戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28

イギリスの左派がヘイトスピーチに走る理由

今日の横浜北部は快晴でした。夕方になってけっこう気温が下がったような気がしました。

さて、久々にブログを更新です。

パナマ文書の内容が一部公開されたり、オバマ大統領の広島訪問が決定したりと、国際的なニュースにおいては気になる話題が多いですが、今回は前回の放送(http://ch.nicovideo.jp/strategy2/live)でも触れた、イギリスの左派のユダヤ問題について少し。

この話の元ネタは、ニューヨーク・タイムズ紙のコラム欄に掲載された意見記事なのですが、そこで紹介されていた意見が、戦略論的にもなかなか考えさせてくれる内容だったので放送でもとりあげたというわけです。

すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、つい先日行われたイギリスの市長選で、欧州の主要都市としては初の、イスラム系の市長(サディク・カーン氏)が誕生しました。

これは極めて画期的なことであり、国際的にも大きな話題になったところは記憶に新しいところですが、一般的には移民によって変わりつつあるイギリス社会の姿を象徴した出来事という見方や、イギリスという国のリベラル的な寛容性を示したものとして紹介されておりました。

ところがその一方で、放送でもとりあげたニューヨーク・タイムズの意見記事では、イギリスの左派を代表する労働党の中に、深刻な反ユダヤ主義(anti-semitism)が広がっている実態が紹介されております。

「え?左派って人種差別には厳しいんじゃなかったっけ?」

とお感じになった方もいらっしゃるかもしれませんが、それは実は正しい感覚です。

というのも、伝統的に「左派」というのは、人権のような「普遍的価値」(universal value)や「平等主義」(egalitalianism)を目指す、リベラルで寛容さを主張する考えを持つ人々のことを指すわけです。

彼らの「敵」は、特権階級のもたらす不平等や不公平であり、だからこそ一般的な労働者の立場にたって、人種差別のないリベラルな社会を政策で実現していこうと考えるわけです。

イギリスの労働党というのは、まさにこのような思想に立って活動をしている二大政党の一つであるわけですが、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムで紹介されていたのは、この労働党の実力者たちの間に最近「反ユダヤ主義」的な失言があったということ。

具体的には、イングランド北部のブラッドフォード地区選出のナシーム・シャー労働党所属議員の「イスラエルを国ごとアメリカに移してしまえ」という失言や、ケン・リヴィングストン前ロンドン市長が「ヒトラーは30年代までユダヤ人国家建設を目指すシオニスト運動を支援していた」という誤った歴史認識を披露したというものです。

「左派って、ナチスがやったような反ユダヤ主義には厳しいはずじゃ・・・」

という感想はまさにその通りでして、左派のリベラルというのは、本来このような人種差別を、「人権」や「平等」という概念を掲げながら徹底的に攻撃する役割を持っていたのです。

ところが最近、このような状況に異変が起こりました。

そしてその異変の原因は、労働党を始めとする左派のリベラルが進めてきた寛容(であったはずの)の移民政策にあります。

何度もいいますが、左派のリベラルの信奉する概念は、人権や平等、そして寛容な精神。

ところがその精神を拡大して、自分の国に移民を受け容れ、しかも寛容に扱っていたら、撲滅すべき「反ユダヤ主義」という人種差別が復活してしまったということなのです。

もちろんその原因は、リベラルの人々が同時に推し進めていた「多文化主義」という政策。

これは確かに「他の文化も認める」という意味で「寛容さ」を拡大したものとなるわけですが、イギリス(というか西欧全般)の場合、多数のイスラム系の移民が入り、彼らの文化にも寛容になった結果、彼らの(ごく一部でしょうが)過激な思想も野放しになってしまった、ということなのです。

その一つが、本来の左派のリベラルが忌み嫌っている「反ユダヤ主義」のような人種差別的思想。

イスラム系の人々は、パレスチナ難民に同情する反イスラエルの人々が多いので、必然的に彼らの反ユダヤ主義が、逆にリベラルな西洋の国家の中で野放しにされて拡大してしまった、ということなのです。

これはまさにルトワックの戦略論の核心にある「逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)に近いものです。

どういうことかというと、リベラルの人々は「寛容さ」を目指すがゆえに、「非寛容」な思想を持った人々を受け容れざるを得なくなってしまったということなのです。

もちろん目指していることが正反対の結果をもたらすことはよくありますが、イギリスの「反ユダヤ主義の撲滅を目指していたら、かえって反ユダヤ主義が蔓延してしまった」というのは、なんとも皮肉な現象であります。

今回ご紹介した例はかなり極端な例と言えるのかもしれませんが、これは何も国際政治や国内政治だけでなく、われわれ個人のレベルにも当てはまることではないでしょうか?

人間の生活には多かれ少なかれ、このような皮肉な結果をもたらす「逆説的論理」が働いていると想定してみれば、われわれが「表向きの短期的な問題の解決」ではなく、本質的なところまで見据えた「根本的な問題解決の方法」を考える際の、大きなヒントになるのではないでしょうか?
b0015356_2345984.jpg
(駅前の風景)



▼~あなたは本当の「孫子」を知らない~
奥山真司の『真説 孫子解読』CD
奥山真司の『真説 孫子解読』


▼~これまでのクラウゼヴィッツ解説本はすべて処分して結構です。~
奥山真司の現代のクラウゼビッツ『戦争論』講座CD
奥山真司の現代のクラウゼビッツ『戦争論』講座

▼奴隷の人生からの脱却のために
戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!戦略の階層を徹底解説するCD

奥山真司の地政学講座
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/geopolitics.html
奥山真司の地政学講座 全10回

奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy2/live
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



