忘れられた戦略の次元 |
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2023年 11月 27日
今日の横浜北部は午前中ははっきりしませんでしたが午後から少し晴れました。寒いと思ったらまた暖かくなってます。
さて、ほぼ11ヶ月ぶりにブログを更新します。 言い訳がましくなりますのであまり言いませんが、とにかく今年に入ってから猛烈に雑事で忙しくなり、本も『デンジャー・ゾーン』の一冊しか出せておらず、次の訳本も、そして久々の自著についても遅れております。 そのような中で、今年から担当している非常勤先で使用する資料としていくつか個人的に訳した戦略系の論文がたまってきましたので、あくまでも試訳ですが、ここに一部を貼り付けておこうと思いました。 今回ご紹介するのはマイケル・ハワードという戦史家で、学問分野だけでなく、あの「ミリタリー・バランス」を毎年発行したり、シンガポールで世界中の国防大臣を集めて行われるいわゆる「シャングリラ・ダイアローグ」を主催しているIISSというシンクタンクを創設した一人の論考の一部です。 論文そのものは1979年にフォーリン・アフェアーズ誌で発表されたものですが、当時の米ソによる第二次冷戦の開始時期の緊張感の中で書かれた戦略に関する議論としてものとしては秀逸なものだと思います。 ==== By マイケル・ハワード フォーリン・アフェアーズ誌 1979年夏号(1979年6月1日発表) 「戦略」という言葉は、継続的に定義の見直しをする必要がある。ほとんどの人々にとって、クラウゼヴィッツの「戦争の目的のために交戦を用いること」や、リデルハートが言い換えたように、「政策の目的を達成するために軍事手段を配分し適用するアート」という定義で十分に明確だ。戦略とは、与えられた政治目標を達成するための兵力の配置と使用に関するものである。 戦略の歴史を解説した本では、リデルハート自身の『戦略論:間接的アプローチ』がまさにそうであるように、通常はアレクサンダー大王からマッカーサーに至るまで、事例研究によって構成されている。 ところが19世紀の経験からもわかるように、このアプローチは、その結論が平凡なものに成り下がったと感じてしまうほど不十分であることが判明している。そこで西側諸国では、20世紀に顕著になった戦争の産業的、財政的、人口動態的、そして社会的な側面をカバーするために「大戦略」という概念が導入された。そして共産主義国家では、あらゆる戦略思想はマルクス・レーニン主義の包括的な教義によって検証されなければならないとされるようになった。 私はこのようなすでに確立されているこれらの概念を否定はしないが、過去200年間の戦略ドクトリンと戦争の発展に関する研究に基づいた、これまでとはやや異なり、どちらかといえばもっと単純な分析の枠組みを提供するつもりだ。また、私はこの分析のやり方が、西側の現在の戦略態勢に示唆している点についても述べてみたい。 ❇❇❇ クラウゼヴィッツの「戦略」の定義は、意図的かつ挑戦的なまでに単純化されたものであった。この定義は、戦争についてそれまでの300年間に書かれてきたものを事実上一掃する(しかもかなり画期的な)ものであった。それ以前の著者たちは、軍隊の育成、武装、装備、移動、そして維持や管理に関する現場重視の膨大な問題にばかりに取り組んでいたが、クラウゼヴィッツはこのアプローチを「刀鍛冶の技術」と「フェンシングの戦いにおけるスキル」の関係にたとえて否定した。 クラウゼヴィッツは「このようなアプローチは実際の戦争の遂行には無意味であり、これまでのすべての作家が適切な理論を打ち立てることができなかったのは、軍事組織の維持とその使用とを区別できなかったためだ」と主張した。 クラウゼヴィッツは、戦争において私が個人的に「兵站の次元」と「作戦の次元」と呼んでいるものをそれぞれ区別することで、戦略思想に大きな貢献をした。しかし彼がその区別から導き出した結論は疑念を生じさせるものであり、そこから生じた結果は不幸なものであった。 第一に、クラウゼヴィッツが尊敬した指揮官たち(ナポレオンやフリードリヒ大王)は、彼の生きていた時代においてさえ、クラウゼヴィッツが考慮から除外した軍事活動の全範囲に対する深い理解を持っていなければ作戦上の勝利を収めることはできなかっただろう。 第二に、作戦過程と同様に、兵站に関する問題を徹底的に研究しない限り、いかなる作戦も理解できず、そこから有効な結論を引き出すこともできない。マーティン・ファン・クレフェルト博士が最近その著書である『補給戦』で指摘したように、軍事史家100人のうち99人が兵站的な要因を無視し、結果として多くの場合に誤解を招くような結論を出してしまったのだ。