私の友人に、中国で働くアメリカ人のビジネスマンがいる。
この彼が最近教えてくれたのは、
「トランプはアメリカにふさわしい大統領ではないが、中国が得るのにふさわしいアメリカの大統領だ」
ということであった。
アメリカが北京との貿易関係を--中国が妥協できないほど大きくなる前に--修正する必要があると感じたトランプの直感は、たしかに正しい。
そして中国に本気であると気づかせるためには、やはりトランプ大統領のような「人間壊し屋」が必要になってくるのだ。
ところが本当にそのような人物が登場したため、米中両国はこの状況がいかに決定的な瞬間となっているのかを認識する必要があるだろう。
米中関係が始まった1970年代に現在の両国の貿易関係が決まったわけだが、それは限定的なものであった。
ところがわれわれが2001年に世界貿易機関(WTO)に中国を参加させた時のルールは、発展途上国に対して与えるような(今でも)有利な条件であったのであり、中国はそこから貿易大国となっていった。
今回の新たな貿易交渉は、両国のマーケットが完全に結びついている時に、米中が経済的な競争相手として21世紀の産業界でどのように競合していくのかを決定することになるはずだ。
よって、これは単なる貿易紛争ではない。本当に決定的なものとなるのだ。
この紛争をうまく終わらせるために、トランプはツイッターで「中二的」な中国バッシング(そして貿易戦争での勝利がいかに簡単かと語ること)をやめなければならないし、得られるだけの最適な貿易関係の修正に関する取引を静かに達成しなければならない--といっても一度にすべて修正できるわけはないはずだが--し、知らずに永遠に続く関税戦争に突入してしまうことなくやりすごすべきなのだ。
その一方で、中国の主席である習近平も、中国は過去40年間得てきた貿易面での特別な扱いをもう得ることはできないことを悟り、民族主義的な「誰も中国に指図できない」という空威張りを引っ込めて、得られるだけのウィンウィン的な条件を求めるほうが賢明なのだ。
なぜなら、北京はアメリカをはじめとする国々が自分たちの工場をABC、つまり「中国以外のどこか」(Anywhere-But-China)のサプライチェーンにシフトしてしまうことに耐えられないからだ。
これまでの状況を振り返ってみよう。
1970年代から米中貿易関係というのもの常に安定していた。つまりアメリカが中国製の玩具、Tシャツ、テニスシューズ、工具、そしてソーラーパネルを買い、中国は大豆、牛肉、そしてボーイングの飛行機を買うというものだ。
貿易赤字などが問題--中国が発展したのは、その勤勉さや、適切なインフラの建設、そして教育によってだけではなく、アメリカの企業からテクノロジーを強制移動させたり、自国の企業に補助金を出して助けたり、高い関税障壁を維持したり、WTOの規則を無視したり、知的財産を盗むなどして--になると、北京はボーイング、牛乳、そして大豆などをさらに購入することでアメリカを懐柔したのである。
それでも中国はあいかわらず自分たちのことを、世界最大の製造大国になってからだいぶたった後でも、特別な保護を必要とする「貧しい発展途上国である」と主張しつづけている。
しかしながらこの関係は、世界最大の既存の超大国であるアメリカが、次の超大国である中国の台頭の道をつくって準備し、しかもアメリカの企業がそれを十分がまんできるまでの時間しか続かなかった。その合間に、米中両国はグローバル化をともにすすめ、世界の経済状態を改善したのである。
ところがある時期になると、問題は大きくなって無視できないものとなった。
第一に、習近平率いる中国は「中国製造2025」という近代化計画を宣言し、中国の民間企業と国営企業の両方を、スパコン、AI、新素材、3Dプリント、顔認識ソフト、ロボット、電気自動車、自動運転、5Gワイヤレス、そして先端マイクロチップなどの分野で世界トップになれるように助けて行くこと約束したのだ。
このような動きは、中所得の罠から抜け出し、ハイテク分野における西洋への依存度を減らそうと狙う中国にとって、自然なものであった。ところがこれらの分野はすべてアメリカのトップの企業たちと直接競争するものであったのだ。
結果として、中国が1970年代から続けてきた、補助金による補填、保護貿易主義、貿易ルールのごまかし、テクノロジーの強制移動、知財の盗みなどは、そのすべてが欧米にとってはるかに大きな脅威となったのである。
もし欧米諸国が中国にこれまでと同じやり方、つまり彼らを貧困状態からあらゆる未来の分野で競争できるようにまでしたこれまでのやり方を、そのまま許すような事態は、やはりありえないのである。
この点に関して、トランプの判断は正しいのだ。
ただし彼が間違っているのは、貿易が戦争とは違うことをわかっていない点だ。
戦争とは異なり、貿易はウィンウィンになることがある。アリババ、ユニオンペイ、百度、テンセント、そしてグーグル、アマゾン、フェイスブック、VISAなどは、すべて同時に勝つことができる。そして実際に、これまではそうだったのだ。
私はトランプがこの点をそもそも理解できているのかどうかを疑っている。ところが同時に、私は習近平もこれを理解できているのかを疑っている。
われわれは中国側の企業が本当に優れている分野があるのであれば、それは彼らにしっかりと勝利させる必要がある。ところが彼らも劣っている分野があれば、負けを認めるべきなのだ。
もしアマゾンやグーグルが、中国国内のアリババやテンセントなどのように自由に運営できるとしたら、彼らはどれほど儲かっていたか、ということだ。
さらに、ロッキード・マーチン社のF-35ステルス戦闘機の設計図を人民解放軍が盗みだし、それをコピーして国内の会社に渡して研究開発のコストを浮かせたことによって、中国はどれほど資金を節約できたのであろうか?
