地政学を英国で学んだ
2023-12-02T00:28:48+09:00
masa_the_man
戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中
Excite Blog
ウクライナの戦場でゲームに興じる兵士たち
http://geopoli.exblog.jp/33561996/
2023-12-02T00:28:00+09:00
2023-12-02T00:28:48+09:00
2023-12-02T00:28:48+09:00
masa_the_man
ニュース
さて、復活第二弾の試訳です。これはウクライナでの兵士たちが、日常的にオンラインゲームをプレーしている様子を現地取材したものです。NYタイムズ紙の記事なんですが、記者はアメリカの元海兵隊の歩兵。
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ウクライナ兵が最前線でプレイするスマホゲーム
by トーマス・ギボンズネフ 2023年8月21日
戦車の戦争には『World of Tanks』がある。 ウクライナの数百マイルに及ぶ前線のどこかで、ウクライナの兵士がおそらくビデオゲームの『World of Tanks』をプレイしていることだろう。ある戦争の英雄は最近、ログイン情報を紛失したため新しいアカウントを開設しなければならなかったが、ゲームをしていたことを認めた。
6月の訓練中、戦争で最も血なまぐさい戦いのひとつが繰り広げられたバフムート郊外の国境警備隊がプレイしているのが見つかった。また、昨年昼食を取っているところを目撃された戦車乗組員は、T-80主力戦車の車体に『World of Tanks』のロゴを貼り付けていた。
昨年、キエフ郊外での戦闘で装甲兵員輸送車を破壊し、ロシア軍戦車に損害を与えた本物の戦車を指揮したことで世間の注目を集めたナザール・ヴェルニホラ中尉は、「暇があれば時々プレイしている」と語った。
ウクライナの戦場ではスターリンク衛星インターネットが普及しており、兵士たちはスマートフォンを持っている。モバイルゲームの魅力は明らかだ。戦争は退屈な時間が長く続くことが多い。『ワールド・オブ・タンクス』があるため、兵士たちの不朽の娯楽である、大きな石に小さな石を投げるゲームに走るわけがない。
第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最も残酷な陸上戦のさなかに、暴力的なビデオゲームで遊びたいという衝動は不可解に思えるかもしれないが、それは兵士たちが周囲の流血に対処する重要な方法、つまり「解離」を表している。
しかし、このマルチプレイヤーゲームは、戦車やその他の殺戮マシンで構成された2つのチームが仮想の戦場でお互いを破壊し合うというもので、制服を着たプレイヤーの周囲で繰り広げられている実際の戦争を不気味に反映している。ウクライナの戦車やその他の装甲車は、時にはクルーもバーチャルで体験しているような血みどろの戦いに巻き込まれることもある。
ウクライナのプレイヤーがプレイできるWorld of Tanksの世界には2つの作品がある: World of Tanks」と「World of Tanks Blitz」だ。どちらもインターネット接続が必要だが、後者はモバイル機器でもプレイできる。ゲームのプラットフォームが異なるため、ウクライナの戦場で、そして広くウクライナ全土で、このゲームがどれほど人気があるかを正確に述べるのは難しい: PC、Xbox、プレイステーション、任天堂、マックコンピューターなど、ゲームのプラットフォームが異なるからだ。
それでも、『ニューヨーク・タイムズ』紙がウクライナの最前線を訪れた際、このゲームはしばしば目にし、話題になった。ウクライナの兵士たちと『World of Tanks』の趣味について話し合ったところ、このゲームの魅力についてさまざまな説明が得られた。
しかし、ウクライナ東部の激戦地シヴェルスク郊外にあるドローン部隊の兵士たちは、このような状況でこのような暴力的なゲームをプレイすることに反発していた。
「ここに戦車があるのに、なぜWorld of Tanksをやるんだ?その代わりにFIFAをプレイするよ」と、別の兵士が付け加えた。
だがウクライナの兵士の多くはそうは感じていないようだ。ウクライナの戦車中隊の指揮官であるアントンは、最近最前線に赴いた際、アヴディフカ郊外に陣取り、パソコンで最近の戦闘の映像を見せてくれた。彼のお気に入りの映像は、ロシア軍の戦車が破壊され、車体が炎に包まれ、砲塔が空中に飛び出しているものだった。
彼がビデオを最小化すると、画面の隅に『World of Tanks』のプログラムアイコンが表示された。 「単純に、World of Tanksが大好きなんだ」と彼は肩をすくめた。
東部の町シヴェルスク近郊の砲兵部隊に所属するウクライナ兵のシルバー軍曹は、安全上の理由から、他の兵士と同様、コールサインかファーストネームで通している。しかし、彼はそれが戦前に多くの人が始めた娯楽であり、単にそれを引き継いだだけだと考えた。
「その一方で、一種の中毒でもありますよね」と、彼は数週間前にロシアの神風ドローンが旅団のロケット砲撃車の1台を破壊しかけた庭から歩いて戻りながら言った。
World of Tanksを開発したWargaming Groupは、サーバーの半分がロシア地域をサポートし、残りはアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中国に分散していた。2011年から2021年までのeスポーツ大会で最も稼いだWorld of Tanksプレイヤーのトップ2は、ロシア人のキリル・ポノマレフとウクライナ人のドミトロ・フリシュマンだった。この2人はかつて同じWorld of Tanksのeスポーツチームに所属していた。
Steamアプリケーションを使ってプレイするビデオゲームユーザーを追跡する一般公開サービス「SteamDB」によると、World of Tanks Blitzのユーザー数は2021年12月中旬にピークを迎え、5万人以上が同時にプレイした。ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月の1週間後には、その数は31,000人ほどに減少した。
現在、ウクライナのハリコフでゲームクラブを経営しているフリシュマン氏(27歳)は、ウォーゲーミング・グループがもともとベラルーシ発祥で、そのため親ロシア的だったため、このゲームの人気が落ちた可能性が高いと述べた。昨年の侵攻後、2011年からキプロスにあるウォーゲーミング・グループは、ベラルーシのミンスクにあったスタジオを閉鎖し、同地とロシアでの業務を別会社に移管すると発表した。
フリシュマン氏のゲームクラブの顧客の一部は、すぐに前線から離れて回復中の負傷兵となり、PUBGやカウンターストライク、そしてもちろんWorld of Tanksのような暴力的なゲームをプレイするようになった。
「なぜ彼らがこのようなゲームをしているのか、私には理解しがたいことでした。でも、彼らがリラックスして友達と遊んでいることはわかりました」。
クラブからおよそ120マイル離れた東部の都市バクムート郊外では、デジタルの爆発音と戦車の踏み込み音が樹木の間から発せられていた。そこにいたのは、国境警備隊から歩兵になったハニーとその仲間だった。ふたりは携帯電話で『World of Tanks』をプレイしていた。彼らの部隊は前線を離れて訓練を終えたばかりだった。
声をかけられると、彼らはゴミ箱に捕まった2匹のアライグマのように、羊のように携帯電話を置いた。そう、前線の近くでも『World of Tanks』をプレイしている部隊はある、と彼らは言った。
戦争とWorld of Tanksの共通点について尋ねられたハニーは、どちらもチームワークが重要だと答えた。
東部戦線の別の場所では、昨年、自分の戦車が数ではるかに勝るロシアの敵と戦っているところをビデオに撮られた21歳のヴェルニーホラ中尉が、ハニーの意見に同意した。 「チームワークを学び、ゲームの中で戦術を練っているようなものです」。
ヴェルニーホラ中尉は自分の部隊のT-72戦車の上に座りながら、鬱蒼と茂る木々の下に隠れていた。 彼のWorld of Tanksの習慣は、ログイン情報を失い、アカウントにアクセスできなくなったことで中止された。ゲームの中で獲得した戦車もすべて失った。武装したロシアの小隊に遭遇したのはかなりまずかったが、ゲームでの挫折は "災難だった "と彼はジョークを飛ばした。
World of Tanksの戦略の多くは、第二次世界大戦やその他の紛争から厳選されたような戦場を戦車を操縦することに依存している。プレイヤーは、自分の戦車が他のプレイヤーの戦車と比べてどれだけ速く、強く、武装しているかに依存し、実際の戦車戦のように、地形を利用して装甲を固めたスプライトを覆い隠し、保護することができる。
しかし、ハニーのようなこのゲームの熱狂的なファンでさえ、現実では(特にウクライナ東部戦線の砲弾が飛び交う塹壕では)「生き残る」という別の戦略があることを指摘するだろう。
砲撃が近づけば近づけば「たとえインターネットがあったとしても、遊びたくなくなる」とハニーは言う。
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このような記事を読むと、戦争というのは指揮をするのは老人たちですが、現場で戦っているのは米国でしたら「Z世代」に当たる若い世代である、という認識は重要ですね。
そして彼らはネット環境で遊び慣れているために、逆にオンラインゲームで戦場での戦い方を(戦場にいる間に)学ぶという、まさにヴァーチャルとリアルが融合したような状態で戦っていることになります。
すると上記の中にあるように、昼間は実際の戦場で殺し合いをしているのに、もしかしたらゲーム上ではチームメイトである可能性もあるわけですから、若い世代の世界観というのはわれわれと全く違うものだという想定が必要かもしれません。
(中野区役所)
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忘れられた戦略の次元
http://geopoli.exblog.jp/33556296/
2023-11-27T23:31:00+09:00
2023-12-01T23:57:10+09:00
2023-11-27T23:31:56+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、ほぼ11ヶ月ぶりにブログを更新します。
言い訳がましくなりますのであまり言いませんが、とにかく今年に入ってから猛烈に雑事で忙しくなり、本も『デンジャー・ゾーン』の一冊しか出せておらず、次の訳本も、そして久々の自著についても遅れております。
そのような中で、今年から担当している非常勤先で使用する資料としていくつか個人的に訳した戦略系の論文がたまってきましたので、あくまでも試訳ですが、ここに一部を貼り付けておこうと思いました。
今回ご紹介するのはマイケル・ハワードという戦史家で、学問分野だけでなく、あの「ミリタリー・バランス」を毎年発行したり、シンガポールで世界中の国防大臣を集めて行われるいわゆる「シャングリラ・ダイアローグ」を主催しているIISSというシンクタンクを創設した一人の論考の一部です。
論文そのものは1979年にフォーリン・アフェアーズ誌で発表されたものですが、当時の米ソによる第二次冷戦の開始時期の緊張感の中で書かれた戦略に関する議論としてものとしては秀逸なものだと思います。
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忘れられた戦略の次元
By マイケル・ハワード
フォーリン・アフェアーズ誌 1979年夏号(1979年6月1日発表)
「戦略」という言葉は、継続的に定義の見直しをする必要がある。ほとんどの人々にとって、クラウゼヴィッツの「戦争の目的のために交戦を用いること」や、リデルハートが言い換えたように、「政策の目的を達成するために軍事手段を配分し適用するアート」という定義で十分に明確だ。戦略とは、与えられた政治目標を達成するための兵力の配置と使用に関するものである。
戦略の歴史を解説した本では、リデルハート自身の『戦略論:間接的アプローチ』がまさにそうであるように、通常はアレクサンダー大王からマッカーサーに至るまで、事例研究によって構成されている。
ところが19世紀の経験からもわかるように、このアプローチは、その結論が平凡なものに成り下がったと感じてしまうほど不十分であることが判明している。そこで西側諸国では、20世紀に顕著になった戦争の産業的、財政的、人口動態的、そして社会的な側面をカバーするために「大戦略」という概念が導入された。そして共産主義国家では、あらゆる戦略思想はマルクス・レーニン主義の包括的な教義によって検証されなければならないとされるようになった。
私はこのようなすでに確立されているこれらの概念を否定はしないが、過去200年間の戦略ドクトリンと戦争の発展に関する研究に基づいた、これまでとはやや異なり、どちらかといえばもっと単純な分析の枠組みを提供するつもりだ。また、私はこの分析のやり方が、西側の現在の戦略態勢に示唆している点についても述べてみたい。
❇❇❇
クラウゼヴィッツの「戦略」の定義は、意図的かつ挑戦的なまでに単純化されたものであった。この定義は、戦争についてそれまでの300年間に書かれてきたものを事実上一掃する(しかもかなり画期的な)ものであった。それ以前の著者たちは、軍隊の育成、武装、装備、移動、そして維持や管理に関する現場重視の膨大な問題にばかりに取り組んでいたが、クラウゼヴィッツはこのアプローチを「刀鍛冶の技術」と「フェンシングの戦いにおけるスキル」の関係にたとえて否定した。
クラウゼヴィッツは「このようなアプローチは実際の戦争の遂行には無意味であり、これまでのすべての作家が適切な理論を打ち立てることができなかったのは、軍事組織の維持とその使用とを区別できなかったためだ」と主張した。
クラウゼヴィッツは、戦争において私が個人的に「兵站の次元」と「作戦の次元」と呼んでいるものをそれぞれ区別することで、戦略思想に大きな貢献をした。しかし彼がその区別から導き出した結論は疑念を生じさせるものであり、そこから生じた結果は不幸なものであった。
第一に、クラウゼヴィッツが尊敬した指揮官たち(ナポレオンやフリードリヒ大王)は、彼の生きていた時代においてさえ、クラウゼヴィッツが考慮から除外した軍事活動の全範囲に対する深い理解を持っていなければ作戦上の勝利を収めることはできなかっただろう。
第二に、作戦過程と同様に、兵站に関する問題を徹底的に研究しない限り、いかなる作戦も理解できず、そこから有効な結論を引き出すこともできない。マーティン・ファン・クレフェルト博士が最近その著書である『補給戦』で指摘したように、軍事史家100人のうち99人が兵站的な要因を無視し、結果として多くの場合に誤解を招くような結論を出してしまったのだ。クラウゼヴィッツのドグマ的な優先順位の主張、つまり「戦争における兵站的な要素を作戦に従属させること」は、あらゆる時代のすべての戦う兵士に共通する偏見に起因しているのかもしれない。
この考え方の背景には、1806年にプロイセンを敗北に導いた作戦上の無能さを持つ超慎重な「科学的」将軍たちに対する彼の反動が大いにあったことは確実だ。しかしナポレオン時代における幾多の軍事作戦で決定的だったのは、健全な兵站計画よりも作戦面でのスキルであったことは否定できない。しかもナポレオンの作戦は19世紀を通じてすべての戦略系の著作や思考の基礎となったため、「戦略」は一般的に作戦レベルの戦略と同一視されるようになったのである。
しかしこの概念の不適切さは、アメリカの南北戦争の経過のおかげで、この概念を研究する人々にとって非常に明瞭なものとなった。そこでは作戦戦略の達人が、勝利した北軍の軍隊ではなく、南軍の指導者の中に見出されることになった。リーとジャクソンは、ナポレオンやフレデリックに匹敵する柔軟性と想像力で軍を操ったのだが、それでも戦争には敗れたのだ。彼らの敗北は、作戦レベルをほとんど超えることのないリデルハートの分析によれば、主に作戦上の要因、とりわけシャーマンが採用した「間接的アプローチ」に起因するとされた。
だが根本的な面から見れば、北軍の勝利は将軍の作戦能力によるものではなく、優れた工業力と人員を軍に動員する能力によるものであり、グラントのような指導者は、主に道路と河川輸送のおかげで、敵の作戦能力をほとんど無意味にするほどの強さで展開することが可能となったのだ。最終的に南軍は消耗戦に陥り、その結果として作戦面よりも兵站面がより重要であることが証明された。
最も重要な要素として証明されたのは、最良の装備を備えた部隊を最大規模で作戦地域に投入し、そこで維持する能力であった。この戦争の経験こそが、当時から現在に至るまで米軍の戦略ドクトリンを形成しているのだ。
ところがこの能力は、クラウゼヴィッツが主な思想家としては最初に注目することとなった、戦略の「第三の次元」、すなわちこの「兵站力」が最終的に依存することになる、国民の献身や自己犠牲の覚悟による社会的な態度に左右されるのだ。
クラウゼヴィッツは、戦争を「驚くべき三位一体」と表現した。それは「政治目的」、「作戦的な手段」、そして戦争が表現する社会的力である「国民の感情」から構成されるものだ。そしてフランス革命の戦争とフリードリッヒ大王の戦争をこれほど異質なものにしたのは「国民の感情」であり、これこそが将来のあらゆる戦争を異質なものにしたのではないかと指摘している。この点においてはクラウゼヴィッツは正しかった。
絶対主義の時代が終わり、冷静な職業軍人たちによる純粋な政策をめぐる「限定戦争」は、ますます希少なものとなっていった。統治への国民参加の拡大は、戦争への国民の参加を意味し、それはつまり19世紀の技術が可能にし、それゆえ必要とした、軍隊の規模の拡大にもつながった。世論を管理すること、あるいは世論に従うことは、戦争遂行に不可欠な要素になった。
たとえば南北戦争において、もし北部の住民たちが、南部連合の指導者が当初期待したほど南北戦争の結果に無関心であったならば、初期の南部軍の作戦上の勝利は決定的な有利をもたらしていたかもしれない。北部の潜在的な兵站力は、それを利用するという決意がなければ、無視できるほどの価値しかなかっただろう。
しかし両陣営のやる気がほぼ同等であったとすれば、この闘争では最終的には北側の優れた兵力を動員する能力こそが決定的な要因になったと言える。ここでまたしてもクラウゼヴィッツが正しかったことが証明された。つまり他のすべての要素が同じであれば、最終的には「数」が決定的な要素となる、ということだ。
❇❇❇
たしかにある見方からすれば、「数」以外の要素はたしかに同等であった。南北戦争は、ヨーロッパの革命戦争と同様に、両陣営とも全く同じではないにせよ、ほぼ似たような武器で戦われた。「どちらかの側に決定的な技術面での優位がある」という考えは、クラウゼヴィッツや同時代の人々にとってはそもそも考えられないことであったために無視されたほどだ。
しかし、アメリカ南北戦争が終結して1年もしないうちに、プロイセン軍が後装式ライフル(ドライゼ)銃で装備して装備していないオーストリア軍を破り、小銃の領域でまさにその優位性が明らかにされたのである。
その4年後の1870年、プロイセンは鋼鉄製の後装式の大砲によってフランス軍に対してさらに圧倒的な優位を示した。特に普仏戦争は、アメリカの南北戦争と同様、民衆の強い支持に基づく、優れた兵站能力によって勝利したのである。そしてテクノロジーは「独立した重要な次元」として、もはや考慮に入れないわけにはいかなくなった。
海戦では、蒸気時代の幕開け以来、技術的平等の重要性が明らかにされてきたが、植民地戦争においても、技術的要素が極めて決定的なものとなった。
19世紀後半、ヨーロッパ製兵器の優位性は、それまでは土着勢力に対するわずかな技術的優位であり、しばしば数的劣位によって相殺されていたものを、圧倒的な軍事的優位に変え、 その結果、ヨーロッパ勢力は自分たちと同等の対応が不可能な文化に対して、世界中で新しい帝国支配を確立することが可能になったのである。ヒラール・ベロックの『キャプテン・ブラッド』が簡潔に表現しているように「何が起ころうとも、我々はマキシム銃を手に入れ、彼らはそうしなかった」のである。軍事計画家は、その日から今日に至るまで、現代のマキシム銃に相当するものを持たずに捕まることを恐れてきた。
