戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ルトワック著『中国4.0』の制作秘話

今日の横浜北部は曇りがちでしたが、昼間は少し晴れて完全に春の陽気でした。

さて、久しぶりに記事の要約ではなく、私自身の体験記のようなものを少し書かせていただきたいと思います。

すでにご存知かもしれませんが、私が編訳したエドワード・ルトワック著『中国4.0』がネットで見る限りでは爆発的に売れているようで、本当にありがたい限りです。

すでに色々と感想などもネットに上げていただいておりまして、皆さんに楽しんでいただけているようで、制作に関わった人間としてはとっても嬉しいことです。

そのような中で、今回はここで特別に、ルトワックとこの本をつくるに至った経緯や、そのプロセスにおけるこぼれ話について少し書きます。

〜〜〜

まずこの話が始まったのは、ルトワックが日本に3週間ほど滞在していた去年(2015年)の10月のこと。コリン・グレイの下でドクターをとったことから『自滅する中国』の監訳のご縁をいただきまして、そこから何度かメールのやりとりをしていわけですが、前回の来日の少し前からルトワック自身に、

「そろそろ日本に行くから会おうぜ」

という打診を受けておりました。そしてなぜか同時に「暇があったら温泉連れて行ってやる」という謎の話も。

いよいよ来日して次の日にルトワック本人と一時間ほど滞在先の都内のホテルのロビーで話をするということになったわけですが、久しぶりに会って開口一番何をいうかというと、

本にするいいアイディアが浮かんだ。お前が翻訳して本にしてくれないか?

突然のムチャ振り。しかもその数日後には伊豆の伊東の温泉にいくので、そこでインタビューを行って本を完成させようなどと、かなり無理なスケジュールを言ってきたのです。

一瞬たじろいだのですが、ここは私の数少ない編集者つながりから文春の編集者に話をつなぎ、おそらく数回のインタビューだけでは単行本にはならないので短めの新書にしよう、という話になり、なんとか企画も通って実行決定ということになったのです。

その翌週に、私は彼とは別行程(私は修善寺からわざわざレンタカー、彼は三島からレンタカー)で現地集合して、一泊二日で伊東の温泉に泊まることになりました。

現地の温泉宿は「日本の温泉評論家」との異名をとるルトワックによるチョイスだったのですが、無名ながらもかなりのマニア度の高い、離れ部屋だらけのかけ流しの温泉旅館。私は彼のすぐ隣の小さ目の部屋を予約して、準備万端。

現地には1600頃ついて、さっそくルトワックだけ温泉につかり、私が風呂の外でICレコーダーを2台使ってインタビューを開始。すでに話す内容は決まっていたようで、『中国1.0』の第一章のほとんどは、お湯につかりながら収録した1時間ほどで修正なしでほぼ採用ということになりました。

しかも第一章の「祇園精舎の鐘の声」の部分は、ルトワック自身のたっての希望で挿入。彼は『平家物語』が好きなようです。

2回目のインタビューは、温泉から上がって1800に食事になるまでの30分ちょっとで完成。さらにその後に地魚の料理を堪能した後の、寝る前の1時間40分ほどを、第三回目の収録としました。これで第二章のほとんどと、第五章の一部が完成しました。

ただし計算してみると、やはり本にするには時間が足りないということになり、急遽予定を変更して、翌日に帰京する前にどこかでメシを食いながら録音しよう、ということになりました。

昼前からそれぞれ車を運転して修善寺に行き、そこから電車で三島駅まで出て、駅の近くの居酒屋(たしかここ)でサラダやラーメンなどの遅い昼飯を食べながら、さらに1時間45分ほど収録。

これで四回目となりましたが、中身は第三章の「G2論」のものが中心だった記憶があります。テレビでは北海道に台風上陸というニュースがやっていたような。

その後はルトワック自身も忙しかったため、翌週とその次の週に、五回目が35分、六回目が90分という形でそれぞれインタビューを行いました。この時の内容は、主に第四章と第五章に反映されています。

