今日の横浜北部は一日中雨でした。それにしても寒かったですね。
さて、明日から出張にでかけますので、今日は簡単にいただいたご質問に対する返答を。
昨日のエントリーのコメント欄で、さまんささんに
>戦略系の著書の内容において資源配分に関する明確な手法を記載されている本を見たことがありません。
というご意見をいただきました。そして、
>大戦略の資源配分について詳しく紹介されている著書についてご存じないでしょうか?
というご質問をいただきました。
これに対する私の短い答えは、私も知らない、ということになります。
「いやいや、大戦略レベルでは資源配分が重要だと言っていたのはアンタだろ!」
というツッコミをいただきそうなのですが、これにはちょっと説明が必要です。
私が大戦略レベルに資源配分が重要だと気づいたのは、自分の専門である、戦略系の古典地政学を学び始めてからです。
すでに色々なところで言っておりますが、私が最初にグレイに会ったときに質問されたのが、
「お前は地政学がどのレベルのものだか知っているか?」
というものでした。私が知らないというと、自分のデスクに上にあった紙ナプキンか白いノートを取り出して、
世界観
↓
政策
↓
大戦略
↓
軍事戦略
↓
作戦
↓
戦術
という、後に私が「
戦略の階層」と名付けたものを書き出してくれたわけですね。
この階層が、後に論文を書くときに大きなヒントとなったわけです。
これがわかると、たとえば古典地政学は「ナチス・ドイツの侵略の元になった」という批判をされているわけですが、これが「作戦」や「軍事戦略」ではなくて、「大戦略」のレベルにあることがわかります。
なぜなら古典地政学が教えているのは、「戦争の遂行」そのものではなくて、
「戦略的に考えたら、どの地点が平時にも戦時にも重要になるのか」
という、どちらかといえば「戦争よりも前の段階」からの話になります。
そして軍隊というのは、陸・海・空というように、そもそも戦力を発揮する地理的なドメインにそれぞれ最適化されて組織されるのですが、当然のように各軍種の比率は、国家のおかれた地理的状況によって配分が変わってきます。
たとえば日本のように海に囲まれた国であれば、海軍をちょっと多めに(といっても今はそうなってないですが)しようとか、もしくはドイツのような陸の国境が多い国は、当然ながら陸軍を多めにしよう、という話になってくるわけです。
このような話を書いているものの代表が、マーレーやノックスの編著による『
戦略の形成』でありまして、最初の章の中で
「戦略には地理は重要だよ」
とさらっと書いております。
私の専門の古典地政学は、マーレーたちの軍事戦略のレベルの話ではないですが、その一つ上の階層、つまり大戦略や国家戦略と呼ばれるもの中で、とりわけ地理の要素を重視するもの。
そして地理の要素が重要であることがわかると、それが先ほどの軍の編成の話に直結してきたり、たとえば国の産業構造の話にもつながってきます。
そういえば最近トシ・ヨシハラが出版した
『太平洋の赤い星』の新版では、中国の産業構造の変化(沿岸への工業地帯の集中)とマハンの海洋戦略との相性の良さを指摘しておりましたが、これも地政学的であり、大戦略レベルの話でありました。
地理を大戦略レベルで考えると、それは軍の配備や編成に関わってくる、だから国家の「資源配分」も関わってくると私は考えたわけです。
ただし残念なことに、
「国家の資源配分の最適解はあるのか」
といわれれば、これは客観的な「科学」ではなく、極めて主観的な「アート」の世界なので、どうもマニュアル化できない、という話になります。
よって、結論としては
「大戦略レベルでは資源配分が重要なのはその通りだが、そもそもマニュアル化できないもの」
ということです。だからそれを教える本もないわけですね。
これについては私も引き続き考えていきたいと思います。良い質問をありがとうございました。
(リビングの本棚)