反米ドイツに対する米保守派の反発 |
さて、最近アメリカと仲違いするような発言をしたメルケル首相率いるドイツに対して、批判的な議論がアメリカの保守派から出てきました。歴史家としても有名なヴィクター・デイヴィス=ハンソンがナショナル・レビュー誌に掲載した意見記事です。
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いつものドイツ問題
By ヴィクター・デイヴィス=ハンソン
近頃のドイツ人はアメリカ人に対してあまり友好的には見えない。最近発表されたハーヴァード大学のケネディ行政学院のグローバルメディアについての調査によれば、ドイツの98%のテレビニュース番組でトランプ大統領が否定的に描かれており、世界で最も反トランプなメディアを持っている国になっている。
ところがこのような軽蔑は、反EUの姿勢を堂々と示していたトランプが、大統領になる前から始まっていた。
2015年にピュー研究所がヨーロッパ諸国を対象として行った調査では、ドイツ人はアメリカに対して最も否定的な意識を持つ国であるという結果が出ていた。オバマ前大統領に対して好意的な見方をしていたドイツ人は、たった50%前後だけであった。
実はオバマ前大統領は先週ベルリンを訪れており、世界に対して多様性と寛容性を説いていたほどだったのだが、それでも不人気だったジョージ・W・ブッシュ時代からのドイツ人の対米観を、ほとんど変えることができなかった。
ドイツ人はNATOの同盟国であるアメリカが、国防面で自分たちを助けてくれているという事実や、巨額(650億ドル)な対米貿易黒字について、正しく理解しようとしていない。
ドイツ人は米軍が45年間にわたってドイツ全土がソ連に吸収されてしまうのを阻止していたことを、忘れてしまったようだ。ベルリン危機の際に行われた空輸は、彼らにとってまるで前近代の歴史である。
では自信をつけたドイツは、なぜアメリカを段々と嫌うようになっているのだろうか?その原因は、複雑である。
1989年以来、ドイツは東西統一後にほぼ平和的な国であるというイメージづくりに努力してきた。 彼らは他国に対していかに平和的に振る舞い、地球温暖化の防止や、世界の難民に対して国境を開くことなど、全世界の共通目標に向かって努力すべだと説いてきたのだ。
ドイツのユートピア的なメッセージの中に込められているのは、「ポスト・モダンのドイツ人は何をしてはいけないかを知っている」ということだ。これは、彼らの20世紀におけるひどい過去、つまり帝国的なドイツの侵略や、ヒトラーの第三帝国によって恒久化された、ホロコーストのような蛮行を踏まえた上でのことだ。
ところが罪の意識を持つことは、謙虚になることとは同じではない(とりわけドイツ人には謙虚になることは得意ではなかった)。
(両大戦で参戦することによってドイツを敗北に導いた)アメリカを戦争に引きずり込んだ、人種的、言語的、そして文化的に統一された「過去のドイツ」は、実は決して消え去ったわけではなかった。むしろ彼らの相手を見下すような態度は、単にアップデートされただけである。
国際金融の分野では、ドイツは重商主義的なシステムによって、実質的にEUを動かしている。ドイツは輸出市場を席巻するためにユーロを安値になるよう操作しているのだが、これは価値の高かったドイツ・マルクがある時代だったら極めて困難だったはずだ。
貧乏なヨーロッパ南部の国々が、簡単に得られる借金のおかげであまりにも多くのドイツ製品を購入して破産しても、ドイツは「ドイツ的な倹約と勤勉の必要性」を説くだけだ。これはたしかに重要なのだが、それでもうぬぼれの強い説教でしかない。
同じようなドイツの傲慢さは、欧州における最近の移民受け入れについても見て取ることができる。ベルリン政府は移民受け入れの大切さを世界に向かって発信することが多く、これによって倫理的な面での自らの優位を説くわけだが、同時に実は安い労働力をいかに輸入すべきかを追求しているのだ。
この結果の一つが、メルケル首相による戦争で破壊された中東諸国からの審査なしで受け入れた、数百万の移民たちの受け入れであり、しかも彼らはこれをジハード主義のテロリズムの懸念が高まっている時期に行っているのだ。
ところがドイツは疲弊して同化しずらい新参者たちを自国に大量に入れてしまっただけでなく、ヨーロッパの他の国々にも、彼らが望む・望まないにかかわらず、同じようにすべきであると指令したのだ。
国際関係や貿易の分野でも、ドイツの優越感は、古いタイプの不正行為につながっている。たとえばアメリカへの輸出を増やす目的で、フォルクスワーゲンは規制を逃れるため排気テストの結果をごまかそうとしていたし、ドイツ銀行は、プーチンの仲間の資金洗浄の助けをしていたことが発覚した。
また、2006年のサッカー・ワールドカップを誘致するために、ドイツ側がFIFAの関係者に賄賂を贈っていたという報道も出た。
ドイツ人は自国の寛容な社会保障制度を、猛烈な資本主義のアメリカのものと比較しながら自慢することが多い。
ところがNATOの参加国に求められている国防費を自国民にまわすことによって回避していることについては口をつぐみながら、超資本主義的なアメリカのエリートに対して高級車を売って大儲けしているのだ。
ドイツ人の傲慢さは、依存体質のヨーロッパに対しては許されるとしても、それが用心深いアメリカに対して常に通用するとは限らない。
もちろんわれわれはドイツに対して、そのすばらしい才能とエネルギーを、戦争ではなく平和に向けて使っていることには感謝すべきである。
ドイツはその巨大な経済力のおかげで、EU内における立ち場は強い。それでもアメリカは、1918年、1945年、そして1989年のどの時点においても、ドイツよりもはるかに大きな国であり、経済的にも豊かで、強力な国である。
アメリカは、気候変動や移民政策、貿易政策、そして時に必要とされる戦力の使用について、ドイツの偉そうな言葉を必ずしも聞く必要はない。アメリカは、自国と同盟国の利益にとって最適であると考えることをやるだけだ。
ドイツ人は、アメリカ人のこのような独立的な姿勢を「カーボーイ的で反抗的なもの」であると感じており、アメリカ人に対してそのような「見当違いの優位主義」が危険であることを教えることができる、と信じている。
アメリカ人はこのようなうんざりする説教を無視することが多い。そしてアメリカ人の多くは、それが過去であれ現在であれ、「ドイツが自国のことだけを考えていてくれれば、世界ははるかに平和である」と考えているのだ。
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アメリカ側の「反独」的な感情をロジカルに説明したという風にシンプルに見るのもありでしょうが、私がここで指摘したいのは、アメリカの知識人の中にアメリカの全体的な地位低下についての危機感が生まれつつあり、これがこのような記事に反映されているという点でしょうか。
つまりアリソンのいう「ツキュディデスの罠」が発動して、既存の覇権国が新興の大国(ミアシャイマー用語では潜在的覇権国)に直面して、国際システムの動揺に直面し、これによってアメリカ国内にも不満が生じた、と見ることも可能です。
そうなると台頭する中国の問題は、アメリカと欧州の関係にも影を落している、ということですね。
それにしても最後の一文にも示されている「ドイツは世界のこと考え始めると世界を不幸に導く」という考え方は、なんとも強烈な皮肉です。
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