クラウゼヴィッツのドグマ的な優先順位の主張、つまり「戦争における兵站的な要素を作戦に従属させること」は、あらゆる時代のすべての戦う兵士に共通する偏見に起因しているのかもしれない。 この考え方の背景には、1806年にプロイセンを敗北に導いた作戦上の無能さを持つ超慎重な「科学的」将軍たちに対する彼の反動が大いにあったことは確実だ。しかしナポレオン時代における幾多の軍事作戦で決定的だったのは、健全な兵站計画よりも作戦面でのスキルであったことは否定できない。しかもナポレオンの作戦は19世紀を通じてすべての戦略系の著作や思考の基礎となったため、「戦略」は一般的に作戦レベルの戦略と同一視されるようになったのである。 しかしこの概念の不適切さは、アメリカの南北戦争の経過のおかげで、この概念を研究する人々にとって非常に明瞭なものとなった。そこでは作戦戦略の達人が、勝利した北軍の軍隊ではなく、南軍の指導者の中に見出されることになった。リーとジャクソンは、ナポレオンやフレデリックに匹敵する柔軟性と想像力で軍を操ったのだが、それでも戦争には敗れたのだ。彼らの敗北は、作戦レベルをほとんど超えることのないリデルハートの分析によれば、主に作戦上の要因、とりわけシャーマンが採用した「間接的アプローチ」に起因するとされた。 だが根本的な面から見れば、北軍の勝利は将軍の作戦能力によるものではなく、優れた工業力と人員を軍に動員する能力によるものであり、グラントのような指導者は、主に道路と河川輸送のおかげで、敵の作戦能力をほとんど無意味にするほどの強さで展開することが可能となったのだ。最終的に南軍は消耗戦に陥り、その結果として作戦面よりも兵站面がより重要であることが証明された。 最も重要な要素として証明されたのは、最良の装備を備えた部隊を最大規模で作戦地域に投入し、そこで維持する能力であった。この戦争の経験こそが、当時から現在に至るまで米軍の戦略ドクトリンを形成しているのだ。 ところがこの能力は、クラウゼヴィッツが主な思想家としては最初に注目することとなった、戦略の「第三の次元」、すなわちこの「兵站力」が最終的に依存することになる、国民の献身や自己犠牲の覚悟による社会的な態度に左右されるのだ。 クラウゼヴィッツは、戦争を「驚くべき三位一体」と表現した。それは「政治目的」、「作戦的な手段」、そして戦争が表現する社会的力である「国民の感情」から構成されるものだ。そしてフランス革命の戦争とフリードリッヒ大王の戦争をこれほど異質なものにしたのは「国民の感情」であり、これこそが将来のあらゆる戦争を異質なものにしたのではないかと指摘している。この点においてはクラウゼヴィッツは正しかった。 絶対主義の時代が終わり、冷静な職業軍人たちによる純粋な政策をめぐる「限定戦争」は、ますます希少なものとなっていった。統治への国民参加の拡大は、戦争への国民の参加を意味し、それはつまり19世紀の技術が可能にし、それゆえ必要とした、軍隊の規模の拡大にもつながった。世論を管理すること、あるいは世論に従うことは、戦争遂行に不可欠な要素になった。 たとえば南北戦争において、もし北部の住民たちが、南部連合の指導者が当初期待したほど南北戦争の結果に無関心であったならば、初期の南部軍の作戦上の勝利は決定的な有利をもたらしていたかもしれない。北部の潜在的な兵站力は、それを利用するという決意がなければ、無視できるほどの価値しかなかっただろう。 しかし両陣営のやる気がほぼ同等であったとすれば、この闘争では最終的には北側の優れた兵力を動員する能力こそが決定的な要因になったと言える。ここでまたしてもクラウゼヴィッツが正しかったことが証明された。つまり他のすべての要素が同じであれば、最終的には「数」が決定的な要素となる、ということだ。 ❇❇❇ たしかにある見方からすれば、「数」以外の要素はたしかに同等であった。南北戦争は、ヨーロッパの革命戦争と同様に、両陣営とも全く同じではないにせよ、ほぼ似たような武器で戦われた。「どちらかの側に決定的な技術面での優位がある」という考えは、クラウゼヴィッツや同時代の人々にとってはそもそも考えられないことであったために無視されたほどだ。 しかし、アメリカ南北戦争が終結して1年もしないうちに、プロイセン軍が後装式ライフル(ドライゼ)銃で装備して装備していないオーストリア軍を破り、小銃の領域でまさにその優位性が明らかにされたのである。 その4年後の1870年、プロイセンは鋼鉄製の後装式の大砲によってフランス軍に対してさらに圧倒的な優位を示した。