男はなぜセクハラをしてしまうのか |
男をセクハラに駆り立てるものは何か?:人間の「業」を科学的に説明
Byウィリアム・ワン
2017年12月22日
セクハラをしたと非難される人物の数は増える一方であり、その性暴力やセクハラの詳しい内容も段々と明らかになってきている。ニュースやツィッターで報じられるその詳細などを見るにつけ、われわれはここで、一つのひどい疑問を問うべきであろう。
それは「この男性たちはなぜこのような行動をするのか」というものだ。
もちろんこのような行動のうちのいくつかは、その男性のガサツな性格や、完全な女性蔑視によるものだと片付けることもできるだろう。ところが、これらの行動のどれだけの量が、その男性自身の性格によるものであったり、彼のいる文化的な環境によるものなのだろうか?
ある男性が他の男性よりもセクハラをする可能性が高い場合、その原因は何なのだろうか?そして女性が嫌がることをしている時に、彼らの頭の中には何が起こっているのだろうか?
社会学者や心理学者たちは、近年このような疑問を解明しようと取り組んできている。そのおかげで興味深い研究成果が着々と出てきており、中には現在の状況を踏まえると、かなり「挑発的」ともいえる答えも出ている。
Q: セクハラをしがちな男性と、それ以外の男性との差をつくっている原因は何なのだろうか?
ジョン・プライヤーは過去30年以上にわたってこの疑問にとりくんできた。セクハラ研究のパイオニアの一人として、プライヤー教授は1987年に「セクハラ見込み度」(Likelihood to Sexually Harass scale)と呼ばれる、男性のセクハラ傾向を測る方法を開発しており、これがセクハラ研究の金字塔を打ち立てることになった。
彼の開発したテストは10個のシナリオで構成されている。
たとえばその一つのシナリオでは「あなたが会社の社長で、新たに女性秘書を雇う」というものがある。志望者である彼女は雇ってもらうことに必死であると説明しつつ、社長であるあなたに対して好意を持った目つきで見るのだ。
このような状況で、あなたが彼女を雇うチャンスはどれだけ上がるのだろうか?性的な見返りを求めて雇うだろうか?仕事について議論するために彼女を夕食に誘うだろうか?
イリノイ州立大学の心理学の学者であるプライヤー教授を始めとする人々は、長年にわたってこのような人工的な状況を実験室の中に設定し、このテストが人々の行動をどれほど予測できるものであるのかを研究してきた。
その結果として、セクハラをする人々の傾向として以下のような三つの特徴があることを見つけている。それは、
①共感力の欠如
②伝統的な男尊女卑の考え方を持っている
③優越感・独裁主義的な性格をもっている
である。
また、教授は電話インタビューで、セクハラをする人の周囲の環境の影響が非常に大きいことを研究者たちが発見したとも答えている。
彼によれば「テストで高い数値をもった人たちを、セクハラしても見逃されやすいセッティングの環境につれていくと、彼らは必ずセクハラをします。つまり免責状態(impunity)というものが、大きな役割を果たしているんですよ」と述べている。
Q: 権力を持った立場にいる人は、なぜハラスメントすることが多いのか?
近年増えてきた研究結果によれば、人間の認識と行動は「権力」(power)を持つことによってゆがめられてしまうことがわかってきている。
カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授であるダシェール・ケルトナーは、「多くの研究で、権力は人間を衝動的にするという結果が続々と出ています。人間は権力を持つと、社会的な習慣についての心配は減り、自分の行動が他人の目にどのように映るのかという関心そのものが減るというのです」と述べている。
たとえばケルトナー教授が行った実験では、
1,自分のことを「金持ちだ」と感じている人のほうが、車を運転している時に横断歩道で歩行者に道をゆずる確率が下がる
2,自分のことを「権力者だ」と感じている人のほうが、子供からキャンディーを取り上げることができる可能性が高い
3、実際に権力を持っている地位の高い人のほうが、自分のことに意識を集中させがちであり、他人をモノとして扱う傾向が多く、他人が自分にいかに好意を持っているのかを誇張しがちである
という。
「つまり一種の自己中心主義になる、ということですね。頭で考えていることがそのまま周囲の世界にも当てはまると考えてしまう、ということです。ハーヴェイ・ワインスタインのような人間は、”俺がこれだけムラムラしているんだから、周囲も同じようにムラムラしているはずだ”と考えてしまうんですね」とケルトナー教授は述べている。
Q:このような男性たちに「女は俺に関心がある」と勘違いさせるものは何か?
