今日の横浜北部は朝から寒くて快晴です。
さて、すでにご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、とうとう孫子本が発売になりましたので、そのお知らせを。
デレク・ユアン著『
真説 孫子』(中央公論新社)
出版社の方針なのかどうかわからないのですが、ネット上にはあまり詳しい紹介的な解説がないので、訳者本人からあえてここで少し書いておきたいと思います。
まずは出版社のHPなどに載っていたものはこうなります。
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中国圏と英語圏の解釈の相違と継承の経緯を分析し、東洋思想の系譜から陰陽論との相互関連を検証、中国戦略思想の成立と発展を読み解く。気鋭の戦略思想家が世界的名著の本質に迫る。
目次
第一章 中国の戦略思想の仕組み
第二章 『孫子兵法』の始まり
第三章 孫子から老子へ:中国戦略思想の完成
第四章 孫子を読み解く
第五章 西洋における孫子の後継者たち
第六章 中国の戦略文化
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これだとかなりカタいですし、何か物足りないかと思われますので(苦笑)、やはりもう少し付け加えたいと思います。
訳者本人がいうのは気が引ける部分はあるのですが、この本はスゴいです。
何がスゴいのかというと、まず第一点は「革命的」であることです。どのように革命的かといいますと、孫子の戦略論の「世界観」を論理的に論じているところです。
この世界観をひもとくキーワードが、「タオイズム」です。
もちろん孫子は日本でも思想的に迫ったものがいくつかあったはずですが、「タオイズム」というものに焦点をあてて、ここから明快に論じているものはほとんどありません。
ではその「タオイズム」とは何かというと、古代中国の春秋時代に、主に自然観察から生まれた世界観。すべてのものは循環し、あらゆる要素が両極端に振れつつも安定し、大きな自然現象として世界を形成している、という考えです。
これをわかりやすく述べたものが「陰陽論」でして、『孫子兵法』にはこの考えが染み付いている、とするのが本書の特徴であります。
たとえば『孫子兵法』をお読みになった方はお気づきになると思いますが、本文の中にはやたらと「奇・正」「強・弱」「長・短」「遠・近」「勝・負」「有・無」「虚・実」のように、二つの概念を対比する言葉遣いが出てきます。
これらの言葉は日本の言葉の中にも定着しているために、かえってわれわれは気づきづらいわけですが、これらはまさに孫子の世界観を形成しているタオイズムから由来するものだというのです。
孫子は(戦争を含む)世界というものを理解する上で、まずあらゆる現象の極端な姿をそれぞれ意識しろ、としております。そうすることによって、世界の本質というものが理解できる、ということです。
そしてこの世界のシステムの本質を理解できたなら、いかに表面的な現象が複雑で矛盾しているように見えても、本質を知っているがゆえに相手には勝つことができる、ということなのです。
本書のベースは博士号論文をベースにしたものなので、一般の人にはやや読みづらいと感じる部分も多いでしょう。そういう意味では、有名な言葉をわかりやすく解説している第四章や、西洋の戦略家の考えと比較している第五章から読み始めるのがおススメかもしれません。
まだまだ色々と解説したいのですが、時間がないのでこの辺で。