Commented by 待兼右大臣 at 2016-05-16 01:42 x
サミットを控え
"overwrite my whole life"が
「オバマが到来」と聞こえると極一部で話題のようですが
(現在東京MXで再放送中)
この問題は、昔から

自分自身の存在意義を否定するような言説も「自由」の
名の下に受け入れなければならないのか

という問題で、語られてきたような気がします。
「戦う民主主義」で有名なドイツ基本法はそういう「自由」
を否定していますが、現在でもそれなりの難問でしょう。

現在では、そういう「自由」と「ポリティカル・
コレクトネス(PC)」があいまって、
「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー」という存在
も発生しているようです。

そのような事態に否応なくさらされるのが、
社会階層で言えば「中の下」あたりになろうかと思います
そのような層は、本来、左派の支持基盤として想定できる
ことから、英国では「左派の暴発」的なものとして
見られるのではないでしょうか。

しかし、「エスタブリッシュ」は、そのような外来勢力
の脅威に晒されることなく「リベラルしぐさ」により、
その脅威に晒されている(本来「救うべき」対象である)
彼らの意見表明を「PC」により、封じ込めているという
現状でしょう。

そのような経緯で「反移民」や「反リベラル」になった
人々には、「労働者階級」であるがゆえに「左派」で
あった者もいたでしょうし、もともとノンポリだった者は
「極右」へ流れることになったのでしょう。

わが国でも「ネトウヨ」は低所得で社会的満足度が低いと
言われることが、ありますが、そのような人々こそ、
本来、「左派」が手を差し伸べ、支持者とすべき人々
だったはずです。

それやこれやで、欧州で「No turn left(左派お断り」
と言うようなドキュメント番組が制作されるように
なりました(NHKのBSでも放映されました)

そういう意味で、「文明の衝突」あるいは「文明の対話」
と言うような流れは、右派よりも左派にとって厳しい状況
なのかもしれません
Commented by 中山太郎 at 2016-05-17 13:09 x

私は、中国に10年以上滞在しておりました、中国人の幼稚な意地悪ぶりには、駐在者は悩まされるのですが、例えば70年代は、運転手、女中、コック皆、当局からの派遣です。(素人は、全部自分でやれ、贅沢だというでしょうが、彼らがいないと、市場で物も買えないのです。)ある日、商談であまりの馬鹿げた相手の要求に怒り心頭で、捨て台詞で帰宅しました。女房が、青い顔をして、今、当局の人間が来て、雇人を全部引き連れて行ってしまった、というのです、その日は、各国の在留の方々を招いての宴をあと1時間後に行う予定でした。こうした嫌がらせをするのです。私の友人の商社マンは、借りていた住宅を今すぐ引き払えと冷蔵庫の電源を抜かれ、乳飲み子のためのミルクなどが腐り、死ぬ思いをしたそうです。日本の安全地帯で、「中国の悪口を言う」それが、どう波及するか、想像だにしない、(イマジネーションがつくれない)、戦前の勇ましい方々(たいて部外者たちですが。真の軍人は、絶対に、大言壮語はしません。いざ戦闘で、そうした誠実な方から先に亡くなっていくのです。)日本での発言で、現地の学校へ通う、日本の子供たちが、ぶん殴られたりするのです。左については、言わずもがな、村山さんという方は、訪中で、中国におべっかを言うつもりで、「歴史に向き合いーーー」と揮毫、悲しいかな「歴史」という漢字が、間違っていました。(もちろん、後からこっそり、変えましたが)、あまりの知能程度の低さに各国の首脳から馬鹿にされ、大阪でのAPEC会合には、米のクリントンは早々欠席を表明、カナダのクリッシェ首相も欠席表明、米には、たてつけないので、カナダに、「変な奴だ」と、ぶら下がり記者会見で漏らす。ところが、クリッシェ首相の場合は、大変な理由がありました。直前の世論調査で、ケベック州独立が、半分近くまで盛り上がっていたのです。日本でいったら、関西地区が独立するかどうかでした。友人の、ケベックのラバール大学にいて、(同首相の出身校)ゆったり過ごしていた日本人学者は、「日本の政治家は、冷酷だ。思いやりがない。」と長いこと、叩かれたそうです。
Commented by 大阪人K at 2016-05-19 00:13 x
個人的な思い出話(殆ど愚痴)になりますが、以前に”リベラル”で”多様性”が大好きな社長に

「おまえの考えにはハートがない。もっとハートとか感謝とかありがとうがないのか!!」

と怒られたことがあります。(それもかなり怒りようでした。)
まあ、そのときに私が発言した内容がビジネスの教科書(ドラッカー風)な発言をしたためだったのですが、流石あの怒りようには呆然してしまいました。

無難な意見でも、社長の中にある「あるべき多様性」に沿わないと怒られるという、「それって多様性なの?」という心境になったことを未だに思ったりします。(あのとき、教科書的な意見でなく、本音のリアリズムな意見を言ったら、社長が怒りの余り卒倒したかも・・・)

リベラルや多様性を賛美する人は、言語化していない理想像が強固にあり、それから外れる又は対決する思想を受け入れないという不寛容さが露わになる。だったら、最初からリベラルや多様性を賛美しなければ良いのにと思ったりします。(傍から見て、実に見苦しい。)

結局、深く考えないで賛美するのは、自分が正義を体現していることに酔いたいでしょう。そして正義に酔っぱらっているため、攻撃的な態度を取る。(酒で酔っぱらって暴れるが如く。)

こうしたやり取りで私が学んだことは
「きれいごという人ほど危険」
であることを肌身で感じたことでしょうか・・・
Commented at 2016-05-25 20:54
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by masa_the_man | 2016-05-14 22:11 | 日記 | Comments(4)