特に普仏戦争は、アメリカの南北戦争と同様、民衆の強い支持に基づく、優れた兵站能力によって勝利したのである。そしてテクノロジーは「独立した重要な次元」として、もはや考慮に入れないわけにはいかなくなった。 海戦では、蒸気時代の幕開け以来、技術的平等の重要性が明らかにされてきたが、植民地戦争においても、技術的要素が極めて決定的なものとなった。 19世紀後半、ヨーロッパ製兵器の優位性は、それまでは土着勢力に対するわずかな技術的優位であり、しばしば数的劣位によって相殺されていたものを、圧倒的な軍事的優位に変え、 その結果、ヨーロッパ勢力は自分たちと同等の対応が不可能な文化に対して、世界中で新しい帝国支配を確立することが可能になったのである。ヒラール・ベロックの『キャプテン・ブラッド』が簡潔に表現しているように「何が起ころうとも、我々はマキシム銃を手に入れ、彼らはそうしなかった」のである。軍事計画家は、その日から今日に至るまで、現代のマキシム銃に相当するものを持たずに捕まることを恐れてきた。 つまり20世紀初頭には、戦争は「作戦」「兵站」「社会」「技術」の4つの次元で行われるようになっていた。これらすべてを考慮に入れずに成功する戦略を策定することはできないが、状況が異なれば、これらの次元のうちの1つ、または別のものが支配的になる可能性もある。1914年から15年にかけて、一方ではシュリーフェン計画、他方ではガリポリ作戦の作戦的な戦略が期待された決定的な結果を達成できなかったとき、戦争の兵站面、そしてそれらに依存する社会的基盤は、対立する軍隊が互いに血を流して死のうとする中で、さらに大きな重要性を帯びることになった。 アメリカの南北戦争のように、最も優れた将軍や最も勇敢な軍隊を持つ側ではなく、最も大量の人員と火力を動員し、最も強い民衆の支持を受けてそれを維持できる側に勝利がもたらされることになったのである。 社会的結束を背景に持たない単なる数の不足は、1917年のロシア帝国の崩壊によって証明された。しかし、敵が決定的な技術的優位を確保できて、兵站や社会的な力でさえも脆弱であることは、連合国が敗北まであと一歩のところまで迫った1917年の春、ドイツの潜水艦作戦の成功によって同様に証明された。ドイツ帝国は、アメリカの参加によって敵に与えられた兵站の優位性に対抗するために、技術的な優位性に賭けることにしたのである。しかし、彼らは負けてしまったのだ。 ==== これは自分の得意とするクラウゼヴィッツの『戦争論』の議論を元に、そこから戦略の要素を4つ導き出し、それらを当時のアメリカ側の戦略に関する議論に当てはめて考えるというアプローチをとっております。 ハワード自身はデビュー作の『普仏戦争』から一貫して「戦争や戦略というものはある特定の時代や、それが戦われる社会の中で行われる」という姿勢を取っており、今回の論文でもまさにそのような議論を展開しつつ、アメリカでの議論では「技術」や「作戦」についての議論ばかりがフォーカスされ、「社会」や「兵站」という面についての議論が足りないことを強く強調します。 このようなハワードの意見は、自身の軍事史のアプローチとして、大人物や政治事件だけに焦点を当てるような過去のアプローチではなく、フランスのアナール学派に代表されるような、社会や民衆の生活に近い視点を取り入れようとするアプローチに影響を受けているからだとされてます。 しかも興味深いのは、この議論は現在進行中のウクライナでの戦争だけでなく、現在の日本の防衛政策に関わる一連の議論にも当てはまるところかと。 ということで、これから更新を復活させてこのような資料をいくつか紹介していきたいと思います。 ▼あらゆる戦略の二つのアプローチのエッセンスがここに! 「累積・順次戦略:戦争と人生:2つの必勝アプローチ」音声講座 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! ▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜 ▼〜あなたは本当の「孫子」を知らなかった〜 ▼〜あなたは本物の「戦略思考」を持っているか〜 「奧山真司『一発逆転の非常識な成功法則〜クーデター入門に学ぶCD』」 ▼〜あなたは本当の「国際政治の姿」を知らなかった〜 「奧山真司『THE 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by masa_the_man
| 2023-11-27 23:31
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