぜならそれによって、彼の存在感のほうが彼を追い落とそうとする支配層よりも高まったからだ。彼の法律面でのトラブルは、逆にイタリア政治の複雑にからまった状態を抜けだして勝利を獲得することにつながると思わせてくれたのだ。つまり、彼は「イタリアもベルルスコーニのような存在になれる」と国民に感じさせたのである。

1970年にはイギリスでテッド・ヒースという人物が「ビジネス的な政府」というアイディアを推進して権力を握っていた。彼は「言葉ではなく行動を」と約束し、イギリス産業連盟(=経団連)のトップであり、ビジネスマンとしても成功していた、ジョン・ディヴィスを貿易産業省兼務の筆頭国務大臣につけたのである。

実業界の大物に対する魅力というのは、その国の政治の力が弱まっている時、つまり国民が巨大で顔の見えないグローバル化や機械の自動化などの力に対して、自分たちの無力さを感じた時に強まるものだ。そうなると、「実力のある人間に任せよう」ということになるわけだ。ところがこれは(イギリス独立党の)ナイジェル・ファラージの得意技であることを忘れてはならない。しかも彼が自身の党や唯一の下院議員さえ満足に掌握できないことは言うまでもないだろう。

これらのすべてが、トランプの2番目のアピールにつながる。しかもこれはイギリスの場合にも当てはまるものだ。つまり政治の性質や目的といったものに対する、根本的な勘違いである。

たしかに政治家というものは、議論したり対立したりするものであり、大きな夢を描きつつも妥協を迫られ、後退したりUターンしたりを永遠に繰り返すし、わずかな進歩しかもたらさずに支援者をがっかりさせることもあるし、ある利益団体から常に妨害されたり、別の団体から裏切られることもあるものだ。

ところが政治家の存在意義はそこにある。政治は、対立する多くのアイディアや価値観、そして状況などを平和的に解決するため、そして統治のための、何らかの合意を形成するために存在するのだ

したがって、人々が求めることが阻害されるだけの理由はあるのだ。たしかに政治がものごとの実現を止めてしまうことは多々あるが、それこそがそもそもの目的である場合もある。あえて実行を阻害するような政治体制は、そもそもトップに無謀な行動をさせないようにするためのものでもあるからだ。あまりにも多くの人々にトップをコントロールための権力や手段が分散されている。つまり彼らは命令を受けるのではなく、招き入れられなければならないのである。ビジネス系の人間が政治の世界で失敗することが多いのは、このような状況を理解することができないからである

たとえばジョン・ディヴィスの任命は完全な失敗に終わった。その後に別のビジネスマンが貿易産業省の大臣になったがそれもわずか一年ほどで辞めている。

そして政治家というのは、われわれとほぼ変わらないような存在であるし、そうあるべきである。つまり彼らも、混乱して、野心的で、有望で、親切で、理想主義者的であり、実利的であり、自己中心的であり、虚栄心を持っていて、面倒見がよく、あまりにも楽観的なのだ

地球上で最もリッチで安全で寛容な国々がおしなべて民主主義体制であり、しかもたった今この瞬間に、おそらくこの国々の中で生きることが人類史上最も望ましい状態であるというのは、たしかに「英雄的」なことではないかもしれないが、それでも十分だと言えるだろう。

===

一見するとトランプ批判とも受け取られかねないですし、実際そのようなメッセージを意図しているのかもしれませんが、私はここに政治の複雑さというか、政治家がこなす任務の難しさというか、そこに求められるスキルの特殊性というものを浮き彫りにしてくれる、優れたコラムだと思います。

たしかにビジネスだと会社のトップはかなりの「独裁者」になれますが、政治の場合は国内にそれぞれ言うことを聞かない各種利益団体や見解の違うメディアなどがあって、利害調整が恐ろしく複雑で大変ですから、社内での「独裁者」のようにはなれませんよね。

こういう「政治の複雑性」や「政治家に課せられた任務」を教えてくれるという意味でこのコラムは非常に有益です。政治家、とくに政権を担って指導力を発揮するのって大変なんですよ、ホント。

b0015356_1292269.png
b0015356_21405149.png


▼~あなたは本当の「孫子」を知らない~
奥山真司の『真説 孫子解読』CD
奥山真司の『真説 孫子解読』


▼~これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分して結構です。~
奥山真司の現代のクラウゼビッツ『戦争論』講座CD
奥山真司の現代のクラウゼビッツ『戦争論』講座

