今日の恵比寿は雲が多めですがなんとか晴れそうです。
さて、ウクライナ情勢が危険な状況になりつつありますが「それでもロシアはウクライナに侵攻しないという」というこの期に及んでは「意外」とも言えような意見を主張しているベテランのロシア経済の専門家の意見がありましたので、その試訳を。
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Q:ロシアとウクライナの戦争は間近に迫っているのか?
A:何らかの誤算があれば、戦争になる可能性はある。すべてはロシアのプーチン大統領が何を考えているかにかかっているようだ。私は、ロシアの潜在的な動きについて「費用対効果の分析」という観点から考えてきた。プーチンの過去の戦争に関する意思決定のパターンを見てみると、彼はロシアの犠牲者がほとんど出ないような小規模で低コストの戦争を好んでいることがわかる。2008年のグルジア侵攻、2014年のクリミア併合、2015年からのシリアのアサド政権への支援介入は、すべてこのモデルに合致している。
これらの紛争で犠牲になったロシアの人命はごくわずかであり、そのほとんどは金で雇われた傭兵であった。ロシア人が犠牲になったとしても、それはクレムリンによって秘密にされていた。ロシアで最大の国家機密のひとつは、プーチン政権の下で何人の若者が殺されたかということだ。プーチンはこの数字に細心の注意を払い、それが彼の重要な政治的弱点の一つとなっているからだ。
また、こうした小規模な紛争の背景には、プーチンの側近たちが資金を調達していることもある。その費用は、そもそも国家予算から直接出ているわけではない。クレムリンの内部で何が起こっているのか、私たちは正確に知りえない。しかし、ロシア政治のトップたちが、組織的な犯罪ファミリーのように振る舞っていることは確かだ。プーチンはオリガルヒたちに向かって、「さあ、この軍事作戦の費用を払ってもらうぞ」と言う可能性が非常に高い。オリガルヒは母なるロシアに忠誠を誓って財源を使うのではなく、クレムリンから受けた恩を返すために窮地に立たされているからだ。
例えば、クリミア併合に資金を提供したオリガルヒは、ケルチ海峡を越えて半島をロシアにつなぐ橋を建設する数十億ドルの契約を受け取った。その橋の建設費が20億ドルで、オリガルヒは国から50億ドルの支払いを受けるとしよう。そしてそのオリガルヒは、クレムリンの政策課題を支援するために、30億ドルの利益の一部を国に再投資し、自分の地位を維持できるようにするのだ。
プーチン政権下の武力紛争のもう一つの特徴は、軍備を増強し、紛争に備えながら、民衆の支持を得るために国家主義的なアピールをすることである。例えば、クレムリンの支援を受けた報道機関は、2014年に「ウクライナ人がキエフから同国東部にやってきて、ロシア語を話す人々を殺すなどの残虐行為をしている」と虚偽の主張をした。
結局のところ、プーチンがウクライナと戦争を始めるとは思えないのは、現在の現実が、今並べたモデルに合致していないからだ。プーチンは大量の死傷者を秘密にしておくことはできないし、戦争に負けることは自分の仕事や首を失う良い方法であることを、歴史から理解している。ロシアは、1979年に始まったアフガニスタン侵攻の失敗をよく覚えている。この軍事的冒険がもたらした経済的、政治的ダメージは、その10年後のソビエト連邦崩壊の条件の一つとなったのだ。
その一方で、私が心配しているのは、現在のロシア軍のウクライナ国境への駐留が、偶発的な武力衝突を引き起こす可能性があるということだ。その結果として大規模な紛争に発展する可能性は、たしかに存在する。
Q:ウクライナ国境で見せた大規模な軍事力展開の背後にあるクレムリンの動機は何か?