つまり20世紀初頭には、戦争は「作戦」「兵站」「社会」「技術」の4つの次元で行われるようになっていた。これらすべてを考慮に入れずに成功する戦略を策定することはできないが、状況が異なれば、これらの次元のうちの1つ、または別のものが支配的になる可能性もある。1914年から15年にかけて、一方ではシュリーフェン計画、他方ではガリポリ作戦の作戦的な戦略が期待された決定的な結果を達成できなかったとき、戦争の兵站面、そしてそれらに依存する社会的基盤は、対立する軍隊が互いに血を流して死のうとする中で、さらに大きな重要性を帯びることになった。
アメリカの南北戦争のように、最も優れた将軍や最も勇敢な軍隊を持つ側ではなく、最も大量の人員と火力を動員し、最も強い民衆の支持を受けてそれを維持できる側に勝利がもたらされることになったのである。
社会的結束を背景に持たない単なる数の不足は、1917年のロシア帝国の崩壊によって証明された。しかし、敵が決定的な技術的優位を確保できて、兵站や社会的な力でさえも脆弱であることは、連合国が敗北まであと一歩のところまで迫った1917年の春、ドイツの潜水艦作戦の成功によって同様に証明された。ドイツ帝国は、アメリカの参加によって敵に与えられた兵站の優位性に対抗するために、技術的な優位性に賭けることにしたのである。しかし、彼らは負けてしまったのだ。
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これは自分の得意とするクラウゼヴィッツの『戦争論』の議論を元に、そこから戦略の要素を4つ導き出し、それらを当時のアメリカ側の戦略に関する議論に当てはめて考えるというアプローチをとっております。
ハワード自身はデビュー作の『普仏戦争』から一貫して「戦争や戦略というものはある特定の時代や、それが戦われる社会の中で行われる」という姿勢を取っており、今回の論文でもまさにそのような議論を展開しつつ、アメリカでの議論では「技術」や「作戦」についての議論ばかりがフォーカスされ、「社会」や「兵站」という面についての議論が足りないことを強く強調します。
このようなハワードの意見は、自身の軍事史のアプローチとして、大人物や政治事件だけに焦点を当てるような過去のアプローチではなく、フランスのアナール学派に代表されるような、社会や民衆の生活に近い視点を取り入れようとするアプローチに影響を受けているからだとされてます。
しかも興味深いのは、この議論は現在進行中のウクライナでの戦争だけでなく、現在の日本の防衛政策に関わる一連の議論にも当てはまるところかと。
ということで、これから更新を復活させてこのような資料をいくつか紹介していきたいと思います。
(やきいもフェス)
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奥山真司の地政学講座CD 全10回
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2022年の振り返り
http://geopoli.exblog.jp/32703935/
2022-12-31T12:25:00+09:00
2022-12-31T12:25:30+09:00
2022-12-31T12:25:30+09:00
masa_the_man
日記
本年は色々と忙しくてブログのほうが完全におろそかになってしまったのですが、年末にあたって今年の様々な状況から感じたことをいくつか簡単に記しておきたいと思います。
とにかく2022年は2月24日から始まったウクライナ戦争が大きかったですね。これによって個人的には対テロ戦争の開始から感じていた国際政治の戦略面における「これじゃない感」が一気に払拭され、いよいよ本格的な大国間紛争時代への突入が開始されたという点で、実に感慨深いものがありました。
そのほかにも7月の安倍元首相の暗殺など、実にショッキングが事件もたくさん起こってしまったわけですが、以下で三点だけ私が感じている、国際政治の戦略的な面における3つ課題というかトレンドのようなものを示しておきたいと思います。
第一に、世界の主要国はますます「戦時国家体制」に向かいつつあるという傾向です。
これは2020年に始まった新型コロナの世界的な大流行のときからすでに強まっていたということなのですが、減税や規制緩和を進めていたはずの共和党のトランプ政権時に実行されたワクチンの緊急開発を担った「ワープスピード作戦」によって、アメリカ政府も(911のときのように)やる気を出せば「国家総動員体制」をつくることができることを示したという意味で印象的でした。
そしてそのあとを継いだ民主党のバイデン政権も、ウクライナへの支援を強力に打ち出しているだけでなく、中国に対して矢継ぎ早に先端技術関連の輸出規制を行う法案を次々と通過させるなど、国家の役割を全面的に打ち出す、まるで統制経済のような国家運営を標榜しております。
日本でも「経済安保」という概念がここ二年ほどでだいぶ浸透してきましたが、これらも程度の差はあれ、安保環境が厳しくなった国際環境に対する戦時国家体制の強まりを国際的にもますます進めてしまうと見ております。
端的にいえば「小さな政府」の時代は終わって「大きな政府」の時代が再来したということです。ハンチントン的にいえば、「ローポリティクス」ではなく「ハイポリティクス」の時代ということでしょうか。
第二に、中国の動向です。
これは当然ながら、ブランズらの『デンジャー・ゾーン』を翻訳していた人間としてはどうしても気にせざるをえないテーマです。
台湾有事の可能性については個人的には少ないとは見ているのですが、問題は尖閣や南シナ海周辺、とりわけフィリピンような場所で、中国が引き続きいわゆる「プロービング」のような小規模な既成事実化を行っていることが紛争に結びつくのという点が最も気になります。
また、予想以上の中国経済の落ち込みによって日本だけではなく世界経済が落ち込み、われわれの生活の質に直結してくる事態については、引き続き警戒と準備が必要であるとあらためて感じます。
第三に、「戦う人間の価値観」とでもいうべきものが、社会的に大きく問われてくるという点でしょうか。
この年末に岸田政権が「戦略三文書」を改定したことは世界的にも大きく注目されまして、その中身については専門家筋では評価する声が多かったように思えるのですが、個人的には一番気になったのは国防を担う人材の「人的基盤の強化」という点の中でも、とりわけ国のために戦うという意志を持った人間をどう育てるのかという、なかなか正面切って論じにくい課題に対する向き合い方です。
これは戦略研究の世界では「戦士」(warrior)に関するテーマとして定期的に論じられている問題なのですが、日本では先の大戦から「戦う(戦った)人間も被害者・犠牲者である」という視点が強く、「戦うことの尊厳」や「兵士の勇敢さ」を論じることが(漫画やフィクションなどをのぞけば)社会的にタブーになっているようなところがあります。
ところが東アジアの厳しい安全保障関係を考えると、この問題については目をそむけずにはいられなくなるのではないかと危惧しております。
最悪なのは、このようなことを論じないまま紛争が起こってしまって右往左往する、ということなのでしょうが「日本が侵略されたら戦わない」という答えが7割を越えることを考えると、この問題に関しては決して楽観視できないと感じます。
※※※
ということで、2022年も大変お世話になりました。
来る2023年も新年早々から発売される訳本である『デンジャー・ゾーン』をはじめ、数冊の訳書や、久しぶりの書き下ろしの本、そして各種論文の執筆などでがんばるつもりです。引き続きよろしくお願いします。
(船越)
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プーチンは失敗した?フリードマン論文
http://geopoli.exblog.jp/31016723/
2022-02-27T01:57:00+09:00
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masa_the_man
戦略学の論文
さて、ウクライナ危機がいよいよロシアによる全面侵攻となりましたが、私が翻訳した『戦争の未来』の著者で、イギリスの戦争学の権威であるフリードマン教授が、今回の侵攻がはじまって翌日に以下のブログの記事を書いておりました。実に参考になりますので試訳を。
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無謀な賭け:戦争が計画通りに進むことは稀である、とりわけ自分のレトリックを信じている場合には。
by ローレンス・フリードマン
ウクライナのニュースを見ていると、何が起きているのか、どこに向かっているのか、よくわからない。情報には事欠かないが、その多くはソーシャルメディアのアカウントからで、そのすべてが信用できるわけではないし、またその性質から全体像を把握することはできない。デジタル時代といえども「戦争の霧」が晴れることはない。 しかし、いくつかの予備的な結論を出すには十分な情報がある。
ロシア軍は優勢であったにもかかわらず、戦術的な奇襲と圧倒的な数の可能性という利点があった開戦初日には、予想されたほどの進展はなかった。最初の攻撃は広く期待されていたようなエネルギーと推進力には欠けていた。ウクライナ人は気迫に満ちた抵抗を見せ、侵略者に犠牲を強いた。しかし今日の情勢はさらに暗くなる可能性があり、将来はもっと厳しく辛い日々になるだろう。しかし「プーチンは勝ち目のない戦争を始めたのだろうか」と問うのはもっともなことである。ロシア軍は最終的に勝利するかもしれないが、戦争の初日は、常にありそうなこと、つまり今後どのような軍事的勝利を収めようとも、プーチンにとって政治的に勝つことが並々ならぬ困難な戦争になることを確認させたのだ。
自信満々で始めた戦争が悪い方向に向かう主な理由の一つは、敵の過小評価である。早期勝利の予測につながる楽観的なバイアスのようなものは、危険なにおいがしたらすぐに降伏するような、退廃的で知恵のない相手という想定に依存しているのである。月曜日のプーチンの狂気に満ちた演説とその後の発言、そして彼の臣下たちの発言は、彼が好む戦争の根拠だけでなく、彼がなぜ勝てると考えているのかを理解するのに役立っている。プーチンが一貫して主張してきたように、ウクライナは非国家であり、人為的に作られたもので、政府は非合法でナチスに支配されているとすれば、普通のウクライナ人がそのような国のために一生懸命戦うことはない、と彼が考えていたとしてもおかしくはないだろう。国連担当のロシア大使が示唆したように、彼らはロシア軍を解放者として迎えるかもしれないのだ。
敵の戦力を過小評価すると、自国の戦力を過大評価することになりかねない。プーチンはたしかに戦争で大きな成果を上げている。2000年、第二次チェチェン紛争を利用して大統領に就任し、指導者としての資質を証明した。2008年にはグルジアを血祭りに上げ、NATOへの加盟を思いとどまらせ、ロシアがすでに設立していた分離主義者の飛び地を消滅させた。2014年にはウクライナからクリミアを奪取し、最近ではシリア内戦でアサドを支援することに成功した。
しかし、彼の最近の軍事行動は本格的に地上軍を展開するものではなかった。ウクライナでは、クリミア併合を含む作戦はドンバス地方の分離主義者が集めた民兵と一緒に、主に特殊部隊によって実行された。2014年夏、分離主義者が敗北しそうになったとき、プーチンは正規軍を送り込み、準備不足でまだ素人同然だったウクライナの部隊を撃退したのである。シリアでは、ロシアは航空戦力を提供したが、歩兵は提供しなかった。
そのため、大規模な地上作戦の経験は限られている。このことが、潜在的な敵の限界に対する傲慢さと結びついたとき、今回の作戦のスタートが確実なものでなかった一因となった可能性がある。その最たる例が、キエフ近郊の空港「ホストメル」で、ロシア軍がヘリ部隊で奪取しようとした戦いである。この空港を素早く占領していれば、ロシア軍は飛行機で部隊を送り込み、キエフに素早く移動することができた。しかし援護がなければ無防備な状態であり、これはまさにギャンブルであった。ウクライナ軍はヘリコプターを数機撃墜し、激しい戦闘の末にロシア軍を圧倒した。この作戦のために何カ月も計画を練り、すべての段階を綿密に計画した後で、計画者たちが初日にこれほどリスクの高いことをしようと決めたことは、示唆に富んでいる。
これはキエフにとって一時的な休息に過ぎないかもしれない。今朝の報道では、キエフ市内でのミサイル攻撃や小競り合いもあり、キエフがロシアの最重要目標であることが強調されている。したがって、これまでの戦闘からロシア軍が今後苦戦すると結論づけるのも賢明ではないだろう。ロシア軍は相手に対してもっと敬意を払い、もっと理路整然とした行動をとることを学ぶことになるかもしれないからだ。
とはいえ、第一印象は大切だ。自国を守る者の士気と決意は、侵略を企てる者の士気と決意より高くなる傾向があり、特に企てる側がなぜそのようなことをするのか分からない場合はこの傾向が強まることを我々は再認識させられた。ウクライナ人が本気で国を守ろうとしていること、そして忍耐力もあることが分かった。彼らは蹂躙されてはいないのだ。手っ取り早く既成事実を作っておけば、プーチンは大いに助かったはずだ。例えば、欧米の制裁の設計と実施は、ロシアがウクライナを蹂躙しているよう見えた状況では、まったく違った印象を与えただろう。つまり「ウクライナに起きたことは悲劇だが、ほとんど何もできない状況であり、高価なジェスチャーも無意味である」という主張を、懲罰的なものに反対する人たちに提供できたのかもしれない。
だがウクライナの抵抗が明らかになり、双方に戦費がかかるようになったことで、国内のプーチンの立場にも問題が出てきている。多くのアナリストたちが指摘しているように、ロシアが精密誘導ミサイルの在庫を失い、市街戦に引き込まれれば、戦闘は残忍になる可能性がある。
チェチェンの首都グロズヌイやシリアの都市アレッポは、ロシアが主導した作戦によって市民を直接標的にした爆撃を受けている。それにしてもロシア国内の反発の声の大きさ(熱狂的な支持のなさ)は目を見張るものがある。プーチンが「ウクライナは本当にロシアの一部であるべきだ」と主張し、その後に「スラブ民族の仲間(彼らの親戚であることも多い)が爆撃されるのを国民が容認する」と期待していたのは実に奇妙なことであった。プーチンは、多くの独裁者と同様に自国民に対して恐怖心を感じており、自国民の犠牲がさらに増え、ウクライナでの蛮行、国際的非難に対して彼らがどう反応するかを心配し始めた可能性がある。
プーチンがなぜ攻撃的な戦争に乗り出すのか、長年不思議に思ってきた人々にとっての最大の問題は「彼が政治的に何を達成したいのか」であった。たとえばウクライナ東部での限定的な作戦は「時間をかけて維持して守ることのできる地域を切り取る」という意味では、ある程度理にかなっていた。だが現在の作戦の規模の大きさは、実質的にキエフでの政権交代を求めるものとなるため、まるで意味をなさないものだ。米国と英国は、イラクとアフガニスタンで、これがいかに難しいかを苦い経験で学んだ。簡単に言えば、外国が就任させた、地元に根ざした比較的信頼できる指導者(ロシアにそのような人物がいることは明らかではない)であっても、その正統性には限界があり、すぐに占領軍に権力の維持を頼ることになるのである。
その前に、ロシア軍はゼレンスキー大統領を探し出して対処する必要がある。彼はこれまで誰も予期していなかった「戦争指導者」として、威厳と勇気をもって行動している。プーチンは彼を排除したいはずだ。ゼレンスキーはロシアの破壊工作員がキエフにいることを報告しながらも、自分は当面の間キエフに留まり、戦況を指揮しなければならないと主張している。もちろんどこかの時点で、ウクライナ西部に移住するか、あるいは亡命政府を樹立するか、難しい決断を迫られるかもしれない。だがウクライナで活動を続けられる限り、彼のリーダーシップはプーチンへの「反撃」となるのだ。
たとえウクライナ政府が首都を失い、脱出を余儀なくされ、ウクライナ軍の指揮系統が崩壊し始めたとしても、それは自動的に「ロシアの勝利」とはならない。「占領軍の後ろ盾なしに従順な人物をウクライナ大統領に据えて長続きさせられる」と考えるのは、ウクライナの国民性の根源を理解できていない人たちだけであろう。ロシアには、そのような軍隊をいつまでも維持する人数も能力もないのである。2004-5年の「オレンジ革命」と2013-14年の「ユーロマイダン」の記憶があるプーチンは、この国で「人民の力」が果たす役割をある程度理解しているだろうと思ったが、これらの運動はアメリカやその同盟国によって操作されていたという自らのプロパガンダを信じ切ったままでいるのであれば理解できていない。
ウクライナはNATOと陸上で国境を接しており、ウクライナ正規軍が戦っている限り、装備は通過することができる。この紛争がそのような段階に移行した場合、反ロシア勢力も通過することができるようになる。このため重要になってくるのが、ロシアが軍事的目標を達成したかどうかだけに注目しないことだ。むしろ注目すべきは、市民の抵抗や反乱に対してロシア軍が占領した地域をどこまで維持できるかという点だ。
戦争(私は多くの例を研究してきたが)について重要なのは、戦争が計画通りに進むことはほとんどないということだ。偶然の出来事や作戦の不手際で、突然戦略の転換を迫られることもある。意図しない結果が、意図したものと同じくらい重要な意味を持つこともあるのだ。すべての戦争にはこのような落とし穴があり、だからこそ戦争は正当な理由(中でも最も説得力があるのは自衛権の発動だ)があって初めて着手されるべきものなのだ。
この戦争に乗り出すという決断は、一人の男の肩にかかるものだ。今週初めに見たように、プーチン氏はウクライナに執着しており、戦争の口実のように見えるが実際は彼の考えを反映しているかもしれない、トンデモ説を唱えがちだ。新型コロナウイルスを恐れ、想像上のウクライナを恐れるこの孤独な人物の特殊な事情と性格のために、すでに多くの命が失われているのだ。民主国家では、長期的な視野に立ち、懐疑的な国民を納得させたり、批判に耳を傾けたり、法の支配のような厄介な制約に縛られたりすることなく大胆な手段を取ることによって我々を出し抜くことができる独裁者と比較して、我々の意思決定の曖昧さ、一貫性のなさ、近視眼性、そして惰性などを嘆くことになることが多い。だがプーチンは、独裁政治が大きな過ちを招く可能性があることを思い起こさせてくれる。もちろん民主制度は、我々自身が過ちを犯すことを決して排除するものではないが、少なくとも、過ちを犯したときに新しい指導者や新しい政策に速やかに移行する機会を与えてくれるものである。それが今、ロシアで起こってくれれば良いと思うが。
===
実に読み応えがありますね。
クラウゼヴィッツを引用するまでもなく、戦争というのは不確実でギャンブルな性格が強いものですが、著者のフリードマンはそれをあらためて思い起こさせてくれます。
それにしてもプーチン大統領、まるで以前の慎重な態度から打って変わっての今回の行動、大局的にみればだいぶ計算間違いをしたように思えます。
(海辺)
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プーチンにアドバイスするタカ派たち
http://geopoli.exblog.jp/31013269/
2022-02-24T20:59:00+09:00
2022-02-24T20:59:12+09:00
2022-02-24T20:59:12+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、とうとうロシアがウクライナ侵攻を開始してしまいましたが、すでにマクロンに指摘されていた「プーチンの強硬化」について、少し前に興味深いNYタイムズ紙の記事があったことを思い出しましたので試し訳を。
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プーチンの耳目を集める強硬派ロシア人アドバイザーたち
By アントン・トロヤノフスキー Jan. 30, 2022
西側諸国は、人と動物の間の結婚を合法化している。ウクライナの指導者はヒトラーと同じくらい悪いし、この国の民族主義者たちは「人間以下の存在」である・・・・これらは、プーチン大統領の側近で、指導者がウクライナに対して公開戦争を始めるかどうかを決定する際に同席する可能性のある、ロシア安全保障当局のトップの間で垣間見られる意見である。