▼奴隷の人生からの脱却のために
戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!戦略の階層を徹底解説するCD

奥山真司の地政学講座
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/geopolitics.html
奥山真司の地政学講座 全10回

奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy2/live
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2016-02-29 09:22 | Comments(4)

ルトワック特集

今日の横浜北部はなんとか晴れました。朝晩はかなり涼しくなりましたが、昼間はまだ半袖ですかね。

さて、すでに番組でもお話した通り、先日私はエドワード・ルトワックという人物に、2日間にわたって伊豆の温泉で泊まり込みインタビューをしてきました。

知らない人もいらっしゃると思いますので、参考までにルトワック氏がどういう人物かといいますと、アメリカをはじめとする世界で活躍する軍事・戦略コンサルタントです。

国家の幹部教育から戦争指導、それに立てこもり事件解決の現場指揮まで、実に幅広く活躍している元軍人で、いわゆる「戦略家」という称号にふさわしいことをやっております。

学術的な面でも戦略研究では有名な人物であり、主著である『エドワード・ルトワックの戦略論』で提示された戦略の「逆説的論理」(paradoxical logic)というのは、西洋の近代戦略論に時間やタイミングの概念を持ち込んだという意味で革命的であるという評価を受けております。

私がこの人と知り合ったきっかけは、彼の『自滅する中国』を翻訳してからなのですが、今回のインタビューは、この本のいわば「アップデート版」を日本で先行して刊行したいという本人の希望から実現したもの。

具体的には彼に私がインタビューを行い、それをまとめて来年初めに新書として出すことになったのですが、今回の合計4時間半ほどにわたる内容を、軽くポイントにまとめて簡単にご紹介したいと思います。

まずルトワック氏は、2008年以降の中国が決定的に大きな間違いを犯しており、これによって他国の反発から「反中同盟」の結成(バランシング)を引き起こした、というのが『自滅する中国』までの内容。

この間違いに気づいた習近平率いる中国が、ここ一年ほどで軌道修正を行っていることを指摘。ところがこの軌道修正は時すでに遅しで、米国とは決定的な決裂に陥ったのが最近の習近平訪米。

よって南シナ海では対立が深まり、習近平自身も国内問題の山積で窮地に陥ることになるが、ここで「逆説的論理」が発動するので日本には大きな勝機が出てくる・・・・このような内容でした。

詳しくは明日(13日)夜の特番や(http://live.nicovideo.jp/gate/lv235238655)来年に出る新書を参考にしていただきたいのですが、その視点は、既存の国際関係の視点にはない、まさに「目からウロコ」のアイディアがつまっております。

ぜひご期待ください。




▼奴隷の人生からの脱却のために
戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!戦略の階層を徹底解説するCD

奥山真司の地政学講座

※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/geopolitics.html

奥山真司の地政学講座 全10回




奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2015-10-12 20:35 | Comments(2)
今日の横浜北部は昼まで降ったりやんだりでしたが夕方にはなんとか雨が上がりました。

さて、遅きに失した感がありますが、一つお知らせがあります。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、日経ビジネスオンラインというウェブサイト上で、地政学入門という形で4月末から連載をしておりました。

途中で休んだこともありますが、基本的に一週間一本ペースで書いておりまして、すでに9回分を書き上げました。
b0015356_2158025.jpg

タイトルは“「あなた」のための「地政学」講座”というものでして(例によってタイトルは著者に決定権限はないのですが)、現代の国際政治に役立つものの見方を、本ブログのみなさんもご存知の通りの、古典地政学の理論をベースにわかりやすく説明するというスタイルです。

