本の紹介:フリードマン『戦争の未来:その歴史』 |
今日の横浜北部はよく晴れまして、相変わらず真冬の気温でした。
さて、久しぶりに読んだ本の感想とメモを。
すでにツィッターや一部の講演などで紹介しておりますが、私が今年読んだ本の中でベストの一冊について書きたいと思います。
by Lawrence Freedman
原題を直訳すれば『戦争の将来:その歴史』という、ちょっとわかりづらいものになるのですが、その内容を簡単にいえば「次の戦争はこうなる!」というコンセプトで書かれた、いわば「将来戦」や「未来戦記」についての文献を、歴史的に振り返ったものです。
有名なところでは、SFライターのH・G・ウェルズの一連の作品だといえばおわかりいただけるかもしれませんが、さらにイメージしやすいところでは、80年代から90年代にかけて活躍したトム・クランシーの著作、それにややマイナーですが『第三次世界大戦』などがあるイギリス人のジョン・ハケットなどが有名どころ。
日本に関連したものだと、たとえばジョージ・フリードマン(STRATOFORの創設者)の『カミングウォー・ウイズ・ジャパン』などが具体例としてイメージしやすいでしょうか。 著者のローレンス・フリードマンといえば、日本にも数年前に来日したことのある英国の戦略研究の大御所でありまして、長年にわたるロンドン大学キングス・カレッジ教授のほか、英国政府の公式なフォークランドの戦史を編纂したり、イラク戦争におけるイギリスの介入を調査するチルコット委員会のメンバーもつとめたことのある、いわば「戦争研究の学長」的な存在であります。
主著として有名なのは、なんといっても核戦略の歴史を最も詳細に書いた『核戦略の発展』(Evolution of Nuclear Strategy)なのですが、数年前に『戦略:その歴史』(Strategy: a History)という「戦略」という概念についての歴史を振り返った分厚い本を出版して話題になりましたが、彼はこの本を書くのに20年以上かかったと来日時に申しておりました。
今回紹介する本は、もしかするとその続編的な位置づけになるのかもしれませんが、個人的にはこの「未来戦記の歴史本」のほうが、はるかに完成度の高いものだと確信しております。 本の構成は大きく三部構成になっておりまして、第一部は主に19世紀後半から冷戦終結までの「未来戦」に関する文献をまとめて振り返ったもの。
第二部は、冷戦後のテロとの戦いまでを振り返り、それまでの将来戦の予測が(冷戦の終わりによって)大きくはずれ、代わりに実際に起こった戦いが内戦につながる民族紛争や虐殺などであったという事実に、戦争の研究者たちがどのようにキャッチアップしてきたのかを中心に見ております。
最後の第三部は、「ハイブリッド戦」や「ドローン」のように、いま現在予想されている将来戦に関する主な概念を紹介しつつ、戦争の将来像をなんとなく探る、という内容になっております。
実は私はこの本が草稿段階にあるときに、その内容を何人かの人々に聞いていたので「こりゃ面白い本になるぞ・・・」と思っていたのですが、いざ完成したのをみたら期待以上の面白さでした。 では何が面白かったのか。私はいくつかこの本からほのめかされているポイントをいくつか挙げてみたいと思います。
①実際の戦争は、予測されていたシナリオよりも長期化する傾向がある
フリードマンは冒頭で1870年の普仏戦争にまず注目するわけですが、ここでプロイセン側がセダンの戦いであまりにも劇的な勝利(といっても翌年のパリ入城の際にはゲリラ戦に手こずった部分はあるわけですが)を収めてしまったために、この「戦場の決戦で戦争が決まる」というイメージが世界に広まってしまったという事実を重要視しております。
ところがその次に欧州で起こった大戦争(第一次世界大戦)では、プロイセン軍のように各国の軍が動員を迅速に進めて決戦を狙いながら塹壕戦で戦いが長期化。この事実からもわかるように、戦争は「将来戦」のシナリオで想定されていたよりもダラダラ続いたものが多い、ということを指摘しております。
とくに彼が注目したのが、英米圏で「奇襲攻撃」(サプライズ・アタック)が広く信じられてきたということであり、実際に第二次世界大戦における真珠湾攻撃などの例もあったため、それが色濃く残り、現在のサイバーの分野でも真珠湾的な大規模先制攻撃が相手に行われるのでは、というシナリオづくりに影響を与えていると述べております。
②テクノロジーによる軍事面での革命は、それほど革命的ではない
これはとくに第二部で強調されているのですが、核兵器の登場の後のいわゆる「核時代」に入って戦争の様相が劇的に変わったといわれながらも、実際に起こった戦争は相変わらずライフルや迫撃砲など、どちらかといえば前世紀から続いているような生臭い戦い。
たとえば今回のシリアでの内戦でもわかるように、AIやロボット、それにドローンなどはまだ主役たりえず、相変わらずスナイパーや手榴弾が活躍する白兵戦的な戦いが続いております。
③軍事テクノロジーも、それを使う側の政治や文化に左右される
アメリカはすでに70年代から精密誘導爆撃を目指して軍事テクノロジーを進化させてきたわけですが、それはアメリカが目指していた、重要人物だけを狙い、副次的損害(コラテラル・ダメージ)を最小限に抑える、「なるべく血を流さない戦争」、もしくは「人道的な(?)戦闘」。
ところがこれはまさにリベラルの価値観を持ったアメリカによって目指されていたものであり、おなじ精密誘導技術は、ロシアがシリアで病院を爆撃したことからもわかるように、逆に大量虐殺にも使えてしまうわけです。
つまりテクノロジーというのは、それがどう使われるのかは、やはりそれを使う側の国の戦略文化、そしてさらにはその政府が選択する政策や特定の状況下の決断によっても左右される、ということです。フリードマンはその辺の話を、豊富な例をつかって語っております。
④将来の戦いの予測は外れる
未来を予測するのはむずかしいわけですが、とりわけ戦争に関しては、その戦い方がどのように変化するのかについては、ほとんどの人々が外していることをフリードマンは論証します。
もちろん第一次世界大戦が塹壕戦になると予測した人物はおりましたし、本の中でも紹介されているわけですが、全体的にみれば正確に予測していた人は皆無。
そこでフリードマンのアドバイスはどうなるのかというと、将来の戦いについてはとにかく懐疑的で批判的な態度をとるべきだ、ということに。ただしこれはそれに備えることが無意味であるということではなくて、もちろん計画は大事。
そうなると、むしろ私はこれを踏まえて「いかに柔軟に対応できるか」という面を強化するのが最も重要なのでは、と本を読んだ後に感じました。
いずれにせよ、エピソード豊富な名著です。私は訳すヒマがないので、ぜひどなたかに訳していただければありがたいです。
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