今日の横浜北部は朝から快晴ですが、昨日と比べてやや気温が低いですね。
さて、「最近はずいぶんと短いペースでブログ更新しているな」と思われるかもしれませんが、また新刊発売の告知です。
と言っても、完全な意味での「新刊」ではなく、以前出していた出版社がつぶれ、その会社が復活したあとに編集して巻末注をつけたのが前の白い「
完全版」、それをさらに編集して電子化(3月15日前後発売)と対応させたものが4月1日から発売になるのが今回の「
新装完全版」、ということです。
中身は2014年に旧五月書房から発売されていたものと基本的には同じなのですが、私がこの本の最初の版を翻訳したのが2004年から2007年くらいにかけてのことなので、本文はほぼ12年前、書き換えられた最後の10章も2014年の後半なので、それも5年前に訳出した古いものとなります。
その後にも色々と翻訳を出しているので、普通の訳者だったら中身をほとんど忘れてしまっているのが通常だと思いますし、今回の発売に合わせての原稿の見直しの時も、私は中身をほとんど忘れてしまっているだろうなぁと考えていました。
ところがいざ原稿を見直してみると、その中身を全然忘れていないんですね。
理由はいくつかあります。
まずはこの本を目黒の某学校で私がいまでも「教材」として使っていることが挙げられますが(日本の国際政治系の学科のあるところでも課題図書として使われていると風のたよりに聞きます)、それ以上に重要なのは、やはりその内容が強烈だからでしょう。
この「強烈」という言葉が適切かどうかはさておき、この本を一度でも本気で読もうと取り組んだことのある方であれば、私の意見に同意してくれるはずです。
その理由は、まずこの本はがジョン・ミアシャイマーという不世出の強烈な個性を持った国際政治の理論家によって書かれている、という点です。
ただでさえ優秀なシカゴ大学の教授が、一番脂の乗り切った40代から50代にかけての学者の能力が人生で一番生産性の高い時期に、しかも10年間もかけて(家庭生活を犠牲にしながら)じっくり理論を突き詰めて書いたものだからです。
もちろん時間を書けたから良いものが書けるわけはないことは当然なのですが、ミアシャイマーの強みというのは、アメリカ人らしいそのクリアな思考と、それを明晰な文章で表現できる筆力にあり、それを高いレベルでまとめ上げる能力にあるわけで、それが本書ではいかんなく発揮されており、長くても退屈させません。
本そのものは非常に難解なものに見えるかもしれませんが(とくに第一章〜第二章)、本書で展開されている議論そのものは極めて単純で、そのエッセンスをいえば「大国は拡大傾向を持つ」ということだけです。
そしてこれを論証するために、ミアシャイマーは過去200年間の主に「列強」と呼ばれた「大国」(great powers)の行動をそれぞれ時系列で追い、その拡大的な大戦略を概観していくのです。これには戦前の帝国日本も含まれております。
当然ながらこのような議論は「単純すぎる」「国内要因を無視している」「歴史を都合よく切り取っているだけ」という批判を集めるわけですが、それらに対してもミアシャイマーは一歩もひるむことなく、自ら構築した理論の正しさを、豊富な歴史的知識とともに縦横無尽に展開していきます。
そしてそこか導き出されるのは、国際政治を動かす本質についての、リアリストの視点による冷酷なロジックです。
ということで、ミアシャイマーの主著である『大国政治の悲劇』、私が
音声で解説しているCDともども、ぜひよろしくお願いします。
