フランス国防省の「中国の影響工作」のレポート |
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2022年 01月 26日
今日の横浜駅は相変わらず寒いのですが、人の流れが相当少なくなった印象です。 さて、一部界隈で話題だったフランス国防省のシンクタンク(日本でいえば防衛研究所)がまとめた中国の影響工作についての報告書、ついに英訳版が出ましたので、そのエグゼクティブ・サマリーの試訳です。 本文は600頁超えなので、全訳は無理です。誰かぜひやってください(とバックパッシング)。 === 中国は長年にわたって、ロシアとは異なり「恐れられるよりも愛されること」を求めていた。つまり中国は、誘惑し、世界に自国のポジティブなイメージを植え付け、賞賛を喚起することを望んでいたと言える。今日において、北京はまだ誘惑すること、その魅力、そして国際規範を形成する野心をあきらめたわけではいない。中国共産党にとって、「面子をつぶさない」ことは依然として非常に重要である。その影響力の行使は、近年かなり強化され、その手法はますますモスクワのそれと似てきている。マキャベリが『君主論』で書いたように、「愛されるより怖れられる方がいい」と北京が考えているように見えるという意味で、この一党独裁国家は「マキャベリ的瞬間」に突入しているといえる。この進化は、中国の影響力行使の「ロシア化」を示している。 本レポートは、中国の影響力のツールについて、最も温和なもの(パブリック・ディプロマシー)から最も悪質なもの、すなわち他国への干渉(秘密活動)まで、その全範囲をカバーするという野心からこの進化を分析している。そのために、この分析は4つのパートに分かれており、この「瞬間」に関連する概念、アクター、そして行動などを順次紹介し、最後にいくつかのケーススタディで締めくくられる。 1. 中国の影響力行使を理解する上で重要な概念として挙げられるものには、内外の敵を排除し、その権威に逆らいうる集団を統制し、党を中心とした連合体を構築してその利益を図る中国共産党の政策である「統一戦線工作」があり、他にも中国の「政治戦」の核心にある「三戦」があり、これは中国に有利な環境を作り出すことによって戦わずして相手を制圧しようとする「非キネティック」な紛争傾向を持っている。戦時・平時を問わずに行われるこの戦いには、世論戦、心理戦、法律戦(後者は英語でいうところの "lawfare "に近い)などが含まれる。 ソ連の概念も、北京のレパートリーを説明するのに役に立つ。たとえば「積極的措置」とは、情報操作、偽造、妨害工作、信用失墜作戦、外国政府の不安定化、挑発、偽旗作戦、相手社会の結束を弱めるための操作、「役に立つバカ」の採用、そしてフロント組織の創設などである。 2. 中国の影響力工作を実施する主体は、党、国、軍、企業である。 党内には、イデオロギーを監督し、全メディアと国内の全文化生産をコントロールする宣伝部、主要ターゲットを反映した12の事務所を持つ統一戦線工作部(UFWD)、外国政党との関係を維持する「国際連絡部」(ILD)、法輪功運動を排除するために法的枠外で活動する世界各地のエージェントを抱える「610弁公室」などが含まれる。「中国共産主義青年団」(CYL)もこの中に含まれるべきで、若者とのつながり、将来の党幹部の育成、そして必要な時に動員できる力として、たとえそれが正式な党組織でなく大衆組織であったとしても、その役割を担っている。 国務院の内部では、特に2つの組織が影響力の行使に関与している。民間の主要な情報機関である「国家安全部」(MSS)と、台湾向けのプロパガンダを担当する「台湾事務局」(TAO)である。 人民解放軍の内部では、戦略支援軍(SSF)がそのネットワークシステム部を中心に最前線にいる。同部は情報領域における資源を持ち、任務を任されている。より正確には、この領域で確認されている主要なアクターは、福州に本部を置く「311基地」であり、「3つの戦域」戦略の実施に専念している。また、民間の隠れ蓑としてメディア企業を運営し、訓練センターを隠すために偽のホテルも運営している。 最後に、誰が、いつ、どのように影響力工作の対象となるべきかを決定するために必要なデータを収集する上で、公共・民間企業は重要な役割を担っている。ウィーチャット、微博(ウェイボー)、TikTokなどのデジタルプラットフォーム、百度やファーウェイなどの企業や研究者が中国の「テクノ権威主義」あるいは「デジタル権威主義」と呼ぶものについての洞察を提供するすべてのデータベースなどは、海外での影響力行使の準備と実行に利用されている。旧2APLに委ねられていた情報任務を継承したらしい「中央軍事委員会統合参謀部」も、このリストに含まれるはずだ。しかし資料が不十分なため、この機関については報告書の中で取り上げていない。 3. 北京が海外で影響力を行使する際に行っている行動には、主に2つの排他的でない目標がある。第一に、中国を肯定的に表現することで海外の聴衆を誘惑し、魅了することである。これは4つの具体的なナラティブ(中国の「モデル」、伝統、慈愛、強さ)によって説明することができる。第二に、何よりも「浸透」と「強要」を行うということだ。浸透は、対立する社会にゆっくりと浸透し、党の利益に反する行動の可能性そのものを阻止することを目的としている。