去年ロシアのニュースメディアによって発表された発言の中で、プーチン氏と同じく1950年代のソビエト連邦で生まれたこのような有力者たちは、大統領よりもさらに反動的な立場をとっており、これはクレムリンが国内外で敵とみなす人々との戦いをエスカレートさせていることを示している。
大統領周辺の安全保障担当者たちの台頭は、2000年代前半に西側に友好的な顔を見せ、著名なリベラル派を含むアドバイザーに囲まれていた若い指導者が、今ではヨーロッパで大きな戦争を始めると暗に脅すプーチン氏へと進化したことを明かしている。それはまた、プーチン氏の支配を支えるイデオロギーを作り上げようとするクレムリンの長年にわたる闘争の物語でもある。
そのイデオロギーとは「敵としての西洋諸国「脅威としてのウクライナ」「伝統的価値の防波堤としてのロシア」というイメージにますます依存するものである。
モスクワの新聞編集者でクレムリンと関係のあるコンスタンチン・レムチュコフ氏は、ロシアの安全保障エリートの「保守・反動」的な世界観について、「プーチンには思想がないので、これは集団で対抗するためのイデオロギーを形成しようとする動きだ」と述べた。「世界がロシアに敵対しているというのがその大前提だ」という。
プーチン氏がどのように決断を下すのか、次のステップを考える際に誰の意見を最も聞くのか、本当のところは誰にもわからない。クレムリンによれば、プーチン大統領は現在、米国とNATOが先週モスクワに提出した「ウクライナをNATOの一員にしない」という保証を含む安全保障上の要求に関する回答書について検討しているという。
金曜日(1月28日)にクレムリンは「西側諸国の回答はロシアの最大の安全保障上の懸念に対処していない」と述べた。しかし、プーチン大統領自身は、ほぼ毎日カメラに映っているにもかかわらず、12月以来ウクライナに関する公的なコメントを避け、沈黙を守っている。
そのため、プーチン氏の考えを知る手がかりは周囲のタカ派の人々を探るしかない。彼らの中には、ソ連のKGBでプーチン氏と一緒に働いていて初めて出会った者もいる。そして彼らは、暗殺、影響力工作、サイバースパイ、残虐な戦争などを監督し、クレムリンを欧米から疎外するのに貢献していると欧米当局から非難されている。
プーチン氏は誤解を招く反欧米的な表現に甘んじることで知られているが、彼の主要な国家安全保障顧問であるニコライ・パトルシェフ氏は、さらにそれを熱心に信奉している。プーチン氏は「ロシアの輝かしい過去を改ざんしようとする敵」の姿を描いているが、対外情報部長のセルゲイ・ナリシキン氏は「歴史戦」を特に優先している。
プーチン氏は経済への国家の関与を強めているが、国防相のセルゲイ・ショイグ氏はその傾向を極端に表しており、国家主導でシベリアに新しい都市を建設することを打ち出している。
ナリシキン氏は1月にウクライナについて「一種のタイムマシンのようなもので、我々をヒトラー占領下の最悪の時代に連れ戻そうとしている」と述べ、その親欧米政府を「真の独裁国家」と評している。彼はモスクワで「ウクライナの人権侵害」と題する展示会を開いていた。
ショイグ氏は去年の12月に、ウクライナの民族主義者を 「人間以下の存在」と呼んでいる。パトルシェフ氏は、ウクライナの「ロシア恐怖症」は「イワン雷帝」を中傷した嫉妬深いヨーロッパの文献から始まった、西側のプロパガンダキャンペーンの発露であると述べている。
「彼らはロシア皇帝が自分たちの政治的、道徳的リーダーシップを認めないことが気に入らなかったのです」とパトルシェフ氏は、恐ろしい秘密警察で知られる16世紀の暴君について語っている。
プーチン氏は今後ウクライナ情勢の危機をどこまで高めるのか、タカ派の陰謀論的思考をどこまで取り入れるか、というのが最大の問題となっている。
モスクワでは「プーチン氏にはまだ現実主義的な面がある」と見る専門家もいる。彼らによれば、プーチン氏はパトルシェフ氏のような腹心の部下が推進する不満やパラノイアを、経済の運営を担うテクノクラートのミハイル・ミシュスティン首相のような冷静な意見と比較検討しているという。
プーチン氏の元参謀で、モスクワ市長の2018年の再選キャンペーンを担当したレムチュコフ氏は「彼らは保守的な急進派だ」と言う。「中道寄りの保守かもしれないが、とにかくプーチンはその中央にいる」というのだ。
ところが多くの兆候は「急進派」が勢力を拡大していることを示している。2020年に野党指導者アレクセイ・A・ナワルヌイが毒を飲まされたのに続き、2021年には活動家、報道機関、さらには学者までが広範囲に渡って弾圧されたからだ。
欧米当局は「ナワルヌイ氏はロシア政府によって毒をもられた」と発表したが、対外情報部長のナリシキン氏は、その事件はプーチン氏を倒すための「生贄」を求める欧米のエージェントによって仕組まれたものだと述べている。
強硬な治安当局は、異論を封じ込める一方で、道徳的に衰退した西欧に代わるロシアの優れた選択肢として「伝統的価値」を支持する最前線にもいる。たとえばあるテレビ局は、最近「長髪で爪の手入れをした男性を映し出した」として罰金を科されている。「伝統的な性的指向を持つ男性のイメージにそぐわない 」というのがその理由だ。聖ワシリィ大聖堂の前で「性的な写真」を撮った二人のブロガーは10ヶ月の禁固刑を言い渡されている。
パトルシェフ氏は9月のインタビューで、西側の「外国」の価値観について、「父と母は親1号と2号という名前に変えられている」と述べた。「彼らは子供たちに自分の性別を決める権利を与えようとし、あるところでは動物との結婚を合法化するまでに至っている」というのだ。
プーチン氏はその1カ月後の演説で「親1号と2号」についてのセリフを繰り返したが、動物との結婚については触れなかった。
ロシア軍がウクライナ付近に集結する中、治安当局のイデオロギーのもう一つの要素が大きくクローズアップされている。パトルシェフ氏は、ソ連の崩壊は「西側の新自由主義エリートの手を完全に解き放ち、非伝統的な価値観を世界に押し付けることを可能にした」と述べた。そして、ウクライナをはじめとするソ連崩壊後に残された国々は、モスクワの正当な勢力圏に属しており、ロシアは西側に対する「防波堤」としての地位を回復する運命にあるとしている。
カーネギー・モスクワ・センターというシンクタンクのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員は、「これはロシアのナショナリズムの最も暗い流れの一つであり、それが帝国主義によって増幅されたものだ」と述べている。そして彼は、ロシアの安全保障エリートが目指すのは「帝国の復活」であると言う。
プーチン氏自身、ソ連崩壊を「地政学的な大惨事」と表現している。しかしかつての彼はリベラルな視点を持つ者を含むさまざまな政府高官たちに助言を求めてもいた。ところが今ではそのような人たちのほとんどが政府から追い出され、ミシュスティン氏のようなテクノクラートも、自分の担当範囲を超えたことにはほとんど発言しなくなった。
そして「シロビキ」と総称され、プーチン氏とともにKGBに在籍した、パトルシェフ氏、ナリシキン氏、アレクサンドル・ボルトニコフ氏など、プーチン氏とともにKGBに在籍したエリート治安当局者たちだけが残ったのだ。
その影響力は、安全保障の分野だけにとどまらない。バレーボール好きのパトルシェフ氏はロシアバレーボール連盟の会長を務め、その息子は農相を務めている。ナリシキン氏は「ロシア歴史協会」を統括し、ロシアの過去を美化(批評家に言わせればホワイトウォッシュすること)することに一役買っている。国防相のショイグ氏は、ロシア地理学会の会長としてプーチン氏のアウトドアへの関心を高めており、シベリアの森にプーチン氏を定期的に連れて行っている。
彼らのような高官たちにとって、西側との緊張が高まることは良いことであり、ロシアの支配層の中で影響力を高めることにもつながると分析されている。政治分析を行うR. Politik社の創設者タチアナ・スタノバヤは最近「対立の激化や制裁はシロビキを脅かすものではなく、逆に彼らにとってはより多くの機会を開くものである」と書いている。
ロシアのアナリストたちは、プーチン氏にウクライナとの全面開戦を避けるだけの現実主義的な考えが残っているのかどうか、疑問を抱いている。
ソ連秘密警察の犯罪を暴き、ロシアの安全保障体制を長く怒らせたモスクワの人権団体「メモリアル・インターナショナル」を先月解散に追い込んだことは、プーチン氏がシロビキたちの意見にさらに傾いたことを表している。
しかし、ウクライナ侵攻に対する欧米の制裁は、ここ数週間の戦争懸念によるロシア株式市場の急落に見られるように、広範な影響を及ぼす可能性がある。また、軍事的な犠牲者は、国内政治に予測できない後遺症をもたらし、プーチン氏の遺産を汚すことになりかねない。
「もし、ウクライナと戦争になり、餓死者が出れば、それが彼の記憶に残るすべてだろう」と新聞の編集者のレムチュコフ氏は言う。「それがどんな罪であるかを彼が理解していないはずはない」。
====
2008年と14年の状況を踏まえて「プーチンは慎重でリスク計算をできる指導者である」というアナロジーがありましたが、それが今回本人によって崩されたということでしょうか。
そういえば今月はじめにフランスのマクロン大統領が七時間にわたって長机を挟んだ会談をしましたが、そのあとの感想が「3年前に会ったときのプーチンとは別人みたいだった」と述べていましたが、まさに今朝の侵攻でこれが正しかったことが証明されましたね。
ということで引き続き事態を注視していきたいと思います。
(裏道)
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プーチンの狙いはウクライナへの軍事侵攻?
http://geopoli.exblog.jp/30982923/
2022-02-08T14:03:00+09:00
2022-02-08T17:23:26+09:00
2022-02-08T14:03:18+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、欧州政治の専門家で「アフターヨーロッパ」でも有名なブルガリア出身のクラステフが今回のウクライナ案件について興味深い視点を提供しておりましたのでその試訳を。
===
欧州は「プーチンは戦争よりもっと悪いことを企んでいる」と考えている
By イワン・クラステフ
22-2/3 NYタイムズ
第一次世界大戦の終盤のことだが、ドイツのある将軍が、同盟国であったオーストリアに送った電報に書かれていたいた現状分析が興味深い。その内容は「深刻ではあるが、破滅的ではない」というものであった。それに対する返信には「ここでは状況は破滅的だが、深刻ではない」と書かれていたという。
もちろんこの話はジョークだ。だがこれは、ウクライナ情勢をめぐる米欧間の認識の不一致を端的にとらえている。米国と、先週の水曜日に東欧への米軍配備を正式に承認したバイデン大統領にとって、プーチン大統領率いるロシアの侵攻は「明確な可能性」である。
ところが欧州にとってはそこまでではない。ドイツのある上級外交官は、この見解の違いを、以下のように要約している。「米国はプーチンが本格的な戦争を仕掛けてくると考えているが、欧州はプーチンがハッタリをしかけているだけだと見ている」。
この見解の違いは、当然といえば当然かもしれない。結局のところ、西ヨーロッパの一般市民にとって「本格的な戦争」とは、エイリアンが侵攻してくるような事態と同じくらい想定外のものだからだ。西ヨーロッパでは何十年にもわたり平和が続いており、ロシアの石油とガスに深く依存していることもあって、当局者たちは「ロシアの攻撃的な動きは策略に違いない」と考えているのだ。
しかし、このようなロシアに融和的な欧州の傾向は、当初警戒していたウクライナ当局者が今では欧州と同じ見解を持つようになったことを説明できない。先週のことだが、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦争の脅威を軽視し、状況は「危険だが、あいまいだ」と示唆している。自国の国境のすぐ向こう側で13万のロシア軍に脅かされている国としては実に驚くべき評価なのだ。その背景には何があるのだろうか?
その答えは驚くべきものであり、逆説的ですらある。ヨーロッパ人とウクライナ人たちがロシアのウクライナへの大規模な侵攻に懐疑的なのは、彼らがプーチン氏に対してアメリカ人よりも温和な見方をしているからではない。実態はその逆であり、彼らはプーチンをより悪意のある存在として見ているからである。「クレムリンは戦争をやろうとしているわけではない」というのがその理由だ。
つまり彼らは今回の軍備増強は「西側諸国を不安定にするために考案された広範な戦術だ」と考えているのだ。ヨーロッパにとって「戦争の脅威」は「戦争そのもの」よりも破壊的になる可能性があるからだ。
米国と欧州諸国は、プーチン氏が望んでいることについては意見が一致している。クレムリンは冷戦後の秩序を破壊し、1990年代からの象徴的な脱却を望んでいるのである。
もしそれが実現すれば、ポストソビエト空間におけるロシアの勢力圏を認め、西欧の価値の普遍性を否定する、新たな欧州安全保障のアーキテクチャーが誕生することになる。つまりプーチン氏のゴールは「ソ連邦の復活」ではなく、自分のイメージする「歴史的なロシアの回復」である。
ワシントンやブリュッセルには、このメッセージは伝わっている。大西洋の両岸の一般的な合意は「クレムリンが次に何をするかはわからないが、じっとしていられない」というものだ。ロシアが単純に引き下がることはないだろう。
しかし、アメリカ人は「プーチンがその壮大な野望を実現するためにウクライナでの熱い戦争を必要としている」と考える傾向がある一方で、ヨーロッパ人やウクライナ人たちは「プーチンにとって役に立つのは、国境での部隊のプレゼンス、エネルギーの流れの武器化、そしてサイバー攻撃のようなハイブリッド戦略だ」と考えているようなのだ。
これには根拠がまったくないわけではない。ロシアがウクライナに侵攻すれば、逆説的ではあるが、現在のヨーロッパの秩序が保たれる可能性があるからだ。NATOは積極的に対応し、厳しい制裁を加え、断固として結束して行動せざるをえなくなってしまうからだ。プーチンは対立を激化させることで、敵対者たちをまとめてしまうのである。
ところが手出しをしなければ、それとは逆の効果を生み出すことになる。なぜなら侵攻を伴わない最大限の圧力は、NATOを分裂させて麻痺させることになるかもしれないからだ。
そのわかりやすい例がドイツだ。今回の危機が起こる前のドイツは、ヨーロッパにおけるアメリカの最も近い同盟国であり、モスクワとの特別な関係を誇り、東・中欧にとって最も重要なパートナーであった。しかし現在のワシントンでは、ドイツがロシアに本気で立ち向かおうとしているのかを疑問視する声が上がっており、ベルリンとモスクワの関係は急速に悪化し、東欧の多くの人々はドイツが自分たちの支援に消極的であることに苛立ちを覚えている。
プーチンが実際に侵攻するかどうかを明らかにすることなくこのまま瀬戸際外交を続けるとすれば、ドイツが陥る苦境は今後の状況を占う上で一つのヒントになる。
それでもドイツを取り巻く世界は変化している(ウォールストリートジャーナル紙のドイツ特派員、ボジャン・パンスフスキーは「ドイツは、駅が火事になっても停車し続けている列車のようだ」と私に語ってくれた)。
今日、地政学的な面での強みは「どれだけの経済力を行使できるか」ではなく「どれだけの痛みに耐えられるか」によって決定される。なぜなら冷戦時代とは異なり、敵は鉄のカーテンの向こう側にいる存在ではなく、貿易の相手国であり、ガスを買っている国であり、ハイテク製品を輸出している相手国なのだ。ソフトパワーはレジリエンスに取って代わられたのだ。
これはヨーロッパにとって問題だ。もしプーチンの戦略の成否が「欧米社会がエネルギー価格の高騰や情報操作、政情不安といった圧力に長期にわたって耐えられるかどうか」で決まるとすれば、彼は有利な立場にあるといえる。
現状では、このような問題に対処するヨーロッパの備えは著しく不足している。欧州全体の焦点とすべきなのは、このような状況を、軍事力への投資、エネルギーの多様化、社会的結束の強化を通じて改善することだ。
欧州の人々が「ロシアのウクライナ侵攻は不可避というわけではない」と考えるのには一理あるし、それが最も可能性の高いシナリオではないと考えるのも決して間違ってはいないのかもしれない。だが、レジリエンス(回復力)への備えを無視できると考えてはいけない。
ロシアのことわざに、以下のようなものがある。「クマをダンスに誘ったら、その終わりを決めるのはあなたではない。決めるのはクマだ」
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アメリカと欧州(そしてウクライナ)の間の見識の違いについてうまい説明ができている意見記事です。
ただしここでの問題は、もしこのような分析が正しかったとしても、政策担当者はロシアが軍事侵攻をしてくる可能性を否定せず、その脅威を額面通りに受け取って備えなければならない、という点ですね。
それにして最後のことわざは「クマ(ロシア)が決定権をもっている」ということでしょうか。21世紀型の政治になれきっていると、19世紀型の世界観を持っているロシアにいいようにやられてしまう、という警告とも言えますが。
ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。
(出発待機中)
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人間のキャパシティーを圧倒するテクノロジー
http://geopoli.exblog.jp/30973984/
2022-02-04T12:43:00+09:00
2022-02-04T13:04:16+09:00
2022-02-04T12:43:46+09:00
masa_the_man
カルテク
さて、久しぶりにテクノロジーに関する記事の試訳です。だいぶ古い記事ではありますが、その内容は古くなっておらず、講義などでも使っている考えさせてくれるものです。
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人間の脳はテクノロジーの進化についていけていない
By トリスタン・ハリス
19-12/5 NYタイムズ
10年前、ハーバード大学の教授で社会生物学の父として知られるエドワード・O・ウィルソンは「今後100年間に人類が直面する危機を解決することができるか」と問われて、「もしわれわれが正直で賢いのなら可能だ・・・だが人類にとって最大の問題は、旧石器時代の感情、中世の制度、神のような技術を持っている点にある」と答えている。
このウィルソン氏の観察以降もテクノロジーの神通力は劇的に増大し、一方で私たちの脳の古代の旧石器時代の衝動は変わっていない。
ところが今日のテクノロジー企業、つまりFacebookやGoogleのようなデジタル・インフラ企業が、私たちの脳のキャパシティーを圧倒してしまったという不満が投げかけられることは少ない。むしろ聞かれるのは、テクノロジー企業が私たちの個人データを収集し、追跡しているという懸念や、そのような企業がただ単に巨大になりすぎているという懸念の方だ。
たとえば私たちがプライバシーの問題を解決できたと仮定してみよう。この新しいユートピアでは、私たちは自分のデータをすべて所有することになり、テクノロジー系の巨大企業たちはネット情報から私たちの居場所を追跡するのを禁じられ、私たちが共有に同意したデータにのみアクセスできるのだ。
気味の悪い広告を目にすることは減り、監視されているという心配は減るかもしれないが、オンラインの世界に関連した厄介なトレンドは対処されずに残るだろう。
社会承認や「いいね!」ボタンへの中毒は、私たちの注意力を破壊し続けるだろう。私たちの脳は相変わらず侮辱的な怒りのツイートへと引き込まれ、民主的な議論は子供のような「言った言わない」という水掛け論に取って代わられるだろう。ティーンエイジャーたちは、ネット上の社会的圧力やネットいじめにさらされ、精神的な健康を害されたままとなるだろう。
アルゴリズムによって過激主義や陰謀論に向かう「ウサギの穴」が作られ続けるだろう。なぜなら、人間の編集者に時間を割いて何が価値あるものかを判断してもらうよりも、自動化したほうが安上がりだからだ。そして孤立したオンライン・コミュニティで育まれた過激なコンテンツは、銃乱射事件を引き起こし続けるだろう。