ちなみにすべての回を列記しますと、

第1回:キッシンジャーがタブーを破った禁断の「地政学」

第2回:『坂の上の雲』に登場するマハンが唱えたシーパワー:陸の勢力と海の勢力の二項対立

第3回:地政学の父マッキンダー:欧州の成り立ちを地図と歴史で解く

第4回:「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマン

第5回:ヒトラーに地政学を個人教授したハウスホーファー:「日独防共協定」に関与

第6回:米国と地政学:戦後のソ連との戦い方を戦前ドイツに学ぶ:基本は「上から目線」

第7回:地政学的手法で斬ると見えてくる“ギリシャ危機の真の姿”

第8回:米中関係を地政学的に分析する:「地理的世界観」が全世界に影響

第9回:中国がかわしたい米国の“海峡封鎖”:大国の世界展開は「内海」の確保に始まる

となっております。

おそらく次は北極海の地政学について書くことになりそうですが、原稿の元ネタは次に出す予定(のハズ)の本の草稿なのです。

意外に思われるかもしれませんが、今回の連載を通して私が全般的に主張したいのは、「現在の国際政治のすべてが(古典)地政学で説明できるわけではない」ということです。

ただしそれに付け加えて言いたいのは、「それでも地政学的な視点が重要性を帯びてくる場合があるので、最低限この知識はもっておこう」というものです。

あえてたとえるならば、(古典)地政学的な視点というのは、現代の国際政治全般を山の森にたとえると、その森の下にある「地層」の部分に注目するような見方でしょうか。

普段は金融や情報通信のようないわゆる「第三の波」的な分野がわれわれの日々の生活の中心でして、これは山や林の中にどのような花や木の実がなっているかが最大の関心のようなもので、その下にどのような地層や土の種類があるのかはあまり自覚されないのと似ています。

ところがいざ台風が来たり、地震が起こったりすると、森の下が地すべりを起こしたり、その近くを通る川が氾濫したりするなど、地質学的な要素、つまり地政学的な要因というものが突然決定的な重要度を高めてくるのと一緒です。

地政学、および地理的な要素というのは、たしかに普段はそれほど要素的に活躍はしませんが、何かの拍子に(好むと好まざるにかかわらず)フォーカスされてしまうわけで、だったら無視せずに勉強しておきましょうよ、と私は言いたいのです。

ということで、もう少し連載のほうを続けます。


ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』CD


ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』

※詳細はこちらから↓

http://www.realist.jp/clausewitz-business.html



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2015-06-12 21:59 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から冷たい雨でした。雪にならないのが不思議なくらい寒いですが。

さて、ISISの日本人人質問題に関してコメントしたいところでしたが、先日の「中国の権力に屈し始めた西洋社会」というエントリーで紹介されていたオバマがNYタイムズ紙の記者の質問を無視した習近平を擁護して何も言わなかった決定的なシーンがあることを、ポールさんという方にコメント欄で教えていただきましたので、そのシーンの動画を貼り付けておきます。



問題の箇所は1:03あたりですかね。たしかにそういうジェスチャーしてます。

ただし記事とは違って、一応習近平はその後に国ごとのメディアの対応の違いについては答えてますね。それでもビザ問題については全く答えてないですが。

とりいそぎご参考まで。





奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2015-01-22 19:40 | Comments(0)
今日の横浜北部は朝から曇っておりました。日中少し晴れましたが、なんだか梅雨空でしたね。

さて、一昨日のエントリーの続きを。

b0015356_0175277.jpg
The Atlantic より)

===

「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン

●「抑制」戦略を進める戦略家たちは、現地の政治家たちのことを、自らの持つ「武器」と共に知的に国益を追及する「戦略的アクター」だと考える。

●このような時に使われる「武器」の一つが「ウソ」である。

●「サージ」が行われている時期に、アメリカはマリキ政権がスンニ派と手打ちをするために多くの障害を越えなければならないと主張していたのだが、マリキ自身はこれらのことに「努力する」と言っていた。つまり彼は、アメリカ側が聞きたいことを言ったのだ。

●米国防省は連邦議会からイラクの状況における「進展」を年四回報告するように義務付けられていたのだが、これらを読んでみると、政治・経済の部分の報告の内容はひどいもので、ほとんど進展などはなく、さらには米軍がイラクから2011年12月に撤退してからは、その報告書さえ出なくなっている。

