今日の横浜駅周辺は寒かったですが快晴でした。
さて、とうとうロシアがウクライナ侵攻を開始してしまいましたが、すでにマクロンに指摘されていた「プーチンの強硬化」について、少し前に興味深いNYタイムズ紙の記事があったことを思い出しましたので試し訳を。
====
プーチンの耳目を集める強硬派ロシア人アドバイザーたち
By アントン・トロヤノフスキー Jan. 30, 2022
西側諸国は、人と動物の間の結婚を合法化している。ウクライナの指導者はヒトラーと同じくらい悪いし、この国の民族主義者たちは「人間以下の存在」である・・・・これらは、プーチン大統領の側近で、指導者がウクライナに対して公開戦争を始めるかどうかを決定する際に同席する可能性のある、ロシア安全保障当局のトップの間で垣間見られる意見である。
去年ロシアのニュースメディアによって発表された発言の中で、プーチン氏と同じく1950年代のソビエト連邦で生まれたこのような有力者たちは、大統領よりもさらに反動的な立場をとっており、これはクレムリンが国内外で敵とみなす人々との戦いをエスカレートさせていることを示している。
大統領周辺の安全保障担当者たちの台頭は、2000年代前半に西側に友好的な顔を見せ、著名なリベラル派を含むアドバイザーに囲まれていた若い指導者が、今ではヨーロッパで大きな戦争を始めると暗に脅すプーチン氏へと進化したことを明かしている。それはまた、プーチン氏の支配を支えるイデオロギーを作り上げようとするクレムリンの長年にわたる闘争の物語でもある。
そのイデオロギーとは「敵としての西洋諸国「脅威としてのウクライナ」「伝統的価値の防波堤としてのロシア」というイメージにますます依存するものである。
モスクワの新聞編集者でクレムリンと関係のあるコンスタンチン・レムチュコフ氏は、ロシアの安全保障エリートの「保守・反動」的な世界観について、「プーチンには思想がないので、これは集団で対抗するためのイデオロギーを形成しようとする動きだ」と述べた。「世界がロシアに敵対しているというのがその大前提だ」という。
プーチン氏がどのように決断を下すのか、次のステップを考える際に誰の意見を最も聞くのか、本当のところは誰にもわからない。クレムリンによれば、プーチン大統領は現在、米国とNATOが先週モスクワに提出した「ウクライナをNATOの一員にしない」という保証を含む安全保障上の要求に関する回答書について検討しているという。
金曜日(1月28日)にクレムリンは「西側諸国の回答はロシアの最大の安全保障上の懸念に対処していない」と述べた。しかし、プーチン大統領自身は、ほぼ毎日カメラに映っているにもかかわらず、12月以来ウクライナに関する公的なコメントを避け、沈黙を守っている。
そのため、プーチン氏の考えを知る手がかりは周囲のタカ派の人々を探るしかない。彼らの中には、ソ連のKGBでプーチン氏と一緒に働いていて初めて出会った者もいる。そして彼らは、暗殺、影響力工作、サイバースパイ、残虐な戦争などを監督し、クレムリンを欧米から疎外するのに貢献していると欧米当局から非難されている。
プーチン氏は誤解を招く反欧米的な表現に甘んじることで知られているが、彼の主要な国家安全保障顧問であるニコライ・パトルシェフ氏は、さらにそれを熱心に信奉している。プーチン氏は「ロシアの輝かしい過去を改ざんしようとする敵」の姿を描いているが、対外情報部長のセルゲイ・ナリシキン氏は「歴史戦」を特に優先している。
プーチン氏は経済への国家の関与を強めているが、国防相のセルゲイ・ショイグ氏はその傾向を極端に表しており、国家主導でシベリアに新しい都市を建設することを打ち出している。
ナリシキン氏は1月にウクライナについて「一種のタイムマシンのようなもので、我々をヒトラー占領下の最悪の時代に連れ戻そうとしている」と述べ、その親欧米政府を「真の独裁国家」と評している。彼はモスクワで「ウクライナの人権侵害」と題する展示会を開いていた。
ショイグ氏は去年の12月に、ウクライナの民族主義者を 「人間以下の存在」と呼んでいる。パトルシェフ氏は、ウクライナの「ロシア恐怖症」は「イワン雷帝」を中傷した嫉妬深いヨーロッパの文献から始まった、西側のプロパガンダキャンペーンの発露であると述べている。
「彼らはロシア皇帝が自分たちの政治的、道徳的リーダーシップを認めないことが気に入らなかったのです」とパトルシェフ氏は、恐ろしい秘密警察で知られる16世紀の暴君について語っている。
プーチン氏は今後ウクライナ情勢の危機をどこまで高めるのか、タカ派の陰謀論的思考をどこまで取り入れるか、というのが最大の問題となっている。
モスクワでは「プーチン氏にはまだ現実主義的な面がある」と見る専門家もいる。彼らによれば、プーチン氏はパトルシェフ氏のような腹心の部下が推進する不満やパラノイアを、経済の運営を担うテクノクラートのミハイル・ミシュスティン首相のような冷静な意見と比較検討しているという。
プーチン氏の元参謀で、モスクワ市長の2018年の再選キャンペーンを担当したレムチュコフ氏は「彼らは保守的な急進派だ」と言う。「中道寄りの保守かもしれないが、とにかくプーチンはその中央にいる」というのだ。
ところが多くの兆候は「急進派」が勢力を拡大していることを示している。2020年に野党指導者アレクセイ・A・ナワルヌイが毒を飲まされたのに続き、2021年には活動家、報道機関、さらには学者までが広範囲に渡って弾圧されたからだ。
