今日の横浜北部は朝からどしゃぶりで、午後になっても雨は上がりませんでした。
さて、久しぶりに本の紹介です。

(amazonより)
タイトルは『
戦争の新しいルール』でして、著者はショーン・マクフェイトという人物。
この著者の経歴が一風変わっておりまして、米陸軍の第82空挺師団の出身で、ハーバードやLSEで学ぶ途中に民間軍事会社でアフリカなどで従軍経験を持つという人物です。
彼がまず本書を書くにあたって問題意識として提示するのは、
「アメリカは第二次世界大戦以降になぜ戦争に勝利できていないのか」
という疑問です。
「いや、勝っているじゃん」
として湾岸戦争の例を出す人もいるかもしれませんが、マクフェイトに言わせれば、現在のイラクの現状を見るにつけ、それは勝てていないというのです。
ではなぜアメリカは勝てていないのかというと、彼の仮説として
「アメリカは新しい戦争が何かを概念として理解できていないから」
だというのです。
もちろんこのような議論は、
クラウゼヴィッツのような本を読めば、ある程度は怪しいということがわかるわけですが、それでもマクフェイトは
「アメリカは21世紀型の戦いを理解できていない」
として、それを「新しいルール」として示していくわけです。
参考までにこのルールですが、マクフェイトは全部で10個あるとしておりまして、
1,通常戦は滅びた
2,テクノロジーは救世主とはならない
3,戦争と平和は共存している
4,「心と思考」は関係ない
5,最高の武器からは弾が出ない
6,傭兵は復活する
7,新型の世界権力が支配する
8,国家の関与しない戦争が起こる
9,「見えない戦争」が支配する
10、勝利は代替的だ
というものです。
一見すると2000年代に流行した対テロ戦(COIN)を推し進めるような内容のものかと思いきや、その中身は自身の「傭兵」としての経験から得た、「アメリカ式の戦争」に対する強烈なアンチテーゼ。
しかもクラウゼヴィッツよりも
孫子的な世界観を前面に押し出した、極めて現代的な戦略理論書とも言えます。
個人的には自身の傭兵としての経験を打ち出しすぎかなとは思いますが(とりわけルール6〜8)、情報時代におけるプロパガンダ戦の重要性や、政治戦(もしくは大戦略のレベル)で勝つことの重要性、さらにはその厳しい戦争観などは、日本人だけでなく、アメリカ人にとっても十分ショッキングな内容となっているところは評価すべきだと感じました。
文体もシンプルで読みやすいですし、歴史的なエピソードも豊富。
一番おもしろかったのは、「ルール8」の部分で、国家の傭兵の活用の仕方として、使用者側と非使用者側からの視点でそれぞれ論じているところでしょうか。
たとえば「相手の国に対して傭兵を送りこめ。ただし送り込んだら即解雇せよ、すると相手の国内で暴れまわって混乱を起こしてくれる」という血も涙もないことを堂々と進言したりしております。
まえがきはスタンレー・マクリスタル元将軍、そして付録には兵法三十六計の訳が載っているなど、スパイスも効いております。
ネタバレ的になってしまいますが、明日のクラウゼヴィッツ学会ではこの本の内容について詳しく解説します。

(ウランバートルの中心街)