●多数派であるシーア派の支援を受けているマリキ首相は、なぜスンニ側に歩み寄ろうとしないのであろうか?彼にとって話し合いの場ができることは理に叶うのに、

ところがイラクでは「アイデンティティ政治」が強烈であるために、話し合いを実行することはできないのであり、彼は言ったことを実行するつもりはない。彼にとっての最高の戦略はアメリカに「安乗り」(チープライド)することだ。

●アメリカは、彼らをスンニと戦わせて和解させ、イラク軍を強化してインフラを再構築し、イラクに国としてのまとまりをつけさせて国力を上げさせるべきである。

●私を含む何人かの人々は、アメリカの撤退後にマリキ首相はアメリカへの「安乗り」を止めて、スンニ側に近寄り、アメリカが抜けた穴を埋める働きをしてくれるのではないかと考えていた。ところがものごとはその通りに行かなかった。

●もちろん証明はできないのだが、私は「状況が悪くなればアメリカかイランが助けに来てくれる」とマリキ首相が考えていたのではないかと疑っている

●たしかにこれはありえそうな話だ。もしそうだとしたら、現在「マリキはイラク国内をまとめる努力をすべきだ」と考えている人々は完全にナイーブであることになってしまう。マリキ首相は外からの援助を受けるためだったらでまかせでも何でも言う、ということだ。彼自身は何もできないのである。

●また、彼の過去の行動パターンを見てもわかるように、「少しは妥協の用意がある」という声明を発表しても、スンニ派にとってはまったく信頼できない。

●他にも、「抑制」戦略の人間は、軍事力に対して一定の敬意を払っていることが挙げられる。彼らは無人機や精密兵器、飛行機などについては他の人々と同じように尊重している。

●もちろんたった一回の攻撃を映した映像――ミサイルが建物に命中して火花を上げ、悪い奴を排除している様子――というのは奇妙なほど安心感を与えてくれるものだが、それでも戦争は戦争であり、それはメスの一切りではなく、斧を振り回す戦いなのだ。ひとたび斧が振り回されはじめると、そこには意図しなかった結果が生じる可能性が出てくる。

●もしアメリカがイラク軍がモスルやその他の都市の奪還を航空支援を提供することによって援助すれば、そこに住むスンニ派の人々のアメリカに対する感情は悪化するだろう。またもしアメリカがこのような航空支援や情報を提供すれば、イラク軍自体も成長することはないのだ。

●このような状況は、アメリカの国益にとっても致命的だ。スンニ派のすべての人々は、アメリカがイラクにおけるシーア派の覇権を助けていると知ることになるから。もしアメリカ市民の安全に関心があるのであれば、アメリカがこのような役割を果たすのは賢明だとはいえない。

●イラクとシリアにまたがって存在するISISの「国家」は、西側のターゲットを攻撃することを目論んでいるイスラム系のテロリストに「聖域」を与えることになるかもしれない(ただし現時点ではこれがISISの計画に入っているという兆候はほとんどないが)。

●実際のところ、「ISISスタン」はよい根拠地にもならないし、安全を確保できるものでもない。彼らには国際的な空港や港もないし、その隣国である、ヨルダン、アサド政権のシリア、トルコ、イラン、クルド自治区、シーア派が中心のイラクなどから協力を得ることは難しいだろうし、彼らとは実際に敵対しているのだ。また、それらの国々の間を行き来するのも難しいだろう。

●地域におけるISISの野望を考慮すれば、これらの隣国たち(それぞれ国境を往来する過激を警戒している)との関係がさらに悪化することが予測される。

●さらにはスンニ派も孤立してしまえば自滅する運命にあるし、その中にはさらに過激な勢力と手を組もうとする勢力が出てくる可能性がある。

アメリカはこれらのどの勢力にも肩入れすべきではない。どこかに肩入れして、たとえばインテリジェンスを提供してしまえば、その情報が世界中に知れ渡ることになり、逆にアメリカに対してその情報が使われてしまうことにもなりかねないのだ。

●もちろんアメリカはイラクのために戦って血を流したために、その戦闘を支持する人々の中には、以前と同じ達成不可能な目標をさらに追及しようとする人がいることは理解できる。