このように20億人の頭脳に影響を与えることで、今日のソーシャルメディアは世界の歴史を動かすものとなる。ソーシャルメディアが解き放った力は、将来の選挙や、事実とフィクションを見分ける能力にまで影響を与え、社会の分裂を増大させるだろう。
ネット上のプライバシーは、取り組むべき問題であることは間違いない。だがどんなに優れたプライバシー保護法も、旧石器時代の感情がテクノロジーの誘惑に抵抗できる程度にしか効果がないのだ。
FaceAppというアプリは、最近、1億5000万人の虚栄心に訴えかけ、本人たちの名前と一緒に顔の画像を提供するように仕向けた。これがなぜ可能であったのかといえば、このアプリは何年も先の未来に登場するような、超高精度の肖像画を作成する機能を提供したからだ。ではこのアプリ(と1億5000万人の名前と顔)を提供しているの誰なのかといえば、サンクトペテルブルクにあるロシアの企業なのだ。
人々の虚栄心を刺激することができれば、人々は自分の顔をスキャンした情報を喜んで提供してくれるのだ。わざわざ選挙をハッキングしたり、有権者の情報を盗んだりする必要などなくなってしまう。
旧石器時代の衝動を持っている私たちは、テクノロジーの恩恵に抗うことができないのである。しかしこれは、単に私たちのプライバシーを損なうだけではない。集団的に行動を起こす能力も損なわれているのだ。
この理由は、旧石器時代の脳が世界の苦しみを全知全能で把握するようにはできていない、という点にある。私たちのオンライン・ニュース・フィードは、世界のあらゆる痛みと残酷さを集約し、私たちの脳を一種の学習性の無力感へと引きずり込んでいる。それに見合うだけの媒介を持たずにほぼ完全な知識を提供するテクノロジーは、そもそも人間的ではないのである。
旧石器時代の私たちの脳は、真実を追求するようにはできていない。自分の信念を確認するような情報は私たちを気持ちよくさせるものであり、自分の信念に挑戦するような情報は不快なのだ。
私たちがクリックするものをより多く与えてくれる巨大テクノロジー企業は、本質的にわれわれを分断するものだ。そのような企業が誕生してから数十年がたち、テクノロジーは社会をそれぞれ異なるイデオロギー世界に分裂させたのだ。
簡単に言えば、テクノロジーは私たちの頭脳を凌駕し、世界で最も差し迫った課題に対処する能力を低下させたのだ。このミスマッチを利用した広告ビジネスモデルが(人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つとする)「アテンション・エコノミー」を生み出した。その見返りとして、私たちは人間性を「無料」まで格下げしたのだ。
このような状態は、われわれを深刻なほど不安定な状態に追いやることになる。20億の人間がこのような環境に閉じ込められ、「アテンション・エコノミー」が私たちを自らの生存に不適応な文明へと変えてしまったからだ。
だが良いニュースもある。われわれは自分たちの脳と自分たちが使うテクノロジーとの間にあるこのミスマッチを認識できる、唯一の自己認識できる生き物だということだ。つまり、私たちはこうした流れを逆転させる力を持っている存在なのだ。
ここでの最大の問題は、われわれがこの挑戦に立ち向かえるかどうかであり、自分自身の内面を深く見つめ、その知恵を使って根本的により人間的な新しいテクノロジーを生み出せるかどうかということだ。過去の賢人たちは「汝自身を知れ」と言った。われわれは自分たちの限界を正直に理解することでは、神のようなテクノロジーを再び調和させなければならないのだ
以下は抽象的な話に聞こえるかもしれないが、具体的にわれわれが取り組むことができるものだ。
第一に、政策立案者はハイテク企業に対して特別な税、すなわち「格下げ税」を創設するのだ。この税は、われわれの注意力を引き出し、消耗させることに基づく彼らのビジネスモデルを法外に高価なものにする一方で、ジャーナリズム、公教育、人間の価値や社会への貢献を優遇する新しいプラットフォームの創造に富を再分配させるものだ。
第二に、われわれを依存症でナルシストな過激派に変えることで利益を得る無料のソーシャルメディア・プラットフォームに参加する代わりに、画面の外で我々の生活に力を与える機能のために「いいね!」を避けるサービスに購読料を支払うことに同意し、これらのサービスを本質的に人類の最善の利益のために働くような受託者にさせるのだ。
第三に、デジタル・プラットフォームには、悪意のあるバイラル・コンテンツや「ディープフェイク」(人工知能によって本物に見えるように加工された動画)などのテクノロジーの歪曲による偽情報を広める代わりに、私たちを守るメディアインフラを抜本的に強化させるのだ。
2020年の米国大統領選挙の候補者たちは、テクノロジーが我々の頭脳を凌駕しようとする競争がもたらす脅威について自らを教育すべきであり、ニュースメディアは彼らの責任を追及しなければならない。どの大統領も「アテンション・エコノミー」の問題に取り組むことなしに、選挙公約を効果的に実現することはできない。
人間的な技術を作るためには、人間の本質を深く考える必要があり、それは単にプライバシーについて話すこと以上のことを意味する。つまり精神面で大きな改革を迫られる時がきたのだ。私たちは、自己認識や批判的思考、理性的な議論や考察といった人間の持つ長所と、弱点や脆弱性、そして自分自身でコントロールできなくなった部分を理解する必要があるのだ。
テクノロジーと和解する唯一の方法は、自分たち自身と和解することなのだ。
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テクノロジーの進化と人間のミスマッチを説いた、実に興味深い論考です。テクノロジーは単なるツールだという意見もありますが、社会を大きく変えるだけでなく、人間の本質そのものを暴き出しているという点は考えさせられます。
さらにもう一歩踏み込んで考えると、やはり人間はテクノロジーによって変えられているとも言えます。
新しいテクノロジーの登場と、それによって変化する将来戦を考える際には、ここで触れられた論点は実にさまざまなヒントを与えております。
ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
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(フィリピンを望む)
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台湾とウクライナは違う
http://geopoli.exblog.jp/30968631/
2022-01-31T10:18:00+09:00
2022-01-31T10:18:18+09:00
2022-01-31T10:18:18+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、ウクライナ案件で東アジアのわれわれにとっても気になるのは、それが中国の問題、とりわけ台湾有事のシナリオとリンクしているのかという話ですが、アメリカの若い研究者がそのテーマに正面から切り込んだ意見記事を書いておりましたので、試訳でご紹介します。
===
台湾とウクライナ:両者の運命をつなげて考えるのはやめるべきだ
22-1/27 WOTR
byカーリス・テンプルマン
ロシアのウクライナ周辺への軍備増強は、冷戦終結後のロシアと西側諸国との関係において最も深刻な危機を引き起こした。ウクライナとの国境付近には10万人以上のロシア軍が配備され、いつでも大規模な軍事攻撃を行える態勢が整っている。
こうした動きは欧州の安全保障だけに影響するもののように見えるが、アメリカの論者たちからは早くも台湾との類似性が指摘されている。たしかに台湾はウクライナと似ている。なぜなら両方ともユーラシア大陸の独裁大国からの存亡の危機に直面しており、強制力を行使されない状態をアメリカが維持しようとしている、欧米志向の民主国家であるからだ。
ウクライナも台湾も、アメリカが領土奪取のために軍事力を行使することを禁じる国際規範をどこまで守るつもりがあるのかを試す重要なケースとして位置づけられている。論者の中には「ウクライナへの軍事行動に対応できなければ、米国の信頼性が低下し、中華人民共和国による台湾への攻撃を招く」として両者の運命が連動しているという見方をする人もいる。
だが端的に言って、これはかなり雑な分析である。現在の地政学的状況では、ウクライナと台湾との違いは、その類似性よりもはるかに重要であり、両国が直面する安全保障上の脅威を結びつけることは、むしろ双方の状況を悪化させることにもなりかねない。
アメリカは、今後10年間で軍事バランスが中国に有利にシフトしつつある「インド太平洋地域」から、自分たちの国益にとって重要度が低く、パワーバランスがアメリカ側に有利な地域に、限られた資源を流用し続けるべきではない。台湾の安全保障にとって本当に重要なのは、アメリカの「評判」ではなく「優先順位」の方なのだ。
▼台湾は特別なパートナー
この比較は、なぜものごとを明確化するよりも不明瞭化するのだろうか?そのためには、まずアメリカの他国への関与の歴史を考えてみよう。ウクライナに対するアメリカの安全保障支援は最近になってからはじまったものであり、限定的であり「冷戦後のヨーロッパの安全保障秩序に対するロシアの挑戦」という広範な懸念に包含されるものである。
しかし、台湾に対するアメリカの権益は深い。台湾が事実上の独立国家として今日存在できているのは、1950年6月にトルーマン政権が台湾海峡を越えた中国の侵攻を防ぐために介入したからだ。それ以来、アメリカは台湾の安全保障上の主要なパートナーであり、軍事援助、訓練、武器売却の供給源となっている。
またアメリカは、台湾が「貧しい軍事独裁政権」から「豊かな自由民主国家」になるのを支援してきた。1950年代初頭の援助は、台湾の国民総生産の10%を占め、アメリカの顧問は土地改革と経済の安定化を推進する上で重要な役割を果たした。その後、アメリカは台湾の輸出企業にアメリカ市場への優先的なアクセスを認め、台湾の経済は急速に拡大し、現在では購買力調整後の一人当たりの国内総生産はドイツと同レベルに達している。
このような長期にわたる関与の歴史は、中国が台湾を攻撃した場合のアメリカの世界的な評判と影響力への影響が、ロシアのウクライナに対する攻撃の場合よりもはるかに大きなものとなることを意味する。
▼ 中国はロシアではない
次に、敵対者としての違いを考えてみよう。ロシアは、利害関係も戦略も戦術も、中国とは根本的に異なる。2000年以降、一人の強者が支配する衰退した国であるプーチン政権下のロシアは、どうしても手持ちのカードが弱い。
プーチンの積極的な対外行動は、ロシアの安全保障を強化するためではなく、主に国内の地位を向上させる必要性に駆られてきたものだ。プーチンは、EUやNATOの既存の制度を弱体化させ、分裂を促す一方で、東欧の大部分がロシアから西側へ方向転換することをほとんど阻止することができなかった。われわれがロシアについて、ワルシャワやプラハ、ブダペストなどに対する脅威ではなく、キエフに対する脅威について語っていることがその何よりの証拠である。
それとは対照的に、中国は台頭しつつある大国であり、その指導者たちは時間が自分たちの味方であると信じるだけの理由がある。中国経済はすでにインド太平洋地域で最大であり、世界でも第2位であり、この30年間、既存の世界経済と安全保障の仕組みから多大な恩恵を受けてきた。ロシアの行動とは対照的に、国際秩序を修正しようとする中国の動きは、既存のグローバルな制度を利用し、自らがコントロールできる補完的な制度を構築すること、つまり「取り壊す」のではなく「建設するもの」がほとんどである。
このような2つの異なる軌道をたどってみると、アメリカがそれぞれで国益を増進するための戦略も根本的に異なってくることがわかる。 ロシアはすでに国際法や規範に反してウクライナ領土を占領・併合し、ウクライナ東部の紛争で戦う代理勢力を支援しており、1万4000人以上の命を奪い、その国際的評価と国益に多大な損害を与えている。
中国は台湾に対してそのようなことはしておらず、その脅威は軍事的なものと同じくらい経済的、外交的なものである。例えば、人民解放軍がこの地域を不安定にし、台湾やアメリカに譲歩させようと思えば、金門と馬祖の脆弱な沖合諸島(前者は厦門市街からわずか30キロ)をすぐに奪取できるが、これらの地域は依然として台湾の管轄下にある。
同様に、中国軍が台湾の領空付近で定期的に行っている目立った演習は、主に台湾とアメリカの指導者にシグナルを送ることを目的としており、領土の奪取や維持、侵略の予兆を示すものではなかった。また、これまでのところそれらが人命の損失や直接的な紛争に発展したことはない。
むしろ中国の戦略の最も特徴的な点は、両岸の現状を徐々に変化させるために、非軍事的な手段に頼っていることだ。北京の台湾政策は、好まないタイプの、あるいは信頼できないタイプの台湾の指導者に直面した場合でも、「ハード」な外交・軍事圧力と同様に「ソフト」な経済的誘導を重視し、台湾への影響力を高めてきた。
この戦略には、台湾の人々と同様に、アメリカ国民を対象とした執拗で多角的な「プロパガンダ・キャンペーン」も含まれている。このキャンペーンは、中国共産党が好むシナリオを強調しようとするものである。すなわち「台湾は中国の神聖な領土であり、中国は両岸の統一のためならどんな犠牲も払う」というものだ。そして「衰退する米国は、台湾の公約から手を引くべきである。なぜなら、台湾は常にアメリカ人よりも中国人にとって重要なものだからだ」というものである。
これはロシアのものとは全く異なるメッセージを発している。中国のそれは、より忍耐強く、より洗練されたものであり、対抗するのが難しい。アメリカの政策立案者は、世界の他のホットスポットでアメリカのコミットメントを過剰に拡大することによって、それにまんまと乗ってしまう危険性がある。
▼アメリカは台湾にさまざまな権益を持っている
台湾におけるアメリカの権益の範囲と深さは、ウクライナのそれを凌駕している。台湾は世界の商業界で圧倒的な強さを誇る経済大国であり、その経済は他の東アジアや北米と密接に絡み合っている。2020年の台湾は、アメリカにとって第9位の貿易相手国であり、物品とサービスの双方向貿易で1,060億ドル(約11兆円)であった(ウクライナは67位で、39億ドル)。
また、台湾は世界で最も戦略的に重要な企業であるTSMC社の本拠地でもあり、半導体技術で圧倒的なリードを築き、同社は今や世界のファウンドリーの収益の半分以上を占めるまでになった。
さらに、台湾は「第一列島線」の交通量の多い海路に面しており、北(日本)と南(フィリピン)にアメリカの条約上の同盟国があるという戦略的に重要な場所に位置している。もし人民解放軍が台湾を占領することができれば、アメリカの防衛能力は低下し、中国のハードパワーが増大する中で、他の同盟国やパートナーとの約束の信頼性も失われることになる。
台湾が豊かな自由民主主義国家として存在し続けることは、独裁的な中国に対する説得力のある代替案を提供することにもなる。それは、中国語圏の社会には、民主主義と自由市場資本主義が適しているということを証明するからだ。台湾の人々は、中国共産党ではなく、西洋と規範や価値観を共有しており、世界の繁栄と自由を促進するアメリカの努力の輝かしい成功例となっている。
もちろんウクライナもいつかはそうなれる可能性はあるが、もし成功したら、それはアメリカとの弱い関係ではなく、むしろ欧州連合との緊密な経済統合を通じたものだろう。 これらの理由から、もし台湾が北京の支配下に置かれた場合、アメリカの権益はロシアによるウクライナへの攻撃よりもはるかに深刻な影響を受けることになる。
▼アメリカはウクライナでロシアと戦わなくても台湾を中国から救うことが可能
ウクライナと台湾の比較から生まれた最も疑わしい主張は、アメリカの「信頼性」を維持する必要性についての議論である。「バイデン大統領のアフガニスタン撤退が中国の冒険主義を助長する」と主張した評論家の多くが、それと全く同じ理由を使って、ウクライナへの介入を主張しているのである。
しかし、この議論は誤った前提に立っている。台湾海峡におけるアメリカのコミットメントの信頼性は、地球の裏側で異なる敵、異なる種類の脅威、異なるアメリカのパートナーや同盟国の連合に対して行うことに依存するからだ。
現実的には、台湾の安全保障にとって最も重要なのは「アメリカの評判」よりも「優先順位」である。より小さな脅威に対応するためにインド太平洋地域から資源と注意をそらすことは、アメリカが今後10年間に安全保障上の最大の課題に直面する地域の同盟国やパートナーを安心させることにはつながらない。
したがって、バイデン政権の高官がこの違いを認識しているように見えるのは心強いことである。国家安全保障顧問のジェイク・サリバンが最近のインタビューで指摘したように、アメリカの台湾に対するコミットメントは、
「一つの中国」政策、台湾関係法、3つのコミュニケに根ざしたものです。台湾関係法は他国にはなく、ウクライナにもないユニークなもので、さまざまな方法で台湾を支援するというアメリカのコミットメントを物語っております」
バイデン政権が最近行った中国の圧力に対する措置は、武器売却から二国間貿易協議、バイデンの就任式への台湾代表の招待に至るまで、結局のところ、現在のウクライナの危機へのワシントンの対応と比べても北京と台北の双方ではるかに大きな関心を集めている。
アメリカの外交評論家もこの違いに気づき、両者の運命をつなげることをやめてくれれば、台湾とウクライナの双方にとってプラスとなるだろう。
====
タイトル通りの「ウクライナと台湾はアメリカの国益にとって優先順位が違う」ということですが、これは「ウクライナを見捨てよ」という過大解釈をされがちな意見ですね。
問題は、だからと言って「日本は関係ない」と言えず、政府としてはロシアに対しては制裁などで厳しく当たる必要があるということです。
ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。
(臼井不動産)
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▼最新作 〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜
「米中20年戦争 Ver.7:カギは日本だ!国家と個人のエマージェント戦略!」音声レポート
▼〜奴隷人生からの脱却のために〜
「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜
「トリプル・インベージョン:静かなる侵略」 音声レポート
▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜
「奥山真司の『真説 孫子解読2.0』CD」 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜
「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜
「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」
▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜
「奥山真司の『未来予測と戦略』CD」 ▼〜これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分しましょう〜
「奥山真司の現代のクラウゼヴィッツ『戦争論』講座CD」 ▼〜これまでの地政学解説本はすべて処分しましょう〜
奥山真司の地政学講座CD 全10回
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ロシアはウクライナに侵攻しない?
http://geopoli.exblog.jp/30964385/
2022-01-28T08:38:00+09:00
2022-01-28T08:38:25+09:00
2022-01-28T08:38:25+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、ウクライナ情勢が危険な状況になりつつありますが「それでもロシアはウクライナに侵攻しないという」というこの期に及んでは「意外」とも言えような意見を主張しているベテランのロシア経済の専門家の意見がありましたので、その試訳を。
===
ポール・グレゴリーへのインタビュー
Q:ロシアとウクライナの戦争は間近に迫っているのか?