個人的に最も強烈だったのは、五回目となる本論とは関係のない話を収録した時。

すでに本にも書きましたが、ルトワックは英国で5年間の軍歴を持っておりまして、そこから皮切りに、イスラエルでは第三次中東戦争で戦ったほか、世界各国の特殊部隊のアドバイザーとしての仕事もやっております。

この五回目のインタビュー自体は、本で使えたのがたった35分くらいで、その後に彼の知り合いの若いユダヤ人が来てしまったために、本の録音そっちのけでイスラエル・ネタの放談大会になってしまったのです。

その詳しい内容はここでは言えないものばかりだったのですが、いやはやルトワックの「現場経験」はすさまじいということを実感させてくれました。

さて、ここまでの一連のプロセスの中で実感したのは、ルトワックの知識の幅の広さでした。

もちろん彼自身は学者的に様々な本を読みまくっているのはたしからしいのですが、その知識はどうも「軍事アドバイザー」として現地に行き、そこで聞いた興味深い話を、別の資料で読み返して身につけてきたタイプのものであるという印象を強く持ちました。

これは私の指導教官でありながら、同じくアメリカ政府などにアドバイザーを行ってきたコリン・グレイとは極めて対照的なタイプでありまして、グレイのほうはより資料や人の議論を読み込んで考えるタイプであり、ルトワックのほうはとにかく自分の感じた視点を、幅広い(現場)知識で補っていく、というものでした。

もちろんこの2人は旧知の間柄で、グレイが一昨年に退官した時にはルトワックもその記念パーティーにかけつけたらしいですが、その知識人としての立ち振舞いの違いにはおどろくべき違いがあったのがとても印象的でした。

最近のルトワックの関心は、『ビザンチン帝国の大戦略』の続編ともいうべき、ユーラシア大陸のランドパワーの歴史を概観したものを書きたい、ということらしいです。

ただし、今回の『自滅する中国』の続編とも言える『中国4.0』で示したいくつかのアイディアを精緻化させて、いずれは主著となる、『エドワード・ルトワックの戦略論』の改訂版(第三版?)を出すつもりだ、とも申しておりました。

まだ具体的にはお話できませんが、ルトワック関連の本に関しては私も今後さらに絡んでいくことになりそうです。

色々と書きましたが、とりあえず本日はここまで。

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Commented by 柴崎力栄 at 2016-03-21 16:07 x
読んでいて、すんなりと頭に入ってきました。口述筆記という形式が平易な論の展開を可能としたのでしょう。振り返って見ると、大正時代から昭和戦前にかけて、速記者を使った口述筆記で編まれた書籍が多く在りました。忙しい著名人から原稿を取るのに便利な方法だったようです。
Commented by ゆきを at 2016-03-21 18:15 x
お久しぶりです。

奥山さんが泊まられたお宿、おそらくあそこか・・・と目処がつきましたが(しかし、そういう小洒落たお宿が多い地域なので違うかも)、しかし、おそらく恋人や家族向けのお宿の温泉に浸かるルトワックの横でレコーダーを片手に、片膝ついて控えている奥山さんの図が目に浮かんで、少々笑えました。

こちらの本、実はまだ手に入れてないのですが、今月中には読もうと思ってます。また感想は後ほど・・・
Commented by mitupon's egg at 2016-03-23 02:06 x
amazonポチッ、あっ安い、買います。そお言えばルトワック氏はカーネマン先生とかお知り合いだったりするのかしらん?いえ、なんとなく。
Commented by ピトフーイ at 2016-03-23 22:24 x
自滅する中国、のあとに4.0を読みましたが、4.0は分かりやすかったです。ルトワックさんは物知り過ぎて詰め込みすぎちゃうのではないかなーと思いました。
風呂の外でICレコーダーはなんかこう、ムゴくていいですねw
Commented by 大阪人K at 2016-03-23 23:49 x
購入させて頂きました。

そして購入直後に知人の女性と本について、2時間熱く語りました。中身には殆ど触れずにルトワック先生の写真だけで・・・(この時点で、まだ中身を読んでいません。それでも写真だけで元が取れました。)