●このような目標にはリベラルな民主制の、宗教派閥で分裂していないイラクの建設などが含まれるのだが、これは海外で改革計画を推し進めようとする情熱を共有しているアメリカの民主・共和の両党の対外政策担当者たちにとっては好ましいものとなる。

●ところがこのような目標は、アメリカにとっての「致命的に重大な国益」とはならない。これをいいかえれば、これらはアメリカが多数の命を奪ったり失なったりしてまで達成したい国益ではないということだ。

●しかもこれらは何をしてもおそらく実現不可能なものばかりである。事実上の分断状態こそが、唯一受け入れ可能な結末だからだ。

●最後に、われわれがアメリカ国民の意見としてわかるのは、オバマ大統領が選ばれた時の民意はイラクから撤退することにあったということだ。彼はイラク撤退を公約して大統領になったのだ。

●「抑制」を推進する人々の議論は、イラクで新たに軍事介入をするのは不要であり、賢明でもないというものだが、その他にも、われわれは「これが民主的な形で表明されたアメリカ国民の考えに沿ったものかどうか」という点を考慮しなければならない。

●国内の民主制から生まれた意見を無視して、海外の分断された暴力的な社会で無駄な目標を追い求めるのは実に奇妙なことと言えるからだ。

===

このポーゼンの「抑制」という大戦略の考え方は、基本的に「オフショア・バランシング」に近い考え方ですね。

ただし新刊のほうを読むと、オフショア・バランシングの「オ」の字も書いていませんが(苦笑

そういえば新たに「イラク3分割案」も出てきておりますし、米国の中でもこれくらいの撤退だったらOKという雰囲気が出てきていることは注目ですね。なんだかベトナム末期化してきました。





奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



by masa_the_man | 2014-06-26 00:13 | Comments(4)
今日の横浜北部は朝からスッキリ晴れております。しかし風は強く、気温も低めでした。

さて、ジェームス・ホームズ海軍大学教授による「中国に沖縄取られたら」論が面白かったので、この要約を。

ちょっと長いので三回分にわけて掲載します。

===

中国は日本の南西諸島を奪うかもしれない
BY ジェームス・ホームズ

●4月6日に東京で行ったスピーチの中で、チャック・ヘーゲル国防長官はけっこうあからさまに中国の尖閣に対する侵略的な行動について触れている。

●曰く、国家というものは「強制力、強要、そして脅しなどによって、国境を書き換えたり領土保全を破ったり国家の主権を侵害してはらない」ということであり、これは「太平洋の小さな島であろうが、ヨーロッパの大きな国家であろうと関係ない」というのだ。

●その2日後に、ヘーゲル長官の相手となる中国の常万全国防相はそれに反論して、「中国は尖閣について議論の余地のない主権」を持っていると述べ、同時に「中国軍は招集がかかればすぐにいかなる戦いにも勝つことができる」と言っている。

●北京政府の尖閣に対する立場は明確だ。ところが尖閣は食後の「デザート」なのだろうか?それとも「前菜」なのだろうか?もし中国軍が尖閣を占拠したら、そこから近くの琉球諸島まで手を伸ばすだろうか?

●これは別に荒唐無稽な話ではない。日本の戦略家たちは、この琉球諸島にとっての最悪のシナリオをいかに阻止するのかに頭を悩ませている

●これについてはアメリカも心配すべきであろう。琉球諸島は尖閣諸島から東へ170キロほどしか離れていないからである。琉球諸島には150万人の日本人が住んでいるだけでなく、アメリカの海兵隊と空軍の基地が東シナ海ににらみを効かせている場所だからだ。

●中国琉球諸島を占拠すれば、アメリカの東アジアにおける戦略的ポジションに亀裂が生じることになり、日本の北にある在日米軍基地と、はるか西のバーレーンまでを引き離して空白地帯を作ってしまうことになる。

●また、少なくとも米軍の艦船と航空機は、中国が占拠している島々や水域、そして空域などを迂回しなければならなくなり、これには長距離移動にこれまで以上にコストがかかることを意味することになる。

●島嶼戦というのは今日の時代にとっては時代遅れに見えるかもしれないが、中国にとっては琉球諸島のいくつか、もしくはすべてを獲得するのは、戦略的にも理にかなっている

●現在、日米両軍は東シナ海を西太平洋から包囲することができるのであり、この地域を通行する艦船や航空機を攻撃できるような兵器を琉球諸島に備えることによって、中国の艦船がこの海域に出入りするのを阻止できる状態にある。

