戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man

「アジアの地中海」を中国から守れ:その1

今日の横浜北部は久しぶりに曇った朝でして、午後は雪が降るかと思うほど寒かったですね。

さて、昨日から取り組んでいた長文の論文の要約です。著者は若手の日本研究者としても有名なAEIのマイケル・オースリンです。彼はトランプ政権に入るんでしょうか?

まさかこんな古典地政学バリバリの論文を書くとは思いませんでしたが。

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アジアの地中海:戦略、地政学、そしてインド太平洋の海におけるリスク
by マイケル・オースリン

中国がパラセル諸島の中のウッディー島に最新の戦闘機と地対空ミサイルを配備したというニュースは、北京政府が南シナ海で実効支配している人工島を軍事化するのではないかという長年の懸念が正しかったことを証明した。

太平洋軍の司令官であるハリー・ハリス米海軍提督は、去年の二月に連邦議会の公聴会において中国が南シナ海を軍事化しており、この事実から目をそらすことは「地球が平らであると信じるのと同じです。私は中国が東アジアで覇権を追究していると考えております」と述べている。

アメリカ国内では、南シナ海における中国の動きにどのように対抗していけばいいのかという問題について、長い間議論が交わされている。

そのポジションについては、すでに認められている国際法を基盤とした法的な立場をとるものから、中国が主張する島や海域の周辺で米海軍の艦船の航行や航空機の上空通過を行う「航行の自由作戦」(無害通航という主張と対になっているが)を含む限定的な軍事行動を求めるものまで、さまざまなものがある。

中国が人工島を増加させ、もともと岩礁だったところを軍事施設につくりかえている間に、南シナ海では多国籍による海洋警戒活動を行う計画も議論されている。

ところが南シナ海で争われる権益だけに目を奪われてしまうと、東アジアの戦略環境についての大きな視点を失うことにもなりかねない。われわれはどうしても個別の地域の現象だけに注目しがちであり、たとえばスプラトリー諸島のことだけを分析していると、同海域にあるパラセル諸島について無視しまうことにつながるのだ。

また、オバマ政権が東シナ海における尖閣諸島をめぐる日中の衝突のリスクの高まりに集中していたのは、たった三年前のことなのだ。したがって、われわれは現状の変更を脅かすような事態が起こるたびに驚かされることになるのである。

われわれは、アジア太平洋地域全体という大きな地政戦略的概念からものごとをとらえるべきであろう。そしてそのためには、1940年代に一度だけ議論された概念を掘り出す必要があるかもしれない。

その概念とは、東アジアの「内海」(inner seas)、もしくはアジアの地中海」(the Asiatic Mediterranean)という統合された戦略空間を示すものだ。

この概念の有用性は、アメリカやその同盟国やパートナーたちが直面する地政学面での挑戦は、東アジアの公共的な海洋空間全体のコントロールをめぐる争いが高まりつつあることを明確に教えてくれる点にある。

もしこのようなアプローチが使えるのであれば、この地域に関する地政学的な考えの発展について簡潔に見ていく際に役に立つだろう。

▼地政学の理論

地政学は、ハルフォード・マッキンダーと、彼のよく引用されるが誤解されることも多い「ハートランド理論」から始まる。

マッキンダーの有名な1904年の論文である「歴史の地理的回転軸」(The geographical pivot of history)では、実は「ハートランド」というアイディアについては端的にしか議論されておらず、それは実質的にユーラシアの大草原のことを示し、ここの占有があらゆる世界帝国にとっての究極の目標であるというのだ。

マッキンダーはたしかに「ハートランドを制するものは世界を制する」と書いたのかもしれないが、本当に重要なのは、ハートランドの守りとアクセスを与える「リムランド」をめぐる争いを想定していたという点だ。

リムランドにはユーラシア大陸における「ヨーロッパ半島」とアジアの沿岸地域、そして中東などが含まれる。ウェス・ミッチェルとヤクブ・グリギエルが最近出した本の中でわれわれに示したように、プーチン率いるロシアと、中国が今日獲得しようとしているのは、リムランドであるように見えるのだ。

マッキンダーが最初に議論をしてから40年後の第二次世界大戦の絶頂期に、イエール大学の地政学的な思想家であるニコラス・ジョン・スパイクマン(Nicholas John Spykman)は、このマッキンダーのリムランドの考えを復活させ、20世紀のそれまでの大国間戦争の状況も加味した上で修正した。

死後の1944年に出版された『平和の地政学』(The Geography of the Peace)の中で、スパイクマンは世界覇権のための本当の争いはリムランド内で起こっているという考えを示している。

