戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ロシアの砲兵に見習うべきだ

今日の横浜北部は朝から雨でしたが、昼過ぎから晴れてきました。

さて、少し前の記事ですが、ロシアの兵力に関して元米陸軍士官として戦略論の世界でも有名なロバート・スケールズが興味深い論考をワシントン・ポストに寄せておりましたので、その要約を。

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ロシアの優れた新兵器?
By ロバート・スケールズ

去年の11月のことだが、私は欧州米陸軍の司令部を訪れた時にウクライナに展開しているロシア軍の活動状況についてのブリーフィングを受けた。若い情報官が2014年7月にゼレノピリャの戦闘の詳細についてやる気なさそうに暗唱している中で、私はロシアのたった一度の砲撃によってウクライナの2個装甲大隊が数分のうちにほぼ壊滅状態に陥ったと聞いた

当然ながら、私はもしアメリカの装甲大隊が同じような砲撃を受けたらどうなるかを想像した。そこで私が気づいたのは、ウクライナの例はロシアにとって、火力を集中的に使用した戦闘で戦った場合にはどのようになるのかを示すための絶好のチャンスだったということだ。私はその瞬間に「これは冷戦以降にはじめてアメリカの戦闘機能が外国に抜かれた初めての例だ」とつぶやいていた。

この時の気づきは、アメリカの陸上戦にとって火砲の力はほぼ百年間にわたってその戦闘力の中心的な存在であったことを考えれば、衝撃的なことであった。

たとえば、ノルマンディー上陸作戦の時のアメリカの装甲部隊や歩兵に対するドイツ側の評価は低かったが、砲兵のことは恐れていた。ドイツは部隊の垣根を超えて火力を集中させることはできなかったが、アメリカ側は「同時弾着射撃」(time on target)という発明のおかげで、一つの目標に対して砲撃を同時に集中させることができるようになっており、ドイツ側にとってはこの効果は破壊的なものであった。

湾岸戦争でイラク軍が最も恐れたのは彼らが「鋼鉄の雨」と呼ぶものであった。この「雨」は砲弾やロケットに積まれる何千発もの小さな懐中電灯サイズの子弾(bomblets)によって構成されているものだ。MLRSと一緒に運用される対砲兵レーダーは、フセインご自慢の砲兵を終日つづく集中砲火で制圧し、米軍側にとっては全く脅威ではなくなったのだ。

ウクライナでの戦闘は、もしアメリカの砲兵がもしロシアと戦うことになったらどうなるかを教える決定的な例だ。ロシアの新しい火砲システムは、われわれのそれの射程を3割以上も上回っている

彼らの「鋼鉄の雨」のシステムは、新型の「サーモバリック爆薬」が詰められた「子弾」の開発によって、われわれのものよりも優れたものとなっている。これらの爆弾は、爆発の際に強烈なガスの爆風を発生させ、通常の爆薬よりもはるかに致死性が高められている。もしロシアが重装ロケット発射システムの大隊がサーモバリック製の「鋼鉄の雨」を一度集中的に使用するだけで、約1.4キロメートル四方(350エーカー)にあるものをすべて破壊できることになる。

情けないが、アメリカの「鋼鉄の雨」の弾薬、つまり砲弾や弾頭は、「ポリティカル・コレクトネス」という神に捧げる生贄として、現政権と前政権によって意図的に破壊されている。彼らは「子弾」が含まれるあらゆる兵器の使用の中止に合意したが、これは(鋼鉄の雨を持たない)他国が、その種の兵器(クラスターなど)があまりに多くの不発弾を生み出して戦場に残り、民間人にリスクを与えることになるという理由からだ。

ロシア、中国、そしてイスラエルは、本物の戦争を戦わなければならないと考え、クラスター爆弾禁止条約にはサインしていない。その結果、ロシアの重装ロケット発射システム大隊は、高爆発型の通常弾を発射するアメリカのMLRSの大隊よりも5倍以上広範囲の致死区域を発生させることができるようになってしまったのだ。

ウクライナにおけるロシアの砲兵の活躍が強く示したのは、過去20年間においてロシアはテクノロジー面においてアメリカを飛び越していったということだ。ネバダ州の基地からテロリストを撃ち殺すことができるアメリカの「戦略」無人機は、たしかにロシアのものよりもはるかに進んでいる。

ところがロシアの「戦術」無人機は、砲兵を捕捉するという意味ではわれわれのものよりもはるかに進んでいると同時に、その数もはるかに多い。たとえば2014年の「デバルツェボの戦い」の初期に、ウクライナは最大8機以上のロシアの戦術無人機が上空を飛んでいたことを報告している。

さらに加えて、ロシアがウクライナで示した電子戦技術は、米国をはるかにしのぐ世界最高のものだ。240日間にわたるドネツク空港の包囲戦ではロシアはGPSや無線、レーダー通信に対する妨害を行うことができた。彼らの電子傍受能力はあまりにも高く、ウクライナ側の通信は麻痺させられた。ウクライナ軍の指揮官は、電波通信を発するとその数秒後に処罰的な集中砲火を浴びせられることになると不満を述べていた。

これはつまり、ロシア軍が米軍よりも優れていることを意味するのだろうか?もちろん答えはノーだ。もし米軍がロシア軍と今日戦うことになれば勝利することができるだろう。米軍は極めて高い練度の50万人の兵士によって構成されているからだ。

それに対してプーチンの80万人の兵士のうちの3分の2は、1年間だけの徴兵による兵士であり、彼らの戦闘能力には疑問符がつけられている。ロシア空軍も米軍には勝ち目がない。ところがウクライナの経験からわかるのは、もし紛争が起こるとすれば、米軍側の人的コストも高くなるということだ。

過去には最も強力であった米軍の戦闘能力の低下は、われわれに注意を促しているエピソードとしてとらえられるべきだ。在欧米軍の戦闘力の低下はタイミングの悪い時期に発生している。

たとえば共和党の大統領候補であるドナルド・トランプはヨーロッパを守ることの価値について公式に疑問を呈しているし、オバマ政権はアジアの海で大規模かつハイテクな戦いをするために数百億ドルもの防衛費を費やしている。

ところが今日の戦争では、小火器、地雷、そして大砲のような退屈な兵器がわれわれの兵士を殺しているのだ。このような事実に加えて、われわれは過去においては戦場で圧倒的であった戦闘力を犠牲にしている。これによって、われわれの善意がどれほどの致命的な結果につながるのかは容易に想像できるだろう。

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一言でいえば、「非人道兵器を復活させよ」ということになるかもしれませんが、ロシアに対する米軍側の警戒感の強さがよくあらわれているかと。

武器調達においてはけっこうよく聞く話ですが、実際に部隊が必要としているは、最新型の大きなプラットフォームよりも、細かい備品や装備、それに武器弾薬の充実だったりするわけで、スケールズの提案もまさにそのような事情をアピールしているともいえます。

ちなみにスケールズはランドパワーの戦略理論の人物としてこの本で有名になりました。ご参考まで。

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by masa_the_man | 2016-10-08 14:50 | 日記 | Comments(0)