戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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リアリズムは人道介入しないからダメ?

今日の横浜北部はよく晴れましたが気温はけっこう低めでした。

さて、三連投したウォルトのリアリスト賛成記事に対する反応がNYのタイムズ紙に掲載されておりました。この記事についてはすでに私も番組(http://www.nicovideo.jp/watch/1454394810)のほうで軽く解説しましたが、その元記事の要約です。

著者は最近ネオコン化してきているロジャー・コーエンでありまして、この記事では自らのことを「リベラル国際主義者」と宣言しております。

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アメリカの「リアリズム」の限界
by ロジャー・コーエン

●リアリズムというのは、アメリカの対外政策の土台として本当に求めるべきものなのであろうか?

●スティーブン・ウォルトはハーバード大学の国際政治の教授であり、フォーリン・ポリシー誌で雄弁にリアリズムを称える人物である。彼によれば、過去25年間の対外政策でリアリズムがその土台として使用されていればアメリカはうまくやれていたはずだったという。

●リアリストというのは「国際政治については概して悲観的な見方をするものであり、それがどれほど魅力的なものに見えようとも、イデオロギー的な理想図に従って世界を作り変えようとする試みに対して慎重に構える」という。

●もちろん悲観主義というのは、国際政治においても個人の生活においても、慎重さをもたらす有益なものである。ウォルトの記事はそういった意味で、いくつか納得できる指摘を行っている。

●しかし彼は、その考察対象の中にヨーロッパの大規模な紛争時代−−14万人が殺され、数百万人が移動を余儀なくされたユーゴ内戦−−をあえて入れていない。当時のリアリストたちはこの大虐殺に無関心であり、元国務長官であったジェームス・ベイカーなどは開始当初に「われわれには無関係なことだ」(We don’t have a dog in that fight)と述べていたほどだ。

●このような見解は、クリントン政権のホワイトハウス周辺の人間から「行動を起こさないための自己正当化の言葉」として発せられていたものであり、そこではバルカン半島が千年にわたる確執の場所であり、それを理解することも不可能であるばかりか、問題を解決することもできないというイメージが描かれていた。

●1945年以来のアメリカのヨーロッパの平和維持の試みをその戦争が転覆させていたとしても、たしかにオマルスカという場所の名前から、そこにアメリカの致命的な国益がかかっているとは感じられにくいのかもしれない。また当時、介入をすべきであるという議論には説得力がなかった。サラエボはアメリカを破壊することはなく、それはISの支配するラッカがアメリカを破壊することはないのと同じくらいの感覚であった。

●ところが倫理・道徳的な面では、その必要性は圧倒的であった。セルビアは1992年にボスニアのイスラム教徒の男子を殺すために強制収容所を使用し始め、同教徒の女性や子供を国外退去にしたのだが、これはたしかに脅威として映った。

●このような行為は1995年にセルビアの男子住人を8000人虐殺した「スレブレニツァの虐殺」につながり、リアリストたちが「自制」を正当化している合間の3年間に、セルビア側はサラエボにいるヨーロッパの女性と子供を気まぐれな砲撃によって爆殺しているのだ。その戦争が終結に向かうきっかけが生まれたのは、ようやくクリントン大統領が決断してNATOが連携した空爆を開始してからだ。

●私はこの紛争とその解決までを記者として報道した。われわれのようなベビーブーマーの世代にとって、アメリカの軍事力と戦略的な決断によってヨーロッパで繰り返された流血を解決するというのは決定的な経験を持つものであった。このおかげで、純粋かつシンプルなリアリズムの賛美は、私にとってどれもが説得力に欠けるものに聞こえるようになってしまったのだ。

●ウォルトは私のことを「リベラル国際主義者」と呼んでいるが、私はそれを逆に名誉なものであると感じる。

●彼は冷戦後の東方へのNATO拡大が「傲慢」と「まずい地政学」のコンビネーションの典型的な例であると述べており、これがロシアとの関係を不要に悪化させたと指摘している。ところがこれこそが、リアリズムにつきものの「冷笑主義」と「矮小さ」の典型的な例なのだ。

●ソ連の帝国主義のトラウマを克服して台頭してきたポーランドからエストニアのような国までのリベラルな秩序の基盤である安全を担保できるようになったことは、アメリカが戦略面で実現した大きな偉業の一つなのである。実際ベイカーはこの基礎をつくった人物となったわけで、ウォルトの考えるリアリストではないことの論拠となっているほどだ。