A:何らかの誤算があれば、戦争になる可能性はある。すべてはロシアのプーチン大統領が何を考えているかにかかっているようだ。私は、ロシアの潜在的な動きについて「費用対効果の分析」という観点から考えてきた。プーチンの過去の戦争に関する意思決定のパターンを見てみると、彼はロシアの犠牲者がほとんど出ないような小規模で低コストの戦争を好んでいることがわかる。2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア併合、2015年からのシリアのアサド政権への支援介入は、すべてこのモデルに合致している。
これらの紛争で犠牲になったロシアの人命はごくわずかであり、そのほとんどは金で雇われた傭兵であった。ロシア人が犠牲になったとしても、それはクレムリンによって秘密にされていた。ロシアで最大の国家機密のひとつは、プーチン政権の下で何人の若者が殺されたかということだ。プーチンはこの数字に細心の注意を払い、それが彼の重要な政治的弱点の一つとなっているからだ。
また、こうした小規模な紛争の背景には、プーチンの側近たちが資金を調達していることもある。その費用は、そもそも国家予算から直接出ているわけではない。クレムリンの内部で何が起こっているのか、私たちは正確に知りえない。しかし、ロシア政治のトップたちが、組織的な犯罪ファミリーのように振る舞っていることは確かだ。プーチンはオリガルヒたちに向かって、「さあ、この軍事作戦の費用を払ってもらうぞ」と言う可能性が非常に高い。オリガルヒは母なるロシアに忠誠を誓って財源を使うのではなく、クレムリンから受けた恩を返すために窮地に立たされているからだ。
例えば、クリミア併合に資金を提供したオリガルヒは、ケルチ海峡を越えて半島をロシアにつなぐ橋を建設する数十億ドルの契約を受け取った。その橋の建設費が20億ドルで、オリガルヒは国から50億ドルの支払いを受けるとしよう。そしてそのオリガルヒは、クレムリンの政策課題を支援するために、30億ドルの利益の一部を国に再投資し、自分の地位を維持できるようにするのだ。
プーチン政権下の武力紛争のもう一つの特徴は、軍備を増強し、紛争に備えながら、民衆の支持を得るために国家主義的なアピールをすることである。例えば、クレムリンの支援を受けた報道機関は、2014年に「ウクライナ人がキエフから同国東部にやってきて、ロシア語を話す人々を殺すなどの残虐行為をしている」と虚偽の主張をした。
結局のところ、プーチンがウクライナと戦争を始めるとは思えないのは、現在の現実が、今並べたモデルに合致していないからだ。プーチンは大量の死傷者を秘密にしておくことはできないし、戦争に負けることは自分の仕事や首を失う良い方法であることを、歴史から理解している。ロシアは、1979年に始まったアフガニスタン侵攻の失敗をよく覚えている。この軍事的冒険がもたらした経済的、政治的ダメージは、その10年後のソビエト連邦崩壊の条件の一つとなったのだ。
その一方で、私が心配しているのは、現在のロシア軍のウクライナ国境への駐留が、偶発的な武力衝突を引き起こす可能性があるということだ。その結果として大規模な紛争に発展する可能性は、たしかに存在する。
Q:ウクライナ国境で見せた大規模な軍事力展開の背後にあるクレムリンの動機は何か?
A:プーチンは「東欧におけるNATOのプレゼンスを縮小し、ウクライナをロシアの影響下に戻す」という長期的な目標をすべて公にしており、その目標に向かってひたすら邁進している状態にある。ロシアによる軍隊の増強は、ウクライナの主権に対する脅威を示しているため、西側諸国は差し迫った戦争を懸念している。そのため、米国と欧州の同盟国は「戦争を防ぐために何ができるか」を自問自答せざるを得なくなった。
バイデン大統領とプーチンとの会談はこれまでのところ失敗に終わっているが、バイデン政権側の主な関心は、クレムリンの外交政策の目標を満足させることにあった。もしウクライナ周辺にロシア軍を増強していなければ、プーチンは西側諸国からここまで注目を浴びることはなかったはずだ。
気になるところだが、プーチンは頭が良いので、相手の弱点を察知していると思われる。そして弱さを感じると、どこにでもつけ込んでくる。たとえば米軍がアフガニスタンから撤退し、同国がタリバンに蹂躙されるのを許したことに弱さを感じたのだ。
また、ヨーロッパがロシアにどう対抗するかという点で意見が一致できていない点も見ている。ドイツの新指導部はクレムリンに対して軟弱な態度をとっているが、その理由の一つは、ドイツの国民が安価なロシアの石油とガスにますます依存しているからだ。ロシアの北方鉱区からバルト海を経由してドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム2」は2021年9月に完成しており、ロシア国営エネルギー大手ガスプロムは、このパイプラインの出口であるドイツから、欧州全域のエネルギー市場でのシェアを拡大する方針である。
ウクライナでの軍備増強は、ロシアを世界の大国と位置づけたいプーチンの思惑もあるのだろう。もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう。現在クリミアにはウクライナ領以外、陸路で入ることができない。このようなロシアの侵攻は、ウクライナにとって最も戦略的な港を失う可能性が高いため、地政学的な災難となるだろう。
Q:ロシアはエネルギー資源の豊富なカザフスタンにも介入している。プーチンがカザフスタンとウクライナの両方への影響力を強めれば、世界のエネルギー市場におけるロシアのシェア拡大につながるのでしょうか。
A:ウクライナは主要なエネルギー生産国ではないが、ロシアの天然ガス輸出の半分をヨーロッパに運ぶ中心的な中継地であったため、戦略的に重要である。このような事情もあるため、クレムリンにとってウクライナに侵攻することは、少なくともノルドストリーム2が稼働するまでは得策とは思えない。もし戦争が起こり、ノルドストリーム2が稼働しないままウクライナのパイプラインが停止すれば、ロシアは高いエネルギー輸出を維持できなくなり、多額の国家収入を失うことになるからだ。
それに比べ、カザフスタンは化石燃料の一大生産国であり、多国籍企業によるエネルギー部門の運営を認めている。もし、クレムリンが国有化政策によってカザフスタンの資源を支配することができれば、ロシアは世界のエネルギー市場におけるシェアを3分の1まで高めることができる。
今のところ、ロシアがどう動くかはわからない。ロシアのいわゆる「平和維持軍」は、燃料価格の大幅な値上げをめぐるカザフスタン政府への抗議行動を鎮圧するために派遣されていたが、これをカザフスタンから撤退させることで合意したとの報道もある。
Q:ロシアは、一部の政治家や外交評論家から「ペーパータイガー」(張子の虎)と呼ばれている。私たちは、グローバルな舞台でのロシアの強さを過小評価しがちでは?
A:私たちはたしかにロシアを過小評価することが多いと思う。今、プーチンはウクライナに対して攻撃的な姿勢をとっており、米国や欧州から譲歩を引き出すのに有利な立場にある。だがわれわれはロシアが核保有大国であることを忘れてはならない。ロシアの軍事ドクトリンでは、モスクワの国政が脅威にさらされた場合に戦術核を使用する権利があるとされている。
これは非常に恐ろしいことだ。私は「ロシアは軍事的な意味で張子の虎である」とする議論には納得できない。彼らはいつでも我々を全滅させることができるからだ。もちろん「ロシアは経済状態が悪いので、国家の軍事力を長期的に維持することはできないだろう」という議論はできるかもしれない。しかし、かつて経済学者のジョン・メイナード・ケインズが言ったように「長い目で見れば、我々は皆死んでいる」のだ。
Q:ロシアは具体的にどのような譲歩を米国や欧州に望むのか。
A:ロシアは、NATOがウクライナやグルジアなど、ロシア領に隣接する国を加盟させないという確約を望んでいる。つまり、1948年にフィンランドがソ連と平和条約を結んだときのように、ロシアとNATOに対して「中立」を宣言することを望んでいるのだ。
私はもしこれらの国々の「フィンランド化」が実現すれば、深刻な事態になると予想している。プーチンはこれらの中立国にハイブリッド戦争を仕掛けて、急速にロシアの衛星にすることだろう。中立を宣言されれば、西側の保護と自衛のための武器獲得能力を失うことになる。
Q:このような状況下で、米国とその同盟国は、どのようにロシアに対抗すればよいのか?
A:今のところは「ロシアに対して交渉によって有利な政策的結果を得ることはできない」と認識することが健全だと思う。プーチンの注意を引くことができる武器はただ一つ、プーチンがヨーロッパを支配するエネルギーの鍵となるパイプライン「ノルドストリーム2」を停止させることを目的とした非常に厳しい制裁措置だけだ。
問題は、バイデンが2021年7月にドイツのアンゲラ・メルケル首相との交渉で、ノルドストリーム2の運営会社に対する制裁を免除したことだ。同様に、先週、米上院はテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)が提出した、このパイプラインに関連する企業を制裁する法案を否決している。
ノルドストリーム2は完成しているものの、ドイツの規制当局による認定はまだ受けていない。この事実は、少なくとも事態を収拾するための希望となる。
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主に経済的な面から見た、実に興味深い解説です。
地政学に関連するところでいえば「もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう」という部分が個人的には注目だと考えております。西側のロシアと地理的に争われている最前線は閉鎖海である黒海(のアゾフ海)であるためです。
ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。
(日本の城)
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▼〜奴隷人生からの脱却のために〜
「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
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奥山真司の地政学講座CD 全10回
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沖縄に仕掛けられている浸透工作?
http://geopoli.exblog.jp/30962805/
2022-01-27T00:07:00+09:00
2022-01-27T00:45:58+09:00
2022-01-27T00:07:38+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、昨日のエントリーの連続ものとなりますが、フランス国防省の中国の影響工作に関するレポートの本文の中から、日本に関係する興味深い部分を試訳してみました。該当するのは401頁付近です。ぜひお読みください。
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X. その他のレバー
中国の影響力行使に用いられるその他の手段を網羅的でない形で列挙すると、市民運動、中国人観光客、インフルエンサー、人質なども加える必要があるだろう。
A. 市民運動
1. 独立推進運動:ニューカレドニアと沖縄
独立運動を奨励することは、市場シェアを回復し、潜在的な敵対国をより脆弱にしようとする北京のアジェンダに合致している。最初の例はニューカレドニアだ。2018年のニューカレドニア独立を問う住民投票では、中国の干渉が疑われた。北京は独立派の動向を注視していることが知られており、2020年の住民投票でもそれが確認された。ニューカレドニアが独立すれば、事実上中国の影響下に置かれることになるからだ。このことは、中国という一党独裁国家にとって2つの重要な利益をもたらす。
第一に、中国はニューカレドニアを「中国の反包囲戦略の要」とすることができ、同時にオーストラリアを「ヌメアだけでなく、ポートモレスビー、ホニアラ、ポートビラ、スバにも頼ることができるため」孤立させることができる。 また、中国への原材料(ニッケル)の供給も確保できることになる。つまり、北京が現地の政治・経済エリートとの関係を維持しながら、彼らの独立運動を支援する理由はいくつかあるのだ。「中国は内部から経済をコントロールし、政治家や部族指導者に近づくことで前進している。中国の戦略は完璧に整備されているからだ。このような中国の戦略は、アジア太平洋地域の他の場所でもうまくいっている」。
「中国・カレドニア友好協会」はそのような役割を果たしており、現地で統一戦線活動を展開している。 同協会の前会長であるカリーヌ・シャン・セイ・ファンは、独立主導派のリーダーであり、「その前の二人のリーダーも同協会の重要なメンバー」であることに注目すべきであろう。一般的に、中国の「ディアスポラとその代表的な組織、少なくともその一部は、一部の独立派関係者と極めて親しい」。カリーヌ・シャン・セイ・ファンは、住民投票の1年前の2017年10月に、在仏中国大使を同島に招聘している。大使は家族や何人かの顧問と一緒に同国で一週間を過ごした。「彼らは皆に会い、我々が何を必要としているかを尋ねた:観光や養殖など、関心を持てるものなら何でも提供すると言っていた」と国会議員のフィリップ・ゴメスは回想している。
もう一つの例が沖縄だ。日本には強い国民アイデンティティがあり、島国根性さえある。しかし沖縄は、第二次世界大戦中に日本軍によって琉球列島全体と同様に住民が虐待されたため、例外的な場所となっている。国民は「日本」というテーマで分裂している。親中感情は、中国との貿易で利益を得ている住民の存在によって蔓延して維持されている。北京にとって、これは付け入ることのできる「弱点」であると同時に「戦略的なチャンス」でもある。この島々のロケーションは、太平洋諸島の第ニ列島線へのアクセスを確保するのに好都合なのだ。この島々にいる日本人とアメリカ人の両方を邪魔することができれば、まさに「一石二鳥」となる。
沖縄は、米軍基地の存在を敵視する土着の独立派運動もすでに存在するため、こうした工作には好都合な場所となっている。2018年10月の知事選で玉城デニー氏(長年アメリカのプレゼンスに反対してきた)が当選したことからもわかるように、島の大多数は反東京、反中央政府である。それゆえ、沖縄県は一部部隊(海軍、空軍)の退去を主張している。将来、沖縄が一方的に独立を宣言するリスクを日本政府は重く受け止めている。
それと同時に「中国は外交、偽情報、米軍基地近くの島北部への投資を通じてこの目的を奨励している」。2013年、環球時報は日米同盟から自国を守ろうとする北京が、沖縄の琉球列島の独立回復を求める勢力を潜在的に育成し、そうすることによって日本の一体性を脅かすことになるとすでに警告を発していた。
2016年12月、日本の公安調査庁は、中国の大学やシンクタンクが沖縄の独立派活動家とつながりを育もうとしていることを明らかにした。一方、中国の報道機関は、沖縄における日本の主権を疑問視する記事を定期的に掲載している。細谷雄一教授によれば、北京は「沖縄の独立と米軍撤去を推進するために沖縄の世論に影響を与えている」という。
また、中国と沖縄の経済的な結びつきも強まっている。天然資源が豊富で、米軍施設もある沖縄の北部地域には、中国の投資家が投資している。また、近年、沖縄への中国人観光客は大幅に増加しており、中国の都市と沖縄の間に姉妹都市関係が結ばれる例も増えている。
中国政府は、旧琉球王室のメンバーにも積極的に働きかけをおこなっている。たとえば2018年には、最後の琉球王の曾孫である尚衞(しょう まもる)が中国を訪問した。 同年3月、尚衞は22人の代表団を率いて福建省を訪れ、4日間の「ルーツ探し」ツアーを行った(同時に、沖縄と中国の歴史的なつながりを探る会議も開催された)。 北京は、中国の研究者やシンクタンク(社会科学院)と、沖縄の独立派の活動家たちとの関係も進展させている。彼らを中国に招待してイメージアップし、彼らに発言の場を与えているのだ。
また、独立派や在沖米軍基地反対派は、憲法9条改正(戦争放棄)や自衛力強化に反対する左翼・平和主義活動家と合流している。したがって北京はこれらの運動も支援しており、日本の軍事的発展を阻害・抑制することで中国の思惑にうまく合致させている。とりわけ日中和解を目指す仏教団体である「創価学会」と、その政党である「公明党」がそれに当てはまる。
結果として、例えば日本の左翼活動家や平和主義者が、沖縄の米軍基地に反対する中国語の記事を共有することは日常茶飯事になっている。