強制は、中国の「懲罰的」または「強制的」外交を、党の利益を脅かすあらゆる国家、組織、企業、個人に対しても組織的に制裁する政策へと徐々に拡大させることに対応している。いずれもほとんどの場合は仲介者の網を通じて実施される。全体として、これらの慣行は以下のカテゴリーを対象としている。 -- ディアスポラたち:まず中国の権力にとって脅威とならないように彼らをコントロールし(NGOフリーダムハウスによれば、北京は「世界で最も洗練され、グローバルで、完全な」国境を越えた弾圧キャンペーンを行っている)、次に共産党の利益を図るために動員される。 --メディア:北京の明確な目標は "新しい世界メディア秩序 "を確立することである。実際、北京政府は2008年以来、毎年13億ユーロを投じて、世界的なイメージをより厳しく管理しようとしている。中国の主要メディアは、複数の言語、複数の大陸、そして中国でブロックされているものを含むすべてのSNS(Twitter、Facebook、YouTube、Instagram)上でグローバルな存在感を示し、デジタル視聴者を人為的に増やすために巨額の資金を投じている。北京はまた、海外の中国語メディアをコントロールしようとしている。これは非常に成功しており、中国共産党は現在、海外の中国語メディアを事実上ほぼ独占しており、主流メディアもコントロールしようとしている。他にも一党独裁国家はメディアで使われるコンテンツをコントロールすることに関心があり、テレビ、デジタルプラットフォーム、スマートフォンをターゲットとして、グローバルな情報サプライチェーンの各段階に影響力を行使している。 --外交:これにはとくに2つの側面がある。第一に、国際機関や規範に対する影響力である。北京はその影響力を強化するために、古典的な外交資源と密かな影響工作(経済・政治的な圧力、懐柔、強要、腐敗)を展開する。第二が、いわゆる「戦狼」外交である。これは外交部(外務省)の報道官と十数名の外交官が採用する、より攻撃的な姿勢を指す。これらの攻撃は古典的なものと比較的新しいものがあり、特にSNSを利用し、罵詈雑言、諫言、脅迫に至るまで遠慮のない手段で行われるのが特徴である。全体として、このような中国外交の攻撃的な展開は逆効果であることが証明されており、近年の中国のグローバルイメージの急激な悪化に大きく寄与している。このような活動は、おそらく関係者たちにとっては持続可能なものである。なぜならその目的は、他国の人心を掌握することではなく、むしろ北京を喜ばせることにあるからだ。 --経済:経済依存は、しばしば中国が最初に用いる手段である。中国国内市場への参入禁止、禁輸、貿易制裁、国内投資の制限、中国人観光客への依存度が高い地域に課せられる出国制限、あるいは集団ボイコットなど、経済的強制は実にさまざまな形で行われる。さらに、北京は国内市場にアクセスするための条件として検閲を行うことも多くなってきており、多くの企業が圧力に屈してしまう実情がある。 --政治:対象国に入り込み、公的な政策決定メカニズムに影響を与えることを目的としたものだ。政党や有力政治家との直接的な関係を維持することで、一党独裁国家は対象国に潜入し、そこで公式・非公式の支援を集め、野党や「引退した」公人を利用して、政府内の最終的な妨害を回避できる。また、北京は選挙にも介入している(過去10年間で、中国は7カ国において少なくとも10の選挙に介入していると思われる)。 --教育、特に大学経由のものは、党の影響力行使の主な標的の一つである。その主な手段は、大学における自己検閲につながる財政的依存、海外のキャンパスにおける中国人学生や大学教員、そして管理者たちの監視と脅迫、授業内容や教材、計画されていたイベントの変更の強要、自己検閲の奨励と批判的研究者への処罰による中国研究の形成などである。 また、この一党独裁国家は、共同研究プログラムのような合法的で公然の手段、あるいは窃盗やスパイのような非合法で密かな行為によって、海外の大学を利用して知識や技術を獲得している。「軍民融合」の文脈の中で、ある共同研究プログラムや欧米の数十の大学で役職に就いている研究者は、北京が大量破壊兵器や監視技術を構築するのを強制的に支援し、それが中国国民を弾圧するために利用されている。2020年と2021年には、この件に関していくつかのスキャンダルが公的に発覚した。 他にも、教育における中国の影響力を示すもう一つの重要な要素として、大学と結びついたものがある。世界中で開講している孔子学院や孔子教室は、中国語や中国文化を教えるという名目で、特定の大学の中国への依存度や服従を強め、学問の自由を損なわせている。諜報活動にも利用されている可能性もある。 -シンクタンク:この分野での中国の戦略は2つの側面からなる。シンクタンクの海外支社を設立することと、それ自体がシンクタンクである可能性のある現地の組織を利用することである。考えられるシナリオとして、現地のアイディア市場で増幅器として働く暫定的なパートナー、共産党のナラティブを広める状況的な同盟者、そして中国共産党と共通の世界観と合致した利益を共有する共犯者、の3つである。 ---文化:まず、映画、テレビシリーズ、音楽、書籍などの文化製品の生産と輸出を通じたもので、これらはすべて強力な誘惑の手段である。北京の機嫌を損ねないように、そして巨大な中国国内市場へのアクセスを維持するために、多くのアメリカの映画スタジオは検閲を行い、映画のシーンをカットしたり修正したりしている。