それにしても人間の人となりは「顔に出るもんなんだぁぁ」と改めて思った次第です。(笑)

それで僭越ではありますが感想を記させて頂きます。

平易な文章で読みやすいが行間に相当な意味が込められているように思えます。かなりの裏読みが要求される印象があります。

制作時間が限られていたということもあって、分量が少なく相当な割愛がなされていると思います。

それ故に「逆説的」でありますが、より深く真意を探るように読むようになり、それこそがルトワック先生の意図のように思えます。(大体、日本への提言を具体的に全て書いたら、その瞬間から提言の効果がなくなる訳ですから。当然のことながら書籍は必ずシナに翻訳されることを想定している訳で、そんなのに奥の手を書く訳なんかないです。)

「ヒントは一杯詰め込んだから、後は日本が読み取れ。」
という態度は、実に合理的と言えるでしょう。

いろいろと考えさせられると伴にものの考え方が学べたと思います。

<追伸>
「祇園精舎・・・」に虚を突かれて一瞬キョトンとしてしました、(笑)
Commented by 待兼右大臣 at 2016-03-24 00:12 x
冬アニメの最終回を目前にしたこの時期で
「こんな『温泉回』はいやだ」という展開ですが、
「水着回」よりはまし、といったところでしょうか。

ルトワック氏の「軍歴」がどれくらいか気になりますが、
5年と言うところから、さほど高位の階級ではないのでは
と推測します。

「同じ戦場」でも、階級・職位によって見える風景は
異なりますから、5年の軍歴で「戦略家」といわれる
秘訣は、「アドバイザー」に現場という「スパイス」
を効かせたということになるのでしょうか。

>>ビザンツ
最近「メソポタミアとインダスのあいだ」という本も
出ましたので、文明間の交流・交差点という点で
両者の比較も面白そうです
Commented at 2016-03-29 23:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by しまだ at 2016-03-30 03:19 x
近所の本屋で第五位だったんで、売れてますね。
前門の習近平、後門のトランプになったときの「日本1.1」も聞きたいところ。
Commented at 2016-03-30 21:04
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by しまだ at 2016-04-06 06:09 x
ルトワックのトランプ政策へのコメント微妙ですね。こっちは切実なのにね。

日本視点としては合衆国をどうやってモンロー主義(トランプ主義?)にさせないか、合衆国や国連とかをいかに朝鮮半島や満州、経済崩壊後のチャイナに引きずり込むかなんだと思いますがどうですかね。
Commented by 無花果 at 2016-04-12 11:55 x
中国4.0で第一の錯誤とされていた、金の力の勘違いの件を読んで、1980年代あたりに、中国人や韓国人が「日本は金の使い方が下手すぎる、われわれが日本ほどの経済力を持っていたなら世界を支配していた」とぼやいていたのを思い出しました。ルトワック氏は完全な間違い、としていましたが、現状ではドイツやイギリスなど、一部の国には金によるコントロールが未だに効果覿面であるようにも思えます。いつまで通用するかは分かりませんが。
Commented by f at 2016-05-01 12:49 x
外相会談における、中共の対日4箇条要求は酷いものですね。
他国との付き合い方を知らない子供と思われても仕方ない。
≫金の力
少なくとも、日本は彼らよりはるかに経験しているんですよね。
幾度と無く血まで流して贖った国際的地位ですら、付き合い方を誤ったがために話すら聞いてもらえなくなった。
国力の背丈を並べるだけではだめで、信頼の累積を行わなくてはならないのだが、現状、彼らがやっている事は負の信頼累積ですね。
手足が伸びただけの世間知らずが見事に反社会的勢力に染まっていく感じですが、道路はさんだ隣の住人だけに…。
ところで、ドイツで移民賛成派が暴徒化したそうですが、彼らどういう人間なんですかね。
本邦の状況と並んで考えると、興味深い勢力が見えてくるのかも知れないですが…。
奥山先生は何かお心当たりがありますでしょうか。


Commented at 2016-05-06 19:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by masa_the_man | 2016-03-20 22:47 | 日記 | Comments(13)