●ところが近海での人民解放軍の攻勢によって、西太平洋への中国の軍艦や商船にとってのアクセスは確保されることになり、この致命的な海域を遮断しようとする日米側の動きを尻込みさせることになるのだ。

●また、琉球諸島の征服には利益もある。琉球諸島に人民解放軍が海・空・ミサイル部隊を置くことができれば、中国は東シナ海へのプレゼンスを突出させることができるのだ。

●日本の南西方面にある部隊は、アジアの沿岸地域における南北方向の動きや、西太平洋深くまでの動きを脅かすことができる。海洋のコントロール、つまり海上交通と航空ルートを閉鎖する能力は、北京政府に政治的影響力を授けることになる

●もし人民解放軍が沖縄をコントロールできれば、これはさらに米空軍と海兵隊を撤退させることになり、アジアにおけるアメリカの戦略ポジションを低下させることになる。

●もちろんこれは中国にとってかなりリスクのある動きとなる。沖縄の米空軍は1万8000人おり、中国が沖縄をとろうとすれば、これは多くのアメリカ人の命が犠牲になることを意味するため、全面戦争にならざるを得ない。

●それでも北京政府は迅速かつ強烈な打撃を与えることによって、ワシントン政府に既成事実を突きつけることを計算に入れているかもしれないのだ。

●沖縄が中国の手に落ちれば、それを取り返す義務がアメリカに生じることになるのだが、これは不愉快な展開である。中国側はアメリカのリーダーたちがそこまでして取り返したいとは思わないと信じて賭けに出るかもしれない。

●そして愛国的な中国人たちにとって重要なのは、琉球諸島での動きは東京政府に対して一泡吹かせることにもなる、という点だ。また、これによって「日本が17世紀から19世紀後半まで帝国主義的な日本が琉球を占領した」という彼らが「歴史上の不正行為」だ考えることを正すチャンスが訪れるかもしれないのだ。

●また、これが成功すれば、アジアの序列における中国のトップへの復帰を宣言することにもなる。しかもこれほど目覚ましいやり方はないのだ。

●簡潔にいえば、琉球諸島の奪取は、中国側にとって「非常に大きなリターンがあり、西太平洋におけるアメリカの支配状態の終焉の到来を早めることになるマイナーな作戦」と見られる可能性があるということだ。

===

この続きは下のエントリー(↓)にあります。


by masa_the_man | 2014-04-13 10:38 | Comments(5)
今日の横浜北部は午後から曇りでした。また気温が下がってきましたね。

さて、昨日に引き続き、今日もリアルタイムで状況が動いているウクライナ情勢に関する分析を、すでに流したメルマガから。

前回は、焦点になっているクリミア自治共和国内の人種構成から、

1,ロシア系
2,ウクライナ系
3,タタール人

というパワーの関係があり、これを「バランス・オブ・パワー」の観点から、

1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている

という「分断統治」のメカニズムを指摘しました。

もちろんその後に色々新しい動きが出てきましたので、これを踏まえた上で、さらに分析を進めてみようと思っております。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

まず注目していただきたいのは、西側のメディアで、クリミアの「3位」のタタール人を支援すべきだ、という論調の記事がいくつか出てきたことです。たとえばNYタイムズ紙は、

過去を知っているタタール人の多くはロシアの将来を心配している

という報告記事を出して、「タタール人はロシアを恐れているぞ!」ということを指摘しております。

これと似たような記事については、私もブログで紹介しております。

クリミアのタタール人を救え

(引用はじめ)

しかし人間的な面でわれわれが本気にならなければ問題は、クリミアのタタール人である。

●イスラム系のタタール人は、ロシア帝国がオスマン帝国が彼らの住む半島を割譲したときから何度も迫害にあっており、スターリンは民族浄化を試みているほどだ。

●1944年にはタタール人のほとんどが中央アジアやシベリアに強制移住させられており、その半分近くが殺されている。

●もちろんガス室や強制収容所があったわけではないが、タタール人の恐怖を理解するのに一番わかりやすいのが、ドイツに突然占領されてしまうことを恐れていた東欧のユダヤ人の例である。ちなみにドイツはこのホロコーストの責任に関してはまだ認めていない。

●たしかにこれが過大評価だと感じられても仕方ない部分はある。しかし、クリミアで暴徒がタタール人の家の扉に黒い塗料で☓印をつけて回っていると報じられており、これは1944年のユダヤ人の国外追放を思い起こさせるには十分なものだ。

(引用おわり)

どうでしょうか?