中には、中国人を "良い "役柄に起用するような過剰な措置を行うところもある。党・国家を批判するアーティストたちは、ほぼ確実に中国市場へのアクセスを拒否されることになる。別の圧力として、北京はアーティストたちが作品を修正したり、世界のどこかで展示するのを単に止めたり、あるいは中国の検閲官の仕事をするよう奨励することも望んでいる。 --情報操作、メディアで党のプロパガンダを広めるためにSNS上の偽アカウントに頼る、トロール(荒らし)や「アストロターフィング」(自然発生的な民衆運動を模倣する)、世論を「誘導」するために多数の「インターネット解説者」(誤って「五毛党」と呼ばれる人々)を雇うことなどである。一般的に、トロールたちは、PLAやCYLによってコントロールされ、ターゲットを擁護し、攻撃し、論争を巻き起こし、侮辱し、嫌がらせをする。真正性を模倣するもう一つの方法は、金銭と引き換えに第三者が公開するコンテンツだ(コンテンツファーム、メッセージの購入、アカウントやページに対する影響力の購入、「インフルエンサー」の採用など)である。2019年以降、Twitter、Facebook、YouTubeは、中国発の協調キャンペーンを特定することを控えるようになった。それゆえ、何万もの偽アカウントが停止された。あるものは長い間「休眠」していたが、あるものは買われたり盗まれたりしており、そのほとんどは中国のプロパガンダを増幅し、米国を(中国語や英語で)攻撃していた。中には人工知能によって生成されたプロフィール写真を使用しているアカウントもあり、これはいまやSNSにおける中国の活動において定期的に観察されるようになった手法だ。 さらに、これらのキャンペーンの重要な側面として挙げられるのは、これらは単に中国を擁護しているわけではないという点だ。中国モデルの促進は、ロシアの影響力活動が長年行ってきたように、他のモデル、特に自由民主主義を貶めることと密接に関係している。中国共産党はこうした作戦の中核におり、SNSを利用して、まず一方では「オープンな」影響力行使を行い、しばしば抑止力と心理戦を目的としたプロパガンダを流し、他方では外国のターゲットに対して秘密裏に敵対的な工作を行っている。 --その他のレバーたち: 北京は影響力行使において、各国の市民運動も利用している。特に分離主義者(ニューカレドニア、沖縄)、平和主義者グループ(冷戦反対派)、中国人観光客、インフルエンサー(欧米のユーチューバーを含む)、外国の学者たち、さらには「人質外交」を展開するため人質も利用している。 4. ケーススタディは同心円状に紹介される。台湾と香港は北京の「政治戦」の最初の戦線を構成している。この2つ地域は中国の作戦の前哨基地、訓練場、「研究開発の実験室」であり、その後、洗練された形で世界中の他のターゲットに応用されるのだ。これはつまり、ロシアにとってのグルジアとウクライナのようなものだ。この作戦の最初の輪は、まずオーストラリアとニュージーランドをターゲットに広げられる。 そして次のステップは、世界の他の地域、特にヨーロッパと北米(だけではないのだが)をターゲットにすることであった。このパートでは、台湾、シンガポール、スウェーデン、カナダの4つの事例と、2019年に香港のデモ参加者をターゲットにし、2020年に新型コロナウイルスをアメリカの創作と決めつけた、2つのオペレーションを紹介する。 最後に、結論はこの「マキャベリの瞬間」という概念に2段階で戻ってきた。まず、2017年頃から中国の影響力工作の「ロシア化」が実際に起きていることを確認する。2018年の台湾の市議選、その後の2019年の香港危機ですでに並行していたが、世界がこの問題を意識したのは、2020年の新型コロナウイルスによるのパンデミックからであった。そしてこの「ロシア化」の3つの構成要素が整理される。北京はいくつかのレベルで、モスクワからインスピレーションを得ている(既存の中国軍の文献では、PLAにとってロシアはこのような作戦で模範となるモデルであることを認めている)。しかし、両者の間には明らかに相違があり、また一定の協力関係も存在する。 最後の結論部分では、この新しい中国の姿勢の有効性を評価している。この北京のやりかたは、戦術的には一定の成功をもたらしたとしても、全体としては戦略的な失敗であり、影響力の点で自らが最大の敵となってしまっている。これらは習近平の登場以来、特にここ数年で北京の評判は急激に低下しており、中国は不人気問題の深刻化に直面し、自国民に対するものも含めて、間接的に党を弱体化させていく可能性がある。 ==== かなり長文ですが、これだけでも中身がどのようなものか読みたくなるものですね。 日本も関係する具体的な中身の一部についてはここでも紹介して行こうと思っております。ご期待ください。 また、さらに大きな米中関係などについては最新の音声レポートも作成しましたので、ご興味のある方はこちらの方もぜひ! 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by masa_the_man
| 2022-01-26 10:46
| 戦略学の論文
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