さらに重要なのは、彼がリムランドと島国家の沖合に接する「外周の半円弧」に接している「周辺海」、もしくは「内海」のコントロールの獲得がリムランドの支配の前提になると議論したことだ。

したがってスパイクマンによれば、世界大国にとって最も重要な水路は、ヨーロッパにおいては北海と地中海、中東ではペルシャ湾とインド洋西側の沿岸水域、そしてアジアでは東シナ海、南シナ海、そして黄海だというのだ。

スパイクマンの議論は、アルフレッド・セイヤー・マハンの「外洋のコントロールが海洋国家の最も偉大なゴールである」という主張に、新たな展開を加えたのである。

マハンのように広大な世界中の海洋ハイウェイに注目させる代わりに、スパイクマンは世界の人口の大多数が住み、生産力が最も集中し、貿易が最も活発に行われている地域に注目したのである。

1943年にフォーリン・アフェアーズ誌で発表した「球体世界と平和の獲得」(The Round World and the Winning of the Peace)という論文の中で、マッキンダー自身はすでに最初に示した立場を修正している。スパイクマンと同様に、マッキンダーはリムランドや「周辺海」の重要性を強調したのだ。

実際のところ、第二次世界大戦では、「大西洋の戦い」や「珊瑚海海戦」、そして「ミッドウェイの戦い」を除けば、そのほとんどがヨーロッパとアジアの「内海」で行われたのである。

もちろん「内海のコントロール」というのは、とりたてて新しい軍事的概念というわけではない

これはイギリス海軍が英仏海峡やフランス沿岸の水域でナポレオン側の艦船に対して行っていた十年以上にわたる戦いや、大日本帝国の海軍が中・露の艦隊の黄海におけるプレゼンスを減少させようとして1894年と1904年に戦い、それによって朝鮮半島と中国本土へアクセスを得たことの理由を説明してくれるものだ。

この二つの例がさらに示しているのは、内海のコントロール争いは、リムランドをめぐる、より大規模な争いの最初のステップであり、この海洋面での競争は陸での動きが始まったり、陸軍同士が決着をつける数年前から始まって続くことが多いということだ。

スパイクマンが自らの理論に当時最新の戦いを取り入れようとしたのは、空の領域であった。制空権の確立が軍事的に達成可能になったのは第二次大戦中からであり、バトル・オブ・ブリテンという激しい空中戦は、内海争いが空域に広がった一つの例だ。

実際のところ、1940年代の航空機は、技術面でまだ限界があったため、空中戦はそのほとんどが沿岸部やリムランドの地域に限定されていた。

ところがそこで目指される目標はいまでも変わっていない。それはリムランドへのアクセスを与えてくれる、海洋・空域のコントロールなのだ。

第二次世界大戦は、外洋・内海の制海権が戦略的に必須となった、最後の大戦争だ。そして第二次世界大戦後は、ソ連のブロックを除いて、アメリカが全世界の海洋やほとんどの空域を支配してきた。

ところが新たな時代には新たな地政学的概念が必要となり、結果的にスパイクマンの理論はサミュエル・ハンチントンによって修正された。それまでのユーラシアをめぐる争いはユーラシアの主要国同士の中で行われたのだが、いまや世界の軍事力のバランスは、別の半球に存在する国家に握られることになった。

つまり、地政学的コントロールの維持というアイディアは伝統的なモデルには当てはまらない可能性が出てきたのだ。

これに関して、ハンチントンは1954年に米海軍研究所の発行する「プロシーディングス」の中で発表した有名な論文の中で、一つの答えを出している。

「国家政策と大洋横断海軍」(National Policy and the Transoceanic Navy)という論文の中で、ハンチントンは米海軍の戦略を要約しつつ、現代においては米海軍のパワーは大洋横断的な範囲で投射されるのだが、その目的は変わっていないと主張している。

ハンチントンは第二次世界大戦後の海軍力が、リムランドにおける陸上での争いにだけ使えるものであると予見している(そしてこれは米空軍についても全く同じ主張を行うことができる)。

ハンチントンの議論は1950年のマッカーサーの仁川上陸作戦や、北ベトナムに対する空母を使ったアメリカの航空作戦、そして1991年の湾岸戦争における航空・着上陸作戦、そしてその10数年後のイラク戦争などの理由についても説明できるのだ。

つまり海軍力はもう制海権の獲得のためには使われなくなったのだが、その理由は、ソ連との潜水艦との競争という分野を除けば、やはりアメリカが海で圧倒的な力を獲得したからである。

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長いのでつづきは次のエントリーで。

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by masa_the_man | 2017-01-20 19:59 | 日記 | Comments(0)