欧米当局は「ナワルヌイ氏はロシア政府によって毒をもられた」と発表したが、対外情報部長のナリシキン氏は、その事件はプーチン氏を倒すための「生贄」を求める欧米のエージェントによって仕組まれたものだと述べている。
強硬な治安当局は、異論を封じ込める一方で、道徳的に衰退した西欧に代わるロシアの優れた選択肢として「伝統的価値」を支持する最前線にもいる。たとえばあるテレビ局は、最近「長髪で爪の手入れをした男性を映し出した」として罰金を科されている。「伝統的な性的指向を持つ男性のイメージにそぐわない 」というのがその理由だ。聖ワシリィ大聖堂の前で「性的な写真」を撮った二人のブロガーは10ヶ月の禁固刑を言い渡されている。
パトルシェフ氏は9月のインタビューで、西側の「外国」の価値観について、「父と母は親1号と2号という名前に変えられている」と述べた。「彼らは子供たちに自分の性別を決める権利を与えようとし、あるところでは動物との結婚を合法化するまでに至っている」というのだ。
プーチン氏はその1カ月後の演説で「親1号と2号」についてのセリフを繰り返したが、動物との結婚については触れなかった。
ロシア軍がウクライナ付近に集結する中、治安当局のイデオロギーのもう一つの要素が大きくクローズアップされている。パトルシェフ氏は、ソ連の崩壊は「西側の新自由主義エリートの手を完全に解き放ち、非伝統的な価値観を世界に押し付けることを可能にした」と述べた。そして、ウクライナをはじめとするソ連崩壊後に残された国々は、モスクワの正当な勢力圏に属しており、ロシアは西側に対する「防波堤」としての地位を回復する運命にあるとしている。
カーネギー・モスクワ・センターというシンクタンクのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員は、「これはロシアのナショナリズムの最も暗い流れの一つであり、それが帝国主義によって増幅されたものだ」と述べている。そして彼は、ロシアの安全保障エリートが目指すのは「帝国の復活」であると言う。
プーチン氏自身、ソ連崩壊を「地政学的な大惨事」と表現している。しかしかつての彼はリベラルな視点を持つ者を含むさまざまな政府高官たちに助言を求めてもいた。ところが今ではそのような人たちのほとんどが政府から追い出され、ミシュスティン氏のようなテクノクラートも、自分の担当範囲を超えたことにはほとんど発言しなくなった。
そして「シロビキ」と総称され、プーチン氏とともにKGBに在籍した、パトルシェフ氏、ナリシキン氏、アレクサンドル・ボルトニコフ氏など、プーチン氏とともにKGBに在籍したエリート治安当局者たちだけが残ったのだ。
その影響力は、安全保障の分野だけにとどまらない。バレーボール好きのパトルシェフ氏はロシアバレーボール連盟の会長を務め、その息子は農相を務めている。ナリシキン氏は「ロシア歴史協会」を統括し、ロシアの過去を美化(批評家に言わせればホワイトウォッシュすること)することに一役買っている。国防相のショイグ氏は、ロシア地理学会の会長としてプーチン氏のアウトドアへの関心を高めており、シベリアの森にプーチン氏を定期的に連れて行っている。
彼らのような高官たちにとって、西側との緊張が高まることは良いことであり、ロシアの支配層の中で影響力を高めることにもつながると分析されている。政治分析を行うR. Politik社の創設者タチアナ・スタノバヤは最近「対立の激化や制裁はシロビキを脅かすものではなく、逆に彼らにとってはより多くの機会を開くものである」と書いている。
ロシアのアナリストたちは、プーチン氏にウクライナとの全面開戦を避けるだけの現実主義的な考えが残っているのかどうか、疑問を抱いている。
ソ連秘密警察の犯罪を暴き、ロシアの安全保障体制を長く怒らせたモスクワの人権団体「メモリアル・インターナショナル」を先月解散に追い込んだことは、プーチン氏がシロビキたちの意見にさらに傾いたことを表している。
しかし、ウクライナ侵攻に対する欧米の制裁は、ここ数週間の戦争懸念によるロシア株式市場の急落に見られるように、広範な影響を及ぼす可能性がある。また、軍事的な犠牲者は、国内政治に予測できない後遺症をもたらし、プーチン氏の遺産を汚すことになりかねない。
「もし、ウクライナと戦争になり、餓死者が出れば、それが彼の記憶に残るすべてだろう」と新聞の編集者のレムチュコフ氏は言う。「それがどんな罪であるかを彼が理解していないはずはない」。
====
2008年と14年の状況を踏まえて「プーチンは慎重でリスク計算をできる指導者である」というアナロジーがありましたが、それが今回本人によって崩されたということでしょうか。
そういえば今月はじめにフランスのマクロン大統領が七時間にわたって長机を挟んだ会談をしましたが、そのあとの感想が「3年前に会ったときのプーチンとは別人みたいだった」と述べていましたが、まさに今朝の侵攻でこれが正しかったことが証明されましたね。
ということで引き続き事態を注視していきたいと思います。
(裏道)
====
▼最新作 〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜
▼〜奴隷人生からの脱却のために〜
「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