たしかにこの記事を書いた著者の言う通り、クリミアのタタール人というのはまさに戦前のユダヤ人のような迫害を受けた過去を持っているという点では間違いないでしょう。

しかし私が特に気になったのは、どうして今のこのタイミングで、西側のメディアからタタール人の過去や悲惨な状況に注目したこのような記事が出てきたのか?という点です。

繰り返しになりますが、ついこの間までのクリミアでは

1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている

という構造があったわけですが、もし西側がこれに対抗しようとすれば、いままで「2位」のウクライナ系を支援するだけではダメ

では、さらに何をしなければならないかというと、「3位」のタタール人を取り込むことによって、1位」のロシア系を孤立させるという、同盟構築作業が必要になってくるわけです。

これをもっとわかりやすくいうと、現在ウクライナ国内のクリミア自治共和国内で起こっているのは、

●ロシアの狙い:ロシア系(1位)とタタール人(3位)でウクライナ系(2位)を孤立

●西側の狙い:ウクライナ系(2位)とタタール人(3位)でロシア系(1位)を孤立

という人種構成をめぐる争いなわけです。そして、ここでポイントになるのは、

ロシア(露)系とウクライナ系(西)の、どちらがタタール人を取り込むか

という争いの行方です。ややうがった見方かもしれませんが、西側のメディアが、あたかも"タタール人へのシンパシー"を駆り立てるかのような報道をしているのは、

クリミア内の3位であるタタール人を支援することで、間接的に1位のロシア系に対抗しよう

という意志があるからだ、という分析もできるのです。

「いやいや、おくやまさん、それはいくらなんでも考えすぎでしょう」

と、今回もツッコミが入りましたね・・・

確かに、このような報道は、純粋に「ロシアは嫌だ!」というタタール人自身からの働きかけで書かれたのかもしれませんし、記者たちが純粋にジャーナリストとして報道しなければならない!という正義感から書いている記事なのかもしれません。

しかし、ここで敢えて本ブログの読者の皆さんに考えて頂きたいのは、このような西側メディアの報道が、西側の「ウクライナ系支援」というアジェンダを持った「プロパガンダ」に利用される可能性を(間接的にせよ)持っているという点です。

そして、これは「善悪」では割り切れない、国際政治をめぐるメディアの役割の実態をそのまま暴きだしているとも言えるのです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

今回ご紹介したような報道から見えてくるのは、クリミア内部の人種構成の中に「バランス・オブ・パワー」の概念が教えるメカニズムが見えてくる、ということです。

前回と今回の分析から導かれる「バランス・オブ・パワー」のエッセンスをまとめると、以下のようになります。

●1位は、3位と組むことで、2位を抑える(強者による分断統治
 ※ロシア+タタールでウクライナに対抗

●2位は、3位と組むことで、1位に対抗する(弱者連合、バランシング同盟
 ※ウクライナとタタールで、ロシアに対抗

読者の皆さんの中には、前回と同様に、

「うわー、汚いなぁ・・・」

と思われた方もおられると思います。

ですが、冷静に考えてみると、これはあらゆる人間集団において観察されるメカニズムであり、程度の差はあれ、我々はこのような<冷酷な現実>から逃れることはできないのです。

アリストテレスは、「人間は社会(ポリス)的な動物である」と言いました。

そして、このような人間と社会に付き物の、集団のメカニズムの存在を冷酷に理解することが、国際政治をはじめとする、あらゆる人間の集団の営みを理解するための第一歩なのです。

クリミア編入を踏まえた続きの分析については、次号のメルマガでやります。


by masa_the_man | 2014-03-19 20:27 | Comments(19)