台湾とウクライナは違う |
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2022年 01月 31日
今日の横浜駅は快晴です。それにしても寒いですね。 さて、ウクライナ案件で東アジアのわれわれにとっても気になるのは、それが中国の問題、とりわけ台湾有事のシナリオとリンクしているのかという話ですが、アメリカの若い研究者がそのテーマに正面から切り込んだ意見記事を書いておりましたので、試訳でご紹介します。 === 22-1/27 WOTR byカーリス・テンプルマン ロシアのウクライナ周辺への軍備増強は、冷戦終結後のロシアと西側諸国との関係において最も深刻な危機を引き起こした。ウクライナとの国境付近には10万人以上のロシア軍が配備され、いつでも大規模な軍事攻撃を行える態勢が整っている。 こうした動きは欧州の安全保障だけに影響するもののように見えるが、アメリカの論者たちからは早くも台湾との類似性が指摘されている。たしかに台湾はウクライナと似ている。なぜなら両方ともユーラシア大陸の独裁大国からの存亡の危機に直面しており、強制力を行使されない状態をアメリカが維持しようとしている、欧米志向の民主国家であるからだ。 ウクライナも台湾も、アメリカが領土奪取のために軍事力を行使することを禁じる国際規範をどこまで守るつもりがあるのかを試す重要なケースとして位置づけられている。論者の中には「ウクライナへの軍事行動に対応できなければ、米国の信頼性が低下し、中華人民共和国による台湾への攻撃を招く」として両者の運命が連動しているという見方をする人もいる。 だが端的に言って、これはかなり雑な分析である。現在の地政学的状況では、ウクライナと台湾との違いは、その類似性よりもはるかに重要であり、両国が直面する安全保障上の脅威を結びつけることは、むしろ双方の状況を悪化させることにもなりかねない。 アメリカは、今後10年間で軍事バランスが中国に有利にシフトしつつある「インド太平洋地域」から、自分たちの国益にとって重要度が低く、パワーバランスがアメリカ側に有利な地域に、限られた資源を流用し続けるべきではない。台湾の安全保障にとって本当に重要なのは、アメリカの「評判」ではなく「優先順位」の方なのだ。 ▼台湾は特別なパートナー この比較は、なぜものごとを明確化するよりも不明瞭化するのだろうか?そのためには、まずアメリカの他国への関与の歴史を考えてみよう。ウクライナに対するアメリカの安全保障支援は最近になってからはじまったものであり、限定的であり「冷戦後のヨーロッパの安全保障秩序に対するロシアの挑戦」という広範な懸念に包含されるものである。 しかし、台湾に対するアメリカの権益は深い。台湾が事実上の独立国家として今日存在できているのは、1950年6月にトルーマン政権が台湾海峡を越えた中国の侵攻を防ぐために介入したからだ。それ以来、アメリカは台湾の安全保障上の主要なパートナーであり、軍事援助、訓練、武器売却の供給源となっている。 またアメリカは、台湾が「貧しい軍事独裁政権」から「豊かな自由民主国家」になるのを支援してきた。1950年代初頭の援助は、台湾の国民総生産の10%を占め、アメリカの顧問は土地改革と経済の安定化を推進する上で重要な役割を果たした。その後、アメリカは台湾の輸出企業にアメリカ市場への優先的なアクセスを認め、台湾の経済は急速に拡大し、現在では購買力調整後の一人当たりの国内総生産はドイツと同レベルに達している。 このような長期にわたる関与の歴史は、中国が台湾を攻撃した場合のアメリカの世界的な評判と影響力への影響が、ロシアのウクライナに対する攻撃の場合よりもはるかに大きなものとなることを意味する。 ▼ 中国はロシアではない 次に、敵対者としての違いを考えてみよう。ロシアは、利害関係も戦略も戦術も、中国とは根本的に異なる。2000年以降、一人の強者が支配する衰退した国であるプーチン政権下のロシアは、どうしても手持ちのカードが弱い。 