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スペルの間違いなどはありましたが、よく調べて書かれているという印象です。
日本ではこの手のレポートは公的機関からは出てきそうもないですね。
ということで、繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらの方もぜひ。
(塩山)
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▼最新作 〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜
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奥山真司の地政学講座CD 全10回
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フランス国防省の「中国の影響工作」のレポート
http://geopoli.exblog.jp/30961823/
2022-01-26T10:46:00+09:00
2022-01-26T10:46:27+09:00
2022-01-26T10:46:27+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、一部界隈で話題だったフランス国防省のシンクタンク(日本でいえば防衛研究所)がまとめた中国の影響工作についての報告書、ついに英訳版が出ましたので、そのエグゼクティブ・サマリーの試訳です。
本文は600頁超えなので、全訳は無理です。誰かぜひやってください(とバックパッシング)。
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エグゼクティブ・サマリー
中国は長年にわたって、ロシアとは異なり「恐れられるよりも愛されること」を求めていた。つまり中国は、誘惑し、世界に自国のポジティブなイメージを植え付け、賞賛を喚起することを望んでいたと言える。今日において、北京はまだ誘惑すること、その魅力、そして国際規範を形成する野心をあきらめたわけではいない。中国共産党にとって、「面子をつぶさない」ことは依然として非常に重要である。その影響力の行使は、近年かなり強化され、その手法はますますモスクワのそれと似てきている。マキャベリが『君主論』で書いたように、「愛されるより怖れられる方がいい」と北京が考えているように見えるという意味で、この一党独裁国家は「マキャベリ的瞬間」に突入しているといえる。この進化は、中国の影響力行使の「ロシア化」を示している。
本レポートは、中国の影響力のツールについて、最も温和なもの(パブリック・ディプロマシー)から最も悪質なもの、すなわち他国への干渉(秘密活動)まで、その全範囲をカバーするという野心からこの進化を分析している。そのために、この分析は4つのパートに分かれており、この「瞬間」に関連する概念、アクター、そして行動などを順次紹介し、最後にいくつかのケーススタディで締めくくられる。
1. 中国の影響力行使を理解する上で重要な概念として挙げられるものには、内外の敵を排除し、その権威に逆らいうる集団を統制し、党を中心とした連合体を構築してその利益を図る中国共産党の政策である「統一戦線工作」があり、他にも中国の「政治戦」の核心にある「三戦」があり、これは中国に有利な環境を作り出すことによって戦わずして相手を制圧しようとする「非キネティック」な紛争傾向を持っている。戦時・平時を問わずに行われるこの戦いには、世論戦、心理戦、法律戦(後者は英語でいうところの "lawfare "に近い)などが含まれる。
ソ連の概念も、北京のレパートリーを説明するのに役に立つ。たとえば「積極的措置」とは、情報操作、偽造、妨害工作、信用失墜作戦、外国政府の不安定化、挑発、偽旗作戦、相手社会の結束を弱めるための操作、「役に立つバカ」の採用、そしてフロント組織の創設などである。
2. 中国の影響力工作を実施する主体は、党、国、軍、企業である。
党内には、イデオロギーを監督し、全メディアと国内の全文化生産をコントロールする宣伝部、主要ターゲットを反映した12の事務所を持つ統一戦線工作部(UFWD)、外国政党との関係を維持する「国際連絡部」(ILD)、法輪功運動を排除するために法的枠外で活動する世界各地のエージェントを抱える「610弁公室」などが含まれる。「中国共産主義青年団」(CYL)もこの中に含まれるべきで、若者とのつながり、将来の党幹部の育成、そして必要な時に動員できる力として、たとえそれが正式な党組織でなく大衆組織であったとしても、その役割を担っている。
国務院の内部では、特に2つの組織が影響力の行使に関与している。民間の主要な情報機関である「国家安全部」(MSS)と、台湾向けのプロパガンダを担当する「台湾事務局」(TAO)である。
人民解放軍の内部では、戦略支援軍(SSF)がそのネットワークシステム部を中心に最前線にいる。同部は情報領域における資源を持ち、任務を任されている。より正確には、この領域で確認されている主要なアクターは、福州に本部を置く「311基地」であり、「3つの戦域」戦略の実施に専念している。また、民間の隠れ蓑としてメディア企業を運営し、訓練センターを隠すために偽のホテルも運営している。
最後に、誰が、いつ、どのように影響力工作の対象となるべきかを決定するために必要なデータを収集する上で、公共・民間企業は重要な役割を担っている。ウィーチャット、微博(ウェイボー)、TikTokなどのデジタルプラットフォーム、百度やファーウェイなどの企業や研究者が中国の「テクノ権威主義」あるいは「デジタル権威主義」と呼ぶものについての洞察を提供するすべてのデータベースなどは、海外での影響力行使の準備と実行に利用されている。旧2APLに委ねられていた情報任務を継承したらしい「中央軍事委員会統合参謀部」も、このリストに含まれるはずだ。しかし資料が不十分なため、この機関については報告書の中で取り上げていない。
3. 北京が海外で影響力を行使する際に行っている行動には、主に2つの排他的でない目標がある。第一に、中国を肯定的に表現することで海外の聴衆を誘惑し、魅了することである。これは4つの具体的なナラティブ(中国の「モデル」、伝統、慈愛、強さ)によって説明することができる。第二に、何よりも「浸透」と「強要」を行うということだ。浸透は、対立する社会にゆっくりと浸透し、党の利益に反する行動の可能性そのものを阻止することを目的としている。強制は、中国の「懲罰的」または「強制的」外交を、党の利益を脅かすあらゆる国家、組織、企業、個人に対しても組織的に制裁する政策へと徐々に拡大させることに対応している。いずれもほとんどの場合は仲介者の網を通じて実施される。全体として、これらの慣行は以下のカテゴリーを対象としている。
-- ディアスポラたち:まず中国の権力にとって脅威とならないように彼らをコントロールし(NGOフリーダムハウスによれば、北京は「世界で最も洗練され、グローバルで、完全な」国境を越えた弾圧キャンペーンを行っている)、次に共産党の利益を図るために動員される。
--メディア:北京の明確な目標は "新しい世界メディア秩序 "を確立することである。実際、北京政府は2008年以来、毎年13億ユーロを投じて、世界的なイメージをより厳しく管理しようとしている。中国の主要メディアは、複数の言語、複数の大陸、そして中国でブロックされているものを含むすべてのSNS(Twitter、Facebook、YouTube、Instagram)上でグローバルな存在感を示し、デジタル視聴者を人為的に増やすために巨額の資金を投じている。北京はまた、海外の中国語メディアをコントロールしようとしている。これは非常に成功しており、中国共産党は現在、海外の中国語メディアを事実上ほぼ独占しており、主流メディアもコントロールしようとしている。他にも一党独裁国家はメディアで使われるコンテンツをコントロールすることに関心があり、テレビ、デジタルプラットフォーム、スマートフォンをターゲットとして、グローバルな情報サプライチェーンの各段階に影響力を行使している。
--外交:これにはとくに2つの側面がある。第一に、国際機関や規範に対する影響力である。北京はその影響力を強化するために、古典的な外交資源と密かな影響工作(経済・政治的な圧力、懐柔、強要、腐敗)を展開する。第二が、いわゆる「戦狼」外交である。これは外交部(外務省)の報道官と十数名の外交官が採用する、より攻撃的な姿勢を指す。これらの攻撃は古典的なものと比較的新しいものがあり、特にSNSを利用し、罵詈雑言、諫言、脅迫に至るまで遠慮のない手段で行われるのが特徴である。全体として、このような中国外交の攻撃的な展開は逆効果であることが証明されており、近年の中国のグローバルイメージの急激な悪化に大きく寄与している。このような活動は、おそらく関係者たちにとっては持続可能なものである。なぜならその目的は、他国の人心を掌握することではなく、むしろ北京を喜ばせることにあるからだ。
--経済:経済依存は、しばしば中国が最初に用いる手段である。中国国内市場への参入禁止、禁輸、貿易制裁、国内投資の制限、中国人観光客への依存度が高い地域に課せられる出国制限、あるいは集団ボイコットなど、経済的強制は実にさまざまな形で行われる。さらに、北京は国内市場にアクセスするための条件として検閲を行うことも多くなってきており、多くの企業が圧力に屈してしまう実情がある。
--政治:対象国に入り込み、公的な政策決定メカニズムに影響を与えることを目的としたものだ。政党や有力政治家との直接的な関係を維持することで、一党独裁国家は対象国に潜入し、そこで公式・非公式の支援を集め、野党や「引退した」公人を利用して、政府内の最終的な妨害を回避できる。また、北京は選挙にも介入している(過去10年間で、中国は7カ国において少なくとも10の選挙に介入していると思われる)。
--教育、特に大学経由のものは、党の影響力行使の主な標的の一つである。その主な手段は、大学における自己検閲につながる財政的依存、海外のキャンパスにおける中国人学生や大学教員、そして管理者たちの監視と脅迫、授業内容や教材、計画されていたイベントの変更の強要、自己検閲の奨励と批判的研究者への処罰による中国研究の形成などである。
また、この一党独裁国家は、共同研究プログラムのような合法的で公然の手段、あるいは窃盗やスパイのような非合法で密かな行為によって、海外の大学を利用して知識や技術を獲得している。「軍民融合」の文脈の中で、ある共同研究プログラムや欧米の数十の大学で役職に就いている研究者は、北京が大量破壊兵器や監視技術を構築するのを強制的に支援し、それが中国国民を弾圧するために利用されている。2020年と2021年には、この件に関していくつかのスキャンダルが公的に発覚した。
他にも、教育における中国の影響力を示すもう一つの重要な要素として、大学と結びついたものがある。世界中で開講している孔子学院や孔子教室は、中国語や中国文化を教えるという名目で、特定の大学の中国への依存度や服従を強め、学問の自由を損なわせている。諜報活動にも利用されている可能性もある。
-シンクタンク:この分野での中国の戦略は2つの側面からなる。シンクタンクの海外支社を設立することと、それ自体がシンクタンクである可能性のある現地の組織を利用することである。考えられるシナリオとして、現地のアイディア市場で増幅器として働く暫定的なパートナー、共産党のナラティブを広める状況的な同盟者、そして中国共産党と共通の世界観と合致した利益を共有する共犯者、の3つである。
---文化:まず、映画、テレビシリーズ、音楽、書籍などの文化製品の生産と輸出を通じたもので、これらはすべて強力な誘惑の手段である。北京の機嫌を損ねないように、そして巨大な中国国内市場へのアクセスを維持するために、多くのアメリカの映画スタジオは検閲を行い、映画のシーンをカットしたり修正したりしている。中には、中国人を "良い "役柄に起用するような過剰な措置を行うところもある。党・国家を批判するアーティストたちは、ほぼ確実に中国市場へのアクセスを拒否されることになる。別の圧力として、北京はアーティストたちが作品を修正したり、世界のどこかで展示するのを単に止めたり、あるいは中国の検閲官の仕事をするよう奨励することも望んでいる。
--情報操作、メディアで党のプロパガンダを広めるためにSNS上の偽アカウントに頼る、トロール(荒らし)や「アストロターフィング」(自然発生的な民衆運動を模倣する)、世論を「誘導」するために多数の「インターネット解説者」(誤って「五毛党」と呼ばれる人々)を雇うことなどである。一般的に、トロールたちは、PLAやCYLによってコントロールされ、ターゲットを擁護し、攻撃し、論争を巻き起こし、侮辱し、嫌がらせをする。真正性を模倣するもう一つの方法は、金銭と引き換えに第三者が公開するコンテンツだ(コンテンツファーム、メッセージの購入、アカウントやページに対する影響力の購入、「インフルエンサー」の採用など)である。2019年以降、Twitter、Facebook、YouTubeは、中国発の協調キャンペーンを特定することを控えるようになった。それゆえ、何万もの偽アカウントが停止された。あるものは長い間「休眠」していたが、あるものは買われたり盗まれたりしており、そのほとんどは中国のプロパガンダを増幅し、米国を(中国語や英語で)攻撃していた。中には人工知能によって生成されたプロフィール写真を使用しているアカウントもあり、これはいまやSNSにおける中国の活動において定期的に観察されるようになった手法だ。
さらに、これらのキャンペーンの重要な側面として挙げられるのは、これらは単に中国を擁護しているわけではないという点だ。中国モデルの促進は、ロシアの影響力活動が長年行ってきたように、他のモデル、特に自由民主主義を貶めることと密接に関係している。中国共産党はこうした作戦の中核におり、SNSを利用して、まず一方では「オープンな」影響力行使を行い、しばしば抑止力と心理戦を目的としたプロパガンダを流し、他方では外国のターゲットに対して秘密裏に敵対的な工作を行っている。
--その他のレバーたち: 北京は影響力行使において、各国の市民運動も利用している。特に分離主義者(ニューカレドニア、沖縄)、平和主義者グループ(冷戦反対派)、中国人観光客、インフルエンサー(欧米のユーチューバーを含む)、外国の学者たち、さらには「人質外交」を展開するため人質も利用している。
4. ケーススタディは同心円状に紹介される。台湾と香港は北京の「政治戦」の最初の戦線を構成している。この2つ地域は中国の作戦の前哨基地、訓練場、「研究開発の実験室」であり、その後、洗練された形で世界中の他のターゲットに応用されるのだ。これはつまり、ロシアにとってのグルジアとウクライナのようなものだ。この作戦の最初の輪は、まずオーストラリアとニュージーランドをターゲットに広げられる。
そして次のステップは、世界の他の地域、特にヨーロッパと北米(だけではないのだが)をターゲットにすることであった。このパートでは、台湾、シンガポール、スウェーデン、カナダの4つの事例と、2019年に香港のデモ参加者をターゲットにし、2020年に新型コロナウイルスをアメリカの創作と決めつけた、2つのオペレーションを紹介する。
最後に、結論はこの「マキャベリの瞬間」という概念に2段階で戻ってきた。まず、2017年頃から中国の影響力工作の「ロシア化」が実際に起きていることを確認する。2018年の台湾の市議選、その後の2019年の香港危機ですでに並行していたが、世界がこの問題を意識したのは、2020年の新型コロナウイルスによるのパンデミックからであった。そしてこの「ロシア化」の3つの構成要素が整理される。北京はいくつかのレベルで、モスクワからインスピレーションを得ている(既存の中国軍の文献では、PLAにとってロシアはこのような作戦で模範となるモデルであることを認めている)。しかし、両者の間には明らかに相違があり、また一定の協力関係も存在する。
最後の結論部分では、この新しい中国の姿勢の有効性を評価している。この北京のやりかたは、戦術的には一定の成功をもたらしたとしても、全体としては戦略的な失敗であり、影響力の点で自らが最大の敵となってしまっている。これらは習近平の登場以来、特にここ数年で北京の評判は急激に低下しており、中国は不人気問題の深刻化に直面し、自国民に対するものも含めて、間接的に党を弱体化させていく可能性がある。
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かなり長文ですが、これだけでも中身がどのようなものか読みたくなるものですね。
日本も関係する具体的な中身の一部についてはここでも紹介して行こうと思っております。ご期待ください。
また、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらの方もぜひ!
