極左はなぜプーチンが好きなのか |
さて、今週の放送(https://goo.gl/E2KY9x)で取り上げる予定の、興味深い意見記事の要約です。
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極左の奇妙なプーチンへのシンパシー
by ゲルショム・ゴレンバーグ
ジェレミー・コービンといえば、頑固で論争の的となる人物であり、最近イギリスの労働党党首として再選されたばかりだが、彼はロンドンにあるロシア大使館の前でシリアでの空爆に反対するために抗議するという考えを拒否している。コービンの側近によれば「ロシアやシリア軍の残虐行為に注目」してしまうと、「アメリカ主導の空爆がもたらした大規模な民間人犠牲者」から目をそらすことになってしまうというのだ。
これがわかりにくいとお感じになる人もいるかもしれないので、コービンが労働党の党首に選出されるまで議長を務めていたイギリスの「停戦同盟」(Stop the War coalition)について考えてみよう。
この同盟の現在の副代表であるクリス・ナインハム(Chris Nineham)はあるラジオ番組のインタビューで、ロシアの残虐行為に対して抗議することは「ヒステリアと愛国狂信主義」を増加することになり、シリアでの紛争を終わらすための唯一の方法は「西側に対して反対すること」だと答えている。
これを言い換えれば「われわれが戦争反対を唱えても、それはプーチンの戦争に対する反対ではない」ということだ。西側の帝国主義者による戦争に反対、ということなのだ。
この意味を考えてみよう。イギリスだけでなく世界中のロシア大使館の外で抗議するというアイディアは、労働党の議員であるアン・クライド(Ann Clwyd)が提唱したとされている。そして外相であるボリス・ジョンソン(Boris Johnson)がその提案を支持したことも本当だ。ところがジョンソンが反対したからロシアの戦争犯罪を無視することにしたというのは、共和党の何人かが反対したからトランプ候補の女性蔑視を無視するというのと似ている。
ロシアの行動と同盟国側の行動を比較するために、英ガーディアン紙は「エアーウォーズ」という監視団体と共に事実関係をチェックしている。それによると、ロシアの攻撃による民間人の死傷率はその団体の代表者によれば「同盟国と比べて8倍も多い」という。つまり同盟国側は民間人の死傷者を出さないようにしているのだが、ロシア側はわざと民間人を狙っているということなのだ。
そして予想通り、分裂した労働党の中の多くの人々は、コービンの態度に激怒している。これはコービンの古臭くて一面的な「反帝国主義」の態度が左派の恥になっている直近の例である。それに対してアメリカでは、最も目立ったプーチンのファン(トランプ)が、右派にとっての最大の恥となっているのだ。
ところがアメリカの左派の中にもコービンのような存在がいる。それが「緑の党」の党首であるジル・ステイン(Jill Stein)だ。ほんの数日前まで彼女は、自身のウェブサイトに「アメリカはシリアでのいかなる軍事介入も終わらせるべきであり、武器通商禁止を課して、シリア、ロシア、そしてイランと協力してシリア全土をその政府下の統治へと回復させるべきである」という宣言文を載せていた。言い換えれば、この「反戦」候補の立場というのは、アサド政権とその配下たちが勝利するまで戦争犯罪を続けさせよということなのだ。
私が知る限り、ステインのポジションに最初に気づいてツィートしたのはジャーナリストのパトリック・ストリックランド(Patrick Strickland )である。
短期的ではあったがこの件についてソーシャル・メディアで炎上し、スティンの言葉はウェブサイトから削除された。代わりに掲載されたのは「それはステインの考えを反映したものではない」という一文であり、「アメリカの中東への干渉」に反対するという修正された言葉であった。
おそらく物分りのいいステインは、アレッポの反政府軍が占拠している地域で民間人を意図的に狙った空爆が行われている最中にプーチンやアサドと協力することを語るのはイメージ的によくないと判断したのであろう。ところが最初に掲載した文章が彼女の真意を反映していないというのはかなり怪しい。
その理由は二つある。一つは、修正された文言もアメリカだけを批判したものだからだ。そしてもう一つは、最初の文章は彼女のサイトに掲載されていた去年の12月のモスクワでの会合についての報告と当てはまるからだ。ちなみにその会合とは、ロシア政府のプロパガンダ機関であるRTが主催した外交フォーラムのことである。