最近暴露された何人かの権力を持った男たちの中でも、とりわけ意味不明で不快な行動が「自分の裸を見せる」というものだが、これは相手の女性が自分のことを魅力的に思っているはずだし、裸さえ見せれば自分に好意をもつはずだ、という期待を持っているからだという。
そして意外なことに、これにはしっかりとした科学的な説明ができるという。
2011年に発表された画期的な研究結果では、リーダー的な立場にいる人たちが、幻の「性的なシグナル」を、実際は好意をもっていない部下から受け取ることが多いということが判明している。
ジョナサン・クンツマンとジョン・マナーの行った実験では、78人の男女を異性同士でペアにして、片方がリーダーとなり、それぞれおもちゃの「レゴ」を使って、共同でオブジェをつくるプロジェクトを実行してもらっている。
このプロジェクトが終わったあとに被験者たちは個別にインタビューされるのだが、この結果としてわかったのは、リーダー役をした人のほうが、部下役のほうはなんとも感じていないのにもかかわらず、自分の方がはるかに「性的に好意をもたれている」と感じたということだ。
実験者側が被験者たちの動きを撮影した動画を後で分析してみると、リーダー役の人の方が勘違いした行動をしており、部下の足をさわったり、目をじっとみつめたりという行為が多いことがわかったのだ。
マイアミ大学オハイオ校の心理学者であるクンツマン教授は、「権力は、このような不品行をしてしまうような精神状態をつくりあげてしまうのです。このようなロマンチックな雰囲気を過剰に感じてしまう傾向によって相手を自由にタッチしても良いという感情を生み出し、結果として不品行につながることがあるのです」と述べている。
Q:このような男性が最終的に求めているのは「性的充足」?それとも「支配的な状態」?
前述のプライヤー教授は「セクハラについてよく言われるのは、それが性的な欲求ではなく、権力の現れとして行われるものだということです」と述べている。
近年において性と権力の関係性について研究してきた心理学者たちの研究によれば「セクハラ度」の高い男性の多くにとって、この二つのアイディアは互いにからみあっていることが多いという。
同教授は「この二つは同じコインの表裏であり、あまりにも密接なために、その二つを切り離すことができないほどです。彼らがもし誰かに対して権力を持った立場になれば、その相手に対して性的な考え方を抑えることは難しくなります。しかもそれについて考えれば考えるほど払拭することができなくなってしまうのです」と述べている。
Q: ハラスメントをするのがほぼ常に男性であるのはなぜなのか?
これについては統計学的な答えが出ている。現在の社会の間違いや偏見など、その現実を踏まえて考えれば、あいかわらずリーダー的な立場にある男性の数が圧倒的だからだ(ところが最近あった事件では、女性のリーダーが男性の部下にハラスメントを行っていたとして訴えられた例が報告されている)。
また、このようなハラスメントについて、フェミニスト的な構造の解釈もある。つまり、ハラスメントというのは支配状態を誇示するための手段として使われ、女性がその手段として利用されるというものだ。
ところがイリノイ大学アーバンシャンペイン校の心理学者、ルイーズ・フィッツジェラルドによれば、行動科学では性別の違いが行動の違いに出ることが判明しているという。
同教授は「女性がそのような後ろ暗い人格をもっていないというわけではないのですが、それでも性別の研究から判明しているのは、男性のほうがアグレッシブで、セックスを求めて社会的な行動をし、その権利があると考えているという点です」と述べている。
Q: 最近の#MeTooによるセクハラ暴露運動は社会を変えるか?
セクハラが及ぼす破壊的な影響について30年間研究してきたフィッツジェラルド教授は、意外なことに、現在の社会変革を起こそうとするムーブメントの将来的な成果については悲観的である。
「私はクラレンス・トーマスの最高裁選出の公聴会の時にも、いよいよ文化が劇的に変わる時が来た、すべてが変わる!と考えておりました。ところがその20年後になっても人々はセクハラがまだ存在していたことを再発見して驚いているような状態なのですよ」と同教授は述べている。
現在注目を集めているセクハラ関連のニュースは、ハリウッドやメディアのように、主に注目を浴びやすい立場にある人々に関係したものばかりだからだ。
「このような報道があったとしても、ウォルマートや工場でセクハラを受けている女性たちの立場を変えることになるでしょうか?私は微妙だと思います」と同教授は述べる。
ところが前述のプライヤー教授によれば、#MeTooによって、セクハラやハラスメントによる社会的な不名誉の度合いが変わる可能性があるという。
「#MeTooによる暴露運動が示しているのは、このような経験がいかに頻繁に行われたのかという点です。そしてこのおかげで、今までハラスメントを受けても泣き寝入りによって隠されていた沈黙状態が、解消される可能性も出てきたのです」と同教授は述べている。
そして前述の教授たちが述べているのが、このムーブメントのもうひとつの効果が、セクハラ研究への関心を高めたことにあるという点だ。
たとえば(現在は半分リタイアした)プライヤー教授が1980年代にセクハラを研究しはじめた当時は、この研究に対する支援は少なかった。同教授は初期の多くの研究を自費でまかなわなければならず、業務以外の空き時間をつかって「セクハラ見込み度」のような研究を進めたという。
それから数十年が経過して、状況は改善したが、それでもその度合はわずかなものだという。
「現在われわれが目にしている状況は、私の経歴を考えるとすでに手遅れだけどようやく始まってくれたかという感じです。これが後に続く世代にとって分岐点になればいいんですがねぇ」
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