(鋸山遠景)====
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「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜
「奧山真司『THE REALISTS リアリスト入門』CD」
▼〜"危機の時代"を生き抜く戦略がここにある〜
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奥山真司の地政学講座CD 全10回
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RMAと戦略の次元
http://geopoli.exblog.jp/30951698/
2022-01-20T10:44:00+09:00
2022-01-20T11:01:50+09:00
2022-01-20T10:44:41+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
かなり遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。去年はこちらをさぼっていたので、今年はなるべく多めに更新するつもりです。
さて、いきなりですが一昨年亡くなった先生の有名な論文の試訳です。講義で使うことの多い資料なので、あえて自分で訳してあらためて内容を確認してみたいと思った次第です。
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RMAと戦略の次元
By コリン・グレイ
戦略や戦争はホリスティック(全体論的)な事業である。アメリカの戦略文化は、一度に一つのことだけに集中してそれが利点だと捉えることを好む。単色的な防衛パフォーマンスは、ほとんどの場合、より複雑な課題のうちの一つか二つの次元にのみ焦点を当てることになってしまう。戦略にはさまざまな次元があり、その一つひとつが歴史的な事例によってそれぞれ異なった重要性を持つ。そしてそれぞれが、戦略の遂行を台無しにする可能性を持っている。戦略の一般的な次元は偏在的で固定されているが、その詳細はしばしば変化する。戦略の「文法」は劇的に変化することもあり、「軍事における革命」(RMA)が起きたと主張できるほどにまでなることもある。
現在私は、戦略には一七の次元があると考えている。倫理、社会、地理、政治、人々、文化、理論、指揮(政治と軍事)、経済と兵站、組織(防衛政策と戦力計画を含む)、軍の準備(管理、研究開発、調達、採用、訓練、数と質量)、作戦、テクノロジー、情報とインテリジェンス、敵、摩擦、チャンスと不確実性、そして時間だ。
ある次元(技術や指揮など)は他のものよりも顕著に現れるが、どれも不可欠なものだ。戦略にこれほど多くの相互依存的な次元が存在するということは、一つの次元を改善することで得られる利点が極めて限定的であることを意味している。
▼二つの学派
文化人類学者は、アメリカは圧倒的に単色的な文化、つまり課題を一度に一つずつ切り離して、実用的に検討する文化を持っていると指摘している[1]。その結果、アメリカの国家戦略はこの一事一価のアプローチを反映している。国防系の知識人は、ウォーターゲート事件の調査戦術である「カネの流れを追え」(follow the money)を検証する方法を使っている。すると研究費の痕跡は、ある「ビッグ・アイデア」から別の「ビッグ・アイデア」へと単色的に続いていくのだ。戦略的経験には実際的に「ポリクロニシティ」と呼べる本質的な統一性があるが、国防問題には急速な流行り廃りがある。たとえばデタント、核戦略、ICBM基地、SDIとさらなるSDI、そして競争戦略など、さまざまな論争があった。問題の潮流は、新しいアイデアや新しく聞こえるアイデアとして定期的にやってきてから無常にも去っていく。今日ではそれが「RMA」と「情報戦」である。このような問題の変動性を指摘することは、それを否定することではなく、歴史的な観点からしかその有用性を明らかにすることができないということを認めることなのだ[2]。
ハーマン・カーンは国防系の知識人であり、その最大の特徴は、モノクロの断片的な分析のために物事を分解するのではなく、物事をまとめあげることにあった[3]。もちろん彼の天才的な才能を見習うことはできないが、彼の方法論に従うことはできる。本稿は、それがいかに手ごわいものに見えようともその全体性に重点を置いて、戦略と戦争を全体論的に提示しようとするものだ。実際のところ、戦略的な現象というのは、調べれば調べるほど複雑に見えるものである。読者は、プロの歴史家たちが軍事的な経験を精査すればするほど多くのRMAが発見されることにお気づきであろう。それは、より強力な望遠鏡で宇宙を探査するのと同じだ。そこにさらに歴史家が議論に加わると、彼らの専門がどの時代であろうと、その世紀に一つ以上の RMA が存在したことは確かであると証言する傾向がある[4]。相互に関連するアイデアの中核には、以下のような議論の流れが形成されている。具体的に見てみると、
■戦略や戦争には、多くの次元がある(一七が私の好みだが、もちろんそのリストに議論の余地はある)。
■どの次元も重要であるが、それらの間の相互作用はケースバイケースである。
■戦略のすべての次元は非常に重要だが、そのどれかで国家や同盟が著しく不利になると、全体として致命的な戦略的影響を与える可能性がある。
■戦略や戦争の次元は、その詳細と同様に一般的に永遠かつ偏在的であり、その相互関係の詳細と同様に、ある文脈から別の文脈へと変化していく。戦略の性質と構造は実質的に不滅である[5]。
■しかし戦争の性格と遂行(あるいはその「文法」について書いたクラウゼヴィッツの言葉を借りれば)、戦略の文法、すなわち戦略が戦術によっていかに達成されるかは[6]、政治、社会、経済、そしてテクノロジーの条件とともに(場合によっては根本的に)変化するものだ。
■戦略と戦争の性質と構造は不変であるが、戦争の性格と遂行における変化は、間違いなく「軍事における革命」と言うことができる。しかし「革命」という言葉は、よりゆっくりと変化する変数を軽んじる危険性がある。
■その結果、我々は戦略と戦争について非常に多くのことを知っており、また事実上、我々が理解していないこと、理解できないことについても非常に多くのことを知っていることになる。
この議論は極めて保守的であるが、変化の確実性を認めるものである。二〇世紀初頭、イギリスにおける技術面、ひいては戦術面での発展の急速なペースは、イギリス海軍において「唯物学派」と「歴史学派」の間で激しい論争を引き起こした[7]。前者の支持者は、大きな(それほど大きくなくても)技術的変化は、あらゆるレベルとあらゆる次元で、戦争というテーマ全体を実質的な変化、または「革命化」することを意味すると主張した。
それに対して「歴史学派」は、戦略と戦争は、技術と戦術が永久に流動的であるのと同様に、その本質においては不変であると論じたのだ。一九〇〇年代、ジャッキー・フィッシャー提督のような唯物論派とレジナルド・クスタンス提督のような歴史学派の間で交わされたこの議論は、細かさの度合いを進化させながら今日も続けられている。唯物論者にとって、世界は新しい技術が登場するたびに作り直されるのだ。
▼すべてが重要
マイケル・ハワードは戦略の次元に関する考えに対して、兵站、作戦、社会的、テクノロジーの次元を明らかにすることによって、最も直接的な刺激を与えている[8]。SALT II や核戦略に関する活発な議論を背景に執筆したハワードは、アメリカが技術の次元だけに注力しすぎており、社会や作戦の次元を犠牲にしているように見えることを懸念していた。RMAと情報戦に関する戦略論を考える場合に、私は上述した一七個以上の次元を使いたいと考えている。これらの次元は、同時に相互に影響し合いながら作用するものだ。戦略には一つか二つの次元しかないと本気で主張する人々は、このようなアプローチに反対するだろう。
戦略の次元をあえて序列化するようなことは控えるべきであろう。よって上記で引用した順番はランダムなものである。たとえを使って論じてみると、自動車メーカーの車種は、エンジンの種類とサイズの大きさが各モデルの差別化を測る要素として強調されるのが一般的である。しかし自動車は、駆動系や(バッテリーを含む)電装システム、そしてタイヤがなければ動かない。さらに自動車の「次元」を向上させる上では、他の部分とのバランスを考えて改良しなければならないという制約がある。「ツイン・ターボ」はたしかにオプションとしては素晴らしい装置だが、ブレーキやタイヤ、そして(戦略の問題にも言えるが)優れた運転手がなくては意味がない。優れた軍隊は、たとえ政治的な指導に誤りがあったとしても、間違った戦争において勇敢に戦うことができるだろう。その逆に、悲惨な軍隊は、正しい戦争でろくな戦果を出せないかもしれない。ここで最も重要なのは「すべてが重要である」というばかばかしいほど明白なことである。その次に重要なのは、いわゆる「システム・オブ・システムズ」[9]によって増強されたアメリカ軍によってもたらされるかもしれない軍事効果の素晴らしい改善でさえ、政治面での指導力が低ければ失望する可能性が高いということだ。結局のところ、ドイツは二度の世界大戦において戦闘力では無敵だったが、戦争遂行能力では驚くほど無能だったのだ。
▼地理を越えて
この問いに正解はない。戦略にはいくつの次元があるのだろうか?次元の正確な数やラベルは問題ではなく、むしろ戦略で重要なものは、そのすべて次元のどこかに含まれているという点だ。ある国や同盟国たちが、戦略のすべての次元で傑出している必要はないし、優れている必要さえない。不健全な計画、覇気のない政治指導者、平凡な将軍、不運、不便な地理的条件にもかかわらず、戦争に勝つこと(十分な戦略的効果を生むこと)は可能なのだ。
ここで三つの点を確認しておく必要がある。第一に、各次元がプレイヤーである。それぞれの次元は、いかなる紛争でもどの時代においても国家戦略の一部であったのだ。第二に、戦略の諸次元間や諸次元内において、何らかの代替が可能であるという点だ[10]。たとえば国家同士が陸、海、空、宇宙(もしくはサイバー空間)で同等の能力を持つことは極めて稀である。またドイツ東方軍の場合、戦争中に一方の技術の質と量が低下しても、モチベーション(闘志、士気、イデオロギー)の分野で有用な補償が得られる可能性がある。あるいは敵の情報が不足していても、運、優れた兵站、優れた組織、高い士気などが組み合わされば、不測の事態を乗り切ることができるかもしれない。しかしそれぞれが直面する状況というのは同じものが一つとしてない。たとえば英仏軍は両大戦のいずれにおいても作戦情報が不十分であったために奇襲を受けており、一九一四年にはその無知から回復したが、一九四〇年には回復できなかった。
第三に、各次元において一定のレベルの競争力が存在する、もしくはそれを存在させるべきであるという点だ。もしそのレベルを下回ると、敵が主導権を握るという取り返しのつかない結果が待っている。そして敗北は必至だ。ここで主張されている議論は、戦略の次元の全範囲が(好みや狙いに関係なく)紛争に影響を与えるということである。その中で、重要でないものはあるのだろうか?たとえば「サイバー空間の時代には、地理があまり重要でない」という議論がある。だがサイバー空間が支配的となり、サイバーパワーが偏在すると同時にどこにもない(場所的に「地理を超えた」)ものであるとすれば、われわれはおそらくこれまでの戦略的経験からの根本的な決別を目撃しているのかもしれない[11]。しかしこれには疑うべきだけの根拠がいくつか存在する。
「戦略と戦争の全体的な性質を無視することは危険でしかない」という主張は、あるアナリストによっても考慮されている。彼は「人間の限界、情報の不確実性、そして非線型性は、優れたテクノロジーと工学が排除できる厄介な困難ではなく、我々が戦争と呼ぶ対立集団間の激しい相互関係に内在している、または構造的な特徴である」と助言している[12]。たとえばこれらの特徴のうちの一つが戦略の人間的側面(およびコマンド)の限界であるが、これは技術的な優位から得られるものを簡単に制限したり、相殺することができる(そして人間という次元は、戦術から国家運営に至るまで、紛争のあらゆるレベルで作用している)。
もし、テクノロジーに恵まれた情報主導の戦士による完璧なパフォーマンスが約束されているとすれば、戦略の他の次元におけるアメリカの競争力について何を想定できるだろうか? 政治的リーダーシップの卓越性、国民の熱意、そして戦略的パフォーマンスの手段の策定、実行、監視における優位性を期待するのは妥当であろうか[13]?
▼料理本戦略
RMAにどれほど適切に考えるか、もしくは必要なすべての次元(技術、武装化、ドクトリン、訓練、組織、一定数の獲得)をうまく実行できるかどうかは、将来のアメリカの実際の戦略的パフォーマンスとはほとんど関係がない可能性がある。なぜなら国家パフォーマンスを最も激しく低下させる「摩擦」は、政府と軍隊の間、あるいは政府と社会の間にある可能性が高いからだ。これは軍の近代化を非難するものでも、RMAの概念を敵視するものでもなく、またいくつかの面から情報戦を批判しようとするものでもない。むしろこれは、国家が総体として紛争に対処し、戦争を遂行し、戦略を立てて実行するものであるということだ。クラウゼヴィッツはこの点について、情熱(国民)、不確実性(軍隊とその指揮官)、そして理性(政府)で構成される「三位一体」に言及しつつ明確にしている[14]。残念ながら『戦争論』には、政策と軍事手段がともに優れておらず調和していない場合に生じる「困難」という重要な課題についての分析はほとんどない。
戦略の諸次元が相互に依存し合っていることは明白であり、それをくどくどと説明する必要はないだろう。しかし堅牢に見えるあらゆる理論には奇妙な例外が存在しがちであることも忘れてはならない。クラウゼヴィッツがジョミニと異なり、戦略に関するルールを記した料理本を提供するのを拒否したことは覚えておくべきだ[15]。したがって本稿の議論は、ジョミニ的というよりむしろクラウゼヴィッツ的なメッセージに沿ったものだ。一般的な戦略理論や、理解のためのアーキテクチャは、英雄的規模の愚行や不運などを実際に防いでくれるわけではない。戦略の各次元が重要であり、そのどこかの次元でまずいパフォーマンスをすれば紛争の最終的な結果を決定しかねないこと、また一つか二つの次元においていくら優れていても勝利をもたらすことはできないのは事実である。それでも実際には常に例外が起こりうる。軍事的天才(または愚か者)は、英雄的な規模で戦略の原則を書き換えるのだ。
繰り返しになるが、戦略の本質、目的、構造は永遠であり、普遍的なものである。あらゆる戦争、あらゆる時代、そしてあらゆる敵対者(同種または異種)同士の間でも、これらの特定の次元を参照して理解することができるのだ。しかしこれらの次元の間の、あるいはその内部での、複雑な相互作用の詳細は、時には極めて根本的に異なるものだ。だが歴史学派の提唱者が、時代、場所、敵対者、そして技術という要素に関係なく「戦略は戦略」であり「戦争は戦争」であると主張するのは、まさにこのような理由からだ。クラウゼヴィッツ、ジョミニ、マハン、リデルハートは、戦略と戦争の本質が変わることはなく、むしろ変わることができないと述べたのは正しかった。戦略の構成要素と構造は不変であり、細部が変化するだけである。上に述べた戦略の各次元は、ペロポネソス戦争、ポエニ戦争、そして十字軍においてもそれぞれの役割を果たしていたのである。
戦争の複雑さと、それを遂行するための戦略的なツールの多様性は、これまでの百年間にわたって増大してきた。技術、戦術、ドクトリン、そして組織は、経験に応じて、また得られる利点や回避すべき欠点を見越して調整されてきた。しかし陸上や海上だけでなく、新たな領域、つまり空中戦、宇宙やサイバー空間などでの戦いを考慮すると、どこでも同じ法則が戦略的パフォーマンスを支配していることに気づく。さまざまな地理(あるいはサイバー空間における反地理)での戦闘に特化した軍種が単独で戦争に勝てるかどうかは別として、それらが古典的戦略の指導的なルールに従わなければならないことには変わりがない。このルールは、戦略的活用の前提条件として、各地域における軍事的支配力の確保を義務付けている。陸、海、空、宇宙、そしてサイバース空間でも、それと同じ論理が当てはまる。海軍、空軍、そしてサイバー軍がチームプレーヤーとしての役割を発揮するためには、まずはそれぞれの特殊な環境の中で成功しなければならない。海上での戦闘に備えなければならない理由は、空や宇宙、そしてサイバー空間での戦いに備えなければならないかを考えればわかる。戦略と戦争の論理は同じである[16]。ある環境が軍事的に重要であれば、それを使用する権利のために戦う用意がなければならない。
全体的に言えば、われわれは戦略と戦争の未来について知るべきことをほとんどすべて知っており、これから知ることができることもおそらくすべて知っていると言える。実際のところ還元主義を厭わなければ、トゥキディデスは戦争の原因と戦略の政治的必要性について、恐怖、名誉、利害というたった三つの人間の動機を強調することによって考慮すべきほとんどすべてを記録したと主張もできる[17]。帝国の動機、または戦争の原因に関する現代の研究が、この三位一体の仮説よりも優れた結論を生み出せているかどうかは怪しい[18]。
戦略と戦争の将来について知られていないことは、重要なものも重要でないものも含めて、実に詳細な部分にある。多くの識者は「予見可能な未来」というフレーズを口にするという欠点を抱えている。なぜなら未来はまだ起きておらず、詳細に予見することはできないからだ。不満足であることは確実であり、しかも矛盾を含んでいる可能性が高く、さらにはほぼ不完全な思い込みのある政治指導のもとで、防衛計画者は戦争がどのように行われ、しかもいつどこで何のために行われるか正確に分からない状況の下で「十分な防衛体制」を決定せざるを得ないのである。しかしいくらか慰めになるとすれば、少なくとも彼らは戦略と戦争が何からできているのか(一七の次元)を知っており、経験による教訓を含めた「教育」によって、「戦略上の病に対する奇跡の治療法」という不健全な理論による説得などから免れることができるはずだ。
注
1.Edward T. Hall, Beyond Culture (Garden City, N.Y.: Doubleday, 1976).
2.以下の中の議論を参照のこと。Colin S. Gray, The American Revolution in Military Affairs: An Interim Assessment, Occasional Paper 28 (Camberley: Strategic and Combat Studies Institute, Joint Services Command and Staff College, 1997).
3.カーンの統合への直感は以下に示されている。On Escalation: Metaphors and Scenarios (New York: Praeger, 1965).
4.たとえば以下を参照のこと。Clifford J. Rogers, ed., The Military Revolution Debate: Readings on the Military Transformation of Early Modern Europe (Boulder, Colo.: Westview, 1995).
5.この議論は以下の本の中心的なテーマである。Colin S. Gray, Modern Strategy (Oxford: Oxford University Press, 1999)[コリン・グレイ著『現代の戦略』中央公論新社、二〇一五年]
6.Carl von Clausewitz, On War, edited and translated by Michael Howard and Peter Paret (Princeton: Princeton University Press, 1976), p. 605. [カール・フォン・クラウゼヴィッツ著『縮尺版:戦争論』日本経済新聞社、二〇二〇年、三六六頁]
7.論点については以下が最も明晰に示されている。Reginald Custance, “Introduction” to “Barfleur,” Naval Policy: A Plea for the Study of War (Edinburgh: William Blackwood and Sons, 1907), pp. vii–ix.
8.Michael Howard, “The Forgotten Dimensions of Strategy,” Foreign Affairs, vol. 57, no. 5 (Summer 1979), pp. 975–86.
9.James R. Blaker, Understanding the Revolution in Military Affairs: A Guide to America’s 21st Century Defense, Defense Working Paper 3 (Washington: Progressive Policy Institute, January 1997).
10.以下を参照のこと。Andrew G.B. Vallance, The Air Weapon: Doctrines of Air Power Strategy and Operational Art (London: Macmillan, 1996), chapter 2.
11.以下の二つの文献を参照のこと。Colin S. Gray, “The Continued Primacy of Geography” (and “A Rejoinder”), and Martin Libicki, “The Emerging Primacy of Information,” Orbis, vol. 40, no. 2 (Spring 1996), pp. 247–59, 261–76.
12.Barry D. Watts, Clausewitzian Friction and Future War, McNair Paper 52 (Washington: National Defense University Press, October 1996), p. 122.
13.戦略を「プロセス」と見るものについては以下を参照のこと。Williamson Murray and Mark Grimsley, “Introduction: On Strategy,” in Williamson Murray, Macgregor Knox, and Alvin Bernstein, eds., The Making of Strategy: Rulers, States, and War (Cambridge: Cambridge University Press, 1994), chapter 1. [ウィリアムソン・マーレー他編著『戦略の形成』上下巻、ちくま学芸文庫、二〇一九年、第一章]
14.Clausewitz, On War, p. 89. [クラウゼヴィッツ著『戦争論』六三頁]
15.Contrast Clausewitz, On War, p. 141[クラウゼヴィッツ著『戦争論』頁], with Antoine Henri de Jomini, The Art of War (Novato, Calif.: Presidio, 1992), pp. 16–17, 70, 114. 両者の比較は以下で見ることができる。Michael I. Handel, Masters of War: Classical Strategic Thought, 2d ed. (London: Frank Cass, 1996).
16.このような考え方は以下の本の全般に染み渡っている。Edward N. Luttwak, Strategy: The Logic of War and Peace (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1987). [エドワード・ルトワック著『エドワード・ルトワックの戦略論』毎日新聞出版、二〇一四年]
17.Robert B. Strassler, ed., The Landmark Thucydides: A Comprehensive Guide to the Peloponnesian War (New York: Free Press, 1996), p. 43.
18.以下を参照のこと。Donald Kagan, On the Origins of War and the Preservation of Peace (New York: Doubleday, 1995). これはツキュディデスに影響を受けたものだ。他にも以下を参照。 Hidemi Suganami, On the Causes of War (Oxford: Clarendon Press, 1996).