再び繰り返すが、貿易はウィンウィン状態になりえる。ところがその一方が勤勉に働きつつも同時に不正をしていれば、その勝利はそもそもゆがんだものとなってしまうのだ。
貿易が玩具やソーラーパネルのようなものだけであれば、われわれはあえて見過ごすこともできる。ただしそれがF-35や5G関連の通信機器となれば無視できない。
しかもこれは目新しい問題でもないし、そこまで深刻ではない。それより重要なのは、われわれが「デュアル・ユース」の時代に生きているという点だ。
「デュアル・ユース」の世界は、モンテレーの海軍大学院のトップの戦略家の一人であるジョン・アキーラの言葉を引用すれば
「われわれに力と繁栄をもたらしてくれるあらゆるものは、同時にわれわれに脆弱性をもたらすもの」
である。
とりわけ中国のファーウェイなどによって製造された5G関連の機器は、 データや音声を超高速で伝達させることができるために、もし中国の諜報機関が中国の国内法によってアクセスを求められた場合には、スパイのための機器としても使うことができる。
実際のところ、 今回のファーウェイに関する議論において注目されるようになったのは、ファーウェイがこれまでエリクソンとノキアによって支配されていた5Gインフラの世界市場において立場を強めつつあるという点だった。
アメリカのクアルコム社は、ファーウェイに対してチップとソフトウェアの両方を供給しつつも、同時に世界において競合しているのだ。
ところが中国政府は、国内においてファーウェイとの他社からの挑戦--これは国内・国外の両方の企業を含む--を排斥し、これによってファーウェイを安価かつ速く巨大に成長するのを可能にしたのだ。
ファーウェイはこの影響力を使って西側の通信関連会社に低価格競争で挑み、その世界市場における台頭しつつある支配力を使って、次世代の5G通信のスタンダードを、アメリカのクアルコムやスウェーデンのエリクソンではなく、自社のテクノロジーで固めることを狙い始めた。
さらにいえば、デュアルユースの世界では、アマゾンエコーと同じようなファーウェイの「チャットボット」を自宅で使えば、その話がそのまま中国の軍事諜報機関に伝わることも懸念すべきだ。
われわれが中国からテニスシューズやソーラーパネルを買い、中国がわれわれの大豆とボーイングを買っていたような古き良き時代には、中国が共産主義か毛沢東主義、社会主義、さらには彼らが不正をしているかどうかは、誰も問題にしなかった。
ところがファーウェイがクアルコムやAT&T、そしてベライゾンなどと次世代の5G通信の分野で競争をし、しかも5Gはデジタルコマースや通信、ヘルスケア、交通、そして教育などの新たな土台になるとすれば、価値観、その価値観の違い、最低限の信頼性、そして法律なども重要になってくるのだ。
これはとりわけ5Gテクノロジーやその基準などが、ある国で一度採用されてしまうと、それを取り替えるのが極めて難しくなるという点で正しい。
さらにもう一つ付け加えておきたい。それは、われわれアメリカと中国との間に存在する価値観と信頼度の差は、縮まるのではなく、ますます広がりつつある点だ。
欧米諸国は貿易分野における中国側の不正を、ある程度までは見逃してきた。なぜなら中国が経済的に繁栄--貿易と資本面での改革によるもの--してくれば、政治的にもオープンになるはずだ、と思い込んでいたからだ。
十年前までは、まさにこのような状態であった。
ところが中国に長年住み、アメリカの中国国内のビジネスコンサルタントとして最も知見を持ったジェームズ・マグレガーによれば、ここ十年間で明らかになったのは、北京が「改革して開放する代わりに、改革して閉鎖的になりつつある」ということだという。
豊かになり、グローバル化における「責任あるステークホルダー」になる代わりに、中国は豊かにはなったが、南シナ海の島を軍事拠点に変えてアメリカを追い出そうとしている。そして顔認証のようなハイテクのツールを使って、独裁主義的な統治をますます効率よく行えるようにしている。
このような話のすべてが今回の貿易交渉において頂点を迎えつつある。
米中が今後互いにさらなる信頼を築けるかどうか、そしてグローバル化かこのまま進み、新たな時代にともに繁栄できるかどうかは、まだ誰にもわからない。
いずれにせよ、グローバル化は崩壊を始めるであろうし、そのおかげでわれわれはともに貧しくなるはずだ。
====
こうして見ると、思ったよりも悲観的なのが印象的です。
この中国に対する厳しい見方、とりわけ「もう不正をするのはいい加減にしろ」という不満は、たしかにバノンと共通するものがありますね。
今回の米中貿易戦争案件が、いかにこれまでの国際的な常識を越えたものであるのかがよくわかります。
下の動画では、ドイツのロボット大手、クーカ社の中国による買収についても触れてますね。