プーチンの積極的な対外行動は、ロシアの安全保障を強化するためではなく、主に国内の地位を向上させる必要性に駆られてきたものだ。プーチンは、EUやNATOの既存の制度を弱体化させ、分裂を促す一方で、東欧の大部分がロシアから西側へ方向転換することをほとんど阻止することができなかった。われわれがロシアについて、ワルシャワやプラハ、ブダペストなどに対する脅威ではなく、キエフに対する脅威について語っていることがその何よりの証拠である。 それとは対照的に、中国は台頭しつつある大国であり、その指導者たちは時間が自分たちの味方であると信じるだけの理由がある。中国経済はすでにインド太平洋地域で最大であり、世界でも第2位であり、この30年間、既存の世界経済と安全保障の仕組みから多大な恩恵を受けてきた。ロシアの行動とは対照的に、国際秩序を修正しようとする中国の動きは、既存のグローバルな制度を利用し、自らがコントロールできる補完的な制度を構築すること、つまり「取り壊す」のではなく「建設するもの」がほとんどである。 このような2つの異なる軌道をたどってみると、アメリカがそれぞれで国益を増進するための戦略も根本的に異なってくることがわかる。 ロシアはすでに国際法や規範に反してウクライナ領土を占領・併合し、ウクライナ東部の紛争で戦う代理勢力を支援しており、1万4000人以上の命を奪い、その国際的評価と国益に多大な損害を与えている。 中国は台湾に対してそのようなことはしておらず、その脅威は軍事的なものと同じくらい経済的、外交的なものである。例えば、人民解放軍がこの地域を不安定にし、台湾やアメリカに譲歩させようと思えば、金門と馬祖の脆弱な沖合諸島(前者は厦門市街からわずか30キロ)をすぐに奪取できるが、これらの地域は依然として台湾の管轄下にある。 同様に、中国軍が台湾の領空付近で定期的に行っている目立った演習は、主に台湾とアメリカの指導者にシグナルを送ることを目的としており、領土の奪取や維持、侵略の予兆を示すものではなかった。また、これまでのところそれらが人命の損失や直接的な紛争に発展したことはない。 むしろ中国の戦略の最も特徴的な点は、両岸の現状を徐々に変化させるために、非軍事的な手段に頼っていることだ。北京の台湾政策は、好まないタイプの、あるいは信頼できないタイプの台湾の指導者に直面した場合でも、「ハード」な外交・軍事圧力と同様に「ソフト」な経済的誘導を重視し、台湾への影響力を高めてきた。 この戦略には、台湾の人々と同様に、アメリカ国民を対象とした執拗で多角的な「プロパガンダ・キャンペーン」も含まれている。このキャンペーンは、中国共産党が好むシナリオを強調しようとするものである。すなわち「台湾は中国の神聖な領土であり、中国は両岸の統一のためならどんな犠牲も払う」というものだ。そして「衰退する米国は、台湾の公約から手を引くべきである。なぜなら、台湾は常にアメリカ人よりも中国人にとって重要なものだからだ」というものである。 これはロシアのものとは全く異なるメッセージを発している。中国のそれは、より忍耐強く、より洗練されたものであり、対抗するのが難しい。アメリカの政策立案者は、世界の他のホットスポットでアメリカのコミットメントを過剰に拡大することによって、それにまんまと乗ってしまう危険性がある。 ▼アメリカは台湾にさまざまな権益を持っている 台湾におけるアメリカの権益の範囲と深さは、ウクライナのそれを凌駕している。台湾は世界の商業界で圧倒的な強さを誇る経済大国であり、その経済は他の東アジアや北米と密接に絡み合っている。2020年の台湾は、アメリカにとって第9位の貿易相手国であり、物品とサービスの双方向貿易で1,060億ドル(約11兆円)であった(ウクライナは67位で、39億ドル)。 また、台湾は世界で最も戦略的に重要な企業であるTSMC社の本拠地でもあり、半導体技術で圧倒的なリードを築き、同社は今や世界のファウンドリーの収益の半分以上を占めるまでになった。 さらに、台湾は「第一列島線」の交通量の多い海路に面しており、北(日本)と南(フィリピン)にアメリカの条約上の同盟国があるという戦略的に重要な場所に位置している。