南シナ海:中国擁護論 |
さて、南シナ海における中国の埋め立て問題に関して、リベラルなジャパンタイムズ紙が中国側の立場を擁護する論調の米国の専門家の記事を掲載しており、非常に興味深かったのでその要約を。
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新たな「中国バッシング」の始まり
BY マーク・バレンシア(中華人民共和国海口市の中国南海研究院の非常勤上席研究員)
●我々は再び「中国バッシング」を目にしている。今回の理由は、南シナ海での島や暗礁の埋め立て活動である。米国防総省は、中国が現状を変更し、政治的に不安定な状態を発生させ、国際的な法や規範からはずれ、これらの「地形」(features)と呼ばれる場所を「軍事化」していると非難している。
●アシュトン・カーター米国防長官はとりわけ「暗礁を航空基地にすることは主権の行使の範囲に該当するとは言えず、国際的な空と海の交通を制限できない」と非難している。フィリピンやベトナムはさらにひどいことを述べており、とくにフィリピンは中国のことを戦前のナチス・ドイツになぞらえている。
●本稿は、中国の行動や政策、とりわけ中国側の主張するレトリックや行動――そしてその明確化や説明を行うことを拒否していること――を擁護するものではない。ここではアメリカやその他の国々が中国が罪を犯した、もしくはこれから犯そうとしていると考えていると理解している。
●実際のところ、中国のレトリックとそれまでのコミットメントは実際の行動と一致していないと受け取られ、これが疑念や「最悪のシナリオ」についての想定などを発生させている。中国が埋め立てた地形をスプラトリー諸島での軍事的プレゼンスやコントロールを強化するために使ったり、とりわけそこで防空識別圏を宣言して強化することについては、深い懸念があるのだ。
●まずここで、事実と幻想をわけて考えてみよう。
●中国は南シナ海のすべての地形について領有権を主張している。ところがベトナムと台湾も同じ主張をしている。フィリピンとマレーシアは、そのうちのいくつかを主張している。現代の国際法における「主権」を構成する基準である、継続的かつ実効的な支配、統治と制御という面では、この場合のすべての主張者たちには弱みがある。
●スプラトリー諸島には「チュオンサ島」と、台湾が支配している「太平島」を含む、いくつかの「法的な島」がいくつか存在する。中国はこれらを占拠していないが、占拠は「主権」にはならず、中国は主権を主張していない。これらの島は「人間の居住又は独自の経済的生活を維持」できているように見える。これは12カイリの領海、200カイリの排他的経済水域(EEZ)、そして最大350カイリの大陸棚を有することにもなる。
●もちろんそれらの主権の主張、その領域の広がりやスプラトリー諸島の「地形」などは、係争国同士で交渉されるべきものだが、中国はいくつかの「干潮時にも海面上に現れない暗礁・砂州・堆」(submerged features)などを、これらの法的な「島」からのEEZの内部に入るものとして主張しているのかもしれない。これらは主権を有することにはならないが、自国の主張するEEZ内で人工構造物を埋め立てる権利になる可能性がある。
●別の主張では、中国が埋め立てている暗礁・砂州・堆は、領有権を主張している「島」の領海の中に入るものであったり、その島の周辺の「領海基線」の内部にある、とするものがある。そうなると、それらは主権の範囲内ということになる。もちろんこれらはかなり誇張したものかもしれないが、それでもそれを使った議論の可能性は否定できない(そして他の主張者たちも同じことを主張できる)。
●とにかく最大の問題は、中国がどのような主張を行っており、その理由がどのようなものなのかを誰も知らないという点だ。ただしここで言えるのは、アメリカの法的な立場は「ホームラン」というわけではないということだ。
●ここでのポイントは、たとえば「領海基線内」というシナリオの場合、中国はいくつかの暗礁・砂州・堆や12カイリの「領海基線」の内部においては領有権の主張を行うことが可能だということだ。したがって、カーター国防長官の批判には議論の余地が出てくることになる。
●中国が主張するEEZ内の「人工構造物」は、最悪の場合でも500メートルの「安全水域」の主張は可能であろう。この領域は上空にも拡大させることができ、中国の「軍事警戒圏」(外国の航空機の接近の際に警告する)の設定は合理的だといえるのだ。
●中国が占拠し、埋め立てを行っている法的な「島」(クアテロン礁、フィアリー・クロス礁、ジョンソン南礁)のおかげで、これらは領海となり、これにともなって上空通過の禁止も適用できるだろう。したがって、アメリカのこれらの地形の上空と領海の通過は、中国の主権の主張に対する挑戦だと見られかねない。
●おそらくアメリカの立場は「主権が確定しておらず、どの主権も認められない」というものだろう。もしくは、アメリカは中国側の「外国の軍艦が領海に侵入する際にはあらかじめ知らせるべき」とする管理方法に挑戦する意図をもっているのかもしれない。ところがベトナムも同じような管理方法を使っており、同じような挑戦をアメリカから受けるべきであることになる。
