リアリストたちはトランプ候補にアドバイスを |
さて、連日のリアリスト関連の話をさらに進めます。今回はタフツ大学フレッチャースクールの変人、ダニエル・ドレズナーによるリアリスト論です。
彼はもともと経済制裁関連の分野で有名ですが、日本では『ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える』というゾンビ映画を元にした国際関係論の入門書が翻訳されてますね。
このドレズナー、ウォルトのようなリアリストたちに向かって「トランプにアドバイスするチャンスだぞ!」と書いております。その要約を。
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リアリストたちはトランプ支持?
by ダニエル・ドレズナー
●ここ数週間に私のコラムでは、アメリカの対外政策についての学者のリアリストたちやドナルド・トランプの姿勢について少々手厳しい批判をしている。
●私は、リアリストたちが対外政策への影響力の少なさを嘆きすぎであると論じ、トランプ側は明確な対外政策アドバイザーがいないのにもかかわらず嘆きすぎだと論じてきたが、先週末にブルームバーグのコラムニストがトランプの対外政策チームについて報告しはじめてから、この二つの問題が関係していることが明らかになってきた。
●この報告によれば、トランプはたしかに何人かの対外政策分野の人間と話をしたようである。その人物は、ハーバード大卒の歴史家であるダニエル・パイプス、イスラエルの国連大使であるダニー・ディトン、そしてアメリカ国防情報局元局長のマイケル・フリンなどだ。
●余談だが、この記事では、トランプの政策アドバイザーであるサム・クロヴィスがトランプとまったく同じような口調で語っていることがわかったことも面白い。
●とにかくここで重要なのは、トランプと彼のアドバイザーたちが自らを「冷酷なリアリスト」と考えている、ということだ。
●たしかにトランプの狭い「国益」という定義には、民主制の推進や人道介入、虐殺から人々を保護する責任、そして海外での人権推進などは含まれない。トランプはもちろん経済関与が長期的に政治の自由化につながると考えているのだが、アメリカ政府が人命や血税を使ってまで他国のシステムを変えようとしてはいけないと考えているのだ。
●政策アドバイザーのクロヴィスによれば「これは長期戦であり、短期戦ではない」というのだ。彼はネオコンを「侵攻してイラク崩壊の三週間後に立憲民主制度の国をつくれると勘違いしていた」と非難している。
●トランプの選対本部の人間は、このアプローチを実際的で現実的なものであると考えているようだ。古典的なリアリストたちのように、トランプは国際機関や非国家アクターではなく、国家や政府と交渉しようと考えているのだ。アドバイザーたちによれば、だからこそ彼は絶対的な権力を行使している強力な国家のリーダーたちを賞賛しているように見えるというのだ。
●トランプは、プーチンをはじめとする独裁者たちが、ビジネスにおけるCEOたちと同じように組織のために戦っていると見なしているのだ。
●これはジョン・ミアシャイマーやスティーブン・ウォルト、それにバリー・ポーゼンのような尊敬されるリアリストの学者たちにも賛同してもらえるような考えではないだろうか?もし彼らが知的に正直であれば、それに賛同するはずだ。
●トランプのチームはアメリカの対外政策において、リアリストたちの好むような感覚を共有している。それは①海外でアメリカの人命と血税を使用することに慎重であること、②他国を「パワーとして定義される利益を最大化しようとする、合理的で統一されたアクター」と想定すること、③アメリカの価値観を輸出することに対して慎重なこと、そして④ネオコンの世界に対するアプローチに対する深い軽蔑心、である。
●トム・ライトの記事のおかげで、トランプ候補が⑤大国政治における「相対的パワーの獲得」という感覚を強く持っていることを匂わせていることが判明しているが、これもリアリストのチェックリストにかなうものだ。そしてトランプの発言の多くも、アメリカのこの理論に対する態度と近いものだ。
●ここで学者のリアリストたちに対する私の疑問が出てくる。リアリズムが脇に追いやられているとする数々の批判はあるが、今回の共和党の大統領候補のトップを走っているトランプ候補は、発展途上のリアリストなのだ。
●彼は明らかにマルコ・ルビオやヒラリー・クリントンなどよりもはるかに「リアリスト」的である。ところが彼がどこまで政策的にリアリズムに本腰なのかはわからない。よって、これはリアリストたちにとって自分のアイディアを売り込み、公的にトランプ支持を表明する最高のタイミングではないだろうか?
●もちろん彼は完璧なリアリストではないが、そのような候補者はそもそもこの世に初めから存在しない(これは完璧なネオコンやリベラル国際主義者が存在しないのと一緒だ)。たしかに彼は何度も議論を呼ぶようなことを言明しているが、学者のリアリストたちも議論を呼ぶコメントを表明することについては負けていないほどだ。
●もしリアリストたちがアメリカの対外政策を本気で実践しようと思っているのであれば、トランプ候補ほどアドバイスするのに最適な候補はいないだろう。
●私の情報によれば、学者のリアリストたちはトランプに対して秘密裏にアドバイスしている。だがこの本質は、アイディアの売り込みや、権力に対して正直に進言するという問題でもある。
●アメリカ国民、とりわけ共和党の国民たちは、アメリカの国家安全保障について憂慮している。彼らには、トランプの発言が実際に有効な対外政策の世界観にどれほど沿ったものなのかを知る権利があるのだ。
●「自分たちの影響力が少ない」と考えている学派にとって、これは自分たちの理論の厳密かつ冷酷なロジックを情緒的な言葉を発する生身の大統領候補と結びけたり、国家や対外政策のコミュニティの双方においてその候補者に対する否定的な意識を減らすこともできるかもしれないのだ。
●これは対外政策の分野においてリアリズムが脚光をあびるチャンスである。このチャンスを学者のリアリストたちがどう活かすかが見ものである。
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うーん、これってどうなんでしょうかね。トランプみたいにアクの強い候補にアドバイスするのは学者的にもダメージが大きいのでは。
ドレズナーもそれをわかってて、あえて挑発的に書いている部分もあるのかと(苦笑
引き続きこの話題については本ブログで追いかけてみたいと思います。


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