A:プーチンは「東欧におけるNATOのプレゼンスを縮小し、ウクライナをロシアの影響下に戻す」という長期的な目標をすべて公にしており、その目標に向かってひたすら邁進している状態にある。ロシアによる軍隊の増強は、ウクライナの主権に対する脅威を示しているため、西側諸国は差し迫った戦争を懸念している。そのため、米国と欧州の同盟国は「戦争を防ぐために何ができるか」を自問自答せざるを得なくなった。
バイデン大統領とプーチンとの会談はこれまでのところ失敗に終わっているが、バイデン政権側の主な関心は、クレムリンの外交政策の目標を満足させることにあった。もしウクライナ周辺にロシア軍を増強していなければ、プーチンは西側諸国からここまで注目を浴びることはなかったはずだ。
気になるところだが、プーチンは頭が良いので、相手の弱点を察知していると思われる。そして弱さを感じると、どこにでもつけ込んでくる。たとえば米軍がアフガニスタンから撤退し、同国がタリバンに蹂躙されるのを許したことに弱さを感じたのだ。
また、ヨーロッパがロシアにどう対抗するかという点で意見が一致できていない点も見ている。ドイツの新指導部はクレムリンに対して軟弱な態度をとっているが、その理由の一つは、ドイツの国民が安価なロシアの石油とガスにますます依存しているからだ。ロシアの北方鉱区からバルト海を経由してドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム2」は2021年9月に完成しており、ロシア国営エネルギー大手ガスプロムは、このパイプラインの出口であるドイツから、欧州全域のエネルギー市場でのシェアを拡大する方針である。
ウクライナでの軍備増強は、ロシアを世界の大国と位置づけたいプーチンの思惑もあるのだろう。もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう。現在クリミアにはウクライナ領以外、陸路で入ることができない。このようなロシアの侵攻は、ウクライナにとって最も戦略的な港を失う可能性が高いため、地政学的な災難となるだろう。
Q:ロシアはエネルギー資源の豊富なカザフスタンにも介入している。プーチンがカザフスタンとウクライナの両方への影響力を強めれば、世界のエネルギー市場におけるロシアのシェア拡大につながるのでしょうか。
A:ウクライナは主要なエネルギー生産国ではないが、ロシアの天然ガス輸出の半分をヨーロッパに運ぶ中心的な中継地であったため、戦略的に重要である。このような事情もあるため、クレムリンにとってウクライナに侵攻することは、少なくともノルドストリーム2が稼働するまでは得策とは思えない。もし戦争が起こり、ノルドストリーム2が稼働しないままウクライナのパイプラインが停止すれば、ロシアは高いエネルギー輸出を維持できなくなり、多額の国家収入を失うことになるからだ。
それに比べ、カザフスタンは化石燃料の一大生産国であり、多国籍企業によるエネルギー部門の運営を認めている。もし、クレムリンが国有化政策によってカザフスタンの資源を支配することができれば、ロシアは世界のエネルギー市場におけるシェアを3分の1まで高めることができる。
今のところ、ロシアがどう動くかはわからない。ロシアのいわゆる「平和維持軍」は、燃料価格の大幅な値上げをめぐるカザフスタン政府への抗議行動を鎮圧するために派遣されていたが、これをカザフスタンから撤退させることで合意したとの報道もある。
Q:ロシアは、一部の政治家や外交評論家から「ペーパータイガー」(張子の虎)と呼ばれている。私たちは、グローバルな舞台でのロシアの強さを過小評価しがちでは?
A:私たちはたしかにロシアを過小評価することが多いと思う。今、プーチンはウクライナに対して攻撃的な姿勢をとっており、米国や欧州から譲歩を引き出すのに有利な立場にある。だがわれわれはロシアが核保有大国であることを忘れてはならない。ロシアの軍事ドクトリンでは、モスクワの国政が脅威にさらされた場合に戦術核を使用する権利があるとされている。
これは非常に恐ろしいことだ。私は「ロシアは軍事的な意味で張子の虎である」とする議論には納得できない。彼らはいつでも我々を全滅させることができるからだ。もちろん「ロシアは経済状態が悪いので、国家の軍事力を長期的に維持することはできないだろう」という議論はできるかもしれない。しかし、かつて経済学者のジョン・メイナード・ケインズが言ったように「長い目で見れば、我々は皆死んでいる」のだ。
Q:ロシアは具体的にどのような譲歩を米国や欧州に望むのか。
A:ロシアは、NATOがウクライナやグルジアなど、ロシア領に隣接する国を加盟させないという確約を望んでいる。つまり、1948年にフィンランドがソ連と平和条約を結んだときのように、ロシアとNATOに対して「中立」を宣言することを望んでいるのだ。
私はもしこれらの国々の「フィンランド化」が実現すれば、深刻な事態になると予想している。プーチンはこれらの中立国にハイブリッド戦争を仕掛けて、急速にロシアの衛星にすることだろう。中立を宣言されれば、西側の保護と自衛のための武器獲得能力を失うことになる。
Q:このような状況下で、米国とその同盟国は、どのようにロシアに対抗すればよいのか?
A:今のところは「ロシアに対して交渉によって有利な政策的結果を得ることはできない」と認識することが健全だと思う。プーチンの注意を引くことができる武器はただ一つ、プーチンがヨーロッパを支配するエネルギーの鍵となるパイプライン「ノルドストリーム2」を停止させることを目的とした非常に厳しい制裁措置だけだ。
問題は、バイデンが2021年7月にドイツのアンゲラ・メルケル首相との交渉で、ノルドストリーム2の運営会社に対する制裁を免除したことだ。同様に、先週、米上院はテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)が提出した、このパイプラインに関連する企業を制裁する法案を否決している。
ノルドストリーム2は完成しているものの、ドイツの規制当局による認定はまだ受けていない。この事実は、少なくとも事態を収拾するための希望となる。
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主に経済的な面から見た、実に興味深い解説です。
地政学に関連するところでいえば「もしプーチンが侵攻するとすれば、クリミア半島とウクライナ東部を結ぶ陸の通り道を建設するための限定的な交戦だろう」という部分が個人的には注目だと考えております。西側のロシアと地理的に争われている最前線は閉鎖海である黒海(のアゾフ海)であるためです。
ということで繰り返しになりますが、さらに大きな米中関係などについては
最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらもぜひ。
(日本の城)
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