ポーランド、リトアニア、そしてルーマニアの人々に対して、アメリカが果たして間違いを犯していたのかどうかを聞いてみればいい。「間違えていた」とは言わないはずである。

●リアリストたちは人間の苦しみというものを無視しがちであり、それが世界の現実であるとしている。ところがヨーロッパの数千万の人々は、アメリカとその聡明国たちの保護の下で、独裁的な貧窮状態から民主的な生活へと移ることができたのである。ヤルタで課された負債は返済されたし、アメリカの国益にもかなうヨーロッパの平和と安全の期間は延長されたのだ。

●もしNATOに参加していなければ、バルト諸国のうちの少なくとも一国は、おそらく今日までにすでにプーチン大統領によってロシアに編入されていたはずである。プーチンはジョージア(グルジア)とウクライナに大混乱をもたらしたが、この両国はまだNATOに参加していなかったということが重要だ。1990年以降のロシアの国益はヨーロッパとアメリカのつながり(NATOがその典型)を分断するところにあったのである。

●アメリカというのは一つの「アイディア」であり、これは世界の中でもほぼ唯一の存在であるといえる。もちろん「世界への自由の拡大」という考えの実践や、アメリカの政策によるその保証などは、まだまだ不足している部分がある。

●プーチンは抜け目のない獰猛なリアリストであるが、アメリカ人は(トランプ候補をのぞけば)そのような存在にはなりたくないと考えている。とりわけシリアの崩壊があった後は、このような考えはますます強まっている。

●ウォルトによれば、リアリストたちはオバマ大統領に対して「アサドは退陣すべきだ」とか、化学兵器の使用について「レッドラインを引く」などと言うべきではないと警告したはずだという。しかし問題は、このような言葉を発することが非現実的かどうかというところではなく、むしろそれを実現できなかった無能さの方にあるのだ。

●シリアはホワイトハウスのリアリズムの限界を示している。リアリズムが不介入を命じていたために数十万人が殺され、数百万人が強制移住させられ、ISが台頭したのである。リアリズムはアサドのシリアでの虐殺を知りながら黙殺していたのであり、もしイラクがアメリカの破滅的な「イデオロギー的な理想図」の追求を示しているのであれば、シリアはアメリカの理想の破滅的な真空状態を示したとも言えるのだ。

●リアリズムはアメリカの対外政策の一つの開始点としては重要である。イラクの件ではそれが欠けていたため、ウォルトが正しく指摘したように、アメリカの数十億ドル分の血税が吹き飛ぶことになったのだ。リアリズムはイランとの画期的な核合意をもたらしたし、イスラエル・パレスチナ問題でもたしかにその助けとなったはずだ。

●ところが今は、アメリカの議論の中にリアリズムが少数派となっていることを示したり嘆くよりも、ISの悪やシリア崩壊、さらにはヨーロッパの極端な難民危機に対処する手段としての「リアリズム」の限界を、われわれは認めるべき時期に来ているのだ。

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見てのとおり、コーエン自身はユーゴ内戦を取材していてアメリカの介入の必要性を実感することになったというわけですが、それが良いか悪いかはさておき、このような「リベラル国際主義者」や「ネオコン」たちの意見というのは倫理や道徳面を強調しがちですよね。

ここでもそれが遺憾なく発揮されておりまして、「虐殺を見逃すのか」「女・子どもが追放されている」とする、なんとも感情に訴えかけるレトリックが多用されております。

これなどを見ると、やはりこのようなコラムニストたちの筆力を感じます。冷静に理性的な書き方をする学者は、コラムニストとしては通用しないのかと。

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Commented by 黒いSR at 2016-02-05 13:03 x
横から失礼致します。(一気に難解になりやや途方に暮れております) 米や欧のリベラル→「宗教的世界感からの道徳を含めて判断する」で良いのでしょうか。また、米や欧のリアリズム→「場合によっては隣家の火事も無視する」? となると、我々のリアリズムやリベラルって一体なんなんでしょう。(またいつもの捻れでしょうか)
Commented by ev at 2016-02-07 01:59 x
そもそもリベラル派とリアリストとは根本的に価値観が違うから噛み合わないのと、リアリスト側の批判に対して論点をずらしてますね。
プーチンが悪の権化みたいに言っていますが、ウクライナに先にちょっかい出したのって西側じゃないでしょうか?
それをウクライナがNATOに加盟してないからって、言ってることが逆転していると感じるのは私だけでしょうか?
by masa_the_man | 2016-02-04 00:00 | 日記 | Comments(2)