今日の甲州は快晴ですが、まだ昨日の寒さが残ってますね。
さて、昨日のつづきでルトワックの戦略理論ではなぜ「同盟」が最強なのかについて説明します。
ルトワックは70年代後半の対ソ戦というコンテクストから「作戦レベル」(作戦術:オペレーショナル・アート)の重要性に気づいたことはすでに説明した通りです。
この主著が画期的だったのは、何度も言う通り、彼が
戦略の階層の存在に気づき、それを体系的に説明しながらも、自らの戦略論のエッセンスである「パラドキシカル・ロジック」(逆説の論理)というものを提示したことにあります。
ところがこの「パラドキシカル・ロジック」について、ルトワックはお世辞にもその説明に成功しているとは言い難い状態です。
たとえばYoutubeに上がっているこの
講演論の中でも、
〜〜〜↓引用はじめ↓〜〜〜
この(パラドキシカル・ロジックをはじめとする理論)について、私は一冊の本(『エドワード・ルトワックの戦略論』)にまとめて論じており、多くの言語に翻訳されている。
・・・ところが原著となる英語版を読んだ人に
「この本は、まるで英語をドイツ語に訳し、それを英語に訳し直したような難しさがある」
と批判されたことがある。哲学的な響きを持つように書いたんだろう、というわけだ。
これは真実ではない。むしろ実際は、私がその本の中で説明しようとしている概念が難しく、矛盾的なことを説明し、しかも多層的に重なる戦略の階層を説明する最も複雑な部分になると、それを明快な言葉で表現することが困難だからだ。
・・・たとえば私が中国を訪れた時に、人民解放軍のある大佐が歩み寄ってきて
「あなたのことが嫌いだ、試験をパスするためにあなたの複雑な本を読まなくてはいけなくて大変な思いをしたからだ」
と言われたことがある。
〜〜〜↑引用終わり↑〜〜〜
と述べている通り、本人もうまく説明しきれていないということは自覚しているようです。
ところが彼の5冊の本を監訳・翻訳した人間である私から見れば、このパラドキシカル・ロジックや戦略の階層というのは、コツさえわかればそれほど難しい概念ではありません。
まずパラドキシカル・ロジックですが、これは相手との敵対的な関係(紛争や戦争)が発生した時に発生する、戦略のダイナミックな状態やプロセスのことを言っております。
つまりいざ紛争状態に突入すると、自分が相手に対してAというアクションを起こしても、望んだBという結果はあらわれず、そうはさせまいとした相手からCやDという思いがけないリアクションがある、ということです。
このような「殺してやる」「殺されてなるものか」という敵味方の二者の関係性から敵と味方のダイナミズムが発生する、そのために、アクションとリアクション(作用と反作用)の循環ができてしまい、だからこそこちらの思った通りの攻撃(や防御)はうまくいかなくなる、ということなのです。
たとえばもしあなたが攻撃を仕掛ける側だとすれば、この紛争における「パラドキシカル・ロジック」をわかっていれば、それに対抗してくる相手のリアクションまで想定して仕掛けなければならないことがわかります。
しかもそのリアクションは、完全には想定できない不確実なものです。
だからこそこのような不確実性を、クラウゼヴィッツは「摩擦」と呼んだわけですね。
そうなると、この「パラドキシカル・ロジック」の肝は、自分に対抗しようとしてくる「相手の反応」にあることがわかります。
ではこちらの思い通りに戦略を成功させるにはどうすればいいかというと、ルトワックはこれにしっかりと答えを用意しております。それは
「相手に反応させない」
ということです。相手からの反応がなければ、こちら側はやりたいように物事を進めることできる、ということになるからです。
「では相手の反応を発生させないようにするにはどうすればいいのか?」
という根本的な疑問が発生するわけですが、これに対してもルトワックは(著作ではあまりうまく説明しておりませんが)明確に説明しておりまして、それは
「相手にサプライズを与える」
ということなのです。
これは「奇襲」と言い換えてもいいかもしれませんが、とにかく相手を驚かせるような行動や攻撃を行うことによって、相手の思考を真っ白にしてしまい、反応できなくなる状態に追い込め、というのがルトワックの考えなのです。
実は孫子の影響を受けたリデルハートも「相手を麻痺させるのを狙え」と書いていて、これと全く同じことを言っているんですね。
とにかくルトワックにとって、一番ジャマなのは「相手の反応」です。
そしてこの相手の反応をサプライズでつぶすことができれば、相手は反応してきませんし、戦略における難しさの根本の原因となる「パラドキシカル・ロジック」も発生しないのです。
そもそも反応してこなかったら、相手はもう障害にはなりませんし、こちらの思い通りに物事を進めることができますから。
と、ここまで書いてきてまた時間切れです。明日こそ「同盟」がなぜ以下のすべてのレベルをキャンセルできるのかについて書きます。