彼女はそこでロシアとシリアとの「原則に則った協力」を提唱しており、プーチンが彼女をはじめとするその場にいた外国の政治家たちと「多くの問題について」意見が一致したと述べていたことを誇らしげに書き込んでいるのだ。
このモスクワでの会議に出席していた政治家の中には、元ロンドン市長でコービンとも近い関係にあり、その数ヶ月後に「ヒトラーは権力を握った時にシオニスト運動を支援していた」という反ユダヤ発言で労働党から数ヶ月資格停止となったケン・リビングストンである。
さらにこの会議のもう一人のゲストには米国人ジャーナリストのマックス・ブルーメンタール(Max Blumenthal)がいた。彼は先週、シリアの民兵である「ホワイト・ヘルメッツ」(White Helmets)についての記事を発表したが、ここでそのメンバーが政権の空爆後の瓦礫から救い出された話を書いている。「ホワイト・ヘルメッツ」は去年暗殺された英国議員ジョー・コックス(Jo Cox)によってノーベル平和賞に推薦されている(ちなみにコックスの夫は今週コービンの態度を「恥ずべきものだ」と痛烈に批難している)。
このブルーメンタールの記事ではこのグループのことを、非情なアメリカがアサド政権を転覆するために使っている「ツール」として描いている。
自身はイスラエルの政策により融和的なポール・シャム(Paul Scham)によれば、ブルーメンタールは前にイスラエルについての報道において「シオニズムは・・・ほぼ究極の悪」として扱っているとブルーメンタールの本(Goliath)の書評の中で書いている。ところがブルーメンタールのアラブ人への命と人権についての懸念は、アサド政権をアメリカの覇権の敵対者として描く際に消え去ってしまっているようにみえる。
オバマ大統領の対シリア政策が批判されるとすれば、それはやりすぎたからではなく、むしろ人道的な犯罪を止めずに看過していたところにあるといえる。ただしここで注意しておきたいのは、対シリア政策として何をすれば、そしてこれから何をすれば良いのかについて私は判断しかねるということだ。
米国による介入の拡大を主張する人々の中には、米軍や大統領の力を過信している者がいるように思える。米軍の力への過信はブッシュ大統領のイラク侵攻で崩れ去った。そして民主制度では不必要な戦争を戦うと国民からの軍への政治面での支持が、本当に必要とされる時に下がってしまうことになるのだ。
ところがアメリカはあまりにも長期にわたって外交に頼り切ってしまったために、プーチンとアサドに行動の自由を与えてしまった。そしてシリア全土の治安回復には血塗られた内戦が待ち受けている状態になってしまったのだ。
プーチンの極左側の応援団は、まだ冷戦時代に生きていると勘違いしており、世界は西側の帝国主義とその敵で構成されており、モスクワを自分たちの味方としてとらえている。これは非常にゆがんだ世界観だ。奇妙なことに、これは数十年前の過去の生活と、歴史観の欠如の混同によって構成されている。
ロシアの帝国主義的な目標である「オスマン帝国の領土だった場所への権力の拡大」というのは1907年に始められたのだが、イデオロギーの衣をまとってソ連時代、そして現在までも継続されている。シリアでの足場を維持するため、ロシアはその国の残りのすべてを破壊するつもりである。
去年のその会議のもう一人の講演者の一人が、トランプ候補の選挙戦の代理人となったマイケル・フリン(Michael Flynn)元将軍である。これこそが皮肉の極地である。なぜなら極左の人間たちが、トランプと彼のプーチンの独裁的な政権の信奉者たちと一緒に舞台に並んだからだ。つまり極端主義者たちは「使えるアホ」として集合したということだ。
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なかなか手厳しいですね。
ひとつここで注意しておいていただきたいのは、これがアメリカの「リベラル」の立場から書かれたものであるということです。そして日本の場合とは違って、彼らリベラルたちは「人道のためならある程度武力行使は賛成」という立場にあるということです。
これがさらに極端化すると、イラク戦争を主導したネオコンになるわけですが・・・
それにしても、この記事で指摘されているような政治構造というのは、実際のところ、世界中のどの国でも見られるものですよね。
これについて詳しくは火曜夜の放送で。

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