今日の横浜北部は雲は多めですが晴れております。
実に一年ぶりとなりますが、ブログを再開します。
きっかけは先日に与那国で会った北海道出身のYMさんという謎の男性に、「奥山さん、そろそろブログ再開してくださいよ」と詰め寄られたからです。
たしかに最近は動画やTwitterでの情報発信を中心にしていたので「これはまずい」と思い、文字情報中心のブログのほうも再開しなければと実感した次第です。
ということで再開第一弾は、すでみ本ブログをお読みのみなさまにはすでにおなじみに若手研究者であるハル・ブランズによる、最新の米中関係についての論考の試訳です。
当然ですが、以下のものは本気で訳したものではなく、あくまでも私の個人的なメモ代わりなので、もし引用されたりする方はリンクに貼った原文のほうを参照していただければと思います。
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by ハル・ブランズ
10/27 Bloomberg
アメリカの中国政策において、歴史的なアナロジーがブームになっている。 たとえば北京が最近行ったとされる軌道周回兵器の実験は、マーク・ミリー統合参謀本部議長などによって「スプートニクの瞬間」に例えられている。 私を含めたアナリストたちは、米中が「新冷戦」に突入しているのではないか、アメリカは旧冷戦からどのような教訓を得られるのか、などのテーマについて議論してきた。
しかし、中国はそれとは逆の方向に進んでいる。中国は米ソの対立から得た、最も重要ないくつかの教訓から逸脱しつつあるからだ。中国は、米ソ対立から得た最も重要な教訓を捨てても戦略的に繁栄できるかどうかを試しているのだ。
中国共産党は歴史を重視している。彼らは国策として、大国の興亡やソ連崩壊の原因などを研究してきた。中国共産党は1989年の天安門事件からも学んだように、党内の分裂を許さず、イデオロギーへの忠誠を徹底させ、反対意見が暴走しないように監視することを学んだのだ。
2013年、習近平国家主席は、ソ連が崩壊した理由は、致命的な民主化の流れに「立ち上がって抵抗する覚悟を持った人物がいなかった」からだと述べた。習近平は今でもこの教訓を重く受け止めている。
しかし、彼が忘れようとしている「冷戦の教訓」は他にもある。
1つ目は、単純に「ワシントンの標的になるな」ということである。中国研究者のラッシュ・ドシは、共産党がすでに1989年の時点から、軍事的に優位にあってイデオロギー的に優勢なアメリカを「最大のライバル」と認識していたことを記録している。しかし、アメリカの力があまりにも圧倒的であったために、ソ連の野望を打ち砕いたアメリカの集中的な敵意を、北京は避けるようにしたのだ。
40年前に鄧小平が打ち出した「韜光養晦」(とうかいようこう)という戦略は、米国をはじめとする主要国との良好な関係を構築することで時間を稼ぎ、世界の貿易や先端技術を手に入れて、世界情勢の中で北京が思い通りに動くための力を蓄えることを目的としたものだった。鄧小平は中国が「先進国のレベル」に達すれば「その強さと世界での役割は全く異なるものになるだろう」と述べている。
2つ目の教訓は、冷戦時代のような軍拡競争を避けることだった。冷戦時代の戦略兵器の軍拡競争は、結果的にソ連を疲弊させ、アメリカの経済的な力のおかげで優位に働いた。
そのため、北京は長年にわたって比較的最小限の核抑止力を維持し、周辺部の海域で中国が優位に立てるように設計された通常兵器のような、比較優位の分野に支出を集中させてきた。
ところがいまやこの2つの教訓は放棄された。中国のレトリックと政策には、冷戦時代の雰囲気が漂ってきたのだ。習近平は「東洋が台頭し、西洋は衰退している」と主張し、敵対するアメリカに対抗するために、1930年代の共産党の生存競争を彷彿とさせる「新たな長征」を呼びかけている。
党の幹部はアメリカとその同盟国に対して軍事的な脅威を与えており、戦狼外交を実行する外交官たちは冷戦時代のレトリックの衝突を彷彿とさせるような口調でアメリカの幹部を公然と非難している。
中国は、世界が再び分断されることを想定しつつ、技術的な自給自足を目指して急いでおり、第二次世界大戦以来の驚異的なペースで艦船を建造している。どのように呼んでもかまわないが、実態として中国はもはや米国の敵意から逃れようとはしていないのだ。
軍拡競争も始まっている。核ミサイルの分野で中国は次々と新たなプロジェクトを誕生させており、極超音速兵器の開発も進められている。2030年代半ばには、中国は核の分野でアメリカに比肩しうる存在になる道を歩んでいるかもしれない。少なくとも、中国が控えめな抑止力に甘んじるという考えはもはや信用できなくなっている。
なぜ中国は、これまで危険とされてきたことをわざわざ実行しはじめているのだろうか?それにはミクロとマクロな理由がそれぞれある。
中国の核開発は、米国が北京に対して戦略的優位に立つことによって相互の脆弱性から逃れることができないようにするためだ。これにより、米国には台湾をめぐる戦争で核兵器を使用するという選択肢(常に可能性は低いが)はなくなり、次第に北京に有利になる通常戦力のバランスでの優位が決定的になる。戦狼主義は、国内の聴衆や、とりわけ習近平に対するアピールであると思われる。
より大きな動機として存在するのは、楽観主義と悲観主義の不安定な組み合わせであるように見える。 習近平は「中国はもはや米国に従う必要がないところまで成長した」と主張している。中国は、経済的にも軍事的にも発展した能力を利用して、他国に自国の権益を尊重させることができるというのだ。
同時に、中国の指導者たちは、アメリカの中国への敵意はすでに2つの政権に渡って続いており、実質的に確定してしまったと考えているため、すでに挑発行為を弱める意味はないと考えているように見える。
これは失敗となる可能性がある。習近平の自給自足のレトリックは、最先端の半導体などの技術における中国の巨大な依存関係を覆い隠している。北京は、モスクワを破滅させたような戦略的包囲網(strategic encirclement)に対して脆弱なままである。中国の行動は、日本、オーストラリア、インド、英国などの国々や、北京の経済面での影響力を抑えたいと考えているアジアやその他の地域の小国たちの反発を招いている。
また、中国の動きは米国の政策をさらに硬化させる可能性もある。北京の極超音速兵器の実験と戦略増強は、核兵器への依存度を下げるというジョー・バイデン大統領の公約の実現を困難にするからだ。
もしかすると、中国が「歴史の教訓」を放棄するのはそもそも不可避であったのかもしれない。弱い国を導く教訓は、強い国にとっては耐え難いものに感じられることが多いからだ。だが中国はかつての冷戦の教訓を忘れてしまったことを、あとで後悔することになるかもしれない。
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中国は深刻な失敗をしているということですが、このような議論の前提にあるのは「アメリカは中国に負けるわけがない」「中国はすでにピークを迎えた」というものですね。
やや楽観的な議論と言えなくもないですが、ブランズはこのような議論を本にまとめているという噂を聞きました。このような議論はじっくりと読んでみたいですね。

(野良馬)
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▼〜あなたは米中戦争の時代をどう生き残るのか?〜
▼〜あなたは本当の北京の工作の手口を知らなかった〜