===
この論文の基本的な議論は、私が6年ほど前に訳出した『現代の戦略』でも展開されているものですが、先ほどアマゾンで見たら新品の値段が高騰しておりました。
いまから20年以上も前の議論なのですが、戦略の複雑性を理解した上でわれわれはなんとかやるしかない、という希望と絶望にあふれた実に現実的な戦略論を展開しているように思えます。クラウゼヴィッツとそれに影響を受けたマイケル・ハワードの議論を発展させた、実に「保守的」といえる新クラウゼヴィッツ主義者の典型的な議論だと思います。
「戦略は普遍的」という議論を軸にすることで、シーパワーやランドパワーだけでなく、スペースパワーや特殊部隊、さらには沿岸警備隊の理論まで戦略論を展開できますし、当時の最新の議論であった「軍事における革命」(Revolutions in Military Affairs)にもまどわされずに議論できる、というやりかたですね。
この論文の冒頭でもありますが、アメリカで大流行しては見向きもされなくなるという「戦略のアイディア」のサイクルの速さというものを外国(イギリス)出身の冷めた目で見ているような感覚が感じられて興味深いですね。
(現代の戦略)====
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日本人の給料はなぜ上がらないのか
http://geopoli.exblog.jp/30908497/
2021-12-27T23:33:00+09:00
2022-01-18T17:50:36+09:00
2021-12-27T23:33:05+09:00
masa_the_man
カルテク
さて、珍しく日本経済に関する記事の試訳です。ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局の書いた記事ですが、話を聞きにいく学者が以前と比べてかなりまともな人選になったという印象があります。
===
40%の減税でも日本の雇用主が賃上げに踏み切れない理由
首相は、長く低迷している賃金を引き上げれば、低迷している経済を活性化させることができると言っている。しかし、企業側はこの計画を非現実的だと言っている
21-12/23 NY Times
吉村正孝はこの2年間、一家が100年以上前に創業したオーダースーツの会社に資金を注ぎ込んできた。工場を整備し、自動在庫管理システムを導入し、ソフトウェアやロボットに取って代わられた従業員を再教育してきた。
しかし日本の首相は、さらに社員に大幅な昇給をさせることを望んでいる。
理由は簡単だ。日本では何十年間も賃金が伸びず、貧富の差が拡大しているからだ。最も手っ取り早い解決策は、吉村氏のような経営者たちに従業員たちに対してもっと給料を払うように促すことである。賃金が上がれば、個人消費が活性化し、低迷している日本経済が上向くと考えられるからだ。
しかし、吉村氏にとっては昇給は非現実的なことだ。賃上げをすることは「本当に致命的」だと、先週、東京の吉村産業の事務所で彼は語った。そして、その考えは彼一人だけのものではない。企業団体や労働組合のリーダーなどは、岸田文雄首相が賃上げをした企業に多額の税額控除を提供するという計画の実現可能性を疑問視している。
本来なら賃金を上げるべきなのに、企業が賃上げに抵抗するのは、この問題がいかに難解であるかを示している。長年にわたる低成長とインフレ率の低迷により、企業には値上げの余地がほとんどない。経済学者によれば、安定した適度なインフレがなければ、企業の利益も労働者の賃金も伸び悩むという。
政府は長い間、景気を刺激して物価を押し上げるために、あらゆる解決策を見つけようとしてきた。金融市場に資金を投入し、借入をほぼ無料にした。しかし、物価が下がるという予想が浸透し、高齢化によって需要が弱まり、グローバル化によって物価が下がっているため、ほとんど効果が出ていない。
新型コロナウイルスは、日本が抱える課題をさらに深刻にした。過去2年間、他の主要国が急速に回復しているにもかかわらず、日本は縮小と拡大の間を行ったり来たりしている。
パンデミックが長引く中、日本政府は消費者に現金を配り、企業にゼロ金利融資を行うなど、さらに大規模な景気刺激策に舵を切った。だがインフレ率はパンデミックによる供給不足とサプライチェーンの混乱によって、他の場所では急上昇しているにもかかわらず、日本ではほとんど動いていない。
賃金案に対する反応は、2ヶ月前に就任した岸田氏にとって不吉な兆候である。岸田氏は、過去2年間の経済的ダメージを回復し、「新しい資本主義」を通じて日本経済を軌道に乗せることを公約していたからだ。
岸田氏の計画は、まだ漠然とした概念である「持続可能な成長を実現し、経済格差を是正するための枠組み」を定義するための第一歩となるものである。
手始めに、首相は雇用主に対して、2022年に4%もの賃上げを行うよう求めている。これに従った企業は、法人税全体の控除額を最大40%増やすことができる。政府は、看護師や子どもや高齢者の世話をする労働者の賃金を来年に3%引き上げると発表している。
岸田氏は21日の記者会見で、「企業が賃金を上げてもいいと思えるような雰囲気を作るために、あらゆる手段を講じることが国にとって不可欠だ」と述べた。賃上げは「コストではない、将来への投資だ」とも述べている。
多くの企業は、賃上げの必要性を認識している一方で、発表されたこの措置が日本の通常の賃金決定プロセスに何らかの影響を与えるかどうかについては疑問視している。
大手企業と労働組合は毎年春に「春闘」と呼ばれる儀式で昇給交渉を行っている。岸田氏の提言に近い結果が出たのははるか以前の1997年であり、この時に労働者は2.9%の昇給を勝ち取っている。
2013年、安倍晋三首相は同様の計画を導入したが、ほとんど成功しなかった。現在、平均賃金は月2,800ドル前後と、20年前とほぼ同じ水準に留まっている。
この現象は日本だけのものではない。ほとんどの先進国で、かつては経済成長と賃金の上昇の間には密接な相関関係があったが、現在は崩れている。米国やEUでは、実質賃金の中央値(実際の購買力)は、パンデミックまでの10年間、経済全体の拡大をはるかに下回るものであった。
この現象の原因については、コンセンサスが得られていない。しかし、多くの経済学者は、グローバル化と技術の進歩により、企業がより少ない労働者でより多くの利益を上げることができるようになった国々において「勝者が最も多くを得る」というダイナミズムが原因だと考えている。
経済学者たちはほぼ逆の問題点を指摘している。それは、日本の生産性の低さは、解雇がほとんど不可能な労働者を大量に抱える企業によって生み出されたものであるという点だ。
このことは、恵みであると同時に呪いでもある。パンデミックの間、日本はアメリカなどの国で見られるような失業率の高騰を避けることができた。だがこれは、終身雇用制の下では、多くの企業が雇用と解雇の柔軟性を制限され、経済状況の変化への対応力を低下させる可能性があることも意味している。
賃金上昇率の低さは、事実上、労働者と資本の間で交わされた妥協の産物である。ゴールドマン・サックスの馬場直彦チーフエコノミストは、「1990年代以降、日本の労働者は賃金の上昇よりも雇用の安定を優先してきた」と指摘する。ただ、企業は労働者に年2回のボーナスを支払っており、その額は企業収益によって大きく変動する可能性がある。
日本企業は利益を守るため、バブル崩壊後の1990年代前半まで日本で一般的だった終身雇用契約を避け、派遣社員やパートタイマーの活用によって正社員を限定する傾向がある。
現在、日本では非正規雇用者が労働力の37%を占め、低賃金で使い捨てにされる労働者が恒常的に存在し、その70%近くが女性である。
非正規雇用者の賃金は低く、その増加は日本の労働組織を弱体化させ、賃金を低下させた。1950年代には、日本の労働者の半数以上が組合に加入していた。1950年代には日本の労働者の半数以上が組合に加入していたが、現在では約17%にとどまっている。特に高齢化社会がもたらす長年の労働力不足が、給与の上昇を妨げている。
岸田氏の計画は、それを発表したタイミングにも問題がある。パンデミックの影響で多くの企業がすでに苦境に立たされており、現在の従業員を雇用し続けるために多額の政府補助金に頼らざるを得ない企業も出てきている。
そして、不採算の問題もある。この10年近く、日本企業の大半は不採算に陥っており、2019年には約65%と2010年以降で最も低い数字となった。これらの企業は、日銀が引き受けた安い資金によって存続してきたが、利益がなければ法人税もかからないため、岸田氏の奨励策の対象にはならない。
東京大学の川口大司教授(経済学)によると、岸田氏の案は実際に最も成功している企業に富を集中させる一方で、中小企業や経営難の企業の従業員にはほとんど支援を提供せず「本当に逆進的な制度になる可能性がある」と指摘する。
首相が企業に賃上げを説得できたとしても、その資金が使われる保証はない。昨年、政府が国民全員に現金を支給した後、消費者は不確実な将来に対するヘッジとして銀行にお金を貯め、日本の家計貯蓄率は過去20年間で最高水準になった。
多くの労働者にとって、賃金を上げるという政治の焦点は見当違いであり、他の職場の問題の方がより緊急性が高い。北海道大学経済学部教授の阿部由紀子氏は「労働市場に存在する最大の問題は、雇用保護や育児、仕事と家庭を両立させるために必要な福利厚生などである可能性が高い」と言う。
紳士服会社の代表である吉村氏は、政府が間違った問題を解決しようとしていることに同意している。たしかに賃金は重要だと考えているが、それにはまず政府が企業を支援する必要があると主張するのだ。「もう少し収入を上げられるような環境を作らないと景気は良くならないですよ」と彼は述べた。
====
経済は私の専門ではないのであえて深堀りはしませんが、日本がバブル期から経済政策を間違ってきたことはすでに海外の経済学の教科書にも載っているという話をよく聞きます。
来年こそは景気の良い年にしたいものです。
(空港)
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高級腕時計は「資産」である
http://geopoli.exblog.jp/30901890/
2021-12-25T00:00:00+09:00
2021-12-25T00:07:50+09:00
2021-12-24T22:53:12+09:00
masa_the_man
カルテク
さて、今年もクリスマス&年末の季節がやってきましたが、いつもと違って「資産防衛」に関する記事を一つ。
===
ロレックスやパテックフィリップが見つからない?非難する Redditの群衆
高級時計は、常に供給よりも購入希望者の方が多い。しかし近年その関心は爆発的に高まっている。
by アンドレア・フェルステッド
21-12/3 Bloomberg
今年のクリスマスに不足するのは、おもちゃ、ハイテク、七面鳥だけではない。ロレックスの時計も手に入りにくくなっている。だが幸運なことに、高級時計ブームに乗る方法は他にもある。 ロックダウン時の貯蓄、(少なくとも最近までの)市場の高騰、リベンジ支出、代替資産への幅広い関心などが相まって、最もホットな時計への需要は供給をはるかに上回っている。待ちリストは長くなり、中古市場での価格は高騰している。
ロレックスのデイトナ、パテック・フィリップのノーチラス、オーデマ・ピゲのロイヤルオークなど、アイコニックなモデルへの関心は長く続いている。また、リシャール・ミルが製造するスケルトンウォッチ、ロレックスのサブマリーナーやGMTマスターIIなどにも人気が集中している。中でも最近最も騒がれているのが、一部で「ウィード」と呼ばれる緑のパームモチーフのデイトジャスト 36である。
もちろん、いつの時代も購入可能な時計よりも購入者の数は多かった。ロレックスの年間生産数は約110万個、パテックフィリップは約6万5千個、そしてオーデマピゲは約4万5千個である。これは高級品を買おうとする人々を満足させるには到底及ばない量である。
しかし、この2年ほどで時計への関心は爆発的に高まった。ロックダウンの影響で、人々は旅行や高級レストランに使うはずだったお金を、代わりに高級品に振り向けたからだ。とくに男性にとって最初の選択肢は高級腕時計であり、多くの購買者たちは自分のよく知るブランドに手を伸ばした。記録的な株式市場の上昇や暗号通貨の高騰は、富をもたらしただけでなく、非代替性トークン(NFT)や時計など、代替資産などへの投資への関心を広めるきっかけにもなった。
だが、あまりの需給のミスマッチのおかげで、9月にはロレックス社が「戦略的に供給を絞っているわけではない」という異例の声明を発表した。品質を落とさずに需要を満たすことができないというのだ。同社はこれ以上のコメントを避けている。
英国や米国のブティックで常にロレックスを確保していた小売業のWatches of Switzerland Group社でさえ、次第に高まる需要によって7月頃には在庫がなくなってしまったという。そこで同社はロレックス社と共同で、展示用の時計を揃えるという新しいコンセプトを打ち出している。サブマリーナやデイトナなど、店頭にほとんど並ばなくなってしまったモデルを、まず来店して試着してもらってから予約してもらうというものだ。これは車のショールームのようなやり方だ。
ウォッチズ・オブ・スイス(Watches of Switzerland)社では、2年以上のウエイティング・リストは作らない。それでも人気の高いモデルは2年以上も待たされることになる。たとえばデイトナは10年待ちになっているという報告もある。
また、品不足のため、ドイツのChrono24社やWatchfinder(リシュモン傘下)社、 ロンドンのA Collected Manなどが運営する流通市場でも価格が高騰している。ロレックスのデイトナ、APのロイヤルオーク、パテックのノーチラスは、元の小売価格の3倍から4倍で取引されることがある。他にもロレックスの人気モデルは、少なくとも2倍の値段で取引されることもある。
これらのモデルを手に入れることができないこと以上に悔しいのは、3つのメーカーが非上場であるため、株式投資家がこのブームに参加する方法が少ないことだ。ただし参加する方法の一つは、ロレックス、AP、パテックで売上の50~60%を占めているWatches of Switzerland社の株式である。この会社の株価は過去1年間で約3倍になっている。
一方、時計への関心は、最も供給が逼迫しているブランドから、上場企業が所有するブランドへと広がっている。スウォッチ・グループとリシュモン・グループだ。 スウォッチ傘下のオメガには強い支持があり、特にアジアではスピードマスターの人気が高く、最新の映画に合わせて製作された最新のジェームズ・ボンドのシーマスターも人気がある。
リシュモン傘下のカルティエは、過去5年間にいくつかのクラシックモデルのリニューアルやアップグレードを行ってきた。カルティエは需要に少し遅れて供給を続けるという戦略をとっているが、これは5年ほど前に中国の反腐敗運動のおかげで時計が品薄になったことを受けて過剰な在庫を買い戻してから採用したものだ。また、スイスの独立系ブランドに特化したオンライン時計販売サイト「A Collected Man」では、他の2つのリシュモンのブランドへの関心が高まっているという。それはランゲ&ゾーネとヴァシュロン・コンスタンタンだ。
最大の問題は、現在のこの高級腕時計への熱狂と価値の上昇が今後も継続するかどうかだ。最近の市場の混乱や、多くの必需品の価格上昇は、このような高騰が終わりつつあることを意味しているのかもしれない。また、暗号通貨への圧力も課題となる。その合間に、中国では目立った消費を抑制する取り組みが行われており、これは東アジアにおける最高級レベルの腕時計の需要が減少することになるかもしれない。
しかし現在の主な問題は供給の制約であり、中国経済が減速すれば、米国など他の好況な高級品市場でより多くの製品が流通する可能性がある。 今年のクリスマスにロレックスを手に入れることができれば、それは自慢できるものとなるだけでなく、 庶民的な繁栄に対するヘッジにもなる。
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新型コロナに対する政府による経済救済措置のおかげで世界中で「カネ余り」の現象がみられおりますので、高級腕時計を購入しておくのも資産防衛の一つの手段になるかもしれない、ということですね。
実際のところ、私が知っているだけでも上記のデイトナなどは数年前は正規の値段の30%増しくらいで売ってましたが、最近はその4倍近く上がるという異常な高騰ぶりを見せており、本当に欲しい人が買えないという現象も出ていて困ったものです。
(空港)
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「次の戦争」はアメリカ本土で起こる?
http://geopoli.exblog.jp/30900369/
2021-12-24T10:34:00+09:00
2021-12-24T10:34:08+09:00
2021-12-24T10:34:08+09:00
masa_the_man
戦略学の論文
さて、一部の界隈で話題だったジョンズ・ホプキンス大学SAISのハル・ブランズによる中国との「次の戦争」を予見するような意見記事の試訳です。
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次の戦争では、アメリカの国土が標的になる
byハル・ブランズ
21-12/15
アメリカは「向こう側」で戦うことに慣れてしまっている。だが次の敵は紛争を「こちら側」に持ち込んでくる可能性がある。
アメリカ人にとって、戦争とは通常「あちら側」で起こるもの、つまり自分たちの海岸から遠く離れた外国で起こるものである。しかし戦争が「向こう」で起こっても「こっち」で経験することになる、と考える時期に来ているのかもしれない。今後の紛争では、アメリカの領土は聖域ではなくなる。アメリカは技術進歩のおかげで、テロ集団だけでなく、地政学的敵対者がアメリカに直接戦争を持ち込むことを可能にする、国土の脆弱性の時代に突入しているのである。
もちろんアメリカは、過去にも直接攻撃されたことがある。1812年の戦争ではイギリスがワシントンを焼き払った。日本軍は1941年に当時米国領であったハワイを攻撃した。9月11日の同時多発テロは、ニューヨーク、ワシントン、ペンシルベニアに大惨事をもたらした。
しかし、これらのエピソードが記憶に残るのは、それが例外的な事例だからだ。アメリカは国力と地理的条件により、他のどの主要国よりも安全保障に優れた国である。アメリカは冷戦時代からテロと戦ってきたが、テロ攻撃を受けた国、特にイラクとセルビアは、それに対応する能力を欠いていた。 現在はそれがいくつかの点で変わりつつある。
一つは、紛争時に核兵器で米国を脅すことができるライバルが増えつつあることだ。中国は、従来は小規模で脆弱な核兵器を保有していたが、急速に拡大している。北京は、台湾やその他のホットスポットをめぐる紛争で米国を攻撃できるようにしたいのである。北朝鮮は、米国の標的を攻撃できる核弾頭ミサイルを持つ寸前か、すでに持っている可能性がある。 アメリカのライバルは、このような核攻撃を行わない強い動機を持っている。なぜならアメリカからの壊滅的な核報復の脅威があるからだ。
しかし、冷戦時代とは異なり、今日ではあまり終末的でない方法でアメリカ本土を攻撃することも可能であるために、逆にそれが実現する可能性は高い。 ロシアも中国も、長距離ミサイル(巡航ミサイル、極超音速滑空機、大陸間弾道ミサイルなど)に通常弾頭を搭載してアメリカの目標を攻撃する能力を持っているか、それを現在開発中である。中国がコンテナ船から発射した小型無人機の群れを使って、アメリカ西海岸やハワイのターゲットを攻撃する可能性があるとの懸念も高まっている。
こうした攻撃は、おそらく壊滅的な破壊を引き起こすことはないだろう。しかし紛争時にはアメリカの兵站、通信、動員を混乱させる可能性がある。あるいは、モスクワや北京が、中国やロシアの領土に対するアメリカの攻撃を抑止したり、それに対する報復を行ったりするための手段を提供することになる。
最も可能性の高いアメリカへの攻撃は、表立った暴力を全く伴わないものであろう。重要なインフラや金融システムに対するサイバー攻撃は、日常生活を麻痺させ、地球の裏側からの攻撃への対応を阻害する可能性がある。昨年春、東海岸でガス不足を引き起こした「コロニアル・パイプライン」のランサムウェアによる攻撃は、それを予感させるものであった。台湾、ウクライナ、バルト三国をめぐる重大な国際危機のさなかに、はるかに大規模な攻撃が繰り返されることも想像できる。
このような攻撃は、ロシアや中国の計画者にとっては魅力的なものだろう。なぜなら直接の軍事攻撃では不可能な「曖昧さ」を装うことができるからだ。直接的に大量の民間人の死者を出すことなく、国内を混乱させることができるからだ。また、北京やモスクワが東欧や西太平洋で軍事的目標を達成しようと躍起になっているときに、紛争の初期段階でアメリカの動きを鈍らせることもできる。これはアメリカの政策立案者に、厳しい問いを投げかけることになる。
もしこれが実行されて自国の痛ましい弱点が露呈する可能性があるとすれば、アメリカは本気で遠く離れた場所での侵略を食い止めるために武力を行使するのを厭わないだろうか?
このジレンマには、完璧な解決策はない。例えば、ミサイル防衛は重要な標的を守るのに役立つが、包括的な保護を提供するには費用がかかりすぎるし、信頼性にも欠ける。アメリカができる最善のことは、防衛、攻撃、回復力を組み合わせることによって、自国の安全保障の弱点を緩和することである。
そのためには、かつて「民間防衛」と呼ばれたもの、すなわち重要なインフラ、物流施設、通信ネットワークなどをデジタルな混乱から守るための、より大規模で体系的な投資が必要となる。ワシントンは、平時において、国家が支援するサイバー攻撃に対して報復する能力と意思を大々的に宣伝する必要がある。そうすれば敵対勢力は、アメリカが戦時中に物理的であれデジタルであれ、より大規模な攻撃にどのように対応してくるのかを真剣に考えるようになるからだ。
しかし、絶対的な保護が幻想であることは避けられない。自国への攻撃の可能性が高まることを受け入れ、それを吸収するために必要な経済的、社会的な回復力を身につけることは、地理的な条件によって免責されない世界において、世界的な影響力を得るための代償となる可能性がある。
このようなメッセージは現在のアメリカ人にとっては耳の痛いものであり、その代償について鋭い議論を引き起こすかもしれない。
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このところかなり頻繁に発言しているブランズですが、対中国におけるジョージ・ケナン的な立場を狙っているのでしょうか。
地理の壁がサイバーのような新しいテクノロジーによって克服されたという意見は、今後の実態もからめて注目すべき論点です。
(教室の廊下)====
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