もし人民解放軍が台湾を占領することができれば、アメリカの防衛能力は低下し、中国のハードパワーが増大する中で、他の同盟国やパートナーとの約束の信頼性も失われることになる。 台湾が豊かな自由民主主義国家として存在し続けることは、独裁的な中国に対する説得力のある代替案を提供することにもなる。それは、中国語圏の社会には、民主主義と自由市場資本主義が適しているということを証明するからだ。台湾の人々は、中国共産党ではなく、西洋と規範や価値観を共有しており、世界の繁栄と自由を促進するアメリカの努力の輝かしい成功例となっている。 もちろんウクライナもいつかはそうなれる可能性はあるが、もし成功したら、それはアメリカとの弱い関係ではなく、むしろ欧州連合との緊密な経済統合を通じたものだろう。 これらの理由から、もし台湾が北京の支配下に置かれた場合、アメリカの権益はロシアによるウクライナへの攻撃よりもはるかに深刻な影響を受けることになる。 ▼アメリカはウクライナでロシアと戦わなくても台湾を中国から救うことが可能 ウクライナと台湾の比較から生まれた最も疑わしい主張は、アメリカの「信頼性」を維持する必要性についての議論である。「バイデン大統領のアフガニスタン撤退が中国の冒険主義を助長する」と主張した評論家の多くが、それと全く同じ理由を使って、ウクライナへの介入を主張しているのである。 しかし、この議論は誤った前提に立っている。台湾海峡におけるアメリカのコミットメントの信頼性は、地球の裏側で異なる敵、異なる種類の脅威、異なるアメリカのパートナーや同盟国の連合に対して行うことに依存するからだ。 現実的には、台湾の安全保障にとって最も重要なのは「アメリカの評判」よりも「優先順位」である。より小さな脅威に対応するためにインド太平洋地域から資源と注意をそらすことは、アメリカが今後10年間に安全保障上の最大の課題に直面する地域の同盟国やパートナーを安心させることにはつながらない。 したがって、バイデン政権の高官がこの違いを認識しているように見えるのは心強いことである。国家安全保障顧問のジェイク・サリバンが最近のインタビューで指摘したように、アメリカの台湾に対するコミットメントは、 「一つの中国」政策、台湾関係法、3つのコミュニケに根ざしたものです。台湾関係法は他国にはなく、ウクライナにもないユニークなもので、さまざまな方法で台湾を支援するというアメリカのコミットメントを物語っております」 バイデン政権が最近行った中国の圧力に対する措置は、武器売却から二国間貿易協議、バイデンの就任式への台湾代表の招待に至るまで、結局のところ、現在のウクライナの危機へのワシントンの対応と比べても北京と台北の双方ではるかに大きな関心を集めている。 アメリカの外交評論家もこの違いに気づき、両者の運命をつなげることをやめてくれれば、台湾とウクライナの双方にとってプラスとなるだろう。 ==== タイトル通りの「ウクライナと台湾はアメリカの国益にとって優先順位が違う」ということですが、これは「ウクライナを見捨てよ」という過大解釈をされがちな意見ですね。 問題は、だからと言って「日本は関係ない」と言えず、政府としてはロシアに対しては制裁などで厳しく当たる必要があるということです。 ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。 さらに「インド太平洋戦略の地政学」も発売となりました。よろしくお願いします。 ▼〜奴隷人生からの脱却のために〜 「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから! 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by masa_the_man
| 2022-01-31 10:18
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