●つまりここでのポイントは、何がアメリカにとっての問題であり、それがなぜなのか、その理由が不明確であり、それが中国側に誤解されやすいということだ。
●中国側が地域の規範に即していないという批判についてはどうであろうか?すべての係争国たちが、自国が占拠している地形の周囲の土地を埋め立てており、軍を使ってそれらを維持し、使用可能なものにしている。もちろん中国の埋め立ての規模は、それらの当該国たちのすべてを合わせたものよりも大きい。おそらく中国は、この海域の民間的な問題の管理は、それを行う国の広さ、人口数、そして経済の規模に見合ったものであるべきだと考えているのかもしれない。
●よって、中国がこの地域の責任についてのビジョンと能力の面において、小規模な国家たちのものをはるかに上回っている点については、驚くに値しない。
●では中国の防空識別圏の主張はどうであろうか?実際のところ、このような識別圏の法的な基盤や「ルール」というのは(おそらく「自衛」もしくは「上空通過の自由」という一般的な原則をのぞけば)存在せず、自衛の場合はとりわけどの国にとっても優先事項である。
●防空識別圏については、アメリカが第二次大戦後に、自国や日本、台湾、そして韓国に対して前例として確立したものであり、どうやら他のすべての国もこの防空識別圏をモデルにすべきであると考えているようだ。ところが最初に確立したからといって、その事実によって「すべての国が従うべきルール」としては正当化できず、とりわけ国際的な合意がない場合は問題となる。
●こうなると中国は、パラセル島やおそらくプラタス島をのぞいた係争地となっている島や海域以外では、自国の海岸線から200~250カイリを防空識別圏として宣言できることになる。
●このような議論は、理論面での要件やその実行の面で問題を作り出すにせよ、中国に対して批判的な人々のほとんどが認めざるを得ないものであろう。たしかに正統性の面で懸念となるのは、中国が東シナ海で宣言した防空識別圏にも同じようなルールや規則が適用されることである。これには防空識別圏に侵入する外国の航空機が、たとえ通過するだけの場合や、最終到着地が中国の領空内ではなくとも、あらかじめ中国側に通達を行うことなどが含まれる。
●ところが中国はこれまでこのようなことを実行しておらず、日本は台湾の航空機が自国の防空識別圏に入る際に同じような要求をしており、オーストラリア、ミャンマー、そして台湾も外国の航空機が自国の防空識別圏に入る際には同じような要求をしているのだ。
●ここでのポイントは、中国にも自分たちの防空識別圏を宣言する権利があり、数か国との係争地域でなければ、この行為そのものが不安定化要因とはならないということだ。
●ところが、スプラトリー諸島のいくつかや海域を含む中国の防空識別圏は、かなりの懸念材料になりうる。これはアメリカ、日本、そして東南アジア諸国たちにとって「航空路やシーレーンを含む南シナ海をコントロールしたい中国」を表すために最悪の恐怖を巻き起こすことにつながる。 彼らにとっては「航行の自由」への脅威と映るし、アメリカにとっては「越えてはならない一線」(レッドライン)となる可能性があるのだ。
●本稿の結論は「中国の行動は、原則として他の国々がやってきたことと見合ったものである」というものだ。また、米国は主権問題に関しては中立とは見えないのであり、中国を批判する国々も偽善者だということだ。
●おそらくここですべき最も鋭い質問は、一体誰が、どの現状維持の状態を崩しており、地域を不安定化させているのか、という点だ。それは中国の埋め立て活動なのか、それとも米軍のリバランスと、中国からの政治的・軍事的野望の挑戦――とりわけ領有権の主張――についての感覚なのだろうか?そのようなアメリカの政策とその遂行は、紛争を解決して平和と安定に寄与するのだろうか?それともその状況を悪化させているのだろうか?
●南シナ海におけるすべての領有権主張国たちは、ガイアナ対スリナム事件における「係争地における物理的な地形を変化させる一方的な行動をとるべきではない」とする、仲裁裁判所の裁定に違反している。これはもちろん島の主権にも適用できるものであろう。
●さらに、アメリカやオーストラリアのような第三者がそのような係争地で一方的な行動を起こすことがいいのかどうかも問われるべきだ。
●匿名のある米政府高官は、中国の埋め立て活動に関して「そこには軍事的な脅威はなく、むしろ象徴的な意味のほうが大きい」と述べているが、これはおそらくこれまでの意見の中で最も正確なものであろう。
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「国際法的な立場からは中国の立場も理解できる」という議論ですが、その議論の立て方がとても興味深い。
彼自身は現在の立場があることから、どうもその議論にバイアスがかかっているという印象を及ぼしており、突っ込みどころが多い点は否定できないですが、逆に中国側がこれを参考にして領有権を正当化してくることがわかるという意味で大変貴重なものかと。
結局のところ、このような議論を見る限り、やはり国際政治の問題は(残念ながら)パワーの問題なのだと感じざるを得ません。

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